説明

水性インク組成物、およびインクジェット記録方法ならびに記録物

【課題】水性インク組成物の低温での保存安定性を確保しつつ、特定の記録媒体上に形成された画像の滲みを低減でき、かつ、耐擦性に優れた画像が得られるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、記録媒体を40℃以上に加熱して、記録媒体上に吐出された水性インク組成物を乾燥させる工程と、を含むインクジェット記録方法であって、顔料と、第1溶媒と、第2溶媒と、第3溶媒と、を含有し、第1溶媒の含有量は、3質量%以上6質量%以下であり、第1溶媒の含有量(W)と第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、第1溶媒の含有量(W)と、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク組成物、およびインクジェット記録方法ならびにそれを用いた記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック等のインクを吸収しない非吸収メディアに対する記録において、速乾性があり、かつ、滲みを防止できるという点から、有機溶媒をベースとした非水系インク組成物が用いられていた。しかしながら、地球環境および安全性等の観点から、溶媒として水をベースとした水性インク組成物が用いられるようになってきた。
【0003】
このような水性インク組成物に色材として黄色顔料を含む場合には、黄色顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を使用する場合があった。しかしながら、C.I.ピグメントイエロー74は耐光性が不十分であるため、これに代えてC.I.ピグメントイエロー180を使用して、耐光性を改良する検討がなされている。
【0004】
ところが、C.I.ピグメントイエロー180を含む水性インク組成物は、−10℃以下に低温保存して凍結した後、解凍すると、顔料の凝集などが生じて、低温での保存安定性が低下することがある。例えば、特許文献1〜特許文献3では、黄色顔料を含む水性インク組成物の凍結を防ぐことを1つの目的として、グリセリン等の保湿成分を添加している。黄色顔料を含む水性インク組成物にグリセリン等を添加すると、低温での保存安定性を向上できる場合がある。
【0005】
一方、黄色顔料を含む水性インク組成物を用いてプラスチック等の記録媒体上に画像を形成すると、他色との接触によって画像の滲みが発生して、良好な画像が得られない場合がある。そのため、水性インク組成物にアルカンジオール等を添加して、画像の滲みを低減させることが知られている。
【0006】
例えば、特許文献3には、水性インク組成物に1,2−ヘキサンジオール等を添加すると、一部の記録画像において画質のむらがない良好な画像が得られることについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−60411号公報
【特許文献2】特開2005−60419号公報
【特許文献3】特開2007−154087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、C.I.ピグメントイエロー180を含む水性インク組成物にグリセリン等の保湿成分を添加すると、プラスチック等の記録媒体上に形成された画像の耐擦性が悪化して、良好な画像が得られない場合があった。
【0009】
また、C.I.ピグメントイエロー180を含む水性インク組成物にアルカンジオール等を添加すると、水性インク組成物の低温保存安定性が低下する場合があった。
【0010】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、上記課題を解決することによって、水性インク組成物の低温での保存安定性を確保しつつ、吐出安定性に優れ、特定の記録媒体上に形成された画像の滲みを低減でき、かつ、耐擦性に優れた画像が得られるインクジェット記録方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0012】
[適用例1]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、
前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、
を含むインクジェット記録方法であって、
前記水性インク組成物は、C.I.ピグメントイエロー180からなる顔料と、
1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも1種からなる第1溶媒と、
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種からなる第2溶媒と、
プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種からなる第3溶媒と、
を含有し、
前記第1溶媒の含有量(W)は、3質量%以上6質量%以下であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と前記第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と、前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上であることを特徴とする。
【0013】
