説明

水性被覆材

【課題】貯蔵安定性に優れるとともに、含浸補強性、密着性等においても優れた性能を発揮することができる水性被覆材を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族モノマー(a)、エポキシ基含有モノマー(b)、並びに、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、及びカルボニル基含有モノマーから選ばれる1種以上の極性モノマー(c)を含むモノマー群の重合体を樹脂成分とする合成樹脂エマルション(P)と、水溶性珪酸塩(Q)とを必須成分とし、前記合成樹脂エマルション(P)と前記水溶性珪酸塩(Q)の固形分重量比率を90:10〜10:90とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構築物等を構成する基材としては、コンクリート、モルタル、スレート板、珪酸カルシウム板等の無機質基材が多く用いられている。これらの面に塗装を施す場合には、密着性を確保し、さらには経時的な塗膜の膨れ、剥れ、浮き等を防止するために、通常、下塗材が施されている。このような下塗材は、主に溶剤系下塗材、水系下塗材に分類される。
このうち、特に被塗面の表面が脆弱な場合は、溶剤系下塗材が好適に使用されている。これは、溶剤系下塗材が被塗面への含浸性に優れ、被塗面表層部を補強する作用を有するためである。しかし、このような溶剤系下塗材の多くは、トルエン、キシレン等の溶剤を媒体とするものであり、人体に対する毒性や、作業上の安全性等の点、さらには大気汚染に及ぼす影響等を考慮すると、あまり好ましいものとは言えない。最近では、このような溶剤の使用を抑える動きが強まっている。
【0003】
被塗面への含浸性を有する水系下塗材として、合成樹脂エマルションと水溶性珪酸塩を含む各種水性被覆材が提案されている。例えば、特開平3−232782号公報(特許文献1)には、アクリル樹脂エマルションまたはエポキシ樹脂エマルションと、水溶性珪酸塩を含む水系下塗材が記載されている。このうち、エポキシ樹脂エマルションとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を乳化剤を用いて水分散型にしたものが記載されている。
また、特開2000−86935号公報(特許文献2)には、エポキシ基含有モノマー及び/または多価エポキシ化合物と、その他の重合性モノマーとの共重合体をコア成分に含有し、カルボキシル基含有モノマーとその他の重合性モノマーとの共重合体をシェル成分に含有する水性エマルションと、水溶性珪酸塩を含む水系下塗材が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の下塗材では、比較的低分子のエポキシ樹脂を用いており、実用的な被膜性能を発現させるためには、被膜形成時にアミン系化合物等の硬化剤を併用する必要がある。また、エマルションと水溶性珪酸塩との混合物については、経時的に異物が発生したり、増粘・ゲル化が生じるといった不具合が生じやすく、十分な貯蔵安定性を有するものではない。さらに、特許文献1の下塗材では、含浸補強性、密着性等において、まだ不十分な点がある。
一方、特許文献2の下塗材については、硬化剤を使用する必要がなく、1液型の形態にて使用することができる。しかし、特許文献2の下塗材は、上塗材との密着性等において十分な物性が得られ難い場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−232782号公報
【特許文献2】特開2000−86935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたもので、貯蔵安定性に優れるとともに、含浸補強性、密着性等においても優れた性能を発揮することができる水性被覆材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のモノマーを組み合わせてなる重合体を樹脂成分とする合成樹脂エマルション(P)と、水溶性珪酸塩(Q)を必須成分とする水性被覆材に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の水性被覆材に関するものである。
1.(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族モノマー(a)、
エポキシ基含有モノマー(b)、並びに、
ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、及びカルボニル基含有モノマーから選ばれる1種以上の極性モノマー(c)
を含むモノマー群の重合体を樹脂成分とする合成樹脂エマルション(P)と、
水溶性珪酸塩(Q)とを含み、
前記合成樹脂エマルション(P)と前記水溶性珪酸塩(Q)の固形分重量比率が90:10〜10:90であることを特徴とする水性被覆材。
2.前記合成樹脂エマルション(P)が、乳化剤としてアニオン性界面活性剤を含むことを特徴とする1.記載の水性被覆材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性被覆材は、貯蔵安定性に優れるとともに、含浸補強性、密着性等においても優れた性能を発揮することができるものである。本発明の水性被覆材は、下塗材として使用することができ、とりわけ脆弱な被塗面等に対する下塗材として好適である。また、1液型の形態にて使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明水性被覆材は、特定の合成樹脂エマルション(P)、水溶性珪酸塩(Q)を必須成分とするものである。このうち、合成樹脂エマルション(P)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族モノマー(a)、エポキシ基含有モノマー(b)、並びに、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、及びカルボニル基含有モノマーから選ばれる1種以上の極性モノマー(c)を含むモノマー群の重合体を樹脂成分とするものである。
【0012】
このうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族モノマー(a)(以下「(a)成分」という)は、樹脂骨格の主成分となるものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
