説明

水浄化用成形体及びその製造方法。

【課題】水との接触により長期にわたり優れた水浄化能力を発揮する水浄化用成形体及びその製造方法を提供しようとする。
【解決手段】炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む複合物であり、前記炭粉の粒子が前記接着剤を介して連結されて多孔質体が形成されてなる、水浄化用成形体である。また、炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む混合物を硬化させて成形体を得る水浄化用成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に接触させてその水を浄化する水浄化用成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水に接触させることによりその水を浄化することについては活性炭や炭などの炭素材を他素材と複合的に使用した方法やそのための部材が幾多知られている。(例えば、特許文献1、2参照)これらは汚水中の不純物を活性炭や炭に吸着させることにより水の浄化を行うものであり、活性炭や炭の吸着サイトが不純物等の被吸着物で飽和してしまうと浄化能力が失われるので、頻繁な交換を要する場合が多い。
【0003】
一方、活性炭や炭を有機物を消費する好気性菌などの菌の担体として利用することにより水処理を行う方法が開示されている。(例えば、特許文献3参照)この方法は汚水中に自然生息している菌が担体に自然に付着することを利用するものであり、その菌が汚水中の有機物を栄養素として増殖して汚泥となり、浄化能力が低下する問題がある。
【特許文献1】特開2000−233189号公報
【特許文献2】特開2007−831号公報
【特許文献3】特開2000−176489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水との接触により長期にわたり優れた水浄化能力を発揮する水浄化用成形体及びその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む複合物であり、前記炭粉の粒子が前記接着剤を介して連結されて多孔質体が形成されてなる、水浄化用成形体であることにある。
【0006】
前記菌は、乾燥により休眠状態にある菌であり得る。
【0007】
前記菌は、Empedobactor属細菌のSIID2926−1b株(FERM AP−20108)であり得る。
【0008】
前記接着剤は、セメント系の接着剤であり得る。
【0009】
前記炭粉は、南洋材を炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含み得る。
【0010】
前記炭粉は、気乾比重0.5以下の木材を炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含み得る。
【0011】
前記炭粉は、木材を450℃以上800℃未満で炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含み得る。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、
炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む混合物を準備する工程、
前記接着剤を硬化させることにより前記混合物を固化させて成形体を得る工程
を含む水浄化用成形体の製造方法であることにある。
【0013】
さらに、本発明の要旨とするところは、前記接着剤がセメントとセメント用凝固剤を含み、
前記混合物を静置することにより前記セメントを凝固させて成形体を得る前記水浄化用成形体の製造方法であることにある。
【0014】
前記水浄化用成形体の製造方法においては、前記セメント用凝固剤が金属イオンの水溶液を含み得る。
【0015】
前記水浄化用成形体の製造方法においては、前記セメント用凝固剤が、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化第二、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウムを含み得る。
【0016】
前記水浄化用成形体の製造方法においては、前記菌が乾燥により休眠状態にある菌であり得る。
【0017】
