説明

水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法

【課題】 耐火物及び水冷ジャケットの取替えが永年にわたって不要となる水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法を提供する。
【解決手段】 水冷ジャケット10は、内部に冷却水路11を備えたジャケット本体20及びその表面から突出するように形成された複数の冷却フィン30を備える。冷却フィン30のうち、スラグレベル102及びガスレベル103に対向する冷却フィン30の上下の隙間には不定形耐火物31が充填され、マットレベル101に対向する冷却フィン30の上下の隙間には定形耐火物32が配置されている。さらに、冷却フィン30の先端部を含めて全体が不定形耐火物33でコーティングされている。この水冷ジャケット10を水冷ジャケット10を自溶炉等の炉壁に設けることで炉体は効果的に冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法に関し、さらに詳しくは、温度分布に応じて異なる種類の耐火物を炉体に設けて高温に晒される炉体を保護することによって耐火物の溶損を抑制し、これにより耐火物の交換改修を大幅に減らすことが可能な水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製錬炉の一つとして、例えば図8に示すような自溶炉がある。この自溶炉1は、シャフト2、セットラ3及びアップテイク4を備え、シャフト2の頂部には精鉱バーナー7が配置されている。精鉱バーナー7から溶剤等と共に装入された原料は、同じく精鉱バーナー7から炉内に供給される反応ガスとシャフト2内で反応し、マット、スラグ及びガスが生成される。マットとスラグはシャフト2内を落下して炉床部でその比重差によりスラグ5とマット6に層状に分離される。このようにして生成されたスラグ5とマット6はセットラ3に穿設された複数の図示しないタップホールから適宜抜き出される。この抜き出しによって湯深変動が起こるためにこれに伴う温度変化が大きく、セットラ3部分の炉壁耐火物には特に激しい熱的負荷がかかる。加えて、マット及びスラグ組成と耐火物組成の化学的作用により耐火物が溶損する。
【0003】
また、シャフト2の直下部分は原料と反応ガスの酸化反応により生成される高温のマット、スラグ及びガスが最初に通過、接触する箇所であると共に、原料の投入を一時的に停止した場合には温度が低下したガスが最初に通過する箇所であるため雰囲気温度においても熱的変動負荷が大きい場所である。そのため、温度変化の大きい炉壁部分を冷却するための水冷ジャケットを配置することにより、炉壁を構成する耐火物を冷却し、それによって耐火物の熱負荷の抑制を図ることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に示された炉体水冷ジャケットは、内部に冷却水路を備え、表面には凸部と凹部を交互に一列に配列すると共に、凹部には炉内耐火物とは別種の粉状耐火物を充填して構成され、耐火レンガを積み上げて構成した炉壁の外側にさらにキャスタブル耐火物を隣接して配置して構成した炉壁面に炉体水冷ジャケットの凸凹部側をキャスタブル耐火物と面するように配置することにより、凸部は炉内壁耐火物と直接接触して冷却を行い、凹部は充填された耐火物を介して炉壁耐火物を間接的に冷却しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4064387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製錬炉における溶湯保持部及び高温ガス接触部は、特許文献1のように、溶湯及び高温ガスと接触する面を耐火物で構成し、その耐火物を炉外側から水冷ジャケットで冷却する方法が主流である。しかし、耐火物への冷却が不十分である場合、耐火物の溶損が進行し、水冷ジャケットが溶湯及び高温ガスと直接接触する機会が生じる。耐火物の溶損によって水冷ジャケットと溶湯が直接接触すると水冷ジャケット自体が減肉し、炉内への水漏れトラブルが生じることとなる。従って、定修において定期的に耐火物の交換・復旧が必要であった。特に、高負荷部分においては、耐火物の損耗速度が早く長期間水冷ジャケットが直接溶湯と接触する操業を余儀なくされ、水冷ジャケットの短寿命化が懸念されていた。
【0007】
