説明

水性インクジェットインク組成物

【課題】水性インクジェット組成物
【解決手段】 水性ビヒクル、自己分散顔料、シリコーン含有界面活性剤および−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有する水性エマルジョンポリマーを含む、ビニル表面などの疎水性表面上への印刷に好適な水性インクジェットインク組成物。疎水性基体上に画像を印刷する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性インクジェットインク組成物に関する。特に、本発明は、自己分散顔料、ケイ素含有界面活性剤および水性エマルジョンポリマーを含む、処理された疎水性基体上および非処理の疎水性基体上の印刷に好適な水性インクジェットインク組成物に関する。本発明はさらに、疎水性基体上に画像を提供する方法であって、インク組成物を疎水性基体上に噴射し、インク組成物を乾燥させ、またはインク組成物を自然乾燥させることを含む方法にも関する。本発明はさらにラミネーション、表面の前処理、ならびにオーバープリントワニスおよび他の保護コーティングの施用をはじめとする追加の処理を必要とせずに疎水性基体の表面上に耐久性のある画像を印刷するのに好適な水性インクジェットインク組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷においては、水性インク組成物を、熱的(サーマル)または機械的(ピエゾ、連続)のいずれかのパルス形態を誘発する電気シグナルにより、小さな孔から噴射された液滴の形態で基体上に噴霧する。このパルスに応答して、インクはノズルから噴射され、液滴を形成し、液滴は基体表面上の特定の位置へと推進する。一旦表面上に付いた後は、この液滴をその位置および寸法を十分に維持させて、適切な解像度の画像を形成させなければならず、その後、液滴を乾燥させ、かつ基体表面に十分に付着させなければならない。水性インクジェット組成物に関連する重要な問題は、通常の顔料ベースの水性インクでは一般に、これらの用途として知られている疎水性、耐久性の基体上にあまりよく印刷できず、かかるインク組成物が疎水性基体(特にビニル基体)にあまりよく付着しないことである。結果として、水性インクで疎水性表面上に高解像度かつ耐久性のある画像を得ることは困難である。そこで、画像の形成前に基体表面をインクジェット受容層でコーティングすることにより基体表面を前処理することが知られている。かかるコーティングは、画像の質および表面への付着性を向上させることができるが、該コーティングは基体のコストを増大させ、画像の耐水性を低下させる可能性がある。
【0003】
米国特許第6,224,141号は、別の原子団を介して表面に結合した少なくとも1つの親水性基を有する自己分散型カーボンブラック、水性メディアおよびケイ素化合物を含むインクを開示している。顔料は特別な種類のカーボンブラックであり、インクの疎水性表面への付着は開示されていない。
【0004】
米国特許第6,087,416号は、非処理ビニル基体への直接印刷における使用に好適なインクジェットインク組成物を開示し、該インクは、水性ビヒクル、不溶性着色剤、ポリマー分散剤、シリコーンまたはフッ素化界面活性剤、および任意に、水性ビヒクル中に可溶性のグラフトコポリマーバインダーを含む。不溶性着色剤はポリマー分散剤の使用を必要とする。グラフトコポリマーバインダーの分子量およびレベルはインク粘度に実質的に影響をおよぼす。加えて、フッ素化界面活性剤はコスト効率が良くない。
【0005】
米国特許公開番号第2003/0083396A1号は、着色剤、ビヒクルおよびフルオロ系界面活性剤を含有するインク組成物を開示している。フッ素化面活性剤は、シリコーン含有界面活性剤を使用しなくとも、消泡特性について好ましい。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,224,141号明細書
【特許文献2】米国特許第6,087,416号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開番号第2003/0083396A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
必要とされるのは、改善された安定性および噴射特性を示すインクジェットインク組成物であって、フッ素化界面活性剤または着色剤のための追加の分散剤の使用を必要とせず、疎水性基体上に印刷することができる組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は(a)水性ビヒクル;(b)自己分散顔料;(c)シリコーン含有界面活性剤;および(d)−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有する水性エマルジョンポリマーを含む、疎水性表面上の印刷のための水性インクジェットインク組成物を提供する。本発明はさらに、(a)(i)水性ビヒクル、(ii)自己分散顔料、(iii)シリコーン含有界面活性剤、および(iv)−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有する水性エマルジョンポリマーを含む水性インクジェットインク組成物を疎水性表面上に噴射する工程;および(b)水性インクジェットインク組成物を乾燥させる工程を含む、疎水性基体上に画像を印刷する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
