説明

水性被覆組成物

【課題】 Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性、接着性に優れた水性被覆組成物及び缶用塗料を提供すること。
【解決手段】
エポキシ樹脂(a)とカルボキシル基含有樹脂(b)を反応させてなるアクリル変性エポキシ樹脂(A)が中和され水性媒体中に分散されてなる水性被覆組成物であって、エポキシ樹脂(a)が、エポキシ当量5,000未満のエポキシ樹脂(a1)とエポキシ当量5,000以上のエポキシ樹脂(a2)からなり、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b)が、ガラス転移温度が0〜100℃かつ酸価160〜400mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とガラス転移温度が−20〜40℃かつ酸価5〜150mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)からなることを特徴とする水性被覆組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル変性エポキシ樹脂に関し、Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性、接着性に優れた塗膜を形成できる水性被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から缶蓋用塗料は、加工性に優れた塗膜を形成できることから有機溶剤系の塩ビゾル塗料が多く使用されているが、有機溶剤の揮散による環境、安全衛生の問題があり、缶蓋用塗料の水性化が急務となっている。
【0003】
また、缶内面用として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びフェノール樹脂を配合したり、反応させてなる水性塗料が使用されている。これらの水性塗料を缶蓋の塗装に使用すると、得られる塗膜は硬く、缶蓋用の塩ビゾル塗料からの塗膜に比べて加工性、基材への接着性、耐食性が劣ったり、缶蓋のタブを開いたときに塗膜が残るという耐膜残り性が悪い等の問題があり、これらの問題を解決する方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂から誘導されるカルボキシル基含有の自己乳化性エポキシ樹脂によって形成された外側部と共役ジエン系樹脂によって形成された芯部とを有する水分散型微粒子状樹脂を含む金属被覆用水性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、酸価0〜70mgKOH/gのアクリル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)を部分的に結合させ、これに酸価100〜500mgKOH/gのアクリル樹脂(C)を混合又は前記(C)を前記結合物の(B)に部分的に結合させ、更にこれらにレゾール型フェノール樹脂を予備縮合させた水性塗料が提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、エポキシ当量が900〜4,500の芳香族系エポキシ樹脂を、カルボキシル基含有アクリル重合体にて変性した自己乳化性樹脂に、数平均分子量が9,000以上である芳香族高分子エポキシ樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂または水性アミノプラスト樹脂を水性分散化した水性塗料が提案されている(特許文献3)。
【0007】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂に不飽和カルボン酸単量体とラジカル重合性不飽和単量体との単量体混合物を重合してなるカルボン酸変性エポキシ樹脂を、塩基性物質の存在下に水性媒体中に分散してなる水性被覆樹脂が提案されている(特許文献4)。
【0008】
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂とカルボキシル基含有アクリル樹脂とをエステル化反応させてなるか又はビスフェノール型エポキシ樹脂にカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含有する重合性不飽和モノマー成分をグラフト重合させてなるアクリル樹脂変性エポキシ樹脂(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)及びスチレン共重合体ゴム(C)を含有する水性塗料組成物が提案されている(特許文献5)。
【0009】
また、芳香族系エポキシ樹脂部分と酸価が50〜450(mgKOH/g)のカルボキシル基含有アクリル系樹脂部分(a2)とを有する変性エポキシ樹脂(A)、芳香族系エポキシ樹脂部分(b1)と酸価(50mgKOH/mg)未満であり、且つガラス転移温度が50℃未満のアクリル系樹脂部分(b2)とを有する変性エポキシ樹脂に関して提案されている(特許文献6)。
【0010】
また、数平均分子量9,000以上、エポキシ当量9,000以下の芳香族系エポキシ樹脂(A)と、数平均分子量9,000未満、エポキシ当量5,000以下の芳香族系エポキシ樹脂(B)と、ガラス転移温度が100℃以上のカルボキシル基含有アクリル樹脂(C)とを部分エステル化反応させて得られるアクリル変性エポキシ樹脂を含有する水性塗料について提案されている(特許文献7)。
【0011】
また、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基の一部を、酸価が10〜135、ガラス転移温度Tgが−20〜20℃、重量平均分子量が30,000〜200,000であるカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)中のカルボキシル基の一部と反応せしめてなるアクリル変性エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の一部を、さらに酸価が180〜450のカルボキシル基含有アクリル樹脂(B)中のカルボキシル基の一部と反応せしめてなるアクリル変性エポキシ樹脂を含有する水性塗料について提案されている(特許文献8)。
【0012】
