説明

水性インクジェットインク

【課題】低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【解決手段】一実施形態は、水と重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールとを含む分散媒、および顔料を含有する水性インクジェットインクである。前記顔料の量は、前記水性インクジェットインク総量の5質量%未満である。前記水性インクジェットインクは、コーンプレート型粘度計を用いて20rpmの回転数で測定された粘度(mPa・s)が以下の関係を満たす。
A/VB≧1.5
A≧10mPa・s
3mPa・s≦VB≦15mPa・s
ここで、
Aは、30℃における粘度であり、
Bは、45℃における粘度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、一般的には水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
水を含む分散媒に顔料が分散された水性インクジェットインクには、通常、水の揮発を抑えるための保湿剤が含有される。水の揮発による粘度上昇を抑制するための粘度調整剤もまた、水性インクジェットインクに含有されるのが一般的である。
【0003】
保湿剤としての多価アルコールは、紙媒体の主成分であるセルロースとの相性がよい。また、粘度調整剤としての水溶性有機溶媒は紙への浸透性が高い。このため、水性インクジェットインクは紙媒体の内部に容易に浸透し、インク中の顔料は紙媒体の表面に残りにくい。所望の濃度の画像を紙媒体に形成できる水性インクジェットインクを得るには、紙媒体中への浸透を考慮した量で、顔料を含有させることが必要とされていた。
【0004】
しかしながら、インクの製造コストを削減するためには、顔料の含有量を低減することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開2005/0204957
【特許文献2】米国特許第5,746,818号
【特許文献3】特許第3760621号公報
【特許文献4】特開2006−159423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、水性インクジェットインクは、水と重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールとを含む分散媒、および顔料を含有する。前記顔料の量は、前記水性インクジェットインク総量の5質量%未満である。前記水性インクジェットインクは、コーンプレート型粘度計を用いて20rpmの回転数で測定された粘度(mPa・s)が以下の関係を満たす。
【0008】
A/VB≧1.5
A≧10mPa・s
3mPa・s≦VB≦15mPa・s
ここで、
Aは、30℃における粘度であり、
Bは、45℃における粘度である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図2】インクジェットヘッドの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0011】
水性インクジェットインクが紙媒体上に吐出された際、紙媒体の内部への顔料の浸透を抑制できれば、紙媒体上での画像濃度は高められる。紙媒体内部へのインクの浸透はインクの粘度に関連し、水性インクジェットインクの粘度が高くなると紙媒体へのインクの浸透は抑制される。その結果、水性インクジェットインク中の顔料は紙媒体の表面近傍に留まって、得られる画像濃度を高めることができる。
【0012】
水性インクジェットインクの粘度は、インクジェットヘッドから安定に吐出するために適切な範囲内でなければならない。水性インクジェットインクにおいては、紙媒体に接触する際の粘度が、インクジェットヘッドから吐出されるまでの粘度より大きいことが求められる。
【0013】
本発明者らは、常温(30℃程度)で高粘度の水性インクジェットインクに着目した。45℃以上に加熱することによって、この高粘度のインクジェットインクの粘度は所望の値に低下する。こうして本発明者らは、高粘度の水性インクジェットインクの粘度に以下の関係を見出した。粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて20rpmの回転数で測定された値である。
【0014】
A/VB≧1.5 式1
Aは、30℃における粘度である。VAは、インクジェットヘッドから吐出されて紙媒体に接触する際の粘度にほぼ一致する。紙媒体の内部へのインクの浸透を抑制するために、VAは10mPa・s以上に規定される。VAが15mPa・s以上の場合には、紙媒体の内部へのインクの浸透はより確実に抑制される。
【0015】
Bは、45℃における粘度である。VBは、インクジェットヘッドの内部における粘度にほぼ一致する。インクジェットヘッドから吐出されるまでは、インクの粘度はVBであるということができる。インクジェットヘッドから安定に吐出するために、VBは3〜15mPa・sに規定される。
【0016】
