説明

水処理兼担体馴養方法及びその装置

【課題】 水処理機能を維持しつつ、活性の高い担体を容易に馴養することができる水処理兼担体馴養方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 微生物を固定化した粒状の担体16を収容し被処理水12と担体16とを接触させることにより被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去する反応槽10と、反応槽10から担体16の一部を引抜くポンプ25と、ポンプ25によって引抜いた担体16を保管する担体保管タンク26と、新担体16Aを反応槽10内に投入する新担体投入タンク38とを具備する。被処理水中の有害成分濃度を検出計46で検出し、検出結果に基づいて担体16の引抜きと新担体16Aの投入を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理兼担体馴養方法及びその装置に係り、特に微生物を固定化した粒状の担体を用いて被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去するとともに担体を馴養する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖系水域における富栄養化の問題に対処するために、流入廃水中の窒素を除去することが強く望まれている。窒素は主にアンモニア性窒素の形態で下水や各種産業廃水に含まれる。廃水中のアンモニア性窒素を除去する方法としては、生物学的な方法が一般に採用されている。この方法は硝化細菌を用いてアンモニア性窒素を亜硝酸や硝酸に酸化し、次に脱窒細菌を用いて亜硝酸や硝酸を窒素ガスに変換して除去する。
【0003】
硝化細菌は増殖速度が遅いため、安定した窒素除去を行うためには、硝化反応槽では窒素の負荷が0.2〜0.4kg-窒素/m/日の範囲の低負荷運転を行う必要があり、硝化反応槽の大型化を招く。この対策として、硝化細菌を固定化した担体を硝化反応槽に投入して硝化細菌を高濃度に保持する方法が普及しつつある。この方法によれば硝化反応槽を小型化した高速処理が可能となる。
【0004】
硝化細菌ばかりでなく、有機物分解菌、環境ホルモン分解菌などを高濃度に保持して高速処理するために、これらの微生物を固定化した担体が実用規模で使用され、又は研究開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
ところで、この種の担体を用いた水処理施設では、施設の新設計画が具体化し除去すべき有害成分が明確になると、その目的有害成分の除去に最も適した微生物が選定される。そして、当該微生物を固定化した担体又は微生物を固定化するための担体が水処理施設の建設工程に合わせて予め担体製造工場で製造される。水処理施設が竣工すると反応槽に製造した担体を投入し、試運転を経て本運転に入る。
【特許文献1】特許第3389811号公報
【特許文献2】特許第3514360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、担体製造工場で製造した直後の担体は、固定化した微生物の濃度が低く、活性が乏しいのが通常であり、実運転で処理が安定するまでに長い馴養期間が必要であった。特に、担体製造工場の段階では微生物を固定せずに、実運転において微生物を徐々に付着させる方式の付着型担体においては担体に微生物が十分に付着するまでに数ヶ月を要する場合があり、本運転の開始を遅らせる重大な要因になっていた。このような問題は担体製造工場の段階で予め微生物を包括固定化する包括固定型担体では比較的緩和されるが、それでも最低限1ヶ月程度の馴養期間が必要であった。また、水処理施設を新設する場合に限らず、既設の水処理施設に担体を新たに投入する場合や補充する場合にも同様の問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を改善し、水処理機能を維持しつつ、活性の高い担体を容易に馴養することができる水処理兼担体馴養方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係る水処理兼担体馴養方法は、微生物を固定化した粒状の担体を収容した反応槽に被処理水を供給し、前記流動する担体と被処理水とを接触させることにより前記被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去する方法であって、前記反応槽に収容した担体の一部を引抜く担体引抜き工程と、粒状の新担体を前記反応槽内に投入する新担体投入工程とを繰り返すことを特徴とする。