シリコーン含有界面活性剤は、ケイ素原子を含む任意の界面活性剤でよい。好ましいシリコーン含有界面活性剤は、Goldschmidt Chemical Corp.(アメリカ合衆国バージニア州ホープウェル)により製造されるTEGO wet KL245(CAS No.134180−76−0)およびTEGO wet 280(CAS No.68938−54−5)である。制限なく、このような界面活性剤の例として、以下からなる群から選択される1以上のシロキサン界面活性剤を包含する:
【0010】
(i)下記式のポリエーテル修飾シロキサン:
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R’=メチル
R”=炭化水素鎖、および
=エチレンオキシドについてはH、プロピレンオキシドについてはCH
【0013】
ポリシロキサンのポリエーテル修飾は、側鎖の導入によるシリコーン主鎖構造の修飾により行うことができる。様々な種類および数の側鎖を導入することにより、親和性を向上または変更させることができる。ジメチル基とポリエーテル修飾の関係または比率(構造図におけるxとy)により、親和性の程度を制御することができる。これは表面張力に対して影響を有する。ポリエーテル鎖は、エチレンオキシド(EO)および/またはプロピレンオキシド(PO)であり得る。PEOは非常に親水性であるが、PPOは疎水性であり、PEOとPPOの比の制御によりシリコーン添加剤全体の極性の程度を制御することができる。
【0014】
(ii)シロキサンポリマーおよび少なくとも1種のオキシアルキレンポリマーを含む非イオン性シロキサンポリオキシアルキレンコポリマーであって、少なくとも1種のオキシアルキレンポリマーが全コポリマーの5重量%〜95重量%を構成するコポリマー。
コポリマーは下記一般式を有する:
(R’)(SiO(RSiO)[(C2nO)R”][R’”]3x−a
(式中、R’はxの価数を有する炭化水素基であり、
RおよびR”は一価炭化水素基であり、
R’”はアルキル基とRSi基からなる群のメンバーであり、
xは少なくとも1の値を有する整数であり、
yは少なくとも3の値を有する整数であり、
nは2〜4の値を有する整数であり、
aは少なくとも1であり、3xより大きくない値を有する整数であり、
zは少なくとも2の値を有する整数である)。
【0015】
一般に、当該シロキサンは約500〜10,000の重量平均分子量を有し、少なくとも1種のオキシアルキレンポリマーのそれぞれは約500〜6,000の重量平均分子量を有する。
【0016】
前記化合物(ii)は、BaileyおよびO’Connor、米国特許第2,834,748号に開示され、該開示は本明細書の一部として参照される。
【0017】
好ましい非イオン性シロキサンポリオキシアルキレンコポリマーは、各コポリマーが1つのシロキサンポリマーと3つのオキシアルキレンポリマーを組み合わせて含有し、下記一般式を有するコポリマーの混合物である:
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R、R’およびR”は一価炭化水素基であり、
p、q、およびrはそれぞれ少なくとも1の値を有する整数であり、
nは2〜4の値を有する整数であり、
zは少なくとも2の値を有する整数である)
【0020】
(ii)の型の特に好ましい化合物は、下記式の化合物である:
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R’は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、
xは4〜60であり、
(a+b)=1〜xであり、
a≧bである)
【0023】
(iii)(1)下記式により表される少なくとも1種のシロキサン:
SiO(4−b)
(式中、
Rは1〜22個の炭素原子を含有し、一価炭化水素基および二価炭化水素基からなる類から選択され、および、
bは1〜3であり;前記シロキサンブロックは少なくとも1つの前記シロキサン単位を含有し、ここにおいて少なくとも1つのR基は二価炭化水素基である)、
ならびに、
(2)下記式で表される少なくとも2つのオキシアルキレン基を含有する少なくとも1つのオキシアルキレンブロック:
−R’O−
(式中、R’は2〜10個の炭素原子を含有するアルキレン基であり、シロキサンおよびオキシアルキレンブロックは二価炭化水素基により結合している)
