説明

水性媒体での腐食防止法

【課題】 冷却水系のような水溶液系と接する金属の腐食を防止する方法を提供する。
【解決手段】 本方法では、ヒドロキシ酸化合物とオルトリン酸とを用いて水溶液系を処理する。好ましくは、ヒドロキシ酸化合物は約1〜49ppmの量で存在し、オルトリン酸は0.1〜1.0ppmの量で存在する。さらに、ポリ(エトキシコハク酸)、追加のヒドロキシ酸及びポリカルボン酸を含む補助剤を水溶液系に添加してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液系と接する金属表面の腐食を低減させるための、水溶液系の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食とそれに付随する孔食のような影響の問題は、長い間水系のトラブルの元であった。例えば、スケールは様々な水系の内壁に堆積する傾向があり、系の作動効率が大きく低下してしまう。こうして、系の熱伝達機能が大きく損なわれる。
【0003】
腐食は、金属とその環境との派生的電気化学反応である。これは精錬金属からその天然の状態への逆反応である。例えば、鉄鉱石は酸化鉄である。酸化鉄は鋼鉄へと精錬される。鋼鉄が腐食すると酸化鉄を生じるが、これは放置しておくと金属の損傷又は破壊を生じ、必要な修理がなされるまでその水系を閉鎖しなければならないことがある。
【0004】
通例、冷却水系では、腐食は孔食とともに系の全体的効率に有害であることが判明している。多くの冷却水系では、系の水と接する金属表面の不動態化を促進すべく、オルトリン酸(oPO4)を系の処理に用いている。しかし、農業用肥料のためのP25鉱石の需要増大のためリン系阻害剤の時価が急騰している。また、米国及び欧州の環境規制は、地域の河川・水路へのリン酸排出に関する制限を強めている。
【0005】
そのため、低又は無リン酸処理プログラムの利用が増大しており、通例比較的高い処理投与量(>50ppm)を要する全又は準有機処理プログラムが有効であると注目されている。残念なことに、このような高レベルの有機処理投与量は、系における生物学的食物(カーボンフットプリント)を増加させ、系に有毒な殺生物剤を供給する必要性が高まる。
【0006】
カーボンフットプリント削減の利点は、2つの異なる観点からみることができる。第1の観点では、カーボンフットプリント削減は、有機阻害剤の合成に必要なエネルギー消費量を節約できる。ここで、生成させる必要のある有機物質の量が少ないほど、水は少なく、排出物は減少する。
【0007】
第2に、生物学的増殖のための食物の生成量の低減によって、微生物活性の抑制に必要な殺生物剤の供給量が減る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5693290号明細書
【特許文献2】米国特許第5183590号明細書
【特許文献3】米国特許第4654159号明細書
【特許文献4】米国特許第5256332号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、水溶液系と接する金属の腐食を防止する方法であって、水溶液系をヒドロキシ酸及びオルトリン酸化合物で処理することを含む方法を提供する。ヒドロキシ酸とオルトリン酸(oPO4は系に添加したものであっても、水中に既に存在するものであってもよい。)を、腐食を防止するための共同処理剤として用いる。さらに、オルトリン酸/ヒドロキシ酸の組合せと共に補助剤化合物を使用することもできる。補助剤は、ポリ(エトキシコハク酸)、第2のヒドロキシ酸化合物及びポリカルボン酸から選択される。多くの場合、オルトリン酸は系の水に既に存在している。処理剤を冷却水系のような水溶液系に添加する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、ヒドロキシ酸を少量のリン酸と併用すると低炭素綱の有効な腐食防止が達成されるという知見を得た。さらに、補助剤成分をヒドロキシ酸/oPO4と併用してもよい。補助剤は、ポリ(エトキシコハク酸)、ポリマレイン酸(PMA)及びポリ酸のような成分であってもよいし、その他のヒドロキシ酸を使用してもよい。処理剤成分は、各成分の低い使用量及び全成分の低い合計濃度で、低炭素綱の保護に有効な性能を達成する。これらの組合せは、冷却塔用途における中乃至高いアルカリ度の循環水条件下で特に有効である。
【0011】
本発明の一態様では、ヒドロキシ酸源としてヒドロキシコハク酸(HSA)を使用してもよい。これらの化合物は、米国特許第5183590号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。この化合物群は以下の式で表されるもの又はそれらの水溶性塩である。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、XはNH又はO又はSであり、
R及びR’はH又はC1〜C6アルキル(OH、COOH、SO3H、フェニルで適宜置換されていてもよい。)、C1〜C6アルキル、シクロアルキル又はフェニル(COOH、OH、SO3Hで適宜置換されていてもよい。)であり、
Yは、i)−(CH2n−(式中、nは2〜10の整数である。)、−(CH22−Z−(CH22−(式中、Zは−O−、−S−、−NR''であって、R''はH、C1〜C6アルキル、カルボキシアルキル、アシル、−COOR'''(R'''はC1〜C6アルキル又はベンジルである。)、及び次式の基