適用例1のインクジェット記録方法によれば、水性インク組成物の低温での保存安定性を確保しつつ、吐出安定性に優れ、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に形成された画像の滲み低減でき、かつ、耐擦性に優れた画像を得ることができる。なお、本明細書中において低温とは、水性インク組成物が凍結する温度であって、−10℃以下のことをいう。
【0014】
[適用例2]
適用例1において、
前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)は、9質量%以上25質量%以下であることができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または適用例2のいずれかにおいて、
前記顔料の含有量は、1質量%以上10質量%以下であることができる。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記水性インク組成物の測定温度20℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であることができる。
【0017】
[適用例5]
本発明に係る記録物の一態様は、
適用例1ないし適用例4のいずれか1例に記載のインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とする。
【0018】
[適用例6]
本発明に係る水性インク組成物の一態様は、
インクジェット記録方法に用いる水性インク組成物であって、
C.I.ピグメントイエロー180からなる顔料と、
1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも1種からなる第1溶媒と、
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種からなる第2溶媒と、
プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種からなる第3溶媒と、
を含有し、
前記第1溶媒の含有量(W)は、3質量%以上6質量%以下であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と前記第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と、前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上であることを特徴とする。
【0019】
適用例6の水性インク組成物によれば、水性インク組成物の低温での保存安定性を確保しつつ、吐出安定性に優れ、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に形成された画像の滲み低減でき、かつ、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0020】
[適用例7]
適用例7において、
前記インクジェット記録方法は、インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、前記水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、
前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、
を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0022】
1.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、を含むインクジェット記録方法であって、前記水性インク組成物は、C.I.ピグメントイエロー180からなる顔料と、1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも1種からなる第1溶媒と、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種からなる第2溶媒と、プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種からなる第3溶媒と、を含有し、前記第1溶媒の含有量(W)は、3質量%以上6質量%以下であり、前記第1溶媒の含有量(W)と前記第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、前記第1溶媒の含有量(W)と、前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上であることを特徴とする。なお、本発明において「画像」とは、ドット群から形成される印字パターンを示し、テキスト印字、ベタ印字も含める。
【0023】
1.1.インクジェット記録工程
本発明の一実施形態におけるインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
インクジェット記録装置としては、インクの液滴を吐出して、液滴を記録媒体上に付着させて記録を行うことができるものであれば特に限定されないが、印刷時に記録媒体を加熱できる機能を備えていることが好ましい。ここで、「印刷時」とは、インクジェット記録装置によりインクの液滴を吐出して、液滴を記録媒体上に付着させた直後から、該インクが乾燥するまでの時間のことをいう。
【0025】
記録媒体を加熱できる機能としては、例えば、記録媒体に熱源を直接接触させて加熱するプリントヒーター機能や、記録媒体に直接接触させないで赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長をもつ電磁波)などを照射したり、温風を吹き付けたりするドライヤー機能などが挙げられる。プリントヒーター機能およびドライヤー機能は、それぞれ単独で使用することもできるし、同時に使用することもできる。これにより、印刷時の乾燥温度を調節することができる。