からなるブロックコポリマー。
【0024】
前記化合物(iii)はHuntington、米国特許第3,305,504号において開示され、この開示は本明細書の一部として参照される。特に好ましい(iii)の型の化合物は下記式のものである:
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、Rは水素または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、
aは1〜30であり、
bは0〜30であり、
(x+y)=4〜60である。ただし、x≧yおよびy≧1である)
【0027】
好適なシロキサン界面活性剤は、Goldschmidt Chemical Corp.(バージニア州ホープウェル)からTEGO wetとして;BYK−Chemie(コネチカット州ウォリングフォード)からBYK界面活性剤として、およびUnion Carbide Corp.(コネチカット州ダンベリー)からSilwet(登録商標)界面活性剤として入手可能である。好ましいシロキサン界面活性剤として、ポリエーテル修飾ジメチルシロキサンおよび非イオン性シリコーングリコールコポリマーが挙げられる。
【0028】
シロキサン界面活性剤は、界面活性剤混合物の合計重量を基準として、10〜80重量%、好ましくは25〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%の量において存在する。1以上のシロキサン界面活性剤は単一相液体を形成する限り、その使用前に混合することができる。
【0029】
本明細書において用いられる場合、界面活性剤系なる用語は、水性インクジェットインク組成物を調製するために用いられる1以上の界面活性剤を意味する。
【0030】
本発明の水性インクジェットインク組成物は、典型的にはバインダーと称する水性エマルジョンポリマーを含有する。本明細書において「水性」とは、メディアの重量を基準として、少なくとも50重量%の水を含む、メディアまたは単一相が存在することを意味する。水性エマルジョンポリマーは、乳化重合プロセスにより調製され、少なくとも1種の共重合したエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含む。本明細書における「非イオン性モノマー」とは、1から14のpH範囲において電気的に中性であるモノマーを意味する。エチレン性不飽和非イオン性モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリルエステルモノマー、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル;スチレンおよび置換スチレン;ブタジエン;酢酸ビニル、酪酸ビニルおよび他のビニルエステル;ならびに塩化ビニル、塩化ビニリデンをはじめとするビニルモノマーが挙げられる。
【0031】
一態様によると、水性エマルジョンポリマーは、全てがアクリル性のポリマー、およびスチレン/アクリルポリマーを含む。別の態様によると、水性エマルジョンポリマーは主成分がアクリルの水性エマルジョンポリマーを含む。本明細書において「主成分がアクリル」とは、ポリマーが50重量%より多くの、たとえば(メタ)アクリレートエステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、および(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリルモノマー由来の共重合単位を含むことを意味する。
【0032】
本開示全体にわたって用いられるように、たとえばアクリレートまたはアクリルアミドなどの別の語が後に続く「(メタ)」なる用語の使い方は、それぞれ、アクリレートまたはアクリルアミドおよび、メタクリレートまたはメタクリルアミドの両方を意味する。
【0033】
水性エマルジョンポリマーのガラス転移温度(本明細書において「Tg」)は、−40℃〜150℃、たとえば−20℃〜100℃;40℃〜100℃;および40℃〜90℃である。所望のポリマーTg範囲を達成するために選択されるモノマーおよびモノマーの量は当該技術分野においてよく知られている。本明細書において用いられる「Tg」は、Fox式(T.G.Fox、Bull.Am.Physics Soc.、第1巻、第3号、123ページ(1956))を用いることにより計算されるものである。すなわち、モノマーM1およびM2のコポリマーのTgの計算については、下記式である。
1/Tg(計算値)=w(M1)/Tg(M1)+w(M2)/Tg(M2)
(式中、
Tg(計算値)はコポリマーについて計算されたガラス転移温度である。
w(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率である。
