説明

水性インク組成物

【課題】印字濃度が高く、吐出安定性に優れており、白抜け等の画像故障の発生を抑えることができる水性インク組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂によって被覆された、比表面積が200m/g以上300m/g未満のカーボンブラックと、有機溶媒と、中和剤と、水とを含んでいる〔R:水素原子,メチル基;Ar:無置換又は置換の芳香族環;n(平均の繰り返し数)=1〜6〕。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤としてカーボンブラックを用いた水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用の被記録媒体及びそれに用いるインクとしては、例えば発色濃度、定着性、及び解像度など、高品位の記録物を得るための技術が種々検討されている。
【0003】
インクジェット記録用のインクに用いる着色剤には、耐光性や耐水性等の観点から、顔料が広く用いられている。そして、インクジェットプリンター用の記録液としてには、ブラックインク用の顔料として、一般にカーボンブラックが用いられている。
【0004】
カーボンブラックを用いた場合、粒子が微細化され、かつ分散安定化されていないと、高精細度と高度な演色性が得られない。特に、インクジェットプリンター用の記録液においては、分散が不充分な顔料粒子が存在する場合、吐出用ヘッドのノズルの目詰まりという問題に直結する。ところが、カーボンブラックは、一般に一次粒子径が細かく二次凝集性が強いことから、微分散しつつ、かつ分散粒径を安定に保つためには、種々の工夫が必要とされていた。
【0005】
このような状況に関連して、インクジェット記録用水系インクに用いられるカーボンブラック顔料として、カーボンブラック顔料が水不溶性ポリマーで被覆されたインクジェット記録用水分散体が提案されており(例えば、特許文献1参照)、画像濃度、画像均一性等に優れるとされている。
【特許文献1】特開2007−169506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のインクジェット記録用水分散体では、カーボンブラックの比表面積が足らず、黒濃度の点では不充分であるだけでなく、より微細化しようとする場合など、微分散後に分散粒径を安定に保つことは難しい。
【0007】
近年、ブラックインクとしては、従来以上に印字濃度の高いインクが求められているが、比表面積が大きい、すなわち粒径のより小さいカーボンブラックを安定に分散し、かつ吐出安定性を確保することは難しく、従来の技術のみではこれらを解消するまでには至っていないのが実情である。
【0008】
また、画像を記録する場合、打滴中のミストの発生によりヘッド近辺に凝集体が付着乾燥する等を原因とした吐出方向性不良が生じることがある。この凝集体は、新たに吐出される液体によっては除去され難く、付着した凝集体の除去性(すなわちメンテナンス性)も充分ではないため、記録された画像中に白抜け等の故障が発生する課題がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、印字濃度が高く、吐出安定性に優れており、白抜け等の画像故障の発生を抑えることができる水性インク組成物を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水不溶性樹脂の構造とカーボンブラックの物性との関係が特定の範囲にある場合に、高い印字濃度を実現しながら、カーボンブラック顔料の分散性とインク調製後の液安定性及び打滴時の吐出安定性が保持されるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂によって被覆された、BET法による比表面積が200m/g以上300m/g未満のカーボンブラックと、有機溶媒と、中和剤と、水とを含有する水性インク組成物である。
【0012】
【化1】



【0013】
前記一般式(I)において、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Arは無置換又は置換の芳香族環を表す。nは、平均の繰り返し数を表し、1〜6である。
【0014】
<2> 前記一般式(I)中のArで表される前記芳香族環が、無置換又は置換のベンゼン環であることを特徴とする前記<1>に記載の水性インク組成物である。
【0015】
<3> 前記水不溶性樹脂は、親水性構造単位(A)と疎水性構造単位(B)とを含み、芳香族環の含有割合が水不溶性樹脂の全質量の20質量%以下であって、前記疎水性構造単位(B)の少なくとも1種は前記一般式(I)で表される構造単位であり、前記親水性構造単位(A)の割合が水不溶性樹脂の全質量の15質量%以下であり、前記親水性構造単位(A)が少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構造単位を含むことを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載の水性インク組成物である。
【0016】
<4> 前記水不溶性樹脂は、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の水性インク組成物である。
【0017】
<5> 前記カーボンブラックは、転相乳化法により前記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂で被覆されたことを特徴とする前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の水性インク組成物である。
【0018】
<6> 更に、界面活性剤を含むことを特徴とする前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の水性インク組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、印字濃度が高く、吐出安定性に優れており、白抜け等の画像故障の発生を抑えることができる水性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の水性インク組成物について詳細に説明する。
本発明の水性インク組成物は、以下に示す一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂によって被覆された、BET法による比表面積が200m/g以上300m/g未満のカーボンブラック(以下、「樹脂被覆カーボンブラック」ということがある。)と、有機溶媒と、中和剤と、水とを少なくとも含んでなり、必要に応じて、樹脂微粒子又はポリマーラテックスや界面活性剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0021】
本発明においては、カーボンブラック顔料の比表面積を200m/g以上300m/g未満の範囲に大きく(すなわち、顔料粒子の粒径を小さく)しながらも、カーボンブラックを特定構造の水不溶性樹脂を用いて被覆することで、分散性及び分散後の分散安定性が良好に保たれ、印字濃度とともに記録時の吐出安定性を向上させることができる。また、記録時に水性インク組成物の凝集物の吐出ヘッドのノズル部への付着又は堆積が緩和され、ノズル部に凝集物が付着したときには、凝集物の除去の容易化が図れる。これにより、黒色濃度の高い画像を提供できると共に、インク吐出時のインク吐出方向性不良が抑制され、ひいては白抜け等の画像故障の発生が防止されて画像の高解像度化を実現することができる。また、吐出装置側のメンテナンス頻度の軽減とメンテナンス性の向上も図られる。
【0022】
−樹脂被覆カーボンブラック−