【0026】
また、インクジェット記録装置によりインクの液滴を吐出して、液滴を付着させた記録媒体を所定の温度に設定された乾燥機や恒温槽で乾燥させてもよい。
【0027】
記録媒体としては、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体(以下、単に「プラスチックメディア」ともいう。)を用いる。インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0028】
ここで、本明細書において「インク非吸収性または低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0029】
インクジェット記録装置を用いたインクジェット記録方法は、例えば、次の様に行うことができる。まず、水性インク組成物(後述)を液滴としてプラスチックメディア上に吐出する。これにより、プラスチックメディア上に画像を形成することができる。インクジェット吐出方法としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【0030】
次に、インクジェット記録装置に備えられたプリントヒーターおよびドライヤーによって、プラスチックメディアを40℃以上に加熱して、プラスチックメディア上に吐出された水性インク組成物(後述)を乾燥させる。本工程によって、プラスチックメディア上に吐出された水性インク組成物中に含有される水分等が速やかに蒸発飛散して、水性インク組成物中に含まれる樹脂粒子(後述)によって皮膜が形成される。これにより、プラスチックメディア上においても、濃淡ムラ・滲みが少ない高画質な画像を短時間で得ることができ、樹脂粒子の皮膜を形成させることでプラスチックメディア上にインク乾燥物が接着するため画像が定着する。
【0031】
プラスチックメディアの加熱温度は、40℃以上であり、好ましくは40℃以上80℃以下であり、より好ましくは40℃以上60℃以下である。プラスチックメディアの加熱温度が40℃以上であれば、水性インク組成物中の液媒体の蒸発飛散を効果的に促進することができる。なお、プラスチックメディアの加熱温度が80℃を超える場合、プラスチックメディアの種類によっては変形等の不具合が生じたり、プラスチックメディアが室温まで冷えた際に収縮等の不具合が起こる場合がある。
【0032】
プラスチックメディアの加熱時間は、水性インク組成物中に存在する液媒体が蒸発飛散し、かつ樹脂定着剤の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、用いる溶媒、樹脂粒子、印刷速度等を加味して適宜設定することができる。
【0033】
1.2.水性インク組成物
以下、本発明の一実施形態におけるインクジェット記録方法に用いる水性インク組成物について、詳細に説明する。
【0034】
1.2.1.顔料
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、顔料としてC.I.ピグメントイエロー180を含有する。C.I.ピグメントイエロー180は、耐光性に優れており、また、後述する第1溶媒と組み合わせることにより、優れた画質を有する画像を形成することができる。
【0035】
一般的に、水性インク組成物中のC.I.ピグメントイエロー180は、水性インク組成物を低温で保存した後に解凍すると、凝集を起こしやすい。しかしながら、本実施形態における水性インク組成物は、後述する組成に調製することによって、低温で保存した後に解凍しても、C.I.ピグメントイエロー180の凝集を低減でき、良好な低温保存安定性を有することができる。
【0036】
C.I.ピグメントイエロー180の含有量は、水性インク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。C.I.ピグメントイエロー180の含有量が上記範囲内にあると、水性インク組成物中のC.I.ピグメントイエロー180の分散性およびプラスチックメディア上に形成された画像の発色が良好である。
【0037】
1.2.2.溶媒
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、第1溶媒、第2溶媒、および第3溶媒を含有する。
【0038】
第1溶媒には、1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも一種を用いる。これらの材料は、プラスチックメディアに対する水性インク組成物の濡れ性を高めて均一に濡らす作用に優れているため、プラスチックメディア上に形成された画像のインクの滲み等を低減させることができる。
【0039】
第1溶媒の含有量(W)は、水性インク組成物の全質量に対して、3質量%以上6質量%以下である。第1溶媒の含有量(W)が上記範囲内にあると、インクの滲みが低減した良好な画像を得ることができる。一方、第1溶媒の含有量(W)が上記範囲未満であると、インクの滲み等が発生して、良好な画像を得ることができない場合がある。また、第1溶媒(W)の含有量が上記範囲を超えると、低温時において水性インク組成物中の顔料が凝集して、保存安定性が低下する場合がある。
【0040】
第2溶媒には、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種を用いる。
【0041】
第3溶媒には、プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種を用いる。
【0042】
