説明

水性塗料組成物

【課題】 塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性、仕上り性及び長期間の防食性に優れる水性塗料組成物を見出すこと。
【解決手段】
カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)、並びにリン酸基含有分散用樹脂(C)、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)及びを含有する水性塗料組成物であって、カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、リン酸基含有分散用樹脂(C)0.1〜30質量部、亜鉛末(D)5〜200質量部、導電性フィラー(E)0.1〜100質量部、トリアゾール化合物(F)0.1〜30質量部含有してなる水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性、仕上り性及び長期間の防食性に優れる水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般に多量の亜鉛末を含有する塗料は、亜鉛の犠牲防食の効果を利用して防食性に優れる塗膜を得ることができる。
【0003】
しかし有機溶剤を用いた塗料であることから、常に火災の危険がつきまとい、さらに使用者の健康への影響、環境への影響が懸念され、低VOC規制(揮発性有機化合物、Volatile Organic Compounds)やHAPs(有害性大気汚染物質、Hazardous Air Pollutants)規制によって使用が制限されている。このような背景から塗料の水性化が求められている。
【0004】
しかし従来、水性塗料において高防食塗膜を得る目的で、多量の亜鉛末を配合すると、塗料の凝集物が塗料槽の喫水部に固着したり、フィルターを閉塞させる等の塗料安定性に問題が生じたり、仕上り性を低下させることがある。一方、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性や仕上り性を確保するために、亜鉛末の配合量を減らすと防食性が不十分であった。
【0005】
従来、樹脂成分100質量部に対して、亜鉛末50〜86質量部及び導電性カーボンブラック1〜10質量部を配合してなる黒色亜鉛末塗料組成物が開示されている(特許文献1)。上記の特許文献1は、溶媒として有機溶剤を用いた塗料に関し、実施例にもメチルエチルケトンやキシレンが多量に使用されており、揮発性有機化合物の規制に適合できるものでない。
【0006】
他に、珪素系無機結合剤、亜鉛末および潤滑剤を主成分として配合してなる防錆塗料組成物に関する発明が開示されている(特許文献2)。上記の特許文献2の発明は、溶媒として有機溶剤を用いることを前提としており、揮発性有機化合物の低減を目的とした水性塗料に関するものではなく、多量の亜鉛を水性塗料に適用することについての対策の記載もない。
【0007】
また、亜鉛末及びエポキシ樹脂のリン酸エステル及び水酸基含有樹脂のリン酸エステルからなる群から選ばれた少なくとも1種のリン酸エステル樹脂を含有する亜鉛末含有水系組成物が開示されている(特許文献3)。特許文献3では、多量の亜鉛末を塗膜中に含有させた高防食性の塗膜であるが、仕上り性や塗料安定性を損う。
【0008】
また、電着塗料の基体樹脂と硬化剤の固形分合計100質量部に対して、リン酸基
含有分散用樹脂で分散した亜鉛粉末を1〜100質量部含有する電着塗料に関する発明が開示されている(特許文献4)。特許文献4は、水性塗料である電着塗料に亜鉛粉末を適用した発明であるが、防食性が不十分であり、高防食性を得るためには、さらに多量の亜鉛粉末を配合する必要があるため、塗料安定性や仕上り性を大幅に損う。
【0009】
また、エポキシ含有重合体とリン含有酸基を含む化合物との反応生成物である樹脂結合剤、硬化剤、亜鉛等の導電性顔料を含む組成物で、該組成物を塗装して得られた塗膜が防食性良好で、さらに該塗膜上に溶接可能な特徴を有する組成物に関する発明が開示されている(特許文献5)。特許文献5に記載の亜鉛等の導電性顔料は、防食性の向上にも効果があるが、亜鉛等の導電性顔料を水性塗料に多量に用いると塗料安定性や仕上り性を損う。
【0010】
また、水性アルキド樹脂及び水性エポキシエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の水性樹脂50〜95重量部と水性メラミン樹脂5〜50重量部との合計100重量部に対して、トリアゾール化合物0.3〜15重量部及びカルシウム化合物で変性されたリン酸塩系又は亜リン酸塩系の防錆顔料5〜50重量部が含有されていることを特徴とする水性塗料組成物が開示されている(特許文献6)。特許文献6の水性塗料組成物は、トリアゾール化合物をアルミニウム鋼板及びアルミニウム合金メッキ鋼板に一般部及び端面であるエッジ部の耐食性、耐水性の向上に用いているものの、防食性が不十分で、さらなる向上が求められていた。
【0011】
他に、亜鉛と導電性フィラーをリン酸基含有分散用樹脂を用いて分散してなる亜鉛分散ペースト、基体樹脂及び架橋剤を含有する水性塗料であって、基体樹脂と架橋剤の固形分合計100質量部に対して、亜鉛を10〜500質量部及び導電性フィラーを0.1〜100質量部の範囲で配合してなる水性塗料が開示されている(特許文献7)。特許文献7に記載の塗料は、特に塗装ライン等の連続的な設備において塗料を連続的に使用して塗料攪拌や循環及び濾過等の機械的なシェアが加わると、塗料凝集物が塗料槽の喫水部に固着したり濾過設備を閉塞させるなどの問題点があり、また得られた塗装物品においてはブツが発生したり、チリ肌状になる等の仕上り性を著しく低下させるという問題があった。
【0012】
上記の特許文献1〜7においては、塗料安定性、特に塗料連続使用時の安定性、仕上り性及び長期間の防食性の少なくともいずれかに問題点があった。
【0013】
【特許文献1】特開平6−49393号公報
【特許文献2】特開平8−73777号公報
【特許文献3】特開平11−124520号公報
