説明

水性分散液およびその製造方法

【課題】各種基材との接着性や密着性、貯蔵安定性、耐候性、疎水性等に優れる水性分散液を提供すること。
【解決手段】オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に分散してなる水性分散液により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散液およびその製造方法に関する。本発明の水性分散液は、各種基材との接着性や密着性、貯蔵安定性、耐候性、疎水性等に優れる。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、加工性、耐水性、耐油性等の樹脂特性が優れる上に安価であることから、家庭電化製品や自動車部品用プラスティックとして多量に使用されており、その付加価値を高めるためにポリオレフィン成形品の表面に塗装を施したり、他の樹脂との積層体を形成することが試みられているが、ポリオレフィンは極性が低く、一般の塗料や他の樹脂との接着性が悪いという問題がある。
【0003】
この問題を解決するために、あらかじめポリオレフィン成形品の表面をクロム酸、火炎、コロナ放電、プラズマ、溶剤等を用いて処理することにより成形品表面の極性を高め、塗料や他の樹脂との接着性を改善することが従来より試みられてきたが、これらの処理においては、複雑な工程を必要としたり、腐食性の薬剤を多量に使用するため危険を伴ったりするといった問題点があった。
【0004】
このような状況下に、ポリオレフィン成形品の表面を塩素化ポリオレフィンを主成分とするプライマーで下塗りする方法が提案されたが、塩素化ポリオレフィンは人体に対して有害なトルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒に溶解させて使用することから、安全性や環境上の問題が生じるといった欠点があった。そこで塩素化ポリオレフィンを水性分散化する方法(特開平1−256556号公報(特許文献1)参照)が提案されたが、この方法においても芳香族系有機溶剤の使用を全くなくすことは困難である上に、得られる塗布皮膜の耐候性が劣るという欠点がある。
【0005】
また、プライマーとして変性ポリオレフィンの水性分散液を使用することが提案されている(特開平6−73250号公報(特許文献2)参照)が、この変性ポリオレフィンはグラフト共重合体であることから、その水性分散液の安定性を向上させるために界面活性剤を多量に含有させなければならず、それに起因して塗布皮膜の密着性が悪化する。さらに、上記の変性ポリオレフィンの水性分散液で表面処理した無機充填剤をポリオレフィンに添加すると、ポリオレフィンと無機フィラーとの接着性が劣るため、ポリオレフィンの機械的物性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−256556号公報
【特許文献2】特開平6−73250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、本発明の目的は、各種基材との接着性や密着性、貯蔵安定性、耐候性、疎水性等に優れる水性分散液およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の目的は、オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に分散してなる水性分散液;並びにオレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に前記ブロック共重合体の融点以上の温度で分散することを特徴とする水性分散液の製造方法を提供することによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各種基材との接着性や密着性、貯蔵安定性、耐候性、疎水性等に優れる水性分散液およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるブロック共重合体は、以下に述べる重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)から構成されており、例えば、AB型ジブロック共重合体、ABA型トリブロック共重合体、BAB型トリブロック共重合体などを挙げることができる。これらのなかでも、AB型ジブロック共重合体が好ましい。
【0011】
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(A)は、オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロックである。重合体ブロック(A)におけるオレフィン系単量体単位の含有量としては、重合体ブロック(A)の全構造単位の合計モル数に基づいて50〜100モル%の範囲内であるのが好ましく、70〜100モル%の範囲内であるのがより好ましく、80〜100モル%の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0012】
