説明

水性インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像

【課題】顔料インクにおいて、記録媒体の浸透性能に依らずに高い印字濃度を得られ、且つ印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた水性インク、該インクを用いるインクタンク、記録装置及びインクジェット記録画像の提供。
【解決手段】水と複数の水溶性有機溶剤と分散性色材とを含み、水溶性有機溶剤として分散性色材に対する良溶媒と貧溶媒とを含む水性インクにおいて、分散性色材が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し且つ該色材と該微粒子とが固着している分散性色材であり、更にインク中における良溶媒の全量をA、貧溶媒の全量をBとした場合に、A:Bが10:5〜10:30の範囲内にあり、且つ、ブリストウ法によって求められる水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち、最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒である水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性色材を含有する水性インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着色剤として水不溶性色材、例えば、顔料を含むインク(顔料インク)によれば、耐水性や耐光性等の堅牢性に優れた画像が得られることが知られている。このような色材を水性インクジェット記録用インクとして用いるためには、水中に安定に分散させることが必要となる。この場合、一般的に、界面活性剤若しくは高分子分散剤(以下、分散樹脂とも呼ぶ)を用いて分散安定化する方法が用いられてきた。
【0003】
又、水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。又、顔料を樹脂で被覆するマイクロカプセル型顔料が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。特に、特許文献3では、水不溶性着色剤を含有する水系着色微粒子分散物が開示されており、「該着色微粒子分散物が水不溶性着色剤を分散剤の存在下で水系媒体中に分散させた後にビニルモノマーを添加して重合したものであり、該分散剤が水不溶性着色剤を分散した場合には分散安定性を示し、且つ該分散剤のみの存在下で該ビニルモノマーを重合した場合には生じるラテックスの安定性が乏しいことを特徴とする水系着色微粒子分散物」が開示されている。
【0004】
一方、このようなインクによって形成されてなる画像の光学濃度の、より一層の向上を目的として、種々の技術が提案されている。例えば、自己分散型カーボンブラックと特定の塩とを含有させてなるインクを用いることにより、画像濃度のより一層の向上を達成できることが提案されている(例えば、特許文献4参照)。又、顔料、ポリマー微粒子、水溶性有機溶媒及び水を含む組成物であるインクジェット記録用インクと多価金属含有水溶液とを記録媒体に付着させ、該インク組成物と多価金属水溶液とを反応させて、高品位な画像を形成する技術の提案がある(例えば、特許文献5参照)。これらの技術では、いずれの場合も、インク中に分散状態で存在している顔料を、記録媒体表面で強制的に凝集させ、このことによって記録媒体中への顔料の浸透を抑制し、従来の顔料インクによって得られる画像に対して、より一層濃度の高い画像を得ている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開平8−183920号公報
【特許文献3】特開2003−34770公報
【特許文献4】特開2000−198955公報
【特許文献5】特開2000−63719公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、さまざまな記録媒体が存在する中で、記録媒体の浸透性能に依らずに常に高い印字濃度を得られ、且つ印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性を充分に得られるインクは得られていないのが現状である。
【0007】
従って、本発明の目的は、顔料インクにおいて、記録媒体の浸透性能に依らずに高い印字濃度を得ることができ、且つ印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた水性インクを提供する点にある。又、本発明の他の目的は、優れた長期保存性及び吐出安定性を有しながら、常に高い印字濃度を得られる水性インクを提供する点にある。又、本発明の他の目的は、優れた印字品位を有しながら、他のインクとのブリード(混色滲み)の発生が抑制される耐ブリード性能に優れた水性インクを提供する点にある。又、本発明の他の目的は、常に高い印字濃度を維持しながら優れた速乾性を有する水性インクを提供する点にある。更に、本発明の別の目的は、かかる水性インクを用いた、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これに対し、本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、水と複数の水溶性有機溶剤と新規な構成の分散性色材とを含み、上記水溶性有機溶剤として、上記分散性色材に対する良溶媒と上記分散性色材に対する貧溶媒とをある特定の比率で含有している水性インクにおいて、優れた長期保存性及び吐出安定性を有し、記録媒体の浸透性能に依らずに高い印字濃度を得ることができ、且つ印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた水性インクを得た。
【0009】
即ち、本発明は、水と複数の水溶性有機溶剤と分散性色材とを含み、上記水溶性有機溶剤として、上記分散性色材に対する良溶媒と上記分散性色材に対する貧溶媒とを含有している水性インクにおいて、
上記分散性色材が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し且つ該色材と該荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材であり、
更に、インク中における良溶媒の全量(質量%)をA、インク中における貧溶媒の全量(質量%)をBとした場合に、A:Bが10:5〜10:30の範囲内にあり、且つ、ブリストウ法によって求められる、上記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち、最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であることを特徴とする水性インクである。
【0010】
又、本発明は、上記水性インクを含んでなることを特徴とするインクタンクである。
【0011】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0012】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0013】
又、本発明は、上記水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されることを特徴とするインクジェット記録画像である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた長期保存性及び吐出安定性を有し、記録媒体の浸透性能に依らずに高い印字濃度の画像を得ることができ、且つ、その印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた水性インクが提供される。又、本発明の別の効果として、優れた長期保存性及び吐出安定性を有しながら、常に高い印字濃度の画像が得られる水性インクが提供される。更に別の効果として、優れた印字品位を有しながら、耐ブリード性能に優れた水性インクが提供される。本発明の別の効果として、常に高い印字濃度を維持しながら優れた速乾性を有する画像が得られる水性インクが提供される。
【0015】
又、本発明の別の効果として、かかる水性インクを用いることで、浸透性の高い普通紙媒体においても良好な印字性能を与えるインクジェット記録方法が提供され、別の効果として、上記インクジェット記録方法に好適に用いることのできるインクタンク、インクジェット記録装置及びインクジェット記録画像が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかる水性インクは、ペン等による筆記具による記録方式、インクジェット記録方式、その他各種の印刷方式に用いることができるが、特に、本発明にかかる水性インクは、インクジェット記録方式の記録に好適に用いられる。
【0017】
[分散性色材]
本発明で使用する分散性色材の第一の特徴は、色材と、該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とからなる分散性色材であって、上記色材が、上記荷電性樹脂擬似微粒子を固着している点にある。図1に、本発明を特徴づける、色材1に、荷電性樹脂擬似微粒子2が固着している分散性色材の模式図を示した。図1(b)の2’の部分は、色材1の表面に固着した荷電性樹脂擬似微粒子2の一部が融着している状態を模式的に示した部分である。
【0018】
色材が荷電性樹脂擬似微粒子を固着することで、色材の表面に荷電性樹脂擬似微粒子による電荷が付与され、水又は水性インク媒体へ分散可能な分散性色材となる。又、同時に該分散性色材は、表面に固着している樹脂成分が存在することによって記録媒体への優れた接着性を有するものとなる。このとき、樹脂成分の単純な物理吸着ではなく、本発明で使用する分散性色材の特徴である、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着された状態としているため、荷電性樹脂擬似微粒子が色材表面から脱離することがないため、本発明で使用する分散性色材は長期保存安定性にも優れている。
【0019】
ここで、本発明における荷電性樹脂擬似微粒子とは、樹脂成分が強く凝集状態にある樹脂集合体であり、好ましくはその内部に物理的架橋が多く形成されているものである(樹脂集合体とは、樹脂成分が微粒子形態或いはそれに近い微小凝集体として安定な形態を有しているものである)。この荷電性樹脂擬似微粒子についての詳細は後述する。
【0020】
本発明における荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した状態は、色材表面と荷電性樹脂擬似微粒子との強い相互作用によるものであり、次のような状態で達成されていると考えられる。図4に、荷電性樹脂擬似微粒子の色材と接する界面を拡大した模式図を示した。先ず、荷電性樹脂擬似微粒子2は様々なモノマーユニット組成(図中に9−1及び9−2で示した)で構成されるポリマーが絡み合って形成されている。色材との界面において、ポリマーは局所的に多様な構造をとっているため、その局所的な表面エネルギーも多様な状態が分布している。色材の、化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーと、ポリマーの化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーとが、局所的によく一致する点において、色材とポリマーは強固に結合することとなる(図中に黒丸で示した部分)。更に、一つの荷電性樹脂擬似微粒子が色材と接する界面には、図4に示したように、10に示される、両者の表面エネルギーが局所的に一致する点が複数ある。この複数個所の強固な相互作用によって本願の固着状態は成り立っていると予想される。尚、本発明においては、図1(b)中の2’のような、荷電性擬似微粒子の表面積の例えば30%以上が色材と接するような状態を便宜上「融着」と称するが、これは固着の一形態であり、荷電性擬似微粒子と色材とが界面で溶け合っている必要はない。
【0021】
特に、荷電性樹脂擬似微粒子の内部は構成するポリマー間に強い相互作用が働いており、場合によっては構成するポリマーは互いに絡まりあって物理架橋を形成している。このため、荷電性樹脂擬似微粒子が多くの親水性基を有する場合にあっても、固着した前記荷電性樹脂擬似微粒子が色材から脱離したり、前記荷電性樹脂擬似微粒子から親水性基を有する樹脂成分が溶出しつづけたりすることがない。これに対し、前記した特許文献2のようなカプセル化方法においては、親水性の高い樹脂は色材と強く結合できないために、樹脂が色材から脱離し、結果として長期保存安定性が充分に得られない場合がある。
【0022】
又、本発明で使用する分散性色材が、色材に荷電性樹脂擬似微粒子を固着していることによるメリットとして、その形態によって分散性色材の比表面積が増大し、色材表面の多くの部分に荷電性樹脂擬似微粒子が表面に有する電荷を分布させることができることが挙げられる。この結果、分散性色材が高い比表面積を有することによって、荷電性樹脂擬似微粒子の有する電荷を極めて高い効率で分散性色材の表面電荷とすることができる。即ち、本発明で使用する分散性色材の形態は、より多くの表面電荷をより効率的に分散性色材の表面に配する形態であり、特許文献2に代表されるような、色材を樹脂で被覆する形態に比して、樹脂成分の実質酸価又はアミン価がより小さい場合においても高い分散安定性を付与できる。
【0023】
一般的に、有機顔料は、発色性の色材分子が強い相互作用によって結晶化することによって不溶化(顔料化)したものである。本発明で使用する色材を有機顔料とした分散性色材の場合は、前述したように、荷電性樹脂擬似微粒子と色材との界面に複数の相互作用点が分布しているので、荷電性樹脂擬似微粒子11は、顔料粒子中のいくつかの色材分子1aにまたがって固着する(図5参照)。従って、図6(a)及び(b)で説明される、局所的に色材分子1aが、親水性基12によって親水化されることによる「顔料剥離」は、本発明において起こることはない。好ましくは、有機顔料を色材として用いる場合においては、前記荷電性樹脂擬似微粒子の大きさを、顔料の分散粒径よりは小さく、且つ色材分子よりは大きい範囲に制御することによって、顔料の結晶構造を壊さずに、高い分散性を付与した有機顔料の分散性色材を得ることができる。
【0024】
本発明において、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を「固着」している状態は、簡易的には次のような三段階の分離を伴う手法で確認することができる。先ず、第一の分離にて、確認する対象の色材と、インク又は水分散体中に含まれるその他の水溶性成分(水溶性樹脂成分も含む)とを分離し、次に、第二の分離にて、第一の分離における沈澱物中に含まれる色材と水不溶性樹脂成分とを分離する。更に第三の分離にて、弱く吸着されている樹脂成分と、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材とを分離し、第三の分離の上澄みに含まれる樹脂成分の定量、及び第二の分離の沈澱物と第三の分離の沈澱物との比較、を行うことによって色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着を確認する。
【0025】
具体的には、例えば、次のような条件で確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体20gをとり、全固形分質量が約10%程度となるように調整し、遠心分離装置にて、12,000回転、60分の条件で第一の分離を行う。分離したうちの、色材を含んでいる下層の沈降物を、該沈降物のほぼ3倍量の純水に再分散し、続いて、80,000回転、90分の条件にて第二の分離を行う。色材を含んでいる下層の沈降物を3倍量の純水に再分散したものを、再び80,000回転、90分の条件にて第三の分離を行い、色材を含んでいる下層の沈降物を取り出す。第二の分離における沈降物と、第三の分離における沈降物をそれぞれ固形分で0.5g程度となるようにとり、30℃、18時間にて減圧乾燥させたものを、走査型電子顕微鏡にて5万倍で観察する。そして、観察された分散性色材が、その表面に微粒子様物質又はそれに準ずる微小集合体を複数付着している様子が確認され、且つ第二の分離と第三の分離からのそれぞれの沈降物が同様の形態を有していれば、この色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断される。更に、第三の分離における上層の上澄み分を上から静かに体積で半分程度となるようにとり、60℃、8時間にて乾燥させた前後の質量変化から固形分率質量を算出し、その変化が1%未満であれば、分散性色材から樹脂擬似微粒子の脱離がないと考えられ、分散性色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断できる。