なお、本発明において新担体とは担体製造工場で製造されたままの状態であり微生物が固定化されていない担体、微生物が固定化されている未馴養の担体又は馴養が不十分な担体を意味する。
【0009】
上記の方法において、前記有害成分の負荷が設定値以下である時に前記担体を引抜くことが望ましい。また、有害成分が窒素成分である場合には、当該窒素成分の負荷の設定値を50mg-窒素/h/L-担体未満とすることが望ましい。
【0010】
また、本発明に係る水処理兼担体馴養装置は、微生物を固定化した粒状の担体を収容し被処理水と担体とを接触させることにより被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去する反応槽と、前記反応槽から前記担体の一部を引抜く担体引抜き手段と、前記担体引抜き手段によって引抜いた担体を保管する担体保管手段と、粒状の新担体を前記反応槽内に投入する新担体投入手段とを具備したことを特徴とする。この場合、前記反応槽に流入する被処理水及び/又は反応槽から排出する処理水の水質をモニタリングするモニタリング手段を備え、前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて前記担体引抜き手段を制御するようにしたことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は反応槽内の担体の一部を担体引抜き手段によって反応槽から引抜く担体引抜き工程を含む。引抜いた担体は反応槽において馴養されており、活性が高い。このため、引抜いた担体を同様の担体を必要とする他の水処理施設に転用することができる。転用先である他の水処理施設が新設である場合には、この高活性の担体を用いることによって、担体の馴養期間を大幅に短縮でき、実運転への移行を早めることができる。担体引抜き工程では反応槽内に収容された担体の一部のみを引抜くので、反応槽では残部の活性の高い担体が被処理水と接触して被処理水中の有害成分の生物学的除去が維持される。
【0012】
また、本発明は粒状の新担体を新担体投入手段によって反応槽内に投入する新担体投入工程を含む。投入された新担体は反応槽に残存した活性の高い担体と混合しつつ、次第に馴養され微生物を高濃度に固定化した担体に変化していく。担体引抜き工程で引抜く担体量と新担体投入工程で投入する新担体量を同じくし、この担体引抜き工程と新担体投入工程とを繰り返すことによって、被処理水中の有害成分を除去するという水処理機能と、他の水処理施設に転用するための高活性の担体を馴養、供給する担体馴養機能とを兼ね備えた方法及び装置を実現することができる。
【0013】
担体の引抜きによって反応槽の処理能力が一時的に低下する。このため、有害成分の負荷が低く反応槽の処理能力に十分な余裕がある時に担体引抜き工程を行うことが望ましい。したがって、有害成分の負荷が設定値以下である時に担体を引抜くと、有害成分の除去性能を維持した水処理が可能となる。また、反応槽で有害成分の負荷が低い時に曝気を継続すると空曝気状態となり、担体に固定化した微生物が自己分解し、担体の活性が低下する現象がある。したがって、有害成分の負荷が設定値以下である時に担体を引抜くと、活性が低下する以前に担体を引抜くことになるので、他の水処理施設に転用するための高活性の担体を馴養、供給することができる。さらに、担体を引抜くと反応槽に残存する担体の有害成分の負荷が高くなり、空曝気状態が解消される。したがって、低負荷時の担体の活性低下現象を抑制することができる。なお、担体引抜き工程の直後に新担体投入工程に移行する必要はなく、負荷が回復した時に新担体を投入するとよい。
【0014】