オレフィン系単量体単位としては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等のα−オレフィン;2−ブテン;イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;シクロペンタジエン;ビニルシクロヘキサン;β−ピネンなどから誘導される単位を挙げることができ、重合体ブロック(A)は、これらのうち1種または2種以上を含有することができる。重合体ブロック(A)は、エチレンまたはプロピレンから誘導される単位を含むのが好ましく、プロピレンから誘導される単位からなる重合体ブロックまたはプロピレンから誘導される単位およびプロピレン以外の他のα−オレフィンから誘導される単位からなる共重合体ブロックであるのがより好ましい。上記のオレフィン系単量体単位がブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン等の共役ジエンから誘導される単位の場合には、残存する不飽和結合が水素添加されていてもよい。
【0013】
重合体ブロック(A)は、必要に応じて、上記のオレフィン系単量体と共重合可能なビニル系単量体から誘導される単位を0〜50モル%の範囲内の割合で含有することができる。該単量体単位の含有量は、0〜30モル%の範囲内であるのが好ましく、0〜20モル%の範囲内であるのがより好ましい。
【0014】
上記のオレフィン系単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−ビニル−2−ピロリドンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニルが好ましい。また、上記の重合体ブロック(A)は、変性されていてもよく、該変性は、塩素化、臭素化等のハロゲン化;クロロスルフォン化;エポキシ化;ヒドロキシル化;無水カルボン酸化;カルボン酸化などの公知の諸法を用いて行なうことができる。
【0015】
本発明におけるブロック共重合体を構成する重合体ブロック(B)は、カルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位を重合体ブロック(B)の全構造単位のモル数に基づいて2〜100モル%含有しており、該単位の含有量は2〜50モル%の範囲内であるのが好ましく、2〜30モル%の範囲内であるのがより好ましい。
【0016】
カルボキシル基を有するビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0017】
無水カルボン酸基(式:−CO−O−CO−で示される基)を有するビニル系単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、無水マレイン酸が好ましい。
【0018】
重合体ブロック(B)は、上記のカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位を重合体ブロック(B)の全構造単位のモル数に基づいて0〜98モル%、好ましくは50〜98モル%、より好ましくは70〜98モル%の割合で含有することができる。上記の他のビニル系単量体としては、スチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−ビニル−2−ピロリドンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニルが好ましい。また、本発明における重合体ブロック(B)は塩素化されていてもよい。塩素化はラジカル付加法など公知の方法を用いて行なうことができる。この塩素化は後述するブロック共重合体を製造した後に重合体ブロック(A)と共に行なうこともできる。
【0019】
重合体ブロック(A)の数平均分子量としては、1,000〜100,000の範囲内であるのが好ましく、2,500〜50,000の範囲内であるのがより好ましい。重合体ブロック(B)の数平均分子量としては、1,000〜100,000の範囲内であるのが好ましく、2,500〜50,000の範囲内であるのがより好ましい。ブロック共重合体の数平均分子量としては、2,000〜200,000の範囲内であるのが好ましく、5,000〜100,000の範囲内であるのがより好ましい。なお、本明細書でいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めた値である。
【0020】
本発明におけるブロック共重合体は、例えば、末端にメルカプト基を有する重合体ブロック(A)の存在下に、重合体ブロック(B)を構成する単量体成分をラジカル重合することにより製造することができる。この方法によれば、目的とする数平均分子量および分子量分布を有するブロック共重合体を簡便かつ効率的に製造することができる。末端にメルカプト基を有する重合体ブロック(A)は、各種の方法により製造することができ、例えば、末端に二重結合を有するポリオレフィン系重合体に、チオ−S−酢酸、チオ−S−安息香酸、チオ−S−プロピオン酸、チオ−S−酪酸またはチオ−S−吉草酸などを付加させた後、酸またはアルカリで処理する方法、アニオン重合法によりポリオレフィンを製造する際の停止剤としてエチレンスルフィドを用いる方法などにより製造することができる。
【0021】