第2溶媒および第3溶媒は、第1溶媒との相溶性に優れており、かつ、水性インク組成物の低温での保存安定性を向上させることができる。第2溶媒および第3溶媒は、水性インク組成物が凍結後に溶解した場合に、水性インク組成物の粘度上昇や顔料の凝集を低減できる。そのため、一旦凍結した水性インク組成物を溶解して使用しても、水性インク組成物の吐出安定性を良好に保つことができる。
【0043】
第2溶媒の含有量(W)は、水性インク組成物の全質量に対して、3質量%以上であることが好ましく、3質量%以上24質量%以下であることがより好ましい。第3溶媒の含有量(W)は、水性インク組成物の全質量に対して、22質量%以下であることが好ましく、1質量%以上22質量%以下であることがより好ましい。また、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)は、9質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0044】
第2溶媒の含有量(W)が3質量%以上であり、かつ、第2溶媒および第3溶媒の含有量の合計(W+W)が9質量%以上であると、低温での保存安定性に優れた水性インク組成物を得ることができる。一方、第2溶媒の含有量(W)が3質量%未満であって、かつ、第2溶媒および第3溶媒の含有量の合計(W+W)が9質量%未満であると、水性インク組成物の低温での保存安定性を確保できない場合がある。また、第2溶媒の含有量(W)が24質量%を超えると、プラスチックメディア上に形成された画像の乾燥性が低下する場合がある。また、第3溶媒の含有量(W)が22質量%を超えるとプラスチックメディア上に形成された画像の乾燥性が低下したり、耐擦性が低下したりする場合がある。また、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)が、25質量%を超えると、画像の乾燥性や、耐擦性が低下する場合がある。
【0045】
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物において、第1溶媒の含有量(W)と第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、1以上8以下であることが好ましく、かつ、第1溶媒の含有量(W)と、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上であり、3以上8以下であることが好ましい。このように、(W/W)および[(W+W)/(W)]が上記範囲にあると、低温保存安定性および吐出安定性に優れ、かつ、プラスチックメディア上に形成された画像の滲みが低減した良好な画像を得ることができる。
【0046】
(W/W)が1以上であり、かつ、[(W+W)/(W)]が3以上であると、水性インク組成物の低温保存安定性に優れている。しかしながら、(W/W)が1未満、あるいは[(W+W)/(W)]が3未満であると、水性インク組成物の吐出安定性が低下したり、低温での保存時に粘度上昇や顔料の凝集等が発生して保存安定性が低下する場合がある。また、(W/W)が8を超える、あるいは[(W+W)/(W)]が8を超えると、水性インク組成物の低温での保存安定性は確保できるが、画像の乾燥性が低下して、画像に滲み等が発生する場合がある。
【0047】
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、グリセリンを含有しないことが好ましい。グリセリンは、水性インク組成物に保湿性を付与したり、低温での保存安定性を向上させることができる。これにより、インクジェット記録装置におけるノズルの目詰まり等を低減させ、インクの吐出安定性を向上させることができる。しかしながら、グリセリンを添加すると、プラスチックメディア上に形成した画像の乾燥工程において、乾燥性が低下したり、乾燥後の画像の耐擦性が低下する場合がある。
【0048】
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、グリコールエーテル類を含有しないことが好ましい。グリコールエーテル類は、プラスチックメディアに対する水性インク組成物の濡れ性を高めて均一に濡らす作用を有しており、プラスチックメディア上に形成された画像のインクの滲み等を低減させることができる。しかしながら、グリコールエーテル類は、水性インク組成物の保存安定性や吐出安定性を低下させる場合がある。
【0049】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、グリセリンおよびグリコールエーテル類を添加しなくても、第1溶媒、第2溶媒、および第3溶媒の含有比率や含有量を上記範囲内にすることによって、水性インク組成物の吐出安定性および低温での保存安定性を確保しつつ、プラスチックメディア上に形成された画像の滲み低減でき、かつ、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0051】
1.2.3.水
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、水を含有する。水は、水性インク組成物の主となる媒体であり、上述した乾燥工程において蒸発飛散する成分である。
【0052】
水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液およびこれを用いた水性インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0053】
1.2.4.その他の含有成分
