説明

水中油型乳化油脂組成物

【課題】 パン等のベーカリー製品焼成後も風味が持続し、かつ生地への練込みが容易で、製造後もミキサーなどの製パン機器等の製造ラインへの汚染を最小限に抑えられるベーカリー製品への呈味剤を提供すること。
【解決手段】 ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に有することを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物を含むベーカリー生地を焼成して得られるベーカリー製品は、焼成後も風味が持続する。また、前記組成物は生地への練込みが容易であり、さらに製パン機器等の製造ラインへの残香を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パン等のベーカリー食品にハーブの風味を保有させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハーブを使用した料理、また調理方法など消費者の間にもハーブの認知度が高まり定着しつつある。パン等のベーカリー製品については、リテイルベーカリー等ではハーブを使用したパンが見られるが、大量生産されるベーカリー製品にはほとんど見られない。これは、ハーブや香辛料をパンに呈味する従来法として、生地配合時にハーブや香辛料の粉末、乾燥葉、抽出物等を直接添加する方法が採用されているが、焼成後の風味減退や、ミキサーなどの製パン機器、製パンラインへの移り香によるライン汚染などの問題が一つの要因である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、パン等のベーカリー製品焼成後も風味が持続し、かつ生地への練込みが容易で、製造後もミキサーなどの製パン機器等の製造ラインへの汚染を最小限に抑えられるベーカリー製品への呈味剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題が、ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に含有する水中油型乳化油脂組成物により達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に有することを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物、を提供する。
上記組成物は、高圧ホモジナイザーで均質化されていることが好ましい。
【0005】
本発明はまた、ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に添加し、前記油相部を水相部に混合し、乳化することを含む、水中油型乳化油脂組成物の製造方法、を提供する。
上記製造方法の油相部と水相部の乳化において、高圧ホモジナイザーにより均質化を行なうことが好ましい。
【0006】
本発明はまた、上記水中油型乳化油脂組成物が練り込まれているベーカリー生地、を提供する。上記ベーカリー生地は、水中油型乳化油脂組成物を、ベーカリー生地の作成に使用される油脂の代替物として含むことが好ましい。
本発明はまた、上記水中油型乳化油脂組成物を練り混んでベーカリー生地を作成し、前記ベーカリー生地を焼成することを特徴とするベーカリー製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、ハーブまたはハーブ抽出物が水中油型のまま投入、添加されるため、投入後、直ちに生地へ混合、分散されやすく、従来の直接添加方法と比較してハーブまたはハーブ抽出物のパンへの残香が優れている。
また、水中油型の乳化系のため、直接ミキサー、製パン機器、製パンラインへの接触が低減され、ハーブまたはハーブ抽出物の移り香が極力抑えられる。
焼成後の風味の持続力が非常に強いが、これは水中油型の油滴中にハーブ抽出物が保持されているためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[用語の定義]
本発明において、ハーブまたはハーブ抽出物とは、食物、飲料等に味や香を付けるために用いられる芳香性植物から得られる調味料である。ハーブは、各種溶媒により抽出した抽出物、植物の乾燥粉体など、いずれの形態でも用いることができる。
本発明においてハーブまたはハーブ抽出物は限定されないが、具体例としては、オレガノ、ローズマリー、ディル、セージ、キャラウェー、タラゴン、タイム、アニス、バジル、ペパーミント、コリアンダー、マジョラム、フェンネル、オールスパイス、カルダモン、クミン、グローブ、サフラン、シソ、シナモン、ジンジャー、スターアニス、ターメリック、パプリカ、レモングラス等が挙げられる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物中にハーブまたはハーブ抽出物は、最終食品の目的等に応じて適量混合することができる。好ましくは、組成物全重量に対して、3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%〜3.0質量%である。この添加量範囲において、ハーブの風味をも維持ししつつベーカリー製品の持つ他の風味と調和した風味を得ることができるため、好ましい。
【0009】
本発明において、ベーカリー製品の具体例としては、食パン、菓子パン、デニッシュペストリー、スイートロールパン、クロワッサン、フランスパン、パイ、シュー、ドーナツ、スポンジ、ワッフル、スコーン、クッキー、ベーグル、マフィン、フォカッチャ、ピザパイ生地、ナン、プレッツェル等が挙げられる。
【0010】
高圧ホモジナイザーとは、常圧下で高回転攪拌での均質化されるホモジナイザーではなく、均質クリアランス部に高圧力をかけて均質、乳化物を得る均質機を意味しており、高圧力をかけることで、より微細な乳化物を得ることができる。
高圧ホモジナイザーとしては、APV GAULIN, INC製のホモジナイザーが挙げられる。
本発明において、高圧ホモジナイザーで均質化されているとは、加熱攪拌下で得た予備乳化液を200Kg/cm2(20MPa)〜1000Kg/cm2(100MPa)の圧力をかけて均質することを意味する。
【0011】
[水中油型乳化油脂組成物]