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R’は上記の通りである。)から選択される。)、
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、PはH、C1〜C6アルキル、アルコキシ、ハロゲン、−COOH又は−SO3Hであり、mは独立に0又は1であり、pは0又は1である。)、及び
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Ra及びRbは独立にH又はC1〜C6アルキルであり、QはH又はC1〜C6アルキルであり、sは0、1又は2であり、tは独立に0、1、2又は3であり、rは1又は2である。)からなる群から選択される。化合物の具体例としては、p−キシリレンジヒドロキシコハク酸(diHSA)、m−キシリレンdiHSA、m−フェニレンdiHSA、アンモニアdiHSA、メチルアミンdiHSA、ピペラジンdiHSA、エチレンジアミンdiHSA、ヘキサメチレンdiHSA、ヒドロキシルアミンHSA、ヘキシレングリコールdiHSA及びエチレングリコールdiHSAが挙げられる。
【0020】
本発明の別の実施形態では、ヒドロキシ酸は次式で表される1種以上のヒドロキシカルボン酸化合物である。
【0021】
Q’−(R1)a−(R2)b−(R3)c−COOH
式中、a、b及びcは、a+b+c>0であることを条件として、0〜6の整数であり、R1、R2、及びR3はランダム又はブロック配列の繰返し単位であって、各々C=O又はCY’Z’(式中、Y’及びZ’は、(B1)がその完全な水和形で最低1個のOH基を有するように、独立にH、OH、CHO、COOH、CH3、CH2OH、CH(OH)2、CH2(COOH)、CH(OH)(COOH)、CH2(CHO)及びCH(OH)CHOからなる群から選択されるものである。)から選択される。
【0022】
ポリヒドロキシカルボン酸の具体例としては、D−サッカリン酸、ムチン酸、酒石酸、ケトマロン酸、グルコン酸及びグルコヘプトン酸が挙げられる。
【0023】
本発明の一態様では、水系中に天然に存在する又は系への薬剤注入による低レベルのリン酸を、ヒドロキシ酸と併用すると、腐食を適切に防止できるという知見が得られた。これは、全体的処理プログラムで腐食から有効に保護しながら、環境に好ましい低レベルのリン酸を使用できるという点で重要な意義をもつ。本発明の一態様では、水系中に存在するoPO4とヒドロキシ酸の合計量は50ppm未満である。このoPO4とヒドロキシ酸の組合せで、oPO4は約1ppm以下の量で存在する。
【0024】
リン酸は水系中に天然に存在するものでもよいし、化学添加剤によって添加してもよい。世界の多くの天然水源は、低レベルのo−リン酸(0.2ppmなど)を含んでおり、給水塔の多段サイクル条件下では、塔内のo−リン酸レベルは1ppmに達することもある。このリン酸レベルはそれだけでは腐食から適切に保護するには不十分であるが、本発明者らは、ある種のヒドロキシ酸と併用すると、こうした低レベルのリン酸で妥当な腐食速度が得られるという知見を得た。
【0025】
通例、リン酸は水系中でオルトリン酸に戻る。したがって、本発明で使用し得るオルトリン酸は、オルトリン酸イオンを生成することのできる数多くの供給源のいずれに由来するものであってもよい。かかる供給源としては、無機リン酸、ホスホン酸塩及び有機リン酸エステルが挙げられる。
【0026】
無機リン酸の例としては、縮合リン酸及びその水溶性塩がある。リン酸としては、オルトリン酸、第一リン酸及び第二リン酸が挙げられる。無機縮合リン酸としては、ピロリン酸、トリポリリン酸などのポリリン酸、トリメタリン酸及びテトラメタリン酸などのメタリン酸が挙げられる。
【0027】
添加し得るその他のリン酸誘導体としては、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などのアミノポリホスホン酸、メチレンジホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、2−ホスホノブタン1,2,4−トリカルボン酸などが挙げられる。
【0028】
有機リン酸エステルの具体例としては、メチルリン酸エステル、エチルリン酸エステルなどアルキルアルコールのリン酸エステル、メチルセロソルブ及びエチルセロソルブのリン酸エステル、並びにグリセロール、マンニトール、ソルビトールなどのポリヒドロキシ化合物にエチレンオキシドを付加して得られるポリオキシアルキル化ポリヒドロキシ化合物のリン酸エステルが挙げられる。その他の適切な有機リン酸エステルは、モノ、ジ及びトリエタノールアミンのようなアミノアルコールのリン酸エステルである。
【0029】
無機リン酸、ホスホン酸及び有機リン酸エステルは塩であってもよく、好ましくはアルカリ金属、アンモニア、アミンなどの塩である。オルトリン酸源の具体例の詳細なリストは、米国特許第4303568号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0030】
本発明の一態様では、補助処理成分としてポリ(エトキシコハク酸)を使用してもよい。望ましくは、この化合物は次式のものである。
【0031】
【化5】

