説明

水分散型粘着剤組成物、および粘着製品並びにその製造方法

【課題】 剥離ライナー上に直接塗工しても、はじきを防止して、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することが可能な水分散型粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】 水分散型粘着剤組成物は、ベースポリマーが水に分散された水分散型粘着剤組成物であり、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度が、3(Pa・s)以上であることを特徴とする。また、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度が、2〜15(Pa・s)であることが好ましい。ベースポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー主成分とするアクリル系重合体を好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離ライナー上に直接塗工しても、はじきがなく、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することが可能な水分散型粘着剤組成物、および該水分散型粘着剤組成物を用いた粘着製品、並びに前記粘着製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着剤としては、主として溶剤型の粘着剤が用いられてきた。しかし、溶剤型粘着剤は、有機溶剤中で合成したり、あるいは有機溶剤に溶解して、有機溶剤を含んだ状態で塗工されているため、塗工時の有機溶剤の揮発が環境的に問題があり、近年、地球環境保護の観点などから、水媒体中に粘着剤粒子を分散ないし乳化させた水分散型の粘着剤への転換が図られている。
【0003】
このような水分散型粘着剤を用いた粘着製品は、例えば、水分散型粘着剤組成物を、剥離ライナー上に、コンマコーター、リップコーター、ダイコーター、ファウンテンダイコーターなどにより塗工して、乾燥させて、粘着剤層を形成することにより製造されている。しかし、この剥離ライナーへの塗工の際、粘着剤のはじきなどの問題があり、従来、その問題を解決するために、水分散型粘着剤組成物中に増粘剤を配合して、粘着剤の粘度を増加させる方法が主として用いられている。このような増粘剤としては、一般的には、アクリル系ポリマーやポリウレタン系ポリマーなど、多くのものが知られている。
【0004】
しかしながら、増粘剤の種類によっては、高速に塗工する際にかかるような高速せん断速度でせん断を行った後の低速せん断速度での粘度が、高速せん断速度でのせん断前の粘度にまで直ちに回復せず、低い粘度となることがある。このような場合、図1に示されるように、塗工直後から塗工端部ではじきがみられ、平滑な塗工面を有する粘着剤層を得ることができなくなる。
【0005】
図1は、従来の粘着剤組成物を、剥離ライナーの剥離面上に塗工して乾燥又は効果させた際の状態を示す概略断面図である。図1において、1は粘着剤層、2は剥離ライナー、3は粘着剤層1の端部(塗工端部)、4は粘着剤層1の中央部、L3は粘着剤層1の端部3の厚み、L4は粘着剤層1の中央部4の厚みである。図1では、粘着剤層1の端部3の厚みL3が、中央部4の厚みL4よりも、かなり大きくなっており、粘着剤層1の端部3で、はじきが見られていることが確認される。
【0006】
なお、前述のように、高速に塗工することにより、生産性などを向上させることができるため、粘着剤組成物を高速で基材に塗工する方法が各種開示されており、例えば、主に、高速せん断時の粘度を特徴にした方法が種々提案されている(特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−227387号公報
【特許文献2】特開平5−68928号公報
【特許文献3】特開平8−218047号公報
【特許文献4】特開2001−181590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述のような、高速せん断時の粘度を特徴にする方法では、上記のように剥離ライナーなどへの基材に塗工する場合に、高速せん断処理から解放された直後の低速せん断速度での粘度が低すぎる場合に、はじき、特に塗工端部からのはじきの問題が生じる。
【0009】
従って、本発明の目的は、剥離ライナー上に直接塗工しても、はじきを低減又は防止して、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することが可能な水分散型粘着剤組成物、および該水分散型粘着剤組成物を用いた粘着製品、並びに前記粘着製品の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、さらに、気泡の混入を低減又は防止して、優れた外観性を有する粘着剤層を形成することが可能な水分散型粘着剤組成物、および該水分散型粘着剤組成物を用いた粘着製品、並びに前記粘着製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意検討した結果、一旦、高速せん断処理を行った後の低速せん断処理時の粘度が、特定の粘度になる粘着剤組成物を用いると、剥離ライナー上に直接に高速で塗工しても、はじき、特に塗工端部からのはじきを低減又は防止して、優れた塗工性を発揮することができ、平滑な塗工面を有する粘着剤層を効率よく形成することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、ベースポリマーが水に分散された水分散型粘着剤組成物であって、前記ベースポリマーが、該ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合が50〜98重量%であるアクリル系共重合体であり、ベースポリマーを構成する全モノマー成分100重量部に対して0.1〜5重量部の乳化剤を含むとともに、さらに粘着付与剤を含み、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηCが、3(Pa・s)以上であることを特徴とする水分散型粘着剤組成物である。
【0012】