【0026】
上記した分離条件は好ましい例であり、その他のどのような分離方法又は分離条件にあっても、上述した第一の分離及び第二、第三の分離の目的を達する手法であれば、本発明で使用する分散性色材であるか否かの判定方法として適用することができる。即ち、第一の分離は、インク及び水分散体中に含まれる色材及びそれに吸着している樹脂成分と、水溶性成分とを分離することが目的であり、第二の分離は、色材及び色材に固着している樹脂成分と、色材に吸着しているその他の樹脂成分とを分離することが目的である。更に、第三の分離は、色材に固着している樹脂成分が脱離しないことを確認することが目的である。勿論、第一、第二及び第三の分離のそれぞれの目的を達する分離手法であれば、その他、公知或いは新しく開発されるどのような分離手法でもよく、その手順も三段階より多くても、又、少なくても適用できる。
【0027】
本発明で使用する分散性色材の第二の特徴は、水不溶性色材1が荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態で、単独で水性媒体中に分散し得る分散性色材である点にある。前述したように、本発明で使用する分散性色材は、本質的には他の界面活性剤や高分子分散剤等の助けがなくとも、安定に水及び水性インク中に分散できる、自己分散性色材である。この定義及び判定方法については後に詳細に述べる。従って、本発明で使用する分散性色材は、長期的に脱離する可能性がある高分子分散剤やその他の樹脂成分、或いは、界面活性剤成分を色材の分散安定化を目的として添加する必要がない。その結果、本発明で使用する分散性色材を水性インクとして用いた場合には、分散性色材以外の成分に関する設計の自由度が大きくなり、例えば、普通紙のようなインクの浸透性が高い記録媒体上においても充分に高い印字濃度を得られる水性インクとすることも可能である。
【0028】
本発明で使用する分散性色材の自己分散性については、例えば、次のようにして確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮する。この濃縮液を遠心分離装置にて12,000回転、2時間の条件で分離し、沈降物を取り出して純水に再分散させる。このとき、沈降物が良好に再分散し得るものが、自己分散性を有すると判断される。良好に再分散しているかどうかは、目で見て均一に分散していること、1〜2時間静置している間に目立った沈降物が発生しないか、あっても軽く震蕩すれば元に戻ること、動的光散乱法にて分散粒径を測定した際に、平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であること、等から総合的に判断できる。
【0029】
前述したように、本発明で使用する分散性色材は、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を固着することによって高い比表面積を有する形態をとり、その広大な表面に多くの電荷を有することで、優れた保存安定性を実現する。従って、荷電性樹脂擬似微粒子は、色材に対して多数、且つ点在して固着していることにより更に好ましい結果が得られる。特に、固着している荷電性樹脂擬似微粒子間に一定の距離があり、好ましくは均一に分布していることが望ましい。更に好ましくは、荷電性樹脂擬似微粒子間に色材の粒子表面が一部露出していることが望ましい。このような形態は、本発明にかかる水性インクを透過型電子顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡で観察することにより確認される。即ち、色材表面に固着している荷電性樹脂擬似微粒子が、一定の距離をおいて複数固着しているか、或いは固着している荷電性樹脂擬似微粒子間に、色材表面が露出している状態が観察できる。尚、荷電性樹脂擬似微粒子は、時に部分的に近接し、場合によっては融着しているものも観察され得るが、この場合であっても、全体として荷電性樹脂擬似微粒子間に距離があり、又は色材表面が露出している部分があり、なおかつ、これらの状態が分布している場合には、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に対して点在して固着していると見なされることは、当業者には明白である。
【0030】
更に、本発明で使用する上記した特徴を有する分散性色材を含む水性インクは、記録媒体上で優れた速乾性を示すことが明らかとなった。この理由は定かではないが、次のようなメカニズムに基づくと考えられる。前記分散性色材は上述したように、色材表面に荷電性樹脂擬似微粒子を固着した形態にてインク中に分散している。このインクが記録媒体上に到達したとき、インク中の水性溶媒(以下、インク溶媒)は、毛細管現象により記録媒体上の細孔(普通紙の場合はセルロース繊維間の空隙であり、コート紙や光沢紙の場合は受容層の細孔である)へ吸収される。このとき、本発明で使用する分散性色材は、その形態的特徴から、色材同士が接した部分に荷電性樹脂擬似微粒子が点在して細かい隙間を多く形成する。このため、色材間に存在するインク溶媒に毛細管現象が働いて、速やかに記録媒体中に吸収される。本発明にかかる水性インクにおいて、荷電性樹脂擬似微粒子が表面に点在した形態の分散性色材を使用しているものが、より好ましい速乾性を示すことからも、上述したメカニズムによって速乾性が達成されていることが予想される。
【0031】
本発明にかかる分散性色材の表面官能基密度は、250μmol/g以上1,000μmol/g未満が好ましく、290μmol/g以上900μmol/g未満が更に好ましい。この範囲より小さな表面官能基密度を有する場合、分散性色材の長期保存安定性が悪くなることがある。又、この範囲よりかなり大きな表面官能基密度を有する場合には、分散安定性が高くなりすぎて、記録媒体上で浸透し易くなり、高い印字濃度を確保することが難しくなる場合がある。一方、色材としてカーボンブラックを用いる場合は、カーボンブラックの比重が高く分散安定性を高める必要があることと、特に、記録媒体上での黒濃度は高いものが好まれることから、この場合は、色材の表面官能基密度を350μmol/g以上800μmol/g未満に設定することが更に好ましい。
【0032】
上記表面官能基密度は、例えば、次のようにして求める。先ず、測定対象の分散性色材を含む水分散体又はインクに大過剰量の塩酸(HCl)水溶液を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降させる。沈降物を回収し、純水に再分散させた後、乾燥法にて固形分率を測定する。再分散させた沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させる。上澄みを秤量し、0.1規定の塩酸にて中和滴定より求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量を差し引くことで、色材1gあたりのmol数として、表面官能基密度が求められる。
【0033】
次に、本発明で使用する分散性色材を構成する各成分について説明する。
【0034】
[色材]
本発明で使用する分散性色材の構成成分である色材について以下に説明する。本発明で用いられる色材としては公知又は新規に開発された色材のうち、水に不溶な色材で、分散剤とともに水中にて安定に分散できるものを使用することが望ましい。このようなものとしては、疎水性染料、無機顔料、有機顔料、金属コロイド、着色樹脂粒子等が挙げられる。好ましくは、分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲となる色材を使用する。この範囲に分散された色材を用いた分散性色材は、水性インクとして用いた場合に、高い着色力と高い耐候性を有する画像を与える好ましい分散性色材となる。尚、かかる分散粒径は、動的光散乱法によって測定された粒径のキュムラント平均値とする。
【0035】
本発明において、色材に有効に用いることのできる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット及びマイカ等が挙げられる。
【0036】
本発明において有効に用いることのできる有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系及びイソインドリノン系等の各種顔料が挙げられる。
【0037】
その他、本発明で用いることのできる有機性の不溶性色材としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、フタロシアニン系、カルボニル系、キノンイミン系、メチン系、キノリン系及びニトロ系等の疎水性染料が挙げられる。これらの中でも分散染料が特に好ましい。
【0038】
又、本発明の水性インクに含まれる分散性色材を構成する色材が表面に親水性基を有する色材である場合には、優れた印字品位を有しながら、他のインクとの耐ブリード性能に特に優れたインクとなることが本発明者らの検討により明らかとなった。これは、上記色材が表面にもともと親水性基を有することにより、水性インクを構成する界面活性剤や浸透剤、又は水溶性高分子成分等の吸着を妨げ、前述した記録媒体上での貧溶媒による画像形成効果が高まることによると考えられる。
【0039】
表面に親水性基を有する色材としては、カーボンブラックであれば酸化カーボン等、色材表面に水酸基やカルボニル基を、カルボキシル基等を多く有するものが好ましく用いられる。特に、水不溶性色材自体の分散性を高め、分散剤等を用いることなく分散可能とした自己分散型の顔料を使用することも好ましい。自己分散型顔料としては、顔料粒子表面に、親水性基が直接若しくは他の原子団を介して化学的に結合しているものが挙げられる。例えば、顔料粒子表面に導入された親水性基が、−COOM1、−SO31及び−PO3H(M1)2(式中のM1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。)からなる群から選ばれるもの等を好適に用いることができる。更に上記他の原子団が、炭素原子数1〜12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基であるもの、より具体的な例としては、例えば、−C24−COOM1、−Ph−SO31及び−Ph−COOM1等(但し、Phはフェニル基を表す)等を好適に用いることができる。
【0040】
親水性基を色材の表面に直接導入する方法としては湿式酸化法が挙げられる。この方法は、水相に色材を含浸せしめ、ペルオキソ2酸或いはペルオキソ2酸塩等の酸化剤を添加して、60〜90℃程度で反応せしめ、表面酸化を行う方法である。このような色材、特にカーボンブラックに対する湿式酸化は、より具体的には、特開2003−183539公報に記載される方法等により実施できる。
【0041】
又、湿式酸化の別の方法としては特開2003−96372公報に記載されるように次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸類を用いて酸化する方法もある。この時、酸化するカーボンとしてはガスブラックや酸性ブラック等の比較的親水性のカーボンを用いた場合の方がより均一な酸化が可能となる。その他にも、水中オゾン処理でカーボンを酸化する方法、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、カーボンブラック表面を改質する方法等も好適に用いることができる。
【0042】
一方、親水性基を色材の表面に他の原子団を介して導入する方法としては、例えば、色材にp−アミノベンゼンスルホン酸をジアゾ化し色材に反応させる方法が挙げられるが、もちろん本発明はこれらに限定されるわけではない。尚、上記のようなジアゾ化による親水性官能基導入においては、副反応を抑えるために色材が第1級アミンを持たないことが望ましい。
【0043】
ここで、上述の場合においては、本発明の分散性色材には、荷電性樹脂擬似微粒子に基づく親水基(表面電荷)を更に有している。上述の色材に直接結合していると帰属される親水基と、疑似微粒子が有していると帰属される親水基は、以下のように分離区別することができる。
【0044】
本発明の分散性色材を含むインクを遠心分離装置にて12,000回転、60分間の条件で分離する。分離後、色材を含んでいる下層の沈澱物を取り出し、これをトルエンやアセトン等の樹脂に対する溶解性の高い有機溶剤に投入し、溶解させる。このため、固着又は融着している荷電性樹脂擬似微粒子は溶解してしまうために分散性色材から脱離して、色材そのものが有機溶剤中に存在している。次に、これを遠心分離装置において80,000回転させ、色材を沈澱、分離させる。次に、この色材を洗浄後、純水中に再分散させる。
【0045】
本発明のインクから取り出した色材は上記の方法によって再分散し、表面電荷の測定が可能である。一方、界面活性剤や高分子樹脂等の分散剤を吸着して得た場合、更には従来のマイクロカプセル化によって得られた水分散体やインクにおいては、有機溶媒に投入した時点で吸着していた成分が溶解し、水不溶性色材から脱離するために、純水中に再分散されず、本発明における水不溶性色材そのものの表面電荷を測定することはできない。
【0046】
更に、このような色材表面の親水性(酸化)の度合いは、色材の加熱減量(揮発分(%))として評価することができる。本発明における加熱重量減少量としては2質量%以上20質量%以下が好ましい。上記範囲より少ない場合には、色材表面の親水性が低いため単独での十分な分散安定性が得られない場合がある。又、上記範囲より多い場合には、十分な画像濃度やブリード等の品位が得られない場合がある。
【0047】
このようなカーボンブラック表面の酸化の度合いは、カーボンブラックの揮発分(%)として評価されている。通常、カーボンブラックを真空状態下に、1,000℃程度まで加熱を行うと、表面に存在する官能基の種類に応じたガスが発生し、該ガスの総量、或いはガス種を分析することにより、表面官能基の種類と量を知ることができる。又、加熱重量減少量の総和が高い程、親水基を大量に有するカーボンであることが分かる。尚、一般的には、顔料表面にカルボキシル基や水酸基等の親水性基は殆どなく、カーボンブラックの場合、通常のファーネス法による疎水性カーボンブラックの揮発分は2質量%以下である。
【0048】
[荷電性樹脂擬似微粒子]
本発明で使用する分散性色材のもう一つの構成成分である荷電性樹脂擬似微粒子は、水に対し実質的に不溶であり、固着する対象である色材の水中(或いはインク中)での分散単位(分散粒径)は小さく、充分に重合度の高い樹脂成分が集合してなる微小体と定義される。微小体の形態としては擬似的に球体に近いか、又は複数の微小体(荷電性樹脂擬似微粒子)の大きさが一定範囲内で揃っているものである。好ましくは荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、互いに物理的に又は化学的に架橋されていることが望ましい。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分が互いに架橋されているかどうかについては、例えば、以下のような手法を用いることで確かめられる。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分を予め公知の分析方法にて推定し、同じ化学構造となる(又は同じモノマーユニット組成となる)直鎖型ポリマーを溶液重合にて合成し、そのポリマーに対して良溶媒である有機溶媒に荷電性樹脂擬似微粒子及びポリマーをそれぞれ浸漬させてその溶解性を比較したとき、荷電性樹脂擬似微粒子の溶解性がポリマーの溶解性よりも低い場合に、荷電性樹脂擬似微粒子の内部が架橋されていることが確かめられる。
【0049】