【0032】
式中、Mは水素又はカチオンであって、得られる塩は水溶性であり、nは約2〜15であり、各R4は同一又は異なるもので、H、C1〜C4アルキル又はC1〜C4置換アルキルから独立に選択される。
【0033】
現時点でこの群の好ましいものは、約2〜3(平均2〜5)の重合度を有するポリエトキシコハク酸(PESA)である。PESAの使用は、米国特許第4654159号及び同第5256332号に記載されている。その化学的性状はポリ酸として説明することができる。主に付着抑制剤として冷却水の化学処理のため添加されるが、この化学組成は腐食に幾分の効果をもたらすことが認識されている。しかし、ヒドロキシ酸と組合せると、得られる防食性は単独で使用したときから予測できる範囲を超える。
【0034】
代りに挙げることのできる別の補助剤は、PMAのようなポリカルボン酸である。本発明者らは、水性媒体中で重合したPMAが、トルエンやキシレンのような有機溶媒中で重合したものよりも挙動が格段に優れているという知見を得た。例えば、例示的なPMAは、鉄、バナジウム及び/又は銅のような金属イオンの存在下で触媒として過酸化水素を用いて水溶液中でマレイン酸モノマーから重合できる。PMAの一例は、SNF社から市販のMW約630のPMA 2Aである。他の水性PMAとしては、Akzo Nobel社から市販のAquatreat 802(MW≒640)、及びJiangsu Jianghai社から市販の水性PMAが挙げられる。水性PMAは、水性媒体中で重合したものとして定義される。
【0035】
また、上述の通り定義される第2のヒドロキシ酸化合物を補助剤として使用してもよい。
【0036】
通常、ヒドロキシ酸成分とoPO4は約1〜50ppmの合計量で水系に添加され、1種以上の補助剤は約1〜40ppmの量で系に添加又は存在する。一実施形態では、ヒドロキシ酸(1〜約49ppm)と、約1ppmの低レベルPO4と、約1〜40ppmのPESAと約1〜40ppmのPMAの組合せを併用してもよい。好ましい実施形態では、存在する全処理剤成分の合計量は50ppm未満である。
【0037】
本発明は、特に限定されるものではないが、水性媒体のpHが約7〜約9付近(理想的にはpH8)の穏和なアルカリ性である開放再循環冷却系に理想的である。この処理は、冷却塔の消毒のための塩素処理にも安定であると予測される。本発明は、限定されるものではないが、主に低炭素綱の腐食防止のためのものであり、適切な分散剤の存在下で使用すると非常に高硬度の成分を有する水にも適用できる。
【0038】
ヒドロ酸/oPO4及び補助剤の相乗的組合せは、補助的な分散剤又は析出防止剤(threshold agent)と併用してもよい。例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマー、ポリマレイン酸、アクリル酸とヒドロキシプロピルアクリレートとのコポリマー(米国特許第4029577号)、アクリル酸とポリエチレングリコールアリルエーテル(PEGAE)とのコポリマー、カルボキシセルロース、無水マレイン酸とスルホン化スチレンとのコポリマー、ポリアクリルアミド及びコポリマーなどである。上述の分散剤には、これらの物質の酸塩も包含される。ヒドロキシ酸/補助剤の組合せは、従来の水処理剤、すなわち金属イオン封鎖剤、銅腐食阻害剤(N−アルキル1,2,3−トリアゾール、米国特許第4659481号)及び殺生物剤と併用してもよい。
