説明

水栓装置

【課題】使用者がセンサ部の検知範囲の近傍に物を誤って近づけた場合であっても、検知信号の周波数の変化の状況から、水栓装置を使用するための検知動作であることを的確に判定することができる水栓装置の提供。
【解決手段】吐水部30と、バルブ250と、センサ部100と、フィルタ部210と、判定部230と、判定部230からの信号に基づいてバルブ250の開閉を制御するバルブ制御部240とを備え、判定部230は、第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を検知信号の信号強度が超えたことを検知した後、第1の周波数帯域よりも低い第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を検知信号の信号強度が超えたことを検知し、その後に第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を検知信号の信号強度が超えたことを検知した場合には、吐水部30からの吐水を行う判定をする水栓装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓装置に関し、より具体的には、手洗い場やトイレ、キッチンなどに設けられ、マイクロ波などを利用した電波センサを用いて吐水流の吐水を制御する水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の手や食器を吐水口に近づけたことを光電スイッチにより検知し、吐水を行う技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
また、マイクロ波などの送信波が被検知体に当たると反射波を生じる。この反射波を受信することにより人体などの被検知体を検知することができるので、これをセンサ部として水栓装置の吐水の自動制御に使用する技術も知られている。
【0003】
例えば、人体を検知して吐水を自動制御する装置としては、人体や人の手を被検知体として、その被検知体からの反射電波の強度をもとに被検知体の有無を検知し、被検知体を検知した場合には吐水を行う装置が知られている。
また、電波のドップラー効果を利用して動体を検知し、外部機器の制御を行う技術が知られている(特許文献2を参照)。
【特許文献1】実開昭61−75570号公報
【特許文献2】特開2007−71658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1(実開昭61−75570号公報)に開示された技術や反射電波の強度をもとに被検知体の有無を検知して吐水を行う技術によれば、誤検知により意図しない吐水が行われるおそれがある。例えば、洗面器やシンク内に置かれた物、あるいは、単にこれらを取ろうとした手を検知して意図しない吐水が行われるおそれがある。
【0005】
特許文献2(特開2007−71658号公報)に開示された技術によれば、水栓装置に対して接近してくる手の動きや水栓装置近傍における手の動きを検知することができる。そのため、洗面器やシンク内に置かれた物を誤検知することを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、動体を検知することができても、水栓装置を使用するために実際に被検知体を検知させようとしているのかを判定することが困難となる場合がある。例えば、水栓装置の使用意思がないにもかかわらず、センサ部の検知範囲の近傍に鍋などの物を近づけてしまう場合がある。そのような場合、意図しない吐水が行われると、手や袖口が濡れてしまうなどの不都合が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、使用者がセンサ部の検知範囲の近傍に物を誤って近づけた場合であっても、検知信号の周波数の変化の状況から、水栓装置を使用するための検知動作であることを的確に判定することができる水栓装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、吐水部と、前記吐水部への水路を開閉するバルブと、放射した電波の反射波によって被検知体に関する情報を取得するセンサ部と、前記センサ部からの検知信号を複数の周波数帯域に分別するフィルタ部と、前記分別された検知信号に基づいて前記吐水部からの吐水の可否を判定する判定部と、前記判定部からの信号に基づいて前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部と、を備え、前記判定部は、第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した後、前記第1の周波数帯域よりも低い第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、その後に前記第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行う判定をすること、を特徴とする水栓装置が提供される。
