説明

水性塗料組成物及びその塗装方法

【課題】下地の変位に追従可能な弾性を有するとともに、耐汚染性に優れる塗膜が形成でき、さらには塗膜の膨れ、剥れ等の発生を防止することができる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】外層がガラス転移温度20〜100℃のカルボキシル基含有アクリル樹脂であって、内層に環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂及びガラス転移温度−60〜20℃のアクリル樹脂を含む多層構造型合成樹脂エマルション(A)、カルボキシル基と反応可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び顔料及び/または骨材(C)を必須成分とし、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し(B)成分を0.1〜50重量部含み、顔料容積濃度が3〜80%となる範囲内で(C)成分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性塗料組成物及びその塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構造物等の躯体を構成する基材のうち、コンクリート、モルタル等のセメント系基材は、基材自体の収縮、基材への荷重等の影響により、経時的にひび割れを生じる場合がある。また、軽量コンクリート板、気泡コンクリート板、サイディングボード等の建材では、建材どうしの継目部分が温度、湿度等の変化によって変位しやすい性質を有している。このような基材に対しては、弾性塗膜を形成させることが有効である。
【0003】
弾性塗膜は、基材の変位に追従することができ、躯体内部への水の浸入を防止する効果を発揮することもできる。このような弾性塗膜は各種の弾性塗材によって形成することができる。代表的な弾性塗材としては、JIS A6909に規定されている防水形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(防水形複層塗材E)等が挙げられる。この防水形複層塗材Eは、下塗材、主材、及び上塗材の3種の材料からなるものである。このうち上塗材は、最表面の化粧材として用いられるもので、種々の色彩による美観性に加え、耐候性、弾性等の性能が要求される。
【0004】
特開平5−194911号公報(特許文献1)には、弾性上塗材の結合材として、ポリジメチルシロキサン等のシリコン成分を含有するアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを使用することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−194911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献に記載の上塗材では、耐汚染性において十分な物性が得られ難い。特に、弾性を高めようとすれば汚染物質が染み込みやすくなり、一度汚染物質が付着すると、塗膜表面からその汚れを除去することが困難となる場合が多い。このような問題は、自動車等からの排出ガスによって大気中に油性の汚染物質等が浮遊している都心や都市近郊部において顕著であり、塗膜の美観性を大きく損ねてしまう要因となっている。また、上述の特許文献の上塗材では、経時的に塗膜に膨れや剥れが発生するおそれがあり、下地への密着性等の点においても改善の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みなされたものであり、下地の変位に追従可能な弾性を有するとともに、耐汚染性に優れる塗膜が形成でき、さらには塗膜の膨れ、剥れ等の発生を防止することができる水性塗料組成物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、外層がカルボキシル基含有アクリル樹脂であり、その中に特定のシリコーン樹脂とアクリル樹脂を内包する多層構造型合成樹脂エマルションを結合材とし、この結合材と反応可能な架橋剤を併用するとともに、顔料容積濃度を特定範囲に設定した水性塗料組成物に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.外層がガラス転移温度20〜100℃のカルボキシル基含有アクリル樹脂であって、内層に環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂及びガラス転移温度−60〜20℃のアクリル樹脂を含む多層構造型合成樹脂エマルション(A)、カルボキシル基と反応可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び顔料及び/または骨材(C)を必須成分とし、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し(B)成分を0.1〜50重量部含み、顔料容積濃度が3〜80%となる範囲内で(C)成分を含むことを特徴とする水性塗料組成物。
2.顔料容積濃度が30〜80%であり、形成塗膜の鏡面光沢度が40以下である1.記載の水性塗料組成物。
3.建築物または土木構造物の基材に対し、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、1.または2.記載の水性塗料組成物を塗付することを特徴とする塗装方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性塗料組成物は、下地の変位に対する追従性と、耐汚染性の両性能において優れた性能が発揮できるものである。さらに、塗膜の膨れ、剥れ等の発生を防止することができ、長期にわたり美観性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本発明の水性塗料組成物における多層構造型合成樹脂エマルション(A)(以下「(A)成分」という)は、外層がガラス転移温度20〜100℃のカルボキシル基含有アクリル樹脂であって、内層に環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂及びガラス転移温度−60〜20℃のアクリル樹脂を含むものである。本発明では、結合材としてこのような(A)成分を使用することにより、耐汚染性と下地への追従性の両性能を具備する塗膜が形成可能となる。(A)成分における外層と内層の重量比率は、通常80:20〜20:80、好ましくは70:30〜30:70である。