また、特許文献1の水冷ジャケットは、炉内耐火物を積極的に冷却する構造ではなく、炉内耐火物が溶損した後に、ジャケット表面にスラグセルフコーティング層を形成してそれを保持することによって水冷ジャケット自体を保護することを主目的とした設計である。しかし、操業中の熱負荷の変動により度々生じるセルフコーティングの脱落によって溶湯とジャケットの接触が繰り返されると徐々に水冷ジャケット自体が減肉するので、水冷ジャケットからの水漏れが発生する前に水冷ジャケットを更新する必要がある。
【0008】
上述のように、特許文献1の水冷ジャケットでは耐火物への冷却が必ずしも十分とはいえないことから耐火物の溶損による水冷ジャケットの減肉が問題となっていた。そのため、従来は毎年の定修での耐火物更新、また設置エリアにもよるが3〜6年間隔での水冷ジャケットの更新が必要となっていた。その際、水冷ジャケットの交換に際しては、上述したように水冷ジャケットの炉内側には耐火レンガが積まれているので溶損した耐火レンガの除去及び新たな耐火レンガの積み上げ作業が必要となり、大変な手間と工事期間を要する作業となっていた。
【0009】
上記の問題点を解決するために本願発明の出願人は新規な水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法を発明し特許出願を行った(特願2009−226242、特願2009−226244)。
しかしながら、高負荷領域である反応シャフト直下及びスラグ表面直上(いわゆるガスレベル及びスラグレベル)で進行する精鉱反応による熱負荷や溶湯レベルの変動による熱負荷変動に対してはセットラ側壁部に主に使用される焼成マグネシアクロミア耐火物だけでは必ずしも耐性が十分でない可能性があることが最近の操業状況において判明した。
【0010】
そこで、本発明は、耐火物及び水冷ジャケットの取替えが永年にわたって不要となる水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内部に冷却水路を備えたジャケット本体と、炉内の高温雰囲気側に向かって突出するようにしてジャケット本体に形成された複数の冷却フィンであって、当該ジャケット本体の幅方向に沿って所定の間隔で複数段にわたって形成された複数の冷却フィンとを備え、不定形耐火物が前記炉内における熱負荷及び熱負荷変動の大きい高負荷領域に面したジャケット本体の各冷却フィンの隙間に充填されると共に当該冷却フィンの先端面を覆うようにして配置され、高負荷領域以外の領域に面した各冷却フィンの隙間には定形耐火物が配置されると共に、高負荷領域以外の領域に面した各冷却フィンの先端面及び定形耐火物を覆うようにして不定形耐火物を配置してなることを特徴とする水冷ジャケットを提供する。
【0012】
上記目的を達成するため請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水冷ジャケットにおいて、炉内における高負荷領域はガスレベル及びスラグレベルであり、高負荷領域以外の領域はマットレベルであり、ジャケット本体は、マットレベルからガスレベルに至るまでの高さ方向に一体として形成し、又は、ガスレベルに位置する部分を分割して形成したことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の水冷ジャケットにおいて、不定形耐火物は、60〜80%のCrを含有することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するため請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、複数の冷却フィンは、最上段及び最下段を除き隣り合う水冷ジャケットの冷却フィンとは互い違いになるように千鳥配置したことを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するため請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、冷却フィンは、ジャケット本体と一体鋳造により形成すると共に、冷却フィンの内部には冷却水路を設けず、ジャケット本体の内部のみに冷却水路を配置することにより熱伝導により冷却フィンを冷却し、耐火物が溶損した場合に冷却フィン間をジャケット本体に向かって進行してくる溶湯を凝固させ、冷却水路を備えたジャケット本体が溶湯と直接接触しないようにしたことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するため請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