説明

水中用把持具

【課題】
通常では人の手が届かず、目視で確認することも困難な水中にある落下物を、軽量且つコンパクトな構造で容易に回収できる水中用把持具を提供すること。
【解決手段】
本発明の水中用把持具1によれば、筒状の本体部10と、本体部10を吊り下げる吊り下げ部材11と、本体部10の内部で昇降自在に設けられた内部昇降体15と、内部昇降体15を昇降させる牽引部材16と、内部昇降体15に取り付けられ、内部昇降体15の上昇により本体部10内に収納される際、弾性変形により互いに接近して水中の落下物を把持する複数本の爪17とを備えている。水中用把持具1は、本体部10と吊り下げ部材11との別体とし、落下物の落下深さに吊り下げ部材11の長さを合わせるようにしたので、水中の落下物を容易に回収することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の落下物を回収する為の水中用把持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
狭く深い穴、深い水中など、通常では人の手の届かない場所に落下した物を回収する場合、周辺部を掘削する、又は水を除去するなど大掛かりな作業が必要な場合がある。しかし、そのような大掛かりな作業は現場の状況や費用的にも困難なことが多い。そこで従来は、離れた場所にある物を掴む為に、長尺状の本体部の先端に付けられた把持用爪を手元の操作で開閉する簡易な把持具が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−154075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1にあるような把持具では特に深い水中に沈んだ落下物などを回収する際には、本体部をそれに合わせて長尺にしなければならず、操作性が悪くなるという問題があった。また、深い水中では落下物が見え難いので、目視で確認しながら回収するのが困難であった。
【0004】
本発明は、このような問題に対して考案されたもので、水中にある落下物を軽量且つコンパクトな構造で容易に回収できる水中用把持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、筒状の本体部と、前記本体部を吊り下げる吊り下げ部材と、前記本体部の内部で昇降自在に設けられた内部昇降体と、前記内部昇降体を昇降させる牽引部材と、前記内部昇降体に取り付けられ、該内部昇降体の上昇により前記本体部内に収納される際、弾性変形により互いに接近して水中の落下物を把持する複数本の爪と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項1によれば、まず、吊り下げ部材を利用して本体部を落下物の位置まで吊り下げていく。次に落下物を把持する際には、内部昇降体を牽引部材で引き上げる。この動作により、爪が本体部に収納され、各爪が弾性変形により互いに接近して閉状態となるので落下物を把持することが出来る。
【0007】
次いで、落下物を回収する際には、本体部を吊り下げ部材を利用して吊り上げるだけでよい。回収後、牽引部材を引き上げる手を緩めれば内部昇降体の自重で内部昇降体が下降するので、本体部より爪が突出し、弾性復帰により開状態に戻るので爪から落下物を取り出すことが出来る。
【0008】
本発明は、本体部と吊り下げ部材とを別体に構成することにより、落下物の落下深さに関わらず本体部の大きさは不変であり、吊り下げ部材の長さを調節するだけで、いかなる深さに落下した落下物であっても回収できる。これらにより、軽量でコンパクトな構成を実現し、簡単な操作で水中の落下物を容易に回収することが出来る。
【0009】
請求項2は請求項1において、前記内部昇降体の下面には、カメラ、及び/又はライトが設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2によれば、水面上から目視で確認することが困難な深い場所に沈んだ落下物を、水面上で確認することが可能となり、容易に落下物を回収することができる。
【0011】
請求項3は請求項1及び2において、前記本体部の下面には、ライトが設けられ、前記内部昇降体には、先端部が磁石である棒部材が伸縮自在に設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3によれば、爪だけでは把持することが困難な小型の金属物を、棒部材の磁力によって棒部材に吸着させて回収することが可能となる。
【0013】
請求項4は請求項1、2、及び3において、前記内部昇降体には、吸引管が伸縮自在に設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項4によれば、水中に浮遊していて爪だけでは把持しにくい水中の落下物を、吸引管により吸着することにより、容易に落下物を回収することができる。
【0015】
請求項5は請求項1、2、3、及び4において、前記爪には、該爪を開状態に強制的に復帰させる弾性部材が取り付けられていることを特徴としている。
【0016】
請求項5によれば、爪の弾性力が弱まり本体部から突出しても開状態にならないことを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の水中用把持具によれば、深い水中などに落下した落下物を軽量でコンパクトな構成により容易に回収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下添付図面に従って本発明に係る水中用把持具の好ましい実施の形態について詳説する。
