説明

水処理システム

【課題】濾過膜が有する問題点を生じることなく、薬剤を用いずに熱機器の腐食を抑制する。
【解決手段】熱機器としてのボイラ2への給水ライン3に、前記ボイラ2への給水中にイオンとして存在する前記ボイラ2の伝熱面の腐食促進成分を除去し、前記ボイラ2への給水中に非イオンとして存在する前記ボイラ2の伝熱面の腐食抑制成分を通過させる電気透析装置4を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱機器への給水の水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な熱機器として挙げられるボイラ(たとえば、貫流ボイラ)は、給水を加熱して蒸気を発生させる伝熱管を備えている。この伝熱管は、炭素鋼などの非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ水と接触する伝熱面がボイラ水の影響により腐食されると破損するおそれがある。このため、前記ボイラを長期間安定に運転するためには、前記伝熱面の腐食を効果的に抑制する必要がある。そこで、前記ボイラへの給水中に前記伝熱面の腐食を抑制するための薬剤を添加している。
【0003】
しかし、前記伝熱面の腐食を抑制するために添加された薬剤は、ボイラ水が蒸発する際に一部が蒸気中に取り込まれるおそれがある。この場合、たとえば蒸気の用途が食品の調理や加工であると、食品を汚染するおそれがあることから、熱源として直接利用することが困難になる。
【0004】
そこで、特許文献1では、前記ボイラの伝熱面に生じる腐食を薬剤を用いずに抑制するため、前記ボイラの伝熱面の腐食促進成分を除去するとともに、前記ボイラの伝熱面の腐食抑制成分を透過する濾過膜を備えた濾過膜部を、前記ボイラへの給水ラインに設けた水処理システムが提案されている
【特許文献1】特開2004−290829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記濾過膜には、たとえば以下に挙げるような問題がある。すなわち、前記濾過膜の中には、耐塩素性のないものがある。そして、このように耐塩素性のない濾過膜を使用した場合、前記ボイラへの給水に対し、殺菌剤として塩素を添加することができないため、前記濾過膜に微生物が付着し、膜面にバイオフィルムが形成されて前記濾過膜の詰まりが生じるおそれがある。また、前記濾過膜は、水温の変動により腐食促進成分の除去率が変化するという性質を有するため、一定水質を確保することが困難となるおそれもある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、濾過膜が有する詰まりや水温による水質変化などの問題を生じることなく、薬剤を用いずに熱機器の腐食を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、前記濾過膜の代わりに、電気透析装置を用いることにより、薬剤を用いずに熱機器の腐食を抑制する。すなわち、請求項1に記載の発明は、熱機器への給水ラインに、前記熱機器への給水中にイオンとして存在する前記熱機器の伝熱面の腐食促進成分を除去し、前記熱機器への給水中に非イオンとして存在する前記熱機器の伝熱面の腐食抑制成分を通過させる電気透析装置を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明では、前記電気透析装置により、給水中のイオン化物質が除去され、一方で非イオン化物質は前記電気透析装置を通過する。したがって、前記電気透析装置により、給水中にイオンとして存在する腐食促進成分が除去され、一方で非イオンとして存在する腐食抑制成分は、前記電気透析装置を通過し、前記熱機器への給水中に含まれることとなる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、濾過膜の代わりに前記電気透析装置を用いることにより、前記熱機器へは前記濾過膜を用いる場合と同様に、前記熱機器の伝熱面の腐食促進成分が除去され、前記熱機器の腐食抑制成分を含む給水を供給することができる。したがって、前記濾過膜が有する詰まりや水温による水質変化などの問題を生じることなく、薬剤を用いずに前記ボイラの伝熱面の腐食を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、この発明の実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明に係る水処理システムの実施の形態の一例を示す概略的な説明図である。
【0011】
図1において、水処理システム1は、水道水,工業用水,地下水などの水源から供給される原水を水処理して得られた給水を、熱機器であるボイラ2へ供給するものである。このボイラ2は、給水を加熱して蒸気を発生させる伝熱管(図示省略)を備えている。この伝熱管は、炭素鋼などの非不動態化金属を用いて形成されている。そして、前記水処理システム1では、原水を水処理することにより、前記伝熱管内におけるボイラ水と接触する部位である伝熱面の腐食を抑制することができる処理水をボイラ給水として得ることができるようになっている。
【0012】
前記水処理システム1にあっては、前記ボイラ2への給水ライン3を備え、この給水ライン3に電気透析装置4が設けられている。また、前記給水ライン3には、前記電気透析装置4の上流側に軟水装置5および給水ポンプ6がこの順で設けられ、さらに前記電気透析装置4の下流側に膜脱気装置7および給水タンク8がこの順で設けられている。
【0013】
前記電気透析装置4は、電極(図示省略)の間に陽イオン交換膜(図示省略)と陰イオン交換膜(図示省略)とを交互に配置した電気透析槽(図示省略)を備えている。そして、前記電気透析装置4は、前記電気透析槽において、給水中のイオン化物質を除去し、一方で非イオン化物質を通過するようになっている。したがって、前記電気透析装置4にあっては、前記ボイラ2への給水中にイオンとして存在する前記ボイラ2の伝熱面の腐食促進成分が除去され、前記ボイラ2への給水中に非イオンとして存在する前記ボイラ2の伝熱面の腐食抑制成分が通過するようになっている。
【0014】
また、前記電気透析装置4は、前記電気透析槽への通電量を調節することにより、イオン化物質の除去量を調節することができるようになっている。したがって、前記電気透析装置4は、原水の水質に応じて通電量を調節することにより、前記ボイラ2への給水中にイオンとして存在する腐食促進成分の除去量を調節することができるようになっており、これにより前記ボイラ2の伝熱面の腐食を抑制することができる所望の水質を安定して得ることができるようになっている。
