説明

水処理装置および水処理方法

【課題】金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、発生する汚泥量を低減する水処理装置を提供する。
【解決手段】金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、処理対象の水のフェントン処理を行うフェントン処理手段と、フェントン処理が行われたフェントン処理水の汚泥の固液分離を行う固液分離手段と、固液分離された汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに処理対象の水に返送する返送手段と、を有する水処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」と称する場合がある)の製造工場における水系分散体の製造工程では、着色成分等を含有する水が発生する。これらの水には、着色成分である顔料、染料や、界面活性剤等が含まれていることがあるため、固形分濃度とともに化学的酸素要求量(COD)が大きく、このままの状態で河川や下水道等に排出することはできない。このため、これらの水は、工場内の水処理施設にて処理された後に再利用されたり、外部に排出される。
【0003】
特に、近年、トナーの製造方法として、従来の混練粉砕法に代わり、乳化重合法によるトナーを始め、懸濁重合法、溶解懸濁法などの各種化学的トナー製法が開発され、実施されている。例えば乳化重合法では、結着樹脂の重合性単量体を乳化重合させて形成された樹脂分散液と着色剤、離型剤、必要に応じて帯電制御剤等を界面活性剤の存在下、水系溶媒中で撹拌、混合しながら、凝集、加熱融合させ、所定の粒径、粒度分布、形状、構造を有する着色樹脂粒子であるトナー粒子を作製する。
【0004】
このようなトナーの製造の凝集工程等において、金属イオンと配位結合を形成するエチレンジアミンジコハク酸などの有機化合物(以下、「キレート化剤」と呼ぶ場合がある。)が用いられることがある。このため、トナーの製造工程で、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含むキレート化剤含有溶液が発生することがある。
【0005】
通常、一般の水処理としては、凝集沈殿処理が利用される場合が多い。凝集沈殿処理とは、五訂公害防止の技術と法規水質編(通商産業省環境立地局監修、平成13年発行)141〜153ページに記載されているように、水処理の分野において最も一般的に用いられている固液分離操作であり、広く用いられている。凝集沈殿処理は、原水に凝集剤を添加することによりフロック(凝集により生じた粗大粒子)を生じさせ、水とフロックとの比重差により、フロックを沈殿させて固液分離を行う処理方法である。こうして固体として分離されたフロックは、産業廃棄物の汚泥として処理され、固体を分離した水は、化学的酸素要求量を低減し、再利用されたり、河川や下水道等へ排出されている。
【0006】
また、水中の有機物を分解する方法として、フェントン処理が知られている。フェントン処理は、過酸化水素と2価の鉄イオンとの反応により生成したヒドロキシラジカルにより、有機物を酸化分解する方法である。
【0007】
例えば、特許文献1には、工場や畜産農場等から発生する産業廃水のCOD及び色度を安価に処理することを目的とした、鉄粉入りの反応槽中に原水のCOD濃度に対して酸素量として1/20〜1倍の濃度となるように酸化剤を添加し、撹拌する、鉄粉を用いた廃水処理方法が記載され、反応槽内に沈殿室を設置するかまたは反応槽の後工程に沈殿槽を設置し、沈殿した鉄粉を反応槽に返送することが記載されている。
【0008】
特許文献2には、鉄化合物の循環使用を可能にして、少ない鉄化合物で効率よく有機性排水を処理することを目的とした、有機物を含む排水を鉄塩と過酸化水素を用いてフェントン処理する方法において、フェントン処理を行う反応槽内に電極を設けて、Fe3+を電気化学的に還元しつつフェントン処理を行う排水処理方法が記載されている。
【0009】
特許文献3には、環境への負担を少なくすることを目的とした、難分解性有機物を含有する原液に酸化剤と鉄塩とを添加して難分解性有機物を分解するとともに、使用済みの鉄塩を再生し、鉄塩として再利用する難分解性有機物含有液の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−300083号公報
【特許文献2】特開2004−181329号公報
【特許文献3】特開2004−243162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、発生する汚泥量を低減する水処理装置および水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、前記処理対象の水のフェントン処理を行うフェントン処理手段と、前記フェントン処理が行われたフェントン処理水の汚泥の固液分離を行う固液分離手段と、前記固液分離された汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに前記処理対象の水に返送する返送手段と、を有する水処理装置である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記固液分離手段の前段側に、前記フェントン処理水のpH調整を行うpH調整手段を有する、請求項1に記載の水処理装置である。
【0014】
請求項3に係る発明は、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、前記処理対象の水のフェントン処理を行うフェントン処理工程と、前記フェントン処理を行ったフェントン処理水の汚泥の固液分離を行う固液分離工程と、前記固液分離した汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに前記処理対象の水に返送する返送工程と、を含む水処理方法である。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記固液分離工程の前段側に、前記フェントン処理水のpH調整を行うpH調整工程を含む、請求項3に記載の水処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によると、固液分離された汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに処理対象の水に返送する返送手段を有さない場合に比較して、発生する汚泥量を低減する水処理装置を提供する。