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る水中用把持具の基本的な構成を表した側面断面図である。
【0020】
図1に示す水中用把持具1は、本体部10、吊り下げ部材11、錘12、内部昇降体15、牽引部材16、及び爪17から構成される。
【0021】
本体部10は、ステンレス材等の耐腐食素材により製造された円筒体であり、下部に下限ストッパ18、内部に上限ストッパ20、及び上部にキャップ21が設けられている。
【0022】
キャップ21にはロープや金属製ワイヤーを使用した吊り下げ部材11を固定する吊り下げ用アイボルト19が複数個設けられている。水中用把持具1は十分な長さを持つ吊り下げ部材11により水中に吊り下げられる。
【0023】
キャップ21の上部には、水中へ吊り下げられた水中用把持具1が自重のみでは安定しない場合に、重量を増やすための錘12が着脱可能に取り付けられている。錘12は、深さ、水の流れなどの条件に合った荷重量へ交換される。
【0024】
内部昇降体15は、自重で本体部10内部を降下するだけの十分な重量を持つ腐食に強い素材により製造され、本体部10の内径より小さい径を持つ円柱体であり、カメラやライトなどの機構を設けることが可能である。内部昇降体15は、下端に水中の落下物を回収する爪17が取り付けられており、吊り下げ部材11と同程度の十分な長さを持つ牽引部材16の操作により、本体部10内部を下限ストッパ18と上限ストッパ20の間で昇降される。
【0025】
爪17は腐食に強い板材(例えば、厚さ1.2mm、幅15mm程度のステンレス材)等を屈曲形成されたものが使用されている。爪17は、内部昇降体15の下端に複数本を対向させて取り付けられる。内部昇降体15が上昇することにより、各爪17は本体部10の下端、又は下限ストッパ18に接触しながら本体部10内へ収納されるので、弾性変形により互いに接近して閉状態となり、水中の落下物を把持する。
【0026】
これらの構成により、本発明の水中用把持具1は、深い水中などに落下した落下物を軽量でコンパクトな構成により容易に回収することが可能となる。
【0027】
次に、本実施の形態に係る水中用把持具1の作用について説明する。水中に落下した落下物を回収する際、まず図1に示す吊り下げ部材11を利用して本体部10を落下物の位置まで吊り下げていく。
【0028】
落下物を把持するのに十分な距離に水中用把持具1を接近させ、内部昇降体15を牽引部材16で引き上げる。これにより、爪17が本体部10に収納され、各爪17が弾性変形により互いに接近して閉状態となるので落下物を把持することが出来る。
【0029】
落下物を把持したことを確認し、回収を行なう際は、本体部10を吊り下げ部材11を利用して吊り上げる。回収後、牽引部材16を引き上げる手を緩めれば内部昇降体15の自重で内部昇降体15が下降するので、本体部10より爪17が突出し、弾性復帰により開状態に戻るので爪17から落下物を取り出すことが出来る。
【0030】
これらにより、本発明は軽量でコンパクトな構成であって、簡単な操作で水中の落下物を容易に回収することが出来る。
【0031】
次に、本発明に係る水中把持具1の第2の実施の形態を説明する。図2は内部昇降体にカメラを備えた水中用把持具1の側面断面と下面図、図3はカメラを備えた水中用把持具1の爪が閉じられた状態を示した側面断面と下面図である。
【0032】
本構成の水中用把持具1の内部昇降体30には、中心部にカメラ31を備え、カメラ31の周辺にはカメラ31の撮像範囲を照射するライト32が複数個設けられている。
【0033】
内部昇降体30はカメラ31で撮像した映像を送信するケーブルを兼ねた牽引部材33により上下に昇降可能である。内部昇降体30の下端には爪17が複数本取り付けられ、図3に示すように各爪17は内部昇降体30の上昇により本体部10に収納されるので、弾性変形により互いに接近して閉状態となり、水中の落下物を把持する。
【0034】
これらにより、本構成の水中用把持具1は、軽量でコンパクトな構成であって、目視が困難な深い水中などに落下した落下物でも、カメラ31が撮像した画像を陸上に設置されたモニタにより確認しながら容易に回収することが可能となる。
【0035】
更に、本発明に係る水中把持具1の第3の実施の形態の構成を説明する。図4は内部昇降体にカメラ、吸引管、及び棒部材を備えた水中用把持具1の側面断面図、図5はカメラ、吸引管、及び棒部材を備えた水中用把持具1の爪が閉じられた状態を示した側面断面図である。
【0036】
本構成の水中把持具1の内部昇降体40には中心部にカメラ31が設けられており、カメラの周辺には、吸引管41と棒部材42が設けられている。本体部10の下端にはカメラ31の撮像範囲を照射するライト32が複数個設けられている。
【0037】
吸引管41は、複数個のガイドローラ36で支持され、シールにより密閉された駆動手段(不図示)、又は手動により矢印A方向へ伸長、又は矢印B方向へ収縮可能に設けられている。吸引管41は、水上又は水中に設置されたポンプ37により水を吸い上げると共に、水中に浮遊して把持することが困難な落下物を吸着固定する。
【0038】
棒部材42は、先端部に電磁石が設けられ、吸引管41と同様にガイドローラ36で支持され矢印A方向に伸張、又は矢印B方向へ収縮可能に取り付けられている。棒部材42は先端部が電磁石であるため、通電することで磁力を帯び、爪17で把持することが困難な小型の金属物などを磁着回収する。
【0039】
爪17は内部昇降体40の下端に複数個取り付けられ、図5に示すように各爪17は内部昇降体40の上昇により本体部10に収納され、弾性変形により互いに接近して閉状態となるので、水中の落下物を把持する。
【0040】