又、別の好ましい様態としては、荷電性樹脂擬似微粒子の水中での分散粒径が、例えば、動的光散乱法にて測定可能な場合においては、好ましくはそのキュムラント分散粒径の平均値が10nm以上200nm以下の範囲にあることが望ましい。更に、分散性色材の長期保存安定性の観点からは、分散粒径の多分散度指数が0.2未満に抑えられることが更に好ましい。分散粒径の中心値が200nmより大きい場合又は多分散度指数が0.2より大きい場合には、色材を微細に分散安定化するという本来の目的が充分達成されない場合がある。又、分散粒径の平均値が10nmより小さい場合には、荷電性樹脂擬似微粒子としての形態を充分に維持できず、樹脂が水に溶解し易くなるために、本発明のメリットが得られない場合がある。一方、10nm以上200nm以下の範囲にて、更にその粒径が色材粒子そのものよりも小さいことによって、本発明における荷電性樹脂擬似微粒子の固着による色材の分散安定化が効果的に発現される。上記の好ましい様態は、荷電性樹脂擬似微粒子の分散粒径が測定不可能な場合においても同様であり、その場合は、例えば、電子顕微鏡観察における前記荷電性樹脂擬似微粒子の平均径が、上記した好ましい範囲か又はそれに準ずる範囲と考えられる。
【0050】
又、色材が有機顔料である場合においては、上記の範囲に加えて、前述したように荷電性樹脂擬似微粒子が顔料の分散粒径よりは小さく、且つ色材分子より大きい範囲とすることによって、構造的に極めて安定で且つ高い分散性を有する分散性色材が得られるので、特に望ましい。
【0051】
本発明における荷電性とは、水性媒体中においてそのもの自身が何らかのかたちでイオン化した官能基を保持しており、望ましくはその荷電性によって自己分散可能である状態をいう。従って、荷電性樹脂擬似微粒子であるかどうかについては、公知且つ任意の手法にて、荷電性樹脂擬似微粒子の表面ゼータ電位を測定する方法、後述するような手法にて電位差滴定を行い、官能基密度として算出する方法、荷電性樹脂擬似微粒子の水系分散体中に電解質を添加して分散安定性の電解質濃度依存性を確かめる方法、又は、荷電性樹脂擬似微粒子の化学構造分析を公知の手法にて行い、イオン性官能基の有無を調べる方法、のいずれかの方法で確認することができる。
【0052】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、一般的に用いられるあらゆる天然又は合成高分子、或いは本発明のために新規に開発された高分子等、いかなる樹脂成分であっても制限なく使用できる。使用できる樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類等が挙げられる。特に、一般的に使用でき、荷電性樹脂擬似微粒子の機能設計を簡便に行える観点から、アクリル樹脂やスチレン/アクリル樹脂が類される、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー成分の重合体或いは共重合体が、好ましく使用できる。
【0053】
本発明ではラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー(以降、ラジカル重合性モノマー或いは単にモノマーとして表記する)が好ましく用いられる。例えば、以下のようなものが挙げられる。疎水性モノマーと分類される、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸トリデシル及びメタクリル酸ベンジル等の如き(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン及びp−tert−ブチルスチレン等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び酢酸ビニル等が挙げられる。尚、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸とアクリル酸を意味する。
【0054】
又、以下のような親水性モノマーとして分類されるものも好ましく用いられる。例えば、アニオン性基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸及びフマール酸等の如きカルボキシル基を有するモノマー及びこれらの塩、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル及びブチルアクリルアミドスルホン酸等の如きスルホン酸基を有するモノマーとこれらの塩、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル及びアクリル酸−2−ホスホン酸エチル等の如きホスホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリル酸及びメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0055】
又、カチオン性基を有するモノマーとしてはアクリル酸アミノエチル、アクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸アミノエチル及びメタクリル酸アミノプロピル等の如き第1級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸メチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノプロピル、アクリル酸エチルアミノエチル、アクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノプロピル、メタクリル酸エチルアミノエチル及びメタクリル酸エチルアミノプロピル等の如き第2級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノプロピル、アクリル酸ジエチルアミノプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピル及びメタクリル酸ジエチルアミノプロピル等の如き第3級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩及びメタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の如き第4級アンモニウム基を有するモノマー、各種ビニルイミダゾール類等が挙げられる。
【0056】
又、ノニオン性の親水性モノマーとしては、具体的には、例えば、構造内にラジカル重合性の不飽和結合と強い親水性を示すヒドロキシル基を同時に有するモノマー類がこれに当てはまる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル等がこれに分類される。この他、公知又は新規の各種オリゴマー及びマクロモノマー等についても制限なく使用できる。
【0057】
上記のモノマーの中でも特に、上記荷電性樹脂擬似微粒子が、式(1):
CH2=C(R1)COO(R2O)n3 (1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を、R3は水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基を、nは1〜60の数を示す。)
で表される単量体を少なくとも含んで重合された重合体を少なくとも含む場合には特に、常に高い印字濃度を与えながらも、優れた速乾性を有する水性インクとなることが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0058】
上記式(1)で表されるモノマーの代表例としては、末端が水素原子であるポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(1)中のnの値を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、末端に水素原子、メチル基又はエチル基を有するメトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
【0059】
前記式(1)で表されるモノマーの中では、メトキシ末端ポリエチレングリコール(4モル)メタクリル酸エステル〔例えば、新中村化学(株)製、商品名:NKエステルM−40G等〕、メトキシ末端ポリエチレングリコール(9モル)メタクリル酸エステル〔例えば、新中村化学(株)製、商品名:NKエステルM−90G等〕、メトキシ末端ポリエチレングリコール(2モル)メタクリル酸エステル〔例えば、新中村化学(株)製、商品名:NKエステルM−230G等〕、末端メトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリル酸エステル〔例えば、新中村化学(株)製、商品名:NKエステルAM−90G等〕、フェニノキシ末端ポリエチレングリコール(6モル)アクリレート〔例えば、新中村化学(株)製、商品名:NKエステルAMP−60G等〕、末端水酸基ポリエチレングリコール(5モル)メタクリレート〔例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:MA−50等〕、末端水酸基ポリエチレングリコール(10モル)メタクリレート〔例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:MA−100等〕が好ましい。これらの中では、より優れた分散安定性と高い印字濃度を得ることができる観点から、メトキシ末端のポリエチレングリコールメタクリル酸エステルがより好ましく、ポリエチレングリコール鎖中のオキシエチレンが4〜9モルであることが更に好ましい。
【0060】
荷電性樹脂擬似微粒子に上記した式(1)で表される単量体を少なくとも含んで重合された重合体を少なくとも含む場合には、上記荷電性樹脂擬似微粒子全体の1質量%以上70質量%未満、更に好ましくは3質量%以上60質量%未満とすることが上記荷電性樹脂擬似微粒子の水性インク中での形態安定性の観点から望ましい。
【0061】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成するモノマーの種類や共重合比率、作製する際に使用する重合開始剤の種類や濃度等の多くの制御因子によって、分散性色材及び荷電性樹脂擬似微粒子の種々の特性を、適宜に制御することが可能である。特に荷電性樹脂擬似微粒子を上記に列挙したモノマーのうち、少なくとも1種類の疎水性モノマーと少なくとも1種類の親水性モノマーとを含むモノマー成分の共重合体からなる構成とすることは望ましい様態である。このとき少なくとも1種類の疎水性モノマーを用いて構成することで、色材への良好な固着性と熱安定性を、少なくとも1種類の親水性モノマーを用いて構成することで良好な形態制御と分散安定性をそれぞれ付与できる。従って、これらのモノマーを同時に用いることで、常に良好に色材に固着し、且つ良好な分散安定性を付与できる荷電性樹脂擬似微粒子を得ることができる。上記の条件を満たした上で更に荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分のモノマー種や共重合比率を適宜選択することにより、本発明にかかる分散性色材及び/又は色材に固着される荷電性樹脂擬似微粒子に更なる機能性を付与できる。
【0062】
例えば、前記疎水性モノマーとして、α位にメチル基を有し且つラジカル重合性不飽和二重結合を有するモノマーを少なくとも含有したものを使用することも好ましい形態である。α位にメチル基を有するラジカル重合性モノマーを用いた荷電性樹脂擬似微粒子を固着することにより、特に熱エネルギーによりインクを吐出させるサーマルインクジェット方式において、分散性色材を含む水性インクの吐出性が極めて良好になる。この理由は明らかでないが、α位にメチル基を有するラジカル重合性モノマーを用いた樹脂は、高温にて解重合を起こすことから、インクに熱エネルギーが加わったときにα位にメチル基を有するモノマー成分から構成された樹脂が解重合を起こし、吐出口内へのこびりつきが起こりにくくなるため、吐出性が向上すると考えられる。
【0063】
又、前記疎水性モノマーとして、アクリル酸アルキルエステル化合物及びメタアクリル酸アルキルエステル化合物(以降、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物のように表記する)を少なくとも含有することも好ましい形態である。(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物は、色材への良好な接着性を有すると同時に、前記親水性モノマー成分との共重合性に優れ、荷電性樹脂擬似微粒子の表面性質の均一性及び色材への均一な固着性という観点から好ましい結果を与える。
【0064】
上記した好ましい疎水性モノマー類のうち、メタクリル酸ベンジル又はメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも1種を含むことは特に好ましい。上述した好ましい理由に加え、上記2種のモノマーは、荷電性樹脂擬似微粒子に好ましい耐熱性と透明性を付与するため、この荷電性樹脂擬似微粒子を固着してなる分散性色材は優れた発色性を示す。
【0065】
上述したように、荷電性樹脂擬似微粒子を構成するモノマー種や共重合比率を適宜選択することにより、本発明の分散性色材及び/又は色材に固着される荷電性樹脂擬似微粒子の性質を制御することができるが、荷電性樹脂擬似微粒子に含まれる共重合体成分のガラス転移温度が−40℃以上60℃以下、好ましくは−30℃以上55℃以下、更に好ましくは−25℃以上53℃以下となるように制御することも好ましい形態である。このような荷電性樹脂擬似微粒子を得るには、上述した好ましく用いられるモノマー群のうち、そのモノマーから得られるホモポリマーのガラス転移温度が低いことが知られているものを選択して用いる。例えば、アクリル酸−n−ブチルとアクリル酸をモノマーとして適切な比率で用いることも好ましい実施形態である。又、メタクリル酸エチルとメタクリル酸をモノマーとして適切な比率で用いることも別の好ましい実施形態である。
【0066】
ガラス転移温度が−40℃以上60℃以下となる共重合体成分を含んで構成される分散性色材は、荷電性樹脂擬似微粒子に付与される高い造膜性によって、記録紙上で隣り合った色材と造膜し、強固な着色膜を形成し得る。従って、このような構成を有する分散性色材を用いて得られる印字物に、高い耐擦過性を付与するだけでなく、耐擦過性に極めて不利な光沢性記録媒体上においても耐擦過性の優れた印字物とすることができる。
【0067】
荷電性樹脂擬似微粒子のガラス転移温度は、以下の手順により測定することができる。分散性色材を塩酸等により酸析を行って析出分を回収する。更に、析出分をTHF(テトラヒドロフラン)等の有機溶剤を用いてソックスレー抽出し、有機溶剤を留去することで色材に固着した荷電性樹脂擬似微粒子を得ることができる。得られた荷電性樹脂擬似微粒子成分示差走査熱分析することでガラス転移温度を測定することができる。例えば、METTLER社製のDSC822e等の装置を用いるとよい。分散性色材と水溶性ノニオン性樹脂が共存する水分散液の場合には、遠心分離装置を用いて分離することができる。例えば、12,000rpmの遠心分離条件で分離を行うと、分散性色材を沈降分として得ることができる。
【0068】
[荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への固着]
荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法、及び色材への固着方法は、その手順及び方法は公知である荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法や、荷電性樹脂擬似微粒子と色材の複合化方法によって実施し得る。これに対して、本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明の特徴である、色材と、該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、該色材に、該荷電性樹脂擬似微粒子が固着している状態の散性色材を簡便に得ることができる製造方法を発明するに至った。以下、本発明で使用する分散性色材が容易に得られる、分散性色材の好適な製造方法について説明する。又、自己分散性の色材であれば、分散体そのものを調製する。