【特許文献4】特開2004−51686号公報
【特許文献5】特開2004−529223号公報
【特許文献6】特開2002−121469号公報
【特許文献7】特開2006−143809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする課題は、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性、仕上り性及び長期間の防食性に優れる水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸基含有分散用樹脂、亜鉛末、導電性フィラー、トリアゾール化合物、必要に応じてカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子を含有する水性塗料組成物によって、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性、仕上り性及び長期間の防食性に優れる塗膜を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性塗料組成物は、揮発性有機化合物の低減(低VOC化)でき、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性に優れる。さらに、仕上り性及び長期間の防食性に優れる金属部材を得ることができる。
【0017】
本発明の水性塗料組成物は、トリアゾール化合物を配合することによって、塗膜における亜鉛の溶出量を制御(いわゆる塗膜に徐放性を付与)できるため、長期間に亘って防食効果が持続し、特に、暴露耐食性に優れた塗膜が得られる。さらに塗膜中に亜鉛とカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子を含有することによって、いっそうの防食性の向上を図ることができる。
【0018】
上記のような効果が得られる理由は、トリアゾール化合物を配合することによって亜鉛の溶出量を制御できたことから、従来に比べて亜鉛の配合量を減らしても同等かそれ以上の防食性を確保できる。従来に比べて亜鉛の配合量を減らせることから、塗料安定性の向上を図ることができた。さらに、従来に比べて亜鉛の配合量を減らせることから、仕上り性に優れた塗装物品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)、リン酸基含有分散用樹脂(C)、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)、必要に応じてカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(G)を含有する水性塗料組成物である。以下、詳細に説明する。
【0020】
カチオン性エポキシ樹脂(A):
本発明の水性塗料組成物に用いるカチオン性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂に、カチオン性基含有化合物を付加してなる樹脂である。
【0021】
エポキシ樹脂は、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えばエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
該エポキシ樹脂の形成のために用い得るポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式
【0022】
【化1】

【0023】
(ここでn=0〜8で示されるものが好適である。)。
【0024】
エポキシ樹脂は、一般に180〜2,500、好ましくは200〜2,000であり、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有することができ、また、一般に少なくとも200、特に400〜4,000、さらに特に800〜2,500の範囲内の数平均分子量を有するものが適している。
【0025】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、同左1002、同左1004、同左1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0026】
またエポキシ樹脂は、可塑化変性されていても良く、可塑化変性剤としてはエポキシ樹脂との相溶性があり、かつ疎水性のものが好ましい。可塑変性量としては、エポキシ樹脂100質量部に対し3〜200質量部、さらには10〜100質量部が好ましい。
【0027】
前記、カチオン性基含有化合物は、上記のエポキシ樹脂中に、カチオン性基を導入して水分散化又は水溶性化するためのカチオン性基含有化合物である。カチオン性基含有化合物としてのアミノ基含有化合物は、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミンなどのジ−アルキルアミン;ジエタノールアミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジンなどの環状アミンなどが挙げられる。
【0028】
カチオン性基含有化合物としてのオニウム塩基含有化合物は、例えばアンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基が挙げられ、これらはエポキシ基に3級アミンや2級サルファイドなどのモノカルボン酸とともに反応させることにより得られる。本発明においては、防食性や塗料安定性の面からオニウム塩基含有化合物を用いることが好適である。
【0029】
カチオン性エポキシ樹脂(A)の製造において、エポキシ樹脂に対する、アミノ基含有化合物やオニウム塩基含有化合物などのカチオン性基含有化合物の配合割合は、厳密に制限されるものではなく、水性塗料の用途に応じて適宜変えることができるが、エポキシ樹脂とカチオン性基含有化合物の固形分合計を基準にして、エポキシ樹脂が60〜95質量%、好ましくは65〜90質量%、カチオン性基含有化合物が5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%の範囲がよい。