【0009】
また、本発明の他の一態様によれば、吐水部と、前記吐水部への水路を開閉するバルブと、放射した電波の反射波によって被検知体に関する情報を取得するセンサ部と、前記センサ部からの検知信号を複数の周波数帯域に分別するフィルタ部と、前記分別された検知信号に基づいて前記吐水部からの吐水の可否を判定する判定部と、前記判定部からの信号に基づいて前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部と、を備え、前記判定部は、第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した後、前記第1の周波数帯域よりも低い第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、その後に前記第2の周波数帯域よりも高く、かつ前記第1の周波数帯域とは異なる第3の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の強度信号が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行う判定をすること、を特徴とする水栓装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用者がセンサ部の検知範囲の近傍に物を誤って近づけた場合であっても、検知信号の周波数の変化の状況から、水栓装置を使用するための検知動作であることを的確に判定することができる水栓装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、本明細書において、「検知信号を検知する」とは、「各周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を、検知信号の信号強度が超えたことを検知する」ことを意味している。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る水栓装置を例示するための模式斜視図である。
また、図2は、水栓装置の構成を表すためのブロック図である。
図1、図2に示すように水栓装置1は、センサ部100と、制御部200と、吐水部30と、を備えている。
センサ部100は、高周波センサである。センサ部100は、マイクロ波あるいはミリ波などの高周波の電波を放射(送信)し、放射した電波の被検知体からの反射波を受信する。そして、被検知体に関する情報(被検知体の有無や状態)を含む反射波に基づいた検知信号を出力する。
【0013】
制御部200は、吐水部30への水路を開閉するバルブ250を有する。後に詳述するように、制御部200は、センサ部100からケーブル150を介して入力された検知信号に基づいてバルブ250を駆動する。吐水部30とバルブ250とは、配水管10によって接続されている。バルブ250が開放されている場合には、水は配水管10の内部を通り、吐水部30が有する吐水口32から吐水される。一方、バルブ250が閉止されている場合には、水が吐水口32から吐水されることはない。なお、本願明細書において「水」という場合には、「湯」や「温水」をも含むものとする。また、配水管10の経路上に湯を生成する給湯器等を設置することもできる。そのようにすれば、制御部200から送信されるバルブ250を駆動するための信号に基づいて給湯器等を駆動することができるので、適温の湯を供給することが可能となる。
【0014】
吐水口32の下方には吐水される水を受けるための受水部40が設けられている。受水部40は、吐水流34が着水する受水面41を有する。また、受水部40は、受水面41の周囲に設けられた左側面42と、後面43と、右側面44と、前面45と、をさらに有する(以下、左側面42と、後面43と、右側面44と、前面45と、の少なくともいずれかを「側面」とも言う)。なお、受水面41と、左側面42、後面43、右側面44、前面45などと、の境界は必ずしも明瞭である必要はない。例えば、受水面41と前面45との間が連続的な曲面により形成されていてもよい。また、受水面41と側面とは垂直の関係では無く、受水面41と側面とが識別可能な角度又は形状で形成されていてもよい。特に洗面器等においては、大部分が曲面で形成されているため、側面の識別が困難であるが、そのような形状の場合には、受水面41と異なる角度で形成され、且つ直接吐水を受けることが無い面を側面とすることができる。更に、受水面41は、水平面で形成されるものに限定されず、傾きを持って形成されたものでもよい。また側面はすべて深さ方向に対して同じ長さを有することなく、受水面41及び受水部40全体の形状に応じて変化してもよい。吐水口32から吐水された吐水流34は、矢印(流れ方向)302のように受水面41に対して斜め方向に着水する。但し、これだけに限られるわけではなく、例えば、受水面41に対して略垂直方向に着水してもよい。