前記水分散型粘着剤組成物としては、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηAが、2〜15(Pa・s)であることが好ましい。また、前記水分散型粘着剤組成物としては、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηCと、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηAとの比(ηC/ηA)が0.8以上であることが好ましい。さらに、ベースポリマーとしては、モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともにシリコーン系モノマーを少なくとも含むアクリル系共重合体を好適に用いることができる。また、前記水分散型粘着剤組成物は増粘剤を含んでいてもよい。
【0013】
本発明は、また、前記水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有することを特徴とする粘着製品である。
【0014】
なお、本発明には、前記水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有する粘着製品を製造する方法であって、前記水分散型粘着剤組成物を、剥離ライナー上に直接塗工して粘着剤層を形成する工程を具備することを特徴とする粘着製品の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水分散型粘着剤組成物によれば、前記構成を有しているので、剥離ライナー上に直接塗工しても、はじきを低減又は防止して、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することができる。また、気泡の混入を低減又は防止して、優れた外観性を有する粘着剤層を形成することができる。
【0016】
従って、水分散型粘着剤組成物を剥離ライナー上に直接塗工しても、優れた品質の粘着製品を得ることができる。そのため、このような品質が良好な粘着製品を、水分散型粘着剤組成物を剥離ライナー上に直接に高速で塗工して製造することにより、優れた生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の粘着剤組成物を、剥離ライナーの剥離面上に塗工して乾燥又は効果させた際の状態を示す概略断面図である。
【図2】実施例1〜2や比較例1〜2に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(D)の粘度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[水分散型粘着剤組成物]
本発明の水分散型粘着剤組成物は、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度が3(Pa・s)以上となる物性を有していることを特徴としている。このように、1×104(1/s)という高速なせん断速度でせん断処理を行った後に、4(1/s)という低速なせん断速度で測定した際の粘度が、3(Pa・s)以上であると、剥離ライナー上に直接塗工しても(特に、高速で塗工しても)、はじき(特に、塗工端部からのはじき)が低減又は防止されており、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することができる。従って、優れた塗工性で効率よく、水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有する粘着製品を製造することができる。
【0019】
このように、剥離ライナー上に直接塗工することにより、転写型塗工よりも、塗工時の気泡の混入を低減又は防止することができ、優れた外観性を有する粘着剤層を形成することができる。そのため、優れた生産性で粘着製品を製造することができる。
【0020】
本発明の水分散型粘着剤組成物では、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(「ηC」と称する場合がある)としては、3(Pa・s)以上であれば特に制限されないが、例えば、3〜15(Pa・s)の範囲から選択することができ、好ましくは4(Pa・s)以上[例えば、4〜10(Pa・s)]である。ηCが3(Pa・s)未満であると、剥離ライナー上に水分散型粘着剤組成物を直接塗工した際に、はじきが生じやすくなる傾向がある。
【0021】
また、本発明では、水分散型粘着剤組成物としては、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(「ηA」と称する場合がある)が、2〜15(Pa・s)[好ましくは2.5〜10(Pa・s)]である物性を有していることが好ましい。ηAが2(Pa・s)未満であると、粘度が低すぎて、安定した塗工が困難になる場合があり、一方、15(Pa・s)を超えると、粘度が高すぎて、塗工部への水分散型粘着剤組成物の供給等に問題が生じる場合がある。
【0022】
なお、ηAは、通常、ηCの測定前に測定する。すなわち、ηAは、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加える前に測定することができる。従って、本発明では、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で粘度を測定して、ηAを求め、その後、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加え、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で粘度を測定して、ηCを求めることができる。
【0023】
ηAとηCとの比としては、特に制限されず、ηA、ηCが、それぞれ、前記範囲を有していればよい。なお、ηC/ηAとしては、例えば、0.8以上(例えば、0.8〜1.5、好ましくは0.9〜1.2、さらに好ましくは1〜1.15)であることが望ましい。このように、ηC/ηAが0.8以上であると、高速せん断処理前と、高速せん断処理後との粘度変化が小さく、粘度回復性が良好であるといえる。従って、水分散型粘着剤組成物は、高速での塗工時に高速せん断がかかっても、高速せん断前の粘度と同等の粘度にすばやく回復することができる。
【0024】
このような水分散型粘着剤組成物としては、ベースポリマーが水に分散された形態を有している。前記ベースポリマーとしては、必要に応じて乳化剤や分散剤などを適宜用いることにより、水に分散可能なポリマーであれば特に制限されず、例えば、アクリル系重合体、ゴム成分(天然ゴムや、合成ゴムなど)などの公知乃至慣用の粘着剤のベースポリマーを用いることができる。ベースポリマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
