説明

水性インク

【課題】 普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高い水性インクを提供すること。
【解決手段】 水及び自己分散顔料を含有し、表面張力が34mN/m以下の水性インクであって、多価カルボン酸イオンと、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンのいずれかとを含有することを特徴とする水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式等で記録媒体に付与される水性インクには、普通紙への高い浸透性が求められている。また、普通紙で得られる記録画像が高い画像濃度を有することが求められている。
【0003】
このような要求に対して、特許文献1には、色材としてホスホン酸型の自己分散顔料を用い、表面張力が34mN/m以下の超浸透型の水性インクが記載されている。かかる水性インクは、色材とインク中で併用される有機カルボン酸のアンモニウム塩等との相乗効果によって、インクが普通紙に着弾した後の固液分離を良好に行うものである。これにより、インクの普通紙への浸透性を高くしながらも、色材を普通紙の表層に留めて記録画像の画像濃度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/014242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水性インクは、特に普通紙における画像濃度向上の点でさらなる改良の余地があった。特に、インクの付与を分割してではなく1度に行うシングルパス方式においては、高い画像濃度を得にくい場合があった。
【0006】
従って、本発明は、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高い水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、水及び自己分散顔料を含有し、表面張力が34mN/m以下の水性インクであって、多価カルボン酸イオンと、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンのいずれかとを含有することを特徴とする水性インクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高い水性インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】水性インク中での自己分散顔料の解離を示す図。
【図2】水性インク中での自己分散顔料と多価カルボン酸塩の解離を示す図。
【図3】記録ドットの形成方法の一例を示す図。
【図4】シリアル型記録ヘッドの図。
【図5】インクジェット記録装置の図。
【図6】ライン型記録ヘッドの図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高い水性インクについて検討した。その結果、水及びアニオン性自己分散顔料を含有し、表面張力が34mN/m以下の水性インクに、多価カルボン酸イオンと、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンのいずれかとを含有させることで前記目的を達成することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0012】
<水性インク>
(色材)
本発明の水性インクは、色材として自己分散顔料を用いる。自己分散顔料を用いることで、例えば樹脂分散方式の顔料を用いた場合と比較して、記録媒体への付与後スムーズに固液分離が起こり、顔料自体が普通紙に深く浸透しにくくなり、画像濃度が非常に高くなる。
【0013】
自己分散顔料は、顔料表面に直接あるいは他の原子団を介して水溶性官能基を導入し、水溶性化した顔料である。自己分散顔料の分散には、基本的には分散剤を必須としない。水溶性化する前の顔料としては、例えば特開2008−214609号公報に列挙されているような、従来公知の様々な顔料を用いることができる。このような顔料を原料とした自己分散顔料に導入される水溶性官能基は、顔料の表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を顔料表面と水溶性官能基との間に介在させて顔料表面に間接的に結合させてもよい。導入される水溶性官能基としては、例えば、−COO(M)、−SO(M)、−PO(M)等(但し、式中の「M」は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)等が挙げられる。式中の「M」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミン等が挙げられる。
【0014】
介在させる他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0015】
顔料の表面に水溶性官能基を直接導入する方法としては、例えばカーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法等が挙げられる。この方法によれば、カーボンブラック表面に、−COO(M)基やラクトン基を導入させることができ、本発明で特に良好に使用できる。以上のような処理がされた顔料としては、例えばCW−1、CW−2(オリエント社製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300、CAB−O−JET400(キャボット社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いる自己分散顔料の平均粒子径(直径)は、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。これらの平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められたものである。具体的な平均粒子径の測定方法としては、レーザ光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定する。
【0017】
自己分散顔料は必要に応じて2種類以上を組み合わせて同一インク中に用いることができる。本発明の水性インクは、以上の自己分散顔料を、インク全量に対して好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上含有している。また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下含有している。
【0018】
自己分散顔料がインク中で分散している模式図を図1に示す。顔料表面に導入した水溶性官能基は、アニオン性親水性基1(X)と、カウンターカチオン2(M)に解離する。解離した親水性基及びカウンターカチオンは、それぞれ水和水3で覆われているため、互いに結合することなく安定に分散する。
【0019】
(多価カルボン酸塩)
本発明の水性インクは、多価カルボン酸塩として、多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩のいずれかを含有する。これにより、記録画像の画像濃度が非常に高くなるが、本発明者らはこの理由を以下のように推測している。