上記式1を満たす水性インクジェットインクは、インクジェットヘッドから吐出されると粘度が上昇して、インクジェットヘッド内部での粘度の1.5倍以上に増加する。VA/VBが1.5未満の場合には、粘度の増加が不十分であり、紙媒体内部へのインクの浸透を抑制することができない。紙媒体への浸透をより十分に抑制したインクを得るためは、VA/VBは2.0以上が好ましい。後述するようにVAの値は、水溶性多価アルコールの種類および含有量などに依存し、その上限は40mPa・s程度となる。VA/VBの上限は2.67程度と算出される。
【0017】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、常温で高い粘度を有する。高粘度の水性インクジェットインクを安定に吐出して紙媒体に画像を形成するには、インク循環経路およびヘッド保温機能を有するインクジェットヘッドが用いられる。
【0018】
図1に、こうしたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置の一例を示す。
【0019】
インクジェット記録装置11は、インク滴を紙媒体に吐出するインクジェットヘッド12と、インクジェットヘッド12にインクを供給するタンク13と、インクジェットヘッド12とタンク13との間でインクを循環させる循環機構14とを有する。インクジェットヘッド12には、インク滴を紙媒体に吐出するためのノズル31が設けられている。タンク13の内部には、本実施形態の水性インクジェットインクが貯留される。
【0020】
タンク13は、大気開放弁15を有している。この大気開放弁15を開放することで、タンク13の内部圧力を大気圧にすることができる。また、大気開放弁15を閉鎖することによって、タンク13の内部圧力を大気圧から変動させることができる。
【0021】
インクジェットヘッド12のノズル31内の液面(メニスカス)位置は、インクタンク13内の液面高さhに比べて、重力方向において高くなっている。これにより、ヘッド12内には負圧が発生するので、ノズル31からインクが漏れ出ることはない。
【0022】
循環機構14は環状の流路16を有し、この流路16の途中には、ポンプ17およびフィルタ部材18が順に設けられている。上流側に設けられたポンプ17は、流路16内で矢印に示す方向にインクジェットインクを循環させる。ポンプ17の下流に設けられたフィルタ部材18は、インク中に混入した異物を回収する。
【0023】
図2に示されるように、インクジェットヘッド12においては、第2インク供給孔37および第2インク排出孔38を有する基板26上に、圧電素子27が設けられている。圧電素子27は、紙面に直交する方向で並び、隣接する圧電素子27の間の空間は圧力室8となる。したがって、複数の圧力室8が図2に示される断面に直交する方向に並んでいる。圧力室の列は、第1圧力室列80aと、第2圧力室列80bとの2つである。
【0024】
基板26上には、枠部材28を介してノズルプレート20が配置され、ノズルプレート20は、インクを吐出するための複数のノズル31を有する。ノズル31においては、圧力室8側の開口部がインク吐出側の開口部より大きい。複数のノズル31は、各圧力室8に対応して設けられてノズル列を構成する。ノズル列は、第1圧力室列80aに対応する第1ノズル列と、第2圧力室列80bに対応する第2ノズル列との2つである。
【0025】
ノズル列においては、300ノズル/インチでノズル31が配置されている。ノズル列の長さ方向で隣接するノズルの距離は、84.7μmとなる。2つのノズル列の配置位置は、ノズル列の長さ方向において42.3μmずれている。したがって、このインクジェットヘッド12は、600dpi(ドット/インチ)で印刷可能である。
【0026】
基板26における第2インク供給孔37は、ノズルプレート20と基板26の間の供給側共通圧力室33に連通している。供給側共通圧力室33は、第1圧力室列80aと第2圧力室列80bとの間に配置される。それぞれの圧力室列と枠部材との間は、排出側共通圧力室32である。排出側共通圧力室32は、基板26における第2インク排出孔38と連通している。
【0027】
インクは、第1インク供給孔24から供給され、インク供給溝51、第2インク供給孔37、供給側共通圧力室33、圧力室8、排出側共通圧力室32、第2インク排出孔38、インク排出溝34、および第1インク排出孔23の順に流れる。この経路によって、インク循環経路が構成される。
【0028】
各圧力室の両側の圧電素子を駆動して、その圧力室の容積を可変する。圧力室の容積が拡張するとインクが圧力室内に供給される。圧力室が収縮するとノズルからインクが吐出される。吐出されなかったインクは、インク循環経路を通過して第1インク供給孔24から再び供給される。
【0029】
インクジェットヘッド12の外壁には、温水パイプ60,61が設けられる。温水パイプ60,61は、ヘッドを保温するための温水を循環させる保温機構であり、熱伝導性の高い接着剤によってヘッドの外壁に固定されている。温水パイプ60では、温水が紙面手前側から奥側へ供給される。温水パイプ61では、温水パイプ60とは逆に、紙面奥側から手前に温水が供給される。ヘッド温度はサーミスタ(図示せず)で設定され、温水の温度はヘッド温度に合わせて加熱される。
【0030】
さらに、インクジェットヘッド12の外壁には、ペルチエ素子40が設けられる。ペルチエ素子40は、吸熱性を利用してインクジェットヘッド12を冷却する冷却機構である。冷却水を循環させるパイプをヘッドの周囲に設けて、冷却機構としてもよい。
