説明

水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置及び膜損傷検出方法

【課題】 外部から膜モジュール内の振動を検出し、膜損傷を検出することにある。
【解決手段】 膜モジュールに原水を供給し、前記膜モジュールで浄化された処理水を配水する水処理用ろ過システムにおいて、前記膜モジュール11〜1nの一次側または二次側に所定の圧力の加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、前記膜モジュールの上部に取り付けられ、膜の損傷部分から漏れ出て水中を上昇してくる気泡流による振動を検出する振動検出センサ211〜21nと、各振動検出センサ211〜21nで検出される振動信号を個別に選択し、当該振動信号を分析することにより前記膜モジュールの膜損傷を検出する振動解析処理装置22とを備えた水処理用ろ過装置の膜損傷検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水処理、下水処理、産業排水処理、食品排水処理、原子力発電所等の水処理等に利用され、原水中に含まれる濁質分を分離除去する水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置及び膜損傷検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理用ろ過システムにおいて、中空糸膜の損傷を検出するために幾つかの膜損傷検出技術が提案されている。
【0003】
その1つの膜損傷検出技術としては、各膜モジュールの中空糸、ハウジング間のスペースに連通するようにチューブを取り出し、このチューブを通して中空糸、ハウジング間に原水を満たす段階と、各中空糸内部に所定の圧力のガスを供給する段階と、前記チューブ上に所定間隔を有して液面検出用トランスジューサを配置し、各中空糸内部から外部にガスが移動することによって生じる中空糸、ハウジング間のスペースからの浄水の排液率を、前記2つの所定部位間の液面の上昇に要する時間から測定する段階と、この段階によって測定された中空糸、ハウジング間からの浄水の排液率が予め定めた値を超えたときに膜破断等の不良中空糸の膜モジュールを検出する段階とからなる膜損傷検出方法である(特許文献1)。
【0004】
他のもう1つの膜損傷検出技術としては、ハウジング内に配置された複数のフィルタエレメントの下方から原水を満たした後、同じくフィルタエレメントの下方から所定の圧力の空気を送り込む。さらに、複数のフィルタエレメントアッセンブリの上流領域にマイクロフォン等の複数の音響検出センサを設置し、前記所定の圧力の空気を送り込んだときに膜破断によって複数のフィルタエレメントの中の一つ又はそれ以上から漏れ出てくる泡等の発生音を検出し出力する音響検出手段と、この音響検出手段から出力される信号に基づいて欠陥フィルタエレメントの位置を探し当てる演算処理回路とで構成されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3364804号公報
【特許文献2】特表2001−518380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の膜損傷検出技術では、中空糸とハウジングとの間のスペースにチューブを連通し外部に引き出すことから、製品としてのモジュール自体を破損したり、製品の性能を劣化させる恐れがある。
【0006】
一方、後者の膜損傷検出技術では、音響検出センサで音を検出することから、外部からの環境音、つまり水処理設備の稼動中に生じる外部音を完全に遮断しないと、誤差が生じてしまう問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、外部から膜モジュール内の振動を検出し、リアルタイムに膜損傷を検出可能とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置及び膜損傷検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記課題を解決するために、本発明に係る水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置は、前記膜モジュールの一次側または二次側から所定の圧力の加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、前記膜モジュールの上部に取り付けられ、膜の損傷部分から漏れ出て水中を上昇してくる気泡流による振動を検出する振動検出センサと、振動検出センサで検出される振動信号を分析することにより前記膜モジュールの膜損傷を検出する振動解析処理装置とを設けた構成である。