本発明の水性インク組成物は、下記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂(以下、「本発明における水不溶性樹脂」ということがある。)によって被覆されたカーボンブラック(樹脂被覆カーボンブラック)の少なくとも一種を含有する。本発明における樹脂被覆カーボンブラックは、必ずしも顔料表面の全体が本発明における水不溶性樹脂で被覆されている必要はなく、場合により顔料表面の少なくとも一部が被覆された状態であってもよい。
【0023】
本発明の水性インク組成物中に含まれるカーボンブラックは、本発明における水不溶性樹脂で少なくとも一部が被覆されたカプセル化顔料、すなわちポリマー粒子に顔料が含有されてなる樹脂被覆顔料微粒子であり、より詳しくは、水不溶性樹脂でカーボンブラックの粒子表面を覆い、カーボンブラック顔料表面の少なくとも一部に樹脂膜を設けて水に分散されているものである。
【0024】
<一般式(I)で表される構造単位>
【化2】



【0025】
前記一般式(I)において、Rは、水素原子又はメチル基を表し、好ましくはメチル基である。
【0026】
Arは、無置換又は置換の芳香族環を表す。芳香族環が置換されている場合の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、シアノ基などを挙げることができ、縮環を形成していてもよい。縮環を形成している場合、例えば、炭素数8以上の縮環型芳香環、ヘテロ環が縮環した芳香環、又は2以上連結した芳香環が挙げられる。
【0027】
前記「炭素数8以上の縮環型芳香環」は、少なくとも2以上のベンゼン環が縮環した芳香環、少なくとも1種の芳香環と該芳香環に縮環して脂環式炭化水素で環が構成された炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
前記「ヘテロ環が縮環した芳香環」とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は、5員環又は6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は、複数のヘテロ原子を有していてもよい。この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。ヘテロ環が縮環した芳香環の具体例としては、フタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0028】
Arで表される芳香族環は、エステル基とエチレンオキシド鎖とを介して水不溶性樹脂の主鎖に結合し、芳香族環が主鎖に直接結合しないので、疎水性の芳香族環と親水性構造単位との間に適切な距離が維持され、水不溶性樹脂は顔料との間で相互作用しやすく、強固に吸着して分散性が高められる。
中でも、Arとしては、無置換のベンゼン環、無置換のナフタレン環が好ましく、無置換のベンゼン環が特に好ましい。
【0029】
nは、水性インク組成物に含まれる樹脂被覆カーボンブラックの水不溶性樹脂におけるエチレンオキシ鎖を平均した繰り返し数を表す。nの範囲は、1〜6であり、好ましくは1〜2である。
【0030】
前記一般式(I)で表される構造単位を形成するモノマーの具体例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等、及び下記のモノマーなどを挙げることができる。
【0031】
【化3】

【0032】
前記一般式(I)で表される構造単位のうち、分散安定性の点で、Rがメチル基であって、Arが無置換のベンゼン環であって、nが1〜2である場合が特に好ましい。
【0033】
前記一般式(I)で表される構造単位の水不溶性樹脂中における含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、30〜70質量%の範囲が好ましく、より好ましくは40〜50質量%の範囲である。この含有割合は、30質量%以上であると分散性に優れ、70質量%以下であると凝集体の付着・堆積を抑えると共に付着した凝集物の除去性(メンテナンス性)に優れ、白抜け等の画像故障の発生を抑制することができる。
【0034】
本発明における水不溶性樹脂は、水性インク中で安定的に存在することができ、凝集物の付着又は堆積を緩和し、付着した凝集物の除去の容易化の観点から、親水性構造単位(A)と疎水性構造単位(B)とからなる樹脂であることが好ましい。ここで、前記疎水性構造単位(B)には、前記一般式(I)で表される構造単位が含まれる。
【0035】
<親水性構造単位(A)>
親水性構造単位(A)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸に由来の構造単位が好ましく、水不溶性樹脂中にはアクリル酸に由来の構造単位もしくはメタクリル酸に由来の構造単位のいずれか又は両方を含むことが好ましい。このほかの親水性構造単位(A)としては、非イオン性の親水性基を有するモノマーに由来の構造単位が挙げられ、例えば、親水性の官能基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、及びビニルエステル類等の、親水性の官能基を有するビニルモノマー類を挙げることができる。
【0036】
「親水性の官能基」としては、水酸基、アミノ基、(窒素原子が無置換の)アミド基、及び後述のポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0037】
非イオン性の親水性基を有する親水性構造単位を形成するモノマーとしては、エチレン性不飽和結合等の重合体を形成しうる官能基と非イオン性の親水性の官能基とを有していれば、特に制限はなく、公知のモノマーから選択することができる。具体的な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、アミノプロピルアクリレート、アルキレンオキシド重合体を含有する(メタ)アクリレートを好適に挙げることができる。
【0038】
非イオン性の親水性基を有する親水性構造単位(A)は、対応するモノマーの重合により形成することができるが、重合後のポリマー鎖に親水性の官能基を導入してもよい。
【0039】
非イオン性の親水性基を有する親水性構造単位は、アルキレンオキシド構造を有する親水性の構造単位がより好ましい。アルキレンオキシド構造のアルキレン部位としては、親水性の観点から、炭素数1〜6のアルキレン部位が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン部位がより好ましく、炭素数2〜4のアルキレン部位が特に好ましい。また、アルキレンオキシド構造の重合度としては、1〜120が好ましく、1〜60がより好ましく、1〜30が特に好ましい。
【0040】
また、非イオン性の親水性基を有する親水性構造単位は、水酸基を含む親水性の構造単位であることも好ましい態様である。構造単位中の水酸基数としては、特に制限はなく、水不溶性樹脂の親水性、重合時の溶媒や他のモノマーとの相溶性の観点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0041】
上記において、例えば、親水性構造単位の含有割合は、後述する疎水性構造単位(B)の割合で異なる。例えば、水不溶性樹脂がアクリル酸及び/又はメタクリル酸〔親水性構造単位(A)〕と後述の疎水性構造単位(B)とのみから構成される場合、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の含有割合は、「100−(疎水性構造単位の質量%)」で求められる。
親水性構造単位(A)は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0042】
<疎水性構造単位(B)>
本発明の水不溶性樹脂は、疎水性構造単位(B)として、前記一般式(I)で表される構造単位以外の他の疎水性構造単位を更に有してもよい。他の疎水性構造単位としては、例えば、親水性構造単位(A)に属しない(例えば親水性の官能基を有しない)例えば(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類、主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位、等に由来の構造単位を挙げることができる。これらの構造単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