【0013】
(A)成分の外層にカルボキシル基を生成させるためには、外層を構成するモノマーとしてカルボキシル基含有モノマーを使用すればよい。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。カルボキシル基含有モノマーの使用量は、(A)成分の樹脂固形分に対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。このようなカルボキシル基は、(A)成分の安定性向上に寄与するとともに、後述の(B)成分との相互作用により、塗膜の膨れ、剥れ等の発生を防止する役割等を担うものである。
【0014】
(A)成分の外層は、上記カルボキシル基含有モノマーと(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じその他のモノマーとの共重合体である。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。その他のモノマーとしては、例えばアミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、水酸基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー等が挙げられる。このうち、(メタ)アクリル酸エステルの1種としてt−ブチル(メタ)アクリレートを含むことにより、下地塗膜(特に弾性塗膜)への密着性が高まり、塗膜の膨れや剥れをより確実に防止することができる。
【0015】
(A)成分の外層のガラス転移温度(以下「Tg」という)は、通常20〜100℃、好ましくは30〜90℃である。外層のTgがこのような範囲よりも低すぎる場合は、耐汚染性において十分な物性を得ることができず、逆に高すぎる場合は、下地への追従性が低下してしまう。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。
【0016】
(A)成分の内層には、環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂と、Tg−60〜20℃のアクリル樹脂を含む。本発明では、(A)成分の内層がこのような特定2種の樹脂によって構成されることにより、耐汚染性を低下させることなく、下地への追従性において優れた性能を発揮することができる。(A)成分の内層がこれら樹脂の一方のみで構成される場合は、耐汚染性と下地への追従性を両立することが困難となる。内層におけるシリコーン樹脂とアクリル樹脂の重量比率は、通常70:30〜1:99、好ましくは60:40〜3:97である。
【0017】
このうち、シリコーン樹脂は、環状シロキサン化合物を重合して得られるものである。環状シロキサン化合物としては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。このような環状シロキサン化合物を重合する際には、直鎖状シロキサン化合物、分岐状シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等を用いることもできる。このうち、アルコキシシラン化合物としては、分子中に1個以上のアルコキシル基を有するシラン化合物が使用でき、例えばテトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等の他、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が使用できる。シリコーン樹脂の平均分子量は、通常10000以上、好ましくは50000以上である。
【0018】
(A)成分の内層を構成するアクリル樹脂のTgは−60〜20℃(好ましくは−50〜10℃)に設定する。このTgが低すぎる場合は、耐汚染性が不十分となり、高すぎる場合は下地への追従性が低下してしまう。(A)成分の内層を構成するアクリル樹脂は、Tgがこのような範囲内となるように、(メタ)アクリル酸エステルと必要に応じその他のモノマーを共重合体して得ることができる。
【0019】
(A)成分の内層におけるこれら2種の樹脂の形態は特に限定されず、相互に均一に混ざり合った形態であってもよく、シリコーン樹脂が内部・アクリル樹脂が外部に存在する形態、アクリル樹脂が内部・シリコーン樹脂が外部に存在する形態、アクリル樹脂中にシリコーン樹脂が分散した形態、シリコーン樹脂中にアクリル樹脂が分散した形態等であってもよい。
【0020】
(A)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂の水分散物の存在下で、内層を構成するアクリル樹脂を乳化重合により合成した後、外層を構成するアクリル樹脂を乳化重合により合成する方法等を採用することができる。
乳化重合を行う際の乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、両イオン性乳化剤等を用いることができる。これらは重合性不飽和基を有する反応性タイプであってもよい。(A)成分における乳化剤としては、これら乳化剤の1種または2種以上を適宜用いることができるが、通常はアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いればよい。具体的に乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ロジン酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルスルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル(アリール)硫酸エステル塩等のアニオン性乳化剤;ラウリルトリアルキルアンモニウム塩、ステアリルトリアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩、第1級〜第3級アミン塩、ラウリルピリジニウム塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、或は、ラウリルアミンアセテート等のカチオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等のノニオン性乳化剤;カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸型、イミダゾリン誘導体型等の両性界面活性剤;エレミノールJS−2(三洋化成工業製)、エレミノールRS−30(三洋化成工業製)、ラテムルS−180A(花王製)、アクアロンHS−05(第一工業製薬製)、アクアロンRN−10(第一工業製薬製)、アデカリアソープSE−10N(旭電化製)等の反応性乳化剤等が挙げられる。