【0015】
センサ部100は、受水部40の左側面42の裏側に設けられている。そのため、受水部40の材質は、センサ部100からの電波が放射されやすいものであることが好ましい。例えば、樹脂や陶器などのように、比誘電率が低い材質(例えば、εr=2〜6近傍)とすることが好ましい。なお、受水部40の材質を金属として、少なくともセンサ部100の前面を覆う部分に比誘電率の低い材料(例えば、樹脂や陶器など)からなる図示しない窓部などを設けるようにしてもよい。
【0016】
また、説明の便宜上、センサ部100を左側面42に設ける場合を例示したが、これに限定されるわけではない。例えば、センサ部100を吐水部30が設けられた側の側面以外の側面(左側面42、右側面44、前面45)に設けるようにすることができる。
【0017】
例えば、吐水部30と対峙する側面である前面45の裏側にセンサ部100を設けるようにすることができる。特に、一方向のみから使用される洗面器のようなものの場合には、吐水部30と対峙する側にセンサ部100を設けるようにすることが好ましい。
吐水部30と対峙する側面(前面45)にセンサ部100を設けるようにすれば、水栓装置1の近くにいる使用者が水栓装置1を使用する際に手などの被検知体を差し出しやすい。また、使用者が手を差し出す場所を迷わずに洗浄を行うことも可能となる。
【0018】
また、吐水部30と対峙する側面以外の側面である左側面42または右側面44の裏側にセンサ部100を設けるようにすることができる。このような構成は、特にキッチンのように多方向から水栓装置1を使用する場合に適している。
【0019】
吐水部30と対峙する側面以外の左側面42または右側面44にセンサ部100を設けるようにすれば、吐水操作の簡略化を図ることができる。例えば、左側面42または右側面44の側から水栓装置1を使用する場合においては、立ち位置から吐水部30までの手の動線上に検知範囲が設けられることになる。そのため、吐水操作を行うためだけに手を動かす必要がなくなり、動線上における手の移動だけで吐水をさせることが可能となる。
また、吐水部30と対峙する位置から水栓装置1を使用する場合においても、対峙する側面(前面45)側から左右方向の側面(左側面42、右側面44)に設けられたセンサ部100を目視又は認識することが容易となる。そのため、光電センサのように検知位置が不明確となり吐水操作を行うための検知位置が何処にあるのかを迷うということも低減させることができる。なお、電波を用いたセンサとする場合には、デザイン性を損なわないようにするため受水部から目視出来ない様に隠蔽することも可能である。その場合には、センサ近傍に誘導手段を設け、その誘導手段に対して操作を行うようにすることができる。そのようにすれば、デザイン性を損なわず、且つ操作に迷うことなく使用することが可能となる。
【0020】
また、検知範囲に手(被検知体)が入ったことを図示しない報知部(例えば、警報ブザーやランプなど)によって使用者に知らせることで、五感による識別ができるようにすることもできる。そのようにすれば、吐水操作を行うための検知位置が何処にあるのかを明確にすることができるので、操作のための動作を更に容易にすることができる。なお、前記の誘導手段を報知部として使用することも可能である。例えば、誘導手段が光によって表示されるものである場合には、誘導手段に対して手をかざした際に、誘導手段の光を消灯することにより報知を行うようにすることができる。そのようにすれば、使用者が容易に認識することができるようになる。
【0021】
図3は、センサ部100を例示するためのブロック図である。
センサ部100には、アンテナ112、送信部114、受信部116、ミキサ部118が設けられている。送信部114に接続されたアンテナ112からは、高周波、マイクロ波あるはミリ波などの10kHz〜100GHzの周波数帯の電波が放射される。具体的には、アンテナ112からは、例えば10.525GHzの周波数を有する送信波T1が放射される。人体などの被検知体からの反射波または透過波T2は、アンテナ112を経由して受信部116に入力される。ここで、アンテナは、図3(a)に表したように送信側と受信側とを共通としてもよく、または、図3(b)に表したように、送信部114にはアンテナ112aを接続し、受信部116にはアンテナ112bを接続してもよい。
