説明

水浄化装置および水浄化方法

【課題】 高価な酸素ガスを用いず、容易に、且つ簡単な構成で、水中に存在する有機物を効果的に分解することができる水浄化方法及び水浄化装置を提供する。
【解決手段】 有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入した後、該処理水を、紫外線を照射しながら酸化チタンを表面に有する光触媒に接触させることを特徴とする水浄化方法に関する。光触媒としては、表面に酸化チタンを有する光触媒繊維の不織布であることが好ましい。また、光触媒に照射される前記紫外線は、180−190nmと250−260nmとにピーク波長を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する不要な有機物を光触媒を用いて効果的に分解することにより水を浄化することができる水浄化装置及び水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排水の再生利用が進められており、再生利用をするために生物処理による排水中に含まれる有機物の分解が行われてきた。しかし、上記生物による排水処理は処理施設の大型化および処理時間の長時間化は否めない。そこで水中に含まれる有機物を効果的に分解、浄化できる水処理装置が求められている。水中に含まれる不要な有機物を浄化する装置として、例えば特許文献1においては、酸化チタン光触媒を利用し効率的にOHラジカルを生成させ、このOHラジカルと水中の有機物とが良好に接触する構造であり、高い分解効率が得られることが開示されている。
【0003】
また、水中の有機物質の分解方法として、特許文献2には、処理水中に酸素ガスをバブリングする方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3436267号公報
【特許文献2】特開2002−113474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、酸素純度の高い酸素ガスを用いるために、酸素ガスの取扱いに注意が必要となり、高価であり、特殊な装置等が必要となり、実用的ではない。また、特許文献1に記載の水処理装置は、優れた水処理装置であるが、現代の高い水質基準を満たすための十分な分解効率を得られないという問題を有し、さらに高い分解効率が求められている。本発明は、高価な酸素ガスを用いず、容易に、且つ簡単な構成で、水中に存在する有機物を効果的に分解することができる水浄化方法及び水浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、有機物を含む処理水に空気のマイクロバブルを注入した処理水を光触媒で処理することにより、効率的に水の浄化ができることを見いだし本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入した後、該処理水を、紫外線を照射しながら酸化チタンを表面に有する光触媒に接触させることを特徴とする水浄化方法に関する。光触媒としては、表面に酸化チタンを有する光触媒繊維の不織布であることが好ましい。また、光触媒に照射される前記紫外線は、180−190nmと250−260nmとにピーク波長を有することが好ましい。
また、本発明は、有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入するマイクロバブル注入槽と、該マイクロバブル注入槽から流出した処理水中の有機物を光触媒により分解する光触媒分解槽とからなる水浄化装置に関する。前記光触媒分解槽の一実施形態として、表面に酸化チタンを有する光触媒繊維の平板状不織布と、紫外線ランプとが処理水の流れ方向に対してほぼ垂直に設置されていることが好ましい。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、前記光触媒繊維は、光触媒機能を有するシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物の繊維からなり、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しているシリカ基複合酸化物繊維である前記水浄化装置に関する。
【0008】
さらに、本発明の一実施形態は、前記光触媒繊維の表面に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1以上の金属が担持されている前記の水浄化装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、水中に存在する不要な有機物を高価な酸素ガスを用いず大気中の空気をマイクロバブル化させることで光触媒による有機物の分解が効果的に行える水浄化方法及び水浄化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に係る水浄化方法及び水浄化装置の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施の形態に関わる水浄化装置の概念断面図である。本発明の水浄化方法は、有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入した後、該処理水を、紫外線を照射しながら酸化チタンを表面に有する光触媒に接触させることを特徴とする。
【0011】
本実施の形態に係る水浄化装置10は、空気のマイクロバブルを注入するマイクロバブル注入槽20と、マイクロバブル注入槽20から流出した処理水中の有機物を光触媒により分解する光触媒分解槽30で構成されている。有機物を含んだ処理水は、処理水流入口11より流入し、マイクロバブル注入槽20中でマイクロバブルを含んだ処理水になる。このマイクロバブルを含んだ処理水は、送水ライン12を通って光触媒分解槽30に流入され光触媒分解槽30中を通過する際、光触媒によって有機物は分解され、処理された水は処理流出口13より流出する。
【0012】
図2は本実施の形態に係るマイクロバブル注入槽20の概念断面図である。マイクロバブル注入槽20では、処理水にマイクロバブルが注入される。マイクロバブル注入槽20には、処理水流入口11と処理水を次の光触媒分解槽に導くための送水ライン12と、さらに、マイクロバブル発生装置23が設置されている。マイクロバブル注入槽20に貯めた処理水はマイクロバブル発生装置入口21からマイクロバブル発生装置23に流入し、マイクロバブル発生装置23で発生した50μm以下の空気マイクロバブルを含んだ処理水がマイクロバブル発生装置出口22から流出しマイクロバブル注入槽20に収容される循環系の構造になっている。一般にマイクロバブルは、気泡サイズが50μm以下の気泡のことを指し、通常の気泡とは異なった特性を示し、例えば、気泡の上昇速度が通常の気泡よりも非常に遅い、自己加圧効果による空気の水中へ過飽和溶解などの性質を持つ。