また、反応槽に流入する被処理水及び/又は反応槽から排出する処理水の水質をモニタリングするモニタリング手段を備え、モニタリング結果に基づいて担体引抜き手段を制御すると、好適なタイミングでの自動制御が可能となり、本発明に係る方法及び装置の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る担体として包括固定型の担体を用いる場合には、モノマー材料やプレポリマー材料と微生物を混合し、この混合液を重合することによって得られる。モノマー材料としてはアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどがよい。プレポリマー材料としてはポリエチレングリコールジアクリレートやポリエチレングリコールメタアクリレートがよく、その誘導体を用いることもできる。担体は球状、角型又は筒状などに成形され、大きさは球相当径として1〜10mmがよい。固定化する微生物濃度は、例えば硝化細菌の場合には硝化細菌数が10個/mL-担体以上であると活性が発現する。馴養時の硝化細菌数を10個/mL-担体以上とすると、適正な馴養によって担体内部で10個/mL-担体以上に増殖する。
【0016】
また、本発明に係る担体として付着型の担体を用いる場合には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの球状、角状、円筒状のものや発泡体や網状のものがよい。大きさは球相当径で1〜10mmがよい。粒径が1mm未満のグラニュール状の付着型担体を用いることもできる。
【0017】
固定化する微生物は活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などの複合微生物、又は硝化細菌、脱窒細菌、嫌気性アンモニア酸化細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などの純粋菌などがある。
【0018】
担体を用いた基礎実験結果を以下に説明する。固定化する微生物として硝化細菌を用いた。すなわち、硝化細菌濃縮液(菌数10個/mL)30部、ポリエチレングリコールジアクリレート10部、テトラメチルエチレンジアミン0.5部、水59.25部を混合した懸濁液に重合剤として過硫酸カリウム0.25部を添加すると重合が始まり、ゲル化する。このゲルを1辺が3mmの立方体に切断し、基礎実験用の包括型担体とした。
【0019】
実験1(空曝気実験)
馴養することによって硝化細菌が十分に増殖した担体(硝化細菌数10個/mL-担体)を作製した。この担体を栄養のない清水中で空曝気し、硝化細菌数の変化を調べた。比較のために担体を水切りした後に所定の温度で保管した場合についても調べた。図5に実験結果を示す。図5において線Cは空曝気した場合、線Dは20℃で保管した場合、線Eは5℃で保管した場合を示す。空曝気すると担体の硝化細菌数が半減期4日で減少する。これは、空曝気によって硝化細菌が自己分解したためである。一方、空曝気せずに保管すると菌数の減少は少なく、特に5℃で保管した場合には菌数はほとんど減少しない。
【0020】
実験2(担体内部での菌の増殖実験)
馴養直後の担体(硝化細菌数10個/mL-担体)をアンモニア性窒素濃度100〜400mg/Lの原水に投入し、窒素成分負荷を10〜313mg-N/h/L-担体に変化させ、各負荷における培養1ヶ月後の硝化細菌の増殖状況を調べた。図6に実験結果を示す。窒素成分負荷が10又は21mg-N/h/L-担体と低い場合には、硝化細菌数はほとんど増殖しない。担体として活性が発現する硝化細菌数10個/mL-担体以上にするためには窒素成分負荷を33mg-N/h/L-担体以上、好ましくは50mg-N/h/L-担体程度に保持すべきであることが判る。
【0021】
図1は本発明の第1実施形態を示す装置系統図である。反応槽10は被処理水12の流入口と処理水14の排出口15を有する。また、反応槽10内には微生物を固定化した粒状の担体16が投入されている。担体16の投入総量は反応槽10の有効容積に対して10〜30%程度とする。固定化した微生物が硝化細菌などの好気性微生物である場合には、反応槽10の底部に配設した散気手段18にブロワ20から空気を送り込み、反応槽10内を曝気する。この曝気エネルギによって、担体16が流動して流入した被処理水12と担体16とが混合接触する。その結果、被処理水12中の除去対象である有害成分が担体16に固定化された微生物と接触し、有害成分は微生物の生物学的な作用によって分解又は酸化し除去される。なお、固定化した微生物が脱窒細菌などの嫌気性微生物である場合には、散気手段18の代わりに攪拌機を用いるか又は不活性ガスを反応槽10内に吹き込むことによって担体16を流動させる。