【0009】
なお、供給する加圧空気の所定の圧力とは、膜に損傷がない場合には加圧空気が膜を通過しない膜のバブルポイント圧力未満で、かつ膜に損傷がある場合には膜の損傷部分から加圧空気が膜を通過し気泡となって水中を通過する圧力(すなわち、加圧空気の供給箇所から膜を通過した気泡がその中を上昇する水の大気への開放部分までの水圧)以上の圧力であり、適宜設定するものである。
【0010】
また、本発明に係る水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置は、前記膜モジュールの一次側または二次側に所定の圧力の加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、前記各膜モジュールにそれぞれ取り付けられ、当該膜モジュールの膜の損傷部分から水中に漏れ出る気泡流によって該当する各膜モジュールの表面に伝わってくる振動を増幅する振動増幅ユニットと、この振動増幅ユニットに取り付けられ、増幅された振動を検出する各振動検出センサと、各振動検出センサで検出される振動信号を個別的に選択し、当該振動信号を分析することにより前記膜モジュールの膜損傷を検出する振動解析処理装置とを設けた構成である。
【0011】
(2) また、本発明に係る水処理用ろ過システムの膜損傷検出方法は、前記膜モジュールの一次側または二次側に所定の圧力の加圧空気を供給する段階と、前記膜モジュールの上部に振動検出センサを取り付け、当該各膜モジュールを構成する膜の損傷部分から漏れ出る気泡流によって膜モジュールの表面に伝わってくる振動を検出する段階と、振動検出センサで検出される振動信号(生データ)または当該振動信号のフィルタリング処理データから歪度や尖度を解析し、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断する段階とを有する方法である。
【0012】
さらに、以上のような膜損傷検出方法に新たに、前記フィルタリング処理データに基づいてフーリエ解析を行い、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断する段階を追加してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部から膜モジュールの振動を検出し、膜モジュールを構成する膜の膜損傷の程度を容易に検出できる水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置及び膜損傷検出方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る膜損傷検出装置を適用した水処理用ろ過システムの全体構成図である。
この水処理用ろ過システムは、複数の膜モジュール(フィルタエレメント)11〜1nと、各膜モジュール11〜1nの一次側となる一端側に接続され、当該各膜モジュール11〜1nに被処理水である原水を供給する原水供給用配管2と、前述した各膜モジュール11〜1nの二次側となる他端側に接続され、各膜モジュール11〜1nで浄化された処理水を配水する処理水用配管3とで構成される。なお、図1において、1aは後記する多数の中空糸12,…で構成される膜を模式的に表している。
【0015】
各膜モジュール11〜1nは、図2に示すようにハウジング11内に、微孔を有し下端は封止され上端は開口されている多数の中空糸12,…が上下方向に収納されたものである。中空糸12,…の両端部はハウジングに固定された樹脂製の下部隔壁13および上部隔壁14により結束されており、下部隔壁13には原水が流入するための貫通孔15が開けられている。ハウジング11の下部(膜モジュール一次側)には原水供給用配管2が接続され、上部(膜モジュール二次側)には処理水用配管3が接続されている。なお、各膜モジュールユニット11〜1nとしては、図2に示す構成に限定されるものでなく、従来から公知の種々の水処理用膜モジュールを使用するものである。
【0016】