前記(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、特にメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましい。
前記(メタ)アクリルアミド類としては、例えば、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
前記スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Bocなど)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、及びα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
前記ビニルエステル類としては、例えば、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、及び安息香酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられる。中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0044】
「主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位」では、芳香環は連結基を介して水不溶性樹脂の主鎖をなす原子と結合され、水不溶性樹脂の主鎖をなす原子に直接結合しない構造を有するので、疎水性の芳香環と親水性構造単位との間に適切な距離が維持されるため、水不溶性樹脂と顔料との間で相互作用が生じやすく、強固に吸着して分散性がさらに向上する。
【0045】
前記「主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位」は、下記一般式(II)で表される構造単位(前記一般式(I)で表される構造単位を除く)であってもよい。
【0046】
【化4】



【0047】
前記一般式(II)において、Rは、水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表す。
また、Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。なお、Lで表される基中の*印は、主鎖に連結する結合手を表す。フェニレン基が置換されている場合の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等、シアノ基等が挙げられる。
【0048】
は、単結合、又は炭素数1〜30の2価の連結基を表し、2価の連結基である場合は、好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、より好ましくは炭素数1〜20の連結基であり、更に好ましくは炭素数1〜15の連結基である。
中でも、特に好ましくは、炭素数1〜25(より好ましくは1〜10)のアルキレンオキシ基、イミノ基(−NH−)、スルファモイル基、及び、炭素数1〜20(より好ましくは1〜15)のアルキレン基やエチレンオキシド基[−(CHCHO)−,n=1〜6]などの、アルキレン基を含む2価の連結基等、並びにこれらの2種以上を組み合わせた基などである。
【0049】
前記一般式(II)において、Arは、芳香環から誘導される1価の基を表す。
Arで表される芳香環としては、特に限定されないが、ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、ヘテロ環が縮環した芳香環、又は2個以上連結したベンゼン環が挙げられる。炭素数8以上の縮環型芳香環、及びヘテロ環が縮環した芳香環の詳細については既述の通りである。
【0050】
以下、疎水性構造単位(B)を形成し得るモノマーの具体例を挙げる。但し、本発明においては、下記具体例に制限されるものではない。
【0051】
【化5】

【0052】
本発明における水不溶性樹脂としては、親水性構造単位(A)と疎水性構造単位(B;前記一般式(I)で表される構造単位を含む)との組成は各々の親水性、疎水性の程度にも影響するが、親水性構造単位(A)の割合が15質量%以下であることが好ましい。このとき、疎水性構造単位(B)は、水不溶性樹脂の質量全体に対して、80質量%を超える割合であるのが好ましく、85質量%以上であるのがより好ましい。
親水性構造単位(A)の含有量が15質量%以下であると、単独で水性媒体中に溶解する成分量が抑えられ、顔料の分散などの諸性能が良好になり、インクジェット記録時には良好なインク吐出性が得られる。
【0053】
親水性構造単位(A)の好ましい含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、0質量%を超え15質量%以下の範囲であり、より好ましくは2〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは5〜15質量%の範囲であり、特に好ましくは8〜12質量%の範囲である。
【0054】
芳香環の水不溶性樹脂中に含まれる含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、27質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。中でも、15〜20質量%であるのが好ましく、17〜20質量%の範囲がより好ましい。芳香族環の含有割合が前記範囲内であると、耐擦過性が向上する。
【0055】
本発明における水不溶性樹脂の酸価としては、顔料分散性、保存安定性の観点から、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
なお、酸価とは、水不溶性樹脂の1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JISK0070、1992)記載の方法により測定されるものである。
【0056】
本発明における水不溶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量(Mw)で3万以上が好ましく、3万〜15万がより好ましく、更に好ましくは3万〜10万であり、特に好ましくは3万〜8万である。分子量が3万以上であると、分散剤としての立体反発効果が良好になる傾向があり、立体効果により顔料へ吸着し易くなる。
また、数平均分子量(Mn)では1,000〜100,000の範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000の範囲程度のものが特に好ましい。数平均分子量が前記範囲内であると、顔料における被覆膜としての機能又はインク組成物の塗膜としての機能を発揮することができる。本発明における水不溶性樹脂は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
【0057】
また、本発明における水不溶性樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)としては、1〜6の範囲が好ましく、1〜4の範囲がより好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、インクの分散安定性、吐出安定性を高められる。
【0058】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて溶媒THFにて検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算することにより求められる分子量である。条件としては、試料濃度を0.35/min、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製するものである。