本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、さらに、樹脂粒子、樹脂分散剤、シリコン系界面活性剤、pH調製剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有することができる。
【0054】
樹脂粒子は、プラスチックメディア上に形成された画像を固化させ、さらに画像をプラスチックメディア上に強固に定着させる作用を有する。本実施形態に係るインクジェット記録方法で使用する水性インク組成物は、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態の樹脂粒子を含有することが好ましい。エマルジョン状態またはサスペンジョン状態の樹脂粒子を含有することにより、水性インク組成物の粘度を本実施形態に係るインクジェット記録方法における適正な範囲に容易に調整することができるため、保存安定性や吐出安定性を確保しやすい。
【0055】
樹脂分散剤は、上述した顔料(C.I.ピグメントイエロー180)を水性インク組成物中で安定的に分散保持させる機能を有している。
【0056】
樹脂粒子および樹脂分散剤の成分としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体もしくは共重合体、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0057】
上記の樹脂粒子としては、公知の材料・方法で得られるものを用いることもできる。例えば、特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報等に記載のものを用いてもよい。また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0058】
上記の樹脂分散剤としては、市販品を用いることもでき、ジョンクリル67、ジョンクリル678、ジョンクリル586、ジョンクリル611、ジョンクリル680、ジョンクリル682、ジョンクリル683、ジョンクリル690(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0059】
シリコン系界面活性剤は、プラスチックメディア上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有する。シリコン系界面活性剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%〜1.5質量%である。シリコン系界面活性剤の含有量が0.1質量%未満であると、プラスチックメディア上でインクが均一に濡れ広がりにくいため、インクの濃淡ムラや滲みが発生しやすい。一方、シリコン系界面活性剤の含有量が1.5質量%を超えると、水性インク組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0060】
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。また、市販品を用いることでき、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0061】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0064】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0065】
1.2.5.物性
本実施の形態に係るインクジェット記録方法に用いる水性インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上6mPa・s以下である。水性インク組成物の20℃における粘度が上記範囲内にあると、ノズルから水性インク組成物の液滴が適量吐出され、液滴の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。水性インク組成物の粘度は、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて、水性インク組成物の温度を20℃に保持することで測定できる。
【0066】
2.記録物
本発明の一実施形態に係る記録物は、前述したインクジェット記録方法によって記録されたものである。プラスチックメディアの上に記録した画像は、前述した水性インク組成物を用いて形成されたものであるから、インクの滲み等の少ない良好な画質を備え、耐擦性に優れている。
【0067】
3.実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
3.1.顔料分散液の調製
本実施例で使用する水性インク組成物は、あらかじめ顔料を樹脂分散剤で分散させた顔料分散液を用いた。
【0069】
顔料分散液は、以下のようにして調製した。まず、樹脂分散剤として5.0質量部のアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、顔料として20質量部のC.I.ピグメントイエロー180に、イオン交換水を加えて全体を100質量部とし、混合撹拌して混合物とした。この混合物を、サンドミル(安川製作所株式会社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータで分離することにより、顔料分散液を得た。
【0070】
なお、実施例3では、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体を4.5質量部、C.I.ピグメントイエロー180を17.5質量部とした以外は同様にして、顔料分散液を得た。
【0071】