w(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率である。
Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度である。
Tg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度である。
全ての温度は°Kで表される)
【0034】
ホモポリマーのガラス転移温度は、たとえば、「Polymer Handbook」(J.BrandrupおよびE.H.Immergut編、Interscience Publishers)において見いだすことができる。
【0035】
水性エマルジョンポリマーは、50〜1000ナノメートル、たとえば70〜300ナノメートルの平均粒径を有し、これはBrookhaven Instruments Corporation(ニューヨーク州ホルツビル)製のBrookhaven Model BI−90粒径測定器を用いて決定され、「有効径(effective diameter)」として報告されたものである。米国特許第5,340,858号;第5,350,787号;第5,352,720号;第4,539,361号および第4,456,726号に記載されているような、2つ以上の異なる粒子サイズまたは非常に広い分布が提供されるマルチモード粒子サイズエマルジョンポリマーも対象となる。好ましい水性エマルジョンポリマーは、キャピラリー式流体力学分別(Capillary Hydrodynamic Fractionation)(CHDF)による重量平均粒子サイズ測定値と動的光散乱(DLS)による体積平均粒子サイズ測定値との差により決定した場合、50nm以上、さらに好ましくは≧70nmの膨潤した外側シェル厚さを有する。
【0036】
本発明のインクジェットインク組成物は典型的には、インク組成物の合計重量を基準として、0.1重量%〜25重量%、たとえば0.5重量%〜15重量%のレベルで水性エマルジョンポリマーを含む。
【0037】
本発明の水性インクジェットインク組成物は自己分散顔料を含む。自己分散顔料とは、安定な分散を達成するためにポリマー分散剤を必要としない顔料として定義される。自己分散顔料の例としては、顔料の分散安定性を増大させる基で官能化されている顔料が挙げられる。かかる官能基としては、たとえば化学酸化、プラズマ酸化および超音波酸化などの酸化プロセスにより顔料表面上にもたらすことができるような任意の親水性基、およびたとえば米国特許第5571311号、および国際公開第03/008509A1号に記載されているような当該技術分野において知られている化学官能化技術により顔料表面に付着させることができる任意の非イオン性またはイオン性有機基が挙げられ、ならびにポリマー封入化顔料も挙げることができる。顔料は、代替的に、有機顔料、無機顔料、有機/無機複合顔料(その混合物を含む)である。本明細書において「有機顔料」とは、主に有機化合物または有機化合物の混合物である顔料を意味し、たとえばカーボンブラックが挙げられる。
【0038】
好適な有機顔料としては、たとえば、アントロキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジアゾ、モノアゾ、ヘテロサイクリックイエロー、ピランスロン、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、イソインドレン、少なくとも1つの空隙を有するポリマー粒子等が挙げられる。カーボンブラックは、炭化水素の熱分解により気相中に形成される小さな粒子サイズの炭素粒子に対する一般名称であり、たとえば、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックとして当該技術分野で知られている物質を含む。カーボンブラックは、さらに、処理されたカーボンブラック、変性されたカーボンブラック、および酸化されたカーボンブラックを含む。好ましい黒色顔料は酸化カーボンブラックである。カーボンブラックを親水性基と結合させるためにさらなる原子団を必要としないカーボンブラックもまた好ましい。好適な無機顔料は、二酸化チタン、酸化鉄および他の金属粉末を含む。通常、用いられる顔料の量は、インク組成物の合計重量を基準として、1重量%〜15重量%、たとえば2重量%〜8重量%である。顔料粒子サイズは、インクが用いられる印刷装置上のノズルを顔料粒子が詰まらせない程度に十分小さいものである。インクジェットプリンターの典型的ノズル開口は、直径10〜60ミクロン(μm)である。一具体例によると、顔料粒子サイズは、直径0.02〜2μm、たとえば0.02〜1μm、および0.02〜0.3μmである。
【0039】