芳香族モノマーは、芳香環と重合性不飽和二重結合を有する化合物であり、その具体例としては、例えばスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
モノマー群における(a)成分の重量比率は、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは70〜97重量%である。(a)成分の重量比率がこのような範囲内であれば、密着性等の点で好適である。また、本発明における合成樹脂エマルション(P)では、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族モノマーの両方を使用することにより、密着性等の性能をいっそう高めることができる。
【0014】
エポキシ基含有モノマー(b)(以下「(b)成分」という)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε−カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
モノマー群における(b)成分の重量比率は、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは3〜20重量%である。(b)成分の重量比率がこのような範囲内であれば、貯蔵安定性、密着性等の点において好適である。
【0015】
本発明では、極性モノマー(c)(以下「(c)成分」という)として、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、及びカルボニル基含有モノマーから選ばれる1種以上を用いる。
このうち、ニトリル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有モノマーとしては、例えば、マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等が挙げられる。
カルボニル基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等が挙げられる。
モノマー群における(c)成分の重量比率は、好ましくは0.1〜15重量%、好ましくは0.2〜10重量%である。(c)成分の重量比率がこのような範囲内であれば、貯蔵安定性、密着性等の点において好適である。
本発明では特に、(c)成分として、少なくともニトリル基含有モノマーを含む態様が好適である。
【0016】
合成樹脂エマルション(P)を構成する成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記(a)〜(c)成分と共重合可能なその他のモノマーを使用することもできる。このようなモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー;アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ−n−ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p−アミノスチレン、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルエーテル、ビニルケトン、シリコーンマクロマー等が挙げられる。
【0017】
上記その他のモノマーのうち、カルボキシル基含有モノマーについては、モノマー群における重量比率を3重量%以下(好ましくは1重量%以下)とすることが望ましい。カルボキシル基含有モノマーを含まない態様も好適である。アミノ基含有モノマーについても、モノマー群における重量比率を3重量%以下(好ましくは1重量%以下)とすることが望ましく、アミノ基含有モノマーを含まない態様も好適である。本発明では、このようなモノマーの使用を抑えることにより、(b)成分の極性が活かされ、優れた密着性を発揮することができる。
【0018】
合成樹脂エマルション(P)は、上記モノマーを適宜混合したモノマー群を乳化重合することにより製造することができる。重合方法としては公知の方法を採用すればよく、通常の乳化重合の他、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、シード乳化重合等を採用することもできる。重合時には、乳化剤、開始剤、分散剤、重合禁止剤、重合抑制剤、緩衝剤、連鎖移動剤等を使用することができる。
【0019】
乳化剤としては、乳化重合に使用可能な各種界面活性剤が使用でき、これらは重合性不飽和二重結合を有する反応性タイプ(反応性界面活性剤)であってもよい。乳化剤としては、通常、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いればよい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ステアリルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸アルカリ金属塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステルアルカリ金属塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0020】
合成樹脂エマルション(P)としては、乳化剤として、少なくともアニオン性界面活性剤を用いたものが好適である。これにより、含浸補強性等の点で有利な効果が得られる。具体的な態様としては、アニオン性界面活性剤を単独で用いる場合、またはアニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用する場合が挙げられる。
このような効果の作用機構は明らかではないが、合成樹脂エマルション(P)の平均粒子径を比較的小さくできること等に起因しているものと考えられる。一般に、合成樹脂エマルションの乳化剤として、ノニオン性界面活性剤を使用した場合は、エマルション粒子径が大きくなる傾向がある。これに対し、アニオン性界面活性剤を使用すれば、エマルション粒子径が小さくなる場合がある。ところが、アニオン性界面活性剤を使用すると、水溶性珪酸塩を混合した際の安定性を確保することが困難となりやすい。