(アクリル系重合体)
本発明では、ベースポリマーとしては、アクリル系重合体が好適である。このようなアクリル系重合体としては、モノマー主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられていることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキル(直鎖状又は分岐鎖状のアルキル)エステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、目的とする粘着性などに応じて適宜選択することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明では、モノマー主成分としての(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のモノマー(共重合性モノマー)をモノマー成分として用いられていてもよい。例えば、エマルション粒子の安定化、粘着剤層の支持体(基材)への密着性の向上、また被着体への初期接着性の向上などを目的として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、共重合性モノマーを併用することができる。この共重合性モノマーの割合は、特に制限されない。
【0027】
共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イコタン酸等の酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等の窒素原子含有系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどのアルコキシ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有モノマー;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;ビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;塩化ビニルなどのハロゲン原子含有モノマーの他、N−ビニルピロリドン、N−(1−メチルビニル)ピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン等のビニル基含有複素環化合物や、N−ビニルカルボン酸アミド類などが挙げられる。
【0028】
また、共重合性モノマーとして、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−オクチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクルロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド系モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどのリン酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルや、フッ素(メタ)アクリレートなどの複素環や、ハロゲン原子を含有するアクリル酸エステル系モノマーなども用いることができる。
【0029】
さらにまた、共重合性モノマーとして、シリコーン系モノマーも用いることができる。シリコーン系モノマーには、シリコーン系(メタ)アクリレートモノマーや、シリコーン系ビニルモノマーなどが含まれる。シリコーン系(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリブトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル−トリアルコキシシラン;(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル−アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(メタ)アクリロイルオキシアルキル−ジアルキル(モノ)アルコキシシランなどが挙げられる。
【0030】
また、シリコーン系ビニルモノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等のビニルトリアルコキシシランの他、これらに対応するビニルアルキルジアルコキシシランや、ビニルジアルキルアルコキシシラン;ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルメチルトリエトキシシラン、β−ビニルエチルトリメトキシシラン、β−ビニルエチルトリエトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリメトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリエトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリブトキシシラン等のビニルアルキルトリアルコキシシランの他、これらに対応する(ビニルアルキル)アルキルジアルコキシシランや、(ビニルアルキル)ジアルキル(モノ)アルコキシシランなどが挙げられる。
【0031】
さらに、共重合性モノマーとしては、水分散型粘着剤組成物のゲル分率や粘度の調整等のために、多官能性モノマーを用いることができる。多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(モノ又はポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(モノ又はポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(モノ又はポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの他、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。また、多官能性モノマーとして、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなども用いることができる。
【0032】
なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、モノマー成分の主成分として用いられているので、モノマー成分全量に対して50重量%以上の割合であることが重要であり、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合の上限は、特に制限されず、例えば、モノマー成分全量に対して100重量%(好ましくは99重量%、さらに好ましくは98重量%)であってもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合がモノマー成分全量に対して50重量%未満であると、良好な剥離力および凝集力を発揮する粘着剤が得られない場合がある。
【0033】
一方、共重合性モノマーとしては、モノマー成分全量に対し50重量%未満(好ましくは40重量%未満)の範囲で、各モノマー成分の種類に応じて、その使用量を適宜選択できる。
【0034】
なお、本発明では、アクリル系重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー主成分としていれば、単量体の組成やその使用量又は配合割合を適宜選択することができるが、良好な粘着性を発現させるために、得られるアクリル系重合体(アクリル系ポリマー)のガラス転移点が通常−20℃以下となるように、組成及びその配合割合を適宜決めるのが望ましい。
【0035】
本発明の水分散型粘着剤組成物では、ベースポリマーとしてのアクリル系重合体は水分散されて含有されている。従って、アクリル系重合体はエマルションの形態で含有されていてもよい。アクリル系重合体がエマルションの形態で含有されている場合、アクリル系重合体を重合して調製する際に、必要に応じて乳化剤を用いることによりエマルション化してもよく、各種重合方法により調製されたアクリル系重合体を、必要に応じて乳化剤を用いることによりエマルション化してもよい。従って、アクリル系重合体は、前記モノマー成分[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、必要に応じて用いられる共重合性モノマーなど]を用いて、公知乃至慣用の重合方法を利用して調製することができる。このような各種の重合方法では、例えば、一般的な一括仕込み方法(一括重合方法)、モノマー滴下方法、モノマーエマルション滴下方法などを利用することができる。モノマーなどを滴下する場合は、連続的に滴下してもよく、分割して滴下してもよい。なお、重合温度は、重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、5〜100℃の範囲から選択することができる。
【0036】
アクリル系重合体の調製方法としては、特に、エマルション重合方法(乳化重合方法)が好適である。前記エマルション重合方法としては、公知乃至慣用のエマルション重合方法を採用することができる。
【0037】
乳化剤としては、特に制限されず、公知乃至慣用の乳化剤を用いることができる。具体的には、乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。また、これら(ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などの乳化剤)にプロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入された形態を有する(又は該形態に相当する)ラジカル重合性の乳化剤を用いることもできる。乳化剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
乳化剤の使用量は、例えば、全モノマー成分100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.4〜3重量部の範囲で用いることができる。乳化剤の使用量を前記範囲とすることにより、耐水性、接着特性の他、重合安定性や機械的安定性等を良好にすることができる。
【0039】
なお、乳化剤は、前述のように、アクリル系重合体をエマルジョン重合する際や、他の各種重合方法により予め調製されたアクリル系重合体を水に分させてエマルジョン化する際に用いることができ、また、一部をエマルジョン重合の際に用い、残部を重合後に添加して用いることもできる。
【0040】
アクリル系重合体を調製する際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、特に制限されず、公知乃至慣用の重合開始剤(例えば、アゾ系開始剤、過硫酸塩系開始剤、過硫酸物系開始剤、レドックス系開始剤など)を用いることができる。具体的には、重合開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´−アゾビス(N,N´−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライドなどのアゾ系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等の過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤などが挙げられる。なお、重合開始剤は、水溶性の開始剤であってもよく、油溶性の開始剤であってもよい。重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
重合開始剤の使用量は、その種類やモノマー成分の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、全モノマー成分100重量部に対して、0.02〜0.5重量部、好ましくは0.08〜0.3重量部の範囲で用いることができる。重合開始剤の使用量が、全モノマー成分100重量部に対して0.02重量部未満であると、重合開始剤としての効果が低下し、一方、0.5重量部を超えると、アクリル系重合体の分子量が低下し、粘着特性が低下する。
【0042】
また、重合には連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることによりアクリル系重合体の分子量を調整することができる。連鎖移動剤としては、公知乃至慣用の連鎖移動剤、例えば、1−ドデカンチオール、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノールなどが例示できる。連鎖移動剤は、その目的や用途などに応じて適宜選択して用いることができ、また、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。連鎖移動剤の使用量は、通常、全モノマー成分100重量部に対して0.001〜0.5重量部程度である。