また、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基の一部を、酸価が10〜135、ガラス転移温度Tgが−20〜20℃、重量平均分子量Mwが10,000〜200,000であるカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)及び酸価が180〜450のカルボキシル基含有アクリル樹脂(a3)中のカルボキシル基の一部と反応せしめてなるアクリル変性エポキシ樹脂を含有する水性塗料について提案されている(特許文献9)。
【0013】
【特許文献1】特開平5−9431号公報
【特許文献2】特開平5−17556号公報
【特許文献3】特開平7−138523号公報
【特許文献4】特開平10−259229号公報
【特許文献5】特開平11−263938号公報
【特許文献6】特開2000−73005号公報
【特許文献7】特開2002−146164号公報
【特許文献8】特開2004−210831号公報
【特許文献9】特開2005−187679号公報 しかしながら、上記提案の特許文献1〜9に記載された組成物から得られる塗膜は、Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性及び接着性のいずれかが不十分であり改良が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性及び接着性に優れた塗膜を形成できる缶用、特に缶蓋用としての適性を有する水性被覆組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ樹脂(a)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)を反応させてなるアクリル変性エポキシ樹脂(A)が中和され水性媒体中に分散されてなる水性被覆組成物であって、エポキシ樹脂(a)が、エポキシ当量5,000未満のエポキシ樹脂(a1)とエポキシ当量5,000以上のエポキシ樹脂(a2)からなるもので、かつカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)が、ガラス転移温度が0〜100℃かつ酸価160〜400mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とガラス転移温度が−20〜40℃かつ酸価5〜150mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)からなる樹脂であることを特徴とする水性被覆組成物によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性被覆組成物によって得られた塗膜は、Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性、接着性に優れる缶体を得ることができる。特に缶蓋の加工のような厳しい加工に対する加工性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水性被覆組成物について、詳細に説明する。
【0018】
[アクリル変性エポキシ樹脂(A)]
本発明の水性被覆組成物は、エポキシ樹脂(a)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)を反応させてなるアクリル変性エポキシ樹脂(A)が、中和され、水性媒体中に分散されてなる組成物である。
【0019】
エポキシ樹脂(a):
エポキシ樹脂(a)が、エポキシ当量5,000未満のエポキシ樹脂(a1)とエポキシ当量5,000以上のエポキシ樹脂(a2)からなる。
【0020】
エポキシ樹脂(a)として、エポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)の2種の相異なるエポキシ樹脂を混合することによって、従来にない、Tベンド折り曲げ加工性や加工部の耐食性が得られ、かつ缶蓋の耐膜残り性が良好となる。
【0021】
上記エポキシ樹脂(a)としては、例えば(1)エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に高分子量まで縮合させてなる樹脂、(2)エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に、縮合させてエポキシ樹脂とし、このエポキシ樹脂とビスフェノール化合物とを重付加反応させることにより得られた樹脂、及び(3)上記(1)、(2)で得られたこれらの樹脂又は上記低分子量エポキシ樹脂に、二塩基酸を反応させてなるエポキシエステル樹脂のいずれであってもよい。これらの中でも、本発明の目的とする基材への接着性、耐食性の為にも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましい。以下、エポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)について、詳細に述べる。
【0022】
エポキシ樹脂(a1):
エポキシ樹脂(a1)は、エポキシ当量は5,000未満、好ましくは1,000〜4,000、数平均分子量(注1)が10,000未満、好ましくは、2,000〜8,000であることが、目的とするの塗膜性能を満足させるために好ましい。
【0023】
このようなエポキシ樹脂(a1)の市販品としては、例えばエピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009、エピコート1010(以上、ジャパンエポキシレジン社製)、アラルダイトAER6099(旭化成社製)などを挙げることができる。これらの中でも、エピコート1009が、加工部の耐食性の点から好ましい。
【0024】
(注1)数平均分子量:測定は、JIS K 0124−83に準じて行ない、分離カラムにTSK GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL(東ソー(株)製)を用いて40℃で流速1.0ml/分、溶離液にGPC用テトラヒドロフランを用いて、RI屈折計で得られたクロマトグラムとポリスチレンの検量線から計算により求めた。以降、数平均分子量の決定は、上記方法によるものとする。
【0025】
エポキシ樹脂(a2):
