説明

水性塗料組成物

【課題】建築物の内外壁面、また家庭用一般の塗装に有用な水性塗料組成物であって、塗面の均一性が高く、耐久性等に優れた塗膜を形成できると共に意匠性も付与できる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】塗装に用いられる塗料組成物において、柔細胞細胞壁を含むことを特徴とする水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一性が高く、耐久性等に優れた塗膜を形成できると共に、意匠性も付与できる水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保存性を向上させるため、また意匠性を高めるために、金属、コンクリート、プラスチック、木材等の各種基材の表面を改質するための塗装が行われている。塗装に用いられる塗料としては油性塗料が多く用いられてきた。油性塗料は、皮膜を形成させるための樹脂、色材としての有機・無機染顔料、各種添加剤を有機溶媒に溶解あるいは分散して用いられている。有機溶媒はキシレンなどが用いられ、塗料の流動性を調整すると共に、基材への親和性を与えことから基材に対する浸透性、密着性が得られる。その結果、薄い塗膜でも耐久性が得られるなどの利点がある。
【0003】
しかし、近年の環境への意識の高まりとも相まって、有機溶剤の使用についての見直しが行われている。一方で水性塗料の技術改良も進み、基材に対する浸透性も確保され、有機溶剤などの専用のうすめ液も必要とせず、臭気も少なく、作業性も良く、さらに作業後の処理も簡単であるといった利点からも、油性塗料から水性塗料への転換が進んでいる。しかし既存の油性塗料の成分を単純に水性に置き換えても、塗膜性能、塗装性、塗料安定・貯蔵性が良好な塗料は得られない。
【0004】
近年、材料面からの改良が加えられ、十分な実用レベルにあるが、作業性、経済性の面から、水性塗料においても塗料の使用量を減らす方向にある。すなわち、塗膜が薄くても、基材への浸透性、密着性が確保されると共に、温度・湿度、あるいは光などに対する塗膜の耐久性が得られることが望まれてきている。
【0005】
水性塗料の耐久性を向上させるため種々の提案がなされている。水性塗料に用いられる水性塗料組成物に特徴を持たせる提案として、フッ素樹脂水性エマルション、脂肪酸変性ポリウレタン樹脂、光重合性不飽和基を含有するアルコキシシラン化合物などのポリマーに耐久性を持たせる方法、水硬化性の無機粉を体質顔料として用いる方法、添加剤に金属微粒子または雲母微粒子を含むガラス微粒子、微細繊維を用いる方法がある(例えば、特許文献1〜5)。また、着色水性塗料の塗膜上にクリヤ塗料として硬化塗膜を形成するラジカル重合型塗料を塗装するなど保護層を設ける方法等があるが、まだ十分ではない(例えば、特許文献6)。これらの耐久性を上げる材料を使用し、更に耐久性が向上する材料を水性塗料組成物に加えることができれば、塗装回数を最小限にする事が可能となる。また、いろいろな種類の塗料に添加剤として適用することができれば、より簡便であり、かつより高い耐久性を得ることができる。
【0006】
一方、塗料の意匠性を上げることができれば、顧客の要望にも広く応えることができる。これまで、 湿度の変化によって色調が変化する物質を含有させたシリカゲルを添加する方法、銀を鍍金したガラスフレーク顔料を添加する方法、フォトクロミック物質及び光輝性顔料を含有させる方法などが提案されているが、いずれも意匠性のみを目的とした材料を使用している(例えば、特許文献7〜10)。
【特許文献1】WO2004/072197号パンフレット
【特許文献2】特開2006−52295号公報
【特許文献3】特開平11−158419号公報
【特許文献4】特開平5−161869号公報
【特許文献5】特開平10−95922号公報
【特許文献6】特開平8−151219号公報
【特許文献7】特開平9−300461号公報
【特許文献8】特開2006−233046号公報
【特許文献9】特開2006−206760号公報