また、比較例1では、顔料としてC.I.ピグメントイエロー180に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は同様にして、顔料分散液を得た。
【0072】
3.2.水性インク組成物の調製
上記顔料分散液に、第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、シリコン系界面活性剤、イオン交換水を添加し、表1および表2に記載の組成になるように調製した。その後、常温で1時間混合撹拌し、さらに孔径5μmのメンブランフィルターでろ過して、水性インク組成物を得た。
【0073】
なお、比較例6では、第3溶媒を添加せず、グリセリンを添加した以外は同様にして、水性インク組成物を得た。
【0074】
また、比較例7では、第3溶媒を添加せず、エチレングリコールモノブチルエーテルを添加した以外は同様にして、水性インク組成物を得た。
【0075】
表中で使用した成分は、下記のとおりである。
(1)顔料
・C.I.ピグメントイエロー180
・C.I.ピグメントイエロー74
(2)第1溶媒
・1,2−ヘキサンジオール
・1,2−ペンタンジオール
(3)第2溶媒
・1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン
・N,N’−ジメチルプロピレン尿素
・2−ピロリドン
・N−メチル−2−ピロリドン
(4)第3溶媒
・プロピレングリコール
・1,3−プロパンジオール
(5)その他の溶媒
・グリセリン
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル
(6)シリコン系界面活性剤
・シリコン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK−348」、ポリエーテル変性シロキサン)
(7)樹脂分散剤
・アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体
(8)樹脂粒子
・スチレン−アクリル酸共重合体
【0076】
3.3.評価試験
3.3.1.保存安定性の評価
水性インク組成物をサンプル瓶に入れ完全に密閉して、−20℃で3日間保存した後、さらに20℃で4時間保存した。そして、保存前の20℃における水性インク組成物の粘度および顔料の粒子径と、保存後の20℃における水性インク組成物の粘度および顔料の粒子径と、を比較することにより、保存安定性を評価した。
【0077】
粘度は、水性インク組成物を20℃に1時間保ったあと、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)によって測定した。また、顔料の粒子径は、レーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)によって、平均粒子径を測定した。
【0078】
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
(粘度変化)
○:粘度の変化が−0.3mPa・s以上+0.3mPa・s以下の範囲内である
×:粘度の変化が−0.3mPa・s未満、または+0.3mPa・sを超える
(粒子径変化)
○:平均粒子径の変化率が5%未満である
×:平均粒子径の変化率が5%以上である
【0079】
3.3.2.滲み性の評価
(1)記録物の作成
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)の一部を改造して、紙案内部に温度が可変できるヒーターを取り付けて、画像の記録時に記録媒体を加熱調製できるようにした。
【0080】
上記の改造したプリンターのノズル列に、C、M、Y、Kの4色の水性インク組成物を充填した。そして、常温、常圧下で、プラスチックメディア(商品名「コールドラミネートフィルムPG−50L」、株式会社ラミーコーポレーション製、PETフィルム)上に、CMKの各色とYとが接触するようなベタパターン画像を形成すると共に、紙案内部に取り付けられたヒーターによってプラスチックメディアを45℃に加熱してベタパターン画像を乾燥させた。その後、プラスチックメディアを60℃に保ったドライヤー内に入れ、ベタパターン画像をさらに1分間乾燥させた。以上のようにして、プラスチックメディア上にベタパターン画像が印刷された記録物を作製した。
【0081】
なお、ベタパターン画像は、縦720dpi、横720dpiの解像度で、dutyが50%となるように形成した。ここで、dutyとは、縦720dpi、横720dpiの解像度の場合、1平方インチを縦720分割、横720分割させた518400分割の内、何%にインクを配置したかをいう。
【0082】
また、水性インク組成物として用いたY(イエローインク組成物)は、上記「3.2.水性インク組成物の調製」によって得られたものを用いた。
【0083】
一方、水性インク組成物として用いたC、M、Kについては、上記「3.1.顔料分散液の調製」において、C.I.ピグメントイエロー180に代えて、以下の顔料を用いた以外は同様にして顔料分散液を調製した。そして、このようにして得られた顔料分散液を上記「3.2.水性インク組成物の調製」と同様の方法で調整して、C、M、Kの各色からなる水性インク組成物を得た。
・C(シアンインク組成物、使用顔料C.I.ピグメントブルー15:3)
・M(マゼンタインク組成物、使用顔料C.I.ピグメントレッド122)
・K(ブラックインク組成物、使用顔料C.I.ピグメントブラック7)
【0084】
(2)記録物の評価方法
上記(1)で得られた記録物について、各dutyにおけるYと他色(CMK)との接触部分の滲みを観察して評価した。
【0085】