前記水浄化用成形体の製造方法においては、前記菌がEmpedobactor属細菌のSIID2926−1b株(FERM AP−20108)であり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、水との接触により長期にわたり優れた水浄化能力を発揮する水浄化用成形体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の水浄化用成形体は、炭粉と水中の有害物質を消費して分解または変化させる機能を有する菌(以下浄化用菌と称する)と接着剤とを含んでなる複合物であり、その炭粉の粒子がその接着剤を介して連結されて多孔質体が形成されてなる水浄化用成形体である。浄化用菌は炭粉の粒子に担持された状態で水浄化用成形体の表面や内部に存在している。
【0020】
浄化用菌としては、Bacillus属細菌、Clostriduim属細菌、Thermus属細菌、Pseudomonas属細菌、Empedobactor属細菌から選択される1または複数種の菌が挙げられる。なかでも、本発明の水浄化用成形体に用いられる菌としては、Empedobactor属細菌が好ましい。Empedobactor属細菌のなかでも、SIID2926−1b株(FERM AP−20108)が本発明の水浄化用成形体の水浄化性能のうえで最も好ましい。
【0021】
本発明の水浄化用成形体に含まれる浄化用菌は、乾燥により休眠状態にある菌であることが好ましい。この場合、水浄化用成形体が水中に投入されるなどして水と接触することにより、浄化用菌が吸湿して活性化し、炭粉の粒子の吸着作用と相俟って優れた水浄化能力を発揮する。
【0022】
水浄化用成形体の未使用時に、この水浄化用成形体に含まれる浄化用菌が湿潤状態にあり活性化していると、水浄化用成形体の未使用時に、この菌が異常増殖して腐敗し、水浄化能力が充分発揮されない場合がある。
【0023】
浄化用菌は比較的強いアルカリ性の水の中では増殖が制限されるので、水浄化用成形体が水に接触している状態では、炭の近傍の水がアルカリ性となることにより、浄化用菌の過度の増殖が抑制される。これにより、浄化用菌の過度の増殖による汚泥の発生が抑制され、過度に増殖した菌により汚水と炭粉粒子との接触が妨げられて炭の吸着能力が低下するという現象も抑制され、浄化能力が長期にわたり維持される。
【0024】
接着剤としてはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂で例示されるような樹脂系の接着剤の使用が可能であるが、セメントが好ましい。接着剤がセメントであることにより、水浄化用成形体が水中に置かれた状態で接着剤の近傍がよりアルカリ性となるので、浄化用菌の過度の増殖がさらに抑制され、浄化能力がさらに長期にわたり維持される。
【0025】
炭粉としては木、竹、籐、籾殻、等の植物由来のセルロース系物質の炭化物が粒状物してなるものが用いられる。炭粉の粒子の粒径は0.001〜1mmであることが好ましい。炭粉としては南洋材を原料とする炭が粉砕されてなる炭粉が好適に用いられる。南洋材は国産材に比べて成長が速く細胞組織が粗くて大きいので、多孔質の炭化物の細孔のサイズが大きく、この細孔に浄化用菌がはまりやすく、安定した浄化用菌の担持がなされ、浄化用菌の浄化活動が円滑に行なわれ、なら、かしなどの細胞組織の密な国産材の炭粉を使用した場合に比べると、優れた水浄化効果が得られる。また、炭粉に代えて粉状の活性炭を用いた場合は細孔のサイズが炭に比べさらに小さいので、浄化用菌がさらに安定して担持されにくく、長期にわたる優れた水浄化効果を得ることができない。
【0026】
このような南洋材としては、ラミン、ゴム、ラワン、カポール、テレンタン、メランティ、ゲロンガン、ピサンピサン、ファルカータ、プナ、ケンパス、バラン、ビンタングル、ニャトー、アガチス、が例示されるが成長が速く細胞組織が粗くて大きいものであればこれらに限定されない。
【0027】
南洋材に限らず、本発明において使用する木材の気乾比重が0.5以下であることが細孔のサイズが大きい炭化物を使用できて好ましい。例えば、気乾比重0.5以下の桐、杉類、松類のような木材であることが好ましい。
【0028】
また、炭粉に用いる炭としては上記セルロース系物質が450℃以上、800℃未満で炭化焼成されたものであることが好ましい。炭化焼成温度が、例えばいわゆる白炭や備長炭におけるように、800℃以上であると、炭が過度にアルカリ性となり、担持された浄化用菌の増殖や活動が妨げられて浄化能力が最大限には発揮されない傾向にある。炭化焼成温度が450℃を下回ると炭が酸性となり、担持された浄化用菌の増殖や活動が妨げられて浄化能力が最大限には発揮されない傾向にある。