【0021】
本発明では、上述の成分に加え、カルボキシル基と反応可能な官能基を有する架橋剤(B)(以下「(B)成分」という)を使用する。本発明では、このような(B)成分を使用することにより、塗膜の膨れ、剥れ等の発生を防止することができる。さらに、塗膜表面の粘着性が軽減され、耐汚染性が高まる。
【0022】
(B)成分における、カルボキシル基と反応可能な官能基としては、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。このうち、本発明では特にエポキシ基が好適である。
エポキシ基を有する反応性化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。この他、エポキシ基含有モノマーの重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)からなる水溶性樹脂やエマルションを挙げることもできる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0023】
(B)成分の混合量は、使用する(B)成分の反応性の程度等にもよるが、通常(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し0.1〜50重量部、好ましくは0.3〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。(B)成分が0.1重量部よりも少ない場合は、塗膜の膨れ、剥れ等を防止する効果や、耐汚染性向上効果が不十分となる。(B)成分が50重量部よりも多い場合は、下地への追従性、塗料安定性等に悪影響を与えるおそれがある。
【0024】
本発明組成物では、顔料及び/または骨材(以下「(C)成分」という)を混合することにより、塗膜強度が高まり、塗膜の膨れ・剥れ防止、下地への追従性向上等を図ることができる。勿論、様々な色彩を付与したり、艶の程度やテクスチャー等を調整することもできる。
(C)成分としては、一般的に塗料に配合可能なものを使用することができる。このうち顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料等の着色顔料、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、陶土、チャイナクレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪石粉、珪藻土、酸化アルミニウム、樹脂ビーズ等の体質顔料等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これら顔料の粒子径は通常50μm未満(好ましくは40μm以下)である。
【0025】
一方、骨材としては、自然石、自然石の粉砕物等の天然骨材、及び着色骨材等の人工骨材から選ばれる少なくとも1種以上を好適に使用することができる。具体的には、例えば、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、石灰石、珪石、珪砂、砕石、雲母、珪質頁岩、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、ゴム粒、貝殻片、木片、プラスチック片等が挙げられる。これらに着色処理を施したものも使用できる。このような骨材の2種以上を適宜組み合せて使用することにより、種々の多色模様を表出することができる。骨材の粒子径は通常0.05〜5mm程度である。
【0026】
(C)成分は、顔料容積濃度が3〜80%(好ましくは5〜60%、より好ましくは10〜50%)となる範囲内で混合する。顔料容積濃度が3%より小さい場合は、膨れ、剥れ等が発生しやすくなり、着色性、隠ぺい性の点においても不利である。顔料容積濃度が80%よりも大きな場合は、塗膜に割れが発生しやすくなる。(C)成分として顔料のみを使用する場合は、顔料容積濃度を3〜60%(好ましくは5〜55%、より好ましくは10〜50%)とすることが望ましい。
【0027】
なお、本発明における顔料容積濃度は、塗膜の全容積中に占める(C)成分容積(顔料と骨材の合計容積)の百分比であり、塗料を構成する各成分の配合割合と比重に基づき算出される値である。
【0028】
本発明では、顔料容積濃度を上記範囲内で高く設定することにより、弾性タイプの艶消し塗料を得ることができる。このような場合、顔料容積濃度は30〜80%(好ましくは35〜60%、より好ましくは40〜55%、さらに好ましくは40〜50%)に設定すればよい。
【0029】
なお、ここに言う「艶消し」とは、一般に艶消しと呼ばれるものの他に、3分艶、5分艶等と呼ばれるものも包含する。具体的に、本発明では、鏡面光沢度によって艶を規定することができる。上述の艶消し塗料における鏡面光沢度は、通常40以下、好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。艶消し塗料の艶の調整は、艶消し塗料に配合する体質顔料の種類、粒子径、混合比率等によって適宜調整することができる。
ここで、鏡面光沢度とは、JIS K5600−4−7「鏡面光沢度」に準じて測定される値である。具体的には、ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて塗料を塗り、塗面を水平に置いて温度23℃・相対湿度50%下で48時間乾燥したときの鏡面光沢度(測定角度60度)を測定することによって得られる値である。
【0030】
このような艶消し塗料においては、吸油量60ml/100g以下(好ましくは50ml/100g以下)の(C)成分が、顔料成分全体の50体積%以上(好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上)となるように調製することが望ましい。このような調製により、下地への追従性を十分に確保することが可能となり、耐汚染性の点でも好適である。なお、吸油量(ml/100g)とは、JIS K 5101−13−2:2004に規定されている方法によって求められる値であり、粉粒体100gに対する煮アマニ油のmlで表されるものである。