本発明の水性インクジェットインク組成物は1以上の水混和性または/可溶性補助溶剤を含む。好ましい水混和性または/可溶性補助溶剤は、ある種のアルキレングリコールのモノアルキルエーテルであり、ここにおいてアルキルは、C−Cアルキルから選択され、アルキレングリコールは、モノ−、ジ−、およびトリ−エチレングリコールならびにモノ−、ジ−、およびトリ−プロピレングリコール;2−ピロール;2−ピロリドン、N−メチルピロリドン;スルホラン;およびその混合物から選択される。インク中の水混和性または/可溶性補助溶剤の量は、インクの合計重量を基準として、典型的には3重量%〜30重量%であり、好ましくは5重量%〜20重量%である。
【0040】
インクジェットインク組成物は任意に、液滴形成、表面ぬれおよび印刷された画像における液滴の融合の制御を助けるさらなる界面活性剤を任意に含む。アニオン性および非イオン性界面活性剤が好ましい。好ましくは、界面活性剤系はフッ素化界面活性剤を含まない。
【0041】
インク組成物は任意に、水混和性または水溶性物質、たとえば、保湿剤、キレート剤、消泡剤、緩衝剤、殺生物剤、殺真菌剤、粘度調節剤、殺菌剤、界面活性剤、抗カール剤、抗ブリード剤および表面張力調節剤を含有することができ、これらは全て、当該技術分野で知られている。有用な保湿剤には、たとえば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールであって重量平均分子量がそれぞれ200、300、400、600、900、1000、1500および2000であるもの、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールであって重量平均分子量がそれぞれ425、725、1000および2000であるもの、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−ピペリドン、N−エチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−アセチルエタノールアミン、N−メチルアセトアミド、ホルムアミド、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、2,2−チオジエタノール、3,3−チオジプロパノール、テトラメチレンスルホン、ブタジエンスルホン、炭酸エチレン、ブチロールアセトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、グリセロール、1,2,4−ブテントリオール、トリメチルプロパン、パントテノール、Liponic EG−1が挙げられる。インク中の用いられる保湿剤の量は、インクの合計重合を基準として、典型的には、1から30重量%、たとえば5〜20重量%の範囲である。
【0042】
本発明の水性インクジェットインク組成物は、典型的には1.5cps(センチポアズ)〜60cps、たとえば特にある種の低エネルギーピエゾおよびサーマルプリンティングヘッドについては1.5cps〜10cps、の粘度を有する。
【0043】
本明細書において記載される水性インクジェットインク組成物を疎水性表面上に噴射させ、乾燥させる。乾燥は、たとえば、加熱、気流、空気乾燥、および噴射された組成物を基体上で自然乾燥させるなどの方法により組成物を乾燥させることを包含する。本発明の水性インクジェットインク組成物は、様々な形態の様々な疎水性基体上に画像を印刷するために用いられる。「疎水性」なる用語は、50ダイン/cm以下の表面張力を有する物質を意味する。疎水性基体としては、これらに限定されるわけではないが、たとえば不透明および透明ポリエステルフィルムまたは成形ポリエステル、たとえばポリエチレンテレフタレート、キャストビニルシート、押出ビニルシート、ビニルスクリム、ビニルコートされた紙基体およびポリプロピレンが挙げられる。本明細書における「ビニル」とは、可塑化または無可塑化ポリ塩化ビニル(そのコポリマーまたはブレンドを包含する)を意味する。加えて、これらの基体は艶消しまたは光沢仕上げにすることができ、自己粘着性フリーシートであってもよい。
【0044】
施用されたインクジェットインク組成物を、乾燥させ、または自然乾燥させる。水性エマルジョンポリマーが周囲温度よりも高いTgを有する態様において、表面および/またはその上に描かれた画像は、フィルムの形成ならびにキャリアビヒクル/補助溶剤の蒸発を促進するために加熱することができる。フィルムの形成に加えてまた、加熱により画像の定着が促進されてその解像度が向上され、画像を乾燥させるのに必要な時間が減少し、フィルムの表面への付着性を向上させることができる。好ましくは、加熱はプリンターで行うことができるが、印刷プロセスが完了した後、オーブン中で行うこともできる。付着性および画像品質におけるさらなる利点は、典型的には、画像滴が表面上に噴射される前に表面が予熱される場合に生じる。
【0045】
水性エマルジョンポリマーが周囲よりも高いTgを有する別の態様において、ポリマーのフィルム形成温度を低下させ、表面のぬれに役立つために、造膜助剤が水性インクジェットインク組成物中に組み入れられる。
【0046】