本発明の水性分散液において、上記したブロック共重合体100重量部に対してオレフィン系重合体を1〜200重量部配合すると、該水性分散液から形成される皮膜の強度が向上する。オレフィン系重合体の配合量としては、水性分散液の貯蔵安定性と被膜の強度のバランスの観点から、ブロック共重合体100重量部に対して10〜100重量部の範囲内であるのが好ましく、10〜50重量部の範囲内であるのがより好ましい。オレフィン系重合体の配合量が200重量部を超えると、得られる水性分散液における分散物質の平均粒子径が大きくなり、水性分散液の貯蔵安定性が低下する。
【0022】
上記のオレフィン系重合体としては、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン(またはトリエン)三元共重合体などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。上記のエチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられ、エチレン−プロピレン−ジエン(またはトリエン)三元共重合体におけるジエン(またはトリエン)としては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,6−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;シクロヘキサジエン、ジクロロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン等の環状非共役ジエン;2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン、1,3,7−オクタトリエン、1,4,9−デカトリエン等のトリエンなどが挙げられる。また、上記のオレフィン系重合体は、変性されていてもよく、該変性は、塩素化、臭素化等のハロゲン化;クロロスルフォン化;エポキシ化;ヒドロキシル化;無水カルボン酸化;カルボン酸化などの公知の諸法を用いて行なうことができる。
【0023】
上記したブロック共重合体および必要に応じて配合されるオレフィン系重合体を、ブロック共重合体の重合体ブロック(B)におけるカルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に前記ブロック共重合体の融点以上の温度で分散させることにより、本発明の水性分散液を製造することができる。なお、上記のオレフィン系重合体を含む水性分散液を製造する場合には、ブロック共重合体およびオレフィン系重合体のうち、融点が高い方の重合体の融点以上の温度で上記の水溶液に分散させる。上記の分散を上記の融点より低い温度で行うと、分散物質の平均粒径が大きくなり、水性分散液の安定性が低下する。
【0024】
本発明の水性分散液における分散物質の平均粒子径としては、貯蔵安定性、各種基材との密着性、接着性の観点から、0.05〜2μmの範囲内であるのが好ましく、0.05〜1μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0025】
上記の分散は、攪拌手段を備えた耐圧容器を用いて行なうことができ、攪拌手段としては、特に限定されないが、大きな剪断力を生じさせる観点から、タービン型攪拌機、コロイドミル、ホモミキサー、ホモジナイザーが好ましい。
【0026】
上記の塩基性物質としては、アンモニア、ヒドロキシアミン、水酸化アンモニウム、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、(ジ)メチルアミン、(ジ)エチルアミン、(ジ)プロピルアミン、(ジ)ブチルアミン、(ジ)ヘキシルアミン、(ジ)オクチルアミン、(ジ)エタノールアミン、(ジ)プロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、シクロヘキシルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン化合物;酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、酸化カリウム、過酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等の金属酸化物;水酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の金属水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム等の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等の酢酸塩などが挙げられる。これらのうちでも、入手の容易さ、水性分散液の安定性の観点から、アンモニア、(ジ)メチルアミン、(ジ)エチルアミン、(ジ)プロピルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、(ジ)ブチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、アンモニア、N,N−ジメチルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。
【0027】
これらの塩基性物質は水溶液として用いられ、塩基性物質の使用量は、ブロック共重合体の重合体ブロック(B)におけるカルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上であり、分散粒子径を微細化する観点から、0.2〜5.0当量の範囲内であるのが好ましく、0.3〜1.5当量の範囲内であるのがより好ましい。