【0069】
本発明者らの検討の結果、上述したような特性を有する本発明で使用する分散性色材は、下記の条件で水系析出重合法を適用することによって、極めて簡便に製造できることが明らかとなった。かかる製造方法では、先ず、分散剤にて水不溶性色材を分散することによって該水不溶性色材の分散水溶液を調製する。次いで、この分散水溶液にて、水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合する工程によって、色材に荷電性樹脂擬似微粒子を固着させる。この水系析出重合する工程を経て得られた分散性色材は、水系析出重合過程にて合成された荷電性樹脂擬似微粒子が、均一且つ点在した状態で色材に強力に固着した水不溶性色材となり、単独での分散安定性に優れたものとなる。又、上記した水系析出重合過程において、荷電性樹脂擬似微粒子の特性を、これまで述べたような好ましい形態に簡便に制御することができるが、その際にも、本発明の特徴である色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着状態が良好に達成される。以降、上記製造方法における好ましい実施形態を更に詳しく述べる。
【0070】
(水不溶性色材の分散)
先ず、前述したような本発明に好ましく用いられる水不溶性色材を分散剤にて分散して、水分散体とする。色材を水溶液に分散させるための分散剤としては、イオン性、ノニオン性等、いずれのものも使用できるが、その後の重合工程での分散安定性を保つ観点から、高分子分散剤又は水溶性高分子を用いることが望ましい。特に、充分な水溶性を示し、色材微粒子表面及び重合工程で加えられるラジカル重合性モノマー、特に疎水性モノマーの油滴界面への吸着サイトとなる、疎水部分を有しているものが好ましく用いられる。更に望ましくは、その後の重合工程で用いる疎水性モノマーのうちの少なくとも1種類が、分散剤を構成するユニットとして存在しているようにすることが、その後の重合工程において荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着を誘起し易い観点から、好ましい。
【0071】
本発明で使用できる分散剤として機能する、高分子分散剤及び水溶性高分子の製造方法は、特に限定されず、例えば、イオン性基を有するモノマーと、他の重合し得るモノマーとを、非反応性溶媒中で、触媒の存在下又は不存在下で反応させることにより製造できる。特に、前述したようなイオン性基を有するモノマーと、スチレンモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるスチレン/アクリル系高分子化合物、又はイオン性基を有するモノマーと、炭素原子の個数が5以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるイオン性基含有アクリル系高分子化合物から、選ばれる分散剤を用いると良好な結果となることが明らかとなっている。この際、得られる分散性色材が特にアニオン性基を有することを目的としている場合には、アニオン性の分散剤を、一方、得られる分散性色材が特にカチオン性基を有することを目的としている場合には、カチオン性基を有するか或いはノニオン性の分散剤を、それぞれ選択することが望ましい。
【0072】
後の水系析出重合の過程で、荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着を促進することと、重合過程での色材の分散安定性を保持することを両立する観点から、アニオン性分散剤を用いる場合には酸価100以上250以下のもの、カチオン性分散剤を用いる場合にはアミン価150以上300以下のもの、をそれぞれ用いることも望ましい形態である。酸価及びアミン価がこの範囲より小さい場合には、水系析出重合の際に、疎水性モノマーと分散剤との親和性が、色材と分散剤との親和性より高くなり、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着するより前に分散剤が色材表面から脱離して、分散状態を保てなくなる場合がある。又、酸価及びアミン価がこの範囲より大きい場合には、色材表面での分散剤の排除体積効果及び静電反発力が強くなり過ぎるために、色材への荷電性樹脂擬似微粒子の固着が阻害される場合がある。アニオン性分散剤を用いる場合には、色材への樹脂微粒子の固着を阻害しない観点から、アニオン性基としてカルボキシル基を有する分散剤を選択することが好ましい。
【0073】
水不溶性色材を分散剤にて分散水溶液とする過程において、色材は、好ましくは分散粒径が0.01μm以上0.5μm以下(10nm以上500nm以下)の範囲、特に好ましくは0.03μm以上0.3μm以下(30nm以上300nm以下)の範囲に分散する。この過程での分散粒径が、得られる分散性色材の分散粒径に大きく反映し、前述した着色力や画像の耐候性の観点、及び分散安定性の観点から、上記の範囲が好ましい。
【0074】
又、本発明で使用する水不溶性色材の分散粒径分布は、なるべく単分散であることが好ましい。一般的には、帯電樹脂擬似微粒子が固着して得られる分散性色材の粒径分布は、図2(b)に示した重合工程よりも前の、分散水溶液の粒径分布よりも狭くなる傾向にあるが、基本的には、上記した分散水溶液の粒径分布に依存する。又、色材と帯電樹脂擬似微粒子とのヘテロ凝集による固着を確実に誘起するためにも、色材の粒径分布を狭くすることは重要である。本発明者らの検討によれば、色材の多分散度指数が0.25以下の範囲にあるものを使用したときに、得られる分散性色材の分散安定性が優れたものとなる。
【0075】
ここで、分散状態にある色材の粒径は各種測定方式で異なり、特に、有機顔料は球形粒子である場合は極めて少ないが、本発明においては、大塚電子工業社製ELS−8000にて動的光散乱法を原理として測定し、キュムラント解析することによって求められた平均粒径と多分散度指数を用いた。
【0076】
水不溶性色材を水に分散させる方法は、前記したような条件で色材が水に安定に分散できる方法のうち、前記したような分散剤を用いた方法であればいずれでもよく、従来知られているいずれの方法にも限定されない。或いは本発明のために新規に開発された分散方法であってもよい。使用する高分子分散剤の添加量としては、一般的には、例えば、水不溶性色材が顔料である場合は、顔料に対し10質量%以上130質量%以下とすることが適している。
【0077】
本発明で用いられる色材の分散方法としては、例えば、ペイントシェイカー、サンドミル、アジテーターミル、3本ロールミル等の分散機やマイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルチマイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波分散機等、それぞれの色材に一般的に用いられる分散方法であれば、どのような手法でも制限されない。
【0078】
[ラジカル重合開始剤]
本発明で使用するラジカル重合開始剤としては、一般的な水溶性のラジカル重合開始剤であれば、どのようなものでも使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤の具体的な例としては、過硫酸塩、水溶性アゾ化合物等が挙げられる。或いは水溶性ラジカル重合開始剤と還元剤の組み合わせによるレドックス開始剤であってもよい。具体的には、前記に列挙した色材、分散剤、モノマーの特性を考慮して、最適な組み合わせとなるように設計して使用する。望ましくは、得られる分散性色材の表面特性と同荷電の重合開始剤残基を与える重合開始剤を選択する。即ち、例えば、アニオン性基を有する水不溶性色材を得る場合には、開始剤残基が中性又はアニオン性となるものを選択する。これによって、表面電荷をより効率的に得ることができる。同様に、カチオン性基を有する分散性色材を得る場合には、開始剤残基が中性又はカチオン性となるものを選択するのが好ましい。
【0079】
本発明において好ましく用いられる水溶性アゾ系重合開始剤としては、従来の乳化重合等に汎用的に用いられるものが好ましく用いられ、その他新規に開発された乳化重合に用いられる重合開始剤であっても用いることができる。例えば、VA−080(2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド))、VA−086(2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド))、VA−057(2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)アミジノプロパン))、VA−058(2,2’−アゾビス(2−(3,4,5,6,−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン)ジヒドロクロライド)、VA−060(2,2’−アゾビス(2−(1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)ジヒドロクロライド、V−50(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド)、V−501(4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノン酸))(全て和光純薬(株)製)等が挙げられる。
【0080】
[ラジカル重合性モノマー]
本発明の製造方法で用いられるラジカル重合性モノマーは、前記で説明した水系析出重合工程を経て、荷電性樹脂擬似微粒子を構成する成分となるので、先の[実質的に水に不溶な樹脂微粒子]の項で述べたように、得ようとする荷電性樹脂擬似微粒子及び分散性色材の特性によって適宜に選択すればよい。本発明の製造方法においても、従来から公知であるラジカル重合性モノマー、又は本発明のために新規に開発されたラジカル重合性モノマー、のいかなるものでも使用できる。
【0081】
(水系析出重合)
続いて、本発明の特徴である荷電性樹脂擬似微粒子を合成し、色材に固着させる工程である、水系析出重合の好ましい実施形態について述べる。尚、本発明は以下に述べる実施形態によって何ら制限されるものではない。図2は、上記製造方法の工程フローを模式的に記載した工程図である。本工程によって分散性色材を得るまでの過程は、次のように考えられる。先ず、図2(a)に示したように、水溶液中に色材1を分散剤3によって分散した分散水溶液を用意する。このとき、色材は、分散剤の吸着によって分散安定化されていて、この吸着は熱的に平衡状態にある。次に、図2(a)で用意した分散水溶液を攪拌しながら昇温し、この中に、モノマー成分4を、例えば、水性ラジカル重合開始剤5と共に添加する(図2(b)参照)。添加された水性ラジカル重合開始剤は、昇温することにより解裂してラジカルを発生し、分散水溶液中に添加されたモノマー成分のうち、微量に水相に溶解した疎水性モノマーと、水相中の水溶性モノマーとの反応に寄与する。
【0082】
図3は、モノマー4が重合し、分散性色材を生成するまでの過程を記載した模式図である。前記したようなモノマー4の反応が進行すると、モノマー成分の重合反応によって生成したオリゴマー7は水に不溶となり、水相より析出して析出物8となる。しかし、このとき析出したオリゴマー7は、十分な分散安定性を有していないため、合一して荷電性樹脂擬似微粒子2を形成する。荷電性樹脂擬似微粒子2は更に、分散水溶液中の色材の有する疎水性表面を核としてヘテロ凝集を起こし、色材1の表面と荷電性樹脂擬似微粒子2を構成する樹脂成分が疎水性相互作用によって強く吸着する。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部では重合反応が進行しつづけており、色材1との吸着点を増やしながら、よりエネルギー的に安定する形態へ変化する。同時に、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部は高度に物理架橋が形成されるため、色材1と最も安定に吸着する形態を固定して固着状態となる。一方、色材1は、複数の荷電性樹脂擬似微粒子2が固着していくことによって安定化され、平衡状態にあった分散剤3は、色材1の表面から脱離する。
【0083】
図4に、上記のようにして得られた荷電性樹脂擬似微粒子2の、色材1との固着界面側の模式図を示した。図4に示したように、樹脂成分の集合体である荷電性樹脂擬似微粒子は、親水性モノマーユニット9−1、疎水性モノマーユニット9−2等が任意に分布して存在するため、その局所的な表面エネルギーには分布があり、色材の表面エネルギーと一致する吸着点10が多数存在する。
【0084】
図5に、荷電性樹脂擬似微粒子11の一部と色材粒子の一部1aとの固着界面部分の拡大模式図を示したが、荷電性樹脂擬似微粒子の界面11は、図4に示した吸着点10を吸着しながら、色材の一部1aの表面形状に応じた形態をとって安定に固着する。前述したようにこの過程においても荷電性樹脂擬似微粒子内での重合反応が進行しているため、吸着が安定化した形態で固定化されることで色材への固着を達成する。以上のような過程により、前記した構成の分散性色材が、容易に形成される(図2(d)参照)。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子が充分な表面電荷を有して自己分散性を達成している系においては、ヘテロ凝集による色材への吸着及び固着過程にて、荷電性樹脂擬似微粒子間に相互に静電斥力が働くことによって、荷電性樹脂擬似微粒子は、色材に対して点在して固着し、前述した好ましい形態となる。
【0085】
重合反応条件は、使用する重合開始剤及び分散剤、モノマーの性質によっても異なるが、例えば、反応温度は100℃以下とし、好ましくは40℃以上80℃以下の範囲である。又、反応時間は、1時間以上、好ましくは6時間以上30時間以下である。反応中の攪拌速度は、50rpm以上500rpm以下、好ましくは150rpm以上400rpm以下とするのが望ましい。
【0086】
前述した工程において、特に、少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類の親水性モノマーを含むモノマー成分を重合させて荷電性樹脂擬似微粒子を得る際には、好ましくは前記モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤をあらかじめ含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することが望ましい。又は、水不溶性色材の分散水溶液中に、水性ラジカル重合開始剤と同時又は別々に滴下して加えることも望ましい形態である。疎水性モノマーと親水性モノマーのように性質の異なるモノマーの混合物から、所望の荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得るためには、前記性質の異なるモノマーの共重合比率を常に一定に保つことが望ましい。前記モノマーの混合物を一定時間内に重合反応で消費されるモノマー量に比して過剰に重合系内に添加した場合、特定のモノマー種のみが先行して重合し、残りのモノマーは先行で重合したモノマーが消費されてから重合する傾向があり、この場合には、生成される荷電性樹脂擬似微粒子の性質に大きな不均一が生じる。こうして生成した荷電性樹脂擬似微粒子のうち、特に親水性モノマー成分の含有量の大きいものは、色材の表面に固着できない場合がある。
【0087】
更に、親水性モノマー成分の含有量の大きい樹脂成分に至っては、その高い親水性によって析出できず、荷電性樹脂擬似微粒子が形成されずに水溶性樹脂成分として系内に残存してしまう場合がある。一方、モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤を含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することによって、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合比率が常に一定に保たれた、所望の共重合比率で構成される荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得ることができる。
【0088】
