説明

水分散性粒子およびその製造方法

【課題】表層に極性官能基を有すると同時に、必要に応じて特定の官能基を提示することにより分散溶媒を選択できる粒子を提供すること。
【解決手段】少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で被覆されている、有機溶媒分散性粒子であり、粒子は平均粒径1〜70nmのナノ粒子であり、無機酸化物粒子、磁性粒子からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒分散性粒子から調製される水分散性粒子、およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、フェライト(酸化鉄)などの粒子を分散剤で被覆することにより粒子表層に極性基を有する水分散性磁性ナノ粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性ナノ粒子は無機物であるため、有機溶媒にも水にも分散しない。磁性ナノ粒子の磁気特性を機能性材料として活かすためには、溶媒分散性の獲得が重要となる。特に、ライフサイエンス分野における水分散性フェライト粒子の応用展開は、非特許文献1に記載されている。非特許文献1には、マイクロメーターサイズのラテックス粒子の応用に関する論文が掲載されている。これらの論文には、磁気的キャリア粒子に選択的にタンパク質を結合させ、タンパク質の特異的な認識を利用した分離技術や、薬物に磁気力を作用させて輸送することが述べられている。また、これらの磁気粒子は、核磁気共鳴における緩和を速めることによりMRI画像を鮮明化することが可能である。さらには、フェライトの電磁波によって発熱する性質を利用して患部の局所加熱(温熱療法)に用いられることが報告されている。
【0003】
また、特許文献1には、水溶液中の有機物質の存在下でフェライトを生成させることにより、有機物質とフェライトとが強く結合した結合体を得る方法が記載されている。この方法は、有機物質表面の親水性基にフェライトをエピタキシャル的に形成させ、有機物質とフェライトとの間の直接の結合を得るものである。
【0004】
また、特許文献2には、核磁気共鳴における緩和を速めてMRI画像を鮮明化するための有機物質とフェライトとの結合粒子の製造法が記載されている。この製造法は、アルカリを用いて50℃から120℃の鉄塩溶液から粒子を沈殿させ、その沈殿に対して分散安定化物質として複数のカルボキシ基を持つ脂肪族の物質を添加し粒子に結合させている。この方法では、脂肪族の有機物質の持つ複数のカルボキシル基を有機物質とフェライトとの結合に用いる。
【0005】
さらに、特許文献3には、細胞内生体巨大分子に対して特異的に結合させ、外部磁界の作用により巨大分子を分離することのできる磁性ナノ粒子が記載されている。これは、磁性ナノ粒子にデキストランなどの生体適合性の基質を結合させ、次に、リンカー結合部位を結合させ、このリンカーを介して核酸、ペプチド、タンパク質を結合させた磁性ナノ粒子である。
【0006】
【非特許文献1】Scientific and Clinical Application of Magnetic Carriers Prenum Press, New York, (1997)
【特許文献1】特開2000−090366号公報
【特許文献2】特開2000−507197号公報
【特許文献3】特表2003−509034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した通り、有機物質と磁性体であるフェライトとを結合させた複合材料は、多くの用途を有することから、これらの複合材料における有機物質とフェライトとの結合をより安定なものにするとともに、より扱い易いものにすることが切望されている。例えば、使用条件下において安定した結合を保つと同時に、必要に応じて特定の官能基を提示することにより、分散溶媒を選択できる磁性ナノ粒子を構築することが望まれている。即ち、本発明は、表層に極性官能基を有すると同時に、必要に応じて特定の官能基を提示することにより分散溶媒を選択できる粒子を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、表層に極性官能基を有し、水分散性を有する粒子を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、極性官能基を保護基でマスクした分散剤を用いてフェライトを被覆して有機溶媒分散性の磁性ナノ粒子を製造し、その後、保護基の脱保護反応を行い、マスクしていた極性官能基を粒子表面に提示することによって水分散性の磁性ナノ粒子を得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で被覆されている、有機溶媒分散性粒子が提供される。
【0010】
好ましくは、本発明の粒子は、平均粒径1〜70nmのナノ粒子である。
好ましくは、本発明の粒子は、無機酸化物粒子である。
好ましくは、本発明の粒子は、磁性粒子である。
【0011】
好ましくは、分散剤は、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、マレイミド基、カルボン酸アミド基、スルホン基、ホスホン酸基、及び、ホスフィン酸基、アミノオキシ基、カルボキシヒドラジン基、ヒドラジン基、アジド基、アルデヒド基のいずれかを有する分子からなる分散剤である。
好ましくは、分散剤は、炭素数2〜5000の分子からなる分散剤である。
好ましくは、分散剤は、2〜5000個のエチレングルコール繰り返し単位を分子構造中に有する分子からなる分散剤である。
【0012】
好ましくは、分散剤は、t―ブトキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、又はフタルイミド基(Pht)から選択される保護基でアミノ基が保護されている、天然又は非天然のアミノ酸である。
【0013】
好ましくは、分散剤は、下記式(1)で表される分子からなる分散剤である。
(X)m−L−(Y−Z)n (1)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは(m+n)価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示し、mは1又は2を示し、nは1から5の整数を示し、mが2の場合、2個のXは互いに同一でも異なるものでもよく、nが2以上の場合、n個のY−Zは互いに同一でも異なるものでもよい。)