エポキシ樹脂(a2)は、エポキシ当量5,000以上、好ましくは6,000〜12,000、数平均分子量(注1)が、10,000以上、好ましくは、12,000〜24,000であることが、目的とするの塗膜性能を満足させるために好ましい。
【0026】
このようなエポキシ樹脂(a2)の市販品としては、エピコート1256、エピコート4250、エピコート4275(以上、ジャパンエポキシレジン社製)が挙げられる。これらの中でもエピコート1256が、Tベンド折り曲げ加工性や加工部の耐食性の点から好ましい。エポキシ樹脂(a)は、上記に述べたエポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)とからなる。
【0027】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b):
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b)は、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)の2種の相異なるカルボキシル基含有アクリル樹脂からなる。カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)を併用することによって、Tベンド折り曲げ加工性や加工部の耐食性、耐レトルト白化性及び接着性の向上効果に加え、又缶蓋の耐膜残り性を向上させることができる。
【0028】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)は、ガラス転移温度(注2)が0〜100℃、好ましくは10〜90℃、さらに好ましくは20〜80℃、かつ酸価が160〜400mgKOH/g、好ましくは酸価170〜360mgKOH/gである。一方、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)は、ガラス転移温度が−20〜40℃、好ましくは−10〜35℃、かつ酸価5〜150mgKOH/g、好ましくは15〜100mgKOH/gである。
【0029】
(注2)ガラス転移温度:ガラス転移温度(℃)は、下記式によって算出することができる。
1/Tg(°K)=(W1/T1)+(W2/T2)+・・
式中、W1、W2、・・は共重合に使用されたモノマーのそれぞれの重量%、T1、T2、・・は、それぞれ単量体のホモポリマ−のTg(°K)を表わす。なお、T1、T2、・・は、Polymer Hand Book(Second Edition,J.Brandup・E.H.Immergut 編)による値である。また、モノマーのホモポリマーのTgが明確でない場合のガラス転移温度(℃)は、静的ガラス転移温度とし、例えば示差走査熱量計「DSC−50Q型」(島津製作所製、商品名)を用いて、試料を測定カップにとり、真空吸引して完全に溶剤を除去した後、3℃/分の昇温速度で−100℃〜+100℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側における最初のベースラインの変化点をガラス転移温度とした。
【0030】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)は、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体とその他の重合性不飽和単量体をラジカル共重合反応して得られるカルボキシル基含有アクリル樹脂である。
【0031】
一方、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)は、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体とその他の重合性不飽和単量体をラジカル共重合反応して得られるカルボキシル基含有アクリル樹脂を使用できる。
【0032】
上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の単量体及びこれらとε−カプロラクトンの付加物、水酸基含有重合性不飽和単量体と酸無水物基含有化合物との付加物、酸無水物基含有不飽和単量体とモノアルコールとの付加物、等が挙げられる。
【0033】
ここで用いる水酸基含有重合性不飽和単量体は、好ましくは炭素数6〜23を有するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルおよびこれらのε−カプロラクトンとの反応物のような化合物、および(メタ)アクリル酸と大過剰のジオール(例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)をエステル化することにより得られる。 ここで用いる酸無水物基含有化合物は、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水コハク酸等が挙げられる。
【0034】
ここで用いる酸無水物基含有不飽和単量体の具体例には、無水イタコン酸、無水マレイン酸および無水シトラコン酸等が挙げられる。ここで用いるモノアルコールの具体例には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i-プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、フリフリルアルコール、アセトール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
その他の重合性不飽和単量体は、上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体と共重合可能な単量体であればよく、求められる性能に応じて適宜選択して使用することができるものであり、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族系ビニル単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−,i−又はt−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−,i−又はt−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のC 〜C ヒドロキシアルキルエステル;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのN−置換アクリルアミド系又はN−置換メタクリルアミド系モノマーなどの1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0036】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)は、単量体の構成比率、種類は特に制限されるものではないが、通常、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体が20〜60質量%、特に25〜50質量%であることが好ましく、その他の重合性不飽和単量体が80〜40質量%、特に75〜50質量%であることがよい。