【0039】
処理剤の適用法としては、組合せの各成分を、伝熱用の鉄又は銅合金と接する水系に添加することが挙げられる。上述の通り、oPO4は系に既に存在していてもよい。かかる水系は大抵は、天然水の蒸発によって生成、冷却及び濃縮される。典型的なpH値は6〜9であり、好ましい範囲は7.8〜8.8である。かかる水は、当業者に公知のスケール形成の防止のための付着抑制剤と同時に処理される。一態様では、系のオルトリン酸含量は約0.1〜50ppmのオーダーであり、好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.1〜5ppm、最も好ましくは0.1〜1.0ppmである。
【0040】
最も好ましい方法は、低レベルのオルトリン酸とPESAと2種以上のヒドロキシ酸の組合せを併用するものであり、ヒドロキシ酸のうちの1種は好ましくはサッカリン酸である。この共同処理における好ましい添加量は、o−PO4が0.1〜1pm、ヒドロキシ酸が1〜49ppm、PESAが1〜40ppm、PMAが1〜40ppmである。
【0041】
以下の実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0042】
ビーカー腐食試験装置(BCTA)を用いて腐食試験を行った。この試験は水中での低炭素綱電極の腐食を温度120°Fで18時間評価する。水の化学組成は、工業用冷却塔の水の化学組成を模擬すべく、硬度塩、シリカ及びアルカリ度を加えて変更した。典型的には水の化学組成は以下のものを含む。
【0043】
Ca CaCO3換算で400ppm
Mg CaCO3換算で150ppm
SiO2 SiO2換算で30ppm
Cl Cl換算で283ppm
SO4 SO4換算で450ppm
Mアルカリ度 CaCO3換算で200ppm。
【0044】
水のpHはBCTA試験の開始前に8.0に調整し、試験中はドリフトさせておいた。典型的には、pHは試験中に8.4〜8.6まで上昇した。
【0045】
このMアルカリ度200ppmでo−リン酸0ppmの化学組成の水は、18時間の試験後に典型的には約60ミル毎年(mpy)の腐食速度をもたらし、金属クーポンの外観はひどく孔食・腐食している。o−リン酸6ppmの同じ化学組成の水(市販のリン酸系処理剤に典型的な化学組成)は0.5〜1.0mpyの腐食速度をもたらし、孔食はほとんど又は全くみられなかった。一般に、1.0mpy未満の腐食速度は許容範囲と考えられる。
【0046】
これらの実験で得た以下の表に示すデータは、18時間の実験の終わりに電気化学的線形分極スキャンで得られた軟鋼腐食速度と水中に暴露した低炭素綱クーポンの腐食外観評価を含んでいる。クーポン外観の評価尺度は以下の通りである。
【0047】
【表1】