【0020】
水性インク中では、自己分散顔料は図1に示すような状態で解離して、安定に分散している。この水性インクが普通紙に着弾すると、アニオン性親水性基及びカウンターカチオンを覆う水和水が普通紙のセルロース繊維に奪われる。この結果、自己分散顔料は、分散安定性が崩れて凝集することにより析出し、普通紙に定着する。即ち、アニオン性親水性基及びカウンターカチオンを覆う水和水の量が多いほど、自己分散顔料の分散安定性を崩すためにはセルロースが多くの水和水を奪う必要があり、自己分散顔料が析出、定着するまでの時間が長くなる。特に、表面張力の低い超浸透性インクにおいては、普通紙への浸透速度が速いため、顔料が普通紙深部に定着しやすくなり、記録画像の画像濃度が低下する。
【0021】
ここで、本発明では、水性インクが、水和力の強い陰イオンと、水和力の弱いアルカリ金属イオンとからなる多価カルボン酸塩を含有していることにより、記録画像の画像濃度が高くなる。水性インクが水和力の強い陰イオンと水和力の弱いアルカリ金属イオンとからなる有機酸塩を含有した状態を図2に示す。水和力の強い陰イオン5(Y)が、アニオン性親水性基1(X)を覆う水和水3を奪うため、アニオン性親水性基を覆う水和水の量が少なくなる。また、水和力の弱いアルカリ金属イオン4(M)を覆う水和水の量は、自己分散顔料のカウンターカチオン2(M)の水和水の量よりも少ない。つまり、水性インクが水和力の強い陰イオン5と水和力の弱いアルカリ金属イオン4からなる有機酸塩を含有することにより、アニオン性親水性基及を覆う水和水の量が少なくなり、かつ水和水の量の少ないカウンターカチオン4(M)が導入される。このため、自己分散顔料の分散安定性を崩すためにセルロースが奪う水和水の量が少なくて済み、自己分散顔料が析出、定着するまでの時間が短くなる。即ち、顔料が普通紙表面近傍に定着し、記録画像の画像濃度が高くなる。
【0022】
この際、自己分散顔料由来のカウンターカチオン2(M)と、有機酸塩由来のカウンターカチオンであるアルカリ金属4イオン(M)のイオン交換がおこり、顔料はアニオン性親水性基1(X)と、アルカリ金属4イオン(M)が結合した塩の形で析出する。
【0023】
陰イオン及びアルカリ金属イオンの水和力の強さは、水を構造化させる能力の順にイオンを配列したホフマイスターシリーズにより表される。ホフマイスターシリーズによれば、陰イオン及びアルカリ金属イオンの水和力は、以下の順列である。
陰イオン:クエン酸イオン>酒石酸イオン>硫酸イオン>酢酸イオン>Cl>Br>NO>ClO>I>SCN
アルカリ金属イオン:Li>Na>K>Rb>Cs+。
【0024】
上述の通り、水和力の強い陰イオンと、水和力の弱いアルカリ金属イオンからなる有機酸塩を用いることで、画像濃度が向上する。このような有機酸塩とは、
上記ホフマイスターシリーズの左側に位置する陰イオンと、右側に位置するアルカリ金属イオンとから成る有機酸塩である。さらに検討を行った結果、陰イオンとして、クエン酸イオン、酒石酸イオン等の多価カルボン酸イオンを、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンをそれぞれ用いて形成した有機酸塩、即ち多価カルボン酸塩により、画像濃度が飛躍的に向上することを見出した。このような多価カルボン酸塩の例としては、例えばクエン酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、コハク酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩が挙げられる。
【0025】
水性インクの多価カルボン酸塩の含有量が多ければ、自己分散顔料の水和水を奪う力が強くなるため、記録画像の画像濃度は向上する。ただし、過剰に含有している場合、水性インク中での自己分散顔料の分散安定性が低下してしまう。このような観点から、水性インク中の多価カルボン酸塩の含有量は、20×10−2mol/L以下であるのが好ましく、さらに好ましくは10×10−2mol/L以下である。また、インクの多価カルボン酸塩の含有量は1.0×10−2mol/L以上であるのが好ましく、さらに好ましくは2.0×10−2mol/以上である。
【0026】
尚、本発明では、水性インク中において、多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩が、多価カルボン酸イオンとアルカリ金属イオンとに解離している状態であっても、水性インクが多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩を含有しているものとする。
【0027】
(水性媒体)
本発明の水性インクは、水を必須成分とする。水性インクの水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましい。また、95質量%以下であることが好ましい。更に、水に加えて、水溶性化合物を併用して、水性媒体とするのが好ましい。この水溶性化合物とは、20質量%濃度の水との混合液で水と相分離せずに混ざり合う、親水性の高いものである。更に固液分離や目詰まり防止への点から蒸発しやすいものは好ましくなく、20℃での蒸気圧が0.04mmHg以下の物質が好ましい。
【0028】
さらに、本発明の水性インクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有することが好ましい。さらに紙種によっては、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物と0.37以上の水溶性化合物を併有するインクが好ましい。この場合親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有する形態とするとより好ましい態様となる場合がある。
【0029】
【数1】

【0030】
式中の水分活性値とは、
水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。
【0031】
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。
【0032】
水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
【0033】
本発明者らは、インクに含有される水溶性化合物の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。
【0034】
水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性化合物は、これらにのみ限定されるものではない。
【0035】
【表1】

【0036】
水溶性化合物は、水性インクとしての適性を有する各種の水溶性化合物の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性化合物を選択して用いることができる。本発明者らは、親疎水度係数の異なる水溶性化合物がインク中に含まれた場合の、水溶性化合物と各種インク性能との関係を検討した結果、以下の知見を得た。
【0037】