【0029】
炭粉は、炭を公知の粉砕手段により粉砕して得てもよい。おがくずや木材の粉砕物などの、木材の粒状物を焼成して得てもよい。
【0030】
本発明の水浄化用成形体は、炭粉と、浄化用菌と、硬化あるいは凝固前の接着剤と、必要ならば接着剤の硬化剤あるいは凝固剤と、を含む混合物を含む成形体前駆体を、接着剤の硬化あるいは凝固により固化させることにより得ることができるが、接着剤がセメントである場合、水のみを凝固剤として使用すると成形体の必要な強度を得るためには、大量の水を必要とし、成形体前駆体が大量の水を含有するものとなる。このため、成形体前駆体中の浄化用菌がその水に浸かることとなり、水に浸かった浄化用菌が活性化し、浄化用菌が活性化した状態で成形体前駆体の固化が行なわれ、固化により浄化用菌が損傷されてしまう傾向にある。またセメントの固化により炭粉の細孔の大部分が閉塞され、細孔中の浄化用菌の活動が阻害される。セメントの量を減らして閉塞を防ぎ、多孔質の成形体を得ようとすれば、成形体の強度が低いものとなってハンドリングに支障をきたすことがあり、取り扱い方や用途が限定される。
【0031】
本発明においては、セメントの凝固剤として金属イオンを含む水溶液を用いることにより、セメントを接着剤とする成形体前駆体の固化に必要な水分を少なくし、かつ充分な強度の成形体が得られることがわかった。これにより、成形体前駆体中の浄化用菌を乾燥による休眠状態で成形体前駆体の固化を行なうことができる。またセメントの固化により炭粉の細孔が閉塞されることが少なく、成形体を水に投じて浄化作用を行うときに浄化用菌が活性を回復し細孔中の浄化用菌の活動が充分に行なわれる。
【0032】
このように、成形体前駆体の段階では、浄化用菌は乾燥により休眠状態にあることが好ましい。このような成形体前駆体を固化してなる本発明の水浄化用成形体においても、この成形体に担持されている浄化用菌は乾燥により安定した休眠状態にあり、このような本発明の水浄化用成形体は性能を低下させることなく未使用状態での長期の保存が可能である。
【0033】
セメントの凝固剤として用いられる水溶液に含有される好適な金属イオンとしては、カルシウムイオン、カリウムイオン、第二鉄イオン、マグネシウムイオン、が例示される。
【0034】
さらに、凝固剤として用いられる水溶液が、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化第二鉄、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウムを含む場合は、少量の水の使用により高強度の成形体が得られ、成形体を水に投じて浄化作用を行うときに細孔中の浄化用菌の最も充分な活動が得られる。
【0035】
また、本発明においては、通常は、浄化用菌を用いるときにはその培養物と混合状態のものが用いられる。また、浄化用菌のかわりに浄化用菌の培養物を用いることができる。培養物とは浄化用菌の培養に用いた培地と浄化用菌の育成に伴ってその培地に放出された化合物や酵素を含むものをいう。浄化用菌自体が水中の化合物を消費して分解できるが、浄化用菌が産生する酵素等も同様の機能を有すると考えられる。
【0036】
本発明の水浄化用成形体は、上述のように、炭粉と、浄化用菌および/またはその培養物と、凝固あるいは硬化前の接着剤と、必要に応じて添加される硬化剤あるいは凝固剤を攪拌混合して成形体前駆体となし、所定の型にいれて接着剤を硬化あるいは凝固などによりかたまらせて得ることができるが、この成形体前駆体は、炭粉100重量部に対して、浄化用菌および/またはその培養物5〜20重量部、凝固あるいは硬化前の接着剤15〜60重量部が配合されてなることが好ましい。
【0037】
接着剤がセメントである場合、金属イオンを含む水溶液からなる凝固剤が成形体前駆体全体に対して0.5〜3重量部配合されることが好ましい。
【0038】
接着剤がセメントである場合、成形体前駆体に含まれる水の割合は成形体前駆体全体に対して5〜30重量%であることが好ましい。この水の割合がこの範囲を下回ると成形体の強度が不足する。この範囲を上回ると浄化用菌および/またはその培養物が膨潤してセメントの凝固が妨げられて成形体がもろくなり、ハンドリングに支障をきたす。
【0039】