【0022】
反応槽10の排出口15側にはスクリーン22が設けられ、このスクリーン22によって担体16と処理水14が分離される。反応槽10にはポンプ25を具備した担体引抜き管24が接続し、担体引抜き管24の他端は担体保管タンク26に接続している。担体保管タンク26を冷蔵設備内に配置し、5℃程度の環境下に置くことが望ましい。ポンプ25によって反応槽10から引抜かれた被処理水と担体16は担体保管タンク26の上部に送り込まれ、担体16は下方に沈降して保管される。担体16と分離した被処理水は溢流樋28を経て反応槽10に戻される。担体保管タンク26の底部には開閉弁30を具備した担体戻し管32が接続し、担体戻し管32の他端は反応槽10に接続している。また、担体戻し管32からは担体排出管34が開閉弁36を介して分岐している。
【0023】
また、反応槽10には新担体投入タンク38が付設されている。新担体投入タンク38内には例えば担体製造工場で製造された未馴養の新担体16Aが充填されている。新担体投入タンク38の底部には自動開閉弁40を具備した新担体投入管42が接続し、新担体投入管42の他端は反応槽10に接続している。したがって、自動開閉弁40を開にすることによって、新担体投入タンク38内の新担体16Aが反応槽10内に補充される。
【0024】
被処理水の流入管44には被処理水中の有害成分濃度を検出する検出計46が配設されている。検出計46の検出値は制御器48に送信され、制御器48では、検出計46から送信された被処理水中の有害成分濃度の検出値に基づいて反応槽10における有害成分の負荷を算出する。また、反応槽10に投入されている担体量が判明している場合には、担体に対する有害成分の負荷をも算出する。そして、制御器48では算出したこれらの有害成分の負荷に応じて、担体引抜き手段であるポンプ25の駆動と、新担体投入手段である自動開閉弁40の開閉を制御する。
【0025】
上記構成の装置においては、被処理水が例えば生活系の下水の場合、水質が年間、期間、週間、日間で変動し、この水質の変動によって除去目的の有害成分の負荷も大きく変動する。図2は有害成分の負荷の変動状況をモデル化して例示した説明図である。図中、負荷F1は当該水処理施設の計画負荷であり、予想される最大負荷に近い値で設定され、この計画負荷に応じて、反応槽10の容量や担体16の投入量などが決められている。また、負荷F2は計画負荷F1の1/4の負荷である。図示のように有害成分の負荷は一般に大きく変動し、計画負荷を上回る時間帯はごく一時であって、大部分の時間帯では計画負荷以下の運転となる。また、負荷F2以下の低負荷運転の時間帯Sもかなりの割合を占めるケースが多い。このような低負荷運転の時間帯Sでは担体16は量的に過剰な状態に置かれる。担体16に固定化された微生物にとっては有害成分の負荷が低いことは栄養不足を意味しており、空曝気と同様な条件下に置かれる。このため、前記した実験1で明らかなように微生物が自己分解し、担体16の活性が低下する。
【0026】
本実施形態では上述の技術的な背景に基づいて当該装置を運転する。すなわち、有害成分の負荷が設定値(例えば負荷F2)以下になると、制御器48はポンプ25を一時的に駆動させて、反応槽10に投入されている担体16の一部を反応槽10から引抜き、引抜いた担体16を担体保管タンク26に送り込む。担体保管タンク26では送り込まれた担体16を一時的に保管する。担体16の1回分の引抜き量は全体量の3〜5%程度とする。担体16の1回分の引抜きによっても有害成分の負荷が設定値以下の状態が継続する場合には、同様の引抜き操作を繰り返す。なお、担体保管タンク26の容量には制限があるので、担体保管タンク26で一時的に保管する担体16の最大量を例えば全担体量の20〜30%程度に制限することが好ましい。
【0027】