【0043】
水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて、増粘剤、粘着付与剤、架橋剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、老化防止剤、界面活性剤、pHを調整するための塩基(アンモニア水など)や酸などの粘着剤に通常使用される各種添加剤が配合されていてもよい。
【0044】
増粘剤としては、公知乃至慣用の増粘剤を用いることができる。増粘剤としては、例えば、アクリル系増粘剤、ウレタン系増粘剤、ポリエーテル系増粘剤などが挙げられる。
【0045】
また、粘着付与剤としては、公知乃至慣用の粘着付与剤を用いることができる。粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂(脂肪族炭化水素系石油樹脂、芳香族炭化水素系石油樹脂、脂環式炭化水素系石油樹脂など)、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂の他、エラストマー類などが挙げられる。
【0046】
このように、水分散型粘着剤組成物は、ベースポリマー(特に、アクリル系重合体)を水に分散された形態で含有している。すなわち、ベースポリマー(特に、アクリル系重合体)をエマルション化した形態で用いている。水分散型粘着剤組成物中におけるベースポリマーのエマルション粒子としては、機械的安定性や塗布性などが良好であれば、その平均粒子径は特に制限されない。前記ベースポリマーのエマルション粒子の平均粒子径としては、例えば、0.1〜3μm、好ましくは0.2〜1μm程度であることが望ましい。なお、ベースポリマーのエマルション粒子の平均粒子径が、0.1μmより小さい場合は、水分散型粘着剤組成物の粘度が上昇し、一方、3μmより大きい場合は、エマルション粒子間の融着性が低下して、凝集力が低下する場合がある。
【0047】
また、水分散型粘着剤組成物の固形分濃度は、特に制限されず、例えば、塗工後の乾燥時間を短縮するためには、50重量%以上とすることが好ましい。
【0048】
本発明の水分散型粘着剤組成物は、前述のような構成を有しているので、平滑な塗工面を有する粘着剤層を形成することができる。特に、水分散型粘着剤組成物は、高速な塗工直後であっても適度な粘度を有しているので、剥離ライナー上に直接塗工しても、はじき(特に、端部からのはじき)を低減又は防止することができる。すなわち、剥離ライナー上に直接に高速で塗工して粘着剤層を形成しても、乾燥又は硬化により形成される粘着剤層の表面を、平滑にすることができる。従って、本発明の水分散型粘着剤組成物は、粘着製品における粘着剤層を形成するための水分散型粘着剤として有用である。
【0049】
[粘着製品]
本発明の粘着製品には、例えば、粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム、粘着ラベル等が含まれる。粘着製品は、前記水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有している。水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層は、基材(支持体)の少なくとも片面(片面又は両面)に形成されていてもよく、また、基材を有しておらず、剥離ライナー(剥離フィルム)上に形成されていてもよい。すなわち、粘着製品は、上記の水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層を備えていれば、基材を有する粘着製品であってもよく、基材を有しない粘着製品であってもよい。なお、粘着製品が基材を有する場合、粘着剤層は剥離ライナーにより保護されていてもよく、基材の背面に形成された剥離面により保護されていてもよい。
【0050】
なお、粘着製品としての粘着テープは、粘着剤層が基材の背面に形成された剥離面により保護した状態でロール状に巻き取られた巻回体の形態を有していてもよく、剥離ライナーで粘着剤層を保護した状態でロール状に巻き取られた巻回体の形態を有していてもよい。
【0051】
粘着製品における粘着剤層の厚さは、特に制限されず、例えば、1mmを超える厚さであってもよいが、500μm以下(好ましくは3〜300μm、さらに好ましくは5〜200μm)であることが望ましい。
【0052】
(粘着製品の製造方法)
粘着製品の製造方法としては、特に制限されない。例えば、粘着剤層の形成方法としては、通常用いられる塗工方法を採用することができる。具体的には、粘着剤層を形成する際の塗工方法としては、例えば、コンマコーター、ファウンテンダイコーター、リップコーター、クローズドエッジダイコーターなどの各種コーターを利用することができる。特に、本発明では、水分散型粘着剤組成物は、前述のように、高速の塗工直後であっても適度な粘度を有しているので、剥離ライナー上に直接に高速で塗工して、粘着剤層を形成することが好ましい。剥離ライナー上(もちろん、剥離ライナーの剥離面上)に水分散型粘着剤組成物を直接塗工することにより、外観性の良い、すなわち、層内部に気泡の混入の少ない粘着剤層を効率よく得ることができる。
【0053】
従って、本発明の粘着製品を製造する方法としては、前記水分散型粘着剤組成物を、剥離ライナー上に直接塗工して粘着剤層を形成する工程を具備する方法を好適に採用することができる。具体的には、粘着製品が基材を有していない場合、例えば、下記の工程(1a)および(1b)
(1a)両面が剥離面となっている剥離ライナーにおける一方の剥離面上に、水分散型粘着剤組成物を直接塗工して、粘着剤層を形成する工程
(1b)さらに、剥離ライナーにおける他方の(背面側の)剥離面を前記粘着剤層に重ね合わせる工程
を具備する方法や、下記の工程(2a)および(2b)
(2a)片面が剥離面となっている剥離ライナーにおける剥離面上に、水分散型粘着剤組成物を直接塗工して、粘着剤層を形成する工程
(2b)さらに、該粘着剤層上に他の剥離ライナーを重ね合わせる工程
を具備する方法などが挙げられる。
【0054】
また、粘着製品が基材を有しており、基材の片面のみに粘着剤層が形成されている場合、例えば、下記の工程(3a)および(3b)
(3a)片面が剥離面となっている剥離ライナーにおける剥離面上に、水分散型粘着剤組成物を直接塗工して、粘着剤層を形成する工程
(3b)さらに、該粘着剤層上に基材を重ね合わせて、粘着剤層を基材に転写する工程
を具備する方法などが挙げられる。
【0055】