【0059】
本発明における水不溶性樹脂は、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、沈殿重合、塊状重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は、回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行なうことができる。重合の開始方法は、ラジカル開始剤を用いる方法、光又は放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば、鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
前記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の種々の有機溶剤が挙げられる。溶剤は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、水との混合溶媒として用いてもよい。重合温度は、生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常は0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行なうことが好ましい。反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は1〜100kg/cmであり、特に1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。得られた樹脂は、再沈殿などの精製を行なってもよい。
【0060】
以下、本発明における水不溶性樹脂として好ましい具体例を示す。但し、本発明においては、下記に限定されるものではない。尚、B−11〜B−13のカッコ右下の数値は質量%を表す。
【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
<カーボンブラック>
カーボンブラックとしては、BET法による比表面積が200m/g以上300m/g未満の比較的粒子面の表面積の大きいカーボンブラックを含有する。比表面積が前記範囲であるカーボンブラックは、粒子径が比較的小さいものであり、着色剤として用いた場合に高い印字濃度が得られ、更には既述の本発明における水不溶性樹脂で被覆されて含有されることにより、良好な分散性及び分散後の分散安定性が保たれ、安定したインク吐出性を具えた黒色系インクが得られる。
【0064】
カーボンブラックの比表面積としては、印字濃度、分散性の点で、200m/g以上300m/g未満の範囲がより好ましく、特には200m/g以上280m/g以下の範囲である。
【0065】
本発明における比表面積は、BET法により求められる比表面積である。BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の1つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、すなわち比表面積を求める方法である。通常、吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer Emmett Tellerの式であり、BET式と呼ばれ、表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
【0066】
カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0067】
本発明におけるカーボンブラック及び併用してもよいカーボンブラックの具体例として、Raven7000,Raven5750,Raven5250,Raven5000 ULTRAII,Raven 3500,Raven2000,Raven1500,Raven1250,Raven1200,Raven1190 ULTRAII,Raven1170,Raven1255,Raven1080,Raven1060,Raven700(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上、キャボット社製)、Color Black FW1, Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black4,NIPEX180−IQ,NIPEX170−IQ(以上、エボニックデグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.45,No.47,No.52,No.900,No.2200B,No.2300,No.990,No.980,No.970,No.960,No.950,No.850,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0068】
カーボンブラックは、1種単独で用いるほか、複数種を選択して組み合わせて用いてもよい。
【0069】
カーボンブラック(cb)と本発明における水不溶性樹脂(r)との比率(cb:r)は、重量比で100:25〜100:140が好ましく、より好ましくは100:25〜100:50である。比率(cb:r)は、水不溶性樹脂が100:25の割合以上であると分散安定性と耐擦性が良化する傾向にあり、水不溶性樹脂が100:140の割合以下であると分散安定性が良化する傾向がある。
【0070】
本発明における樹脂被覆カーボンブラック(カプセル化顔料)は、水不溶性樹脂及びカーボンブラック顔料等を用いて従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。例えば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、又は特開平11−43636号の各公報に記載の方法により製造することができる。具体的には、特開平9−151342号及び特開平10−140065号の各公報に記載の転相乳化法と酸析法等が挙げられ、中でも、分散安定性の点で転相乳化法が好ましい。
【0071】
a)転相乳化法
転相乳化法は、基本的には、自己分散能又は溶解能を有する樹脂と顔料との混合溶融物を水に分散させる自己分散(転相乳化)方法である。また、この混合溶融物には、硬化剤又は高分子化合物を含んでなるものであってもよい。ここで、混合溶融物とは、溶解せず混合した状態、溶解して混合した状態、又はこれら両者の状態のいずれの状態を含むものをいう。「転相乳化法」による具体的な方法は、特開平10−140065号公報に記載されている方法を参照できる。
b)酸析法
酸析法は、樹脂と顔料とからなる含水ケーキを用意し、その含水ケーキ中の、樹脂が有するアニオン性基の一部又は全部を、塩基性化合物を用いて中和することによって、マイクロカプセル化顔料を製造する方法である。
酸析法は、具体的には、(1)樹脂と顔料とをアルカリ性水性媒体中に分散し、必要に応じて加熱処理を行なって樹脂のゲル化を図る工程と、(2)pHを中性又は酸性にすることによって樹脂を疎水化して、樹脂を顔料に強く固着する工程と、(3)必要に応じて、濾過及び水洗を行なって含水ケーキを得る工程と、(4)含水ケーキを中の、樹脂が有するアニオン性基の一部または全部を、塩基性化合物を用いて中和し、その後、水性媒体中に再分散する工程と、(5)必要に応じて加熱処理を行ない、樹脂のゲル化を図る工程と、を含む方法がある。
【0072】
上記の転相乳化法及び酸析法のより具体的な製造方法は、特開平9−151342号、特開平10−140065号の各公報に記載の方法が挙げられる。
【0073】
本発明における水性インク組成物において、本発明における樹脂被覆カーボンブラックは、一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂を用い、下記の工程(1)及び工程(2)を含む方法により樹脂被覆カーボンブラックの分散物を調製する調製工程を設けて得ることができる。また、本発明の水性インク組成物は、この調製工程を設け、得られた樹脂被覆カーボンブラックの分散物を水及び有機溶媒と共に用いて水性インクとする方法により調製することができる。