、冷却フィンの溶損進行度を把握するための一又は複数の熱電対を備え、熱電対によって測定された温度をコンピュータを用いて解析することによって冷却フィンの溶損進行度を常時監視するようにしたことを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するため請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の水冷ジャケットを製錬炉の炉壁として配置したことを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するため請求項8に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の水冷ジャケットを製錬炉の炉壁として配置し、冷却水路に冷却水を流すことにより操業中の炉壁を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法によれば、水路を有するジャケット本体に設けられた複数の冷却フィンの先端部をその操業負荷に応じて不定形耐火物及び定形耐火物を設けたので、耐火物及び水冷ジャケットの取替えが永年にわたって不要となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る水冷ジャケットの第一の実施形態を代表的な製錬炉である自溶炉に配置した状態の側面断面図である。
【図2】3分割された水冷ジャケットの炉外側を示す背面図である。
【図3】図2の水冷ジャケットの平面図である。
【図4】図1に示す自溶炉の炉内側に配設される不定形耐火物及び定形耐火物の構造を示す斜視図である。
【図5】冷却フィンが千鳥配置された状態を示す説明図である。
【図6】熱電対による温度監視の説明図である。
【図7】本発明に係る水冷ジャケットの第二の実施形態の主要部の構成を示す側面断面図である。
【図8】自溶炉の一例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る水冷ジャケット並びにそれを利用した炉体冷却構造及び炉体冷却方法について好ましい一実施形態に基づいて説明する。
1.第一の実施形態
図1は本発明に係る水冷ジャケットの第一の実施形態を自溶炉に配置した状態の側面断面図、図2は3分割された水冷ジャケットの炉外側を示す背面図、図3は図1に示す自溶炉の炉内側に配設される不定形耐火物及び定形耐火物の構造を示す斜視図、図4は図1に示す自溶炉の炉内側に配設される不定形耐火物及び定形耐火物の構造を示す斜視図である。
【0022】
図示された水冷ジャケット10は、概略として、内部に冷却水路11を備えたジャケット本体20と、ジャケット本体20の表面から突出するようにして形成された複数の冷却フィン30とを備えて形成されている。ジャケット本体20と冷却フィン30は、ジャケット本体20の内部に冷却水路11となる金属パイプを内装した状態で一体鋳造することによって形成されている。ジャケット本体20と冷却フィン30及び冷却水路11は熱伝導性が高い金属、例えば銅によって形成すると、冷却フィン30やジャケット本体20が冷却水路11内を流通する冷却水によって後述する不定形耐火物31や定形耐火物32を効率的に冷却することができる。
【0023】
図2及び図3に示すように、本実施形態においては水冷ジャケット10は、3つに分割した水冷ジャケット10a,10b,10cを横方向に相互に連結することによって構成されている。水冷ジャケット10aについて説明すると、この水冷ジャケット10aには複数の冷却フィン30が多段状に配置されていると共に、ジャケット本体20aの図2における右側の側縁部にはジャケット本体20aの縦方向に沿って平面状の取付部21が図3に示すように形成されている。また、冷却フィン30が設けられた側とは反対側(炉の外側面となる側)の上部にはジャケット本体20aの内部に配置した冷却水路11へ冷却水を供給するための供給口12及び冷却水路11からの冷却水を排出するための排出口13とが配置されている。冷却水路11は、ジャケット本体20aの上部側に設けられた供給口12から内部を通って下へ伸びた後、略直角に折り曲げられてジャケット本体20aの底部側近傍を幅方向に進み、さらに略直角に折り曲げられてジャケット本体20aの上部へ至り、最後に排出口13に至るように配管されている。
【0024】