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
○:境界接触部に滲みなし
×:境界接触部に滲みあり
【0086】
3.3.3.吐出安定性の評価
(1)記録物の作製
インクジェットプリンターとして上記「3.3.2.滲み性の評価」で使用したPX−G930を用いて、「3.2.水性インク組成物の調製」で得られた水性インク組成物をプリンターのノズル列に充填した。そして、普通紙(富士ゼロックスP紙等)を加熱することなく、水性インク組成物を普通紙上に10分間連続して吐出し、全ノズルが正常に吐出することを確認した。その後、45℃に加熱した普通紙上に平均duty10%のテキストと図形の混合パターン画像の連続印刷を所定時間行い、記録物を得た。なお、1ドット当たりの吐出インク重量は20ngとし、解像度は縦720dpi、横720dpiとした。
【0087】
(2)記録物の評価方法
得られた記録物の「ドット抜け」および「曲がり」を観察して評価した。ここで、「曲がり」とは、記録物上におけるインク着弾位置のずれのことをいう。
【0088】
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
○:印刷開始から1時間経過後、ドット抜けおよび曲がりがない
△:印刷開始から1時間経過後、ドット抜けはないが一部に曲がりが発生する
×:印刷開始から1時間経過後、ドット抜けおよび曲がりが多発する
【0089】
3.3.4.耐擦性の評価
(1)記録物の作製
インクジェットプリンターとして上記「3.3.2.滲み性の評価」で使用したPX−G930を用いて、「3.2.水性インク組成物の調製」で得られた水性インク組成物(イエローインク)をプリンターのノズル列に充填した。そして、45℃に加熱したプラスチックメディア上(商品名「コールドラミネートフィルムPG−50L」、株式会社ラミーコーポレーション製、PETフィルム)に、ベタパターン画像を形成した。その後、プラスチックメディアを60℃に保たれたドライヤー内に静置して、ベタパターン画像をさらに1分間乾燥させた。以上のようにして、プラスチックメディア上にベタパターン画像が印刷された記録物を作製した。なお、ベタパターン画像は、縦720dpi、横720dpiの解像度で、dutyが60%となるように形成した。
【0090】
(2)記録物の評価方法
得られた記録物を20℃で16時間保った後、学振型摩擦堅牢試験機AB−301(テスター産業株式会社製を用いて、荷重500g,摩擦回数50回の条件で、摩擦用白綿布を取り付けた摩擦子と記録物とを擦り合わせ、画像の表面状態を目視にて観察した。
【0091】
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
○:画像の表面に傷が認められない
△:画像の表面にやや傷が認められる
×:画像の表面に大きな傷が認められる
【0092】
3.3.5.耐光性の評価
(1)記録物の作製
インクジェットプリンターPX−5500(セイコーエプソン株式会社製)のノズル列に、「3.2.水性インク組成物の調製」で得られた水性インク組成物(イエローインク)をプリンターのノズル列に充填した。そして、常温、常圧下で、写真用紙(セイコーエプソン株式会社製、型番「KA420PSKR」、光沢紙)にOD値が1.0となるように10mm×10mmのベタ画像を印刷して、記録物を得た。
【0093】
(2)記録物の評価方法
得られた記録物のベタ画像部分を、キセノンウェザーメーターXL75(スガ試験機株式会社製)を用いて、70000Luxの照射量で600時間曝露した後、GRETAG SPM−50(グレタグマクベス社製)を用いてベタ画像部分のOD値を測定した。そして、曝露前のOD値を基準として、曝露後のOD値の減少率を求めて、画像の耐光性を評価した。
【0094】
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
○:OD値の減少率が20%未満
×:OD値の減少率が20%以上
【0095】
3.4.評価結果
以上の評価試験の結果について、表1および表2に記載した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
表1に記載の実施例1〜実施例8の水性インク組成物は、保存安定性の評価結果から、いずれも粘度変化および粒子径変化が少なく、保存安定性に優れていることが確認できた。また、滲み性の評価結果から、プラスチックメディアに印刷された画像が良好な滲み性を有することが確認できた。また、耐光性の評価結果から、画像のOD値の減少率が少なく、耐光性が良好であることが示された。また、吐出安定性の評価結果から、連続印刷しても、画像のドットの抜けやインクの着弾位置のずれが発生しにくく、吐出安定性に優れていることが確認できた。
【0099】
また、実施例1〜実施例2および実施例4〜実施例8の水性インク組成物は、耐擦性の評価結果から、画像の表面が傷つきにくく、耐擦性に優れていることが示された。なお、表1に記載の実施例3の水性インク組成物は、耐擦性試験において、画像の表面にやや傷が認められたが、実用上、問題なく使用できる程度であった。
【0100】
表2に記載の比較例1の水性インク組成物は、顔料としてC.I.ピグメントイエロー180を用いていない。そのため、耐光性に優れない画像を記録した。
【0101】
表2に記載の比較例2および比較例3の水性インク組成物は、第1溶媒の含有量(W)と第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)が1未満である。そのため、保存安定性に優れない水性インク組成物が得られた。
【0102】