【0013】
一般にマイクロバブルの発生方法として加圧溶解式、エジェクタ式、キャビテーション式および旋回式が挙げられる。マイクロバブルの特性は生成した気泡の直径と生成量に左右されるため、比較的大量かつ微細な気泡を生成できる加圧溶解式の発生方法が好ましい。また、発生したマイクロバブルの直径は30μm以下が好ましい。
【0014】
マイクロバブル注入後のマイクロバブル注入槽20中の処理水の溶存酸素量は飽和率で80−150%が好ましい。上記記述のマイクロバブルの特性からも、マイクロバブルの自己加圧効果によって溶存酸素の飽和量以上の酸素を溶存させることができる。
【0015】
光触媒としては、一般に酸化チタンが用いられ、好ましくはアナターゼ型の酸化チタンが用いられる。光触媒体の形状は、粉末、繊維、薄膜、厚膜の形態をとることができる。繊維形態の場合、大別して三種類の光触媒繊維が存在する。酸化チタンで構成される繊維、ガラス繊維などの表面に酸化チタンがコーティングされている繊維、表面が酸化チタン、内部が高強度のシリカの傾斜構造を有する繊維などがある。酸化チタンで構成されている場合、繊維自体の強度が低く流水圧による破断が生じやすく、またコーティングの場合、コーティング相が流水による剥がれ落ちるという問題がある。本発明者らは、すでに特許第3465699に示すように、繊維同士のブリッジングが全く無く、一本一本の繊維表面に酸化チタンを始めとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維を開発している。この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないために繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題点も解決されている。この不織布の成形物は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、処理流体は繊維一本一本の隙間を通るために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きいことが特徴である。
【0016】
図3は本実施の形態に係わる光触媒分解槽30の概念断面図である。底面に形成された送水ライン12から上面に形成された処理水流出口13に浄化される水を流動させる流動槽31と、流動槽31内に収容され、浄化される水の流動方向に対してほぼ垂直に交わるように互いに平行に設置された3つの平板状光触媒不織布カートリッジ32と、これら平板状光触媒不織布カートリッジ32の間に配置された紫外線ランプ33とを備えている。
【0017】
マイクロバブル注入槽の空気マイクロバブルを含んだ処理水は送水ライン12を通過して光触媒分解槽30に流し込まれる。流し込まれた処理水は、流動槽31内を通って処理水流出口13から排出される。平板状不織布41は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、水が通過する際、光触媒との接触面積が非常に大きい。このため、光触媒機能を有する平板状不織布41によって効率的にラジカルが発生し、不要な有機物を分解する。また、185nmの紫外線が直接水に照射されることにより、不要な有機物が分解される。完全分解まで至らなかった不要な有機物は、OHラジカル等により分解中間生成物である有機酸にまで分解されているので、処理水流出口13から排出された処理水をイオン交換等によって除去してもよい。
【0018】
通常、酸化チタン光触媒を利用した水浄化装置においては、紫外線ランプは、波長351nmのブラックライト蛍光ランプ又は波長254nmの殺菌ランプが用いられる。酸化チタン光触媒は、387nm以下の波長であれば励起することができ、又これらのランプは製品として入手しやすいためである。本発明に係る水浄化装置においては、従来用いられなかった紫外線を利用し、かつ光触媒を所定の配置構造にすることにより、高い分解効率を得ることができる。すなわち、本発明に係る水浄化装置においては、光触媒が坦持された平板状不織布41と、この平板状不織布41と平行になるように設置され、180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射する紫外線照射手段とを有するので、上記光触媒への光照射効率と処理流体との接触効率を維持しながら、180〜190nmの紫外線が光触媒によって遮断されることはない。このため、250〜260nmの紫外線を平板状不織布41に照射することにより光触媒を励起し、発生するOHラジカルによって有機物を分解し、180〜190nmの紫外線により水中の有機物を直接分解することができ、分解効果を高く維持することができる。
【0019】
本発明に係る水浄化装置における紫外線ランプ33は、水中で使用するため水と紫外線発光部材との接触を防止するためのカバー部材を設けている。すなわちカバー部材内部に紫外線発光部材を挿入する構造なっている。紫外線ランプ33の外表面を構成するカバー部材は、円柱状に形成され、250〜260nmだけでなく、180〜190nmのピーク波長を透過する材質からなる。このカバー部材の材質としては、例えば、合成石英が挙げられる。一般的な低圧水銀ランプは、本来、185nmと254nmの2つの波長を有するが、通常のカバー部材の素材であるガラスが短波長の紫外線を透過しないため、254nmの波長のみを照射する。本実施の形態に係る水浄化装置において、紫外線ランプ33は、上述のようにカバー部材の素材を特殊なものとすることによって、180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する紫外線を照射可能に構成されている。紫外線照射ランプ35から照射される紫外線は、180〜190nm、好ましくは185nmにピーク波長を有し、かつ、250〜260nm、好ましくは254nmにピーク波長を有する。各紫外線ランプ33は、例えば、各平板状光触媒不織布カートリッジ32の間に2本ずつ、計4本配置されており、それぞれ平行に、かつその軸方向が平板状光触媒不織布カートリッジ32に平行となるように配置されている。なお、本実施の形態において、紫外線照射ランプ33のカバー部材は、円柱状に形成したが、それに限定されず、長手方向に延びる形状であればよい。紫外線ランプ33の数は、求められる水質や処理水中に含まれる不要な有機物の量等に応じて決定される。
【0020】