【0030】
上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。上記の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0031】
架橋剤(B):
カチオン性エポキシ樹脂(A)における架橋剤(B)としては、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂などが用いられる。本発明の水性塗料組成物においては、ポリイソシアネート化合物とブロック剤とのほぼ化学量論的に等量での付加反応生成物であるブロック化ポリイソシアネート化合物が、塗膜の硬化性や防食性などの面から好ましい。
【0032】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック剤でブロックして得られる。ポリイソシアネート化合物としては、従来から知られているものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(通常「MDI」と呼ばれる)、クルードMDI、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイシアネート化合物の環化重合体、イソシアネートビゥレット体;これらのポリイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物などを挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
上記ブロック剤は、遊離のイソシアネート基を封鎖するものであり、例えば100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱すると、水酸基と容易に反応することができる。
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチルなどのフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコールなどの脂肪族アルコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノールなどのエーテル系;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチルなどのグリコール酸エステル;乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアルコール系;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミンなどアミン系;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素などの尿素系;N−フェニルカルバミン酸フェニルなどのカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリなどの亜硫酸塩系などが挙げられる。
【0034】
他に、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−ニトロ−3,5−ジメチルピラゾールおよび4−ブロモ−3,5−ジメチルピラゾールなどのピラゾール系等が挙げられる。この中でも好ましいブロック剤は、3,5−ジメチルピラゾールである。
【0035】
メラミン樹脂は、トリアジン核1個あたりメチロール基が平均3個以上メチルエーテル化されたメラミン樹脂や、そのメトキシ基の一部を炭素数2個以上のモノアルコールで置換したメラミン樹脂であって、さらにイミノ基を有した親水性メラミンが好適に使用できる。
【0036】
メチロール化アミノ樹脂は、メラミンとアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂があげられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等がある。また、このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基の一部又は全部をモノアルコールによってエーテル化したものも使用できる。エーテル化に用いられるモノアルコールとしてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノールなどが挙げられる。
【0037】
市販品として、例えば、このような条件を満たすメラミン樹脂は、サイメル202,サイメル232,サイメル235,サイメル238,サイメル254,サイメル266,サイメル267,サイメル272,サイメル285,サイメル301,サイメル303,サイメル325,サイメル327,サイメル350,サイメル370,サイメル701,サイメル703,サイメル736,サイメル738,サイメル771,サイメル1141,サイメル1156,サイメル1158など(以上、日本サイテック社製)、ユーバン120,20HS,2021,2028,2061(以上、三井化学社製)の商品名で市販されている。
【0038】
なお本発明の水性塗料組成物において、カチオン性エポキシ樹脂(A)に対する架橋剤(B)の配合割合は、カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、カチオン性エポキシ樹脂(A)/架橋剤(B)=95/5(質量部)〜50/50(質量部)、好ましくはカチオン性エポキシ樹脂(A)/架橋剤(B)=90/10(質量部)〜55/45(質量部)、さらに好ましくはカチオン性エポキシ樹脂(A)/架橋剤(B)=88/12(質量部)〜60/40(質量部)であることが、塗料安定性、特に塗料連続使用時における、安定性の向上の為によい。
【0039】
リン酸基含有分散用樹脂(C):
リン酸基含有分散用樹脂(C)は、−OPO(OR)(OH)・・式(1)
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数4〜10の炭化水素基である)で示されるリン酸基を含有する樹脂である。