又、親水性モノマーとして、特に、アクリル酸、メタクリル酸等のアニオン性モノマーを重合系内に添加する際に、色材を分散している高分子分散剤の特性によっては部分的に不安定化し、凝集を引き起こす場合もある。これを防ぐために、アニオン性モノマーを予め中和し、ナトリウム塩やカリウム塩の状態で添加することも好適な実施形態である。
【0089】
上述した工程にて得た、本発明にかかる、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した水不溶性色材を用いて水性インクを調製する際には、上記の工程に加えて、更に精製処理を行うことが望ましい。特に、上記において、未反応の重合開始剤、モノマー成分、分散剤、固着に至らなかった水溶性樹脂成分及び荷電性樹脂擬似微粒子等について精製処理を行うことは、分散性色材の保存安定性を高く維持する点で重要である。使用する精製方法としては、通常一般的に用いられている精製方法から最適なものを選択して用いればよい。例えば、遠心分離法や、限外ろ過法を用いて精製することも好ましい実施形態である。
【0090】
上述した工程を経れば、多くの制御因子をコントロールすることによって、色材の表面に所望の共重合体からなる荷電性樹脂擬似微粒子が固着されてなる分散性色材を得ることができる。特に、高い分散安定性を目的としてアニオン性モノマーを使用する場合には、本発明の工程を経た分散性色材は、上記の工程で用いるアニオン性モノマーが比較的少ない量であっても大きな表面官能基密度を得ることができ、高い分散安定性を付与することができる。この結果、長期保存安定性を損なうことなく、荷電性樹脂擬似微粒子の分散安定性を高くすることが可能となる。
【0091】
この理由は明らかでないが、本発明者らは次のように考えている。水中で発生したラジカルにより重合が開始され、オリゴマーが析出して荷電性樹脂擬似微粒子を形成する際、アニオン性モノマー由来成分の多い部分が優先的に水相側、即ち、荷電性樹脂擬似微粒子の表面付近に配向する。この状態は、前記荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した後にも維持され、構造的に大きな比表面積を有する本発明で使用する分散性色材では、更に、アニオン性モノマー成分由来のアニオン性基が多く存在し、結果として、上記した製造方法によって得られる分散性色材は、より少ないアニオン性モノマー成分で安定化されると予想される。
【0092】
次に、本発明に用いられる貧溶媒及び良溶媒について説明する。その定義の詳細については後述するが、当該水溶性有機溶剤に対する分散性色材の分散安定性がよいものを良溶媒とし、悪いものを貧溶媒としている。本発明の特徴は、更に上記した特定の形状を有する分散性色材と、上記分散性色材と共に水性インク中に含有させる水溶性有機溶剤に着目し、水溶性有機溶剤を上記分散性色材に対して、上記した貧溶媒としての挙動を示すものと良溶媒としての挙動を示すものとに分類し、水性インク中に特定の比率で上記貧溶媒と良溶媒とを調整した点にある。そして、かかる構成とすることで、インク状態において優れた保存安定性を有し、一方、記録媒体上特に従来水性インクによる画像形成において種々の課題があった普通紙に対しても、フェザリングやブリードの少ない高品位な画像が得られ、更に付与するインク液滴量が少なくても十分に大きなエリアファクターを有し、且つODの高い画像の形成が可能でありながら、且つ高い耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた画像を与えるインクが得られるという顕著な効果が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0093】
本発明によってこのような効果が得られる理由は明らかでないが、本発明者らは以下の様に推測している。一般的に、普通紙等の記録紙上に水性インクで画像を形成した場合に、優れた印字濃度及び印字品位を実現させるためには、色材をより効率的に紙面上に残すことが必要である。そのための方法としては、反応液を記録媒体に付着させた後、顔料インク組成物を記録紙に付着させることで、優れた印字濃度及び印字品位を得る方法がある。又、特殊な分散剤を用いることで、インクの保存安定性の達成と、高い印字濃度の達成の両立をはかる方法がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの方法によっても十分な印字濃度を得ることは難しく、特に、高い印字濃度と優れた耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性をどちらも高いレベルで達成することはできなかった。
【0094】
本発明にかかる水性インクは、少なくとも、水と分散性色材と複数の水溶性有機溶媒とを含み、上記水溶性有機溶媒として、上記分散性色材に対する良溶媒と上記分散性色材に対する貧溶媒とを含んでいる。かかる水性インクがインクの状態であるときには、水と上記分散性色材の良溶媒及び貧溶媒とを含む水溶性有機溶剤と、上記分散性色材とが所定の比率で混合されており、上記分散性色材の高い分散安定性と、良溶媒及び貧溶媒との比率とによって保存安定性が保たれる。
【0095】
このような、本発明にかかる水性インクが、記録媒体、特に普通紙上に印字された場合には、以下に述べるような理由によって、非常に優れた印字濃度及び印字品位をもたらすことが可能になると考えられる。即ち、図7(a)に示した様に、本発明にかかるインク滴1301が、記録媒体1300、例えば、普通紙上に印字された場合には、インクが記録媒体上に着弾した瞬間から、インク中の水と分散性色材の良溶媒及び貧溶媒と分散性色材との比率は変化していく。つまり、インク滴が記録媒体表面へ着弾すると、水の蒸発と同時に、先ず、インク中の水溶性有機溶剤のうちのKa値が高い貧溶媒が、Ka値の低い良溶媒よりも記録媒体上で放射状に広がり、インクドットが形成されていくと考えられる。この場合のインクドットの広がり状態に関して着目すると、ドットの中心部1303よりも外周1302において貧溶媒の濃度が高くなっていると考えられる。この結果、インクドットが記録媒体上に放射状に広がる過程で、分散性色材に対する貧溶媒の濃度が急激に増加することが起こる。これに伴って分散性色材が不安定化し、色材である該分散性色材の凝集若しくは分散破壊が起こり、この結果、記録媒体上で分散性色材1304が記録媒体1300の表面に留まることが起こり、あたかも外縁部分に、分散性色材の土手が形成されたかのようなインクドットが形成されると考えられる(図7(b))。それに引き続き、良溶媒リッチな中央部1303の水溶性有機溶剤の蒸発や浸透により、この部分においても分散性色材が凝集して画像を形成するドット1305が形成される(図7(c)、図7(d))。上記したようなプロセスによって形成される画像は、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有しており、高い印字濃度を有するものとなり、しかも、フェザリングの発生が十分に軽減された高品位なものとなる。
【0096】
この機構において、分散性色材は、水性インク中では高い比表面積に比較的少ない酸価を有することで高い分散安定性を有しているが、一旦記録媒体上に着弾し、インクドットの外周部分において貧溶媒の濃度勾配が現れると、その高い比表面積と少ない酸価によって急激に不安定化し、凝集する。このとき、分散性色材の代わりに任意の水不溶性色材を同様の構成として用いた場合にも、上述した機構によって印字品位や印字濃度が向上する効果は得ることができる。しかし、水不溶性色材としてアニオン性やノニオン性の実質的に水溶性である分散樹脂にて分散された顔料を用いた場合、記録媒体上での貧溶媒の濃度勾配に対する不安定化及び凝集の速度が、上記分散性色材を用いた場合に比して小さくなる。この場合、色材の凝集速度を高めるためにインク中の貧溶媒量を増加すると、長期におけるインクの保存安定性が充分に確保できなくなる。同様に、水不溶性色材としてアニオン性樹脂にて一様に被覆された顔料を用いた場合においても、インクの長期保存安定性を与えるのに充分な高いアニオン性を付与すると、記録媒体上での凝集速度と、記録媒体中への色材の浸透速度とのバランスをとるのが難しくなる。これに対し、本発明の分散性色材を用いると、フェザリングや印字濃度の点でより優れた品位の印字物を得られ、且つ上記分散性色材の有する耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性が効果的に発揮されることを本発明者らは見出した。
【0097】
上記したような想定メカニズムの下で、本発明に用いる良溶媒及び貧溶媒は、分散性色材の分散状態を良好に維持できるか否かによって決定される。即ち、分散性色材との関係において決定されるものである。従って、本発明にかかるインクの調製にあたって、良溶媒と貧溶媒とを選択する場合には、当該溶媒中においての用いようとする分散性色材の分散安定性の程度を観察し、その結果から求めることが好ましい。そして本発明者らは、本発明の効果をもたらす良溶媒と貧溶媒との判定の基準を、本発明の効果との関連の下で種々検討した結果、下記の方法が好ましいことを見出した。即ち、先ず、判定しようとする溶媒50質量%程度を含み、且つ当該インクに用いる分散性色材を分散状態で含む水性分散液を、60℃、48時間保存したときの該分散液中の分散粒径(A)を測定する。次に、判定しようとする溶媒を含まない、若しくは少量含み、且つ当該インクに用いる分散性色材を分散状態で含む水性分散液の粒径(B)を測定する。そして、インクを設計する場合に、分散液中の分散粒径(A)が、水性分散液の粒径(B)と比較して増加しているものを貧溶媒と判定し、一方、分散液中の分散粒径(A)が、水性分散液の粒径(B)と同じか或いは減少しているものを良溶媒と判定して、これらの色材に対する特性によって判別された水溶性有機溶媒を使い分けた場合に、本発明が目的とする効果との整合性が極めてよいことを見出した。
【0098】
より具体的には、下記の方法で良溶媒と貧溶媒とを判定する。先ず、下記の2つの分散性色材の分散液A及びBを調製する。
A:判定対象としての液中の水溶性有機溶剤の濃度が50質量%、分散性色材の濃度が5質量%、及び水の濃度が45質量%である組成の溶剤含有の水性分散液;
B:分散性色材の液中の濃度が5質量%である水溶性有機溶剤を含まない分散性色材の水分散液。
そして上記分散液Aを60℃で48時間保存後、常温に冷まし、そのときの分散粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子(株)社製)等を用いて測定した。又、上記水分散液Bの粒径を、上記濃厚系粒径アナライザーを用いて測定した。そして、上記分散液A及び水分散液Bの各々の粒径値を、粒径(A)及び粒径(B)としたときに、これらの値を用いて下記の定義に従って良溶媒と貧溶媒とを判別し、判定された良溶媒と貧溶媒とを用いて本発明の構成を有するインクを調製した。この結果、前記したような優れた効果を得られることが確認できた。即ち、良溶媒と貧溶媒とは、上記において、粒径(A)が粒径(B)よりも大きい場合、当該判定対象としての水溶性有機溶媒を貧溶媒とし、粒径(A)と粒径(B)と同じか、或いは粒径(A)が粒径(B)よりも減少した場合、当該判定対象としての水溶性有機溶媒を良溶媒として定義した。
【0099】
本発明の水性インクは、色材として前述した特定の形状を有する分散性色材を含み、水溶性有機溶剤を上記した特定の構成とする以外は、従来の水不溶性色材を含む水性インクと同様の構成とすればよい。即ち、本発明にかかる水性インクの第1の特徴は、少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び分散性色材とを含み、該分散性色材が、色材と該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、且つ前記色材と前記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着していることである。
【0100】
又、本発明の第三の特徴は、水溶性有機溶剤として、上述したような判定方法によって判別された少なくとも1種の良溶媒である水溶性有機溶剤と、少なくとも1種の貧溶媒である水溶性有機溶剤とを含み、インク中の良溶媒の全量(質量%)をA、インク中の貧溶媒の全量(質量%)をBとした場合に、A:Bの比率[インク中全良溶媒量(質量%):インク中全貧溶媒量(質量%)]が、A:B=10:5〜10:30の範囲内となるように調整したことにある。
【0101】
更に、本発明の水性インクの第四の特徴は、上記に加えて複数の水溶性有機溶媒の各々の、ブリストウ法によって求められるKa値を比較したときに、Ka値が最大の水溶性有機溶媒が貧溶媒である点にある。この結果、インク中における該分散性色材の分散安定性が非常に優れたものとなると同時に、記録媒体、特に普通紙上に印字した場合に、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ高い印字濃度を示す非常に優れた印字品位をもたらす画像形成が可能になる。
【0102】
ここで、ブリストウ法によって求められるKa値について説明する。該値は、インクの記録媒体への浸透性を表わす尺度として用いられる。即ち、インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式によって示される。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2
【0103】
インク滴が記録媒体表面に付着した直後には、インクは、記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体の表面の粗さの部分)において吸収されるのが殆どで、記録媒体内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが付着した後、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例した分だけ記録媒体への浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。そして、このKa値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いて測定可能である。
【0104】
本発明にかかる水性インク中の複数の水溶性有機溶媒の各々の、ブリストウ法によって求められるKa値を比較したときに、Ka値が最大の水溶性有機溶剤が貧溶媒であることを特徴とする。更に本発明者らの検討によれば、形成された記録画像の品質をより一層向上させる上からは、インクにおけるKa値の値が1.5未満となるように調整することが好ましく、更にはKa値の値が0.2以上1.5未満となるようにすることが好ましい。即ち、インクのKa値が1.5未満となるように構成すれば、インクが記録媒体へと浸透していく過程の早い段階で固液分離が起こり、フェザリングが極めて少ない高品質な画像を形成することが可能となる。
【0105】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙[例えば、キヤノン(株)製の電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等]を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境としては、通常のオフィス環境、例えば、温度20〜25℃、湿度40〜60%を想定している。
【0106】
ところで、普通紙上に、ブラックとカラーインクとが混在した画像を形成する場合において、本発明にかかる水性インクをブラックインクに用いる構成とすれば、上記で述べたように、紙面上でブラックインクを構成している色材の凝集若しくは分散破壊が、他のインクと比較して比較的早く進行すると考えられる。本発明における画像形成方法であるインクジェット記録方法では、本発明の水性インクをブラックインクに用い、且つカラーインクによる画像形成をブラックインクの画像形成後に行うことで、より好ましくは、ブラックインクを付与する走査を行った後に、少なくとも1走査以上、間をおいた後にカラーインクを付与する走査を行う構成とすることで、カラーインクと接触しても紙面上でのブラック、カラー間の混色滲みが起こらず、耐ブリード性能に優れる画像形成が可能となる。即ち、ブラックインクとカラーインクの各色インクによる画像形成を時間差をもって行うことのみで、複数回の走査で印字を完成する印字時間を要するマルチパス印字を行う方法や、ブラックとカラーインクとで回復系を別々にするといった機器の大型化を招く方法を必要とすることなく、上記したような優れた効果が得られる。