本発明では、上記(b)成分及び(c)成分を用いることにより、乳化剤としてアニオン性界面活性剤を導入した場合であっても、貯蔵安定性において有利な効果を得ることが可能となり、含浸補強性等を高めることができる。
【0021】
合成樹脂エマルション(P)の平均粒子径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは20〜120nm、さらに好ましくは30〜100nmである。平均粒子径がこのような範囲内であれば、含浸補強性、シール性、耐白華化性等において有利な効果を得ることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0022】
合成樹脂エマルション(P)のガラス転移温度は、上記モノマーの種類、混合比率等を選定することで調整できる。このガラス転移温度は、最終的な要求性能等を考慮して適宜設定すればよいが、好ましくは−50〜80℃程度、より好ましくは−40〜60℃程度である。なお、合成樹脂エマルションのガラス転移温度は、Foxの計算式により求めることができる。
【0023】
本発明では、上記合成樹脂エマルション(P)における(b)成分、(c)成分が、合成樹脂エマルション(P)自体を安定化させるとともに、合成樹脂エマルション(P)と水溶性珪酸塩(Q)を混合した際の安定性向上にも寄与するものである。すなわち、(b)成分、(c)成分は、本発明水性被覆材の貯蔵安定性向上に大きく寄与するものである。さらに、本発明では、(b)成分、(c)成分の作用により、密着性を高めることもできる。
本発明において、合成樹脂エマルション(P)は、(a)成分を主体とする重合体がエマルション粒子内部を構成し、エマルション粒子表層に(b)成分、(c)成分の極性基が存在する形態をとっているものと推測される。本発明では、合成樹脂エマルション(P)がこのような形態であることにより、上記効果が奏されるものと思われる。
【0024】
本発明における水溶性珪酸塩(Q)は、含浸補強性、密着性等を付与するための必須成分である。水溶性珪酸塩(Q)としては、具体的に、MO・nSiO(Mはアルカリ金属を示す。nは2〜10。)で示されるものが使用できる。アルカリ金属Mとしては、Li、Na、Kから選ばれる1種以上が好適である。このような水溶性珪酸塩(Q)としては、水溶性珪酸リチウム、水溶性珪酸ナトリウム、水溶性珪酸カリウム等が挙げられ、この中でも特に珪酸リチウムが好適である。
上記式中のnは、好ましくは2〜10であり、より好ましくは3〜8である。nがこのような範囲内であれば、含浸補強性、密着性に加え、耐白華性、耐水性等においても有利な効果を得ることができる。
また、このような水溶性珪酸塩(Q)は、完全に水溶性の状態であるものが好ましい。コロイド状のものでは、含浸補強性、密着性等の点で十分な効果が得られ難くなるおそれがある。
【0025】
本発明において、合成樹脂エマルション(P)と水溶性珪酸塩(Q)の固形分重量比率は、通常90:10〜10:90、好ましくは80:20〜30:70、より好ましくは75:25〜50:50とする。
合成樹脂エマルション(P)と水溶性珪酸塩(Q)の固形分重量比率がこのような範囲内であれば、本発明の効果発現の点で好適である。上記比率よりも水溶性珪酸塩(Q)が少なすぎる場合は、含浸補強性、基材への密着性等において十分な効果が得られ難くなる。逆に、上記比率よりも水溶性珪酸塩(Q)が多すぎる場合は、上塗材の仕上り性、密着性等において不具合が生じやすくなる。
【0026】
本発明被覆材では、上記成分に加え、HLB12以上のノニオン性界面活性剤(R)(以下「(R)成分」という)を含むことが望ましい。(R)成分を混合することにより、貯蔵安定性、含浸補強性等をいっそう高めることができる。
(R)成分の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、これらのうちHLBが12以上のものが使用できる。(R)成分のHLBは、好ましくは12〜17、より好ましくは13〜15である。
なお、HLBとは、親水性−親油性バランスの略称で、両親媒性物質の親水性と親油性の強度比を数値化して表したものである。
【0027】
上記(R)成分の混合比率は、合成樹脂エマルション(P)の固形分100重量部に対し、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは2〜20重量部である。このような比率であれば、耐水性、仕上り性等の諸物性を損うことなく、貯蔵安定性、含浸補強性等において十分な向上効果を得ることができる。
【0028】
本発明における水性被覆材は、上記成分に加え、水への溶解度が5g/100g以下の水難溶性溶剤(S)(以下「(S)成分」という)を含むことが望ましい。(S)成分を含むことにより、各種の基材、下地への適性等を高めることができ、上塗材の仕上り性等の点においても好適である。(S)成分としては、水への溶解度が1g/100g未満であるものがより望ましいものである。
具体的に(S)成分としては、例えば、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート等が挙げられる。
上記(S)成分の混合比率は、合成樹脂エマルション(P)の固形分100重量部に対し、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは2〜30重量部である。このような比率であれば、貯蔵安定性等の物性を損わずに、各種の基材や下地への適性、上塗材の仕上り性等を高めることができる。
【0029】
本発明の水性被覆材には、上記成分以外に、着色顔料、体質顔料、骨材、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、顔料分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、pH調整剤、繊維類、つや消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、吸着剤、触媒、架橋剤、水等を混合することができ、このような成分を適宜組み合わせて使用することにより、種々の形態の被覆材を設計することができる。本発明被覆材は、前述の成分に加え、必要に応じこれら成分を常法により均一に混合することで製造できる。このようにして得られる本発明被覆材は、1液型の形態にて使用することができる。