【0015】
ここで、前記ボイラ2の伝熱面の腐食促進成分とは、非不動態化金属で形成された前記伝熱管の伝熱面に作用してその腐食を促進するものを云い、通常、硫酸イオン,塩化物イオンおよびその他の成分を含んでいる。したがって、前記ボイラ2への給水中にイオンとして存在する腐食促進成分として、硫酸イオンおよび塩化物イオンを挙げることができる。ちなみに、硫酸イオンおよび塩化物イオンは、腐食促進成分として重要な物質である。したがって、これらのイオンが前記電気透析槽において除去されることで、前記ボイラ2の伝熱面の腐食を効果的に抑制することができるようになっている。
【0016】
また、前記ボイラ2の伝熱面の腐食抑制成分とは、前記伝熱面に作用してその腐食を抑制可能なものを云い、通常、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素)を含んでいる。したがって、前記ボイラ2への給水中に非イオンとして存在する腐食抑制成分として、シリカを挙げることができる。
【0017】
前記電気透析装置4では、前記給水ポンプ6から送り出された給水が一側から流入すると、他側から腐食抑制成分を含む脱塩水と腐食促進成分を含む濃縮水とが流出するようになっている。脱塩水は、前記給水ライン3を流れ前記膜脱気装置7を経て前記給水タンク8内に貯留されるようになっている。一方、濃縮水は、前記電気透析装置4と接続された濃縮水ライン9へ流出するようになっている。
【0018】
ここで、前記電気透析装置4に用いられるイオン交換膜は、濾過膜(たとえば、ナノ濾過膜や逆浸透膜など)に比べて相対的に高い耐塩素性を有している。したがって、給水中に殺菌剤として塩素を添加することが可能である。また、前記イオン交換膜は、前記濾過膜に比べて温度で特性が変化しにくく、通電量の調節が容易なので、前記電気透析装置4からの脱塩水は、給水の水温変動や原水の水質変動による影響を受けずに安定した水質となる。
【0019】
前記電気透析装置4は、前記電極の極性を一定時間ごとに反転する極性反転方式電気透析装置であってもよい。この場合、前記電極や前記イオン交換膜におけるスケールの発生などを効果的に防止することができる。
【0020】
前記軟水装置5は、給水中の硬度分,すなわちカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを除去するイオン交換樹脂(図示省略)を充填した樹脂筒(図示省略)を備えている。そして、前記樹脂筒では、給水中の硬度分をイオン交換により、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどの一価の陽イオンへ交換し、給水の水質を軟水化するようになっている。これにより、軟水化された給水を前記ボイラ2へ供給することができ、このボイラ2の伝熱面へのスケール付着を防止することができるようになっている。
【0021】
前記膜脱気装置7は、気体透過膜を多数備えた気体透過膜モジュールと、水封式真空ポンプ(それぞれ図示省略)とを備えて構成されている。そして、前記膜脱気装置7は、給水中の溶存気体,具体的には溶存酸素を前記気体透過膜モジュールを通して前記水封式真空ポンプで真空吸引するように構成されている。これにより、前記ボイラ2の伝熱面の腐食原因となる溶存酸素が除去された給水を前記ボイラ2へ供給することができるようになっている。
【0022】
前記給水タンク8には、前記給水ポンプ6を作動させることにより、前記軟水装置5,前記電気透析装置4および前記膜脱気装置7を通過した給水が貯留されるようになっている。そして、前記給水タンク8に貯留された給水は、この給水タンク8と前記ボイラ2との間の前記給水ライン3に設けられたポンプ(図示省略)を作動させることにより、前記ボイラ2へ供給されるようになっている。
【0023】
さて、前記水処理システム1では、前記給水ライン3を流れる給水が、まず前記軟水装置5を通過して軟水化される。そして、この軟水化された給水が、前記電気透析装置4を通過する際に、給水中にイオンとして存在する腐食促進成分が除去される。このとき、腐食促進成分を含む濃縮水は、前記濃縮水ライン9へ流出する。一方、給水中に非イオンとして存在する腐食抑制成分は、前記電気透析装置4を通過する。そして、腐食抑制成分を含み腐食促進成分が除去された脱塩水は、前記電気透析装置4から前記給水ライン3へ流出すると、この給水ライン3を流れ、前記膜脱気装置7で脱気される。そして、この膜脱気装置7からの給水は、前記給水タンク8に貯留され、この給水タンク8から前記ボイラ2へ供給される。
【0024】
以上説明した前記水処理システム1によれば、濾過膜の代わりに前記電気透析装置4を用いることにより、前記ボイラ2へは前記濾過膜を用いる場合と同様に、腐食促進成分が除去され、腐食抑制成分を含む給水を供給することができる。したがって、前記水処理システム1によれば、前記濾過膜が有する詰まりや水温による水質変化などの問題を生じることなく、薬剤を用いずに前記ボイラ2の伝熱面の腐食を抑制することができる。
【0025】
以上、この発明を実施形態により説明したが、この発明は、その主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。たとえば、前記実施形態では、前記熱機器として、前記ボイラ2を例として挙げて説明しているが、これに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係る水処理システムの実施の形態の一例を示す概略的な説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 水処理システム
2 ボイラ(熱機器)
3 給水ライン
4 電気透析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機器への給水ラインに、前記熱機器への給水中にイオンとして存在する前記熱機器の伝熱面の腐食促進成分を除去し、前記熱機器への給水中に非イオンとして存在する前記熱機器の伝熱面の腐食抑制成分を通過させる電気透析装置を設けたことを特徴とする水処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−80304(P2008−80304A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266207(P2006−266207)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】