【0017】
請求項2に係る発明によると、フェントン処理水のpH調整を行うpH調整手段を有さない場合に比較して、固液分離手段における汚泥の分離性が向上する水処理装置を提供する。
【0018】
請求項3に係る発明によると、固液分離した汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに処理対象の水に返送する返送工程を含まない場合に比較して、発生する汚泥量を低減する水処理方法を提供する。
【0019】
請求項4に係る発明によると、フェントン処理水のpH調整を行うpH調整工程を含まない場合に比較して、固液分離工程における汚泥の分離性が向上する水処理方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
フェントン反応を効率化するために、フェントン処理において生成した汚泥について、電気処理や還元剤添加処理によって汚泥に含まれる第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元し、フェントン反応の触媒として再利用することが知られているが、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物(キレート化剤)を含む水をフェントン処理する場合、汚泥を還元して生成した第一鉄イオンはその一部または全量がキレート化剤と配位結合してしまい、フェントン反応の触媒として有効利用されないことがある。このため、無駄な還元処理を行うことになり、用いる薬剤量が増加し、その結果として発生する汚泥量が増加し、またコスト増加の要因にもなる。
【0023】
本発明者らは、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、フェントン処理を行ったフェントン処理水の汚泥の固液分離を行い、固液分離した汚泥の少なくとも一部を還元処理せずにそのまま処理対象の水に返送することにより、使用する薬剤量または発生する汚泥量が低減されることを見出した。汚泥の還元処理を行わなくてよいため、還元に必要な設備投資が抑制される。また、得られる処理水の水質が向上する。
【0024】
図1には本実施形態に係る水処理を行うための水処理装置の一例の概略構成を示す。本実施形態に係る水処理装置1は、フェントン処理手段としての第一フェントン反応槽12および第二フェントン反応槽14と、固液分離手段としての固液分離槽18とを有する。第一フェントン反応槽12の前段側には、原水を貯留するための原水槽10を有してもよく、第一フェントン反応槽12および第二フェントン反応槽14の後段側で固液分離槽18の前段側にはpH調整手段としてのpH調整槽16を有してもよい。フェントン処理手段としてのフェントン反応槽は、一槽で構成してもよく、二槽以上で構成してもよい。
【0025】
水処理装置1において、原水槽10の入口には配管等が接続され、原水槽10の出口と第一フェントン反応槽12の入口、第一フェントン反応槽12の出口と第二フェントン反応槽14の入口、第二フェントン反応槽14の出口とpH調整槽16の入口、pH調整槽16の出口と固液分離槽18の入口はそれぞれ配管等により接続され、固液分離槽18の出口には配管等が接続されている。固液分離槽18の下部と第一フェントン反応槽12とは、返送手段としての返送配管20により接続されている。第一フェントン反応槽12およびpH調整槽16には、pH測定手段としてpHメータ等のpH測定装置22,24がそれぞれ設置されている。第一フェントン反応槽12、第二フェントン反応槽14およびpH調整槽16には撹拌手段として撹拌羽根等を有する撹拌装置が設置されてもよい。固液分離槽18の後段側に、凝集処理手段としての無機系凝集剤添加槽、高分子凝集剤添加槽および沈殿槽等を備える凝集処理装置、生物処理手段としての生物処理装置、活性炭吸着処理手段としての活性炭吸着処理装置等を有してもよい。
【0026】
本実施形態に係る水処理装置1の動作および水処理方法を、図1を参照して説明する。
【0027】
処理対象の水であるキレート化剤を含む原水は、原水槽10等から配管等を通して第一フェントン反応槽12へ送液される。第一フェントン反応槽12において、予め定めた量の第一鉄イオン触媒(2価の鉄塩)が添加配管等を通して原水に添加される。必要に応じてpH調整剤が添加されて予め定めた範囲にpH調整されてもよい。第一鉄イオン触媒が添加された原水は、配管等を通して第二フェントン反応槽14へ送液される。第二フェントン反応槽14において、予め定めた量の過酸化水素が添加配管等を通して添加される。第二フェントン反応槽14において、第一鉄イオン触媒および過酸化水素を用いてフェントン処理が行われる(フェントン処理工程)。フェントン処理工程において、第一鉄イオン(Fe2+)が過酸化水素と反応し、ヒドロキシラジカルが生成し、生成したヒドロキシラジカルにより、原水中のキレート化剤等の有機物が酸化分解される。
【0028】
キレート化剤としては、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、金属イオンと配位結合を形成する酸基を2つ以上6つ以下有する有機化合物が挙げられる。酸基としては、カルボキシル基(−COOH基)、スルホ基(−SOH)、ホスホ基(−P(=O)(OH))等が挙げられる。このようなキレート化剤としては、例えば、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸(HIDA)、ジカルボキシメチルグルタル酸テトラナトリウム塩(GLDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ヒドロキシエチルエチレンジアミンテトラ酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、エチレンジアミンジコハク酸(EDDS)、L−グルタミン酸ジ酢酸(GLDA)、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸(HIDS)、L−アスパラギン酸−N,N−ジ酢酸(ASDA)、メチルグリシジンジ酢酸(MGDA)、ヘプトグルコン酸(GH−NA)、タウリン−N,N−ジ酢酸等のアミノ多価カルボン酸化合物、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)等の多価ホスホン酸化合物等、あるいはそれらのナトリウム等のアルカリ金属塩、水和物等が挙げられる。キレート化剤は水溶性であることが好ましい。