工程(1):一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂、有機溶媒、中和剤、カーボンブラック、及び水を含有する混合物を攪拌等により分散して分散物を得る工程
工程(2):前記分散物から前記有機溶媒を除去する工程
【0074】
攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー、ビーズミル等の分散機を用いることができる。
【0075】
ここで用いる有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。前記アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。前記ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましく、メチルエチルケトンがさらに好ましい。
【0076】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、特定水不溶性樹脂が水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。中和剤の詳細については、後述する。
【0077】
前記工程(2)では、前記工程(1)で得られた分散物から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで、カーボンブラックの粒子表面が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ることができる。得られた分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、ここでの有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0078】
より具体的には、例えば、(1)アニオン性基を有する水不溶性樹脂又はそれを有機溶媒に溶解した溶液と塩基性化合物(中和剤)とを混合して中和する工程と、(2)得られた混合液に顔料を混合して懸濁液とした後に、分散機等で顔料を分散して顔料分散液を得る工程と、(3)有機溶剤を例えば蒸留して除くことによって、顔料を、アニオン性基を有する特定水不溶性樹脂で被覆し、水性媒体中に分散させて水性分散体とする工程とを含む方法である。
なお、より具体的には、特開平11−209672号公報及び特開平11−172180号の記載を参照することができる。
【0079】
本発明において、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機、超音波ホモジナイザ−などを用いて行なうことができる。
【0080】
本発明における水不溶性樹脂によって被覆されたカーボンブラックの含有量としては、水性インク組成物の分散安定性、濃度の観点から、1〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましく、2〜6質量%が特に好ましい。
【0081】
−有機溶媒−
本発明における水性インク組成物は、有機溶媒の少なくとも1種を含有する。有機溶媒は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0082】
本発明における水性インク組成物に含有する有機溶媒としては、乾燥防止剤、湿潤剤又は浸透促進剤としての機能を考慮して公知の有機溶媒の中から適宜選択することができるが、水との相溶性の観点から、水溶性の有機溶媒が好ましい。
水溶性有機溶媒の例としては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0083】
乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
浸透剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとして例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0085】
前記有機溶媒は、1種単独で又は2種類以上を混合して使用することができる。
有機溶媒の水性インク組成物中における含有量としては、1〜60質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%である。
【0086】
−水−
本発明における水性インク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0087】
−中和剤−
本発明における水性インク組成物は、中和剤の少なくとも1種を含有する。中和剤は、水不溶性樹脂で被覆された顔料粒子を作製する際に、水不溶性樹脂に含まれる酸基を中和することができ、樹脂の酸価に対して0.5〜1.5当量となる量を用いることが好ましく、1〜1.5当量の範囲内であることが好ましい。
【0088】
中和剤としては、例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0089】
−界面活性剤−
本発明における水性インク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いられ、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、ベタイン系の界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、インクジェット法で良好に打滴するために、水性インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる量を含有するのが好ましい。中でも、界面活性剤の含有量は、表面張力を20〜45mN/mに調整できる量が好ましく、より好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
【0090】
界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0091】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
【0092】
界面活性剤の水性インク組成物中における含有量は、特に制限はなく、1質量%以上が好ましく、より好ましくは1〜10質量%であり、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0093】
−その他−
本発明における水性インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて、例えば、樹脂微粒子又はポリマーラテックス、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤等の他の成分を含有してもよい。
【0094】
前記樹脂微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等の微粒子、又はこれらを含むポリマーラテックスを用いることができる。
アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
【0095】
樹脂微粒子の重量平均分子量は、1万以上20万以下が好ましく、より好ましくは10万以上20万以下である。
樹脂微粒子の平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、20〜100nmの範囲が更に好ましく、20〜50nmの範囲が特に好ましい。
樹脂微粒子の添加量は、インクに対して、0.5〜20質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