親疎水度係数が0.26以上の親水的傾向の小さい水溶性化合物を用いると、2色間のブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性が、極めて良好となった。中でもグリコール構造における親水基に置換された炭素数以上に、親水基に置換されていない炭素数を有するグリコール構造の類は、特に好ましいものであった。これらの水溶性化合物は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料の固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。また、この中でも、特に式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物として、トリメチロールプロパンが特に好ましい。また0.37以上の水溶性化合物としては炭素数4〜7の炭化水素のグリコール構造を有するものが好ましく、中でも、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが特に好ましい。また親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上用いる際、親水度係数が、0.1以上の差があることが好ましい。
【0038】
前記水溶性化合物の水性インク中での含有量は、合計で好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0039】
(界面活性剤)
本発明の水性インクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、好ましくはインク中に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0040】
(その他の添加剤)
また、本発明の水性インクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を含有してもよい。
【0041】
(表面張力)
本発明の水性インクの表面張力は、34mN/m以下である。このインクの表面張力は、33mN/m以下であることがより好ましく、32mN/m以下であることがさらに好ましい。また、27mN/m以上であることが好ましく、28mN/m以上であることがより好ましく、29mN/m以上であることがさらに好ましい。インクの表面張力をこの範囲に制御することで、本発明の水性インクの効果が最大限に発揮される。尚、上記表面張力は、垂直平板法によって測定された値であり、具体的な測定装置としては、CBVP−Z(協和界面科学製)等が挙げられる。
【0042】
インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。
【0043】
しかし、普通紙は、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低くなっている。水性インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、普通紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾しても、すぐには濡れず速やかに浸透を開始しにくい。紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させても、浸透に対する寄与は小さい。水性インクは、表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで、ポア吸収が主体となる水性インクとすることによって、高速定着しやすくなる。ポア吸収が主体となる水性インクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。
【0044】
(粘度)
本発明の水性インクの粘度は、6.0mPa・s以下であることが好ましい。特に熱エネルギーの利用によりインクジェット記録する装置を使用する場合、これより粘度が高いとノズルへのインク供給が間に合わず、不明瞭な画像が記録される場合がある。インクの粘度はより好ましくは5.0mPa・s以下であり、さらに好ましくは4.0mPa・s以下である。
【0045】
<インクジェット画像形成方法>
本発明の水性インクは、インクジェット記録用として好ましく用いられる。本発明のインクジェット画像形成方法においては、1回に付与するインクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とする。好ましくは1.0pl以上であり、より好ましくは1.5pl以上である。また、好ましくは5.0pl以下であり、より好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、画像の定着性、耐水性に劣る場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、3ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。
【0046】
インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙には、一般的に、0.5μmから5.0μmを中心として、0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。尚、本発明において普通紙とは、プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等のことを言う。普通紙への水性インクの浸透現象としては、前述したように普通紙のセルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクである。このため、本発明で用いられるインクが普通紙に付与され、普通紙表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触すると、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、普通紙での高発色の発現において極めて不利となる。一方、インクが小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔への接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、普通紙上で得られる画像は高発色となる。
【0047】
本発明において定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステム等によると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高デューティー部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在するなどし、画像の均一性が良好でなくなる。
【0048】
インクの定量化に適した付与方式としては、インクの付与を熱エネルギーの作用により行なうサーマルインクジェット方式が、吐出のメカニズムの点で好ましい。即ち、サーマルインクジェット方式は、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像は高濃度で、均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