このリン酸基含有分散用樹脂(C)は、4級アンモニウム塩基や3級スルホニウム塩基などのカチオン性基を含有することが好ましい。
上記、リン酸基含有分散用樹脂(C)は、例えば、−OPO(OR)(OH)で
示されるリン酸基を含有する重合性単量体及びその他の重合性単量体との共重合反応
によって得られる。
【0040】
リン酸基含有重合性単量体は、1分子中に、−OPO(OR)(OH)・・式(1)
(式中、Rは水素原子又は炭素数4〜10の炭化水素基である)で示されるリン酸基と重合性二重結合をそれぞれ1個以上有する化合物であり、例えば、モノブチルホスフェ−ト(HO)PO(OC)やモノイソデシルホスフェート(HO)PO(OC1021)などのホスフェートに含まれる酸性ヒドロキシル基1個に、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有重合性モノマーを反応することによって得ることができる。
【0041】
リン酸基含有重合性単量体としては、(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキプロピル)アシッドホスフェートなども使用できる。
【0042】
その他の重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸と炭素数1〜24のモノアルコールとのエステル化物等のアクリルエステル系モノマー; (メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2〜10のグリコールとのモノエステル化物等の水酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルと3級アミンまたは2級スルフィドとモノカルボン酸との反応物等のオニウム塩基含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、ビニルトルエン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0043】
リン酸基含有分散用樹脂(C)は、上記のリン酸基を含有する重合性単量体及びその他の重合性単量体をそれ自体既知の溶液重合法などにより、重合開始剤の存在下で重合せしめることにより調製することができる。
【0044】
重合反応におけるこれらの重合性単量体の構成比率は目的に応じて任意に選択でき、特に制限されないが、例えば、リン酸基含有重合性単量体及びその他の単量体の合計量を基準に、リン酸基含有重合性単量体は1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、その他の重合性単量体は70〜99質量%、好ましくは80〜95質量%の範囲内が適している。
【0045】
リン酸基含有分散用樹脂(C)の数平均分子量(注1)は、3,000〜100,000、好ましくは5,000〜50,000、特に好ましくは5,000〜30,000の範囲内であり、リン酸基に基づく酸価は20〜140mgKOH/g、特に40〜120mgKOH/g、カルボキシル基に基づく酸価は100mgKOH/g以下、水酸基価は120mgKOH/g以下、特に15〜100mgKOH/gの範囲内がそれぞれ適している。
【0046】
(注1)数平均分子量:JIS K 0124−83に準じて行ない、分離カラム
にTSK GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL(東ソー社製)を用いて40℃で流速1.0ml/分、溶離液にGPC用テトラヒドロフランを用いて、RI屈折計で得られたクロマトグラムと標準ポリスチレンの検量線から計算により求めた。
【0047】
リン酸基含有分散用樹脂(C)としては他に、エポキシ樹脂とモノブチルホスフェートやオルトリン酸との反応生成物、グリシジル基含有アクリル樹脂とモノブチルホスフェートやオルトリン酸との反応生成物、スチレンとアリルアルコールとの重合体とオルトリン酸との反応生成物、ポリカプロラクトンのリン酸エステルなども使用できる。エポキシ樹脂とモノブチルホスフェートやオルトリン酸との反応によりリン酸基含有エポキシ樹脂が得られる。
【0048】
出発材料として用いられるエポキシ樹脂としては、塗膜の防食性等の観点から、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。エポキシ樹脂の数平均分子量としては1,000〜10,000、さらには2,000〜5,000が好ましい。かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、同左1002、同左1004、同左1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。上記エポキシ樹脂はそのまま使用しても構わないが、勿論、可塑化変性されたエポキシ樹脂を使用しても良い。
【0049】
亜鉛末(D):
亜鉛末(D)は、具体的には、亜鉛末、亜鉛粉末(JIS K 8031)、亜鉛粉、ジンクダスト等が使用でき、あらかじめ表面処理(例えば、シリカ処理、リン酸処理、クロム酸処理、脂肪酸処理、ポリマー処理)を施したものであってもよい。市販品として、亜鉛末MCS、亜鉛末#F(以上、堺化学工業社製)、亜鉛末LS−2、亜鉛末LS−5、亜鉛末LS−30(以上、三井金属化学工業社製)が挙げられる。
【0050】
導電性フィラー(E):
導電性フィラー(E)としては、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素系粉末、ニッケル、銀などの金属粉末、酸化ニッケル、酸化チタンなどの酸化金属粉末、珪化ジルコニウム、珪化チタンなどの珪化金属、窒化ジルコニウム、窒化チタンなどの窒化金属、硼素化ジルコニウム、硼素化チタン、硼素化タングステンなどの硼化金属、炭化ジルコニウム、炭化チタン(平均粒子径1〜10μm)、炭化タングステン(平均粒子径1〜10μm)などの炭化金属、チタン酸カリウムなどのアルカリ金属などの粉末が挙げられる。