【0048】
クーポン外観評価が3以上のものは不合格とみなされる。
【0049】
測定した腐食速度に加えて、ヒドロキシ酸とo−リン酸、PESA、PMA又は他のヒドロキシ酸との組合せについて、発明者らは対応する使用量でのこれらの成分の各々で測定される速度から次式を用いて予測腐食速度を計算した。
【0050】
【数1】

【0051】
相乗効果が存在しないときの2成分で得られる耐食性の最悪の事例は、各成分単独での腐食速度の平均値で表される。ここでは、上記の式を用いた格段に厳しい基準の下で相乗効果の閾値を計算する途を選択した。
【0052】
個々の成分の腐食速度が1mpy未満の場合には、腐食速度の計算値は相乗効果の良い尺度とはならないことがある。
【0053】
例1
実験処理
表1のデータは、オルトリン酸とヒドロキシ酸との組合せで観察された耐食性の相乗効果を例示する。例1.1は、6ppmのo−リン酸を8ppmのPESAと組合せた典型的な市販処理剤である。上述の通り、発明者らはこの水処理剤で0.69mpyの腐食速度を得た。例1.2及び1.3は、1又は2ppmのリン酸レベルで腐食速度が劇的に増大しているように、耐食性に対するo−リン酸の影響を示している。このようなリン酸レベルの低下による腐食の増大作用は、クーポン外観の悪化からも観察される。
【0054】
例1.3〜1.5は、o−リン酸の非存在下で8ppmのPESA及びサッカリン酸(SA)量を漸増させたときの性能のレベルを示す。サッカリン酸量が35ppmのときしか、満足できる腐食速度は得られなかった。しかし、これらの溶液に1又は2ppmのo−リン酸を添加すると、対応する無リン酸系水処理剤よりも低い腐食速度が得られる。許容し得る腐食性能に対するサッカリン酸量の閾値は、o−リン酸が存在しないときの35ppmから、2ppmのo−リン酸の存在下での15ppmまで下がる(例1.10)。さらに、観察された腐食速度はサッカリン酸とo−リン酸の組合せの計算値から予測されるよりも低かった。
【0055】
【表2】

【0056】
例2
PESAは分散剤及び付着防止剤として添加されることが多いが、若干の防食性をもつことが知られている。例2.1〜2.3にみられるように、この防食はわずかであり、測定腐食速度よりも腐食クーポンの外観からの方が顕著である。表2のデータは、1ppmのヒドロキシ酸存在下で20又は30ppmのPESAを添加したときと添加していないときの一連の腐食性能を示す。PESAなしでは、サッカリン酸及びムチン酸(例2.4及び2.6)のみが許容し得る腐食性能を示し、その他は、ケトマロン酸(例2.10)で優れたクーポン外観評価が得られたこと以外、すべて性能に劣っていた。これらの化学組成に20ppmのPESAを添加すると耐食性が向上し、計算腐食速度からの予測を超える優れた性能が得られる。グルコン酸及びグルコヘプトン酸では、PESA添加量を30ppmに増加させると、腐食性能が大幅に向上したことが特筆される(例2.14及び2.17)。
【0057】
【表3】

【0058】
例3
PMA(ポリマレイン酸)も付着防止剤として使用されるが、その固有の防食性は認められていない。表3の腐食データは、1ppmのo−リン酸存在下での40ppmのヒドロキシ酸の性能を示すが、ここでは20ppmのPMAを添加したときの効果を示す。幾つかの例(例3.3、3.7、3.9及び3.11)で、ヒドロキシ酸をPMAと組合せた方がヒドロキシ酸単独のときよりも腐食速度が低いことが特筆される。ただし、例3.11及び3.13では腐食速度の計算値の方が測定値よりも低い。
【0059】
【表4】