【0014】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の粒子の分散剤の保護基を脱離することにより得られる、水分散性粒子が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で粒子を被覆する工程を含む、有機溶媒分散性粒子の製造方法が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、(1)少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で粒子を被覆する工程、及び(2)工程(1)で得られた粒子の分散剤の保護基を脱離する工程を含む、水分散性粒子の製造方法が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、下記式(1)で表される分子からなる分散剤が提供される。
(X)m−L−(Y−Z)n (1)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは(m+n)価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示し、mは1又は2を示し、nは1から5の整数を示し、mが2の場合、2個のXは互いに同一でも異なるものでもよく、nが2以上の場合、n個のY−Zは互いに同一でも異なるものでもよい。)
【0018】
好ましくは、下記式(2)で表される分子からなる分散剤が提供される。
X−L−Y−Z (2)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは2価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示す)
【0019】
好ましくは、Xはカルボキシル基であり、Lは炭素数1〜10のアルキレン基、又はポリエチレングリコール基を示し、Yはアミノ基又はカルボキシル基である。
【0020】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の粒子を含む、温熱療法剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の粒子を含む、MRI造影剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の粒子を含む、薬物送達剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の粒子を含む、分析診断用プローブが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の粒子は、表層に極性官能基を有すると同時に、必要に応じて特定の官能基を提示することにより分散溶媒を選択することができる。本発明によれば、種々の極性官能基を粒子の表面に提示することができ、かつ水分散性を有する粒子を提供することが可能である。また、表面に提示された官能基を利用して生体物質を固定化することができる。特に本発明においては、粒子を安定に水に分散させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の有機溶媒分散性粒子は、少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で被覆されている。また、本発明の水分散性粒子は、上記の有機溶媒分散性粒子の分散剤の保護基を脱離することにより得られるものである。
【0023】
本発明で用いる分散剤は、少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる。即ち、2個の極性官能基を有する分子においては、1個の極性官能基が遊離形であり、残りの1個の極性官能基は保護基で保護されている。また、3個以上の極性官能基を有する分子においては、1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている。
【0024】
保護基の種類は、特に限定されないが、例えば、t―ブトキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、又はフタルイミド基(Pht)などを挙げることができる。
【0025】
本発明の分散剤で被覆された粒子においては、目的に応じて様々な有機物質を選択して分散剤として用いることが可能である。官能基を化学的手法により導入した物質に関しても同様に、本発明における分散剤として用いることができる。このように分散剤が、カルボキシル基を有し、それ以外にさらに少なくとも1個の官能基を有することにより、この官能基を介して、所望の機能をもつ有機物質を結合することができる。
【0026】
こうした機能をもつ有機物質を結合するための官能基としては、例えば、-OH基、-CHO基、-NH2基、-CO-基、-COOH基、-NO2基、SH基、-SO3H基、-CN基、-COX基、(X:ハロゲン)、-PO4−基(リン酸基)、-CONHNH2基、-ONH2基、-NHNH2基などが挙げられる。目的に応じて、これらの中から選択して用いることができる。
【0027】
本発明で用いる分散剤は、炭素数2〜5000の分子からなることが好ましく、2〜5000個のエチレングルコール繰り返し単位を分子構造中に有する分子であってもよい。
【0028】
分散剤は、好ましくは、下記式(1)で表される分子である。
(X)m−L−(Y−Z)n (1)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは(m+n)価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示し、mは1又は2を示し、nは1から5の整数を示し、mが2の場合、2個のXは互いに同一でも異なるものでもよく、nが2以上の場合、n個のY−Zは互いに同一でも異なるものでもよい。)
【0029】
さらに好ましくは、分散剤は、下記式(2)で表される分子である。
X−L−Y−Z (2)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは2価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示す)