【特許文献10】特開平7−258585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建築物の内外壁面、また家庭用一般の塗装に有用な水性塗料組成物であって、塗膜の均一性が高く、耐久性等に優れた塗膜を形成でき、併せて意匠性も持たせることができる水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため検討した結果、塗装に用いられる水性塗料組成物において、柔細胞より得られる柔細胞細胞壁を含むことを特徴とする水性塗料組成物、更に、塗装に用いられる水性塗料組成物において、色相を調整した柔細胞細胞壁を含むことを特徴とする水性塗料組成物により、課題が達成できることを見出した。更に柔細胞細胞壁がサトウキビまたはサトウダイコン由来であることが好ましく、また柔細胞細胞壁の懸濁安定性が30%以上であることが好ましいことも見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、柔細胞細胞壁を含む水性塗料組成物を用いることにより、塗膜の均一性が高く、耐久性等に優れた塗膜を形成できる。また、柔細胞細胞壁の色相を調整することにより、塗料に意匠性を同時に付与することもできる。また、柔細胞細胞壁は、植物由来であり環境に優しい素材であると共に、サトウキビ、サトウダイコンの搾汁粕に豊富に含まれていることから、従来の廃棄物の有効利用を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる柔細胞細胞壁(以下、柔細胞壁と表記する)とは、植物の茎や葉、果実等に存在する柔細胞を主体とした部分を、アルカリで処理する等して得られる多糖類を主成分とした網目状の構造を有する物質である。柔細胞は主に一次細胞壁からなり、二次細胞壁が発達していない特徴を有する。
【0011】
植物の茎や葉、果実等に存在する柔細胞を得るためには、茎の内部柔組織や葉の葉肉、果実等を粉砕するなどすればよいが、工業的には食品加工工場や製糖工場等から排出される、果実からのジュースの搾り粕やサトウダイコン、サトウキビ等からの搾汁粕を用いるのが環境面からも好ましい。例えば、サトウダイコンの搾汁粕を利用する際には、粉砕した根を搾汁し、残さの粕をそのまま利用することができる。サトウキビの搾汁粕を利用する際には、搾り粕であるバガスを適当な大きさに粉砕し、目開き1〜2mmのふるいを通過させることにより柔細胞を多く含む部分を得ることができる。本発明に用いられる柔細胞はサトウダイコン、サトウキビ由来のものが好ましく用いられる。
【0012】
本発明において、柔細胞から柔細胞壁を得るためには植物組織を個々の細胞に分離した上で、細胞壁成分以外の細胞構成成分を除去することが必要である。そのためには、木材からパルプを製造する際のパルプ化処理を適用することができる。例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリと混合、加熱してリグニンを分解除去するクラフトパルプ化法やソーダパルプ化法を用いることができる。詳細なパルプ化処理条件は、原料の性状や目的とする柔細胞壁の性状、収率等を鑑みて適宜決定すればよい。一般に、二次細胞壁が発達している細胞壁を得るよりも低い温度、少ない薬品量で細胞壁を得ることができる。アルカリを洗浄後、必要に応じて漂白処理を行ない、洗浄して柔細胞壁の懸濁液を得ることができる。
【0013】
パルプ化処理により得られた柔細胞壁は、そのままでも使用可能だが、分散処理することにより、比表面積が大きくなり、且つ均一性が高くなるため好ましい。分散処理には、リファイナー、ビーター、ビーズミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で粉砕、均一化する超音波破砕器、柔細胞壁懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより柔細胞壁にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
【0014】
柔細胞壁の好ましい分散処理の目安は、懸濁安定性が30%以上であり、好ましくは50%以上である。ここで、懸濁安定性が30%以上とは、0.1質量%濃度の柔細胞壁懸濁液をメスシリンダーなどに入れて24時間静置したときに、柔細胞壁の沈降面より下の懸濁液の体積が全体の体積の30%以上になることである。懸濁安定性が高い程、分散性が高いと言える。この懸濁安定性は柔細胞壁の大きさと関係しており、柔細胞壁が均一に細かくなっているもの程その懸濁液の安定性は高い。懸濁安定性が30%未満では、分布状態にむらができやすく、その結果、柔細胞壁相互の水素結合形成が弱く、耐久性が低下したり、塗膜の均一性が低下する傾向がある。
【0015】