前述した水処理用ろ過システムに適用する膜損傷検出装置は、各膜モジュール11〜1nの上部にそれぞれ取り付けられ、各膜モジュール11〜1nの表面に伝わる振動を検出する振動検出センサ211〜21nと、各振動検出センサ211〜21nで検出された振動信号に基づいて振動解析処理を実施し、個別に各膜モジュール11〜1nの損傷を検出する振動解析処理装置22とが設けられている。この振動解析処理装置22は操作監視部23と振動解析部24とから構成されている。
【0017】
25はエアを供給する空気供給用配管、26は洗浄時に洗浄排水やエアスクラビング用空気を排出するための排出管であり、クロスフロー方式でろ過する場合は分岐して循環水の戻し配管としても使用できる。また、41は膜損傷検出時に各膜モジュール11〜1nの一次側の原水を排出するドレン弁、42は処理水用配管3内の空気を自動的に抜き取る自動空気抜き弁である。そして、各配管2,3,25,26の入側や出側にはそれぞれバルブ27,28,29,30が設置されている。
【0018】
各振動検出センサ211〜21nとしては、加速度センサが使用され、各膜モジュール11〜1n上部に直接ネジ止め、磁石又は接着剤等によって取り付けられる。
【0019】
また、各膜モジュール11〜1nの上部に振動検出センサ211〜21nを取り付けるが、例えば各膜モジュール11〜1nの上部に図3(a),(b)に示すような振動増幅ユニット31を介して取り付けてもよい。なお、図3(a)は振動増幅ユニット31の側面図、同図(b)は振動増幅ユニット31の上面図である。
【0020】
この振動増幅ユニット31は、例えば円筒形状の外形を有し、下側(膜モジュール側)から上側方向に、下部フランジ32、振動伝播能の低いゴム系の接着剤33、金網34,例えば4mmφ程度の中空パイプ35、振動伝播能の低いゴム系の接着剤36及び下部フランジ37の順序で積層された構成である。
【0021】
前記中空パイプ35の先端部は振動増幅ユニット31の外輪側ないし金網34の外輪側に接触しないように配置され、かつ、後端部には各振動検出センサ211〜21nを設置するための取付用ビス38が取り付けられている。また、中空パイプ35の外側は必要に応じて金網34に溶接可能であれば、溶接付けすることも可能である。
【0022】
各膜モジュール11〜1nの上部に以上のような振動増幅ユニット31を取り付けることにより、外部からの振動ノイズを遮断するだけでなく、本来の膜損傷を検出する空気だまりを増進させ、より振動を喚起する働きを有する。
【0023】
各振動検出センサ211〜21nの出力端は、伝送ライン39を介して振動解析部24に接続されている。なお、通常、各振動検出センサ211〜21nからはアナログ的な振動信号を出力させているが、ディジタル的な振動信号を出力する構成のものであってもよい。
【0024】
前記振動解析部24は、図4に示すように構成されている。すなわち、振動解析部24は、各振動検出センサ211〜21nの振動信号を取り込む信号入力ポート2411〜241n、所定のシーケンスプログラムデータを記憶するプログラムデータ記憶部242、信号入力ポート2411〜241nから入力される振動信号データを含む必要なデータを記憶するデータベース243及び振動解析処理を実行するCPUで構成される振動解析処理部244等から構成される。
【0025】
データベース243は、損傷判定用データ記憶領域243a、生データ記憶領域243b、フィルタ処理データ記憶領域243c、解析データ記憶領域243d、損傷判定結果データ記憶領域243eその他必要なデータを記憶する領域で構成されている。損傷判定用データ記憶領域243aには、過去の経験、実験の積み重ね等から中空糸膜の部分破断、完全破断等によって生じる振動信号の歪度、尖度、周波数その他必要な損傷判定用データが記憶されている。なお、振動信号の膜損傷にあっては、前述する損傷判定用データのうち、一種類又は複数の組合せデータを用いて判定する場合もある。生データ記憶領域243bには、信号入力ポート2411〜241nから取り込んだ各膜モジュール11〜1n毎の時系列的な振動信号が記憶される。フィルタ処理データ記憶領域243cには、各膜モジュール11〜1n毎の振動信号をフィルタリング処理したフィルタリング処理データが記憶される。また、解析データ記憶領域243dには、各膜モジュール11〜1nごとの振動信号を解析して得られる歪度、尖度、周波数その他の必要なデータが記憶される。さらに、損傷判定結果データ記憶領域243eには各膜モジュール11〜1nごとの判定結果データが記憶される。