一方、水冷ジャケット10cは、水冷ジャケット10aと左右対称の形状に形成されており、ジャケット本体20cの図2における左側の側縁部にはジャケット本体20cの縦方向(図3における上下方向)に沿って平面状の取付部21が水冷ジャケット10aと同様に形成されている(図3参照)。そして、ジャケット本体20cの内部に配置した冷却水路11へ冷却水を供給排出するための供給口12と排出口13が配置されている。
【0025】
さらに、水冷ジャケット10bは水冷ジャケット10aと水冷ジャケット10cとの間に配置され、図2における左側の側縁部に水冷ジャケット10aの取付部21と密着される取付部22がジャケット本体20bの縦方向(図における上下方向)に沿って形成されており、取付部21に複数穿設された図示しない孔部を介してボルトなどの締着部材14によって両者が強固に連結されている。同様にして、水冷ジャケット10bは水冷ジャケット10cに対しても、図2における右側の側縁部に水冷ジャケット10cの取付部21と密着される取付部22がジャケット本体20bの縦方向(図3における上下方向)に沿って形成されており、ボルトなどの締着部材14によって両者が強固に連結されている。これにより水冷ジャケット10a,10b,10cは一体化され、水冷ジャケット10を構成している。このように、水冷ジャケット10を3分割して構成するのは、水冷ジャケット10の設置及び更新工事等の施工時におけるハンドリング及び冷却水路11のレイアウト等を考慮したためである。具体的な幅サイズとしては水冷ジャケット10a,10cが約400mmで、水冷ジャケット10bが600mm程度、すなわち400〜600mm程度とするのが好ましい。また、溶湯の湯深に合わせて高さは1,000〜1,300mm程度とするのが好ましい。
【0026】
水冷ジャケット10a〜10cのジャケット本体20a,20b,20cには複数の冷却フィン30がそれぞれ所定の間隔で多段状に配置されている。冷却フィン30の配列、本数、長さ及び形状は特に限定されるものではないが、不定形耐火物31及び定形耐火物32を接合保持しやすく、且つ、不定形耐火物31及び定形耐火物32が溶損したときに同時にスラグコーティングが可能なレイアウト、長さ及び形状(断面等)とすることが望ましい。本実施形態では、不定形耐火物31及び定形耐火物32の冷却効率を向上させるために冷却フィン30のレイアウトを後述するように千鳥配置にして不定形耐火物31及び定形耐火物32を5方向から冷却するようにしている。
【0027】
冷却フィン30の相互間及び最上部及び最下部の冷却フィンの片側の隙間には、図1に示すように、不定形耐火物31及び定形耐火物32が、充填及び挟み込まれている。自溶炉1はその稼働時に下側からマットレベル(Mレベル)101、スラグレベル(Sレベル)102及びガスレベル(Gレベル)103の3つのレベルが形成される。一例を示すと、自溶炉1におけるマットホールレベルを0mmとした場合、マットレベルが600〜800mm、スラグレベルが700〜1,300mmである。また、マット抜きの際の溶湯レベルはマットレベルが500〜700mm、スラグレベルが600〜1,200mmであり、スラグ抜きの際の溶湯レベルはマットレベルが600〜800mm、スラグレベルが700〜1,000mmである。反応シャフト直下のスラグレベル102及びガスレベル103はマットレベル101に比べてより高温に晒されること、ならびに溶湯レベルの変動によりガスと溶湯界面が移動する範囲であり負荷変動が大きいために溶損し易く、このスラグレベル102及びガスレベル103に焼成マグネシアクロミア耐火煉瓦を用いた場合、スラグレベル102及びガスレベル103の耐火煉瓦は6カ月程度で溶損しはじめるおそれがある。
【0028】
そこで、図1に示すように、ガスレベル103及びスラグレベル102に対向する冷却フィン30の相互間(上下方向の両側の隙間)を充填し、さらに該冷却フィン30の先端面を所定の厚み(例えば100mm)に覆うようにしてCr(クロミア)を多く(例えば、60〜80%(通常の不定形耐火物のCr含有量は15%程度)含んだ不定形耐火物31が配置される。その一方、スラグレベル102及びガスレベル103よりも負荷が低いマットレベル101に対向する冷却フィン30の相互間には焼成煉瓦(例えば、焼成マグネシアクロミア耐火煉瓦)による定形耐火物32を介在させている。
【0029】