引抜いた担体16は有害成分の負荷が設定値になった直後の担体であるから、自己分解を受けておらず、高い活性を維持している。担体保管タンク26に保管された担体16は担体排出管34から適当なタイミングで抜き出し、出荷するか、又は環境が5℃程度に維持された出荷用冷蔵設備50に一時的に貯蔵する。出荷される高活性の担体16は例えば同様の担体を必要とする他の水処理施設に転用することができる。転用先である他の水処理施設が新設である場合には、高活性の担体16を用いることによって、担体の馴養期間を大幅に短縮でき、実運転への移行を早めることができる。
【0028】
一方、反応槽10では担体16の引抜きによって、内部に収容した担体16の絶対量が減少する。このため、担体16に対する有害成分の負荷がその分、高くなり、低負荷状態が回復して担体16の活性低下が抑制される。その結果、反応槽10内の担体16は高活性を維持するので、安定な処理を継続し、被処理水の水質変動によって高負荷に移行した場合にも順応する。すなわち、本実施形態に係る装置は被処理水中の有害成分を除去するという水処理装置としての機能と、他の水処理施設に転用するための高活性の担体を馴養、供給する担体馴養装置としての機能とを兼ね備えている。
【0029】
担体16の引抜き操作が一区切りつくと、反応槽10では引抜いた担体16に見合う量の新担体16Aを補充する。すなわち、制御器48では担体16の引抜き操作が一段落した後のなるべく早い時期に自動開閉弁40を開にして、新担体投入タンク38内の新担体16Aを反応槽10内に補充する。新担体16Aは例えば担体製造工場で製造された直後の活性が低い担体であり、反応槽10に投入された直後にはさほどの有害成分の除去性能を発揮しないが、徐々に馴養されて活性が高まり、数週間後には高活性の担体16となる。
【0030】
有害成分の負荷が設定値以上の時は原則として担体16の引抜きを行わずに現状の運転を継続して、もっぱら水処理装置としての性能の確保と、補充した新担体16Aの馴養に専念する。なお、担体保管タンク26に保管した担体16の出荷先が当面見当たらず、担体保管タンク26での担体16の保管期間が長期にわたる場合には、担体保管タンク26底部の担体戻し管32から保管した担体16を反応槽10に戻す。そして再度、反応槽10から担体16を引抜いて担体保管タンク26に保管した担体16の更新を行う。また、反応槽10での有害成分の負荷が急激に増加し、現状の運転では処理が不十分である場合には、臨時措置として、同様に担体保管タンク26底部の担体戻し管32から保管した担体16の反応槽10に戻すこともできる。
【0031】
この第1実施形態によれば、有害成分の負荷が設定値以下の時に、担体16の一部を反応槽10から引抜いて、担体保管タンク26で保管するようにした。このため、反応槽10では担体単位容積当たりの有害成分の負荷がその分、上昇し、空曝気の状態を回避でき、反応槽10における担体16の活性の低下を防止することができる。また、反応槽10では担体単位容積当たりの有害成分の負荷が常に適正な範囲に保持されることになり、安定な生物処理を継続させることができる。また、担体保管タンク26に保管された担体16は高活性であり、この担体16を出荷して、同様の担体を必要とする他の水処理施設に転用することができる。転用先である他の水処理施設が新設である場合には、高活性の担体16を用いることによって、担体の馴養期間を大幅に短縮でき、実運転への移行を早めることができる。また、既設の他の水処理施設が運転不調などの理由によって高活性の担体を必要としている場合にも、前記引抜いた担体16を転用できる。したがって、本実施形態に係る装置は被処理水中の有害成分を安定して除去する水処理装置としても、他の水処理施設に転用するための高活性の担体を馴養、供給する担体馴養装置としても有用である。
【0032】
なお、有害成分がアンモニア性窒素である場合には、当該窒素成分の負荷の設定値を30〜50mg-窒素/h/L-担体以上に設定することが望ましい。すなわち、図6に示したように、窒素成分の負荷が30〜50mg-窒素/h/L-担体の付近では担体16は硝化細菌数が10〜10個/mL-担体程度であり、活性が十分にある。この担体16を引抜き、出荷することで、出荷先では即座に活性を発揮することができる。