【0031】
前述の保温機構とともに冷却機構を用いることによって、インクジェットヘッド12の温度を適切な範囲内に保つことができる。
【0032】
このように、インクジェットヘッド12においては、吐出に最適な粘度が得られるようにインクが保温される。インクジェットヘッド12内のインクの温度は、45℃以上となる。また、圧電素子27の振動等によりヘッドが自己発熱して、ヘッドの温度が上昇する傾向となる。インクジェットヘッドにおける自己発熱とインク循環と保温機構とによって、ヘッド内部のインクの粘度を吐出に最適な範囲内とすることができる。インクジェット記録に適切な範囲の粘度を有するので、本実施形態の水性インクジェットインクは、ヘッドから安定して吐出することが可能である。インクジェットヘッドから吐出されるまでのインクの粘度が、VBに相当する。
【0033】
上述のようにインクジェットヘッド12においてインクが保温されている場合、インクジェットヘッド12の外側の雰囲気の温度は30℃程度である。インクジェットヘッド12のノズル31から吐出されるのは、通常、数μリットル程度の微小なインク滴である。インク滴は、ノズルから吐出されると45℃以上の温度から30℃程度まで急激に冷却されて、インクの粘度が増加する。増加した粘度は、VAに相当する。
【0034】
インク滴が着弾する紙媒体の温度は、25〜35℃程度である。温度の低い紙媒体に接触すると、水性インクジェットインクの粘度はさらに増加して、紙媒体への浸透性がよりいっそう低下する。その結果、インク中の顔料は、紙媒体中に浸透せずに表面近傍に留まる。インク中の顔料のほぼ全てが発色に寄与するので、インク中に含有される顔料の量を通常の量より低減しても、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することができる。
【0035】
なお、本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。紙媒体は、印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
【0036】
本実施形態の水性インクジェットインクは、45℃以上に保温されない限り粘度が高い。こうした特性は、重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールを配合することによって得られた。本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、水および顔料に加えて、重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールを含有する。
【0037】
水としては、例えば純水や超純水を用いることができる。水性インクジェットインクにおける水の量は特に限定されないが、水が過剰に含有されるとカール等が生じて紙媒体が変形するおそれがある。水の量がインク総量の70質量%未満であれば、紙媒体の変形を避けることができる。水性インクジェットインク中における水の量は、インク総量の60質量%未満がより好ましく、インク総量の50質量%未満が最も好ましい。
【0038】
顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、およびアニリンブラックなどを使用できる。
【0039】
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
【0040】
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128, C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
【0041】
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0042】
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
【0043】
顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。こうした範囲内であれば、インクジェット記録装置において使用する際、インクジェットヘッドの目詰まりを生じることがない。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0044】
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
【0045】
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコールなどに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、自己分散型顔料を用いてもよい。
【0046】
自己分散型顔料とは、分散剤なしに水等に分散可能な顔料であり、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。所定の表面処理を施すことによって、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせる。こうして、自己分散型顔料が得られる。