柔細胞は植物組織中では、立方体乃至は直方体に近い形状をしており、木材パルプなどの木繊維やリンターなどの種子毛繊維、コウゾ、ミツマタ、麻、黄麻、亜麻などの樹皮繊維、マニラ麻などの葉繊維を構成する繊維形状を有する細胞とは全く異なる。これらの繊維形状の細胞の細胞壁は主に二次細胞壁からなり、柔細胞の細胞壁の10〜100倍程度の厚みがある。そのため、細胞壁を取り出すには多くの薬品やエネルギーが必要であり、また分散処理を施すにも強いせん断力を必要とし、大きなエネルギーを消費する。そのため柔細胞を用いる場合よりも設備やエネルギーを要する点で効率が悪い。原料となる柔細胞からパルプ化処理等により柔細胞中の細胞質と細胞壁中の構成成分の一部が消失し、扁平な座布団状の形状を有している柔細胞壁が得られる。この柔細胞壁を分散処理することにより、大きさ50〜500μm、好ましくは200〜300μmの断片に粉砕することができる。ここで言う大きさとは、繊維長測定装置(FS−200、カヤーニ社製)を用いて、柔細胞壁の大きさを測定した際に、長さ加重平均繊維長として測定される値である。
【0016】
本発明の水性塗料組成物は、意匠性を高めるため、水性塗料組成物の色材の色相と同じ色相に調整した柔細胞壁、または水性塗料組成物の色材の色相とは異なる色相に調整した柔細胞壁を選択して用いることができる。
【0017】
本発明に係わる柔細胞壁の色相を調整する方法としては、通常のパルプ繊維に用いられる漂白方法、染色方法が用いられる。白さを調整するためには酵素漂白、酸素漂白、塩素漂白等の漂白方法が必要に応じて使用できる。具体的にはアルカリセルラーゼ活性、アルカリリパーゼ活性を有する酵素、過酸化水素、塩素、二酸化塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化チオ尿素、ハイドロサルファイト、オゾン等を用いる。漂白程度を調整することにより白さを調整することができる。
【0018】
一方、本発明に用いられる柔細胞壁の染色方法としては、各種染料と必要に応じて助剤を用いて、pH等を調整するなど通常の染色方法が用いられる。染料としては、「新版 染料便覧」((社)有機合成化学協会編、丸善株式会社、1970年7月20日)に記載されている各種染料が適宜使用可能である。例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、酸性媒染料、金属錯塩染料、硫化染料、可溶性バット染料、アゾイック染料、分散染料、反応染料、酸化染料、蛍光増白染料など各種染料を単独または併用して使用できる。染色濃度は特に制限はないが、柔細胞壁質量に対し、0.01〜10質量%の範囲で用いるのが適当である。
【0019】
本発明に係わる柔細胞壁を用いることで増粘効果も得られる。これは、柔細胞壁が高い水親和性を有しているためであると想像される。一般の水性塗料組成物では、増粘剤、沈降防止剤としてヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース等が使用されるが、これらは高い吸水性、保水性のため塗膜の耐水性が低下したり、乾燥性が劣ったりする。これに対し、本発明の柔細胞壁を用いた水性塗料組成物は、優れた増粘効果が得られると共に、乾燥すると水に分散しなくなり、塗膜の耐水性が低下しない特徴がある。また、沈降防止効果があるため、乾燥性が低下することもない。
【0020】
本発明の水性塗料組成物に用いられるポリマーとしては、水溶性または水分散性の皮膜形成性ポリマーが用いられる。例えば、デンプン類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド/アクリル酸エステル/メタクリル酸3元共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩、エチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩等の水溶性ポリマー、またポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリル酸又はメタクリル酸エステル共重合体、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体、アクリル酸メチル/ブタジエン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン/塩化ビニリデン共重合体、ポリ塩化ビニリデン等のラテックスなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
更に、本発明の水性塗料組成物には硬化剤を配合してもよく、かかる硬化剤としてはメラミン樹脂例えばメトキシメチロールメラミン、ブトキシメチロールメラミン、メトキシブトキシメチロールメラミン等のアルコキシメチロールメラミン等、ブロック化(ポリ)イソシアネート等、エポキシ樹脂等があげられる。