送信波の一部と受信波とは、ミキサ部118にそれぞれ入力されて合成され、例えばドップラー効果が反映された検知信号(反射信号)が出力される。ミキサ部118から出力された検知信号は、制御部200に向けて出力される。
【0022】
また、図1、図2に示すように、制御部200には、フィルタ部210、判定部230、バルブ制御部240、バルブ250が設けられている。フィルタ部210は、センサ部100からの検知信号を所定の周波数帯域に分別する。判定部230は、周波数帯域に分別された検知信号に基づいて吐水部からの吐水の可否を判定する。バルブ制御部240は、判定部230からの信号に基づいてバルブ250の開閉を制御する。バルブ250は、吐水部30への水路を開閉する。
【0023】
ここで、制御部200についてさらに説明をする。
図4は、制御部を例示するためのブロック図である。
図4に示すように、制御部200には、フィルタ部210、判定部230、バルブ制御部240、バルブ250が設けられている。また、フィルタ部210には、フィルタ210a、フィルタ210b、フィルタ210cが設けられている。フィルタ210aは、例えば、所定の周波数帯域の検知信号を通過させるフィルタとすることができる。また、フィルタ210bはフィルタ210aの周波数帯域よりも高い周波数帯域の検知信号を通過させるフィルタとすることができる。そして、フィルタ210cはフィルタ210bの周波数帯域よりも高い周波数の検知信号を通過させるフィルタとすることができる。例えば、フィルタ210aを通過する周波数を0Hz近傍(例えば、0Hz以上、10Hz以下)とすることができる。また、フィルタ210bを通過する周波数を35Hz以上、45Hz以下とすることができる。フィルタ210cを通過する周波数を75Hz以上、95Hz以下とすることができる。ただし、これに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
なお、本実施の形態においては、水栓装置を使用する使用者の動きや、また使用者が持っている洗浄物の動きに対して検知を行い吐水制御を行うようにしているが、その際100Hz未満の信号を検知することにより判別を行うようにしている。
【0024】
使用者が通常行う動作、例えば手の挿入や引き抜き、歩行等は100Hz未満の信号となる。そのため、100Hz未満の信号を検知することにより、一般的な人体の動作を判別することが可能となる。また、100Hz以上の高い周波数を検知すると、近傍にある蛍光灯ノイズ(100Hz、120Hz)や、通信機等で使用される通信ノイズ、水栓装置を使用しない動き(水栓装置の近傍を手が横切る、水栓装置の近傍で走る)等から得られる検知信号をキャンセルすることが可能となる。そのため、ノイズ等による誤検知を防止することが可能となる。
【0025】
ミキサ部118から出力された検知信号は、周波数の低いベースラインに周波数の高い信号が重畳した波形を有する。この高い周波数成分には、ドップラー効果に関する情報が含まれている。そのため、フィルタ部210においてドップラー効果に関する情報を含む高い周波数成分(ドップラー周波数信号)をも取り出すようにしている。
【0026】
ここで、人体などの被検知体が移動すると、ドップラー効果によって反射波の波長がシフトする。ドップラー周波数ΔF(Hz)は、下記の式(1)により表すことができる。

ΔF=Fs−Fb=2×Fs×v/c ・・・式(1)

但し、Fs:送信周波数(Hz)
Fb:反射周波数(Hz)
v:物体の移動速度(m/s)
c:光速(=300×10m/s)

センサ部100に対して被検知体が相対的に移動すると、式(1)で表されるように、その速度vに比例した周波数ΔFを含む検知信号が得られる。検知信号は周波数スペクトラムを有し、スペクトラムのピークに対応するピーク周波数と移動体の速度vとの間には相関関係がある。そのため、センサ部100(ミキサ部118)から出力された検知信号の高い周波数成分をフィルタ210a、フィルタ210bを介することで所定の周波数帯域に分割し、ドップラー周波数ΔFを測定するようにすれば、速度vを求めることができる。また、各周波数帯域の移り変わりなどを見れば速度の変化(減速/加速)を知ることができる。そして、例えば、判定部230において水栓装置を使用するための検知動作を行っていると判定された場合には、バルブ制御部240によりバルブ250を開放して吐水を行うようにすることができる。なお、日本においては、人体を検知する目的には10.50〜10.55GHzまたは24.05〜24.25GHzの周波数が使用できる。