【0028】
本発明の水性分散液におけるブロック共重合体と塩基性物質の水溶液との配合割合は、ブロック共重合体5〜70重量部に対して塩基性物質の水溶液95〜30重量部の範囲内であるのが好ましい。本発明の水性分散液中においてブロック共重合体は、重合体ブロック(B)におけるカルボキシル基または無水カルボン酸基の5モル%以上が塩基性物質によって中和されることにより、塩を形成する。
【0029】
本発明の水性分散液には、必要に応じて、増粘剤、消泡剤等を添加することができる。さらに、塗布される素材の濡れ性を改善するために、少量の有機溶剤を添加してもよい。また、本発明の水性分散液は、上記の化合物の他に、必要に応じて、酸化防止剤、耐候安定剤、熱分解防止剤等の各種安定剤;酸化チタン、有機顔料等の着色剤;カーボンブラック、フェライト等の導電性付与剤などを含んでもよい。本発明の水性分散液には、必要に応じてエポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等の硬化剤を配合することができる。
【0030】
本発明の水性分散液を用いて有機系または無機系の粒子の表面を処理することによって、オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体の塩または該塩100重量部とオレフィン系重合体1〜200重量部からなる重合体組成物が吸着した粒子(以下、これを「複合粒子」ということがある)が得られる。この複合粒子は、その核となる粒子の表面の全部に上記のブロック共重合体の塩または上記の重合体組成物が吸着していても、表面の一部に上記のブロック共重合体の塩または上記の重合体組成物が吸着していてもよい。上記のブロック共重合体の塩は、該ブロック共重合体が含有するカルボキシル基の5モル%以上が塩基性物質により中和されており、20モル%以上が中和されているのが好ましく、30モル%以上が中和されているのがより好ましい。ここで、上記の複合粒子およびその核となる粒子の大きさは、用途によって適宜選択可能であるが、その長径が0.01μm〜50mmの範囲内であるのが好ましく、0.05〜100μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0031】
上記の処理は、例えば、核となる粒子に本発明の水性分散液を加えて攪拌する方法、核となる粒子を水中で混合攪拌して懸濁状態とし、この水懸濁液に本発明の水性分散液を攪拌しながら添加して均一に分散させる方法、核となる粒子の製造中(例えば、核となる粒子の原料を粉砕する工程、核となる粒子を水溶液中から析出させる工程など)に本発明の水性分散液を加える方法などにより行なうことができる。また、上記の処理後、複合粒子を沈殿させて濾過、乾燥させる方法などにより、複合粒子を乾燥状態で得ることもできる。
【0032】
また、上記の複合粒子は、本発明の水性分散液を乾燥させて上記のブロック共重合体の塩または上記の重合体組成物を得、これを核となる粒子とブレンドすることによっても製造することができる。粒子表面にブロック共重合体の塩または上記の重合体組成物を均一に吸着させる観点から、上記した水中での表面処理を行うのが好ましい。また、粒子の水懸濁液と本発明の水性分散液との混合は、種々の方法で行うことができるが、剪断力が生じるホモミキサー、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、ホモジナイザー等を用いて行うのが好ましい。
【0033】
上記の複合粒子の核となる有機系の粒子としては、例えば、木紛、パルプ粉;アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、アントラキノン、チオインジゴ、オキサジン、キナクリドン、酸性染料または塩基性染料のレーキおよびトナー;銅フタロシアニンおよびその誘導体、縮合多環顔料およびそれらの混合物および修飾物;レーヨン、ビニロン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等の高分子の粒子などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらのなかでも、水酸基、アミノ基およびカルボキシル基のうち少なくとも1種の官能基を表面に有する有機系の粒子を用いるのが好ましい。複合粒子をポレオレフィン系樹脂の充填材として使用する場合、機械的性質改良効果の点から、木粉、パルプ粉、レーヨンの粒子、ビニロンの粒子がより好ましい。
【0034】
上記の複合粒子の核となる無機系の粒子としては、例えば、タルク、クレー、カオリン、マイカ等のケイ酸塩;シリカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;カーボンブラック、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青等の有色顔料などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に、水酸基、アミノ基およびカルボキシル基のうち少なくとも1種の官能基を表面に有している無機系の粒子を用いるのが好ましい。上記の有機系または無機系の粒子の形状としては、針状、繊維状、粉末状などの形状が挙げられ、複合粒子をポレオレフィン系樹脂の充填材として使用する場合、機械的性質改良効果の点から、針状、繊維状の形状が好ましい。