さらにまた、粘着製品が基材を有しており、基材の両面に粘着剤層が形成されている場合、例えば、下記の工程(4a)および(4b)
(4a)片面が剥離面となっている剥離ライナーにおける剥離面上に、水分散型粘着剤組成物を直接塗工して、粘着剤層を形成する工程
(4b)さらに、該粘着剤層上に基材を重ね合わせた後または重ね合わせる際に、基材の他方の面に、片面が剥離面となっている剥離ライナーにおける剥離面上に水分散型粘着剤組成物を直接塗工して形成された粘着剤層を重ね合わせることにより、基材のそれぞれの面に各粘着剤層を転写する工程
を具備する方法などが挙げられる。
【0056】
もちろん、基材上に粘着剤層を形成した後、剥離ライナーを前記粘着剤層に重ね合わせることにより、粘着製品を作製することも可能である。
【0057】
(粘着製品の剥離ライナー)
剥離ライナーとしては、特に制限されず、公知の剥離ライナーを用いることができる。具体的には、剥離ライナーとしては、剥離処理剤からなる剥離処理剤層が剥離ライナー用の基材の表面に形成された剥離ライナーや、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルム、剥離ライナー用の基材の表面に、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材による剥離層を形成した構成の剥離ライナーなどが挙げられる。剥離ライナーの剥離面は、薄葉基材の片面のみであってもよく、両面であってもよい。
【0058】
このような剥離ライナーにおいて、剥離処理剤としては、特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー(シリコーン系剥離剤)、フッ素系ポリマー(フッ素系剥離剤)などの剥離剤が挙げられる。
【0059】
剥離ライナー用の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムや金属蒸着プラスチックフィルム;和紙、洋紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙などの紙類;不織布、布などの繊維質材料による基材;金属箔などが挙げられる。
【0060】
また、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等)、ポロプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体またはランダム共重合体)の他、これらの混合物からなるポリオレフィン系樹脂によるポリオレフィン系フィルム;テフロン(登録商標)製フィルムなどを用いることができる。
【0061】
なお、前記剥離ライナー用の基材の表面に形成される剥離層は、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材を、前記剥離ライナー用の基材上に、ラミネート又はコーティングすることにより形成することができる。
【0062】
剥離ライナーの厚み(全体厚)としては、特に限定するものではないが、例えば、15μm以上(好ましくは25〜500μm)の範囲から選択することができる。
【0063】
(粘着製品の基材)
粘着製品が基材(支持体)を有している場合、該基材としては、特に制限されず、例えば、プラスチックのフィルムやシートなどのプラスチック系基材;金属箔、金属板などの金属系基材(アルミニウムなどを素材とする金属系基材);紙(和紙、クラフト紙等)などの紙系基材;布、不織布、ネットなどの繊維系基材(綿、スフ、化繊などを素材とする繊維系基材);ゴムシートなどのゴム系基材;発泡シートなどの発泡体等の適宜な薄葉体を用いることができる。基材としては、プラスチックのフィルムやシートが好ましい。プラスチックのフィルムやシートの素材(プラスチック材)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体など)、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、スチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アセテート系樹脂などが挙げられる。基材は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上組み合わされた基材としては、例えば、プラスチックフィルムの積層体や、プラスチック系基材以外の基材(金属箔、紙、布など)にプラスチックフィルムがラミネートされたプラスチックラミネート体などが挙げられる。
【0064】
なお、基材の片面または両面には、粘着剤層との密着力の向上等を目的にコロナ処理やプラズマ処理等の物理的処理、下塗り剤等の化学的処理などの適宜な表面処理が施されていてもよい。
【0065】
基材の厚さとしては、例えば、50〜300μm、好ましくは70〜200μm程度である。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下において部とあるのは、重量部を意味する。
(調製例1)
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル:70部、アクリル酸2−エチルヘキシル:30部、アクリル酸:3部、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名「KBM−503」信越シリコーン株式会社製):0.03部、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤):0.1部、ドデカンチオール(連鎖移動剤):0.04部、およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤):2部を、水100部に加えて、温度60℃で乳化重合を7時間行ったのち、10重量%アンモニウム水溶液を用いて中和して、固形分量:60重量%、エマルション粒子の平均粒子径:500nmの水分散型アクリル系粘着剤(「水分散型アクリル系粘着剤(1)」と称する場合がある)を得た。
【0067】
(実施例1)
調製例1により得られた水分散型アクリル系粘着剤(1):100部に対して、粘着付与樹脂(商品名「タマノルE200」荒川化学工業社製):30部を添加した後、アクリル系エマルション増粘剤(商品名「プライマルASE95NP」ロームアンドハース社製)を0.20部配合して、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)」と称する場合がある)を得た。
【0068】