このような印刷された画像は多くの商業的最終用途を有するが、ラベリング、バナー、店頭広告、広告用ポスター、バスの車体広告、ビルボードおよび他の耐久性印刷用途に特に適している。印刷された画像は、典型的には、たとえばスモールフォーマット、ラベルのデスクトップ印刷、バナーまたはポスターのワイドフォーマット印刷からビルボードのグランドフォーマット印刷までの範囲の様々なフォーマットサイズにおいて有用である。
【0047】
本発明のいくつかの具体例を以下の実施例において詳細に記載する。全ての比、部および百分率は特に記載しない限り重量により表され、使用した全ての試薬は特に記載しない限り良好な商業品質のものである。
【実施例】
【0048】
実施例において使用される試験法:
印刷法
印刷試験は、4色インクセットを用い、ENCAD Vinyljet(登録商標)ワイドフォーマットインクジェットプリンター(Encad,Inc.(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)から入手可能)で行った。疎水性基体は、Averyから得られる光沢のある自己付着性裏付キャストビニルフィルム(型番号:MP1005EZ)および3M(型番号:Control Tac 180−10)およびArlonから得られるカレンダービニルフィルム(型番号:Calon II)であった。
【0049】
摩耗付着性試験法(Abrasive Adhesion Test Method)
CS−10Wearasers(商標)を用いたテーバー線形摩耗試験機。以下の条件で試験を行った:ストローク長さ:3”、速度:25;およびローディング600g。インク耐久性を以下の基準に基づいて0から4まで定性的に採点した:
0:損傷無し
1:ある程度の光沢が失われるが、色の損失は無い
2:わずかな色の損失
3:中程度の色の損失
4:重度の色の損失
【0050】
スクラッチ付着性試験法
硬化したインクを中程度の圧力を用いてティッシュでこすることによりインクの付着性を試験した。ティッシュに付いたインクの量および隣接する印刷されていない領域に付いたインクの量を調べることにより付着性を定性的に評価した。画像を中程度の圧力で指の爪で引っ掻くことにより付着性をさらに試験した。付着性を0から4(最良から最低)までで採点した。
【0051】
以下の実施例は本発明の例示である。
【0052】
実施例1:水性エマルジョンポリマーバインダー調製
メチルメタクリレート(MMA)、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)およびメタクリル酸(MAA)の一般的組成を有するバインダーの試料を次のようにして調製する。まず、1226mlの脱イオン緩衝水(0.166meq緩衝液/g水)、1.6gの過硫酸アンモニウム(APS)、および95.6gのアクリルポリマー分散体(平均粒子サイズ=97nm、45%固形分)を含む反応容器を88℃に加熱する。次に、これに262gの水、2.30gのアリルドデシルスルホコハク酸ナトリウム(38.6%固形分)、611gのメチルメタクリレート(MMA)、143gの2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、および40.2gのメタクリル酸(MAA)の混合物を、0.82gの過硫酸アンモニウム(APS)および35.6gの水の混合物と共に、120分の時間をかけて添加する。モノマー添加が完了した後、容器を88℃で20分間保持し、次いで65℃に冷却し、45分間保持し、次いで45℃に冷却し、132gの水で希釈する。2617gのこの混合物の試料を次いで4%KOHでpH8.0に中和する。生成物を次いで100および325メッシュスクリーンを通して濾過して、最終試料を得る。試料の固形分レベル(%)は31.38%であり、平均粒子サイズは259nm(CHDFによる重量平均)であり、338nm(DLS−Microtracによる体積平均)であり、79nmのシェルサイズをもたらし、TgはDSCによると72.8℃である。
【0053】
実施例2:改善された安定性を有するインクの処方
表1に示すインク組成物が、エマルジョンポリマー(バインダー)および顔料分散体以外の全ての成分を一緒にブレンドすることにより製造される。
【0054】
実施例1のバインダーエマルジョンを次いで撹拌しながら混合物にゆっくりと添加する。顔料分散体を最後に前記混合物に撹拌しながらゆっくりと添加する。1ミクロンガラス繊維フィルター(Pall Corporation(米国、MI48103、アナーバー)により製造)を用いて最終インクを濾過する。超低粘度(UL)アダプターおよびスピンドルを備えたBrookField粘度計(Brookfield ENG LABS INC.(米国、MA02072、ストートン))を30rpmで用いて粘度を測定する。Fisher Scientific表面張力計20(Fisher Scientific(米国)により製造)を用いて表面張力を測定する。
【0055】