【0049】
デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上の部分を有する画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される部分を有する画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。
【0050】
基本マトリクス中の80%デューティー以上となる部分を有する画像とは、基本マトリクス中に1色のインクで80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有していない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれやブリーディング等の問題が生じない場合も多い。
【0051】
本発明の基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
本発明の水性インクは、分割しないでインクを付与するシングルパス方式の印字を行っても高い濃度の記録画像を得ることが可能であるが、インクを分割して付与する分割付与方式で画像を形成すれば、さらに高い濃度の記録画像を得ることが可能となる。この場合には、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成をする際に、インクの付与を2回以上、8回以下の分割回数に分割することが好ましい。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量は、0.7μl/cm以下、好ましくは0.6μl/cm以下、より好ましくは0.5μl/cm以下である。このような記録方法を行うことで高い画像濃度を得ることができ、さらに裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングを抑制することが可能となる。
【0053】
本発明において、同一色のインクの付与を2回以上の分割回数に分割して記録する際に、基本マトリクスへのインクの付与開始から付与終了までの時間は、1msec以上、200msec以下であることが好ましい。この条件で印字することにより、発色性及び小文字の文字品位の向上が顕著にみられる。これは、複数回に分割して印字する際に、基本マトリクスへ最初にインクが付与されてから、最後にインクが付与されるまでに、一定の時間を空けることが好ましいことを示している。この理由は以下のように考えられる。即ち、最初のインク滴が普通紙に十分に定着する前に最後のインク滴が着弾すると、各インク滴同士が結合し、大きな液滴を形成する(ビーディング)。その大きな液滴が普通紙上の大きめな細孔から深く浸透してしまうので発色性が低下する。また、その大きなインク滴は普通紙の中で繊維の方向に沿って横方向にも広がるため文字のシャープさが失われてしまう。本発明では、インクの付与を複数回に分割して記録し、基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から終了までの時間を1msec以上、200msec以下に設定することで、インク滴が記録媒体に着弾してから固液分離するまでの十分な時間をとることができる。その結果、画像濃度及び文字品位が向上すると考えられる。
【0054】
また、同一色のインクの付与を3回以上の分割回数に分割して記録する場合、それぞれの回の付与時間差を1msec以上空けることが好ましい。この条件で記録することで、各インク滴同士が結合して生じる画像濃度の低下及び文字品位の劣化が軽減される。
【0055】
基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から付与終了までの時間を200msecより長い時間に設定しても、発色性向上の効果が小さい。基本マトリクスへの同一インクの付与開始から終了までの時間は1msec以上がよいが、好ましくは3msec以上、より好ましくは6msec以上、さらに好ましくは10msec以上である。基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から付与終了までの時間をこのように設定することにより、本発明で使用するインクの効果を最大に引き出すことができる。即ち、高い画像濃度且つ高品質な画像を得ることが可能で、高速でのインクジェット記録が実現する。
【0056】
水性インクの付与を2回以上の分割回数に分割する手法としては、シリアル型とライン型に大別される。2パスで印字する際に、1パス目に記録媒体に対し50%相当のインクを、2パス目に記録媒体に残りの50%相当のインクを付与し、100%デューティーのベタ印字をする場合のドットの着弾位置の配列例を図3に示す。シリアル型を例にすると、例えばベタ印字を2分割で印字する場合、記録媒体に対して記録ヘッドが2回通過(2パス)する事となる。分割付与に際して、1回当りの付与量は等量のインクを付与する事が多いが、本発明はこれに限るものではない。例えば、1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様として、図4に例示した記録ヘッドを用いる例が挙げられる。カラーのヘッド構成例を述べると、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する態様となる。この例は、ブラックインクを2ノズル列に分割して、1パスで付与する場合のヘッドの構成例である。同様にしてヘッドのノズル列数やインクの搭載数の構成を変えることで、様々なインクを記録媒体に対して記録ヘッドが1回通過する1パスで2回以上の分割回数に分割印字する事が可能である。つまり分割しないでインクを付与するシングルパス方式と同じ時間内に2回以上の分割回数に分割付与する事が可能になる。
【0057】
<インクジェット記録装置>
次に、本発明に関するインクジェット記録装置について説明する。本発明に好適な装置としては、0.5pl以上6pl以下の定量の水性インクを付与する記録ヘッドを搭載したものである。本願発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドは、インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドであることが好ましい。このような記録ヘッドは、圧電素子を用いてインクを吐出させる記録ヘッドに比べてノズルの高密度化に適している。さらに、インクを定量とすることに優れているので、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像の均一性を良好とする点で優れている。
【0058】
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号、米国特許第4740796号に開示されている基本的な原理を用いて行なうものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0059】