本実施形態の場合、不定形耐火物31は、例えば、厚みが50mm、奥行き(厚み)が150mm程度であり、定形耐火物32は、例えば、厚みが72mm、長さ300mm程度である。そして、定形耐火物32は、その炉内側が不定形耐火物31と同じ不定形耐火物33によってコーティングされ、定形耐火物32を挟み込んだ冷却フィン30の先端が直接溶湯と接しないようにされている。また、本実施形態では、ジャケット本体20がマットレベルからガスレベルに至るまでの高さ方向に一体として形成されており、従来、定形耐火物によって形成されていたガスレベルにおいても高い溶損防止効果が期待できる。
【0030】
尚、定形耐火物32として耐火レンガ等を使用する場合、その厚みを冷却フィン30の相互間の空間の厚みよりも数mm程度薄くして、冷却フィン30との隙間に定形耐火物32を密にして介在させ、余計な空間を残さないようにすることが好ましい。また、定形耐火物32に代えて不定形耐火物31を用いてもよい。
【0031】
また、水冷ジャケット10bの各冷却フィン30は、両側の水冷ジャケット10a,10cの冷却フィン30に対し設置位置が異なる、即ち図5に示すように、千鳥配置になるように高さをずらして配置している。このような千鳥配置を実現するために水冷ジャケット10bの最上部に位置する冷却フィン30と最下部に位置する冷却フィン30の厚さは他の冷却フィン30の厚さのほぼ2倍の厚さにしている。これにより冷却フィン30と不定形耐火物31及び定形耐火物32が挟み込まれる空間部が千鳥配置となり、不定形耐火物31及び定形耐火物32は上下左右方向に位置する冷却フィン30及びジャケット本体20の表面の5方向から効率的に冷却されることになる。また、ジャケット本体20は冷却フィン30と不定形耐火物31及び定形耐火物32によって溶湯とは直接接触しないのでジャケット本体20の溶損が効果的に抑制され、それによって水漏れトラブルから守られることになる。尚、水冷ジャケット10の分割形状は上述した構造に限るものではなく、水冷ジャケット10a,10bを一つのユニットとして左右に連続配置することも可能である。
【0032】
冷却フィン30は、図4に示すように自溶炉の長手方向(横方向)に沿って水平に配置されているが、これを縦方向(高さ方向)に沿って配置することも可能である。しかし、不定形耐火物31及び定形耐火物32が溶損した後に形成されるスラグコーティングの保持の観点から、冷却フィン30はジャケット本体20の幅方向(横方向)に配置することが好ましい。また、冷却フィン30は、目標とする不定形耐火物31、定形耐火物32及び水冷ジャケット10の更新期間(例えば、6年)に合わせて、その溶損の程度を考慮して溶損代としてその形状及びサイズを決定することが好ましい。すなわち、冷却フィン30は定形耐火物32や不定形耐火物31を積極的に冷却するための重要な役割を果たすものではあるが、いかに冷却を強化しても定形耐火物32や不定形耐火物31及び冷却フィン30を全く溶損させずに、半永久的に維持することは物理的に極めて困難である。そのため、冷却フィン30は目標とする更新期間内において溶湯と接触して溶損することを前提としてその形状及びサイズを決定する必要がある。尚、ジャケット本体20は冷却水によって冷却されているので、一体鋳造で形成される冷却フィン30は熱伝導により冷却され、冷却フィン30に設けた不定形耐火物31及び定形耐火物32が溶損したときに冷却フィン30の相互間をジャケット本体20に向かって進行してくる溶湯は冷却されて凝固し、スラグコーティングとして冷却フィン30の相互間に保持されるので、冷却フィン30が残存している状態であればジャケット本体20が直接溶湯と接触することはない。
【0033】
冷却フィン30の形状について説明すると、具体的には、定形耐火物32が介在する領域の冷却フィン30はジャケット本体20a〜20cの表面から約300mmの突出長さであり、不定形耐火物31が介在する領域の冷却フィン30のジャケット本体20a〜20cの表面から約50mmの突出長さである。また、冷却フィン30の厚さは約30〜80mmとし、冷却フィン30と冷却フィン30との間の間隔も同様に約30〜80mmとすることが好ましい。さらに、水冷ジャケットの厚みは、例えば、スラグレベル102及びガスレベル103において約200mm、マットレベル101において約100mmである。
【0034】