また、説明の便宜上、検知信号を3つの周波数帯域に分割する場合を例示したが、これに限定されるわけではない。例えば、検知信号を2つの周波数帯域に分割することもできるし、4つ以上の周波数帯域に分割することもできる。周波数帯域の分割数を多くすれば、被検知体の動作状況の解析をさらに詳細に行うことができる。また、検知信号を2つの周波数帯域に分割するようにすれば、フィルタ部210の構成を簡略化することができる。
【0027】
また、例えば、フィルタ210aのように直流成分(0Hz)を含む低い周波数帯域の検知信号を通過させるフィルタをフィルタ部210に設けるようにすれば、被検知体が略静止したことを検知することもできる。この場合、直流成分(0Hz)を含む低い周波数帯域の検知信号としては、例えば、直流成分(0Hz)と0Hzを超え3Hz以下の周波数成分(0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下の周波数成分)を含む検知信号を例示することができる。ここで、略静止とは、静止状態のみならず静止しようとしている直前の人体の僅かな揺らぎや静止を意識した状態における僅かな動き(本人は静止しているつもりなのに、実際はユラユラと動いている動き)などをも含んだ状態を言う。
【0028】
また、フィルタをハードウエアまたはソフトウエアにより構成させることができる。 フィルタをハードウエアにより構成させたものとしては、例えば抵抗器(R)とキャパシタ(C)を構成要素として備えたものを例示することができる。そして、例えば、センサ部100からの検知信号に対して抵抗器(R)、キャパシタ(C)で構成したハイパスフィルタ、及びローパスフィルタを組み合わせることで、必要な周波数帯を分別及び抽出するフィルタを構成することが可能である。ハードウエアによりフィルタを構成した場合には、安価で簡易的な構成のフィルタを得ることが可能となる。ただし、各電子部品(抵抗器(R)、キャパシタ(C))の抵抗値や容量値のバラツキの影響を受けて設定した周波数に変動が生じるおそれがあるので、より厳密な周波数設定をすることが困難となる場合もある。
そのため、ハードウエアにより詳細な周波数設定を行う場合、抵抗及びキャパシタの抵抗値や容量の持つ公差が小さいものを選択するようにすれば、設定した周波数帯域に近い値でフィルタリングを行うことが可能となる。
【0029】
フィルタをソフトウエアにより構成したものとしては、例えばマイクロコンピュータを用いた演算処理によってフィルタリングを行うディジタルフィルタを例示することができる。ディジタルフィルタを用いるようにすれば、フィルタリングする周波数を厳密に設定することができる。そのため、細かい周波数区分を行うことができるので、使用者の動作を的確に判断するのに適しているといえる。ただし、マイクロコンピュータのような演算素子を用いたフィルタリングのため、フィルタの数が多くなると演算時間が長くなる場合もある。この場合、演算時間が長くなると、バルブ250の開閉時間が遅くなるなどの問題が発生するおそれがある。また、直流(DC)や直流(DC)近傍の周波数に対してフィルタリングを行うことが出来ないなどの問題もある。そのため、ソフトウエアにより演算処理を高速化する場合、フィルタの数を少なくしたり、演算素子の演算速度が速いものを選択したりすれば、演算処理を高速化し、詳細なフィルタリングを高速にて行うことが可能となる。
【0030】
また、ハードウエアまたはソフトウエアにより構成されたフィルタを適宜選択するようにするか、両者を組み合わせることでフィルタ部を構成するようにしてもよい。
【0031】
次に、判定部230における吐水の可否判定について例示をする。
図5は、フィルタ部において検知された検知信号を例示するための模式グラフ図である。なお、図5(a)、図5(e)は75Hz以上、95Hz以下の周波数成分を通過させるフィルタを通過した検知信号を例示するための模式グラフ図である。また、図5(b)、図5(d)は35Hz以上、45Hz以下の周波数成分を通過させるフィルタを通過した検知信号を例示するための模式グラフ図である。また、図5(c)は0Hz近傍(0Hz以上、10Hz以下)の周波数成分を通過させるフィルタを通過した検知信号を例示するための模式グラフ図である。なお、各図とも縦軸は電圧(信号強度)を表し、横軸は周波数を表している。更に、図5(a)、(b)、(c)、(d)の並びに関しては時系列的に並べられており、時間が経過するにつれ図5(a)から図5(d)へ移り変わるようになっている。また、前述したように、移動速度が速いほど検知される周波数が高く、センサ部100との距離が近いほど電圧(信号強度)は高くなる。