【0031】
本発明組成物においては、上述の成分の他に通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、造膜助剤、分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消泡剤、吸着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、繊維、触媒等が挙げられる。本発明組成物は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。このうち、造膜助剤としては、例えばエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、ベンジルアルコール等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。分散剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸誘導体塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0032】
本発明組成物は、主に建築物や土木構造物等の塗装に使用することができるものである。適用可能な基材としては、例えば、石膏ボード、合板、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、ALC板、サイディング板、押出成形板、鋼板、プラスチック板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、既に壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。また、これら基材に、防水形複層塗材E主材(JIS A6909)等の合成樹脂エマルション系弾性塗材(以下単に「弾性塗材」ともいう)を塗装することで、下地を形成しておいてもよい。本発明組成物は、このような合成樹脂エマルション系弾性塗材の塗膜上に積層した場合であっても、十分な追従性、密着性等を発揮することができる。なお、ここに言う合成樹脂エマルション系とは、結合材として合成樹脂エマルションを使用したことを意味するものである。
【0033】
上述のような弾性塗材は、その形成塗膜の、JIS A6909の「20℃時の伸び試験」による伸び率が通常120%以上(好ましくは120%〜800%)の値を示すものであり、構成成分として合成樹脂エマルションを必須成分として含み、さらに体質顔料、各種添加剤等を含有するものである。このうち、合成樹脂エマルションとしては、例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらは架橋反応型合成樹脂エマルションであってもよい。合成樹脂エマルションのTgは、通常−50〜30℃程度である。なお、弾性塗材における合成樹脂エマルションとして、上述の(A)成分を使用することもできる。
【0034】
弾性塗材は、例えばリシンガン、万能ガン、ローラー、刷毛等を用いて塗装することができる。塗装は数回に分けて行ってもよい。塗装時には水を用いて弾性塗材を希釈することもできる。水の混合量は、使用する塗装器具、所望の塗面形状等に応じて適宜設定すればよい。
弾性塗材の塗付量は、通常は1〜5kg/m程度である。弾性塗材の塗面形状としては、例えば平滑状、ゆず肌状、吹付タイル状、さざ波状等が可能である。
【0035】
本発明では、上述の如き基材または弾性塗膜等に本発明組成物を塗付することによって塗膜が得られる。本発明組成物の塗付方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り等が可能である。建材を工場内で塗装する場合は、ロールコーター、フローコーター等によって塗装することも可能である。
本発明組成物を塗装する際の塗付量は、塗料の種類や用途により適宜選択すればよいが、グロスエナメルやフラットペイントの場合は通常0.1〜0.5kg/m程度である。塗付時には、水等で希釈することによって、塗料の粘性を適宜調整することもできる。希釈割合は、通常0〜20重量%程度である。本発明組成物を塗装した後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0037】
(塗料の製造)
表1に示す配合に従い、各原料を常法により混合・攪拌することによって塗料を製造した。原料としては下記のものを使用した。
【0038】
・樹脂1:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂と内層アクリル樹脂の重量比18:82、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中)
【0039】
・樹脂2:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;メチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂と内層アクリル樹脂の重量比18:82、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中)
【0040】
・樹脂3:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、
外層と内層の重量比50:50、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中)
【0041】
・樹脂4:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、
外層と内層の重量比50:50、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中)
【0042】
・樹脂5:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,ダイアセトンアクリルアミド、メタクリル酸)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂と内層アクリル樹脂の重量比18:82、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中)