一方、水冷ジャケット10には冷却フィン30の溶損進行度を把握するために3つの熱電対40が配置されている。図6は熱電対による温度監視の説明図である。3つの熱電対40によって測定された温度データは、図6に示すコンピュータ50を用いて解析することによって冷却フィン30の溶損進行度を常時監視するようになっている。3つの熱電対40は、水冷ジャケット10a〜10cに設けられた所定の冷却フィン30の基端部に取り付けられており、この部分で測定された温度が図示しない制御室に設置されたコンピュータ50に常時取り込まれて監視される。この温度によって冷却フィン30の溶損の進行状態を把握することができる。コンピュータ50は測定温度に基づいて冷却フィン30の寿命を推定し、音や光(ランプ)による警報、プリントアウト等により保安要員等に警告及び通知する。これを基に保安要員等は、予め交換の必要な水冷ジャケット10を準備しておくことにより、長時間の操業停止等を回避することが可能になる。また、予めコンピュータ50に所定の温度を設定しておき、熱電対40による測定温度がその設定温度になったときに水冷ジャケット10の交換を促す警報を行うように構成することも可能である。尚、熱電対40の数は3つとしたが、これに限るものではなく、1又は複数を設けることも可能である。
【0035】
上述の水冷ジャケット10は図8に示した自溶炉1の溶湯保持部及び高温ガス接触部、すなわち、シャフト2の下部、セットラ3の側面部、アップテイク4の下部に配置することによって炉体冷却構造が構成される。ここで、図1における1aは自溶炉1の炉底部、1bは水冷ジャケット10の上部に配置された耐火レンガである。自溶炉1の通常の操業状態において、スラグ5の厚さは約400〜700mmで、マット6の厚さは約600〜800mmであり、スラグ5とマット6を合わせた最大湯深は約1,400mmである。また、温度はスラグ5とマット6とも約1,200〜1,300℃である。従って、この温度に基づいて冷却フィン30の突出長さや幅サイズさらには厚さを設定すると共に、湯深に合わせて水冷ジャケット10の高さを設定することが好ましい。
【0036】
上述の炉体冷却構造を備えた自溶炉1においては冷却水路11の供給口12から所定の流速で冷却水を流し、それを排出口13から排出することによって不定形耐火物31及び定形耐火物32を積極的に冷却して自溶炉の安定操業を行うことが出来る。また、冷却水路11への冷却水の流量を適宜調整することで冷却の強弱を調整することが出来る。この場合、熱電対40による常時監視のデータを利用して測定温度が上昇した場合には冷却水の流量を増やし、温度が安定してきたら冷却水の流量を減らす等の調整をコンピュータ管理によって行わせることも出来る。
【0037】
第一の実施形態に係る水冷ジャケットによれば、スラグレベル102及びガスレベル103に対向する冷却フィン30の上下の隙間に不定形耐火物31を充填し、マットレベルに対向する冷却フィンの上下の隙間に定形耐火物32を配置し、さらに、上記冷却フィンの先端部を含めて全体を不定形耐火物33でコーティングしたことにより、毎年実施されている自溶炉のセットラ高負荷部分の耐火物の更新が、数年以上(例えば、6年以上)不要になり、水冷ジャケットの更新回数を大幅に減少させることを見込め、さらには炉内水漏れトラブルを低減できることにより安定操業に寄与することが見込めるという効果がある。
【0038】
2.第二の実施形態
図7は第二の実施形態の主要部の構成を示す側面断面図である。尚、図7においては、炉底部1a、耐火レンガ1b、冷却水路11、供給口12、排出口13、締着部材14及び熱電対40の図示を省略し尚、主要部のみを図示している。本実施形態は、第一の実施形態においてジャケット20をジャケット本体201a,201bに分割すると共に、それぞれに対応させて第一の実施形態における不定形耐火物31を不定形耐火物31aと31bに分割し、さらに、ジャケット本体201aとジャケット本体201bとの間及び不定形耐火物31aと31bとの間にそれぞれの間の隙間を埋めるスペーサ34を配設したものであり、その他の構成は第一の実施形態と同様である。尚、スペーサ34も不定形耐火物31a,31bにより又はそれと同じ組成によって形成することが好ましい。
【0039】
第二の実施形態に係る水冷ジャケットによれば、ジャケット20及び不定形耐火物31を分割したことにより、ジャケット本体201a,201bの運搬、組み立て等が容易となって設置工事や改修工事における作業性が向上するという効果がある。
【0040】
以上のように、本発明の好ましい各実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【0041】
また、好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る水冷ジャケットは、自溶炉に限らず、高温の溶湯やガスに晒されることによって溶損するジャケット本体を備えた炉の全般に採用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 自溶炉