【0026】
前記振動解析処理部244としては、プログラムデータ記憶部242のシーケンスプログラムデータに基づいて所定の振動解析処理を実行する。機能的には、所定の周期(例えば1日、1週間或いは2週間)ごとに信号入力ポート2411〜241nを個別的に選択し、所定の時間にわたって各振動検出センサ211〜21nで検出される振動信号を取り込んで生データ記憶領域243bに記憶するセンサ選択データ収集手段244Aと、このセンサ選択データ収集手段244Aで取り込んだ生データまたはフィルタリング処理された振動信号から歪度、尖度等の膜損傷傾向分析データを取得する損傷傾向分析手段244Bと、フィルタリング処理された振動信号に対して高速フーリエ解析(FFT)処理を実行し、精度の高い周波数解析を行うフーリエ解析手段244Cと、これら振動傾向解析手段244B及びフーリエ解析手段244Cの何れか一方又は両方によって得られる例えば歪度、尖度、周波数等のデータと損傷判定用データ記憶領域243aに記憶される損傷判定用データとを比較し、各膜モジュール11〜1nの一部破断や完全破断等を判断する損傷判断手段244Dと、操作監視部23との間でデータのやり取りを行うデータ送受信手段244Eとが設けられている。
【0027】
なお、振動傾向解析手段244Bは、振動信号の歪度及び尖度から膜損傷傾向を把握し、膜損傷の程度及び異常の判断を行うときに有効である。また、フーリエ解析手段224Cは、振動信号の高速フーリエ解析を実行し、膜損傷の詳細分析を行うときに有効である。
【0028】
前記操作監視部23は、振動測定開始指令を含むデータ要求指令や必要な制御指令を入力し振動解析部24に送出するキーボード,マウスなどの入力部、ディスプレィ等の表示部、振動解析部24から受け取ったデータを一時保存するメモリ等で構成される。なお、振動測定開始指令には特定の振動検出センサからの振動だけを取り込むためのセンサ指定情報を含めることも可能である。また、操作監視部23は所定の周期ごとに自動的に振動測定開始指令を送出するが、オペレータによる任意の判断のもとに振動測定開始指令を出力することも可能である。
【0029】
次に、以上のような水処理用ろ過システムを含む膜損傷検出装置の動作及び本発明に係る膜損傷検出方法の作用について説明する。
【0030】
(1) 通常の浄水処理について。
【0031】
a) 加圧空気を送り込むバルブ30及び排水排気用バルブ29を閉じた後、バルブ27及びバルブ28を開に設定する。この状態において、原水を原水供給用配管2を通して各膜モジュール11〜1nに送り込む。
【0032】
b) 各膜モジュール11〜1nでは、被処理水である原水は各中空糸12,…の微孔を通って流れるとき、不純物が取り除かれ浄化される。
【0033】
c) 各膜モジュール11〜1nから流出した処理水は処理水用配管3を通って外部の適宜な設備や施設等に配水される。
【0034】
(2) 膜損傷検出処理について。
【0035】
振動測定開始指令に先立ち、オペレータの操作指令のもと、或いは周期的に操作監視部23又は他の監視制御部(図示せず)からバルブ開閉信号を送出し、水処理用ろ過システムを膜損傷検出状態に設定する。つまり、バルブ27を閉じて原水を遮断した後、バルブ29を開とし、さらに、ドレン弁41を所定時間T1(ほぼ30秒)開とし、各膜モジュール11〜1nの一次側及び原水を排水し、ドレン弁41排水排気用バルブ29を閉じる。しかる後、操作監視部23からの振動測定開始指令とともに、バルブ30を所定時間T2開とし、空気供給用配管25に所定の圧力の加圧空気を送り込む。これにより、各膜モジュール11〜1nの中空糸膜に損傷があれば、その部分から加圧空気が漏出し二次側に気泡流が生じる。
【0036】
この膜損傷検出処理は逆流洗浄やエアスクラビングなどの膜の洗浄時に併せて行ってもよい。
【0037】
膜損傷検出処理を行う場合、膜モジュールの加圧空気を供給する側の反対側(一次側に加圧空気を供給する場合は二次側)には水が入った状態とする。膜の損傷部分から漏出した加圧空気が水中を気泡流となって上昇するような条件であれば、膜モジュールの一次側または二次側のどちら側から加圧空気を供給しても良い。
【0038】
振動解析部24の振動解析処理部244は、操作監視部23から振動測定開始指令を受け取ると、プログラムデータ記憶部242のシーケンスプログラムデータに基づいて図5に示す一連の振動解析処理を実行する。
【0039】