また、ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つポリマー微粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0096】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0097】
前記褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0098】
前記防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0099】
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0100】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤などが挙げられる。
【0101】
前記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0102】
〜水性インク組成物の物性〜
本発明における水性インク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、水性インクを25℃の条件下で測定されるものである。
【0103】
また、本発明における水性インク組成物の20℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、水性インクを20℃の条件下で測定されるものである。
【0104】
本発明における水性インク組成物は、多色のカラー画像(例えばフルカラー画像)の形成に用いることができる。フルカラー画像の形成には、マゼンタ色調のインク組成物、シアン色調のインク組成物、及びイエロー色調のインク組成物、並びにレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、白色(W)の色調のインク組成物や、いわゆる印刷分野における特色のインク組成物等と共に用いることができる。
【0105】
〜記録形態〜
本発明の水性インク組成物は、記録しようとする画像情報にしたがって所望の記録媒体上にインクジェット法で吐出することにより画像を記録する記録形態(第1記録形態)に用いることができる。
この第1記録形態のほか、本発明の水性インク組成物は、水性インク組成物と混合したときに水性インク組成物中のカーボンブラック等の顔料等の粒子を凝集させる成分を含む水性液体組成物(凝集液)と共に用い、水性インク組成物と水性液体組成物とを接触させて画像を記録する記録形態(第2記録形態)にも用いることができる。
【0106】
〜水性液体組成物〜
以下、第2記録形態に用いる水性液体組成物について説明する。
水性液体組成物は、既述の水性インク組成物と混合したときに、水性インク組成物中の顔料を凝集させる凝集成分を少なくとも含んでなり、必要に応じて他の成分を用いて構成することができる。
【0107】
−凝集成分−
水性液体組成物は、水性インク組成物中のカーボンブラック等の顔料等の粒子を凝集させる凝集成分の少なくとも1種を含有する。インクジェット法で吐出された前記水性インク組成物に水性液体組成物が混合することにより、水性インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0108】
水性液体組成物の例としては、水性インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体組成物が挙げられる。このとき、水性液体組成物のpH(25℃)は、6以下が好ましく、より好ましくはpHは4以下である。中でも、pH(25℃)は1〜4の範囲が好ましく、特に好ましくは、pHは1〜3である。この場合、水性インク組成物のpH(25℃)は、7.5以上(より好ましくは8以上)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記水性インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、水性液体組成物のpH(25℃)が4以下である場合が好ましい。
【0109】
カーボンブラック等の顔料等の粒子を凝集させる凝集成分としては、多価金属塩、有機酸、ポリアリルアミン及びその誘導体などを挙げることができる。
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)、の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0110】
前記有機酸としては、例えば、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、もしくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から好適に選択することができる。
【0111】
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
顔料等を凝集させる凝集成分の水性液体組成物中における含有量としては、1〜20質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%であり、更に好ましくは10〜20質量%の範囲である。
【0112】
〜画像記録方法〜
本発明の水性インク組成物は、上記の第1記録形態及び第2記録形態のいずれにも用いることができる。
第1記録形態では、所望の被記録媒体上に、既述のブラック色系の本発明の水性インク組成物をインクジェット法により付与するインク付与工程を設けて記録する。
第2記録形態では、所望の被記録媒体上に、既述のブラック色系の本発明の水性インク組成物をインクジェット法により付与するインク付与工程と、被記録媒体上に、水性インク組成物中のカーボンブラック及び場合により他の顔料等の粒子を凝集させる成分を含む水性液体組成物を付与する凝集成分付与工程とを設け、水性インク組成物と水性液体組成物とを接触させて画像を形成する。
【0113】
第1記録形態及び第2記録形態のいずれにおいても、水性インク組成物が、着色剤として前記一般式(I)で表される構造単位を含む本発明における水不溶性樹脂で被覆された顔料を用いて構成されることで、濃度の高い黒色画像が得られ、また、凝集物のヘッドノズル部への付着又は堆積が緩和されると共に付着した凝集物の除去が容易になるため、インク吐出時のインク吐出方向性不良を抑えて白抜け等の画像故障の発生が防止され、高解像度の画像が得られる。また、吐出装置側のメンテナンス頻度の軽減とメンテナンス性の向上も図られる。
【0114】
インク付与工程では、水性インク組成物をインクジェット法により付与する。具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に水性インク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0115】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0116】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0117】
第2記録形態の凝集成分付与工程では、水性インク組成物の付与前又は付与後に、被記録媒体上に水性液体組成物を付与する。水性液体組成物の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0118】
第2記録形態においては、凝集成分付与工程で水性液体組成物を付与した後にインク付与工程を設ける態様が好ましい。すなわち、被記録媒体上に、水性インク組成物を付与する前に、予め水性インク組成物中の顔料等を凝集させるための水性液体組成物を付与しておき、被記録媒体上に付与された水性液体組成物に接触するように水性インク組成物を付与して画像を形成する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0119】