また、各周波数帯域には所定の大きさの信号強度(電圧)の閾値が設けられ、検知信号の信号強度がこの閾値を超えたことで各周波数帯域における検知信号が検知されるようになっている。
ここで、手などの被検知体をセンサ部100に検知させるためには、まず離れたところからセンサ部100の検知範囲に被検知体を近づける。この際、目的の場所に的確に被検知体を移動させたいので、検知範囲に近づくほど移動速度を減速させ、最終的にはセンサ部100の検知範囲内で最も遅い速度になるか略静止させることになる。
このような被検知体の動作を検知したセンサ部100からは、次のような検知信号が出力される。すなわち、まず、図5(a)に示すような高い周波数帯域(移動速度が速い領域)において各フィルタの中でも最も大きな電圧が出力される。この場合、センサ部100からの距離が遠いためセンサ部から放射された電波が被検知体に届くまでに減衰する。そして、減衰した電波が被検知体に反射して更に減衰されるため、電圧自体は図中A部に示すように低いものとなる。
【0032】
次に、被検知体がセンサ部100に近づくにつれ減速されるので、より低い周波数帯域(移動速度が遅い領域)において検知信号が検知される。すなわち、図5(b)に示すようなより低い周波数帯域(移動速度が遅い領域)において電圧が出力される。この場合、センサ部100により近づくため図中B部に示すように図5(a)のA部よりも電圧自体は増加する。
【0033】
次に、センサ部100の検知範囲内で最も遅い速度になるため、最も低い周波数帯域において検知信号が検知される。すなわち、図5(c)に示すような最も低い周波数帯域において電圧が出力される。この場合、センサ部100に最も近づくため図中C部に示すように電圧自体はより増加する。
【0034】
このような検知信号の周波数帯域の変化の状況(周波数の変化の状況)から、被検知体の動作を知ることができるので、図5(a)〜図5(c)までの検知信号の推移に基づいて吐水をする判定を行うこともできる。ところが、使用者がセンサ部100の検知範囲の近傍に鍋などの物を誤って近づけてしまう場合もある。そのような場合、意図しない吐水が行われると、手や袖口が濡れてしまうなどの不都合が生じるおそれがある。
【0035】
そのため、本実施の形態においては、被検知体がセンサ部100の検知範囲内で最も遅い速度(略静止の場合をも含む)となった後の動作をも考慮に入れて吐水をする判定を行うようにしている。
例えば、センサ部100の検知範囲内に鍋などの物を置いた場合には、その後の移動にはある程度の時間を要する(しばらくは放置される)。これに対し、水栓装置1を使用するための検知動作である場合には、その後、手などの被検知体を洗浄水が吐水される領域へすぐに移動させることが多い。そのため、このような動作をも考慮に入れれば、誤検知を防止することが可能となる。
【0036】
例えば、最も低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)における検知信号の電圧(信号強度)が予め定められた時間保持された後、これよりも高い周波数帯域(例えば、35Hz以上、45Hz以下)における検知信号を検知した場合には、吐水部からの吐水を行わない判定をするようにすることができる。このようにすれば、連続的な動作ではない場合や静止物体を検知した場合には、被検知体による操作と判断することがないので、吐水を行わないようにすることが出来る。そのため、使用者の水を出したくないという意思に応じた吐水の制御を行うことが可能となる。
【0037】
被検知体がセンサ部100の検知範囲内で最も遅い速度(略静止の場合をも含む)となった後に、再び移動を開始した場合には、次のような検知信号が出力される。すなわち、徐々に加速しセンサ部100から遠ざかるので、図5(d)に示すような低い周波数帯域(移動速度が遅い領域)において電圧が出力される。この場合、センサ部100から遠ざかるように移動するため、図中D部に示すように図5(c)に示すC部の場合と比べて電圧は減少する。
【0038】
そして、さらに加速してセンサ部100から遠ざかるため、図5(e)に示すような高い周波数帯域(移動速度が速い領域)において電圧が出力される。この場合、センサ部100からの距離が遠くなるため図中E部に示すように電圧はさらに減少する。
【0039】
図5(a)〜図5(e)までの検知信号の推移があった場合には吐水部から吐水をする判定を行う。すなわち、判定部230において水栓装置1を使用するための検知動作であると判定された場合には、吐水を行う判定をし、バルブ制御部240へ吐水開始(バルブ250の「開」)の指示を行う。