【0051】
上記、炭素系粉末の具体例としては、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JD(以上、ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック)、バルカンXC−72、バルカンXC−605(以上、キャボット社製、商品名、ファーネスブラック)、RPシリーズ及びAGBシリーズ(以上、伊藤黒鉛工業社製、商品名、黒鉛)、黒鉛粉SP−10、SP−20、HAG−15、HAG−150、HAG−300(以上、日本黒鉛社製、商品名、黒鉛)、人造黒鉛POG−2、POG−10、POG−20(以上、住友化学社製、商品名、黒鉛)等を挙げることができる。
【0052】
炭素系粉末以外には、デントールBK−400(大塚化学社製、商品名、チタン酸カリウム、導電性ウィスカー)、ET−500W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、ET−600W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、ET−300W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−1000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−2000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−3000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、(以上、石原産業社製、商品名)、ナノテック酸化アルミニウム、ナノテック酸化亜鉛、ナノテック酸化セリウム、ナノテック酸化チタン(以上、シーアイ化成社製、商品名)、ニッケル微粉末 タイプ110、ニッケル微粉末 タイプ210、ニッケル微粉末 タイプ210H、フィラメント状ニッケルパウダー タイプ255、フィラメント状ニッケルパウダータイプ287、ニッケル被覆カーボンファイバー、ニッケル被覆グラファイト(以上、インコ・リミテッド社製、商品名)、アルブリッド AG035FN(銀被覆フレーム状粉末)、アルブリッド AG016SN(銀被覆球状粉末)、ニッケルフレークNI−100、ニッケルフレークNI−A、ニッケルフレークNI−400、カッパフレーク(以上、東洋アルミニウム社製、商品名)、23−K(白水テック社製、商品名、導電性酸化亜鉛)などが挙げられる。
【0053】
導電性フィラー(E)の効果としては、塗膜中の亜鉛末(D)同志を導通して亜鉛末(D)の防食性の効果を高め、素材と塗膜界面の腐食抑制に寄与する。このことから水性塗料組成物に配合する亜鉛末(D)の配合量を減らすことができ、塗料安定性や仕上り性の向上に寄与する。
【0054】
トリアゾール化合物(F):
本発明の水性塗料組成物において、トリアゾール化合物(F)を配合することによって、亜鉛末(D)の活性を抑制して塗料安定性の向上に寄与し、かつ得られた塗膜においては、塗膜中の亜鉛の溶出量を制御(いわゆる徐放性を付与できる)できる。
【0055】
このようなトリアゾール化合物(F)としては、例えば、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、6−メチル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、6−フェニル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、5−ヒドロキシ−7−メチル−1,3,8−トリアザインドリジンなどが挙げられる。なかでも3−アミノ−1,2,4−トリアゾールが防食性や塗料安定性、仕上り性及び長期間の防食性の面から好適である。
【0056】
トリアゾール化合物(F)の効果は、水性塗料組成物においては、水性塗料組成物中での亜鉛の溶出量の抑制にあらわされ、攪拌や循環及び濾過等の機械的なシアが加わっても、トリアゾール化合物(F)を含む水性塗料組成物は、凝集してフィルターを閉塞することがない。得られた塗膜においては、亜鉛の溶出量を制御し(いわゆる塗膜に徐放性が付与され)、長期間に亘って防食性に優れた塗膜が得られる。特に、暴露耐食性に優れた塗膜となる。
【0057】
本発明の水性塗料組成物において、塗料中の亜鉛末(D)の配合量は、カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、亜鉛末(D)を5〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜180質量部がよい。
【0058】
導電性フィラー(E)の配合量は、基体樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、導電性フィラー(E)を0.1〜100質量部、好ましくは1〜70質量部、さらに好ましくは5〜50質量部がよい。トリアゾール化合物(F)の配合量は、基体樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、0.1〜30質量部、好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは2〜20質量部がよい。
【0059】
さらに、トリアゾール化合物(F)は、基体樹脂と硬化剤とともに水分散してなるエマルションに配合するのに比べて、顔料分散ペーストから添加する方が塗料安定性に優れることを見出した。
【0060】
リン酸基含有分散用樹脂(C)の配合量は、基体樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、リン酸基含有分散用樹脂(C)を0.1〜30質量部、好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは2〜10質量部がよい。
亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)及びトリアゾール化合物(F)の配合量は、上記範囲であることが、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性に優れ、かつ仕上り性及び長期間の防食性に優れた塗膜を得るために好ましい。
【0061】
カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(G):
本発明のアニオン電着塗料組成物は、防食性の向上を目的として、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(G)(以下、「イオン交換シリカ(G)」と略称することがある)を含有することができる。イオン交換シリカ(G)は、微細な多孔質のシリカ担体にイオン交換によってカルシウムイオンが導入されたシリカ微粒子である。
【0062】
なお、塗膜中に配合されたイオン交換シリカ(G)は、塗膜を透過してきた水素イオンなどとイオン交換を行い、その結果、カルシウムイオンCa2+が放出されて金属表面を保護するものと考えられる。水性塗料組成物において、亜鉛末(D)とイオン交換シリカ(G)を併用することによって、亜鉛末(D)の配合量を減しても高い防食性を維持することが可能で、塗料安定性と仕上り性の向上に寄与するものである。
【0063】
上記イオン交換シリカの市販品としては、シールデックスC303(富士デビィソン社製)、SHIELDEX AC−3、SHIELDEX AC−5(以上、いずれもW.R.Grace & Co.社製)などを挙げることができる。
【0064】
本発明において、イオン交換シリカ(G)の配合量は、基体樹脂(A)と架橋剤(B)との合計100質量部に対して、1〜200質量部、好ましくは3〜150質量部、さらに好ましくは5〜100質量部の範囲内である。
【0065】
イオン交換シリカ(G)の配合量は、上記範囲であることが、塗料安定性、特に塗料連続使用時の塗料安定性に優れ、かつ仕上り性及び長期間の防食性に優れた塗膜を得るために好ましい。
【0066】
[水性塗料組成物の製造について]
なお本発明の水性塗料組成物の製造は、(1).カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)、トリアゾール化合物(F)及び中和剤(注2)と水を加えて水分散して得られた「エマルション」と、リン酸基含有分散用樹脂(C)を用いて、亜鉛末(D)と導電性フィラー(E)、適宜にイオン交換シリカ(G)やその他の顔料(注3)、硬化触媒、界面活性剤等を加え、前練り混合を行い、次いでボールミル、サンドミルなどで分散して、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、適宜にイオン交換シリカ(G)及びその他の顔料などを粒径0.1〜15μm、好ましくは0.5〜10μmに分散して得られる「顔料分散ペースト」とを配合し、脱イオン水で希釈して、固形分が5〜35質量%、好ましくは8〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%の水性塗料組成物を得る方法;。
【0067】
(2).カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)及び中和剤(注2)と水を加えて水分散して得られた「エマルション」と、リン酸基含有分散用樹脂(C)を用いて、亜鉛末(D)と導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)、適宜にイオン交換シリカ(G)やその他の顔料(注3)、硬化触媒、界面活性剤等を加えて前練り混合を行い、次いで残りの、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)、適宜にイオン交換シリカ(G)及びその他の顔料などを加えてボールミル、サンドミルなどで分散してなる、粒径0.1〜15μm、好ましくは0.5〜10μmの「顔料分散ペースト」とを配合し、脱イオン水で希釈して、固形分が5〜35質量%、好ましくは8〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%の水性塗料組成物を得る方法;が挙げられる。
【0068】
(注2)中和剤:酢酸、ギ酸、乳酸等の有機酸を用いる。
【0069】
(注3)その他の顔料:例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化ビスマス水和物、酸化アンチモン等の防錆顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカなどの体質顔料が挙げられる。
【0070】
[水性塗料組成物の塗装]
水性塗料組成物の塗装は、従来から知られている方法、例えば、刷け塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装などにより塗装することができ、それらを任意に組み合わせても良い。
【0071】
例えば、静電塗装は、塗装ブース温度15〜40℃、塗装ブース湿度60〜90%の条件にて、静電塗装機(例えば、ABBカートリッジメタベル)を用いて、ベル回転数20,000〜40,000rpm、好ましくは25,000〜35,000rpmの範囲、かつ吐出量200〜400ml/分(詳しくは、水平部250〜350ml/分、垂直部300〜400ml/分)の範囲で塗装する。静電塗装時の印加電圧としては、−90kV〜−60kVの範囲、吐出圧(SA)は1.0〜2.0kg/cmの範囲がよい。
その膜厚は硬化塗膜で3〜100μm、特に5〜60μmの範囲内が好ましく、その塗膜は100〜200℃、特に130〜180℃で、10〜50分間加熱することにより架橋硬化させることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれによって限定されるものではない。尚、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を示す。
【0073】
製造例1 顔料分散用樹脂溶液No.1の製造