【0037】
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)の調製は、例えば、上記した単量体組成を重合開始剤の存在下、有機溶剤中で溶液重合反応することにより容易に行うことができる。このようにして得られたカルボキシル基含有アクリル樹脂の数平均分子量(注1参照)は、2,000〜100,000、好ましくは5,000〜30,000程度の範囲内である。
【0038】
一方、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)は、単量体の構成比率、種類は特に制限されるものではないが、通常、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体が1〜20質量%、特に5〜18質量%であることが好ましく、その他の重合性不飽和単量体が99〜80質量%、特に82〜95質量%であることがよい。
【0039】
特に、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)を構成する単量体の合計量に対して、メタクリル酸、スチレン、メチルメタクリレート及びエチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%含有することが、加工部の耐食性の点から好ましい。
カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)の調製は、例えば、上記した単量体組成を重合開始剤の存在下、有機溶剤中で溶液重合反応することにより容易に行うことができ、数平均分子量(注1参照)は、2,000〜100,000、好ましくは6,000〜80,000の範囲内である。なおカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)は、上記に述べたカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)とからなる。
【0040】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の製造について
なお、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の製造は、例えばエポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)、並びにカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)とを均一に有機溶剤中に溶解ないしは分散せしめ、通常、60〜130℃の温度にて約1〜6時間反応することによって得ることができる。
【0041】
この反応における触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジメチルエタノールア
ミンなどの第3級アミン類やトリフェニルフォスフィンなどの第4級塩化合物などを挙げることができ、なかでも第3級アミン類が好適である。
【0042】
前記に述べたエポキシ樹脂(a)におけるエポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)及びカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)におけるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)の配合割合としては、エポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)及びカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)の固形分合計を基準にして、エポキシ樹脂(a1)を0.1〜20質量%、エポキシ樹脂(a2)を30〜89質量%、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)を5〜30質量%及びカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)を5〜30質量%の割合で反応することが、本願の目的とするTベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐水性、フレーバー性、衛生性及び接着性のバランスに優れた塗膜を得る為にも好ましい。
【0043】
このようにして、得られたアクリル変性エポキシ樹脂(A)は、塩基性化合物で樹脂中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和することによって水性媒体中に分散可能となる。上記カルボキシル基の中和に用いられる塩基性化合物としては、アミン類やアンモニアが好適に使用される。
【0044】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の反応条件は、100〜210℃、好ましくは130〜200℃で、30分間〜10時間、好ましくは1〜6時間反応することによって得ることができる。得られたアクリル変性エポキシ樹脂(A)は、酸価10〜150mgKOH/g、好ましくは15〜100mgKOH/gの範囲がよい。
【0045】
上記アミン類の代表例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン類;ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルカノールアミン類;モルホリンなどの環状アミン類などを挙げることができる。