【0029】
第一フェントン反応槽12において、原水は酸等のpH調整剤により例えばpH2以上3以下の酸性に調整される。
【0030】
2価の鉄塩としては、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄などが挙げられる。
【0031】
2価の鉄塩の添加量は、例えば、処理対象の原水に対して250mg/L以上1,000mg/L以下の範囲である。過酸化水素の添加量は、例えば、処理対象の原水に対して2,500mg/L以上10,000mg/L以下の範囲である。
【0032】
本実施形態において、処理対象である原水中のキレート化剤の量が、100mg/L以上1,000mg/L以下の範囲である場合に、本実施形態に係る水処理装置および水処理方法が好適に適用される。原水中のキレート化剤の量が100mg/L未満の場合は、過度の反応によりフェントン処理の後段の凝集処理における凝集沈殿性が悪くなる場合があり、1,000mg/Lを超えると、フェントン反応による分解が不足する場合がある。
【0033】
フェントン処理が行われたフェントン処理水は、pH調整槽16へ送液され、pH調整槽16においてpH調整剤が添加されてpH調整されてもよい(pH調整工程)。例えばpH5以上10以下の範囲にpH調整されることにより、汚泥の凝集により後段側の固液分離工程における汚泥の分離性が向上する。また、pH調整剤が添加されてpH調整されることにより、フェントン処理水中の残留過酸化水素が還元処理される。
【0034】
pH調整されたpH調整液は、固液分離槽18へ送液される。固液分離槽18において、フェントン処理によって生成した汚泥と処理水とに固液分離される(固液分離工程)。
【0035】
固液分離手段としては、自然沈降による固液分離槽の他に、例えば、遠心分離槽等が挙げられる。
【0036】
固液分離された汚泥の少なくとも一部は、還元処理されずにそのまま、返送配管20等を通して第一フェントン反応槽12へ返送される(返送工程)。固液分離された汚泥固液分離された汚泥の少なくとも一部は、還元処理されずにそのまま、処理対象の原水へ返送されればよく、例えば、原水槽10へ返送されてもよいし、原水槽10と第一フェントン反応槽12とを接続する配管等へ返送されてもよい。
【0037】
生成された汚泥には水酸化鉄(Fe(OH))が主成分として含まれ、第二鉄イオン(Fe3+)が含まれているため、汚泥を還元処理せずにそのまま処理対象の原水に返送することで、第二鉄イオンは原水中のキレート化剤と配位結合される。カルボキシル基(−COOH基)、スルホ基(−SOH)、ホスホ基(−P(=O)(OH))等の酸基を有するキレート化剤、特にEDTA等のアミノ多価カルボン酸化合物は、第一鉄イオン(Fe2+)よりも第二鉄イオン(Fe3+)と配位しやすいためと考えられる。返送される第二鉄イオンの量が原水中のキレート化剤の量よりも多い場合は、余剰分の第二鉄イオンはフェントン処理の触媒として用いられる。
【0038】
ここでフェントン処理の触媒としては第二鉄イオンよりも第一鉄イオンの方がフェントン反応の反応効率が良好であることがわかっており、返送する汚泥の量が多く、余剰分の第二鉄イオンが多くなればフェントン処理の反応効率が低下し、COD−Mn除去率などが低下する傾向にある。このため、原水中のキレート化剤との配位結合に必要な第二鉄イオンを、返送汚泥に含まれる第二鉄イオンで補い、フェントン処理に必要な触媒としては第一鉄イオンを用いることが好ましい。返送する汚泥量は、汚泥に含まれる第二鉄イオンの量として、キレート化剤に対してモル比で0.67以上1.33以下の量であることが好ましい。
【0039】
固液分離槽18において固液分離された処理水は、必要に応じて水処理装置1の後段側の凝集処理装置へ送液され、凝集剤が添加されてフロックを成長させ、凝集処理が行われる(凝集処理工程)。凝集処理装置は、凝集処理を行うことができるものであればよく、特に制限はない。例えば、凝集処理装置は、無機系凝集剤添加槽、高分子凝集剤添加槽、沈殿槽を備える。凝集処理は、例えば、無機系凝集剤添加槽における、処理水への無機系凝集剤の添加および凝集反応を行い、凝集物を得る無機系凝集剤添加工程(凝集反応工程)と、高分子凝集剤添加槽における、凝集反応した凝集反応液への高分子凝集剤の添加および凝集物からフロックを形成するフロック形成工程と、沈殿槽における、凝集沈殿によりフロックを含む汚泥スラリと分離液とに分離する固液分離工程と、を含む。なお、凝集沈殿処理の代わりに加圧浮上処理等による固液分離処理を行ってもよい。
【0040】
凝集処理工程において凝集処理された凝集処理水は、再利用あるいは河川等に放流される。必要に応じて、凝集処理の後に、生物処理、活性炭吸着処理、砂ろ過処理等が行われてもよい。
【0041】
例えば、沈殿槽において汚泥スラリと分離された分離液は、生物処理装置へ送液される。生物処理装置において分離液に対して生物処理が行われ、溶存有機物が除去される(生物処理工程)。生物処理では、例えば、生物処理槽で活性汚泥に生息するバクテリア等で溶存有機物が分解処理され、次の汚泥沈殿槽で自然沈降等により、活性汚泥と上澄み水に分離される。
【0042】
生物処理装置において分離された上澄み水(生物処理水)は、活性炭吸着処理装置へ送液される。活性炭吸着処理装置において上澄み水に対して活性炭吸着処理が行われ、活性炭により上澄み水に含まれるCOD成分が主に吸着除去される(活性炭吸着処理工程)。
【0043】
一方、沈殿槽において分離液と分離された汚泥スラリは、ポンプ等にて例えば汚泥濃縮装置等に送液される。汚泥濃縮装置において汚泥スラリは水分である汚泥分離液と固形分とに分離される(分離工程)。
【0044】
本発明の実施の形態に係る水処理装置および水処理方法は、キレート化剤を含む水を処理対象とするが、特に、キレート化剤を使用する静電荷像現像用トナーの製造工程から排出される水の処理に好ましく適用され、乳化重合法、乳化凝集法、懸濁重合法、溶解懸濁法などの各種化学的トナー製造方法による製造工程から排出される水の処理により好ましく適用される。乳化重合法では、結着樹脂の重合性単量体を乳化重合させて形成された樹脂分散液と着色剤、離型剤、必要に応じて帯電制御剤等を水系溶媒中で撹拌、混合しながら、凝集、加熱融合させ、所定の粒径、粒度分布、形状、構造を有する着色樹脂粒子であるトナー粒子を作製する。乳化重合法は、トナーの原材料となる樹脂粒子の製造工程と、着色剤分散液、離型剤分散液等の分散液の製造工程と、静電荷像現像用トナーの製造工程とに大きく分けられる。以下に、それぞれについて例を挙げて説明する。