【0033】
図3は本発明の第2実施形態を示す装置系統図である。図3において図1と同一の符号を付した要素は、図1と同様の要素であり説明を省略する。この第2実施形態では、処理水の排出口15に処理水の水質をモニタリングする水質計52が配置され、水質計52の検出値が制御器48Aに送信される。制御器48Aでは検出計46から送信された被処理水中の有害成分濃度の検出値と、水質計52から送信された処理水の検出値に基づいて、担体引抜き手段であるポンプ25の駆動と、新担体投入手段である自動開閉弁40及び担体戻し管32に設けられた自動開閉弁30Aの開閉を制御する。
【0034】
図4は当該実施形態での制御例を示すフローチャートである。まず、ステップS100では水質計52の検出値が制御器48Aに送信され、処理水の水質が適正(排水基準値以下)であれば次のステップS110に移る。また、処理水の水質が不適正(排水基準値以上)であれば反応槽10での担体量が不足していると判断し、制御器38Aでは自動開閉弁30を開き、担体保管タンク26に保管されている引抜き担体の少なくとも一部を反応槽10に戻すように制御する(S120)。ステップS110では検出計46から送信された被処理水中の有害成分濃度の検出値に基づいて反応槽10内の担体に対する有害成分の負荷を算出する。そして、制御器48Aでは算出した有害成分の負荷が設定値以下であれば、カウントをN=0としてポンプ25を駆動し、反応槽10に収容されている担体16(全担体量の4%)を反応槽10から引抜き、引抜いた担体16を担体保管タンク26に送り込む(S130)。次いで、ステップS140では算出された有害成分の負荷が設定値以下であれば、カウントをN=N+1として再度、担体16(全体量の4%)を反応槽10から引抜き、以下、同様に有害成分の負荷が設定値以下であれば、カウントがN=5となるまで担体の引抜きを繰り返す。その結果、担体保管タンク26には最大で全担体量の20%に相当する量の担体16が引抜き、保管されることになる。
【0035】
ステップS140で有害成分の負荷が設定値を越えていれば、制御器48Aでは自動開閉弁40を開き、新担体投入タンク38に保管されている新担体16Aを引抜いた担体16に見合う量だけ反応槽10に投入するように制御する(S150)。
【0036】
また、ステップS110有害成分の負荷が設定値を越えていれば現状の運転を継続する。以降、同様の手順で数時間に1回の頻度で同様の制御を繰り返す。流入する被処理水の水質変動が激しい場合には、各時点の検出計46の検出値によって有害成分の負荷を算出すると、算出値も被処理水の水質変動に合わせて変動し、制御が不安定になる。したがって、有害成分の負荷を算出する際には、検出計46の検出値を所定の時間帯(例えば、制御間隔時間)で平均化した値を用いることが望ましい。
【0037】
この第2実施形態によれば、処理水14の水質をモニタリングして、当該水質が不適正(排水基準値以上)であれば反応槽10に引抜いた担体を戻すようにしたので、処理水14の水質安定化を図ることができる。
【0038】
本発明は第1実施形態や第2実施形態に限定されない。例えば被処理水12や処理水14の水質のモニタリング及び制御器48や48Aの自動制御系を省略することが可能である。すなわち、被処理水12や処理水14の定期的なサンプリングによる水質検査の結果に基づき、運転員がマニュアルで担体引抜き手段や新担体投入手段を操作する構成も本発明に含まれる。
【0039】
また、担体引抜き手段としては図1や図3に図示した渦巻き式などのポンプ25に替えてエアリフト式のポンプを採用してもよい。新担体投入手段も図1や図3に図示した自動開閉弁40に替えて各種のポンプを採用してもよい。
【0040】
なお、本発明に係る新担体は担体製造工場で製造された直後の担体には限定されず、活性が相対的に低いために馴養によって活性を高める必要がある担体であればよい。
【実施例】
【0041】
実施例1
硝化細菌濃縮液(菌数105個/mL)50部、ポリエチレングリコールジアクリレート4部、アクリルアミド1部、テトラメチルエチレンジアミン0.5部、水44.25部を混合した懸濁液に重合剤として過硫酸カリウム0.25部を添加すると重合が始まり、ゲル化する。このゲルを1辺が3mmの立方体に切断し、実験用の担体とした。実験条件は以下のとおりである。