【0046】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の中和程度は、特に限定されるものではないが、アクリル変性エポキシ樹脂(A)中のカルボキシル基に対して通常0.1〜2.0当量、好ましくは0.4〜1.5当量中和の範囲であることが好ましい。上記水性媒体は、水のみであってもよいが、水と有機溶剤との混合物であってもよい。この有機溶剤としては、従来公知のものをいずれも使用でき、有機溶媒の具体例としては、イソプロパノール、ブチルアルコール、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタン、2−エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0047】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)を水性媒体中に中和、分散するには、常法によればよく、例えば中和剤である塩基性化合物を含有する水性媒体中に撹拌下にアクリル変性エポキシ樹脂(A)を徐々に添加する方法、アクリル変性エポキシ樹脂(A)を塩基性化合物によって中和した後、撹拌下にて、この中和物に水性媒体を添加するか又はこの中和物を水性媒体中に添加する方法などを挙げることができる。
【0048】
[レゾール型フェノール樹脂(B)]
本発明の水性被覆組成物は、アクリル変性エポキシ樹脂が中和されて水性媒体中に分散されたアクリル変性エポキシ樹脂(A)のみからなってもよいが、塗膜性能向上や塗装性向上、加工時や輸送時の傷付き防止、臭気の改善などの目的で、この水性被覆組成物に、必要に応じて、レゾール型フェノール樹脂(B)を配合することができる。
【0049】
このようなレゾール型フェノール樹脂(B)としては、フェノールやビスフェノールAなどのフェノール類とホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを反応触媒の存在下で縮合反応させて、メチロール基を導入してなるフェノール樹脂、また導入されたメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数6以下のアルコールでアルキルエーテル化したものも包含される。
【0050】
レゾール型フェノール樹脂(B)は、数平均分子量(注1参照)が200〜2,000、好ましくは300〜1,200の範囲内であり、かつベンゼン核1核当りのエーテル化されてもよいメチロール基の平均数が0.3〜3.0個、好ましくは0.5〜3.0個、 さらに好ましくは0.7〜3.0個の範囲内であることが適当である。
本発明の水性被覆組成物においてレゾール型フェノール樹脂(B)を配合する場合、その配合量は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分100質量部に対し、0.1〜30質量部、好ましくは0.2〜10質量部さらに好ましくは0.5〜5質量部の範囲内が好適である。
【0051】
本発明の水性被覆組成物は、さらに、必要に応じて、ノボラック型フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などの架橋剤樹脂、界面活性剤、ワックス、消泡剤、顔料、香料などを適宜加えることもできる。
【0052】
また、本発明の水性被覆組成物おける有機溶剤の量は、缶用塗料組成物の樹脂固形分に対して、環境保護の観点などから50質量%以下、好ましくは20質量%以下の範囲であることが望ましい。
【0053】
なお本発明の水性被覆組成物は、種々の基材に適用することができ、例えばアルミニウム板、鋼板、ブリキ板等の無処理の又は表面処理した金属板、及びこれらの金属板にエポキシ系、ビニル系などのプライマーを塗装した金属板など、これらの金属板を缶などに加工したものなどに塗装することができる。
【0054】
水性被覆組成物を基材に塗装する方法としては、公知の各種の方法、例えばロールコータ塗装、スプレー塗装、浸漬塗装や電着塗装等が適用できる。なかでもロールコータ塗装もしくはスプレー塗装が好ましい。本発明の水性被覆組成物の用途としては、缶内外面の被覆として用いる缶用塗料、特に缶蓋のような製蓋加工の厳しい加工に対して有用な被膜を形成でき、加えて耐膜残り性においても良好なものが得られる。
【0055】
本発明の水性被覆組成物の膜厚は用途によって適宜選定すればよいが、通常3〜20μm程度が好ましい。塗装した塗膜の乾燥条件としては、通常、素材到達最高温度が120〜300℃となる条件で10秒〜30分間、好ましくは200〜280℃で15秒間〜10分間の範囲内であることがよい。
【実施例】
【0056】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0057】
[カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)の製造]
製造例1 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−1)の製造
4つ口フラスコに、ジエチレングリコールモノブチルエーテル1137部を仕込み、窒素気流下で100℃に加熱して、下記「モノマー混合物」及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート25部を3時間で滴下し、滴下後1時間熟成した。
「モノマー混合物」
メタクリル酸 350部
スチレン 300部
エチルアクリレート 350部
次いで、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10部とジエチレングリコールモノブチルエーテル50部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。
次いで、ジエチレングリコールモノブチルエーテル635部、n−ブタノール476部を加え、固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−1)溶液を得た。得られた樹脂(b1−1)は、ガラス転移温度71℃、樹脂酸価230mgKOH/g、数平均分子量約16,000であった。
【0058】