【0045】
<静電荷像現像用トナー製造工程>
(樹脂粒子の製造工程)
樹脂粒子を生成するには、通常、重合性単量体と界面活性剤とを水に加え、撹拌してエマルションとする。重合性単量体エマルションが生成したら、該エマルションの好ましくは25質量%以下(すなわち、少量のエマルション)と、遊離基開始剤とを、水相に加えて混合し、所望の反応温度で種重合を開始する。種粒子の生成後、この種粒子含有組成物にさらに残りのエマルションを追加し、所定の温度で、所定の時間、重合を続けて重合を完了し、樹脂粒子(樹脂粒子分散液)を生成させる。この樹脂粒子の製造工程から、製造工程で不要となったり、その製造工程の設備メンテナンス等にて発生した、界面活性剤、樹脂粒子等の固形分を含有する樹脂粒子分散液、界面活性剤水溶液等が排出される。樹脂粒子が生成したら、着色剤分散液、離型剤分散液等とともに凝集させて凝集体粒子とし、次にこれを融合させてトナー粒子とする。
【0046】
前記重合性単量体の種類としては、遊離基開始剤と反応しうるものであれば特に制限はない。重合性単量体の具体例としては、スチレン、パラクロロスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のビニル基を有するエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類等が挙げられ、これらの重合性単量体は重合されて、単独重合体あるいは共重合体とされる。
【0047】
また、ポリエステル類、ポリウレタン類のような樹脂を界面活性剤とともに水系媒体中でせん断し、分散させてもよい。また、樹脂粒子として、アンモニア成分を含むものも用いられる。
【0048】
樹脂粒子の製造に使用される界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤または非イオン系界面活性剤を使用すればよく、一般的にはアニオン系界面活性剤が、分散力が強く、樹脂粒子の分散に優れているため、好ましく用いられる。非イオン系界面活性剤は、前記アニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤と併用されるのが好ましい。前記界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0049】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、ラウリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油ナトリウム等の脂肪酸セッケン類;オクチルサルフェート、ラウリルサルフェート、ラウリルエーテルサルフェート、ノニルフェニルエーテルサルフェート等の硫酸エステル類;ラウリルスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリイソプロピルナフタレンスルホネート、ジブチルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホン酸ナトリウム;ナフタレンスルホネートホルマリン縮合物、モノオクチルスルホサクシネート、ジオクチルスルホサクシネート、ラウリン酸アミドスルホネート、オレイン酸アミドスルホネート等のスルホン酸塩類;ラウリルホスフェート、イソプロピルホスフェート、ノニルフェニルエーテルホスフェート等のリン酸エステル類;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸塩類;スルホコハク酸ラウリル2ナトリウム等のスルホコハク酸塩類;などが挙げられる。
【0050】
カチオン系界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン塩酸塩、ステアリルアミン塩酸塩、オレイルアミン酢酸塩、ステアリルアミン酢酸塩、ステアリルアミノプロピルアミン酢酸塩等のアミン塩類;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロライド、オレイルビスポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライド、ラウロイルアミノプロピルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ラウロイルアミノプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパークロレート、アルキルベンゼントリメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類;などが挙げられる。
【0051】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート等のアルキルエステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンオレイルアミノエーテル、ポリオキシエチレン大豆アミノエーテル、ポリオキシエチレン牛脂アミノエーテル等のアルキルアミン類;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のアルキルアミド類;ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンナタネ油エーテル等の植物油エーテル類;ラウリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のソルビタンエステルエーテル類;などが挙げられる。
【0052】
遊離基開始剤としては、特に制限はない。具体的には、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0053】
本実施形態において、樹脂粒子の大きさは、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック)で測定した体積平均粒径で、0.05μm以上1μm以下程度である。
【0054】
(着色剤分散液、離型剤分散液の製造工程)
着色剤分散液は、着色剤、界面活性剤等を、水相中で混合し、分散処理をすることによって得られる。同様にして、離型剤分散液は、離型剤、界面活性剤等を、水相中で混合し、分散処理をすることによって得られる。この着色剤分散液、離型剤分散液の製造工程から、製造工程で不要となったり、その製造工程の設備メンテナンス等にて発生した、界面活性剤、着色剤等の固形分を含有する着色剤分散液や、界面活性剤、離型剤等の固形分を含有する離型剤分散液、界面活性剤水溶液等が排出される。