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、油脂と水を基本成分として含み、さらにハーブまたはハーブ抽出物を含む。本発明の水中油型乳化油脂組成物において、油脂は組成物全重量に対して好ましくは、10〜45質量%含有される。前記範囲の含有量であることにより、乳化安定性が最も高く、組成物のベーカリー製品製造工程において、生地への練り混みがし易い物性を維持できる。用いられる油脂は特に限定されず、植物性、動物性いずれの油脂を用いることもできる。また固体油脂、液体油脂いずれの油脂も使用できる。具体例として、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、米油、オリーブ油、魚油、ラード、牛脂、及びそれらの液体油、固体脂、硬化油、分別油、エステル交換油の中から選択した1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは、油脂の中でも、比較的風味が濃厚で、ベーカリー製品の焼成後の風味の良さとハーブ抽出物との相性の良さ、また、水中油形乳化油脂組成物硬度に寄与し、ベーカリー生地への練り混み適性が良好である、ラードが挙げられる。
【0012】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、油脂、水、ハーブまたはハーブ抽出物に加えて、乳化剤を含んでいていもよい。乳化剤の例としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。乳化剤の添加量は、組成物全重量に対して、0.3〜3.0質量%であることが好ましい。
その他の成分として、加工澱粉(α化澱粉、架橋澱粉)を添加してもよい。加工澱粉を添加することによって、水中油形乳化油脂組成物の乳化状態の安定、水相部の粘度増加による、ベーカリー適性があがり好ましい。
その他、乳化安定剤としてキサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、ローカストビーンガム、グアガム、カゼインナトリウム等を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、ハーブまたはハーブ抽出物類を添加し得るいずれの食品にも添加することができる。特に、油脂を使用する食品が好ましく、より具体的には、ベーカリー製品が好ましい。その他、蓄肉加工品(ハム、ソーセージ、ハンバーグ)、練り製品(水産物練り製品)も挙げられる。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、食品中に用いられる油脂の全て若しくは一部として使用することができる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物は特にベーカリー製品の製造に適する。本発明の水中油型乳化油脂組成物をベーカリー製品に添加すると、ハーブまたはハーブ抽出物の味及び香が強い風味が良好な製品を製造することができ、さらに、この風味は、常温、冷蔵、冷凍においても長期間持続する。また、ハーブを生地や油脂に直接配合する場合に比べてミキサーなどの製パン機器、製パンラインへの移り香によるライン汚染を防ぐことができるため、工場等のラインで大量生産する場合に特に好ましい効果を奏する。
【0014】
[水中油型乳化油脂組成物の製造方法]
本発明の水中油型乳化油脂組成物、ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に添加し、前記油相部を水相部に混合し、乳化することを含む方法により製造できる。
ハーブまたはハーブ抽出物を油脂に添加して、溶解することにより油相部を得る。このとき、レシチン等の乳化剤を油相部に添加することが好ましい。乳化剤の添加と、均質化による相乗効果で乳化安定性が向上するからである。
水攪拌下に、油相部を添加し、混合する。水相部には必要に応じて、水溶性の添加剤をあらかじめ加えて混合しておくことが好ましい。水相部の温度を45〜55℃程度にしておくことにより、同程度の温度に加熱された油相部の分散、混合、予備乳化をスムーズに行なうことができ、好ましい。
油脂を油相部に添加する。このとき、油溶性の添加剤は油相部に添加することが好ましい。
水相部を攪拌しながら、油相部を添加し、混合する。
水相部と油相部を混合後、80〜90℃で、15分間以上、好ましくは15〜20分間保持し、予備乳化が完了する。得られた予備乳化液をホモジナイザー等で均質化する。
均質化は、300kg/cm2(30MPa)〜1000kg/cm2(100MPa)の条件で高圧ホモジナイザーで均質化することにより、高回転ホモジナイザーと比較して、より微細な水中油型乳化油脂組成物を得ることができ好ましい
【0015】
[ベーカリー製品の製造方法]
本発明のベーカリー生地は、上述した本発明の水中油型乳化油脂組成物を含む。本発明のベーカリー生地は、本発明の水中油型乳化油脂組成物が生地中に完全に練り込まれた状態で乳化油脂組成物を含む。本明細書において“練り込み”とは、生地中に水中油型乳化油脂組成物を均一な状態になるまで混合することをいい、生地中に乳化油脂組成物が固形状やペースト状で残存若しくは分散していない状態である。
特に、本発明のベーカリー製品の製造方法では、ベーカリー生地の作成に通常使用される油脂の代替物として用いることが好ましい。すなわち、ベーカリー生地の作成に通常使用される油脂の全てまたは一部を、本発明の水中油型乳化油脂組成物に置き換えて使用することが好ましい。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、ベーカリー生地または製品の製造において通常用いられる油脂と同様にベーカリー生地中に練り込んでベーカリー製品の製造に用いることができる。
【実施例】
【0016】
実施例1
(乳化油脂組成物の調製)
表1に記載の分量のハーブ抽出物(タラゴン、オレガノ、バジル、ローズマリー、マジョラム)、レシチンを油脂(ラード)に添加、溶解し、油相部を得た。表2に記載の配合に従った分量の水を60℃に加熱、攪拌下に加工澱粉を加え、水相部を得た。さらに攪拌し、温度保持させた水相部に、溶解した油相部を添加し、混合した。得られた混合液を高圧ホモジナイザーにて均質化し(300kg/cm2(30MPa)、水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
(食パンの製造)
得られた水中油型乳化油脂組成物を、表3に示した配合量で、パン生地へ添加して食パンを製造した。具体的なミキシング条件は以下のとおりである。
<ミキシング条件>
中種材料をミキサーにて混合後、26℃、湿度80%にて4時間発酵させた。これに本捏材料を添加、混合した後、フロアタイム40分をとり、分割し、ベンチタイム20分をとった後成型して、食パン型に入れて38℃、湿度85%にて40分間発酵させ、200℃のオーブンにて40分焼成した。