【0043】
・樹脂6:アクリル樹脂エマルション(Tg12℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸、固形分50重量%、カルボキシル基含有モノマー3重量%(固形分中))
【0044】
・架橋剤1:エポキシ基含有化合物(ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル)
・架橋剤2:ヒドラジン化合物(アジピン酸ジヒドラジド)
・顔料1:酸化チタン(平均粒子径0.2μm、比重4.2、吸油量13ml/100g)
・顔料2:重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm、比重2.7、吸油量15ml/100g)
・顔料3:シリカ粉(平均粒子径18μm、比重2.7、吸油量10ml/100g)
・顔料4:珪藻土(平均粒子径9μm、比重2.3、吸油量170ml/100g)
・骨材:粒子径0.1〜2mmの着色骨材混合物(白色:灰色:黒色=3:3:1、比重2.7、吸油量5ml/100g未満)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤(固形分30重量%)
・増粘剤:ポリウレタン系増粘剤(固形分30重量%)
・消泡剤:シリコン系消泡剤(固形分50重量%)
【0045】
(試験方法)
(1)鏡面光沢度
ガラス板(150mm×150mm)に、フィルムアプリケーターを用いて各塗料を塗付し、標準状態で48時間乾燥させた後、光沢度計(日本電色工業株式会社製)を用いて、60度鏡面光沢度を測定した。
【0046】
(2)耐水性試験
予めシーラー処理を施したスレート板(150×70×3mm)に、JIS A6909:2003に規定される防水形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材主材(顔料体積濃度50%、20℃時の伸び率300%)を、塗付量2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥後、各塗料を塗付量0.3kg/m(実施例6は塗付量1kg/m)でスプレー塗装して試験体を作製した。標準状態で14日間養生後、作製した試験体を50℃の温水に24時間浸漬した後、塗膜表面の状態を目視にて観察した。評価は、異常発生(膨れ・剥れ)の程度を確認することにより行い、異常が全く発生しなかったものを「◎」、異常がほとんど発生しなかったものを「○」、異常が部分的に発生したものを「△」、異常が著しく発生したものを「×」とした。
【0047】
(3)耐湿潤冷熱繰返し性試験
予めシーラー処理を施したスレート板(150×70×3mm)に、JIS A6909:2003に規定される防水形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材主材(顔料体積濃度50%、20℃時の伸び率300%)を、塗付量2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥後、各塗料を塗付量0.3kg/m(実施例6は塗付量1kg/m)でスプレー塗装して試験体を作製した。標準状態で14日間養生後、作製した試験体をJIS K 5660 6.14に準じ、23℃の水中に18時間浸した後、直ちに−20℃に保った恒温槽にて3時間冷却し、次に50℃に保った別の恒温槽で3時間加温した。この操作を10回繰り返した後、標準状態に約1時間置いて、塗膜表面の状態を目視にて観察した。評価は、異常発生(割れ・膨れ・剥れ)の程度を確認することにより行い、異常が全く発生しなかったものを「◎」、異常がほとんど発生しなかったものを「○」、異常が部分的に発生したものを「△」、異常が著しく発生したものを「×」とした。
【0048】
(4)耐汚染性試験
予めシーラー処理を施したスレート板(150×70×3mm)に、各塗料を塗付量0.3kg/m(実施例6は塗付量1kg/m)でスプレー塗装して試験体を作製した。標準状態で14日間養生後、試験体を水平に置き、その塗膜表面に汚れ成分(黒色硅砂)を散布して2時間放置し、次いで試験板を垂直に立てた後、汚れ成分の残存の程度を確認した。評価は、汚れが除去されたものを「◎」、汚れが著しく残存したものを「×」とする4段階評価(優:◎>○>△>×:劣)で行った。
【0049】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。実施例1〜6では、いずれの試験においても優れた結果を得ることができた。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層がガラス転移温度20〜100℃のカルボキシル基含有アクリル樹脂であって、内層に環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂及びガラス転移温度−60〜20℃のアクリル樹脂を含む多層構造型合成樹脂エマルション(A)、カルボキシル基と反応可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び顔料及び/または骨材(C)を必須成分とし、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し(B)成分を0.1〜50重量部含み、顔料容積濃度が3〜80%となる範囲内で(C)成分を含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
顔料容積濃度が30〜80%であり、形成塗膜の鏡面光沢度が40以下である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
建築物または土木構造物の基材に対し、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、請求項1または請求項2記載の水性塗料組成物を塗付することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2008−7738(P2008−7738A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268240(P2006−268240)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】