【0022】
本発明の水性塗料組成物に用いられる色材としては、一般に使用される着色染顔料が用いられるが耐候性の面から着色顔料が好ましい。顔料としては一般の無機顔料・有機顔料が用いられる。色によっては、耐アルカリ性を有するハンザイエロー、フタロシアニングリーン等の有機顔料でもよい。黒く着色する場合には、カーボンブラック等、赤系の場合には、酸化鉄、モリブデンレッド、ベンガラ等、緑系の場合には酸化クロム、クロムグリーン等、青系の場合にはシアニンブルー等、白系の場合には二酸化チタン等が例示できる。必要によりアルミ顔料ペースト等の金属もしくは金属酸化物からなるリン片状等の顔料を使用してもよい。着色顔料は粒径50μm以下に混練したものが好ましい。色材は水性塗料組成物の全固形分中において15質量%までの割合で配合される。
【0023】
本発明の水性塗料組成物に用いられる添加剤としては、例えば顔料分散性、塗装作業性及び保存性等を良好なものとするための分散剤、消泡剤、ポリカルボン酸系、ポリエチレングリコール系、セルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系等の増粘剤、アルミ粉末等の各種の金属粉、防腐剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料分散剤またはレベリング剤、また塗膜の成膜性を向上させるための成膜助剤等が挙げられる。
【0024】
本発明の水性塗料組成物に用いられる充填剤としては炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、雲母質顔料等の無機顔料、有機顔料が挙げられる。この充填剤の形状は粒形、針状、紡錘、球形等使用用途によって適時選択することができる。これらの充填剤はもろさの改良及び増量のため配合されるものであり、粒径50μm以下に混練したものが好ましい。50μmを越えると、得られる塗膜の反射率、平滑性が低下するため好ましくない。充填剤は水性塗料組成物の全固形分中において10〜80質量%の割合で配合される。これはこの範囲において塗膜の緻密性、もろさ及び耐久性その他を改善する効果が大きいからであり、更に好ましくは20〜60質量%配合される。
【0025】
本発明の水性塗料組成物を製造するにあたっては、柔細胞壁と、ポリマー、硬化剤、色材、充填剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、可塑剤、成膜助剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤など、種々様々な塗装目的に対して自由に選択、組合せ、通常の塗料製造方法を用いることができる。
【0026】
本発明による水性塗料組成物は、合成樹脂、金属、ガラス、陶磁器、紙、木材、皮革、さらに軽量コンクリート、軽量気泡コンクリート、モルタル、硅酸カルシウム板、スレート板、石膏ボード等への水性塗料に使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0028】
柔細胞壁の製造例1
サトウダイコンの搾り粕からなる市販のビートパルプを10L容のオートクレーブに投入した。液比4、有効アルカリ添加率14質量%となるように水酸化ナトリウムを混合し、保持温度120℃、保持時間30分の条件で処理した。ろ過による洗浄後、試料濃度8質量%とし、試料に対して有効塩素濃度2質量%となるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて攪拌し、室温で8時間漂白した後、ろ過により洗浄した。これにより白色度を調整したサトウダイコン柔細胞由来の柔細胞壁懸濁液が得られた。
【0029】
得られた柔細胞壁懸濁液を0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞壁の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は20%であった。
【0030】
柔細胞壁の製造例2
柔細胞壁の製造例1で得られた柔細胞壁懸濁液を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で45秒間循環処理して分散処理し、柔細胞壁懸濁液を作製した。
【0031】
得られた柔細胞壁懸濁液を0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞壁の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は32%であった。