【0035】
本発明の水性分散液は、分散物質の粒子径が小さいため、貯蔵安定性が良好であり、相分離が起こりにくい。このため、本発明の水性分散液は、ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレンに対する接着性(密着性)に優れており、極性基材に対する接着性にも優れることから、塗装や接着の際のプライマー、塗料、接着剤として有用である。さらに、本発明の水性分散液は、フィルム、紙、木、金属、プラスティック等のコーティング剤(防水剤用途、離型剤用途、ヒートシール剤用途等);塗装や接着におけるプライマーおよびアンカーコート剤;水性塗料、水性接着剤、水性インキ等の改質剤(顔料分散、光沢付与、耐摩耗性付与、耐水化等);インクジェットインキやカラーコピーのバインダー;トナーの改質剤;つやだし剤;金属表面処理剤などとして有用である。また、ブロック共重合体の塩が吸着した複合粒子は、ポリオレフィンへの分散性に優れ、該複合粒子を配合することにより各種物性に優れたポリオレフィン組成物が得られる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例において、分散粒子の平均粒子径測定、炭酸カルシウム表面への吸着量、炭酸カルシウムの最大サイズ、成形品表面の平滑性、成形品の色差の物性試験は、次のようにして行った。
【0037】
(平均粒子径測定)大塚電子株式会社製「ELS800」を用いて光散乱法により測定した。
(炭酸カルシウム表面への重合体の吸着量)ブロック共重合体の塩およびポリオレフィン系重合体が表面に吸着した炭酸カルシウムの重量W1を測定後、400℃で20分加熱し、加熱後の重量W2を測定した。下記(1)式により上記の重合体の吸着量を算出した。
(1−W2/W1)×100 (1)
(炭酸カルシウムの最大サイズ)実施例および比較例で得られたシートの破断面を走査型電子顕微鏡を用いて100〜10000倍に拡大して撮影した写真により炭酸カルシウムの最大サイズを測定した。同時に凝集塊の有無を確認した。
(表面平滑性)実施例および比較例で得られたシートを目視により次のような2段階評価を行った。
○:プレス型面よりも粗い表面が5%未満である。
×:シート表面の5%以上がプレス型面よりも粗い表面である。
(表面色測定)実施例および比較例で得られたシートの表面色は、日本電色工業株式会社製色差計「Z1001DP」を用いて標準白板との色差(ΔE)を測定した。ΔEが大きいほど、標準白板との色差が大きく、着色していることを表している。
【0038】
参考例1:ブロック共重合体(I)(ポリプロピレンブロック/エチルアクリレート−アクリル酸ブロック共重合体)の製造
(1)ポリプロピレン(三菱化学株式会社製「三菱ノーブレンMH8」)を二軸押出機に供給し、420℃で溶融混練して熱分解させて、末端に二重結合を有するポリプロピレンを製造した。
(2)上記(1)で得られた末端に二重結合を有するポリプロピレン100重量部、トルエン1000重量部およびチオ−S−酢酸30重量部を反応器に入れて、内部を充分に窒素置換した後、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル10重量部を加えて、90℃で6時間反応させて、末端にチオアセチル基を有するポリプロピレンを製造した。
(3)上記(2)で得られた末端にチオアセチル基を有するポリプロピレン60重量部を、トルエン100重量部とn−ブタノール20重量部の混合溶媒中に溶解し、水酸化カリウムの7%n−ブタノール溶液1重量部を加えて、窒素中トルエン還流温度で6時間反応させることにより、末端にメルカプト基を有するポリプロピレンを製造した。
【0039】
(4)上記(3)で得られた末端にメルカプト基を有するポリプロピレン50重量部をトルエン500重量部に溶解し、これにエチルアクリレート180重量部、アクリル酸20重量部を加えて、窒素中、90℃で、重合速度が1時間あたり約10%になるように1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)を加え、重合率が95%になった時点で反応を停止した。反応液を冷却後、溶媒を除去し、ポリプロピレンブロック(A)およびエチルアクリレート−アクリル酸ブロック(B)〔エチルアクリレート:アクリル酸=90:10(重量比)〕から構成されるAB型ジブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(I)」と称する)を得た。得られたブロック共重合体(I)の重合体ブロック(A)の数平均分子量は8,200、重合体ブロック(B)の数平均分子量は28,000、ブロック共重合体(I)の数平均分子量は36,200であり、融点は148℃であった。
【0040】
参考例2:ブロック共重合体(II)(ポリプロピレンブロック/エチルアクリレート−無水マレイン酸ブロック共重合体)の製造