接着剤がセメントである場合、成形体前駆体に含まれる浄化用菌および/またはその培養物の乾燥物の配合割合が炭粉100重量部に対して5〜20重量部の範囲を下回ると、水浄化用成形体としての水浄化能力が充分でない。この範囲を上回ると、および/またはその培養物が膨潤して成形体がもろくなり、ハンドリングに支障をきたす。
【0040】
本発明においては、成形体前駆体中の浄化用菌および/またはその培養物の乾燥物とは、その浄化用菌および/またはその培養物の水分率が50重量%以下であるものをいう。そのためには、浄化用菌および/またはその培養物を、水分率50重量%以下の乾燥状態で硬化前の接着剤と混合することが好ましい。
【0041】
また、本発明においては、浄化用菌を含む液に炭粉を混合し、浄化用菌を炭粉に吸着させたのち硬化前の接着剤等と混合して成形体前駆体を得てもよい。この場合、接着剤に混合する前に浄化用菌を吸着させた炭粉を乾燥しておくことが好ましい。あるいは本発明においては、浄化用菌を含む液と炭粉と接着剤等とを混合して成形体前駆体を得てもよい。この場合はこの成形体前駆体は固化前に乾燥しておくことが好ましい。
【0042】
本発明の水浄化用成形体は、汚水に浸漬して静置しておく態様で浄化を行う他に、流水の経路の一部分に配置してその流水と接触させる態様で浄化を行うこともできる。
【0043】
実施例1
浄化用菌の培養
水400重量部に浄化用菌(Empedobactor属細菌のSIID2926−1b株(FERM AP−20108))0.5重量部、グルコース10重量部、ペプトン5重量部、酵母エキス2.5重量部を添加し、30℃で5日間培養し培養液を得た。この配合比率によるこの培養液4000重量部に米糠10000重量部、コーヒー粕1000重量部、蜂蜜2重量部を加え、発酵熱による温度上昇に注意しつつ55℃を超えないように適宜攪拌して5日間静置培養し培養物を得た。この培養物を自然乾燥して乾燥培養物を得た。この乾燥培養物の水分率は15%であった。
【0044】
炭粉
南洋材であるファルカータを約600℃で乾留して得た炭を粉砕し、平均粒径約0.5mmの炭粉としたものを用いた。
成形体前駆体
【0045】
上記炭粉100重量部、水20重量部、普通ポルトランドセメント50重量部、セメント用凝固剤1重量部を攪拌混合して混合物を得た。この混合物に上記乾燥培養物10重量部を加えて攪拌混合して成形体前駆体を得た。セメント用凝固剤は、塩化カルシウム2量部、塩化カリウム2重量部、塩化第二鉄2重量部、酸化マグネシウム2重量部、塩化マグネシウム2量部、塩化アンモニウム2重量部、水2500重量部からなる水溶液である。
【0046】
水浄化用成形体
上記成形体前駆体を型枠に入れて約5000Paで加圧後24時間静置してサイズ2cm×5cm×5cmのブロック状の水浄化用成形体を得た。
【0047】
浄化テスト1
汚水として市街を流れる川から採取した水を用いた。この水(原水)のCODは15ppmであった。
【0048】
A槽、B槽の2個の槽(容量200リットル)それぞれに原水各100リットルを入れた。A槽に、ブロック状の水浄化用成形体50個を投入した。B槽に、市販の樹脂(PP)製接触濾材(径約5cmの円盤状)を100枚投入した。
【0049】
次いで各槽の水を曝気状態で48時間経過させた後のCODは、A槽約8ppm、B槽約13ppmであり、上記水浄化用成形体のすぐれた浄化能力を確認した。
【0050】
浄化テスト2
a槽、b槽の2個のガラス水槽(容量50リットル)それぞれに井戸水20リットルを入れて太町約5cmの金魚各5匹を飼育した。a槽に上記水浄化用成形体3個を投入し水槽の底に静置した。各槽とも通常の曝気のもとに飼育を行い、6日経過後の水質を測定した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
また、a槽はb槽にくらべてアオコの発生が少なく、水の透明性が高く、b槽がアオコにより水槽壁が曇ったのに対して、a槽はアオコによる水槽壁の曇りがほとんどなかった。
【0053】
浄化テスト3
図1に示すように、長さ5m、内径20cmの塩ビ管を2つに縦割りした樋状物2の底部4に、上記成形体前駆体を樋状物2の長手方向に沿って断面かまぼこ形状に敷き詰めて、12日間静置して固化させ、樋状物2とかまぼこ型水浄化用成形体6との複合体である長尺複合体8を得た。かまぼこ型水浄化用成形体6の上面10と樋状物2の露出内壁12とで、樋状物2の長手方向に延びる溝14が形成されている。図2に示すように、複合体8を長手方向に関して水平から傾けて、かつ溝14が上方に開口するように配置させ、循環ポンプ16と導水パイプ18により水を複合体8の上方片端部20に導いて、上面10上を流下させた。上面10上を流下した水を複合体8の下端部21から受け槽22(容量100リットル)に受け、再び循環ポンプ16と導水パイプ18により水を複合体8の上方片端部20に導いて流量5リットル/mimで循環させた。