【0047】
他の顔料分散体中の顔料と比較して自己分散型顔料は、水中での分散安定性に優れるとともに、紙媒体への吸着力が高い。このため、自己分散型顔料が含有されたインクは、より高品質な画像を形成することができる。
【0048】
本実施形態においては、顔料の量は、水性インクジェットインク総量の5質量%未満に規定される。5質量%以上の場合には、コストを削減することができないのに加えて、ヘッド内部等での目詰まりが発生しやすくなる。顔料の量は、水性インクジェットインク総量の4質量%未満がより好ましく、3質量%未満が最も好ましい。水性インクジェットインクには、総量の1.5質量%以上の顔料が含有されるのが一般的である。
【0049】
本実施形態の水性インクジェットインクには、重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールが含有される。こうした水溶性多価アルコールは、水性インクジェットインクの常温での粘度を高める増粘剤として作用する。重量平均分子量が400未満の場合には、30℃における粘度を10mPa・s以上に高めることができない。水溶性多価アルコールの重量平均分子量の上限は特に規定されないが、通常10000程度である。
【0050】
用いられる水溶性多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリグリセリン,およびポリエーテルポリオール等が挙げられる。水溶性多価アルコールは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。重量平均分子量の異なる複数の水溶性多価アルコールを用いることもできる。
【0051】
水性インクジェットインクにおける水溶性多価アルコールの量は、水性インクジェットインク総量の10〜60質量%の範囲内が好ましい。こうした範囲の量で水溶性多価アルコールが含有されていれば、常温における粘度が所定の範囲内のインクが得られる。なお、重量平均分子量の異なる複数の水溶性多価アルコールを用いる場合には、30℃における粘度が20mPa・s以上となるように、それぞれ適切な量で配合すればよい。
【0052】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、例えば、顔料分散体と水と水溶性多価アルコールとを混合して調製することができる。
【0053】
インクの吐出性能や浸透性など、最適な特性条件に調整するために、界面活性剤を配合してもよい。
【0054】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、およびジメチロールヘプタンEO付加物などが挙げられる。
【0055】
さらに、アセチレングリコール系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を用いることもできる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、82、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
【0056】
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
【0057】
界面活性剤は、インク総量の0.1〜2質量%程度の量で含有されていれば、所望の効果を発揮することができる。しかも、何等不都合を伴なうこともない。
【0058】
上述の界面活性剤のうち、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、および非イオン性界面活性剤などは、顔料分散体を調製するための分散剤として用いることができる。
【0059】
必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0060】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンズイソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN(いずれも登録商標))などを使用することができる。
【0061】
こうした添加剤を配合することによって、印字画像品質や保存安定性がさらに高められる。
【0062】
またさらに、インクとしての特性を向上させるための目的に応じた添加剤、例えば浸透剤等を配合することができる。添加剤の配合量は、水に溶解あるいは分散する範囲内で適宜選択すればよい。例えば難溶性の添加剤は、可溶化剤等と併用して用いることができる。いずれの添加剤も、上述した顔料の分散安定性を損なわない範囲で添加されることが望まれる。
【0063】
以下に、水性インクジェットインクの具体例を示す。
【0064】
下記表1に示す処方で各成分を混合して、水性インクジェットインクを調製した。下記表1中の数値は、各成分の質量部を示している。界面活性剤としてサーフィノール465(日信化学工業社製)を用いた。
【0065】
顔料分散体は、自己分散型顔料の分散体(CAB−O−JET−300、Cabot社製)である。この自己分散型顔料の分散体においては、表面に官能基を有する顔料が水中に分散されている。顔料分散体における顔料の含有量(固形分)は、15質量%である。下記表1には、水と顔料とを含む顔料分散体の量として記載されている。