【0107】
又、本発明の水性インクを用いれば、インク中の色材が先に説明した理由によって効率的に記録媒体上に残るので、従来のインクの吐出量(液滴体積)よりも少ないインク量で、濃度の高い印字を行うことが可能となる。更に少ないインク量で印字可能なことから、画像形成におけるコストの削減、従来のインクよりも定着時間が速くなる、といった効果も期待できる。
【0108】
下記に本発明のインクを構成する各成分について説明する。先ず、上記分散性色材を分散する水性媒体について説明する。
【0109】
[水性媒体]
本発明の水性インクは、水及び水溶性有機溶剤との混合溶媒を含むが、水溶性有機溶媒としては、下記に列挙したようなものの中から選択することができる。本発明においては、水溶性有機溶媒を選択する際に、先に述べた方法で、先ず、使用する分散性色材に対する良溶媒と貧溶媒とに判別し、かかる判定結果を踏まえて、その後に、少なくとも良溶媒と貧溶媒とが混在し、且つ各水溶性有機溶媒の含有量が本発明で規定する範囲内となるように、水溶性有機溶剤を選択して適宜に配合し、インクを調製することが必要となる。
【0110】
水溶性有機溶媒としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。又、水としては、脱イオン水を使用することが望ましい。
【0111】
本発明の水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲とすることが好適である。又、インクに含有される水の量は、インク全質量に対して、好ましくは50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0112】
本発明の特徴は、先に述べたように、インク中における良溶媒の全量(質量%)をA、インク中における貧溶媒の全量(質量%)をBとした場合に、これらの比率A:Bが10:5〜10:30の範囲内となるように、好ましくは、A:Bが10:5〜10:10の範囲内となるように、更に好ましくは比率A:Bが10:6〜10:10の範囲内となるように、水性インクを構成する水溶性有機溶剤の種類と含有量とを調整したことにある。本発明者らの詳細な検討によれば、水性インク中に含まれる良溶媒の比率が多い場合には保存安定性に優れるが、高い印字濃度を得ることが難しく、又、逆に良溶媒の比率が少ない場合には、高い印字濃度を得ることができるが、保存安定性が不充分になることがあるが、インク中の水溶性有機溶剤における良溶媒と貧溶媒との比率を上記のように制御すれば、インクの保存安定性と、高い印字濃度の実現との両立を図ることが可能となる。更に先に述べたように、本発明においては、インク中に含有させる各水溶性有機溶剤を決定する場合に、含有させる各水溶性有機溶剤が有する、記録媒体への浸透性を表わす尺度であるブリストウ法によって求められるKa値の値を制御することで、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、しかも高い印字濃度を実現できる、という従来得ることのできなかった効果を達成することができる。
【0113】
[水性インク]
本発明にかかる水性インクは、以上説明した分散性色材と、特定の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする。使用する色材が顔料である場合には、一般的には顔料含有量がインクに対して0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.3質量%以上15質量%以下とする。更に、水性媒体としては、水、又はこれに水溶性の有機溶媒を必要に応じて含む混合媒体も好ましい。又、記録媒体への浸透性を助けるための浸透剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。
【0114】
本発明で使用する分散性色材は、図1に示したように、色材1の表面に、荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態でインク中に存在している。従って、色材は、表面に固着している荷電性樹脂擬似微粒子を介して、記録紙上で、記録媒体及び隣り合った色材と相互に接着する。従って、本発明の水性インクを用いて得られる印字物は、優れた耐擦過性を有するものとなる。
【0115】
更に、色材として顔料を用いる場合において、顔料と荷電性樹脂擬似微粒子との割合(樹脂質量/顔料質量=B/Pと表す)を、0.3以上4.0以下の範囲となるようにすることも、色材によって形成される印字物の耐擦過性を高める上で、本発明の望ましい実施形態であると言える。B/P比を0.3以上とすることで、色材間、及び色材と記録媒体間との接着性を高めることで、印字物に優れた耐擦過性を付与し得る。特に、ガラス転移温度が−40℃以上60℃以下となる共重合体成分を含んで構成される荷電性樹脂擬似微粒子を固着してなる分散性色材を用いた水性インクにおいては、その造膜性をより効果的に発現することができ、光沢紙における耐擦過性をより高める結果となる。B/Pが4.0より著しく大きい場合には、全体として粘性の高いインクとなり、特にインクジェット記録装置に用いる場合には、吐出安定性を損なう場合がある。又、色材に対して樹脂量が極端に多いために、記録媒体上で色材の発色性を妨げ、印字濃度が充分に得られない場合がある。B/Pの値を上述した0.3以上4.0以下の範囲に制御することによって、優れた耐擦過性を有し、インクジェット記録装置においては吐出安定性を両立した水性インクとすることができる。
【0116】
ここでいう樹脂質量とは、本発明にかかるインク中に含まれる荷電性樹脂擬似微粒子の全量のことであり、その他に明らかに顔料表面に強く吸着している樹脂成分についても含まれる場合がある。ただし、顔料と容易に分離可能な水溶性樹脂成分については含まれないものとする。
【0117】
上述したB/Pの値は、一般的には、示差熱重量分析法によって求めることができるが、本発明では、METTLER社製のTGA/SDTA851にて測定、算出した値とする。即ち、本発明では、本発明にかかる、分散性色材又は該色材を含有する水性インクジェット記録用インクを80,000回転、2時間の条件にて遠心分離した沈降物を乾燥、秤量し、窒素雰囲気、或いは大気中において昇温を行ったときの、顔料及び樹脂成分のそれぞれの分解温度前後での質量変化を求め、B/Pを算出した。
【0118】
[記録画像]
本発明にかかるインクは、後述するようなインクジェット記録装置を用いた記録の際に好適に用いることができる。この際に使用する記録媒体は、インクジェット記録可能等のような媒体でも制限なく用いることができる。
【0119】
〔画像形成方法〕
本発明にかかるインクジェット記録方法は、前記した本発明の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とする。例えば、ブラックインクと少なくとも1色の水性カラーインクとを用いて普通紙に記録を行うインクジェット記録方法において、ブラックインクに、上記で説明した構成を有する本発明の水性インクを用い、且つ該ブラックインクによって形成される画像と、カラーによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことが好ましい。
【0120】
ここで、上記において好適に用いることのできるカラーインクについて説明する。本発明のインクジェット記録方法においては、従来公知のインクジェット記録用の水性のカラーインクをいずれも使用できる。カラーインクの色材としては、水溶性染料が挙げられ、特、可溶化基としてアニオン性基を有する水溶性染料を用いることが好ましい。本発明において用いるカラーインクの色は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー及びオレンジから適宜に選択して使用できる。
【0121】
本発明で使用されるアニオン性基を有する水溶性染料としては、カラーインデックス(COLOUR INDEX)に記載されている水溶性の酸性染料、直接染料、反応性染料であれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない染料であっても、アニオン性基、例えば、スルホン基を有するものであれば特に制限はない。これらの染料はインク中に1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の範囲で用いる。
【0122】
具体的な染料としては、下記のものが挙げられる。
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、98、100、110
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、230
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226
【0123】
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、94、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161
【0124】
前記以外に本発明に用いることのできるカラーインクの色材としては、下記の1.〜3.のものを挙げることができる。これらの色材は、記録媒体に付与された場合に、優れた耐水性を発揮するものが多いので好ましい。
1.可溶化基としてカルボキシル基を持つ染料
2.油溶性染料
3.顔料
【0125】
油溶性染料としては、カラーインデックス(COLOUR INDEX)に記載されているものであれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない新規の染料であっても特に制限はない。具体的には下記のものが挙げられる。これらの染料はインク中に1〜10質量%、更には1〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
C.I.ソルベントブルー:33、38、42、45、53、65、67、70、104、114、115、135
C.I.ソルベントレッド:25、31、86、92、97、118、132、160、186、187、219
C.I.ソルベントイエロー:1、49、62、74、79、82、83、89、90、120、121、151、153、154
【0126】
本発明で使用されるカラーインクの色材として顔料が用いられている場合には、顔料の量はインク全質量に対して質量比で1〜20質量%、好ましくは2〜12質量%の範囲で用いる。本発明において使用することのできるカラー有機顔料としては、下記のものが挙げられる。
イエローインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 128等が挙げられる。
【0127】
マゼンタインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red l2、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red ll2、C.I.Pigment Red l22等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue l、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Pigment Blue l5:3、C.I.Plgment Blue l6、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。しかし、これらに限られるものではない。又、以上の他、本発明のために新たに製造された顔料も勿論使用することが可能である。
【0128】
又、顔料を使用する場合に、顔料をインク中に分散させるための分散剤としては、水溶性樹脂であればどのようなものでも使用することができるが、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更には3,000〜15,000の範囲のものが好ましい。このような分散剤として、具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体又はこれらの塩等が挙げられる。或いはロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、インク全質量に対して0.1〜5質量%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0129】
本発明で使用されるカラーインクにおいて好適な水性液媒体は、水、或いは水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましい。
【0130】
上記したような水溶性有機溶剤のカラーインク中における含有量は、一般的にはインク全質量の3〜50質量%の範囲とし、好ましくは3〜40質量%の範囲とする。又、使用される水の含有量としては、インク全質量の10〜90質量%、好ましくは30〜80質量%の範囲とする。又、本発明で使用されるカラーインクには、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。
【0131】
本発明にかかるインクジェット記録方法で使用する、上記で説明したような構成成分からなるブラック及びカラーインクは、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有するものであることが好ましい。このため、インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。又、ブラックインクとカラーインクとを併用する場合には特に、ブラックインクの表面張力よりもカラーインクの表面張力が低いことが更に好ましい。具体的には、ブラックインクが35〜50mN/m、カラーインクが25〜35mN/mである。
【0132】
[画像記録方法及び記録装置]
本発明で使用する分散性色材、及び該色材を含有する水性インクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインクタンクとしても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明は、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらす。
【0133】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一に対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明である米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0134】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0135】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも、本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体、或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【0136】
特に、本発明に好ましく用いられる画像形成方法としては、ブラックインクと少なくとも1色の水性カラーインクとを用いて普通紙に記録を行うインクジェット画像形成方法が挙げられ、ブラックインクに、先に述べた構成からなる本発明の水性インクを用い、且つブラックインクによって形成される画像とカラーによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。
【0137】