なお、図5(a)〜図5(e)に例示をした検知信号の周波数の変化の状況から吐水の可否判定を行うことができるが、図5(a)〜図5(e)に例示をした5段階の推移を必ずしも検知する必要はない。例えば、略停止の前後における周波数の変化の状況から吐水の可否判定を行うこともできる。そのようにすれば、迅速な判定を行うことができる。
【0040】
例えば、所定の周波数帯域(例えば、35Hz以上、45Hz以下)において閾値以上の検知信号を検知した後、この周波数帯域よりも低い周波数帯域(例えば、0Hz以上、10Hz以下)において閾値以上の検知信号を検知し、その後にこの低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)よりも高い周波数帯域(例えば、35Hz以上、45Hz以下)において閾値以上の検知信号を検知した場合には、吐水部からの吐水をする判定を行うようにすることもできる。また、検知する周波数帯域の数を増やすこともできる。そのようにすれば、さらに詳細な解析を行うことができる。
【0041】
また、電圧(信号強度)の変化の状況をも考慮すれば検知精度をさらに高めることが可能となる。被検知体は、検知範囲近傍では減速を行うため、周波数から距離を概略把握することが可能である。しかしながら、検知信号の電圧が、被検知体による反射量、ひいてはセンサ部100から被検知体までの距離に依存しているため電圧によって被検知体までの距離を更に正確に把握することが可能となる。
【0042】
そのため、たまたま減速が検知されるような周波数の変化が生じた場合であっても、電圧(距離)をも考慮することで誤検知を防止することが可能となる。この場合、予め定められた閾値に基づいて、その検知信号が、所定の検知範囲内で起こっている動作か否かを判断するようにすれば、誤検知をさらに防止することが可能となる。例えば、低い周波数帯域(例えば、図5(c))における検知信号の閾値を、それよりも高い周波数帯域(例えば、図5(b))における検知信号の閾値よりも大きく設定すると、誤検知をさらに防止できる。
【0043】
また、さらに検知精度を向上させるためには、閾値を超えた電圧(信号強度)がどの程度の時間保持されているかを考慮することが好ましい。そのようにすれば、ノイズや突発的に発生した動作による検知信号(例えば、落下する物体が検知範囲内を通過した等)に対しての誤吐水を防止することが可能となる。なお、閾値を超えた検知信号がどの程度の時間保持されている必要があるかは、水栓装置1が設置される場所や状況に応じて異なるため、別途設定可能な構成とすることが望ましい。
【0044】
また、前述したように減速した後に、被検知体が略静止状態になる場合には、直流信号(DC信号)が検知される。この場合、直流信号(DC信号)によって確実に検知範囲内に接近したことを判定することができる。そして、その後の加速を検知することで、被検知体が接近後に吐水領域へ移動したこと(センサ部100から遠ざかったこと)を容易に確認することができる。そのため、誤検知を低減することが可能となる。
また、最も低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)に設けられる閾値を、他の周波数帯域に設けられる閾値よりも大きくすることが好ましい。
各周波数帯域に設けられる閾値は電圧値である。また、高周波センサからの検知信号の振幅値には、いわゆる距離情報を含んでいる。そして、最も低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)は「略静止」状態の周波数帯域であるので、その閾値は静止状態が検知できる値とすることになる。この場合、この最も低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)に設けられる閾値を低くすれば、遠くの静止物体をも検知してしまうことになる。そのため、シンクで言えば、鍋や食器等をシンク内部に置いて、手が離遠すると吐水が行われてしまうおそれがある。
一方、最も低い周波数帯域(例えば、0Hz近傍;0Hz以上、10Hz以下)に設けられる閾値を高くすれば(例えば、少なくとも他の周波数帯域に設けられる閾値よりも高くすれば)、センサ近傍の略静止物体しか検知対象とならないため、遠方に物体が置かれた場合においても、検知されることがない。よって人が操作しようとしない限りは吐水を行わないようにすることができるので、誤吐水を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る水栓装置を例示するための模式斜視図である。
【図2】水栓装置の構成を表すためのブロック図である。
【図3】センサ部を例示するためのブロック図である。
【図4】制御部を例示するためのブロック図である。
【図5】フィルタ部において検知された検知信号を例示するための模式グラフ図である。