【0055】
着色剤としては、例えばカーボンブラック、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン3B、ブリリアントカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ローズベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、マラカライトグリーンオキサレート、などの種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、チアジン系、アゾメチン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアゾール系などの各種染料などが挙げられる。これらの着色剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
また、着色剤分散液中の着色剤の大きさは、例えば、上記レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック)で測定した体積平均粒径で、0.05μm以上0.5μm以下程度である。
【0057】
また離型剤として働くワックスの種類としては特に制限はないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;軟化点を有するシリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス類;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャトロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス類;ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等の高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルワックス類;などが挙げられる。
【0058】
また、離型剤分散液中の離型剤の大きさは、例えば、上記レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック)で測定した体積平均粒径で、0.05μm以上0.5μm以下程度である。
【0059】
界面活性剤としては、上記樹脂粒子の製造に使用される界面活性剤と同様のものが挙げられる。
【0060】
(トナーの製造工程)
上記調製法により得られた樹脂粒子は、次のような方法でトナーの調製に用いられる。上記調製法により得られた樹脂粒子と、着色剤分散液と、離型剤分散液と、必要に応じて凝集剤と、必要に応じて帯電制御剤と、および必要に応じて他の添加剤とを混合し、得られた混合物を樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)近辺の温度、好ましくは、樹脂粒子のTg±10℃で、凝集体を生成するのに効果的な時間、例えば1時間以上8時間以下加熱して、トナー大の凝集体を生成する。次に、この凝集体懸濁液を、樹脂粒子のTgまたはそれより高い温度、好ましくは樹脂粒子のTg+40℃、例えば約60℃以上約120℃以下に加熱して合体または融合させてトナー粒子を造粒し、このトナー粒子をろ過などの手段で母液から分離して、イオン交換水などで洗浄(洗浄工程)した後、乾燥する。
【0061】
樹脂粒子は、通常トナーの結着樹脂として用いられ、トナーの固形分に対して75質量%以上98質量%以下程度トナー内に存在する。
【0062】
着色剤は、通常トナー中に、着色に効果的な量、例えばトナーの固形分に対して1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは3質量%以上10質量%以下程度存在する。
【0063】
離型剤として働くワックス類の好ましい量としては、トナーの固形分に対して、5質量%以上20質量%以下程度である。
【0064】
必要に応じて使用される凝集剤は、融合に効果的な量、例えばトナーの固形分に対して0.01質量%以上10質量%以下程度を用いればよい。使用する凝集剤としては、一価以上の電荷を有する化合物が好ましく、その化合物の具体例としては、前述のアニオン系界面活性剤類;塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸等の酸類;塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硝酸銀、硫酸銅、炭酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム等の塩類;等が挙げられるが、これらに限るものではない。好ましい凝集剤としては、硝酸等の窒素成分を有するものが挙げられる。
【0065】
また、凝集体を生成する凝集工程等において、金属イオンと配位結合を形成する有機化合物(キレート化剤)が用いられることがある。
【0066】
帯電制御剤は、帯電させるのに効果的な量、例えばトナーの固形分に対して0.1質量%以上5質量%以下で使用してもよい。適当な帯電制御剤としては、アルキルピリジニウムハロゲン化物類、重硫酸塩類、シリカ等の帯電制御剤類、アルミニウム錯体のような陰帯電制御剤等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0067】
その他必要に応じて添加剤として、無機粒子等を湿式添加してもよい。湿式添加する無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三カルシウムなど、通常トナー表面の外添剤として使用される全てのものを、イオン性界面活性剤や高分子酸、高分子塩基等で水に分散して、シリカ等の無機粒子分散液として湿式添加してもよい。
【0068】
本実施形態において使用される無機粒子の分散液中の大きさは、上記レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック)で測定した体積平均粒径で、4nm以上150nm以下程度である。
【0069】