【0032】
柔細胞壁の製造例3
サトウキビを脱葉し約50cmの長さに切りそろえた沖縄産サトウキビの茎をケインセパレーター(アムケイン社製)で処理した。得られたフレーク状の茎内部を、スクリュープレスで圧搾した後、10L容のオートクレーブに投入した。液比4、有効アルカリ添加率14%となるように水酸化ナトリウムを混合し、保持温度120℃、保持時間30分の条件で処理した。ろ過による洗浄後、試料濃度8質量%、有効塩素濃度2質量%となるように次亜塩素酸ソーダを加えて攪拌し、室温で8時間漂白した後、ろ過により洗浄した。これにより白色度を調整したサトウキビ柔細胞由来の柔細胞壁懸濁液を得た。
【0033】
得られた柔細胞壁懸濁液を0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞壁の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は11%であった。
【0034】
柔細胞壁の製造例4
柔細胞壁の製造例3で得られた柔細胞壁懸濁液を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で10分間循環処理し、分散処理した柔細胞壁懸濁液を作製した。
【0035】
得られた柔細胞壁懸濁液を0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞壁の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は55%であった。
【0036】
実施例1
柔細胞壁の製造例1で得られたサトウダイコンの柔細胞壁懸濁液から、2質量%の懸濁液を調整した。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に、2質量%柔細胞壁懸濁液5mlを加え十分撹拌し、柔細胞壁を含有する水性塗料組成物を得た。
【0037】
実施例2
柔細胞壁の製造例2で得られたサトウダイコンの柔細胞壁懸濁液から、2質量%の懸濁液を調整した。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に、2質量%柔細胞壁懸濁液5mlを加え十分撹拌し、柔細胞壁を含有する水性塗料組成物を得た。
【0038】
実施例3
柔細胞壁の製造例3で得られたサトウキビの柔細胞壁懸濁液から、2質量%懸濁液を調整した。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に2質量%柔細胞壁懸濁液5mlを加え十分撹拌し、柔細胞壁を含有する水性塗料組成物を得た。
【0039】
実施例4
柔細胞壁の製造例4で得られたサトウキビの柔細胞壁懸濁液から、2質量%懸濁液を調整した。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に2質量%柔細胞壁懸濁液5mlを加え十分撹拌し、柔細胞壁を含有する水性塗料組成物を得た。
【0040】
比較例1
柔細胞壁を加えない市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)を比較例1の水性塗料組成物とした。
【0041】
比較例2
市販の微小繊維状セルロース(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業(株)製)の2質量%懸濁液を調製した。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(マーブル色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に2質量%微小繊維状セルロース懸濁液5mlを加え十分撹拌し、微小繊維状セルロースを含有する水性塗料組成物を得た。
【0042】
評価1
実施例1で得られた水性塗料組成物を用い、刷毛で木製梯子の中央より左に2度塗りで塗装した。実施例2で得られた水性塗料組成物を用い、同様にして木製梯子の中央より右に塗装した。比較例1の水性塗料組成物を用い、同様に木製梯子全体を2度塗りで塗装した。比較例2の水性塗料組成物を用い、同様に木製梯子全体を2度塗りで塗装した。これらの木製梯子を屋根のない屋外に置き、放置し、塗装表面の状態を経時観察した。約6ヶ月後、比較例1の柔細胞壁を加えていない水性塗料組成物で塗装した木製梯子と比較例2の微小繊維状セルロースを加えた水性塗料組成物で塗装した木製梯子の縦板と横板(踏み板)との接合部では、いずれも塗装皮膜の剥がれが観察された。柔細胞壁を加えた実施例1及び2の水性塗料組成物で塗装した木製梯子の塗装皮膜では、変化が見られなかった。