製造例2〜3 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−2)、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−3)の製造
表1の配合とする以外は、製造例1と同様にして、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−2)及びカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−3)を得た。
【0059】
比較製造例1 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−4)の製造
表1の配合する以外は、製造例1と同様にして、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−4)を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
[カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)の製造]
製造例4 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−1)溶液の製造
4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノプロピルエーテル470部を仕込み、窒素気流下で120℃に加熱し、下記「モノマー混合物」及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート13部を3時間で滴下し、滴下後1時間熟成した。
「モノマー混合物」
メタクリル酸 50部
スチレン 200部
エチルアクリレート 750部
次いで、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5部とプロピレングリコールモノプロピルエーテル50部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。
次いで、プロピレングリコールモノプロピルエーテル1164部、n−ブタノール631部を加え、固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−1)溶液を得た。カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−1)は、ガラス転移温度1℃、樹脂酸価33mgKOH/g、数平均分子量約14,000であった。
【0062】
製造例5〜7 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−2)〜(b2−4)の製造
モノマー混合物を後記表2の配合内容とする以外は、製造例4と同様にして、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−2)〜(b2−4)を得た。
【0063】
比較製造例2 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−5)溶液の製造
4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノプロピルエーテル470部を仕込み、窒素気流下で120℃に加熱し、「モノマー混合物」、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート13部を3時間で滴下し、滴下後1時間熟成した。
次いで、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5部とプロピレングリコールモノプロピルエーテル50部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。
「モノマー混合物」
スチレン 250部
エチルアクリレート 750部
さらに、プロピレングリコールモノプロピルエーテル1164部、n−ブタノール631部を加え、固形分約30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液(b2−5)を得た。得られた樹脂は、ガラス転移温度−1℃、樹脂酸価0mgKOH/g、数平均分子量約14,000であった。
【0064】
比較製造例3 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−6)溶液の製造
表2の配合内容とする以外は、比較製造例2と同様にして、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−6)を得た。
【0065】
比較製造例4 カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−7)溶液の製造
表2の配合内容とする以外は、比較製造例2と同様にして、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−7)を得た。
【0066】
【表2】

【0067】
[レゾール型フェノール樹脂(B)の製造]
製造例8 レゾール型フェノール樹脂溶液の製造
還流管、温度計、撹拌機を装着した四つ口フラスコに、フェノール188部、37%ホルムアルデヒド水溶液324部をフラスコに仕込み、50℃に加熱し内容物を均一に溶解した。次に、酢酸亜鉛を添加、混合して系内のpHを5.0に調整した後、90℃に加熱し5時間反応を行った。ついで50℃に冷却し、32%水酸化カルシウム水分散液をゆっくり添加し、pHを8.5に調整した後、50℃で4時間反応を行った。
反応終了後、20%塩酸でpHを4.5に調整した後、キシレン/n−ブタノール/シクロヘキサン=1/2/1(質量比)の混合溶剤で樹脂分の抽出を行い、触媒、中和塩を除去し、ついで減圧下で共沸脱水し、固形分60%の淡黄色で透明なレゾール型フェノール樹脂溶液を得た。
【0068】
[缶用塗料組成物]
実施例1 アクリル変性エポキシ樹脂(A−1)の水分散体の製造
4つ口フラスコに、下記(1)〜(4)の混合物及びメチルエチルケトン300部のを仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度でジメチルエタノールアミン41部を添加して2時間撹拌して反応を行った。