【0020】
【表3】

(単位:質量部)
【0021】
比較例1、2
比較対照品として、油脂にハーブ抽出物を添加し、溶解した後、急冷捏和して得た油脂(表3における“香味油脂”)(比較例1)を使用した食パンと、直接、パン生地にハーブ抽出物を添加して食パン(比較例2)を製造した。具体的なミキシング条件は実施例1と同じである。
なお、比較例1及び2のハーブ抽出物は、実施例1における乳化油脂組成物中のハーブ抽出物の添加量と同量となるように用いた。
【0022】
実施例、比較例における生地捏ね工程完了後の製造機器(ミキサーボール)の残香、並びに、製造した各食パンについて、常温(20℃)、冷蔵(5℃)、冷凍(−20℃)の温度帯にて、5日間密封保存した後の食パンの風味変化を評価し、水中油型乳化油脂組成物の性能を評価した。
【0023】
(評価方法)
(1)製造機器の残香
15人のパネラーにより、以下の評価基準で残香を評価し、評価の平均をとった。
◎:良好(残香弱)、○:普通、×:不良(残香強)
(2)パンの匂い、味、残香の強さ
15人のパネラーにより、実施例1、比較例1、比較例2の内容を隠して、試食をしてもらい、以下の評価基準で風味(味、匂い)を評価して、評価の平均をとった。
◎:良好(強い)、○:普通、×:不良(弱い)









【0024】
【表4】

【0025】
比較例1、2のように水中油型乳化油脂組成物とせずに、油脂またはパン生地に直接ハーブ抽出物を添加した場合、味は残るものの、匂いが弱くなることがわかった。一方、あらかじめハーブ抽出物を水中油型乳化油脂組成物として油相に添加した食パン(実施例1)では、製造直後から残香が強く、さらに風味持続が長いという結果であった。また、本発明の水中油型乳化油脂組成物を用いた場合には、パン製造機器への残香が非常に弱かったのに対し、比較例1、2のように水中油型乳化油脂組成物とせずに、油脂またはパン生地に直接ハーブ抽出物を添加した場合には、機器に残香が残ってしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に含有することを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
ベーカリー生地練り混み用である、請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
高圧ホモジナイザーで均質化されている、請求項1または2に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
ハーブまたはハーブ抽出物を油相部に添加し、前記油相部を水相部に混合し、乳化することを含む、水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
油相部と水相部の乳化において、高圧ホモジナイザーにより均質化を行なうことを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物が練り込まれているベーカリー生地。
【請求項7】
該水中油型乳化油脂組成物を、ベーカリー生地の作成に使用される油脂の代替物として含む、請求項6に記載のベーカリー生地。
【請求項8】
請求項1〜3のいすれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物を練り混んでベーカリー生地を作成し、前記ベーカリー生地を焼成することを特徴とするベーカリー製品の製造方法。

【公開番号】特開2006−230216(P2006−230216A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45789(P2005−45789)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(591040144)太陽油脂株式会社 (17)
【Fターム(参考)】