実験装置 図1に示したものと同様
被処理水 BOD約10mg/L、アンモニア性窒素128〜168mg/L
反応槽における被処理水の滞留時間 8時間
反応槽における担体の充填率 20%
担体に対する窒素負荷 80〜105mg-窒素/h/L-担体
(計画負荷 110mg-窒素/h/L-担体)
【0042】
上記した条件で十分に馴養した担体を用いて連続処理した。被処理水の水質変動が少なく、窒素負荷の変動も少ないので、随時に担体を全体量に対して5%引抜いた後に、引抜いた担体に見合う量の未馴養の新担体を反応槽に投入する操作を3日置きに繰り返した。このようにして引抜いた担体は約100mg-窒素/h/L-担体の能力を持つ硝化活性の高い担体である。この担体を上記とほぼ同一条件で処理すると馴養することなく安定した処理ができた。また、運転期間中の処理水のアンモニア性窒素は4〜8mg/Lと安定していた。なお、担体を一度で全担体量に対して25%引抜き、同量の新担体を投入した場合には、引抜き直後での担体への負荷が大きくなるため、処理水のアンモニア性窒素は14mg/Lに悪化し、4〜8mg/Lの安定処理に復帰するためには2週間を要した。
【0043】
比較例として担体製造工場で製造した直後の未馴養の新担体を用いて同一の条件で連続処理した。運転当初の処理水のアンモニア性窒素は120mg/Lであった。運転開始から3週間後でも処理水のアンモニア性窒素は30mg/Lと悪く、4〜8mg/Lの安定な処理結果を得るためには4週間の馴養期間が必要であった。
【0044】
実施例2
実施例1で用いた同一のものを実験用の担体とした。実験条件は以下のとおりである。
実験装置 図1に示したものと同様
被処理水 BOD約10mg/L、アンモニア性窒素32〜280mg/L
反応槽における被処理水の滞留時間 8時間
反応槽における担体の充填率 20%
担体に対する窒素負荷 20〜175mg-窒素/h/L-担体
上記した条件で十分に馴養した担体を用いて連続処理した。被処理水の水質変動が大きく、当初は窒素負荷が約120mg-窒素/h/L-担体のレベルで運転していたが、その後、窒素負荷が急激に低下した。そこで、窒素負荷が30mg-窒素/h/L-担体に低下した時点で担体の引きを開始し、担体の引抜き量が全体量に対して25%に達した時点で担体の引抜きを停止し、常温で保管した。担体の引抜き直後には新担体の投入を行わず、窒素負荷が50mg-窒素/h/L-担体を越えた時点で、引抜いた担体に見合う量の未馴養の新担体を反応槽に投入した。このような運転をすることにより、硝化活性が平均で45mg-窒素/h/L-担体の担体を回収することができた。なお、この間の処理水のアンモニア性窒素は4〜8mg/Lと安定していた。
【0045】
実施例3
付着型の担体として発泡ポリエチレンを1辺が3mmの立方体に切断し、実験用の担体とした。
実験装置 図3に示したものと同様
被処理水 BOD約10mg/L、アンモニア性窒素124〜280mg/L
反応槽における被処理水の滞留時間 8時間
反応槽における担体の充填率 20%
担体に対する窒素負荷 78〜175mg-窒素/h/L-担体
(計画負荷 140mg-窒素/h/L-担体)
上記した条件で馴養によって硝化細菌を十分に付着させた担体を用いて連続処理した。制御は図4に示した手順で行った。この際、処理水のアンモニア性窒素の判断基準を5mg/Lとし、担体に対する窒素負荷の設定値を80mg-窒素/h/L-担体とした。その結果、処理水のアンモニア性窒素をほぼ5mg/Lに維持しつつ、硝化活性が平均で80mg-窒素/h/L-担体の担体を回収することができた。
【0046】
実施例4
嫌気性アンモニア酸化細菌濃縮液(菌数10個/mL)34部、ポリエチレングリコールジアクリレート6部、テトラメチルエチレンジアミン0.5部、水59.25部を混合した懸濁液に重合剤として過硫酸カリウム0.25部を添加すると重合が始まり、ゲル化する。このゲルを1辺が3mmの立方体に切断し、実験用の担体とした。実験条件は以下のとおりである。
実験装置 図3に示したものと同様。ただし、散気手段による曝気を行わずに反応槽内を攪拌することによって、槽内を嫌気条件に維持