図8は、本発明にかかるインクジェット記録方法を実施する際に使用する記録ヘッドの一例である。該記録ヘッドは、図3に示したように、ブラックインクを吐出するための吐出口列(Bk)と、カラーインクであるシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3色のインクをそれぞれ吐出するための吐出口列とを備えている。本発明の画像形成方法では、カラー画像を形成する場合には、ブラックインクを吐出させるためのブラック用吐出口列と、カラーインクのカラー用吐出口列が副走査方向にずれて配置した記録ヘッドを用いることが好ましい。このため、例えば、図8に示した記録ヘッドを用いて画像形成を行う際には、ブラックのみの画像形成の場合にはブラック用の吐出口列全域を使用し、ブラックとカラーが混在したカラー画像の形成を行う場合には、ブラックについては図中のaの部分を使用し、C、M及びYについては図中のbの部分を使用して画像を形成することが好ましい。以下、図8を用いて、ブラックとカラーが混在した画像の形成を行う場合について、更に詳細に説明する。
【0138】
図8において、先ず、ブラック用吐出口列のa部分を用いてプリントヘッドを図の横方向(主走査方向)に走査することで、ブラックの画像データを1パス印字で普通紙等の記録媒体上に形成する。次に、図の縦方向(副走査方向)に距離aだけ記録媒体の搬送を行い、次のプリントヘッドの主走査の往方向の過程で、カラーの吐出口列bの部分を用いて、先程ブラックのa列で画像形成された領域にカラー画像の形成を1パス印字で行う。このときブラックの吐出口列aは次の領域に画像形成を同時に行っている。この繰り返しにより、ブラック、カラー混在の画像形成を行っていく。
【0139】
図9に、本発明の画像形成方法を実施する際に使用できる記録ヘッドの別の一例を示した。図9においても図8の場合と同様に、ブラックについては吐出口列の図中aの部分を使用し、C、M、Yについては、吐出口列の全領域に当たる図中のbの部分を使用し、上記の図3の説明で行ったと同様にして、ブラック、カラー混在の画像形成を行う。
【0140】
図10に、本発明の画像形成方法を実施する際に使用できる記録ヘッドの別の一例を示した。図10においても図8の場合と同様に、ブラックについては吐出口列の図中aの部分を使用し、C、M、Yについては、カラー用吐出口列の全領域に当たる図中のbの部分を使用し、ブラック、カラー混在の画像形成を行っていく。図10に例示した記録ヘッドでは、図示したように、ブラック用吐出口列のaの部分とカラーのb部分との間に、1回分の紙送り量a分だけ距離が置かれている。このため、かかる構成の記録ヘッドでは、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成されるまでの間に、往復で1回のプリント走査分の時間差を余分に生じることになる。従って、図10に例示した記録ヘッドは、図9に示した構成よりも、ブラック、カラー間のブリードに対してより有利な構成となる。
【0141】
図11に本発明の画像形成方法を実施する際に使用できる記録ヘッドの別の一例を示した。このような、紙送り方向に順に、ブラック及びカラー用の吐出口列が一列に配置された記録ヘッドを用いた場合も、紙送りに応じてブラックの画像が形成されてからカラー画像が形成されることになる。
【0142】
図12に、本発明の画像形成方法を実施する際に使用できる記録ヘッドの別の一例を示した。図12に示した記録ヘッドでは、往方向の走査と復方向の走査とでカラーインクの打ち込み順序が等しくなるように、カラー用吐出口列が、シアン(C1、C2)、マゼンタ(M1、M2)、イエロー(Y1、Y2)と、それぞれ2列、主走査方向に対称に設けられた構成されている。この結果、ブラック、カラー混在画像の形成においても、双方向印字が可能となる。この場合には、ブラックのa部分で先ずブラックの画像が形成され、次に、距離aだけ記録媒体の搬送が行われ、次のプリントヘッドの主走査の復方向の過程で、カラーの吐出口列bの部分を用いて、上述したブラックのa列で画像形成された領域にカラー画像の形成が1パス印字で行われることになる。
【0143】
図12のような双方向印字対応ヘッドにおいても勿論、先に説明したと同様に、ブラックとカラーのノズル配置としブラックとカラーの画像形成の間に1走査分の間隔を設け、ブリードに対してより有利な構成としてもよい(図13参照)。以上、本発明の画像形成方法について説明したが、本発明方法に使用できる記録ヘッドの形態は、図8〜13に限定されるものではない。
【実施例】
【0144】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0145】
(顔料分散液1の調製)
先ず、カーボンブラック10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤10部、及び水74部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて、1,500rpmで5時間分散し、顔料分散液1を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。本実施例で使用したカーボンブラックは、米国Cabot社より上市されているBlack Pearls 880(以下、BP880と略す)であり、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤には、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170のものを使用した。かかるスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤は、予め水及び上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃にて攪拌し、水溶液としたものを使用した。得られた顔料分散液1は、平均分散粒径98nmで安定に分散されており、多分散度指数は0.16であった。
【0146】
(分散性色材1の作製)
次に、上記で得た顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記の3つの液を夫々滴下装置に充填し、滴下して加え、5時間重合を行った。該3つの液は、(1)メタクリル酸メチル5.5部、(2)アクリル酸0.5部と水酸化カリウム0.12部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部及び水20部、からなる。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製し、沈降物である分散性色材1を得た。この十分に精製した分散性色材1を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材1は、色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子がカーボンブラックの表面に固着している状態が観察された。尚、本実施例に記載されるこれ以降の色材についても、上記と同様の手法にて、色材の形態を確認した。
【0147】
(分散性色材2の作製)
先に調製した顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記の3つの液を夫々滴下装置に充填し、滴下して加え、5時間重合を行った。該3つの液は、(1)メタクリル酸メチル5.5部、(2)アクリル酸0.3部と水酸化カリウム0.12部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部及び水20部、からなる。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製し、沈降物である分散性色材2を得た。
【0148】
(顔料分散液2の調製)
BP880 10部と、p−アミノ−N−安息香酸3.41部とを水72部によく混合した後、これに硝酸1.62部を滴下して70℃で攪拌した。数分後、5部の水に1.07部の亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、更に1時間攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)で濾過して、顔料粒子を充分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水を足して顔料濃度10%の顔料水溶液を作製した。以上の方法により、表面に、フェニル基を介して親水性基が結合したアニオン性に帯電した自己分散型カーボンブラックが分散された顔料分散液2を得た。
【0149】
(分散性色材3の作製)
上記で得た顔料分散液2を100部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤(共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170)を2部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記の3つの液を夫々滴下装置に充填し、滴下して加え、5時間重合を行った。該3つの液は、(1)メタクリル酸メチル5.7部、(2)p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.9部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部及び水20部、からなる。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製し、沈降物である分散性色材3を得た。
【0150】
(分散性色材4の作製)
先に調製した顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱し、モーターで攪拌しながら、下記の3つの液を夫々滴下装置に充填し、滴下して加えて重合を行った。該3つの溶液は、(1)メタクリル酸メチル12.84部とメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(新中村化学社製:NKエステルM90G)4.26部、(2)アクリル酸0.9部と水酸化カリウム0.35部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部、からなる。上記したようにして5時間かけて重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材4を得た。
【0151】
(顔料分散液3の調製)
直接親水基を導入したカーボンブラック分散体として、東海カーボン(株)社製の湿式酸化カーボンを用いた。本実施例で使用した湿式酸化カーボンは、酸化剤を用いて水相にてカーボンブラックを表面酸化したものである。実施例3の場合と同様に、この湿式酸化カーボンの表面酸素量を測定したところ、該カーボンの加熱減量は15%であった。
【0152】
(分散性色材5の作製)
先に調製した顔料分散液2を100部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤(共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170)を2部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱し、モーターで攪拌しながら、下記3つの溶液を徐々に滴下して加えて重合を行った。該3つの溶液は、(1)メタクリル酸メチル12.84部とメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(新中村化学社製:NKエステルM90G)4.26部、(2)アクリル酸0.9部と水酸化カリウム0.35部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部、からなる。上記したようにして5時間かけて重合後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材5を得た。
【0153】
(分散性色材6の作製)
上記で得た顔料分散液3を100部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記の3つの液を夫々滴下装置に充填し、滴下して加え、5時間重合を行った。該3つの液は、(1)メタクリル酸メチル5.5部、(2)アクリル酸0.5部と水酸化カリウム0.12部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部及び水20部、からなる。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製し、沈降物である分散性色材6を得た。
【0154】
[分散性色材の特性]
上記で得た分散性色材1〜5について、それぞれ下記に説明した方法で観察及び各種の物性を測定した。そして、得られた結果を表1に示した。
【0155】
<樹脂微粒子の固着・点在性>
各分散性色材を水に分散して乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察し、色材に樹脂微粒子固着している状態及び固着している樹脂微粒子の性状を下記のように評価した。
【0156】
(樹脂微粒子の固着状態)
○:樹脂微粒子が固着している様子が確認できた。
×:樹脂微粒子が固着している様子が確認できなかった。
【0157】
(樹脂微粒子の点在性)
○:観察時、樹脂微粒子が点在していることが確認できた。
×:観察時、樹脂微粒子が局在しているか、不均一に固着している様子がみられた。
【0158】
<平均粒径>
各分散性色材を、大塚電子(株)製、ELS−8000を用いて動的光散乱法にて測定し、キュムラント平均値を平均粒径とした。
【0159】
<表面官能基密度>
各分散性色材の表面官能基密度を次のように求めた。色材の水分散液に大過剰量の塩酸(HCl)を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降したものを純水に再分散させ、固形分率を求めて沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させた。上澄みを秤量し、0.1規定のHCl水溶液にて中和滴定より求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量及び純水を測定したブランク値を差し引き、表面官能基密度を算出した。極性基としてカチオン性基を有すると明らかな場合には、同様の手法にて、HCl水溶液の代わりに水酸化ナトリウム(NaOH)を用い、炭酸水素ナトリウムの代わりに塩化アンモニウムを用いて求めた。
【0160】

【0161】
[使用した水溶性有機溶剤の良溶媒及び貧溶媒の判定方法]
上記顔料分散液中の顔料、若しくは顔料と分散剤とに対する良溶媒と貧溶媒とを選択するために以下の実験を行った。先ず、上記顔料分散液1、2及び上記分散性色材1〜5の固形分濃度10%水溶液を調製し、これを用いて以下の配合比にて良溶媒、貧溶媒の判定用分散液を作成した。
【0162】
(良溶媒、貧溶媒の判定用分散液の配合比)
・顔料分散液1、2又は分散性色材1〜5のいずれかの固形分濃度10%水溶液:50部
・表2に記載の水溶性有機溶剤:50部
【0163】
次に、上記のようにして調製した良溶媒、貧溶媒の判定用分散液10gを透明なガラス製蓋つきサンプルビンに入れ、蓋をした後、充分攪拌し、これを60℃のオーブン内に48時間静置した。その後、60℃オーブンから取り出した溶液を測定用サンプルとして、当該液中の水不溶性色材の粒径を濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子(株)社製)を用いて測定し、これを60℃、48時間加温保存後の良溶媒、貧溶媒の判定用分散液の原液粒径(希釈せずに測定した粒径)とした。一方、レファレンスとして、良溶媒、貧溶媒の判定用溶液と固形分濃度が等しい顔料水分散液、つまり、水溶性有機溶剤の代わりに同量の水を加えた良溶媒、貧溶媒の判定比較用の顔料水分散液を作成した。当該水分散液は、加温保存を行うことなしに上記と同様に濃厚系粒径アナライザーによって液中の水不溶性色材の粒径を測定した。そして、得られた判定用分散液の原液粒径を、レファレンスの水分散液の粒径と比較し、60℃、48時間の加温保存後の分散液の原液粒径が、レファレンスの水分散液の原液粒径よりも増大しているものを貧溶媒と判定し、60℃、48時間の加温保存後の分散液の原液粒径が、レファレンスの水分散液のそれと同一若しくは小さくなったものを良溶媒と判定した。