【0030】
本発明被覆材は、主に建築物、土木構築物等の壁、床、天井、屋根、屋上等を構成する基材に対して使用できるものである。本発明被覆材は、これら基材に対して直接塗装を行う下塗材として好適に用いることができる。特に、含浸補強性が要求される脆弱な基材に対する下塗材として好適である。塗装の対象となる基材としては、例えばコンクリート、モルタル、珪酸カルシウム板、木片セメント板、セメントパーライト板、スレート板等の各種基材が挙げられる。
本発明被覆材の塗装方法としては、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装等種々の方法を採用することができる。塗付け量は、通常0.05〜0.5kg/m、好ましくは0.1〜0.4kg/m程度である。このような塗付け量の範囲内で、複数回に分けて塗装することも可能である。
塗装及びその後の乾燥は、通常、常温(0〜40℃)で行えばよい。
【0031】
本発明被覆材を下塗材として用いた場合は、その乾燥後に、各種上塗材を塗装することができる。上塗材としては、例えば、合成樹脂エマルションペイント、つや有り合成樹脂エマルションペイント、非水分散形樹脂エナメル、多彩模様塗料等の各種塗料の他、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、複層仕上塗材、石材調仕上塗材、砂岩調仕上塗材等が使用できる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0033】
各被覆材における合成樹脂エマルションとしては、表1に示すモノマー組成により乳化重合して得られた固形分40重量%の合成樹脂エマルション(樹脂1〜8)を使用した。表1におけるモノマーは以下の通りである。
・ST:スチレン
・MMA:メチルメタクリレート
・2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
・GMA:グリシジルメタクリレート
・AN:アクリロニトリル
・AAm:アクリルアミド
・DAAm:ジアセトンアクリルアミド
・MAA:メタクリル酸
【0034】
【表1】

【0035】
<水性被覆材の製造>
表2、3に示す配合に従い、常法により各原料を均一に混合して被覆材を製造した。合成樹脂エマルション以外の原料としては、以下に示すものを使用した。
・水溶性珪酸塩:珪酸リチウム水溶液(LiOとSiOのモル比1:3.5、固形分24重量%)
・界面活性剤1:ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB14.0)
・界面活性剤2:ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB11.7)
・溶剤1:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(水への溶解度<1g/100g)
・溶剤2:プロピレングリコールn−ブチルエーテル(水への溶解度6g/100g)
【0036】
<試験方法>
(1)貯蔵安定性
各被覆材を容器内に密閉し、20℃下にて168時間放置したときの外観変化を目視にて確認した。評価基準は、異常が認められなかったものを「◎」、著しく凝集物発生が認められたものを「×」とする4段階(優:◎>○>△>×)とした。
【0037】
(2)含浸補強性
珪酸カルシウム板に、被覆材を塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、標準状態(温度23℃、相対湿度50%)にて2時間乾燥後、つや有合成樹脂エマルションペイントを塗付け量0.3kg/mで刷毛塗りし、標準状態にて72時間乾燥することにより、試験体を作製した。得られた試験体につき、クロスカット法(4×4mm・25マス)により、含浸補強性を評価した。なお、この試験では、値が大きいほど含浸補強性に優れていることを示している。
【0038】
(3)密着性1
基材として無塗装のスレート板を用意し、これに被覆材を塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、つや有合成樹脂エマルションペイントを塗付け量0.3kg/mで刷毛塗りし、標準状態にて72時間乾燥することにより、試験体を作製した。得られた試験体につき、クロスカット法(4×4mm・25マス)により、密着性を評価した。なお、この試験では、値が大きいほど密着性に優れていることを示している。
【0039】
(4)密着性2
基材として、エポキシ樹脂系塗膜面を有するスレート板を用いた以外は、「密着性1」と同様の方法で試験を行った。
【0040】
(5)密着性3
基材として、ウレタン樹脂系塗膜面を有するスレート板を用いた以外は、「密着性1」と同様の方法で試験を行った。
【0041】
(6)密着性4
基材として、アクリル樹脂系塗膜面を有するスレート板を用いた以外は、「密着性1」と同様の方法で試験を行った。
【0042】
<試験結果>
試験結果を表2、3に示す。実施例1〜14では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族モノマー(a)、
エポキシ基含有モノマー(b)、並びに、
ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、及びカルボニル基含有モノマーから選ばれる1種以上の極性モノマー(c)
を含むモノマー群の重合体を樹脂成分とする合成樹脂エマルション(P)と、
水溶性珪酸塩(Q)とを含み、
前記合成樹脂エマルション(P)と前記水溶性珪酸塩(Q)の固形分重量比率が90:10〜10:90であることを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
前記合成樹脂エマルション(P)が、乳化剤としてアニオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1記載の水性被覆材。


【公開番号】特開2010−159408(P2010−159408A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279133(P2009−279133)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】