【符号の説明】
【0046】
1 水栓装置、10 配水管、30 吐水部、32 吐水口、40 受水部、41 受水面、42 左側面、43 後面、44 右側面、45 前面、100 センサ部、200 制御部、210 フィルタ部、210a フィルタ、210b フィルタ、210c フィルタ、230 判定部、240 バルブ制御部、250 バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐水部と、
前記吐水部への水路を開閉するバルブと、
放射した電波の反射波によって被検知体に関する情報を取得するセンサ部と、
前記センサ部からの検知信号を複数の周波数帯域に分別するフィルタ部と、
前記分別された検知信号に基づいて前記吐水部からの吐水の可否を判定する判定部と、
前記判定部からの信号に基づいて前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部と、
を備え、
前記判定部は、第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した後、前記第1の周波数帯域よりも低い第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、その後に前記第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行う判定をすること、を特徴とする水栓装置。
【請求項2】
吐水部と、
前記吐水部への水路を開閉するバルブと、
放射した電波の反射波によって被検知体に関する情報を取得するセンサ部と、
前記センサ部からの検知信号を複数の周波数帯域に分別するフィルタ部と、
前記分別された検知信号に基づいて前記吐水部からの吐水の可否を判定する判定部と、
前記判定部からの信号に基づいて前記バルブの開閉を制御するバルブ制御部と、
を備え、
前記判定部は、第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した後、前記第1の周波数帯域よりも低い第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、その後に前記第2の周波数帯域よりも高く、かつ前記第1の周波数帯域とは異なる第3の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の強度信号が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行う判定をすること、を特徴とする水栓装置。
【請求項3】
前記第2の周波数帯域における前記検知信号の信号強度の閾値は、前記第1の周波数帯域における前記検知信号の信号強度の閾値よりも大きいこと、を特徴とする請求項1記載の水栓装置。
【請求項4】
前記第2の周波数帯域における前記検知信号の信号強度の閾値は、前記第1の周波数帯域および前記第3の周波数帯域における前記検知信号の信号強度の閾値よりも大きいこと、を特徴とする請求項2記載の水栓装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、前記閾値を超えた状態が予め定められた時間保持された後、前記第1の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行わない判定をすること、を特徴とする請求項1または3に記載の水栓装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記第2の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知し、前記閾値を超えた状態が予め定められた時間保持された後、前記第3の周波数帯域に設けられた信号強度の閾値を前記検知信号の信号強度が超えたことを検知した場合には、前記吐水部からの吐水を行わない判定をすること、を特徴とする請求項2または4に記載の水栓装置。
【請求項7】
前記第2の周波数帯域は、0Hzを含む周波数帯域であること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の水栓装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−263970(P2009−263970A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114204(P2008−114204)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】