【0030】
X及びYが示す極性官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、マレイミド基、カルボン酸アミド基、スルホン基、ホスホン酸基、及び、ホスフィン酸基、アミノオキシ基、カルボキシヒドラジン基、ヒドラジン基、アジド基、アルデヒド基などを挙げることができる。
Lが示す連結基としては、Lが炭素数1〜10のアルキレン基、又はポリエチレングリコール基などが挙げられる。
Zが示す極性官能基の保護基の具体例は、本明細書中上記の通りである。
【0031】
本発明では、上記したような少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で粒子を被覆することによって、有機溶媒分散性粒子を製造することができる。続いて、この有機溶媒分酸性粒子の分散剤の保護基を脱離することによって水分散性粒子を製造することができる。
【0032】
また、本発明の式(1)又は式(2)で表される分子は、上記の通り粒子に被覆して用いる場合、粒子を有機溶媒又は水に分散させる効果を発揮する。従って、本発明の式(1)又は(2)で表される分子は、分散剤としても有用である。
【0033】
本発明において粒子を分散させるために用いることができる溶媒としては、有機溶媒又は水の何れでもよく、また有機溶剤と水との混合液を用いてもよい。好ましい溶媒としては、水、DMSO, DMF, DMAc, CHCl3, ヘキサンである。
【0034】
本発明の式(1)で表される分子による被覆の対象となる粒子の種類は特に限定されず、有機粒子又は無機粒子の何れでもよいが、好ましくは無機粒子であり、さらに好ましくは金属粒子である。また粒子サイズも特には限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はミリ粒子の何れでもよいが、好ましくはナノ粒子である。特に好ましくは、本発明の粒子は、平均粒径1〜70nmのナノ粒子である。
【0035】
金属粒子の一例としては、磁性粒子、特に好ましくは磁性ナノ粒子を用いることができる。磁性ナノ粒子としては、本発明の式(1)で表される分子で被覆することにより、水性媒体に分散又は懸濁することができ、分散液又は懸濁液から磁場の適用により分離することができる粒子であれば任意の粒子を使用することができる。本発明で用いる磁性ナノ粒子としては、例えば、鉄、コバルト又はニッケルの塩、酸化物、ホウ化物又は硫化物;高い磁化率を有する稀土類元素(例えば、ヘマタイト又はフェライト)などが挙げられる。磁性ナノ粒子の具体例としては、例えば、マグネタイト(Fe34)、FePd、FePt、CoPtなどの強磁性規則合金を使用することもできる。本発明では好ましい磁性ナノ粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。前記式中、Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。このうち、安全性の観点から酸化鉄、フェライトが好ましい。特に好ましくは、マグネタイト(Fe34)である。
【0036】
式(1)で表される分子で粒子を被覆する方法は特に限定されず、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、粒子の形成中または形成後に、式(1)で表される分子を、当該粒子を含む液体に添加して混合することにより、当該粒子を式(1)で表される分子で被覆することができる。また、粒子は遠心分離やろ過などの常法により洗浄、精製後、式(1)で表される分子を含有する溶媒に分散させて、粒子を式(1)で表される分子で被覆してもよい。
【0037】
本発明の方法を用いて、粒子を分散剤で被覆した後に、過剰の分散剤は、透析、ゲルろ過精製で除くことができる。本発明は、基本的に、水を代表とする液相を反応場とするので、任意の溶液中に可溶なもの、もしくは、コロイドとして安定に分散しているものが好ましい。反応溶媒が水であり結合させる物質が、疎水性である場合にも、液相―液相における反応であれば結合体を得ることができる。
【0038】
上記のようにして得られる本発明の式(1)で表される分子で被覆された水分散性粒子が、磁性ナノ粒子である場合には、当該磁性ナノ粒子は、例えば、腫瘍などの温熱療法剤として使用することができる。磁性ナノ粒子を用いて腫瘍の温熱療法を行う場合、磁性ナノ粒子を患者に投与し、電磁波を照射することによって温熱療法を行うことができる。磁性ナノ粒子の投与方法は、特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよいが、好ましくは非経口投与であり、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉投与、皮下投与など任意の投与経路を選択することができる。磁性ナノ粒子の投与量は、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができるが、一般的には、1回の投与につき、10μg〜100mg/kg程度を投与することができ、好ましくは、20μg〜50mg/kg程度を投与することができる。磁性ナノ粒子を投与してから一定時間後に、電磁波を照射することにより温熱療法を行うことができる。即ち、本発明の磁性体ナノ粒子を体内に注入し、腫瘍箇所に凝集させた後、電磁波をかけることにより局所的に加熱することが可能である。電磁波としては、高周波磁場を用いることが特に好ましく、特に電磁波としては、周波数が、1KHz〜1MHzの高周波磁場であることが好ましい。1KHzより高い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、磁気ヒステリシス加熱の効率が高いからであり、1MHzより低い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、誘導電流による生体の発熱を生起させることなく磁性微粒子を加熱することができるからである。前記高周波磁場の周波数は、なかでも5KHz〜200KHzの範囲が好適である。
【0039】