図5は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数の記録ヘッド211〜215が搭載されている。また、記録ヘッド211〜215にはインクを吐出するためのインク吐出口が複数配列されている。1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様では、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出するための本発明の記録ヘッド例である。インクカートリッジ221〜225は、記録ヘッド211〜215、及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。記録ヘッド211〜215への制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。普通紙等のセルロース繊維の露呈した記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。記録ヘッド211〜215のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜315を持つ回復ユニット32が設置されている。記録を行なわないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、記録ヘッド211〜215のインク吐出口面をそれぞれが対応するキャップ311〜315によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。更に、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。インク受け部33は、記録ヘッド211〜215が記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、記録ヘッド211〜215のインク吐出口形成面をクリーニングすることが可能でとなっている。
【0060】
以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段等がある。また、記録とは別の吐出を行なう予備吐出モードを備えることも安定した記録を行なうために有効である。加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0061】
図4の記録ヘッドは、記録ヘッドを走査して記録を行なうシリアルタイプであるが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプであっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、図6に示すように、シリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい。
【0062】
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録ヘッドを有する記録装置は、独立化あるいは一体的に形成された4色インク(Y,M,C,K)を用いて、ブラックインクのみを2分割付与するためにブラックインク211ノズルと215ノズルそれぞれに設けた5吐出口列(またはノズル列)構成のヘッドを搭載した例である。また4吐出口列数(またはノズル列数)を用いて分割付与を行う好適な態様として、4色インク(Y,M,C,K)の少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、4吐出口列数(またはノズル列)のヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等が挙げられる。
【0063】
本発明のインクジェット記録装置は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を2回以上の分割回数に分割して行なうことが好ましい。また、分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm以下とすることが好ましい。本発明のインクジェット記録装置は、かかる分割付与を行なうための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、普通紙の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行なう。
【実施例】
【0064】
次に実施例、比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載で部、及び%とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。尚、水性インクの表面張力は、CBVP−Z(協和界面科学製)で測定した。粘度は、RE80型粘土計(東機産業製)で測定した。自己分散顔料の粒径は、ナノトラックUPA 150EX(日機装製)で測定した。
【0065】
<自己分散顔料A>
CAB−O−JET400(キャボット社製)を自己分散顔料Aとした。
【0066】
<自己分散顔料B>
比表面積が220m/gでDBP吸油量が160ml/100gのカーボンブラック500gを、イオン交換水3750gに加え、攪拌しながら50℃まで昇温した。次に、0.5mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより、カーボンブラックを粉砕しながら、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)4500gの水溶液を50℃で3時間かけて滴下した。その後、30分粉砕し、自己分散カーボンブラックを含有する反応液を得た。反応液を分別後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、限外ろ過装置で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩した。自己分散カーボンブラックの濃度が10%となるように調整後、プレフィルター及び1μmフィルターの併用系で濾過して自己分散顔料Bを得た。このようにして得られた自己分散顔料Bのアニオン性親水性基はカルボン酸基である。
【0067】
<水性インク1>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク1を得た。水性インク1の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は3.0mPa・sであった。pHは、塩酸により5.6に調整した。尚、以下の多価カルボン酸塩の含有量(mol/L)は、水性インクに対する量である。
・自己分散顔料A:5部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・フタル酸二カリウム:0.61部(2.5×10−2mol/L)
・水:残部
【0068】
<水性インク2>
フタル酸二カリウムを用いなかった以外は水性インク1と同様とした。水性インク2の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は2.8mPa・sであった。pHは、塩酸により5.6に調整した。