表2に記載の比較例4の水性インク組成物は、第1溶媒の含有量(W)が6質量%を超えている。また、第1溶媒の含有量(W)と第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)が1未満であり、かつ、第1溶媒の含有量(W)と、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]が3未満である。そのため、保存安定性および吐出安定性に優れない水性インク組成物となった。
【0103】
表2に記載の比較例5の水性インク組成物は、第1溶媒の含有量が3質量%未満である。そのため、滲み性の優れない画像を記録した。
【0104】
表2に記載の比較例6の水性インク組成物は、グリセリンを含有している。そのため、比較例6の水性インク組成物は、滲み性試験および耐擦性試験の結果から、滲み性および耐擦性に優れない画像を形成することが確認された。
【0105】
表2に記載の比較例7の水性インク組成物は、グリコールエーテル類であるジエチレングリコールモノブチルエーテルを含有している。そのため、保存安定性に優れない水性インク組成物であった。
【0106】
表2に記載の比較例8の水性インク組成物は、第1溶媒の含有量が6質量%を超えている。そのため、保存安定性に優れない水性インク組成物であった。
【0107】
表2に記載の比較例9の水性インク組成物は、第1溶媒の含有量(W)と第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)が1以上であるが、第1溶媒の含有量(W)と、第2溶媒の含有量(W)および第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]が3未満である。そのため、保存安定性に優れない水性インク組成物であった。
【0108】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、
前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、
を含むインクジェット記録方法であって、
前記水性インク組成物は、C.I.ピグメントイエロー180からなる顔料と、
1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも1種からなる第1溶媒と、
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種からなる第2溶媒と、
プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種からなる第3溶媒と、
を含有し、
前記第1溶媒の含有量(W)は、3質量%以上6質量%以下であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と前記第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と、前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上である、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)は、9質量%以上25質量%以下である、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかにおいて、
前記顔料の含有量は、1質量%以上10質量%以下である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記水性インク組成物の測定温度20℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法によって記録された、記録物。
【請求項6】
インクジェット記録方法に用いる水性インク組成物であって、
C.I.ピグメントイエロー180からなる顔料と、
1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ペンタンジオールから選択される少なくとも1種からなる第1溶媒と、
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルリン酸トリアミドから選択される少なくとも1種からなる第2溶媒と、
プロピレングリコールおよび1,3−プロパンジオールから選択される少なくとも1種からなる第3溶媒と、
を含有し、
前記第1溶媒の含有量(W)は、3質量%以上6質量%以下であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と前記第2溶媒の含有量(W)との比率(W/W)は、1以上であり、
前記第1溶媒の含有量(W)と、前記第2溶媒の含有量(W)および前記第3溶媒の含有量(W)の合計(W+W)と、の比率[(W+W)/(W)]は、3以上である、水性インク組成物。
【請求項7】
請求項6において、
前記インクジェット記録方法は、インクジェット記録装置によって、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、前記水性インク組成物の液滴を吐出する工程と、
前記記録媒体を40℃以上に加熱して、該記録媒体上に吐出された前記水性インク組成物を乾燥させる工程と、
を含む、水性インク組成物。

【公開番号】特開2011−152747(P2011−152747A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16691(P2010−16691)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】