また、各爪17は互いに弾性部材38により連接されている。弾性部材38は図6に示すようにリング状の本体34の外周部にスプリング35が爪17の位置に合わせて設けられている。
【0041】
この弾性部材38によれば、爪17が本体部10に収納されて、閉状態の状態から、本体部10より突出するとスプリング35の力によって各爪17は強制的に押し広げられる。これにより、長期の使用によって爪17の弾性復帰力が失われた場合でも、爪17が開状態に確実に復帰するようになる。
【0042】
これらにより、本構成の水中把持具1は、軽量でコンパクトな構成であって、目視が困難な深い水中などに落下した落下物でも画像で確認でき、浮遊する落下物や、捕らえることが困難な小さな金属物なども容易に回収することが可能となる。
【0043】
なお、本構成の水中用把持具1は、カメラ31、吸引管41、又は棒部材42のいずれか2つ、又は1つのみ備えている構成でもよい。
【0044】
次に、本発明に係る水中用把持具1の作用について説明する。図7は水中に落下した落下物の回収作業を示した図である。作業者Wは、大型水槽2に落下した落下物Dを、吊り下げ部材11により吊り下げた水中用把持具1により回収作業を行なっている。
【0045】
吊り下げ部材11により水中用把持具1を移動させ、図4に示された内部昇降体40に設けられているカメラ31で撮像した映像をモニタ39で確認して落下物Dを捜索する。水深が深く暗くて映像が鮮明でない場合は、図4に示されたライト32により撮像範囲を照らす。
【0046】
落下物Dを発見後は、モニタ39で落下物Dの位置を確認しながら爪17を落下物Dへ接近させる。落下物Dを十分把持出来る位置まで接近すると、牽引部材33を引き内部昇降体40を引き上げ、爪17を閉じて落下物を把持する。
【0047】
確実に把持していることをモニタ39によって確認した後、吊り下げ部材11を引き水中から水中用把持具1を引き上げて落下物Dを回収する。この際、爪17が閉状態を保つように、牽引部材33も同時に引き上げ内部昇降体40が上昇状態となるようにする。
【0048】
落下物Dが水中を浮遊していて把持しにくい場合は、図4に示された吸引管41からポンプ37によって水を吸い上げると共に落下物Dを吸着して回収する。また、落下物Dが小型の金属の場合は、棒部材42へ通電することにより先端の電磁石の磁力で落下物Dを吸着回収する。
【0049】
これにより、本発明の水中用把持具1は、軽量でコンパクトな構成で作業性がよく、目視が困難な深い水中などに落下した落下物でも鮮明な画像で確認できる。また、浮遊する落下物や、捕らえることが困難な小さな金属物なども容易に回収することが可能となる。
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、人の手が届かず、目視でも確認が困難な深い水中に落下した落下物を、軽量でコンパクトな構成により容易に回収することが可能となる。
【0051】
なお、本発明の水中用把持具は水中用としているが、細長い穴等、水の無い環境でも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る水中用把持具の基本的な構成を表した側面断面図。
【図2】カメラを備えた水中用把持具の側面断面と下面図。
【図3】カメラを備えた水中用把持具の爪が閉じられた状態を示した側面断面と下面図
【図4】カメラ、吸引管、棒部材を備えた水中用把持具の側面断面。
【図5】カメラ、吸引管、棒部材を備えた水中用把持具の爪が閉じられた状態を示した側面断面。
【図6】弾性部材の構成図。
【図7】水中に落下した落下物の回収作業を表した図。
【符号の説明】
【0053】
1…水中用把持具 ,2…大型水槽 ,10…本体部、11…吊り下げ部材,12…錘,15、30、40…内部昇降体,16、33…牽引部材,17…爪,18…下限ストッパ,19…アイボルト,20…上限ストッパ,21…キャップ,31…カメラ,32…ライト,37…ポンプ,38…弾性部材,39…モニタ,41…吸引管,42…棒部材,D…落下物,W…作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部と、
前記本体部を吊り下げる吊り下げ部材と、
前記本体部の内部で昇降自在に設けられた内部昇降体と、
前記内部昇降体を昇降させる牽引部材と、
前記内部昇降体に取り付けられ、該内部昇降体の上昇により前記本体部内に収納される際、弾性変形により互いに接近して水中の落下物を把持する複数本の爪と、を備えたことを特徴とする水中用把持具。
【請求項2】
前記内部昇降体の下面には、カメラ、及び/又はライトが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水中用把持具。
【請求項3】
前記本体部の下面には、ライトが設けられ、
前記内部昇降体には、先端部が磁石である棒部材が伸縮自在に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水中用把持具。
【請求項4】
前記内部昇降体には、吸引管が伸縮自在に設けられていることを特徴とする、請求項1、2、又は3のいずれか一つに記載の水中用把持具。
【請求項5】
前記爪には、該爪を開状態に強制的に復帰させる弾性部材が取り付けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、又は4のいずれか一つに記載の水中用把持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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