すなわち、振動解析処理部244は、データベース223内の不要データをクリアするなどの初期化処理を行った後(S1)、適宜な記憶手段の2つのカウンタメモリ(図示せず)にそれぞれi=1(センサ211に対応する)、t=0を設定し(S2,S3)、信号入力ポート2211を選択し、膜モジュール11に設置された振動検出センサ211で検出される振動信号を取り込んでデータベース243の生データ記憶領域233bに時系列的に記憶するとともに(S4)、データ送受信手段244Eを介して操作監視部23に送る(S5)。そして、所定時間t=T(t<T)経過するまで振動検出センサ211で検出された振動信号を収集し記憶する(S4〜S6)。
【0040】
また、振動解析処理部244は、フィルタリング処理を行うか否かを判断し(S7)、フィルタリング処理すると判断された場合にはフィルタリング処理を実行し(S8)、生データである振動信号に重畳されるノイズ成分等を除去したフィルタリング処理データを取得し、同様にデータベース243のフィルタ処理データ領域243cに記憶するとともに、データ送受信手段244Eを介して操作監視部23に送る(S9)。これら一連の処理ステップS2〜S9は図4に示すセンサ選択データ収集手段244Aに相当する。
【0041】
以上のようにして所定時間Tにわたって振動検出センサ211に関する振動信号を収集した後、この時系列的な振動信号(生データ)、フィルタリング処理データについて歪度や尖度等を取得する膜損傷傾向分析処理を実施し(S10)、デーベース243の解析データ記憶領域243dに記憶するとともに、データ送受信手段244Eを通して操作監視部23の表示部に表示する(S11)。図6は膜損傷傾向分析データの一表示例を示す図である。このステップS10は図4に示す損傷傾向分析手段244Bに相当する。
【0042】
従って、監視員は、図6に示す膜損傷傾向分析データ,例えば歪度や尖度等から膜損傷の程度を確認することができる。
【0043】
さらに、振動解析処理部244は、分析処理によって得られた振動信号の歪度や尖度の何れか一方又は両方とデータベース243の記憶領域243aに記憶される損傷判定用データとを比較し、分析歪度や分析尖度が膜損傷判定用データを超えているか否かに応じ、膜モジュール11の各中空糸を形成する中空糸膜の損傷の程度を判断し(S12)、解析結果データとして解析結果データ記憶領域243eに記憶し、かつ、操作監視部23に送信する(S13)。これらステップS12,S13は図4に示す損傷判断手段244Dに相当する。
【0044】
次に、精密解析を行うか否かを判断し(S14)、精密解析を行うと判断された場合にはフィルタリング処理された振動信号から高速フーリエ解析処理を実行し、精度の高い周波数解析処理を実行し(S15)、その膜モジュール11に関するフーリエ解析結果をデーベース243の解析結果データ記憶領域243eに記憶し、かつ、操作監視部23に送る(S16)。なお、図7は高速フーリエ解析処理によって得られる加速度と周波数との解析結果を示す図である。また、監視員は、周波数解析結果を含めて操作監視部23の表示部に表示し、例えば図7に示すように通常時の振動周波数と異なる周波数領域で加速度変化が生じているとき、膜損傷を含む完全破断等の評価を決定してもよい。これらステップS14〜S16は図4に示すフーリエ解析手段244に相当する。
【0045】
なお、予め膜モジュール11〜1nの膜損傷の程度を判断てきる加速度と周波数との関係を規定する損傷判定用データをデータ記憶領域243aに記憶し、この損傷判定用データとフーリエ解析結果データとを比較し、自動的に膜損傷の程度を判断し、操作監視部23の表示部に表示してもよい。この処理は図4に示す損傷判断手段244Dに相当する。
【0046】
引き続き、処理継続か否かを判断し(S17)、処理継続する場合には該当カウンタメモリに+1をインクリメントし(S18)、ステップS3に移行し、膜モジュール12に設置された振動検出センサ212で検出される振動信号を取り込み、前述した同様の処理を繰り返し実行し、当該膜モジュール12の膜損傷の程度を判断する。
【0047】
従って、以上のような実施の形態によれば、各膜モジュール11〜1nに振動検出センサ211〜21nを取り付け、各振動検出センサ211〜21nで検出される振動信号から各膜モジュール11〜1nの膜損傷を検出するので、従来のように膜モジュールの一部を開放し膜損傷検出に必要な検出要素を取り付けるなどの煩わしさがなくなり、また膜モジュールの性能に影響を与えるような損傷もなくなる。