次いで、脱イオン水2443部を2時間かけて添加した。さらに、過剰の溶剤を除去するために減圧濃縮をして固形分約35%のアクリル変性エポキシ樹脂(A−1)の水分散化物を得た。アクリル変性エポキシ樹脂の水分散体(A−1)は、樹脂酸価28mgKOH/gであった。
「混合物」
(1).エピコート1009(注3) 50部
(2).エピコート1256(注4) 800部
(3).製造例1で得たカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1−1)溶液 500部
(4).製造例4で得たカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2−1)溶液 667部
【0069】
実施例2〜10 アクリル変性エポキシ樹脂の水分散体(A−2)〜(A−10)の製造
表3の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、アクリル変性エポキシ樹脂の水分散体(A−2)〜(A−10)を製造した。
【0070】
【表3】

【0071】
(注3)エピコート1009:ジャパンエポキシレジン株式会社製エポキシ樹脂、エポキシ当量約2500のビスフェノールA型エポキシ樹脂
(注4)エピコート1256:ジャパンエポキシレジン株式会社製エポキシ樹脂、エポキシ当量約8000のビスフェノールA型エポキシ樹脂
(注5)エピコート4250:ジャパンエポキシレジン株式会社製エポキシ樹脂、エポキシ当量約8000のビスフェノールA/ビスフェノールF混合型エポキシ樹脂
(注6)エピコート4275:ジャパンエポキシレジン株式会社製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約8000のビスフェノールA/ビスフェノールF混合型エポキシ樹脂。
【0072】
比較例1 アクリル変性エポキシ樹脂(A−11)の水分散体の製造
4つ口フラスコに、下記(1)〜(4)の混合物及びメチルエチルケトン275部のを仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度でジメチルエタノールアミン45部を添加して2時間撹拌して反応を行った。
次いで、脱イオン水2397部を2時間かけて添加した。さらに、過剰の溶剤を除去するために減圧濃縮をして固形分約35%のアクリル変性エポキシ樹脂(A−11)の水分散化物を得た。得られたアクリル変性エポキシ樹脂の水分散体(A−11)は、樹脂酸価25mgKOH/gであった。
「混合物」
(1).エピコート1009(注3) 250部
(2).エピコート1256(注4) 600部
(3).製造例1で得たカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液(b1−1) 500部
(4).製造例4で得たカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液(b2−1) 333部。
【0073】
比較例2〜6
表4の配合内容とする以外は、比較例1と同様にしてアクリル変性エポキシ樹脂の水分散体(A−12)〜(A−16)を得た。
【0074】
【表4】

【0075】
[缶用塗料組成物の製造]
実施例11
実施例1で得た固形分35%の水分散体No.1を3428部、ショウノールBKS377F(注7)48部、ハイディスパー8311(注8)を40部加え約30分間撹拌した後、脱イオン水229部を徐々に加えて調整し、固形分33%の缶用塗料No.1を得た。
(注7)ショウノールBKS377F:昭和高分子社製、石炭酸/ホルムアルデヒドからなるレゾール型フェノール樹脂、固形分50%
(注8)ハイディスパー8311:岐阜セラック製造所(株)、カルナバワックスの水分散体、固形分30%。
【0076】
実施例12〜20
表5の配合内容とする以外は、実施例11と同様にして、固形分33%の缶用塗料No.2〜No.10を得た。下記条件によって試験板を作成し、試験に供した塗膜性能も併せて示す。
【0077】
【表5】

【0078】
比較例7
比較例1で得た固形分35%の水分散体No.11を3142部、ショウノールBKS377F(注7)48部、ハイディスパー8311(注8)を40部加え約30分間撹拌した後、脱イオン水212部を徐々に加えて調整し、固形分33%の缶用塗料No.11を得た。
【0079】
比較例8〜12
表6の配合内容とする以外は、比較例7と同様にして、固形分33%の缶用塗料No.12〜No.16を得た。下記条件によって試験板を作成し、試験に供した塗膜性能も併せて示す。
【0080】
【表6】

【0081】
試験板の作成
上記実施例及び比較例で得た各缶用塗料を、リン酸クロメート処理が施された厚さ0.26mmの#5182アルミニウム板に乾燥塗膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装し、200℃で3分間焼付けて硬化させた塗装板とした。性能試験は、下記の試験方法に従って行った。
【0082】
(注9)Tベンド折り曲げ加工性:
試験塗板を圧延方向に5cm、垂直方向に4cmに切断した後、20℃の室内にて、特殊ハゼ折り型デュポン衝撃試験器を用い、下部を2つ折にした試験塗板の折曲げ部の間に厚さ0.26mmのアルミニウム板を2枚挟み、試験器にセットし、接触面が平らな厚さ1kgの鉄のおもりを高さ50cmから落下させて折曲げ部に衝撃を与えた後、折曲げ先端部に印加電圧6.5Vで6秒間通電し折曲げ先端部20mm幅の電流値(mA)を測定し、下記基準で評価した。
◎:20mA未満
○:20mA以上、且つ40mA未満
△:40mA以上、且つ80mA未満
×:80mA以上。
【0083】
(注10)加工部の耐食性
上述のTベンド加工試験と同様に試験片を準備し、同様に折り曲げ加工を行ったものを、クエン酸、リンゴ酸、塩化ナトリウムを各1%溶解した混合水溶液に浸漬し、40℃にて2週間貯蔵した後、その折り曲げ加工部の状態を目視にて下記基準により評価した。 ◎:腐食が認められない。
○:腐食がわずかに認められる。
△:腐食がかなり認められる。
×:腐食が著しい。
【0084】
(注11)耐膜残り性:加工部耐食性を評価する場合と同様にして試験塗板に製蓋加工を行い、この缶蓋を100℃の沸騰水中に10分間浸漬後、塗膜面を下側にした状態でその蓋の開口部を上方に引き上げるように開口し、開口端部からの塗膜の剥離幅を下記基準により評価した。