安定性および貯蔵寿命の時間を60℃でのオーブン加熱老化および造粒サイズ測定により評価する。インクを濾過した後、任意の熱老化を測定する前の初期粒子サイズを測定し、および60℃での特定の熱老化時間に粒子サイズを測定する。粒子サイズ測定は、Microtrac Nanotrac150粒子サイズ分析器(Microtrac Inc.(PA18936、モントゴメリービル))を用いて行う。
【0056】
【表1】

【0057】
注:Cab−O−Jet(商標)はCabot Corporation(マサチューセッツ州ビルリカ)の商標である。Cab−O−Jet顔料は自己分散顔料である。Cab−O−Jet(商標)IJX352Bブラックは官能化されたカーボンブラックであり、これにより1以上の親水性基が別の原子団によりカーボンブラックと結合される。AcryJet(商標)はRohm and Haas Company(ペンシルベニア州フィラデルフィア)の商標である。AcryJet顔料はポリマー分散顔料である。過硫酸塩による酸化カーボンブラック顔料は、欧州特許出願公開番号第1418209号における開示に従って製造される自己分散ブラックである。TEGO wet(登録商標)はGoldschmidt Chemical Corp.(バージニア州ホープウェル)の商標である。TEGO wet KL245および250はシリコーン含有界面活性組成物である。Tergitol NP−10はノニルフェノールポリエチレングリコールエーテルであり、これはDow Chemical(コネチカット州ダンベリー)により製造される非イオン性界面活性剤である。PEG−600はポリエチレングリコール、MW600である。BayscriptブラックおよびマゼンタはBayer Chemicalsから得られるポリマー分散顔料分散体である。
【0058】
【表2】

【0059】
インク試料1は、自己分散カラー顔料(マゼンタ)を含有し、インク試料3および8はポリマー分散カラー顔料(マゼンタ)を含有する。ポリマー分散カラー顔料(3および8)を含有するインクは、不十分な熱老化安定性を示す(粒子サイズが60℃で1週間のうちに増大する)。インク試料2および6は自己分散ブラック顔料(官能化カーボンブラックで、これにより1以上の親水性基が別の原子団によりカーボンブラックと接着される)を含有する。インク試料5は自己分散酸化カーボンブラック顔料を含有する(親水性基はカーボンブラック上に直接、結合される)。インク試料4および7はポリマー分散黒色顔料を含有する。自己分散黒色顔料を含有するインク(2、5および6)はポリマー分散顔料(4および7)を含有するインクよりも良好な熱老化安定性を示す。
【0060】
実施例3:改善された噴射特性および付着性を有するインクの処方
表3に示されるインク組成物は、エマルジョンポリマーおよび顔料分散体以外の全ての成分を一緒にブレンドすることにより製造される。エマルジョンポリマーを次いで撹拌しながら混合物にゆっくりと添加する。顔料分散体を最後に前記混合物に撹拌しながらゆっくりと添加する。1ミクロンガラス繊維フィルター(Pall Corporation(米国、MI48103、アナーバー)により製造)を用いて最終インクを濾過する。超低粘度(UL)アダプターおよびスピンドルを備えたBrookField粘度計(Brookfield ENG LABS INC.(米国、MA02072、ストートン))を用いて30rpmで粘度を測定する。Fisher Scientific表面張力計20(Fisher Scientific(米国))を用いて表面張力を測定する。
【0061】
プラテン温度50℃でEncad Inc.(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)により製造されるEncad Vinyl Jetワイドフォーマットプリンターで噴射性試験を行う。基体上に少なくとも12.5cmで印刷し、失射のノズルをチェックすることにより噴射性を決定する。何らかのノズルがこの試験期間中の任意の時間で印刷しない場合に、不良と見なす。疎水性基体は、Averyから得られる光沢のある自己付着性裏付キャストビニルフィルム(型番号:MP1005EZ)および3M(型番号:Control Tac180−10);またはArlonから得られる光沢のある自己付着性裏付カレンダービニルフィルム(型番号:Calon II)である。
【0062】
【表3】

【0063】
インク試料9および10は印刷試験に合格しなかった(すなわち、ノズルの不良または失射なしに12.5cmを印刷することができなかった)。インク試料1、5および11は印刷試験をパスした。
【0064】
【表4】

【0065】
表5のインク組成物は、良好な安定性、噴射性および印刷付着性を示す。
【0066】
【表5】

【0067】