水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)について、下記の粘度測定方法により粘度を測定したところ、表1に示されるように、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηC)が、4.9(Pa・s)であり、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηA)が、4.4(Pa・s)であった。
【0069】
塗工基材として、クラフトタイプのシリコーン系剥離ライナー(シリコーン系剥離剤により剥離処理されたクラフト紙からなる剥離ライナー)を用いた。
【0070】
シリコーン系剥離ライナー上に、リップコーターを用いて、水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)を、30m/分の速度で約100μmの厚さで10分間連続的に塗工して、粘着製品を作製した。
【0071】
(実施例2)
調製例1により得られた水分散型アクリル系粘着剤(1):100部に対して、粘着付与樹脂(商品名「タマノルE200」荒川化学工業社製):30部を添加した後、アクリル系エマルション増粘剤(商品名「アロンB−500」東亜合成社製)を0.20部配合して、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「水分散型アクリル系粘着剤組成物(B)」と称する場合がある)を得た。
【0072】
水分散型アクリル系粘着剤組成物(B)について、下記の粘度測定方法により粘度を測定したところ、表1に示されるように、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηC)が、5.8(Pa・s)であり、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηA)が、5.3(Pa・s)であった。
【0073】
塗工基材として、実施例1と同様のクラフトタイプのシリコーン系剥離ライナーを用いた。
【0074】
シリコーン系剥離ライナー上に、リップコーターを用いて、水分散型アクリル系粘着剤組成物(B)を、30m/分の速度で約100μmの厚さで10分間連続的に塗工して、粘着製品を作製した。
【0075】
(比較例1)
調製例1により得られた水分散型アクリル系粘着剤(1):100部に対して、粘着付与樹脂(商品名「タマノルE200」荒川化学工業社製):30部を添加した後、アクリル系エマルション増粘剤(商品名「プライマルTT−615」ロームアンドハース社製)を0.05部配合して、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「水分散型アクリル系粘着剤組成物(C)」と称する場合がある)を得た。
【0076】
水分散型アクリル系粘着剤組成物(C)について、下記の粘度測定方法により粘度を測定したところ、表1に示されるように、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηC)が、1.6(Pa・s)であり、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηA)が、3.6(Pa・s)であった。
【0077】
塗工基材として、実施例1と同様のクラフトタイプのシリコーン系剥離ライナーを用いた。
【0078】
シリコーン系剥離ライナー上に、リップコーターを用いて、水分散型アクリル系粘着剤組成物(C)を、30m/分の速度で約100μmの厚さで10分間連続的に塗工して、粘着製品を作製した。
【0079】
(比較例2)
調製例1により得られた水分散型アクリル系粘着剤(1):100部に対して、粘着付与樹脂(商品名「タマノルE200」荒川化学工業社製):30部を添加した後、アクリル系エマルション増粘剤(商品名「SNシックナー636」サンノプコ社製)を0.10部配合して、水分散型アクリル系粘着剤組成物(「水分散型アクリル系粘着剤組成物(D)」と称する場合がある)を得た。
【0080】
水分散型アクリル系粘着剤組成物(D)について、下記の粘度測定方法により粘度を測定したところ、表1に示されるように、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηC)が、2.1(Pa・s)であり、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度(ηA)が、4.2(Pa・s)であった。
【0081】
塗工基材として、実施例1と同様のクラフトタイプのシリコーン系剥離ライナーを用いた。
【0082】
シリコーン系剥離ライナー上に、リップコーターを用いて、水分散型アクリル系粘着剤組成物(D)を、30m/分の速度で約100μmの厚さで10分間連続的に塗工して、粘着製品を作製した。
【0083】
(粘度測定方法)
水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(D)の粘度を、ハーケ社製のレオメーター粘度計「Rheo Stress 1」を用い、且つロータとして、コーンタイプのロータ(Cone Diameter:35mm、Cone Angle:0.5deg.)を使用して測定する。具体的には、まず、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で、粘度(Pa・s)を測定する(ηA)。その後、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加え、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で粘度(Pa・s)を測定する(ηC)。
なお、粘度としては、ηA(Pa・s)については、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加える3秒前の粘度とし、ηC(Pa・s)については、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件でせん断を加えた3秒後の粘度とする。
【0084】
なお、この粘度測定により得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(D)の粘度について、図2に示した。図2で示されるグラフでは、縦軸が粘度(Pa・s)であり、横軸が時間(秒)である。このグラフでは、時間が10秒から約20秒までが「せん断速度:4(1/s)、温度:30℃」の条件(条件A)となっており、約20秒から約30秒までが「せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃」の条件(条件B)となっており、約30秒から50秒までが「せん断速度:4(1/s)、温度:30℃」の条件(条件C)となっている。