エポキシ当量約700のビスフェノール型エポキシ樹脂700部をエチレングリコールモノブチルエーテル993部に90℃で加熱溶解し、ノニルフェノール110部、チオジエチレングリコール61部および乳酸45部を加え、90℃で酸価2mgKOH/g以下になるまで反応させたのち70℃に冷却し、モノブチルホスフェ−ト77部を加え同温度で1時間熟成して、固形分50%の分散用樹脂溶液No.1を得た。分散用樹脂No.1のリン酸基による酸価は、56.5mgKOH/gであった。
【0074】
製造例2 顔料分散ペーストNo.1の製造
製造例1で得た顔料分散用樹脂No.1を10部(固形分5部)、チタン白15
部、亜鉛末#3(注4)100部、ケッチェンブラックEC(注7)10部、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを5部、シールデックスC303(注10)3部、ジブチル錫オキサイド1部、脱イオン水137部を配合し、20時間ボールミルにて分散を行って固形分50%の顔料分散ペーストNo.1を得た。
【0075】
製造例3〜12 顔料分散ペーストNo.2〜No.10の製造
表1の配合内容とする以外は、製造例3と同様にして、顔料分散ペーストNo.2〜No.10の配合内容を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
(注4)亜鉛末#3:堺化学社製、商品名、亜鉛末
(注5)亜鉛末LS−30:三井金属化学工業社製、商品名、亜鉛末、
(注6)亜鉛末MCS:三井金属化学工業社製、商品名、亜鉛末
(注7)ケッチェンブラックEC:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック
(注8)ET−500W:石原産業社製、商品名、球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆
(注9)23−K:白水テック社製、商品名、導電性酸化亜鉛
(注10)シールデックスC303:富士シリシア化学株式会社製、商品名、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子。
【0078】
製造例13 基体樹脂No.1の製造
反応容器中で、エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名、エポキシ樹脂)1010部に、ビスフェノールA 390部、ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量約1200 )240部、及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量約1090になるまで反応させた。次に、チオジエチレングリコール183部及び酢酸90部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテルを加え、固形分71%の基体樹脂No.1を得た。
【0079】
製造例14 硬化剤の製造例
反応容器中で、コスモネートM−200(三井化学社製、商品名、クルードMDI) 270部及びメチルイソブチルケトン25部を加え70℃に昇温した。その中に2,2−ジメチロールブタン酸15部を徐々に添加し、ついでエチレングリコールモノブチルエーテル118部を滴下して加え、70℃で1時間反応させた後、60℃に冷却し、プロピレングリコール152部を添加した。
この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分90%の硬化剤を得た。
【0080】
製造例15 エマルションNo.1の製造
製造例13で得た固形分71%の基体樹脂No.1を98.6部(固形分70部)、製造例14で得た硬化剤33.3部(固形分30部)、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール5部(固形分5部)を配合し均一に撹拌した後、10%酢酸15部、脱イオン水156.8部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のエマルションNo.2を得た。
【0081】
製造例16 エマルションNo.2の製造
製造例13で得た固形分71%の基体樹脂No.1を98.6部(固形分70部)、製造例14で得た硬化剤33.3部(固形分30部)を配合し均一に撹拌した後、10%酢酸15部、脱イオン水147部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0082】
実施例1
エマルションNo.1を309部(固形分105部)に、顔料分散ペーストをNo.1を262部(固形分131部)、脱イオン水609部を加え、均一に混合して20%の水性塗料No.1を得た。
【0083】
実施例2〜6
実施例1と同様の操作にて、表2のような配合内容にて、水性塗料No.2〜No.6を得た。
【0084】
比較例1〜5
実施例1と同様の操作にて、表2のような配合内容にて、水性塗料No.7〜No.11を得た。
【0085】
【表2】

【0086】
試験板の作成
パルボンド#3020(日本パーカライジング株式会社製、商品名、リン酸亜鉛
処理)を施した冷延鋼板(150mm×70mm×0.8mm)又はパルボンド#3020(日本パーカライジング株式会社製、商品名、リン酸亜鉛処理)を施した合金化亜鉛メッキ鋼板(150mm×70mm×0.8mm)に、水性塗料No.1〜水性塗料No.11をスプレーにて塗装し、150℃で20分間焼付け乾燥して、乾燥膜厚20μmの試験板を得た。得られた試験板を下記の試験条件に従って試験に供した。試験結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
(注11)塗料安定性(1):塗料連続使用時の塗料安定性の代用試験として、各水性塗料3Lを30℃にて攪拌し、4週間後に塗料を400メッシュ金網で濾過して、水性塗料の残渣量を評価した。
◎:濾過残渣が5mg/L未満
○:濾過残渣が5mg/L以上で、かつ濾過残渣が10mg/L以下
△:濾過残渣が10mg/Lを越えて、かつ20mg/L以下