【0060】
例4
表4のデータは、ヒドロキシ酸の対の相乗効果を示す(すべて1ppmのo−PO4及び10ppmのPESAの存在下)。例4.1〜4.5はサッカリン酸の濃度プロファイルを示す。予想通り、耐食性はサッカリン酸量の増加と共に向上し、許容し得る性能の閾値は20〜30ppmの間に存在する。他のヒドロキシ酸と同様に、ヒドロキシ酸濃度が増すと腐食性能の向上が観察される(酒石酸については例4.6〜4.9、ケトマロン酸については例4.14〜4.17、グルコン酸については例4.21〜4.24、及び例4.28〜4.31)。しかし、これらの酸はサッカリン酸と同様の性能はもたず、いずれも本研究で評価した最大量(40ppm)で許容し得る耐食性は得られない。(ただし、低レベルのケトマロン酸でも、腐食値がかなり高いにもかかわらず外観は驚くほど良好であることを指摘しておく)。
【0061】
サッカリン酸とこれらのヒドロキシ酸との組合せは、1種類のヒドロキシ酸で得られる性能を上回る改善された腐食性能を示し、幾つかの事例では、計算した腐食速度よりも優れた性能として向上した相乗効果を示す。
【0062】
例4.35〜4.40は、ケトマロン酸とグルコン酸又はグルコヘプトン酸との組合せを示す。これらの例では、酸の組合せはそれらの1種類のヒドロキシ酸よりも優れた性能を示すが、得られる腐食速度は、複合腐食速度の計算値と比較して向上した相乗効果を示さない。それでも、ケトマロン酸の場合のように、クーポンの外観についてはこれらの組合せで優れていたことが特筆される。
【0063】
【表5】

【0064】
本発明をその特定の実施形態を参照して説明してきたが、本発明のその他の数多くの形態及び変更は当業者には自明であろう。特許請求の範囲は、このような本発明の技術的思想及び技術的範囲に属する自明な形態及び変更を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液系と接する金属の腐食を防止する方法であって、水溶液系をヒドロキシ酸及びオルトリン酸化合物で処理することを含む方法。
【請求項2】
前記水溶液系を、(B1)ポリ(エトキシコハク酸)、(B2)第2のヒドロキシ酸化合物及び(B3)ポリカルボン酸から選択される補助剤化合物で処理することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシ酸化合物が1〜49ppmの量で存在し、前記オルトリン酸が0.1〜1.0ppmの量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシ酸が、以下に示す式のヒドロキシコハク酸又はその水溶性塩を含む、請求項2記載の方法。
【化1】

式中、XはNH又はO又はSであり、
R及びR’はH又はC1〜C6アルキル(OH、COOH、SO3H、フェニルで適宜置換されていてもよい。)、C1〜C6アルキル、シクロアルキル又はフェニル(COOH、OH、SO3Hで適宜置換されていてもよい。)であり、
Yは、i)−(CH2n−(式中、nは2〜10の整数である。)、−(CH22−Z−(CH22−(式中、Zは−O−、−S−、−NR''であって、R''はH、C1〜C6アルキル、カルボキシアルキル、アシル、−COOR'''(R'''はC1〜C6アルキル又はベンジルである。)、及び次式の基
【化2】