画像記録の際に、光沢性や耐水性を付与したり、耐候性を改善する目的で、ポリマーラテックス化合物を併用してもよい。ラテックス化合物を付与する時期については、水性インク組成物を付与する前及び後のいずれでもよく、また、同時付与されてもよい。したがって、ラテックス化合物は、被記録媒体に付与する態様で用いてもよいし、水性インク組成物に添加する態様で用いてもよく、あるいはポリマーラテックスを別の液状物とする態様で用いてもよい。
具体的には、特開2002−166638号公報(特願2000−363090)、特開2002−121440号公報(特願2000−315231)、特開2002−154201号公報(特願2000−354380)、特開2002−144696号公報(特願2000−343944)、特開2002−080759号公報(特願2000−268952)に記載の方法を好ましく用いることができる。
【0120】
また、画像の記録に際しては、上記のインク付与工程及び凝集成分付与工程に加えて、さらに他の工程が設けられてもよい。他の工程としては、特に制限はなく、例えば、被記録媒体に付与された水性インク組成物中の有機溶媒を乾燥除去する乾燥除去工程、水性インク組成物中に含まれる樹脂微粒子又はポリマーラテックスを溶融定着する加熱定着工程、等、目的に応じて適宜選択することができる。
【0121】
また、画像記録方法の他の例として、最初に画像形成する被記録媒体として中間転写体を用い、中間転写体上に画像を記録した後に、中間転写体上の画像を所望の被記録媒体に転写する方法が挙げられる。
例えば第2記録形態の場合、最初に画像形成する被記録媒体として中間転写体を用い、中間転写体上に、既述の本発明の水性インク組成物をインクジェット法により付与するインク付与工程と、中間転写体上に、水性インク組成物中の顔料を凝集させる成分を含む水性液体組成物を付与する凝集成分付与工程とを設け、水性インク組成物と水性液体組成物とを接触させて中間転写体上に画像を形成した後、中間転写体に形成された画像を所望とする最終の被記録媒体に転写する転写工程を設けた方法が挙げられる。
この場合も、上記と同様に、例えば、乾燥除去工程、加熱定着工程などの他の工程を更に設けることができ、また、凝集成分付与工程で水性液体組成物を付与した後にインク付与工程を設ける態様が好ましい。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0123】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.35/min、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なった。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0124】
(合成例1)
〜樹脂分散剤P−1の合成〜
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコに、メチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、これにメチルエチルケトン50gにジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、フェノキシエチルメタクリレート70g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート20gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は過剰量のヘキサンに2回再沈殿させ、析出した樹脂を乾燥させて、フェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸(共重合比[モル比]=70/20/10)共重合体(樹脂分散剤P−1)96.5gを得た。
得られた樹脂分散剤P−1の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は43500であった。さらに、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0125】
〜樹脂分散剤P−2〜P−4の合成〜
前記樹脂分散剤P−1の合成において、フェノキシエチルメタクリレート70g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート20gを、下記表1に示すようにそれぞれ対応するモノマーの種類及び比率に変えたこと以外は、樹脂分散剤P−1の合成とほぼ同様にして、樹脂分散剤P−2〜P−4を合成した。
【0126】
(実施例1)
−樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1の調製−
カーボンブラック(NIPEX180−IQ(BET法による比表面積:260m/g)、Evonik degussa(株)製)10部と、上記のフェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(樹脂分散剤P−1)3部と、メチルエチルケトン32部と、1規定 NaOH水溶液4.2部と、イオン交換水100.8部とを混合し、ビーズミルで0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。続いて、得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、カーボンブラック濃度が10.2質量%の樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1を調製した。
【0127】
−樹脂被覆カーボンブラック粒子の粒子径の測定−
得られた樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1について、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用い、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定した。測定は、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物30μlに対してイオン交換水10mlを加えて測定用サンプル液を調製し、これを25℃に調温して行なった。測定結果は下記表1に示す。
【0128】
−水性インクC1の調製−
次に、得られた樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1を用い、以下の組成にて水性インクC1を調製した。水性インクC1の25℃でのpHは、9.0であった。
<水性インクC1の組成>
・前記樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1 ・・・39.2部
・グリセリン ・・・15部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・10部
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1部
・イオン交換水 ・・・34.8部
【0129】
−評価−
上記の樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1及び水性インクC1について、下記の測定、評価を行なった。測定及び評価の結果は、下記表1に示す。
【0130】
(分散安定性)
得られた樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1とこれを用いた水性インクC1とを、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:顔料微粒子の体積平均粒子径が160nm以下である水性分散物が得られ、かつ水性インクを調製した後も粒子径変化が10nm以下であり、室温7日間経過後の粒子径変化も10nm以下であって、分散安定状態が保たれていた。