各平板状光触媒不織布カートリッジ32は、図4に示すように、光触媒繊維の平板状不織布41と一対の金網42とからなり、平板状不織布41が一対のステンレス製の金網に挟持されている。このように金網をサポート材として用いてカートリッジ状にすることにより、光触媒機能が劣化した平板状不織布41を容易に取り換えることができる。多段の平板状光触媒不織布カートリッジを枠体等を用いて連結構造とすることにより、脱着を容易にすることもできる。本実施の形態においては、平板状不織布41を3個としたが、求められる水質等に応じて、任意にその数を決定することができ、例えば1〜50個とすることができる。また、本実施の形態においては、平板状光触媒不織布カートリッジ32として平板状不織布を流動槽31に固定したが、他の手段により設置してもよい。また、本実施の形態において、各平板状光触媒不織布カートリッジ32は、その面が水の流動方向にほぼ垂直に交わるように設置したが、ほぼ垂直とは、流動する水が効率良く各平板状光触媒不織布カートリッジ32を通過する範囲であり、例えば流動方向に対して10°前後、好ましくは5°前後、傾いて設置されても良い。
【0021】
本実施の形態に係る水浄化装置において、平板状不織布上の平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。平板状不織布表面での紫外線強度が1〜10mW/cmであると、2つの紫外線成分による水処理を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線照射手段と平板状不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中央部から端部までの複数個所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0022】
平板状不織布41の好ましい形態は、シリカ成分を主体とする酸化物相(以下、第1相という。)とTiを含む金属酸化物相(以下、第2相という。)との複合酸化物であるシリカ基複合酸化物繊維からなる。
【0023】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0024】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0025】
一方、第2相は、Tiを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、Tiが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0026】
第2相に含まれる金属酸化物のTiの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。
【0027】
シリカ基複合酸化物繊維からなる平板状不織布41は、次の製造方法により得ることができる。
【0028】
シリカ基複合酸化物繊維は、下記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランあるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を溶融紡糸し、不融化処理後、空気中又は酸素中で焼成することにより、シリカ基複合酸化物繊維を製造することができる。以下、これらを第1工程乃至第4工程に分けて詳細に説明する。
【0029】
【化1】

【0030】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
(第1工程)
シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。これについて以下に概説する。
【0031】
出発原料である変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいはMR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0032】
傾斜構造を有するシリカ基複合酸化物繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物は、ポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0033】
尚、2官能基以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能基しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0034】
傾斜構造を有するシリカ基複合酸化物繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0035】
(第2工程)
第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。尚、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。また、メルトブロー法あるいはスパンボンド法により、ノズルから吐出した繊維を巻き取らずに直接フェルト形状に成型してもよい。
【0036】
前記溶融紡糸の他に、第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により紡糸し、巻き取り速度を制御して目的とする繊維を得ることができる。
【0037】
これらの紡糸工程において、必用ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0038】
(第3工程)
第2工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力または無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。この工程は、後工程の焼成の際に繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0039】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。尚、同第2工程並びに第3工程の際に、原料中に含まれている低分子量化合物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0040】
(第4工程)
第3工程により不融化された繊維を、張力または無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が傾斜的に増大するシリカ基複合酸化物繊維を得る。この工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障を来さない場合はそのまま使用されるが、支障を来す場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成並びに結晶構造に問題が生じない温度、処理時間が選択されなければならない。