磁性ナノ粒子は、磁性を有するため、磁力により所定の部位に誘導することができる。即ち、本発明の式(1)で表される分子で被覆された磁性ナノ粒子は体内に投与し、磁力により疾患部位に誘導することができる、また上記のようにして疾患部位に誘導された磁性ナノ粒子は、MRI造影により確認することができる。即ち、本発明の式(1)で表される分子で被覆された磁性ナノ粒子は、MRI用造影剤として有用である。
【0040】
本発明の式(1)で表される分子で被覆された磁性ナノ粒子には、所望により薬物(薬学的活性成分)をさらに含ませてもよい。このような磁性ナノ粒子は、上記の方法に従って疾患部位に誘導した後、高周波をあてて加熱し、ナノ粒子に内包した薬学的活性成分を放出させることができる。即ち、本発明の磁性ナノ粒子は、薬物送達剤として有用である。
【0041】
さらに本発明の式(1)で表される分子で被覆された磁性ナノ粒子は、分析診断用プローブとして使用することもできる。具体的には、粒子表面に様々な生体物質(DNA, タンパク質、抗体など)を固定化可能なので、以下のような解析においてハイスループットなスクリーニングが可能になると期待される。1)薬剤レセプターの単離・同定、2)レセプターの機能解析、3)生体反応制御ネットワークの解析などである。
【0042】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1:Boc保護からアミン系の場合
10 mLのクロロホルムに懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、(Boc-aminooxy)acetic acid(Fluka社)DMSO溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌することでクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子を得た。その後、1N塩化水素溶液を10 mL加え、2相系で激しく攪拌した。この時、水相に磁性ナノ粒子が移動し、水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができる。この時、水相のpHは2以下とした。
【0044】
ここで得られた磁性ナノ粒子分散液に磁石を近づけても、粒子の凝集は観測されなかった。1010型電子顕微鏡 (JEM-1010 ELECTRON MICROSCOPE)で粒子を観察したところ、分散前の粒子サイズが保持されることが確認できた。
【0045】
【化1】

【0046】
実施例2:Fmoc脱保護からアミン系へ
10 mLのクロロホルムに懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、Fmoc-Asp-OH(渡辺化学)DMSO溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌することでクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子を得た。その後、10 mLの1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、2相系で激しく攪拌した。この時、水相に磁性ナノ粒子が移動し、水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができる。この時、水相のpHは8以上とした。ここで得られた磁性ナノ粒子分散液に磁石を近づけても、粒子の凝集は観測されなかった。1010型電子顕微鏡 (JEM-1010 ELECTRON MICROSCOPE)で粒子を観察したところ、分散前の粒子サイズが保持されることが確認できた。
【0047】
【化2】

【0048】
実施例3:Phtからアミン系へ
10 mLのクロロホルムに懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、化合物1(合成品)DMSO溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌することでクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子を得た。その後、メチルアミン−メタノール溶液を10 mL加え、激しく攪拌した。この時、クロロホルム−メタノール混合溶液中に沈殿物が生成してきた。ここで、一旦上澄み溶液を捨てて、蒸留水を添加すると水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができた。この時、水相のpHは3以下とした。ここで得られた磁性ナノ粒子分散液に磁石を近づけても、粒子の凝集は観測されなかった。1010型電子顕微鏡 (JEM-1010 ELECTRON MICROSCOPE)で粒子を観察したところ、分散前の粒子サイズが保持されることが確認できた。
【0049】
【化3】

【0050】
実施例4:エチルエステルからカルボキシヒドラジンへ
10 mLのクロロホルムに懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、アジピン酸モノエチル(東京化成)DMSO溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌することでクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子を得た。その後、ヒドラジン1水和物を10 mL加え、激しく攪拌した。この時、クロロホルム溶液中に沈殿物が生成してきた。ここで、一旦上澄み溶液を捨てて、蒸留水を添加すると水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができる。この時、水相のpHは3以下とした。ここで得られた磁性ナノ粒子分散液に磁石を近づけても、粒子の凝集は観測されなかった。1010型電子顕微鏡 (JEM-1010 ELECTRON MICROSCOPE)で粒子を観察したところ、分散前の粒子サイズが保持されることが確認できた。
【0051】
【化4】

【0052】
実施例5;エチルエステルからカルボン酸へ