【0085】
(粘着製品の評価方法)
各実施例および各比較例により得られた粘着製品について、その粘着剤層の表面(塗工面)の状態を、下記の塗工外観評価方法により観察して、粘着剤層の厚み(端部や中央部)や、その表面状態の塗工性を評価した。評価結果は、表1に示した。
【0086】
(塗工外観評価方法)
粘着製品における粘着剤層の厚み(μm)として、端部(塗工端部)の厚みと、中央部の厚みとを測定する。なお、粘着剤層の端部の厚みは、図1における粘着剤層1の端部3の厚みL3に相当しており、粘着剤層の中央部の厚みは、図1における粘着剤層1の中央部4の厚みL4に相当している。
また、目視で、塗工面の平滑性も観察し、下記の評価基準により塗工性を評価した。
評価基準
○:塗工面が平滑であり、水分散型粘着剤組成物のはじきが認められない。
×:塗工面が平滑でなく、塗工端部の方が中央部よりも厚みが厚くなっており、水分散型粘着剤組成物のはじきが認められる。
【0087】
【表1】

【0088】
表1や図2より明らかなように、実施例1や2に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(B)を、30m/分の塗工速度で剥離ライナーに塗工した際の塗工面には、はじきは認められず、平滑な塗工面を有する粘着製品を得ることができることが確認される。従って、実施例1や2に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物は、優れた粘度回復性を有しており、このように、優れた粘度回復性を有する水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いることにより、安定して塗工することができる。
【0089】
一方、比較例1や2に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物(C)〜(D)を、30m/分の塗工速度で剥離ライナーに塗工した際の塗工面は、塗工直後から塗工端部ではじきが確認され、乾燥又は硬化後には塗工端部が盛り上がった状態が保持され、平滑な乾燥面又は硬化面が得られなかったり、乾燥が不十分となった。
【0090】
なお、図2より、約20秒の時点で、条件Aから条件Bに条件が変更されたことにより、水分散型アクリル系粘着剤組成物の粘度は、水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(D)のすべてで、急激に低下し、また、約30秒の時点で、条件Bから条件Cに条件が変更されたことにより、水分散型アクリル系粘着剤組成物の粘度は、増加しており、特に、水分散型アクリル系粘着剤組成物(A)〜(B)では、条件Cの粘度ηCは、条件Aでの粘度ηAに対して0.8以上の大きさとなり、一方、水分散型アクリル系粘着剤組成物(C)〜(D)では、条件Cの粘度ηCは、条件Aでの粘度ηAの半分以下の大きさとなっていることが確認される。
【符号の説明】
【0091】
1 粘着剤層
2 剥離ライナー
3 粘着剤層1の端部
4 粘着剤層1の中央部
3 粘着剤層1の端部3の厚み
4 粘着剤層1の中央部4の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマーが水に分散された水分散型粘着剤組成物であって、前記ベースポリマーが、該ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合が50〜98重量%であるアクリル系共重合体であり、ベースポリマーを構成する全モノマー成分100重量部に対して0.1〜5重量部の乳化剤を含むとともに、さらに粘着付与剤を含み、せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηCが、3(Pa・s)以上であることを特徴とする水分散型粘着剤組成物。
【請求項2】
せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηAが、2〜15(Pa・s)である請求項1記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項3】
せん断速度:1×104(1/s)、温度:30℃の条件で10秒間せん断を加えた後に、続いてせん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηCと、せん断速度:4(1/s)、温度:30℃の条件で測定した際の粘度ηAとの比(ηC/ηA)が0.8以上である請求項1又は2記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項4】
ベースポリマーが、モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともにシリコーン系モノマーを少なくとも含むアクリル系共重合体である請求項1〜3の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項5】
さらに、増粘剤を含む請求項1〜4の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有することを特徴とする粘着製品。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物による粘着剤層を有する粘着製品を製造する方法であって、前記水分散型粘着剤組成物を、剥離ライナー上に直接塗工して粘着剤層を形成する工程を具備することを特徴とする粘着製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−80074(P2011−80074A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258506(P2010−258506)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【分割の表示】特願2003−62663(P2003−62663)の分割
【原出願日】平成15年3月10日(2003.3.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】