×:濾過残渣が20mg/Lを越える。
【0089】
(注12)塗料安定性(2):塗料連続使用時の塗料安定性の代用試験として、各水性塗料3Lを30℃にて、プランジャーポンプとしてイワタポンプPPS−102(商品名、岩田塗装機社製)を用い、サーキュレーション配管としてテフロン(登録商標)チューブ製の長さ3m、直径0.63cmのものを用いて、30ストローク/分で、各水性塗料3Lをサーキュレーション配管中に72時間循環させた。その後、400メッシュ金網で濾過して、水性塗料の残渣量を評価した。
◎:濾過残渣が5mg/L未満
○:濾過残渣が5mg/L以上で、かつ濾過残渣が10mg/L以下
△:濾過残渣が10mg/Lを越えて、かつ20mg/L以下
×:濾過残渣が20mg/Lを越える。
【0090】
(注13)仕上り性:試験板(素材:冷延鋼板)の表面粗度を、サーフテスト301(株式会社ミツトヨ社製、商品名、表面粗さ測定機)を用いてRa値を測定した。
◎:Ra値が、0.25以下
○:Ra値が、0.25を越えて、かつ0.30未満
△:Ra値が、0.30を越えて、かつ0.35未満
×:Ra値が、0.35を越える。
【0091】
(注14)密着性:試験板(素材:冷延鋼板)に、TP−65−2中塗り塗料を35μm塗装し、140℃−20分間焼付けた。次にネオアミラック6000(白)を35μm塗装し、140℃−20分間焼付けることによって複層の試験板を得た。
上記、複層の試験板を40℃の温水に10日間浸漬して、表面に2mm角のゴバン目のカットを10×10(個)入れ粘着テープにて剥がれの評価を行った。
○:異常なし
△:剥がれはないが、フチ掛けがある
×:剥がれあり。
【0092】
(注15)防食性:試験板(素材:合金化溶融亜鉛メッキ鋼板)の素地に達するように試験板にナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて480時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。 ◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(片側)、
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm以上、かつ3mm未満(片側)、
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上、かつ4mm未満(片側)、
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4mm以上(片側)。
【0093】
(注16)耐ばくろ性:試験板(素材:冷延鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板)の素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、海浜(鹿児島県、沖永良部)曝露を2年間行い錆、フクレを評価した。
◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(片側)
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm以上で、かつ3.0mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mm以上で、かつ4.0mm未満(片側)
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4.0mm以上(片側)。
【産業上の利用可能性】
【0094】
仕上り性及び長期間の防食性に優れる塗装物品が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)、並びにリン酸基含有分散用樹脂(C)、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)を含有する水性塗料組成物であって、
カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、リン酸基含有分散用樹脂(C)0.1〜30質量部、亜鉛末(D)5〜200質量部、導電性フィラー(E)0.1〜100質量部、トリアゾール化合物(F)0.1〜30質量部含有してなる水性塗料組成物。
【請求項2】
カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(G)1〜200質量部を含有してなる請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
カチオン性エポキシ樹脂(A)に対する架橋剤(B)の配合割合が、カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、カチオン性エポキシ樹脂(A)/架橋剤(B)=95/5(質量部)〜50/50(質量部)である請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
カチオン性エポキシ樹脂(A)がオニウム塩を含有するカチオン型エポキシ樹脂であり、架橋剤(B)がブロック化ポリイソシアネート化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
被塗物に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物をスプレー又は静電塗装によって塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項5の塗膜形成方法によって塗装された塗装物品。

















【公開番号】特開2008−50454(P2008−50454A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227249(P2006−227249)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】