参考例1の(3)で得られた末端にメルカプト基を有するポリプロピレン50重量部をトルエン500重量部に溶解し、これにエチルアクリレート180重量部、無水マレイン酸20重量部を加えて、窒素中、90℃で、重合速度が1時間あたり約10%になるように1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)を加え、重合率が95%になった時点で反応を停止した。反応液を冷却後溶媒を除去し、ポリプロピレンブロック(A)およびエチルアクリレート−無水マレイン酸ブロック(B)〔エチルアクリレート:無水マレイン酸=90:10(重量比)〕から構成されるAB型ジブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(II)」と称する)を得た。得られたブロック共重合体(II)の重合体ブロック(A)の数平均分子量は8,200、重合体ブロック(B)の数平均分子量は27,100、ブロック共重合体(II)の数平均分子量は35,300であり、融点は146℃であった。
【0041】
参考例3:ブロック共重合体(III)(ポリプロピレン−α−オレフィンブロック/エチルアクリレート−アクリル酸ブロック共重合体)の製造
(1)プロピレン−α−オレフィン共重合体(三井化学株式会社製「タフマーXR110T」)500gを1Lの反応器に入れ、内温が390℃になるまで昇温し、2時間減圧下で攪拌することにより、末端に2重結合を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体を得た。末端2重結合量は、188.7μmol/gであった。
(2)上記(1)で得られた末端に二重結合を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体100重量部、キシレン300重量部およびチオ−S−酢酸4.3重量部を反応器に入れて、内部を充分に窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を加えて、90℃で2時間反応させて、末端にチオアセチル基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体を製造した。末端チオアセチル基量は、179.2μmol/gであり、付加反応率は、95%であった。
(3)上記(2)で得られた末端にチオアセチル基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体100重量部を、キシレン120重量部とn−ブタノール30重量部の混合溶媒中に溶解し、水酸化ナトリウムの4%n−ブタノール溶液5.7重量部を加えて、窒素中トルエン還流温度で1時間反応させることにより、末端にメルカプト基を有するプロピレン−α−オレフィン共重合体を製造した。末端メルカプト基量は、175.6μmol/gであり、反応率は、98%であった。
【0042】
(4)上記(3)で得られた末端にメルカプト基を有するポリプロピレン−α−オレフィン共重合体100重量部をキシレン150重量部に溶解し、これにエチルアクリレート80重量部、アクリル酸10重量部を加えて、窒素中、90℃で、重合速度が1時間あたり約10%になるように1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)を加え、重合率が95%になった時点で反応を停止した。反応液を冷却後、溶媒を除去し、プロピレン−α−オレフィン共重合体(A)およびエチルアクリレート−アクリル酸ブロック(B)〔エチルアクリレート:アクリル酸=90:10(重量比)〕から構成されるAB型ジブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(III)」と称する)を得た。得られたブロック共重合体(III)の重合体ブロック(A)の数平均分子量は5,300、重合体ブロック(B)の数平均分子量は4,500、ブロック共重合体(III)の数平均分子量は9,800であり、融点は103℃であった。
【0043】
参考例4:カルボキシル基を含有する変性プロピレン−α−オレフィン共重合体(グラフト共重合体)の製造
攪拌機、冷却管および滴下ロートを備えた四つ口フラスコ中に、プロピレン─ブテン共重合体(プロピレンを成分として75モル%含有しているもの)300gを仕込んで加熱溶融させた後、系の温度を180℃に保って、無水マレイン酸25gおよびジクミルパーオキサイド5gを攪拌しながら各々3時間かけて滴下し、その後さらに3時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、カルボキシル基を含有する変性プロピレン−ブテン共重合体を得た。得られた共重合体の融点は138℃であった。
【0044】
実施例1
攪拌機を備えた0.5lのオートクレーブに参考例1で得られたブロック共重合体(I)35gおよび水300mlを入れ、160℃で攪拌した。次に、10%の水酸化ナトリウム水溶液15mlをギヤポンプを用いて1時間かけて系内に供給した。その後、さらに30分間攪拌後、室温まで冷却して水性分散液を得た。得られた水性分散液の分散粒子は真球状で平均粒子径を測定したところ0.4μmであった。この水性分散液は1週間静置しても粒子径に変化はなく安定であった。
【0045】