【0048】
また、各膜モジュール11〜1n上部に振動検出センサ211〜21nを取り付けるに当たり、前記各膜モジュール11〜1nの上部に当該各膜モジュール11〜1nから流れだす気泡流によって表面に伝わってくる振動を増幅する振動増幅ユニット31を取り付け、これら各振動増幅ユニット31に振動検出センサ211〜21nを取り付ける構成とすれば、外部のノイズを遮断できるだけでなく、本来の膜損傷を検出するためのエアだまりを増進させ、より増幅された振動を検出でき、各膜モジュール11〜1nの膜損傷能を高めることができる。
【0049】
また、振動検出センサ211〜21nで検出される振動信号(生データ)をフィルタリング処理することにより、振動信号に重畳されるノイズ成分を除去でき、振動信号に対する高い振動分析を実行できる。
【0050】
さらに、上記実施の形態は、振動信号(生データ)又はフィルタリングデータから振動の歪度や尖度を分析し振動傾向を評価するので、膜モジュール11〜1nの膜損傷の程度の判断に役立つ。また、振動傾向を評価するだけでなく、フィルタリング処理データに基づいてフーリエ分析を実施し、正常時の振動周波数とは異なる周波数を確実に解析でき、膜モジュール11〜1nの膜損傷を確実に検出することができる。
【0051】
さらに、各膜モジュール11〜1n上部に常時振動検出センサ211〜21nを取り付け、一定周期または適宜な時期に振動検出センサ211〜21nで検出される振動信号を分析することから、水処理用ろ過装置の稼動時に僅かな時間を利用し、リアルタイムに振動を分析でき、不完全処理の状態,ひいては未処理水を配水するといった問題を大きく低減できる。
【0052】
(その他の実施の形態)
上記実施の形態では、全ての膜モジュール11〜1nの膜損傷を検出するようにしたが、例えば特定の1つ以上の膜モジュールを指定し、該当する膜モジュールの膜損傷だけを検出してもよい。
【0053】
また、図1に示すように監視センタ等にデータ収集サーバ43を設置し、専用回線又はインタネットのネットワーク44を介して診断解析処理装置22のデータ伝送手段224Eに接続し、膜モジュール11〜1nの膜損傷検出信号だけでなく、水処理用施設に関する種々の設備稼働情報等を収集し、総合的に監視する形態としてもよい。
【0054】
さらに、振動検出センサ211〜21nの信頼性という観点から、周期的に通常運転時の振動係数を検出し、必要に応じて振動信号に経年変化による振動検出センサ211〜21nの振動係数の変化分を補正し、的確な振動信号を得る構成としてもよい。
【0055】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る膜損傷検出装置の一実施の形態を適用した水処理用ろ過装置の全体構成図。
【図2】図1に示す水処理用ろ過装置に組み込む膜モジュールの概略構成図。
【図3】膜モジュール上部と振動検出センサとの間に配置する振動増幅ユニットの側面図及び正面図。
【図4】図1に示す振動解析処理装置の一実施形態を説明する構成図。
【図5】本発明に係る膜損傷検出装置の動作及び膜損傷検出方法を説明する処理手順図。
【図6】振動の傾向分析によって得られた尖度を示す図。
【図7】加速度と振動周波数との関係を示す図。
【符号の説明】
【0057】
1〜1n…膜モジュール(フィルタエレメント)、1a…膜、2…原水供給用配管、3…処理水用配管、11…ハウジング、12…中空糸、13…下部隔壁、14…上部隔壁、5…貫通孔、211〜21n…振動検出センサ、22…振動解析処理装置、23…操作監視部、24…振動解析部、25…空気供給用配管、26…戻水排出用配管、27〜30…バルブ、31…振動増幅ユニット、39…伝送ライン、41…ドレン弁、42…自動空気抜き弁、43…データ収集サーバ、44…ネットワーク、243…データベース、244…振動解析処理部、244A…センサ選択データ収集手段、244B…振動傾向解析手段、244C…フーリエ解析手段、224D…損傷判断手段、224E…データ送受信手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜モジュールに原水を供給し、前記膜モジュールで浄化された処理水を配水する水処理用ろ過システムにおいて、
前記膜モジュールの一次側または二次側に所定圧力の加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、