10 mLのクロロホルムに懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、アジピン酸モノエチル(東京化成)DMSO溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌することでクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子を得た。その後、1N NaOH水溶液を10 mL加え、激しく攪拌した。この時、水相に磁性ナノ粒子が移動し、水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができる。この時、水相のpHは8以上とした。ここで得られた磁性ナノ粒子分散液に磁石を近づけても、粒子の凝集は観測されなかった。1010型電子顕微鏡 (JEM-1010 ELECTRON MICROSCOPE)で粒子を観察したところ、分散前の粒子サイズが保持されることが確認できた。
【0053】
【化5】

【0054】
比較例
10 mLの蒸留水に懸濁させた酸化鉄(10 mg / mL程度)に、クエン酸(和光純薬)水溶液(濃度1M、体積1 mL)を添加して、室温で3〜5時間激しく攪拌したが、水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液を得ることができなかった。
【0055】
【化6】

【0056】
試験例1:
実施例1〜5で調製した粒子のゼータ電位測定を行った結果を図1に示す。粒子表面の電位を測定することで、表面電荷状態の情報を得ることができる。例えば、実施例5では、加水分解処理を行った後に、粒子表面にカルボン酸が生成してくるので、アニオン性になる。そのときのゼータ電位は−30から−40 mV程度なので、粒子表面がアニオン性であることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、実施例1〜5で調製した粒子のゼータ電位測定を行った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で被覆されている、有機溶媒分散性粒子。
【請求項2】
平均粒径1〜70nmのナノ粒子である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
無機酸化物粒子である、請求項1から3の何れかに記載の粒子。
【請求項4】
磁性粒子である、請求項1から3の何れかに記載の粒子。
【請求項5】
分散剤が、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、マレイミド基、カルボン酸アミド基、スルホン基、ホスホン酸基、及び、ホスフィン酸基、アミノオキシ基、カルボキシヒドラジン基、ヒドラジン基、アジド基、アルデヒド基のいずれかを有する分子からなる分散剤である、請求項1から4の何れかに記載の粒子。
【請求項6】
分散剤が、炭素数2〜5000の分子からなる分散剤である、請求項1から5の何れかに記載の粒子。
【請求項7】
分散剤が、2〜5000個のエチレングルコール繰り返し単位を分子構造中に有する分子からなる分散剤である、請求項1から6の何れかに記載の粒子。
【請求項8】
分散剤が、t―ブトキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、又はフタルイミド基(Pht)から選択される保護基でアミノ基が保護されている、天然又は非天然のアミノ酸である、請求項1から6の何れかに記載の粒子。
【請求項9】
分散剤が、下記式(1)で表される分子からなる分散剤である、請求項1から8の何れかに記載の粒子。
(X)m−L−(Y−Z)n (1)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは(m+n)価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示し、mは1又は2を示し、nは1から5の整数を示し、mが2の場合、2個のXは互いに同一でも異なるものでもよく、nが2以上の場合、n個のY−Zは互いに同一でも異なるものでもよい。)
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の粒子の分散剤の保護基を脱離することにより得られる、水分散性粒子。
【請求項11】
少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で粒子を被覆する工程を含む、有機溶媒分散性粒子の製造方法。
【請求項12】
(1)少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で粒子を被覆する工程、及び(2)工程(1)で得られた粒子の分散剤の保護基を脱離する工程を含む、水分散性粒子の製造方法。
【請求項13】
下記式(1)で表される分子からなる分散剤。
(X)m−L−(Y−Z)n (1)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは(m+n)価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示し、mは1又は2を示し、nは1から5の整数を示し、mが2の場合、2個のXは互いに同一でも異なるものでもよく、nが2以上の場合、n個のY−Zは互いに同一でも異なるものでもよい。)
【請求項14】
下記式(2)で表される分子からなる分散剤。
X−L−Y−Z (2)
(式中、Xは極性官能基を示し、Lは2価の連結基を示し、Yは極性官能基を示し、XとYは同一でも異なっていてもよく、Zは極性官能基の保護基を示す)
【請求項15】
Xがカルボキシル基であり、Lが炭素数1〜10のアルキレン基、又はポリエチレングリコール基を示し、Yがアミノ基又はカルボキシル基である、請求項14又は14に記載の分散剤。
【請求項16】
請求項1から10の何れかに記載の粒子を含む、温熱療法剤。
【請求項17】
請求項1から10の何れかに記載の粒子を含む、MRI造影剤。
【請求項18】
請求項1から10の何れかに記載の粒子を含む、薬物送達剤。
【請求項19】
請求項1から10の何れかに記載の粒子を含む、分析診断用プローブ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127241(P2008−127241A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313953(P2006−313953)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】