次に、攪拌機を備えた1.0lの反応槽に7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水分散液500gおよび上記で得られたブロック共重合体(I)の水性分散液8.5gを入れ、70℃で2時間攪拌した。その後スラリー液を吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、ブロック共重合体(I)が表面に吸着している炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。この結果から、ブロック共重合体(I)が吸着している炭酸カルシウムはポリプロピレンへの分散性に優れていることが分かる。
【0046】
実施例2
攪拌機を備えた0.5lのオートクレーブに参考例2で得られたブロック共重合体(II)35gおよび水300mlを入れ、160℃で攪拌した。次に、10%の水酸化ナトリウム水溶液15mlをギヤポンプを用いて1時間かけて系内に供給した。その後、さらに30分間攪拌後、室温まで冷却して水性分散液を得た。得られた水性分散液の分散粒子は真球状で平均粒子径を測定したところ0.35μmであった。この水性分散液は1週間静置しても粒子径に変化はなく安定であった。
【0047】
次に、攪拌機を備えた1.0lの反応槽に7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水分散液500gおよび上記で得られたブロック共重合体(II)の水性分散液8.5gを入れ、70℃で2時間攪拌した。その後スラリー液を吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、ブロック共重合体(II)が表面に吸着している炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。この結果から、ブロック共重合体(II)が吸着している炭酸カルシウムはポリプロピレンへの分散性に優れていることが分かる。
【0048】
実施例3
攪拌機を備えた0.5lのオートクレーブに極限粘度0.12dl/g、密度0.89g/cm3、融点144℃のポリプロピレン15g、および参考例1で得られたブロック共重合体(I)35gおよび水300mlを入れ、160℃で攪拌した。次に、10%の水酸化ナトリウム水溶液15mlをギヤポンプを用いて1時間かけて系内に供給した。その後、さらに30分間攪拌後、室温まで冷却して水性分散液を得た。得られた水性分散液の分散粒子は真球状で平均粒子径を測定したところ0.55μmであった。この水性分散液は1週間静置しても粒子径に変化はなく安定であった。
【0049】
次に、攪拌機を備えた1.0lの反応槽に7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水分散液500gおよび上記で得られたブロック共重合体(I)およびポリプロピレンの水性分散液8.5gを入れ、70℃で2時間攪拌した。その後スラリー液を吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、ブロック共重合体(I)およびポリプロピレンが表面に吸着している炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。この結果から、ブロック共重合体(I)およびポリプロピレンが吸着している炭酸カルシウムはポリプロピレンへの分散性に優れていることが分かる。
【0050】
実施例4
攪拌機、コンデンサーを備えた0.5lの反応槽に参考例3で得られたブロック共重合体(III)50gおよびキシレン250gを入れ、100℃で溶解させた。次に、1%の水酸化ナトリウム水溶液300gを滴下ロートを用いて1時間かけて系内に供給し、キシレン−水懸濁液を得た。この懸濁液中のキシレンを留去することで、粗乳化物を得た。この粗乳化物300g(樹脂分50g)をオートクレーブに仕込み、160℃で1時間攪拌した。攪拌後、室温まで冷却して水性分散液を得た。得られた水性分散液の分散粒子は真球状で平均粒子径を測定したところ0.3μmであった。この水性分散液は1週間静置しても粒子径に変化はなく安定であった。
【0051】
次に、攪拌機を備えた1.0lの反応槽に7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水分散液500gおよび上記で得られたブロック共重合体(III)の水性分散液8.5gを入れ、70℃で2時間攪拌した。その後スラリー液を吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、ブロック共重合体(III)が表面に吸着している炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。この結果から、ブロック共重合体(III)が吸着している炭酸カルシウムはポリプロピレンへの分散性に優れていることが分かる。
【0052】
比較例1
7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水スラリー液500gを吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。このとき炭酸カルシウムは凝集塊を形成していた。この結果から、表面未処理の炭酸カルシウムは、ポリプロピレンへの分散性に劣ることが分かる。
【0053】
比較例2