【0069】
<水性インク3>
フタル酸二カリウムのかわりに安息香酸ナトリウムを0.30部(2.5×10−2mol/L)用いた以外は水性インク1と同様とした。水性インク3の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は3.4mPa・sであった。pHは、塩酸により5.6に調整した。
【0070】
<水性インク4>
フタル酸二カリウムのかわりにフタル酸二ナトリウムを0.53部(2.5×10−2mol/L)用いた以外は水性インク1と同様とした。水性インク4の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は2.7mPa・sであった。pHは、塩酸により5.6に調整した。
【0071】
<水性インク5>
フタル酸二カリウムのかわりにフタル酸二アンモニウムを0.50部(2.5×10−2mol/L)用いた以外は水性インク1と同様とした。水性インク5の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は120nm、粘度は2.8mPa・sであった。pHは、塩酸により5.6に調整した。
【0072】
<水性インク6>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク6を得た。水性インク6の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は130nm、pHは6.6、粘度は3.5mPa・sであった。
・自己分散顔料B:5部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・フタル酸二カリウム:0.61部(2.5×10−2mol/L)
・水:残部
【0073】
<水性インク7>
フタル酸二カリウムのかわりにフタル酸二セシウムを1.08部(2.5×10−2mol/L)用いた以外は水性インク6と同様とした。水性インク7の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は130nm、pHは6.6、粘度は3.2mPa・sであった。
【0074】
<水性インク8>
フタル酸二カリウムのかわりにフタル酸二ナトリウムを0.53部(2.5×10−2mol/L)用いた以外は水性インク6と同様とした。水性インク8の表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の粒径は130nm、pHは6.6、粘度は3.9mPa・sであった。
【0075】
<実施例1〜3、比較例1〜5>
上記水性インク1〜8を用いて、以下に示す条件で画像形成及び評価を行った。
【0076】
(インクジェット記録装置)
F930(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、解像度最高1200dpi(横)×1200dpi(縦))を用いた。
【0077】
(付与方法)
シングルパス:水性インクを一種類毎にプリンタのブラックインクヘッド部に搭載し、ベタ画像(100%デューティー)を分割付与せずに印刷した。1回あたりのインク付与量は、1.0μl/cmとした。
分割付与:水性インクを一種類毎にプリンタのブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部に搭載して、ベタ画像を2回の分割付与で印刷した。このとき、ブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部から吐出されるインクの時間差は12msecであった。一吐出口列当り0.5μl/cmの等量で、合計付与量は、1.0μl/cmとした。
【0078】
(記録媒体)
・SW−101(PPC用紙(普通紙、キヤノン製))
・ゼロックス4200(PPC用紙(普通紙、ゼロックス製))
【0079】
(画像濃度)
ブラックインクに関して、記録画像のベタ部の画像濃度を濃度計(マクベスRD915:マクベス社製)にて測定した。
【0080】
以上の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示す通り、多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩のいずれかを含有する実施例1〜3の水性インクは、記録画像の画像濃度が非常に高くなった。
【0083】
また、分割付与にて画像形成を行うことにより、シングルパスで画像形成を行った場合よりも、さらに画像濃度が向上した。この結果から、より高い画像濃度を求めるような場合においては、分割付与により画像形成を行なうことが好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び自己分散顔料を含有し、表面張力が34mN/m以下の水性インクであって、
多価カルボン酸イオンと、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンのいずれかとを含有することを特徴とする水性インク。
【請求項2】
水及び自己分散顔料を含有し、表面張力が34mN/m以下の水性インクであって、
多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩のいずれかを含有することを特徴とする水性インク。
【請求項3】
水性インクの前記多価カルボン酸のカリウム塩、ルビジウム塩、及びセシウム塩の含有量が、1.0×10−2mol/L以上、20×10−2mol/L以下である請求項2に記載の水性インク。
【請求項4】
下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インク。
【数1】

【請求項5】
インクジェット記録用である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
請求項5に記載の水性インクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することで画像を形成するインクジェット画像形成方法であって、
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つ水性インクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、水性インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインク付与量が0.7μl/cm以下であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【請求項7】
前記水性インクの付与を熱エネルギーの作用により行なう請求項6に記載のインクジェット画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−79970(P2011−79970A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233502(P2009−233502)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】