【表1】

【0066】
水溶性多価アルコール(PEG1000およびPEG400)は、いずれもポリエチレングリコール(三洋化成製)である。これらの重量平均分子量は、それぞれ1000および400である。
【0067】
各水性インクジェットインクにおける顔料の含有量を、下記表2にまとめる。
【表2】

【0068】
得られた水性インクジェットインクについて、コーンプレート型粘度計を用いて粘度を測定した。粘度計は、VISCOMETER TV−22(東機産業社製)である。0.8°×R24のコーンロータを用い、20rpmの回転数で各水性インクジェットインクの所定の温度における粘度を測定した。
【0069】
30℃で測定してVAを得、45℃で測定してVBを得た。
【0070】
測定値(VA,VB)を用いてVA/VBを算出した。その結果を、測定値とともに下記表3にまとめる。
【表3】

【0071】
得られた水性インクジェットインクについて、保存安定性、吐出安定性および画像濃度を調べた。評価方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0072】
(保存安定性)
100ccのインクサンプルをガラス製サンプル瓶に収容し、密栓して65℃の恒温槽に保存した。1週間後、インクサンプルの30℃における粘度を前述と同様にして測定し、VA7を得た。
【0073】
粘度の変化は、100((VA7−VA)/VA)で表わされる増加率で評価した。ここで、VA7は1週間後における30℃での粘度であり、VAは初期における30℃での粘度である。粘度増加率が10%未満の場合には良とし、10%以上の場合には不良とした。
【0074】
(吐出安定性)
CF1ヘッド(型番)(東芝テック社製)を搭載したインクジェット記録装置を用いて、紙媒体としての普通紙に連続印字を行なった。このCF1ヘッドは、インク循環経路および循環水によるヘッド保温機能を有している。インクを循環しながら、ヘッド温度およびインクタンク温度が45℃に到達したことを確認した後、ヘッド温度を45℃に保温しながら普通紙へ連続印字を行なった。普通紙としては、東芝コピーペーパーを使用した。
【0075】
印字直後、画像の乱れおよびかすれの有無を目視により調べ、以下の基準で安定性を判断した。なお、AまたはBであれば、実質上問題ないレベルである。
【0076】
A:かすれ等の発生なし
B:実質上問題ないレベルで、かすれが発生
C:吐出不良あり、実用にならないレベル
(画像濃度)
前述のインクジェット記録装置を用いて前述の普通紙にベタ画像を形成し、その濃度を測定した。1画素を形成するために、1つのノズルから4pl(ピコリットル)のインクを連続的に3滴吐出させて、同一位置に着弾させる。600dpi(ドット/インチ)で、1cm2のベタ画像を形成した。得られた印刷物を1日間放置した後、分光濃度計(X−Rite社製)を用いて画像濃度を測定した。画像濃度の判断基準は、以下のとおりである。
【0077】
良:画像濃度1.3以上
不良:画像濃度1.3未満
得られた結果を、費用効果性とともに下記表4にまとめる。費用効果性は、インク中における顔料の含有量で評価した。含有量が5.0質量%未満であれば、費用効果性は良とし、5.0質量%以上の場合には不良とした。
【表4】

【0078】
上記表4に示されるように、No.3,11のインクは保存安定性および吐出安定性が劣っている。上記表3に示されるように、No.3,11のインクは、VBがそれぞれ18mPa・sおよび16.1mPa・sであり、15mPa・sを超えている。VBが大きすぎるために、これらのインクはインクジェットヘッドから安定に吐出することができない。
【0079】
No.5,6,12,13のインクは、画像濃度と費用効果性とを両立することができない。上記表3に示されるように、No.5、12,13のインクは、VAが10mPa・s未満と小さい。このため、これらのインクは紙媒体の内部への浸透が抑制されず、画像濃度を高めることができない。No.6のインクは、顔料の含有量が5.0質量%を超えていることが上記表2に示されている。
【0080】
No.1,2,4,7〜10の水性インクジェットインクは、いずれも、VAが10mPa・s以上であり、VBは3〜15mPa・sであり、VA/VBが1.5以上である。重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールが含有されているので、粘度の条件を満たすことができた。これに加えて、No.1,2,4,7〜10のインクにおいては、顔料の含有量は5質量%未満である。
【0081】
こうした条件を全て備えているので、保存安定性および吐出安定性に優れるとともに費用効果性の高い水性インクジェットインクが得られた。しかも、かかるインクは、高品質の画像を紙媒体に形成することができる。
【0082】
本発明の実施形態の水性インクジェットインクは、低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能である。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