攪拌機を備えた1リットルのフラスコに参考例3で得られた変性プロピレン−α−オレフィン共重合体(グラフト共重合体)100gを仕込み、加熱溶融した後、非イオン性界面活性剤(ノニオンNS−212:日本油脂株式会社製の商品名)12gを加え、次いでエタノールアミン(0.7当量)を加えた。得られた組成物を100℃に保ち、90℃の水300gを強く攪拌しながら少量ずつ加えて、乳白色の水性分散液を得た。得られた水性分散粒子は真球状で平均粒子径を測定したところ、0.32μmであった。この水性分散液は1週間静置しても粒子径に変化はなく安定であった。
【0054】
次に、攪拌機を備えた1.0lの反応槽に7.5wt%の炭酸カルシウム(平均粒径0.3μm)の水分散液500gおよび上記で得られた変性プロピレン−α−オレフィン共重合体の水性分散液8.5gを入れ、70℃で2時間攪拌した。その後スラリー液を吸引ろ過し、120℃で12時間真空乾燥することにより、変性プロピレン−α−オレフィン共重合体が表面に吸着している炭酸カルシウムの粉末を得た。得られた炭酸カルシウムの粉末30gおよびポリプロピレン70gをロール混練機にて170℃で溶融混練したのち、表面が鏡面のステンレス板をプレス型として、熱プレスによってシートを得た。得られたシートの表面平滑性、色差および炭酸カルシウムの最大サイズを表1に示した。このとき炭酸カルシウムは凝集塊を形成していた。この結果から、グラフト共重合体が炭酸カルシウムに吸着している場合には、炭酸カルシウムのポリプロピレンへの分散性は劣ることがわかる。
【0055】
【表1】

1)BP1:ブロック共重合体(I)
BP2:ブロック共重合体(II)
BP3:ブロック共重合体(III)
GP:グラフト共重合体
PP:ポリプロピレン
2)炭酸カルシウム粒子が凝集塊を形成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に分散してなる水性分散液。
【請求項2】
分散物質の平均粒子径が0.05〜2μmである請求項1記載の水性分散液。
【請求項3】
重合体ブロック(B)が、カルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜50モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜50モル%からなる重合体ブロックである請求項1または2記載の水性分散液。
【請求項4】
重合体ブロック(A)におけるオレフィン系単量体単位が、プロピレンから誘導される単位、またはプロピレンから誘導される単位およびプロピレン以外の他のα−オレフィンから誘導される単位である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項5】
重合体ブロック(A)の数平均分子量が1,000〜100,000であり、重合体ブロック(B)の数平均分子量が1,000〜100,000である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項6】
ブロック共重合体100重量部に対してオレフィン系重合体を1〜200重量部含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項7】
オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に前記ブロック共重合体の融点以上の温度で分散することを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項8】
オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体100重量部並びにオレフィン系重合体1〜200重量部を前記カルボキシル基または無水カルボン酸基に対して0.05当量以上の塩基性物質の水溶液に前記ブロック共重合体およびオレフィン系重合体のうち、融点が高い方の重合体の融点以上の温度で分散することを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項9】
オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体の塩が吸着した粒子。
【請求項10】
オレフィン系単量体単位から主としてなる重合体ブロック(A)とカルボキシル基または無水カルボン酸基を有するビニル系単量体の単位2〜100モル%および該ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の単位98〜0モル%からなる重合体ブロック(B)とから構成されるブロック共重合体の塩100重量部並びにオレフィン系重合体1〜200重量部からなる重合体組成物が吸着した粒子。

【公開番号】特開2010−174259(P2010−174259A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104977(P2010−104977)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【分割の表示】特願2000−202388(P2000−202388)の分割
【原出願日】平成12年7月4日(2000.7.4)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】