(式中、R’は上記の通りである。)から選択される。)、
【化3】

(式中、PはH、C1〜C6アルキル、アルコキシ、ハロゲン、−COOH又は−SO3Hであり、mは独立に0又は1であり、pは0又は1である。)、及び
【化4】

(式中、Ra及びRbは独立にH又はC1〜C6アルキルであり、QはH又はC1〜C6アルキルであり、sは0、1又は2であり、tは独立に0、1、2又は3であり、rは1又は2である。)からなる群から選択される。
【請求項5】
前記ヒドロキシコハク酸が、p−キシリレンジヒドロキシコハク酸(diHSA)、m−キシリレンdiHSA、m−フェニレンdiHSA、アンモニアdiHSA、メチルアミンdiHSA、ピペラジンdiHSA、エチレンジアミンdiHSA、ヘキサメチレンdiHSA、ヒドロキシルアミンHSA、ヘキシレングリコールdiHSA及びエチレングリコールdiHSAからなる群から選択されるものを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシ酸が、次式の化合物を含む、請求項2記載の方法。
Q’−(R1)a−(R2)b−(R3)c−COOH
式中、a、b及びcは、a+b+c>0であることを条件として、0〜6の整数であり、R1、R2、及びR3はランダム又はブロック配列の繰返し単位であって、各々C=O又はCY’Z’(式中、Y’及びZ’は、前記(B1)がその完全な水和形で最低1個のOH基を有するように、独立にH、OH、CHO、COOH、CH3、CH2OH、CH(OH)2、CH2(COOH)、CH(OH)(COOH)、CH2(CHO)及びCH(OH)CHOからなる群から選択されるものである。)から選択され、Q’はCOOH又はCH2OHである。
【請求項7】
前記ヒドロキシ酸が、D−サッカリン酸、ムチン酸、酒石酸、ケトマロン酸、グルコン酸及びグルコヘプトン酸からなる群から選択されるものである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロキシ酸がD−サッカリン酸である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
B1が存在していて、次式の化合物である、請求項2記載の方法。
【化5】

式中、Mは水素又はカチオンであって、得られる塩は水溶性であり、nは2〜15であり、各R4は同一又は異なるもので、H、C1〜C4アルキル又はC1〜C4置換アルキルから独立に選択される。
【請求項10】
B1が2〜3の重合度を有するポリエトキシコハク酸である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記第2のヒドロキシ酸(B2)化合物が存在し、D−サッカリン酸、ムチン酸、酒石酸、ケトマロン酸、グルコン酸及びグルコヘプトン酸からなる群から選択されるものを含む、請求項2記載の方法。
【請求項12】
前記ポリカルボン酸(B3)が存在し、ポリマレイン酸を含む、請求項2記載の方法。
【請求項13】
0.1〜1.0ppmのオルトリン酸を有する水系における改良腐食防止方法であって、上記水系と接する金属の腐食を防止する有効量の次式のヒドロキシ酸化合物を上記水系に添加することを含む方法。
Q’−(R1)a−(R2)b−(R3)c−COOH
式中、a、b及びcは、a+b+c>0であることを条件として、0〜6の整数であり、R1、R2、及びR3はランダム又はブロック配列の繰返し単位であって、各々C=O又はCY’Z’(式中、Y’及びZ’は、前記(B1)がその完全な水和形で最低1個のOH基を有するように、独立にH、OH、CHO、COOH、CH3、CH2OH、CH(OH)2、CH2(COOH)、CH(OH)(COOH)、CH2(CHO)及びCH(OH)CHOからなる群から選択されるものである。)から選択され、Q’はCOOH又はCH2OHであり、上記ヒドロキシ酸は1〜49ppmの量で存在する。
【請求項14】
前記水系が再循環冷却水系であり、前記ヒドロキシ酸がD−サッカリン酸、ムチン酸、酒石酸、ケトマロン酸、グルコン酸及びグルコヘプトン酸からなる群から選択されるものである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記水系にポリ(エトキシコハク酸)を1〜40ppmの量で添加することをさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記水系にPMAを1〜40ppmの量で添加することをさらに含む、請求項15記載の方法。

【公表番号】特表2012−507628(P2012−507628A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534587(P2011−534587)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/059803
【国際公開番号】WO2010/051141
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】