注:Cab−O−Jet(商標)はCabot Corporation(マサチューセッツ州ビルリカ)の商標である。Cab−O−Jet顔料は自己分散顔料である。過硫酸塩による酸化カーボンブラック顔料は、Cabot Corporationから得られるRegal(商標)660Rを用いて欧州特許出願公開番号第1418209号における開示に従って製造される自己分散ブラックである。TEGO wet(登録商標)はGoldschmidt Chemical Corp.(バージニア州ホープウェル)の商標である。TEGO wet KL245シリコーン含有界面活性組成物である。Tergitol NP−10はノニルフェノールポリエチレングリコールエーテルであり、これはDow Chemical(コネチカット州ダンベリー)により製造される非イオン性界面活性剤である。PEG−1000はポリエチレングリコール、MW1000である。PEG−1500はポリエチレングリコール、MW1500である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水性ビヒクル;
b)自己分散顔料;
c)シリコーン含有界面活性剤;および
d)−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有するポリマー
を含む、疎水性表面上に印刷するための水性インクジェットインク組成物。
【請求項2】
水性エマルジョンポリマーが、40℃〜100℃のTgを有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリマーが、キャピラリー式流体力学分別(CHDF)を用いた重量平均粒子サイズ測定値および動的光散乱(DLS)を用いた体積平均粒子サイズ測定値の差により決定した場合に、50nm以上の厚さの膨潤した外側シェルを有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
自己分散顔料が、アントロキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジアゾ、モノアゾ、ヘテロサイクリックイエロー、ピランスロン、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、イソインドレン、少なくとも1つの空隙を有するポリマー粒子、酸化カーボンブラック、カーボンブラックを親水性基と結合させるために追加の原子団を必要としないカーボンブラック、二酸化チタン、酸化鉄、金属粉、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の複数のインクを含むインクセット。
【請求項6】
ベンジルアルコールおよびノニルフェノールポリエチレングリコールエーテルをさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
a)i)水性ビヒクル;
ii)自己分散顔料;
iii)シリコーン含有界面活性剤;
iv)−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有するポリマー
を含む水性インクジェットインク組成物を疎水性表面上に噴射する工程、および
b)水性インクジェットインク組成物を乾燥させる工程、
を含む、疎水性基体上に画像を印刷する方法。
【請求項8】
水性エマルジョンポリマーが40℃〜100℃のTgを有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水性エマルジョンポリマーが、キャピラリー式流体力学分別(CHDF)を用いた重量平均粒子サイズ測定値および動的光散乱(DLS)を用いた体積平均粒子サイズ測定値の差により決定した場合に、50nm以上の厚さの膨潤した外側シェルを有する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
自己分散顔料が、アントロキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジアゾ、モノアゾ、ヘテロサイクリックイエロー、ピランスロン、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、イソインドレン、少なくとも1つの空隙を有するポリマー粒子、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化鉄、金属粉、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項11】
疎水性表面がポリ塩化ビニル、ポリエステルまたはポリプロピレンを含む請求項7に記載の方法。
【請求項12】
表面および/またはその上に表された画像を乾燥工程前に加熱する工程をさらに含む請求項7に記載の方法。

【公開番号】特開2006−22328(P2006−22328A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−180309(P2005−180309)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】