以上のような樹脂粒子の製造工程、着色剤分散液の製造工程、離型剤分散液の製造工程、トナー製造工程等の製造工程(トナーの洗浄工程を含む)から、製造工程で不要となったり、その製造工程の設備メンテナンス等にて発生した、界面活性剤、着色剤、離型剤、無機粒子、トナー等の固形分を含有する界面活性剤水溶液、樹脂粒子分散液、着色剤分散液、離型剤分散液、無機粒子分散液、トナー分散液、装置洗浄水等の界面活性剤含有液が排出される。また、凝集体を生成する凝集工程等において、キレート化剤を用いた場合に、この製造工程で不要となったり、その製造工程の設備メンテナンス等にて発生した、キレート化剤含有溶液が発生することがある。これらの原水は原水槽等に集められ、上記水処理方法による処理が施される。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(樹脂粒子分散液の調製)
スチレン 320質量部
n−ブチルアクリレート 80質量部
アクリル酸 10質量部
ドデカンチオール 10質量部
この溶液420質量部と、非イオン性界面活性剤(三洋化成社製、ノニポール400)6質量部、およびアニオン系界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンSC)10質量部とをイオン交換水550質量部に溶解した溶液をフラスコ中に入れて分散、乳化し、10分間ゆっくりと撹拌、混合しながら、過硫酸アンモニウム4質量部を溶解したイオン交換水50質量部を投入した。その後、フラスコ内を窒素で充分に置換してから撹拌しながらオイルバスで系内が70℃になるまで加熱し、5時間そのまま乳化重合を継続し、樹脂粒子分散液を得た。
【0072】
樹脂粒子分散液で得られた樹脂粒子は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック)で樹脂粒子の体積平均粒径(D50)を測定したところ155nmであり、示差走査熱量計(島津制作所社製、DSC−50)を用いて昇温速度10℃/minで樹脂のガラス転移点を測定したところ54℃であり、分子量測定器(東ソー社製、HLC−8020)を用い、THFを溶媒として重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ33,000であった。
【0073】
(着色剤分散液の調製)
顔料 150質量部
アニオン系界面活性剤(ネオゲンSC、第一工業製薬(株)製) 20質量部
イオン交換水 400質量部
以上を混合して、アルティマイザーにて分散処理し、着色剤分散液を調製した。なお、顔料は、イエロー用としてはC.I.ピグメントイエロー74(大日精化社製)、シアン用としてはC.I.ピグメントブルー15:3(BASF社製)、マゼンタ用としてはC.I.ピグメントレッド122(大日精化社製)、ブラック用としてはカーボンブラック(キャボット社製)をそれぞれ使用した。
【0074】
(離型剤分散液の調製)
パラフィンワックス(日本精蝋(株)製、HNP0190、融点85℃)50質量部
カチオン系界面活性剤(花王(株)製、サニゾールB50) 5質量部
イオン交換水 200質量部
以上を95℃に加熱して、ホモジナイザ(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、圧力吐出型ホモジナイザで分散処理し、体積平均粒径が550nmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液を調製した。
【0075】
(静電荷像現像用トナーの調製)
[凝集粒子の調製]
樹脂粒子分散液 200質量部
着色剤分散液 30質量部
離型剤分散液 70質量部
カチオン系界面活性剤(花王(株)製、サニゾールB50) 1.5質量部
以上を丸型ステンレス製フラスコ中でホモジナイザ(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて混合し、分散した後、加熱用オイルバス中でフラスコ内を撹拌しながら48℃まで加熱した。48℃で30分間保持した後、光学顕微鏡にて観察すると平均粒径が約5μmである凝集粒子(体積:95cm)が形成されていることが確認された。凝集時に、キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(EDTA・4Na)(キレスト(株)製)1.5質量部を用いた。
【0076】
[付着粒子の調製]
調製した上記凝集粒子の分散液に、上記樹脂粒子分散液を緩やかに60質量部追加した。なお、前記樹脂粒子分散液に含まれる樹脂粒子の体積は25cmであった。そして、加熱用オイルバスの温度を50℃に上げて1時間保持した。光学顕微鏡にて観察すると、平均粒径が約5.7μmである付着粒子が形成されていることが確認された。
【0077】
その後、調製した上記付着粒子の分散液に、アニオン系界面活性剤(ネオゲンSC、第一工業製薬(株)製)3質量部を追加した後、前記ステンレス製フラスコを密閉し、磁力シールを用いて撹拌を継続しながら、105℃まで加熱し、3時間保持した。そして、冷却後、反応生成物を濾過し、イオン交換水で十分に洗浄した後、乾燥させることにより、静電荷像現像用トナーを得た。
【0078】
(処理対象水Aの組成)
処理対象水Aとは、上記静電荷像現像用トナーのようなトナー製造工程から排出される水であり、その中には、着色剤分散液、離型剤(ワックス)分散液、樹脂粒子分散液、界面活性剤水溶液、キレート化剤含有溶液等が含まれる水である。処理対象水Aの主な組成についてトナーの作製に用いた材料より、以下に示すものと推定される。また、この水の化学的酸素要求量(COD−Mn)の測定結果は1,600mg/Lであった。
アニオン系界面活性剤(ネオゲンSC、第一工業製薬(株)製) 2.0質量%
樹脂粒子 2.0質量%
着色剤 2.0質量%
ワックス(ポリワックス725、東洋ペトロライト(株)製) 1.0質量%
エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(キレスト(株)製) 0.08質量%
水 92.92質量%
【0079】
化学的酸素要求量(COD−Mn)は、JIS K 0102 17にて定められている方法で測定した。具体的には、試料に酸化剤を加え、一定の条件の下で反応させ、そのとき消費した酸化剤の量を酸素の量に換算して表す試験方法である。
【0080】
水中のキレート化剤(ここではEDTA)の含有量は、高速液体クロマトグラフ装置(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
【0081】
(前処理(汚泥生成))
次の条件で処理対象水A 1Lについてフェントン処理を行った。