被処理水 アンモニア性窒素300mg/L、亜硝酸性窒素360mg/L
反応槽における被処理水の滞留時間 4時間
反応槽における担体の充填率 15%
上記した条件で十分に馴養した担体を用いて連続処理した。制御は図4に示した手順を簡略化して行った。すなわち、処理水の全窒素濃度の判断基準を80mg/Lとし、80mg/L以下では担体の引抜きを開始した。担体総量に対して担体を25%引抜いた時点で引抜きを停止し、引抜いた担体を常温で保管した。また、引抜いた担体に見合う量の未馴養の新担体を適当なタイミングで反応槽に投入した。このようにして、担体の引抜きと新担体の投入とを繰り返す運転を行った結果、処理水の全窒素濃度をほぼ80mg/L以下に維持しつつ、嫌気性アンモニア酸化細菌の菌数が10〜10個/mLの高活性の担体を回収することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態を示す装置系統図である。
【図2】負荷の変動状況をモデル化して例示した説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す装置系統図である。
【図4】第2実施形態での制御例を示すフローチャートである。
【図5】実験2の実験結果を示すグラフである。
【図6】実験3の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10………反応槽、12………被処理水、14………処理水、16………担体、18………散気手段、20………ブロワ、22………スクリーン、24………担体引抜き管、25………ポンプ、26………担体保管タンク、28………溢流樋、30………開閉弁、32………担体戻し管、34………担体排出管、36………開閉弁、38………新担体投入タンク、40………自動開閉弁、42………新担体投入管、44………流入管、46………検出計、48,48A………制御器、50………出荷用冷蔵設備、52………水質計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を固定化した粒状の担体を収容した反応槽に被処理水を供給し、前記担体と被処理水とを接触させることにより前記被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去する方法であって、前記反応槽に収容した担体の一部を引抜く担体引抜き工程と、粒状の新担体を前記反応槽内に投入する新担体投入工程とを繰り返すことを特徴とする水処理兼担体馴養方法。
【請求項2】
前記有害成分の負荷が設定値以下である時に前記担体を引抜くことを特徴とする請求項1に記載の水処理兼担体馴養方法。
【請求項3】
前記有害成分が窒素成分であり、当該窒素成分の負荷の設定値が50mg-窒素/h/L-担体未満である請求項2に記載の水処理兼担体馴養方法。
【請求項4】
微生物を固定化した粒状の担体を収容し被処理水と担体とを接触させることにより被処理水中の有害成分を生物学的に処理して除去する反応槽と、前記反応槽から前記担体の一部を引抜く担体引抜き手段と、前記担体引抜き手段によって引抜いた担体を保管する担体保管手段と、粒状の新担体を前記反応槽内に投入する新担体投入手段とを具備したことを特徴とする水処理兼担体馴養装置。
【請求項5】
前記反応槽に流入する被処理水及び/又は反応槽から排出する処理水の水質をモニタリングするモニタリング手段を備え、前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて前記担体引抜き手段を制御するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の水処理兼担体馴養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−122865(P2006−122865A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317738(P2004−317738)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】