【0054】
始めの24時間は水のみを循環させた。
次に、循環を続けながら受け槽22に市販の粒状肥料(8−8−8)を100g投入し溶解させた。この直後の受け槽22内の水を採取しサンプル1とした。その後17時間経過後に上面10上を流下する水を水質測定用に採取し、サンプル2とした。
そのまま水を循環させ、循環開始時から48時間後に循環を停止し、同時に複合体8の上面10を水道水によりその圧を利用して洗浄した。洗浄に用いた水を採取し、サンプル3とした。
この洗浄とともに循環水を清水に交換し、水の循環を再開した。この再開時から24時間経過の時点で上面10上を流下する水を水質測定用に採取し、サンプル4とした。
【0055】
各サンプルの水質測定結果を表2に示す。水浄化用成形体との接触流下により流水中の肥料成分(窒素成分、リン成分)が浄化されたことを確認した。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例2
実施例1で得たと同様の成形体前駆体を型に入れて実施例1と同様にして固化させ、径3cm、高さ3cmの円柱形の水浄化用成形体を得た。この成形体をサンプル(1)とする。
【0058】
ビーカー(容量1リットル)に培地(溶液)を600ccを入れ、さらにサンプル(1)をビーカーに6個投入した。その後、養魚用曝気装置による培地の曝気を継続しつつ、サンプル投入後の培地のpH、成分(イオン、グルコース)、COD、を測定し、表4、5に示す結果を得た。
【0059】
表3に培地1リットル中の成分を示す。残余は蒸留水である。この培地のpHは7.0であった。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
表4、5における変化率はサンプル投入直後(経過時間0)の各項目の測定値を100としたときの対応する項目の測定値の比率を示す。
【0064】
表4、5で示されるように、硝酸イオンは2日目に、リン酸イオン、亜硝酸イオンは2〜3日目にほぼ消失した。アンモニウムイオンは3日でほぼ半減した。
【0065】
pHの上昇はサンプルからセメント成分由来のアルカリイオンの溶出によるものと思われる。
【0066】
グルコースは菌の生育にともない減少した。CODは途中減少し、後に菌の代謝物及び菌体分解物等により再び上昇した。なお、液中の菌のDNAを調べたが、主として単悍菌であり、サンプル(1)に含まれている菌とは一致しなかった。培地(溶液)中の、アンモニウムイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン及びリン酸イオンの減少は、水浄化用成形体への吸着によるものではなく、水浄化用成形体中の菌の増殖により消費されたことによるものと思われる。
【0067】
実施例3
睡蓮鉢(径80cm、高さ60cm)に水を張り、睡蓮苗を10株定着させた。1ヶ月放置したところ水が濁って睡蓮の成長が停滞した。この鉢の水底に実施例1で得たと同様の水浄化用成形体10個を投入した。その後20日経過させたところ、水が澄んできて睡蓮の生育が進行しはじめた。さらにその後1ヶ月で睡蓮鉢の水面を満たすぼどに睡蓮が生育した。この間、水はきわめて清澄な状態を維持した。
【0068】
比較例1
実施例3と同様な睡蓮鉢に水を張り、実施例3と同時期に睡蓮苗を10株定着させた。1ヶ月放置したところ水が濁って睡蓮の成長が停滞した。その後50日放置を続けたが、水は濁ったままであり、雑草類が繁茂し睡蓮の生育は停滞したままであった。
【0069】
実施例4
実施例1で得たと同様の成形体前駆体を用いて、この成形体前駆体を型枠に入れて**日静置してサイズ5cm×10cm×20cmのブロック状の水浄化用成形体を得た。この水浄化用成形体20個を、あおこの発生で濁り底が見えない状態の池(20m、深さ50cm)に投入し池底に静置した。1ヶ月経過後、池は清澄になり、底まで透き通って見えるようになっていた
【0070】
比較例2
炭粉に代えて平均粒径約0.5mmの活性炭を用いたほかは実施例4と同様にして水浄化用成形体を得た。この水浄化用成形体20個を、あおこの発生で濁り底が見えない状態の池(20m、深さ50cm)に投入し池底に静置した。投入当初は池がやや清澄になったが、1ヶ月経過後、池は濁りが目立つようになった。