【0043】
懸濁安定性が20%の柔細胞壁を含有する実施例1の水性塗料組成物の塗装皮膜は、懸濁安定性が32%の柔細胞壁を含有する実施例2の水性塗装組成物の塗層皮膜に比べ、若干の塗装ムラと塗装皮膜の凹凸が認められた。以上の評価結果より、柔細胞壁を入れた水性塗料組成物の塗装皮膜では塗装の耐久性が優れており、柔細胞壁の懸濁安定性が高い程、塗装皮膜の均一性が高いことが分かる。
【0044】
評価2


実施例3で得られた水性塗料組成物を用い、刷毛で木製梯子の中央より左に2度塗りで塗装した。実施例4で得られた水性塗料組成物を用い、同様にして木製梯子の中央より右に塗装した。比較例1の水性塗料組成物を用い、同様に木製梯子全体を2度塗りで塗装した。比較例2の水性塗料組成物を用い、同様に木製梯子全体を2度塗りで塗装した。これらの木製梯子を屋根のない屋外に置き、放置し、塗装表面の状態を経時観察した。約6ヶ月後、比較例1の柔細胞壁を加えていない水性塗料組成物で塗装した木製梯子と比較例2の微小繊維状セルロースを加えた水性塗料組成物で塗装した木製梯子の縦板と横板(踏み板)との接合部では、塗装皮膜の剥がれが観察された。柔細胞壁を加えた実施例3及び4の水性塗料組成物で塗装した木製梯子の塗装皮膜では、変化が見られなかった。
【0045】
懸濁安定性が11%の柔細胞壁を含有する実施例3の水性塗料組成物の塗装皮膜は、懸濁安定性が55%の柔細胞壁を含有する実施例4の水性塗装組成物の塗層皮膜に比べ、若干の塗装ムラと塗装皮膜の凹凸が認められた。以上の評価結果より、柔細胞壁を入れた水性塗料組成物の塗装皮膜では塗装の耐久性が優れており、柔細胞壁の懸濁安定性が高い程、塗装皮膜の均一性が高いことが分かる。
【0046】
実施例5
柔細胞壁の製造例1で得られた柔細胞壁懸濁液からの2質量%懸濁液を調整した。これにコンゴーレッドの1質量%水溶液を加え、4時間撹拌して赤色に染色した柔細胞壁を得た。市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(透明色)、(株)カンペハピオ製)100ml(固形分50質量%)に、染色後の2%柔細胞壁懸濁液7mlを加え十分撹拌し、染色した柔細胞壁を含有する水性塗料組成物を得た。
【0047】
比較例3
柔細胞壁を加えない市販のアクリル系合成樹脂水性塗料(商品名:ハピオカラー(透明色)、(株)カンペハピオ製)を比較例3の水性塗料組成物とした。
【0048】
評価3
実施例5で得られた水性塗料組成物と比較例3の水性塗料組成物を用い、刷毛でプラスチックシートの左右別々に、2度塗りで塗装した。実施例5で得られた赤色に染色した柔細胞壁を含有した水性塗料組成物による塗装は、薄い赤色がちりばめられ状態で視認でき、意匠性が確認できた。評価1と同様に、屋根のない屋外に放置する試験を行ったが、実施例5の水性塗料組成物の塗層皮膜の耐久性が、比較例3の水性塗料組成物の塗層皮膜の耐久性よりも優れていた。耐久性の良好な塗装皮膜が得られると同時に、意匠性の高い塗装を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の水性塗料組成物の活用例としては、土木・建築用水性塗料、家庭用水性塗料、工業用水性塗料等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装に用いられる水性塗料組成物において、柔細胞細胞壁を含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
塗装に用いられる水性塗料組成物において、色相を調整した柔細胞細胞壁を含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項3】
柔細胞細胞壁がサトウキビまたはサトウダイコン由来である請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
柔細胞細胞壁の懸濁安定性が30%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。

【公開番号】特開2008−179666(P2008−179666A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12522(P2007−12522)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】