◎:塗膜の最大剥離幅が0.2mm未満、
○:塗膜の最大剥離幅が0.2mm以上で0.5mm未満、
△:塗膜の最大剥離幅が0.5mm以上で1.0mm未満、
×:塗膜の最大剥離幅が1.0mm以上。
【0085】
(注12)耐プロセス白化性:試験塗板を水に浸漬し、オートクレーブ中で125℃で30分間処理した塗膜の白化状態を下記基準により評価した。
◎:全く白化が認められない、
○:ごくわずかに白化が認められる、
△:少し白化が認められる、
×:著しく白化が認められる。
【0086】
(注13)フレーバー性:
各試験板を、脱イオン水中にd−リモネン(香料)30mg/lを加えてS−1170(三菱化学社製、ショ糖脂肪酸エステル)1g/lで分散した液に、35℃で1ヶ月浸漬して貯蔵した。貯蔵後、塗膜に収着したd−リモネン(香料)を測定する為に、ジエチルエーテルに20℃−1週間浸漬して抽出し、抽出されたd−リモネン(香料)をガスクロマトグラフィーによって測定し、以下の基準で評価した。
○:抽出されたd−リモネン(香料)が、塗膜重量120mg当たり0.6mg未満
△:抽出されたd−リモネン(香料)が塗膜重量120mg当たり0.6mg以上で、かつ1.6mg未満
×:抽出されたd−リモネン(香料)が塗膜重量120mg当たり1.6mg以上。
【0087】
(注14)衛生性:試験塗板と活性炭処理した水道水とを試験塗板の塗装面積1cmに対して活性炭処理した水道水の量が1mlとなる割合で、耐熱ガラス製ボトルに入れ、蓋をしてオートクレーブ中にて125℃で30分間処理を行い、処理後の内容液について食品衛生法記載の試験法に準じて、過マンガン酸カリウムの消費量(ppm)に基づき、衛生性を評価した。
◎:消費量が1ppm未満、
○:消費量が1ppm以上3ppm未満、
△:消費量が3ppm以上10ppm未満、
×:消費量が10ppm以上。
(注15)接着性:2枚の試験塗板(150mm×5mm)の塗膜面を被着面としてナイロンフィルムを挟み込み、これを200℃で60秒間加熱し、その後200℃で30秒間加圧してナイロンを両塗膜に融着させたものを試験片とした。次に、この試験片のT型剥離強度を引張り試験機(島津オートグラフAGS−500A)を使用して引張り速度200mm/分、温度20℃の条件で測定した。5回の平均値を下記基準により評価した。
◎:3kg/5mm以上、
○:2kg/5mm以上で3kg/5mm未満、
△:1kg/5mm以上で2kg/5mm未満、
×:1kg/5mm未満。
【産業上の利用可能性】
【0088】
Tベンド折り曲げ加工性、加工部の耐食性、耐膜残り性、耐レトルト白化性、フレーバー性、衛生性及び接着性に優れた塗膜を形成できる金属缶を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(a)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(b)を反応させてなるアクリル変性エポキシ樹脂(A)が中和され水性媒体中に分散されてなる水性被覆組成物であって、
エポキシ樹脂(a)が、エポキシ当量5,000未満のエポキシ樹脂(a1)とエポキシ当量5,000以上のエポキシ樹脂(a2)からなり、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b)が、ガラス転移温度が0〜100℃かつ酸価160〜400mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)とガラス転移温度が−20〜40℃かつ酸価5〜150mgKOH/gであるカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)からなることを特徴とする水性被覆組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(a)とカルボキシ基含有アクリル樹脂(b)との固形分合計を基準にして、エポキシ樹脂(a1)が0.1〜20質量%、エポキシ樹脂(a2)が30〜89質量%、カルボキシル基含有アクリル樹脂(b1)が5〜30質量%及びカルボキシル基含有アクリル樹脂(b2)が5〜30質量%で含有する樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水性被覆組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂(a)におけるエポキシ樹脂(a1)のエポキシ当量が1,500〜4,000で、かつエポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量が6,000〜9,000である請求項1又は2に記載の水性被覆組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(a)におけるエポキシ樹脂(a1)及び/又はエポキシ樹脂(a2)がビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性被覆組成物。
【請求項5】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分合計100質量部を基準にして、レゾール型フェノール樹脂(B)を0.1〜30質量部含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性被覆組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性被覆組成物が、缶の塗装に用いられることを特徴とする缶用塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性被覆組成物が、缶蓋の塗装に用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の缶蓋用塗料組成物。










【公開番号】特開2007−291221(P2007−291221A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120101(P2006−120101)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】