【0071】
実施例5
実施例1で用いたと同様の炭粉100重量部、エポキシ樹脂(商品名:エピコート828)20重量部、常温硬化用触媒0.2重量部を混合攪拌し、次いで実施例1で用いたと同様の乾燥培養物10重量部を加えて混合攪拌し成形体前駆体を得た。この成形体前駆体を型枠に入れて35℃で48時間静置してサイズ2cm×10cm×10cmのブロック状の水浄化用成形体を得た。得られた水浄化用成形体を、実施例3と同様にして睡蓮苗を定着して水が濁って睡蓮の成長が停滞した睡蓮鉢の水底に投入した。その後20日経過させたところ、水が澄んできて睡蓮の生育が進行しはじめた。さらにその後1ヶ月で睡蓮鉢の水面を満たすぼどに睡蓮が生育した。この間、水は清澄な状態を維持した。
【0072】
実施例6
乾燥培養物として、上水道用の浄化槽で採取した、Bacillus属細菌を含有する活性汚泥、の乾燥物(水分率15重量%)を用いた他は実施例1と同様にして水浄化用成形体を得た。得られた水浄化用成形体1個を、CODが50ppmの汚水を200cc入れたビーカー中に投入した。投入から24時間後の汚水のCODは25ppmであった。
【0073】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】水浄化に用いる、本発明の水浄化用成形体を用いた長尺複合体の断面図である。
【図2】図1に示す長尺複合体を用いた水浄化実験の態様を示す側面模式図である。
【符号の説明】
【0075】
2:樋状物
8:長尺複合体
16:循環ポンプ
18:導水パイプ
22:受け槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む複合物であり、前記炭粉の粒子が前記接着剤を介して連結されて多孔質体が形成されてなる、水浄化用成形体。
【請求項2】
前記菌がEmpedobactor属細菌のSIID2926−1b株(FERM AP−20108)である請求項1または2に記載の水浄化用成形体。
【請求項3】
前記接着剤がセメント系の接着剤である請求項1または2に記載の水浄化用成形体。
【請求項4】
前記炭粉が、南洋材を炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含む請求項1から3のいずれかに記載の水浄化用成形体。
【請求項5】
前記炭粉が、気乾比重0.5以下の木材を炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含む請求項1から4のいずれかに記載の水浄化用成形体。
【請求項6】
前記炭粉が、木材を450℃以上800℃未満で炭化焼成してなる炭由来の炭粉を含む請求項1から5のいずれかに記載の水浄化用成形体。
【請求項7】
炭粉と、水中の有害物質を消費する菌と、接着剤とを含む混合物を準備する工程、
前記接着剤を硬化させることにより前記混合物を固化させて成形体を得る工程
を含む水浄化用成形体の製造方法。
【請求項8】
前記接着剤がセメントとセメント用凝固剤を含み、
前記混合物を静置することにより前記セメントを凝固させて成形体を得る請求項7に記載の水浄化用成形体の製造方法。
【請求項9】
前記セメント用凝固剤が金属イオンの水溶液を含む請求項8に記載の水浄化用成形体の製造方法。
【請求項10】
前記セメント用凝固剤が、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化第二、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウムを含む請求項9に記載の水浄化用成形体の製造方法。
【請求項11】
前記菌が乾燥により休眠状態にある菌である請求項7から10のいずれかに記載の水浄化用成形体の製造方法。
【請求項12】
前記菌がEmpedobactor属細菌のSIID2926−1b株(FERM AP−20108)である請求項7から11いずれかに記載の水浄化用成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−95738(P2009−95738A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268768(P2007−268768)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(504398454)株式会社アオヤマエコシステム (8)
【Fターム(参考)】