FeSO・7HO :鉄分として600mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウム(NaOH)を加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは595mg/L、EDTAの含有量は2mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであった。以下の実施例では、ここで生成した汚泥を返送汚泥として、還元処理せずに処理対象水に直接投入した。
【0082】
<実施例1>
次の条件で処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。処理対象水Aへは前処理にて生成した汚泥を返送汚泥として、還元処理せずに直接投入した。処理対象水Aへ投入する総鉄量を600mg/Lとし、このうち返送汚泥投入による鉄分の割合を総鉄量の25質量%となるように、FeSO・7HOに含まれる鉄分を鉄分として450mg/L投入し、返送汚泥に含まれる鉄分を鉄分として150mg/L投入した。なお、返送汚泥に含まれる鉄分150mg/Lは、処理対象水Aのキレート化剤EDTA 800mg/Lとの配位結合に必要な鉄量に相当する。
総鉄量 :600mg/L
FeSO・7HO :鉄分として450mg/L
汚泥 :鉄分として150mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは602mg/L、EDTAの残留量は3mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
次の条件のように返送汚泥により処理対象水Aに投入される鉄分の割合を総鉄量の16.7質量%とする以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :600mg/L
FeSO・7HO :鉄分として500mg/L
汚泥 :鉄分として100mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは600mg/L、EDTA残留量は3mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち287mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,196mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0084】
<実施例3>
次の条件のように返送汚泥により処理対象水Aに投入される鉄分の割合を総鉄量の33.3質量%とする以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :600mg/L
FeSO・7HO :鉄分として400mg/L
汚泥 :鉄分として200mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは610mg/L、EDTA残留量は4mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち478mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は956mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0085】
<実施例4>
次の条件のように返送汚泥により処理対象水Aに投入される鉄分の割合を総鉄量の50質量%とする以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :600mg/L
FeSO・7HO :鉄分として300mg/L
汚泥 :鉄分として300mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは680mg/L、EDTA残留量は15mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち718mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は718mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0086】
<実施例5>
次の条件のようにする以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :550mg/L
FeSO・7HO :鉄分として450mg/L
汚泥 :鉄分として100mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは650mg/L、EDTA残留量は12mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,315mg/Lであったが、このうち239mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0087】
<実施例6>
次の条件のようにする以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :650mg/L
FeSO・7HO :鉄分として450mg/L
汚泥 :鉄分として200mg/L
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは600mg/L、EDTA残留量は3mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,555mg/Lであったが、このうち479mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0088】
<実施例7>
フェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えずに、pH調整を行わず、反応時間を1.6hとした以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。フェントン処理水にpH調整を行わなかったため固液分離せず、原水へ鉄分として150mg/L戻すためには作製したフェントン処理水全量のうち1/4に相当する125mLをそのまま原水へ戻す必要がある。この場合、図1のような連続処理では原水の反応時間(滞留時間)が減り、原水+戻り量の総量に反比例するため、反応時間を相当する1.6hとした。ろ過水のCOD−Mnは685mg/L、EDTA残留量は15mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0089】