2 シャフト
3 セットラ
4 アップテイク
5 スラグ
6 マット
7 精鉱バーナー
10 水冷ジャケット
10a 水冷ジャケット
10b 水冷ジャケット
10c 水冷ジャケット
11 冷却水路
12 供給口
13 排出口
14 締着部材
20 ジャケット本体
20a ジャケット本体
20b ジャケット本体
20c ジャケット本体
21 取付部
22 取付部
30 冷却フィン
31 不定形耐火物
31a 不定形耐火物
31b 不定形耐火物
32 定形耐火物
33 不定形耐火物
34 スペーサ
40 熱電対
50 コンピュータ
101 マットレベル
102 スラグレベル
103 ガスレベル
201a ジャケット本体
201b ジャケット本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷却水路を備えたジャケット本体と、
炉内の高温雰囲気側に向かって突出するようにして前記ジャケット本体に形成された複数の冷却フィンであって、当該ジャケット本体の幅方向に沿って所定の間隔で複数段にわたって形成された複数の冷却フィンと、
を備え、
不定形耐火物が前記炉内における熱負荷及び熱負荷変動の大きい高負荷領域に面した前記ジャケット本体の各冷却フィンの隙間に充填されると共に当該冷却フィンの先端面を覆うようにして配置され、
前記高負荷領域以外の領域に面した各冷却フィンの隙間には定形耐火物が配置されると共に、前記高負荷領域以外の領域に面した各冷却フィンの先端面及び前記定形耐火物を覆うようにして前記不定形耐火物を配置してなる
ことを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項2】
請求項1に記載の水冷ジャケットにおいて、
前記炉内における前記高負荷領域はガスレベル及びスラグレベルであり、前記高負荷領域以外の領域はマットレベルであり、
前記ジャケット本体は、前記マットレベルからガスレベルに至るまでの高さ方向に一体として形成し、又は、前記ガスレベルに位置する部分を分割して形成したことを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水冷ジャケットにおいて、
前記不定形耐火物は、60〜80%のCrを含有することを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、
前記複数の冷却フィンは、最上段及び最下段を除き隣り合う水冷ジャケットの冷却フィンとは互い違いになるように千鳥配置したことを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、
前記冷却フィンは、前記ジャケット本体と一体鋳造により形成すると共に、前記冷却フィンの内部には冷却水路を設けず、前記ジャケット本体の内部のみに冷却水路を配置することにより熱伝導により冷却フィンを冷却し、耐火物が溶損した場合に冷却フィン間をジャケット本体に向かって進行してくる溶湯を凝固させ、冷却水路を備えたジャケット本体が溶湯と直接接触しないようにしたことを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の水冷ジャケットにおいて、
前記冷却フィンの溶損進行度を把握するための一又は複数の熱電対を備え、前記熱電対によって測定された温度をコンピュータを用いて解析することによって前記冷却フィンの溶損進行度を常時監視するようにしたことを特徴とする水冷ジャケット。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の水冷ジャケットを製錬炉の炉壁として配置したことを特徴とする水冷ジャケットを利用した炉体冷却構造。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の水冷ジャケットを製錬炉の炉壁として配置し、前記冷却水路に冷却水を流すことにより操業中の炉壁を冷却することを特徴とする水冷ジャケットを利用した炉体冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57905(P2012−57905A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204055(P2010−204055)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】