11…インクジェット記録装置; 12…インクジェットヘッド; 13…タンク
14…循環機構; 15…大気開放弁; 16…流路; 17…ポンプ
18…フィルタ部材; 26…基板; 37…第2インク供給孔
38…第2インク排出孔; 27…圧電素子; 8…圧力室; 31…ノズル
80a…第1圧力室列; 80b…第2圧力室列; 28…枠部材
20…ノズルプレート; 24…第1インク供給孔; 51…インク供給溝
33…供給側共通圧力室; 32…排出側共通圧力室; 34…インク排出溝
23…第1インク排出孔。; 40…ペルチエ素子; 60,61…温水パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と重量平均分子量400以上の水溶性多価アルコールとを含む分散媒、および
前記水性インクジェットインク総量の5質量%未満の顔料を含有し、
コーンプレート型粘度計を用いて20rpmの回転数で測定された粘度(mPa・s)が以下の関係を満たすことを特徴とする水性インクジェットインク。
A/VB≧1.5
VA≧10mPa・s
3mPa・s≦VB≦15mPa・s
ここで、
Aは、30℃における粘度であり、
Bは、45℃における粘度である。
【請求項2】
前記VAは15mPa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記VA/VBは2.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記顔料は、自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記顔料の量は前記水性インクジェットインク総量の3質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記顔料の量は前記水性インクジェットインク総量の1.5質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
前記水溶性多価アルコールは、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリグリセリン,およびポリエーテルポリオールからなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
前記水溶性多価アルコールの量は、前記水性インクジェットインク総量の10〜60質量%であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項9】
界面活性剤をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項10】
前記界面活性剤の量は、前記水性インクジェットインク総量の0.1〜2質量%であることを特徴とする請求項9に記載の水性インクジェットインク。
【請求項11】
前記水性インクジェットインクは、保温機能を有するインクジェットプリントヘッドを搭載した記録装置にて使用されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項12】
保温機構を有するインクジェットヘッドから、少なくとも1種のインク組成物を紙媒体に吐出して画像を形成する工程を具備し、前記インク組成物は請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記インクジェットインクは、45℃以上の温度で前記インクジェットヘッドから吐出されることを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記インクジェットインクが吐出される前記紙媒体の温度は25〜35℃であることを特徴とする請求項12または13に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記保温機構は、前記インクジェットヘッドの外壁に設けられ温水を循環する温水パイプであることを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記インクジェットヘッドは圧電素子を含むことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記圧電素子が振動して、前記インクジェットヘッドが自己発熱することを特徴とする請求項16に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記インクジェットインクは、前記インクジェットヘッドの発熱を熱源として保温されることを特徴とする請求項17に記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
前記インクジェットインクの温度は、冷却機構により所定範囲内に保たれることを特徴とする請求項12乃至18のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236419(P2011−236419A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103702(P2011−103702)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】