<実施例8>
フェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH7とした以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは605mg/L、EDTA残留量は3mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例9>
フェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH10とした以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは602mg/L、EDTA残留量は3mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例10>
フェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH4とした以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは625mg/L、EDTA残留量は7mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0092】
<実施例11>
フェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH11とした以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは624mg/L、EDTA残留量は7mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0093】
<実施例12>
EDTAの代わりにEDDS(エチレンジアミンジコハク酸)を原水のCOD-Mnが1,600mg/Lとなるよう含ませた処理対象水B 500mLについてフェントン処理を行った以外は、実施例1と同様にしてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは603mg/L、EDDS残留量は4mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0094】
<比較例1>
次の条件のように返送汚泥を投入しなかった(処理対象水Aに投入される鉄分の割合を総鉄量の0質量%)以外は実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。
総鉄量 :600mg/L
FeSO・7HO :鉄分として600mg/L
汚泥 :鉄分として0mg/L(投入なし)
過酸化水素(H):6,000mg/L
pH :2.5
反応時間 :2時間
反応温度 :20℃
上記の条件により処理したフェントン処理水に水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、1時間撹拌滞留させて残留過酸化水素を分解し、No.5Aろ紙でろ過した。ろ過水のCOD−Mnは595mg/L、EDTA残留量は2mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであった。結果を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
返送汚泥を電極を使用した電気化学的な方法により還元処理した以外は、実施例1と同様にして、処理対象水A 500mLについてフェントン処理を行った。ろ過水のCOD−Mnは598mg/L、EDTA残留量は2mg/Lであった。この時の汚泥発生量は1,435mg/Lであったが、このうち359mg/Lを返送するため、実際の汚泥発生量は1,076mg/Lとなった。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例1〜12のように、固液分離した汚泥の少なくとも一部を還元処理せずにそのまま処理対象の水に返送することにより、比較例1に比べて、発生する汚泥量が低減された。また、フェントン処理水のpH調整を行った実施例1〜6、8〜11は、汚泥の分理性が向上した。還元処理を行った比較例2は、比較例1に比べて、発生する汚泥量が低減されたが、還元処理設備および還元薬剤が必要となった。
【符号の説明】
【0098】
1 水処理装置、10 原水槽、12 第一フェントン反応槽、14 第二フェントン反応槽、16 pH調整槽、18 固液分離槽、20 返送配管、22,24 pH測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、
前記処理対象の水のフェントン処理を行うフェントン処理手段と、
前記フェントン処理が行われたフェントン処理水の汚泥の固液分離を行う固液分離手段と、
前記固液分離された汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに前記処理対象の水に返送する返送手段と、
を有することを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記固液分離手段の前段側に、前記フェントン処理水のpH調整を行うpH調整手段を有することを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
金属イオンと配位結合を形成する有機化合物を含む水を処理対象とし、
前記処理対象の水のフェントン処理を行うフェントン処理工程と、
前記フェントン処理を行ったフェントン処理水の汚泥の固液分離を行う固液分離工程と、
前記固液分離した汚泥の少なくとも一部を還元処理せずに前記処理対象の水に返送する返送工程と、
を含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
前記固液分離工程の前段側に、前記フェントン処理水のpH調整を行うpH調整工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載の水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−115803(P2012−115803A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270126(P2010−270126)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】