B:Aの条件を満たす水性分散物、あるいは水性インクは得られなかった。
【0131】
(吐出安定性)
インクジェット記録装置として、600dpi、256ノズルの試作プリントヘッドを備えたインクジェット装置を用意し、これに上記より得た水性インクC1を装填した。得られた水性インクをヘッドから特菱アート紙(三菱製紙(株)製)上に30分間吐出した後、メンテナンス作業として、15KPaの圧力で10秒間加圧した後にクリーンワイパーFF−390c((株)クラレ製)でワイプを行ない、その後さらに5分間吐出を継続し、5分経過後に特菱アート紙に記録された画像(5cm×5cm)を観察した。そして、観察した画像を下記の評価基準にしたがって目視により評価した。
<評価基準>
A:白抜けの発生等による画像の変形はみられなかった。
B:白抜けの発生等の画像故障が多く、画像の変形が認められた。
【0132】
(印字濃度)
インクジェット記録装置として、600dpi、256ノズルの試作プリントヘッドを備えたインクジェット装置を用意し、これに上記より得た水性インクC1を装填し、特菱アート紙(三菱製紙(株)製)に吐出してベタ画像を印字した。このベタ画像の光学濃度(OD)をSpectro Eye((株)きもと製)により測定し、下記基準で評価した。
<評価基準>
A:OD≧1.65
B:OD<1.65
【0133】
(実施例2)
実施例1において、カーボンブラックをNIPEX170−IQ(BETによる比表面積:200m/g;Evonik degussa(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0134】
(実施例3〜5)
実施例1において、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物C1の調製に用いたフェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(樹脂分散剤P−1)を下記表1に示す樹脂分散剤P−2〜P−4にそれぞれ代え、樹脂分散剤P−2を使用して分散物を調製する際には、1規定 NaOH水溶液を4.6部としてイオン交換水を0.4部減量し、樹脂分散剤P−3又はP−4を使用して分散物を調製する際には、1規定 NaOH水溶液を4.9部としてイオン交換水を0.7部減量したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0135】
(比較例1〜2)
実施例1において、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物の調製に用いたフェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(樹脂分散剤P−1)を、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=90/10[質量%])共重合体(比較例1)、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=80/20[質量%])共重合体(比較例2)にそれぞれ代え、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=80/20[質量%])共重合体を使用して分散物を調製する際(比較例2)には、1規定 NaOH水溶液を7.7部としてイオン交換水を3.5部減量したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0136】
(比較例3)
実施例1において、カーボンブラックをColor Black FW200(BETによる比表面積:460m/g;Evonik degussa(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0137】
(比較例4)
実施例1において、カーボンブラックをSpecial Black6(BETによる比表面積:300m/g;Evonik degussa(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0138】
(比較例5)
実施例1において、カーボンブラックをNIPEX160−IQ(BETによる比表面積:150m/g;Evonik degussa(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0139】
(比較例6)
実施例1において、カーボンブラックをSpecial Black4(BETによる比表面積:180m/g;Evonik degussa(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆カーボンブラック粒子の分散物を得ると共に、粒子径の測定、水性インクの調製、及び評価を行なった。測定、評価の結果は下記表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
【化8】

【0142】
前記表1に示すように、実施例では、分散性に優れており、インク調製後の分散性も安定していた。また、画像記録時には安定したインク吐出が可能であり、濃度の高い画像が得られた。また、凝集体のヘッドへの付着に伴なう吐出方向性不良が防止され、記録画像中における白抜け故障の発生も抑制できた。また、ミストの発生で生じた凝集物の付着量も少なく、付着した凝集物も容易に除去することができ、メンテナンス性の軽減、容易化が達成された。
これに対し、比較例では、画像の濃度が不充分であり、また、凝集体のヘッドへの付着が多く、吐出されたインクの吐出方向性不良が防止できず、白抜け故障の発生も抑えられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂によって被覆された、BET法による比表面積が200m/g以上300m/g未満のカーボンブラックと、有機溶媒と、中和剤と、水とを含有する水性インク組成物。
【化1】



〔式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Arは無置換又は置換の芳香族環を表す。nは、平均の繰り返し数を表し、1〜6である。〕
【請求項2】
前記一般式(I)中のArで表される前記芳香族環が、無置換又は置換のベンゼン環であることを特徴とする請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項3】
前記水不溶性樹脂は、親水性構造単位(A)と疎水性構造単位(B)とを含み、芳香族環の含有割合が水不溶性樹脂の全質量の20質量%以下であって、
前記疎水性構造単位(B)の少なくとも1種は前記一般式(I)で表される構造単位であり、
前記親水性構造単位(A)の割合が水不溶性樹脂の全質量の15質量%以下であり、前記親水性構造単位(A)が少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構造単位を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
前記水不溶性樹脂は、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックは、転相乳化法により前記一般式(I)で表される構造単位を含む水不溶性樹脂で被覆されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水性インク組成物。
【請求項6】
更に、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水性インク組成物。

【公開番号】特開2009−221326(P2009−221326A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66355(P2008−66355)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】