【0164】
[各水溶性有機溶剤についてのKa値測定方法]
先ず、各水溶性有機溶剤のKa値測定において、測定しやすいように下記の組成を有する染料濃度0.5%の染料水溶液を作製した。
・水溶性染料C.I.ダイレクトブルー199
0.5部
・純水 99.5部
【0165】
次いで、この0.5%染料水溶液を利用して以下の配合比で、測定対象の各水溶性有機溶剤を使用して、着色された水溶性有機溶剤の20%水溶液をそれぞれ作製した。
・上記0.5%染料水溶液 80部
・表1に記載の水溶性有機溶剤 20部
上記で調製した各水溶性有機溶剤の20%水溶液を、東洋精機製作所製の動的浸透性試験装置S(商品名)を用い、ブリストウ法により水溶性有機溶剤20%水溶液のKa値をそれぞれ求めた。
【0166】
上記のようにして測定したインクに使用し得る各水溶性有機溶剤について、顔料分散液1〜3及び分散性色材1〜6に対して良溶媒であるか貧溶媒であるかを判別した結果と、各水溶性有機溶剤の20%水溶液におけるKa値の測定結果を表2に記した。表2中における、ポリエチレングリコール誘導体とは、以下に示す構造の誘導体であって、分子量が約1,000のものである。
【0167】

【0168】

【0169】
<実施例1〜6>
上記で調べた各水溶性有機溶剤と、先に調製した分散性色材1〜6とを用い、表3に記載した成分を混合し、十分に攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過して、実施例1〜6のインクを調製した。この際、インク中における良溶媒の全量(%)をA、インクにおける貧溶媒の全量(%)をBとした場合に、A:Bが10:5〜10:30の範囲内にあり、且つブリストウ法によって求められる水不溶性色材に対する上記良溶媒の20%水溶液のKa値が、ブリストウ法によって求められる複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値を比較したときに、Ka値が最大の水溶性有機溶剤が貧溶媒であるように調製した。
【0170】

【0171】
<比較例1〜5>
(インクの調製)
上記で調べた各水溶性有機溶剤と、先に調製した分散性色材1、4〜6とを用い、表4に記載した成分を混合し、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、比較例1〜5のインクを調製した。
【0172】

【0173】
<評価>
上記実施例1〜6及び比較例1〜5の各インクについて、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを具備するインクジェット記録装置BJS−700(キヤノン(株)製)を用いて下記の評価を行った。得られた評価結果を実施例については表5に、比較例については表6に示した。
【0174】
1.平均印字濃度
上記各インクと上記したインクジェット記録装置とを用いて、下記のコピー用普通紙A〜Cに2cm×2cmのベタ部を含む文字印字を行い、印字1日後の2cm×2cmのベタ部の印字濃度をマクベス社RD918を用いて測定した。尚、プリンタ−ドライバーは、デフォルトモードで行った。以下にデフォルトモードの設定条件を示した。又、インク1ドットあたりの吐出量は、30ng±10%以内である。
・用紙の種類:普通紙
・印刷品質:標準
・色調整:自動
【0175】
上記のようにして測定した結果得られた印字濃度を用いて、下記の基準で評価した。
○:3紙の印字濃度の平均が1.5以上。
×:3紙の印字濃度の平均が1.5未満。
【0176】
上記普通紙としては以下に示すものを用いた。
A:キヤノン(株)社製、PPC用紙NSK
B:ゼロックス(株)社製、PPC用紙4024
C:フォックスリバー(株)社製、PPC用紙プローバーボンド
【0177】
2.浸透性普通紙印字濃度
上記の結果のうち、Bの用紙における印字濃度について、下記の基準にて評価した。
○:B紙における印字濃度が1.4以上。
×:B紙における印字濃度が1.4未満。
【0178】
3.保存安定性
実施例1〜6及び比較例1〜5の各インクをそれぞれショット瓶に入れて密栓し、60℃オーブンに投入し、2ヶ月後に取り出して、そのときのインクの状態から保存安定性を以下の基準で評価した。
○:インク中の色材が安定均一に分散している。
△:外観上の変化はないか小さいが、粘度や平均粒径がやや増大している。
×:インクがゲル状に変化、又はインクの上部が透明になっている。若しくは明らかに増粘している。
【0179】
4.文字品位
上記印字サンプルの16ポイント文字の部分を目視で観察し、文字の滲みを下記の基準で評価した。
A:滲みが殆どない。
B:多少滲む文字が見られる。
C:滲む文字が多い。
【0180】
5.耐擦過性
印字後24時間放置した上記サンプルについて、印字した紙上にシルボン紙を載せ記録面に40g/cm2の荷重の錘を載せた状態でシルボン紙を引っ張った時に、記録紙の非印字部(白地部)及びシルボン紙に印字部の擦れによって汚れが生じるか否かを目視にて観察し、下記の基準で評価した。
A:擦れによる汚れ部分が見られない。
B:殆ど擦れによる汚れ部分がない。
C:かすれによる汚れ部分が目立つ。
【0181】
6.耐マーカー性
上記印字サンプルの14ポイント文字の部分を蛍光黄色マーカーペン(ゼブラ・オプテクス)にて一回なぞり、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:なぞった部分に印字の乱れがない。
B:なぞった部分に印字の乱れが少なく、ペン先が殆ど汚れていない。
C:なぞった部分の印字の乱れが大きく、ペン先に色がつく。
【0182】
7.耐水性
上記印字サンプルの印字面を上にして水平面から45度の角度に傾け、20cmの高さからスポイトを用いて1mlの水を、14ポイント文字の部分に垂らした。このとき、印字の滲み具合を下記の基準で評価した。
A:印字の滲みが殆どみられない。
B:印字の僅かな滲みがみられるが、白紙部分には殆ど跡がない。
C:印字部分から色が流れ、白紙部分に跡がみられる。
【0183】

【0184】

【0185】
<実施例7〜12>
ブラックインクとして先に述べた実施例1〜6の各インクをそれぞれに用い、カラーインクと併用して画像形成を行った。この際に用いたカラーインク(シアン、マゼンタ、イエローの3色)は、下記のようにして調製した。
【0186】
(シアンインクの調製)
下記に示す成分を混合し、十分攪拌して溶解させた後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、シアンインクを調製した。
・DBL(ダイレクトブルー)199 3.5部
・グリセリン 7.5部
・ジエチレングリコール 7.5部
・アセチレノールE−100 1.0部
・純水 80.5部
【0187】
(マゼンタインクの調製)
下記成分により、シアンインクと同様にしてシアンインクを調製した。
・AR(アシッドレッド)289 2.5部
・グリセリン 7.5部
・ジエチレングリコール 7.5部
・アセチレノールE−100 1.0部
・純水 81.5部
【0188】
(イエローインクの調製)
下記成分により同様にしてイエローインクを調製した。
・DY(ダイレクトイエロー)86 2.5部
・グリセリン 7.5部
・ジエチレングリコール 7.5部
・アセチレノールE−100 1.0部
・純水 81.5部
【0189】
<評価>
実施例1〜6の各ブラックインクと、上記で調製したカラーインクを組み合わせ、既述した図12に示したような、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて下記の評価を行った。得られた評価結果を表7に示す。
【0190】
8.吐出安定性
吐出安定性は、特定のBkテキストを連続で200枚印字し、初期の印字物と最後の印字物を比較して目視にて下記の基準にて評価した。
A:スジ、ムラ等なく、初期と最後で違いがない。
B:僅かなスジ、ムラ、ヨレがあるものの、問題なく印字できる。
C:大きく品位の低下がみられる、又は印字できなくなる。
【0191】
9.耐ブリード性能
前記評価用紙Aを用いて、ブラックとカラー各色(イエロー、マゼンタ、シアン)のベタ部を、隣接して印字し、ブラックとカラー色の境界部でのブリーディングの程度を目視により観察し、下記の基準で評価した。
AA:ブリーディングを視認できない。
A:ブリーディングは殆ど目立たない。
B:ややブリーディングしている。
C:色の境界線がハッキリしないほどブリーディングしている。
【0192】
10.速乾性
実施例1〜5にて用いたインクジェット記録装置を用いて前記評価用紙Aに印字を行い、印字5秒後に上記サンプルについて、印字した紙上にシルボン紙を載せ記録面に40g/cm2の荷重の錘を載せた状態でシルボン紙を引っ張った時に、記録紙の非印字部(白地部)及びシルボン紙に印字部の擦れによって汚れが生じるか否かを目視にて観察し、下記の基準で評価した。
A:擦れによる汚れ部分が見られない。
B:殆ど擦れによる汚れ部分がない。
C:かすれによる汚れ部分が目立つ。
【0193】

【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明によれば、優れた長期保存性及び吐出安定性を有し、記録媒体の浸透性能に依らずに高い印字濃度を得ることができ、且つ印字物の耐擦過性、耐マーカー性及び耐水性に優れた水性インクが提供される。又、優れた長期保存性及び吐出安定性を有しながら、常に高い印字濃度を得られる水性インクが提供され、更に優れた印字品位を有しながら、他のインクとの耐ブリード性能に優れた水性インクが提供される。更に常に高い印字濃度を維持しながら優れた速乾性を有する水性インクが提供される。又、かかるインクを用いることで、浸透性の高い普通紙媒体においても良好な印字性能を与えるインクジェット記録方法が提供され、別の効果として、上記記録方法に好適に用いることのできるインクタンク、インクジェット記録装置及びインクジェット記録画像が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】本発明による、扁平状荷電性樹脂擬似微粒子を融着している分散性色材の基本的構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法における代表的な工程の模式図である。
【図3】本発明の製造方法における扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の精製と色材への融着過程を示す模式図である。
【図4】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子を、色材と融着する界面側から拡大した模式図である。
【図5】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子と色材が融着している界面を拡大した模式図である。
【図6】特許文献1に代表される、有機顔料に親水性基を直接修飾した際の、顔料剥離現象の模式図である。
【図7】本発明にかかるインクの滴が記録媒体表面に着弾したときの様子を模式的に説明するための説明図である。
【図8】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図9】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図10】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図11】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図12】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図13】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【符号の説明】
【0196】
1:色材
2:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子
3:分散剤
4:モノマー
5:重合開始剤水溶液
6:分散性色材
7:モノマーが重合して形成されたオリゴマー
8:オリゴマーが水に不溶化した析出物
9−1:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子中の親水性モノマーユニット部分
9−2:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子中の疎水性モノマーユニット部分
10:色材との結合部位
11:扁平状荷電性樹脂擬似微粒子の色材との界面部分
12:色材に直接修飾された親水性基
13:親水化された色材分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と複数の水溶性有機溶剤と分散性色材とを含み、上記水溶性有機溶剤として、上記分散性色材に対する良溶媒と上記分散性色材に対する貧溶媒とを含有している水性インクにおいて、
上記分散性色材が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し且つ該色材と該荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材であり、
更に、インク中における良溶媒の全量(質量%)をA、インク中における貧溶媒の全量(質量%)をBとした場合に、A:Bが10:5〜10:30の範囲内にあり、且つ、ブリストウ法によって求められる、上記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち、最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であることを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記分散性色材の表面官能基密度が、250μmol/g以上1,000μmol/g未満である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記分散性色材を構成する色材が、表面に親水性基を有する請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記親水性基が、直接若しくは他の原子団を介して色材表面に結合している、請求項3に記載の分散性色材。
【請求項5】
前記色材の加熱減量が2質量%〜20質量%の範囲である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の分散性色材。
【請求項6】
上記荷電性樹脂擬似微粒子が、式(1):
CH2=C(R1)COO(R2O)n3 (1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を、R3は水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基を、nは1〜60の数を示す。)
で表される単量体を少なくとも含んで重合された重合体を少なくとも含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクを含んでなることを特徴とするインクタンク。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクを搭載していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されたことを特徴とするインクジェット記録画像。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−37091(P2006−37091A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183520(P2005−183520)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】