前記膜モジュールの上部に取り付けられ、膜の損傷部分から漏れ出て水中を上昇してくる気泡流による振動を検出する振動検出センサと、
各振動検出センサで検出される振動信号を個別的に選択し、当該振動信号を分析することにより前記膜モジュールの膜損傷を検出する振動解析処理装置とを備えたことを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置。
【請求項2】
膜モジュールに原水を供給し、前記膜モジュールで浄化された処理水を配水する水処理用ろ過システムにおいて、
前記膜モジュールの一次側または二次側に所定圧力の加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、
前記膜モジュールの上部に取り付けられ、膜の損傷部分から漏れ出て水中を上昇してくる気泡流によって膜モジュールの表面に伝わってくる振動を増幅する振動増幅ユニットと、
各振動増幅ユニットに取り付けられ、増幅された振動を検出する振動検出センサと、
この振動検出センサで検出される振動信号を分析することにより前記膜モジュールの膜損傷を検出する振動解析処理装置とを備えたことを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置において、
前記振動解析処理装置は、振動検出センサで検出される振動信号(生データ)及び当該振動信号をフィルタリング処理したフィルタリング処理データの何れか一方または両方を用いて振動分析処理を行うことを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置において、
前記振動解析処理装置は、振動信号(生データ)または当該振動信号のフィルタリング処理データから歪度や尖度を分析し、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断する損傷傾向分析手段と、前記フィルタリング処理データに基づいてフーリエ解析を行い、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断するフーリエ解析手段とを設けたことを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置。
【請求項5】
請求項1,2及び4の何れか一項に記載の水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置において、
前記振動検出センサに加速度センサを用いた場合、
前記フーリエ解析手段としては、前記膜モジュールの膜損傷によって生じる正常時とは異なる加速度及び振動周波数から当該膜モジュールの膜損傷の程度を判断することを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出装置。
【請求項6】
膜モジュールに原水を供給し、前記膜モジュールで浄化された処理水を配水する水処理用ろ過システムにおいて、
前記膜モジュールの一次側または二次側に所定の圧力の加圧空気を送り込む段階と、
前記膜モジュールの上部に振動検出センサを取り付け、当該膜モジュールを構成する膜から水中に漏れ出る気泡流によって膜モジュールの表面に伝わってくる振動を検出する段階と、
前記振動検出センサで検出される振動信号(生データ)または当該振動信号のフィルタリング処理データから歪度や尖度を分析し、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断する段階とを有することを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水処理用ろ過システムの膜損傷検出方法において、
前記フィルタリング処理データに基づいてフーリエ解析を行い、前記膜モジュールの膜損傷の程度を判断する段階をさらに追加したことを特徴とする水処理用ろ過システムの膜損傷検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−240373(P2007−240373A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64373(P2006−64373)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】