【0041】
第4工程により得られた光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維を短繊維にした後、ニードルパンチ等を行い、平板状不織布41とすることができる。
【0042】
また、他の製造方法としては、シリカ基複合酸化物繊維からなる平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、前記前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、その不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することができる。
【0043】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。また、窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0044】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0045】
得られた不織布に上記溶融紡糸の場合と同様の不融化処理及び焼成を行うことにより、シリカ基複合酸化物繊維の平板状不織布34とすることができる。上記メルトブロー法により製造されるシリカ基複合酸化物繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0046】
平板状不織布41の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは好ましくは0.5〜20mmのものが用いられる。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎて水の浄化効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は平板状不織布41が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。平板状不織布の形状は特に制限はないが、平板状不織布41を挿入する流動槽の形状に合わせて、丸型、角型などにすることができ、平板状不織布41の表面積を大きくするために波板状にすることもできる。
【0047】
上記のような平板状不織布41の製造方法によれば、繊維同士のブリッジングが全く無く、一本一本の繊維表面に酸化チタンを始めとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維からなる平板状不織布41が得られる。また、この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないため、繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題がない。さらにこの繊維からなる平板状不織布41は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きくなる。一般に、光触媒の機能を十分に引き出すためには、光触媒への光の照射効率と処理流体との接触効率を高めることが必要である。
【0048】
上記光触媒繊維の表面は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1以上の金属が担持しているのが好ましい。
【0049】
前記金属の担持方法は、特に制限はないが、前記金属の金属イオンが含まれる液と前記シリカ基複合酸化物繊維を接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、前記金属酸化物の還元サイト(光の非照射面)に還元した金属粒子を担持することができる。例えば、第2相がアナターゼ型の酸化チタンの場合、そのバンドギャップは3.2eVであるので、これに相当するエネルギー、すなわち387nm以下の波長を有する光を照射することによって、酸化チタン粒子の表面に金属粒子を担持することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明に係る水浄化装置の実施例を説明する。
【0051】
(製造例1)
先ず、実施例に用いられる平板状不織布として酸化チタン/シリカ繊維を製造した。すなわち、5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0052】
ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0053】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布を得た。
【0054】
(製造例2)
製造例1で得られた酸化チタン/シリカ繊維不織布をパラジウム濃度2.5ppmのパラジウムメッキ液(パラデックス:田中貴金属(株)製)内に浸漬し、波長が351nmの紫外線を4mW/cm2の強度で4時間照射した。照射後、繊維を取り出し、水洗、さらに乾燥を行うことによって、実施例2に係るパラジウム担持酸化チタン/シリカ繊維不織布を得た。重量測定の結果から、パラジウム担持量は、0.05重量%であった。
【0055】
(実施例1)
製造例1で得られた酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布を用いて、図4に示される平板状不織布を含む光触媒カートリッジを作成し、図1に示される水浄化装置を用いて有機物を含有する処理水を処理した。用いた紫外線ランプは、三共電気製GL16KZF(出力:16W)であり、カバー部材は合成石英が使用されている。出力は16Wであり、この紫外線ランプを4本使用した。紫外線ランプの波長は254nmと185nmの両方を放射するものである。紫外線ランプと光触媒カートリッジの距離は50mmとし、平板状不織布表面の平均紫外線強度は4mW/cmであった。紫外線強度はTOPCON社製UVR−2紫外線照度計を用いて測定し、平板状不織布表面の中央部から端部まで9箇所を測定し、この平均値を平均紫外線強度とした。
【0056】
処理水は、蓚酸をイオン交換水で溶解し、250ppmの蓚酸水溶液とした。また、マイクロバブル注入槽では前記250ppm蓚酸処理溶液をマイクロバブルを20−23L/minで発生させた。処理溶液中の平均溶存酸素飽和率は110%であった。溶存酸素量はHORIBA製D−50溶存酸素計を用いて測定し、飽和溶存酸素量は温度と水中の酸素溶存量から算出した。
前記蓚酸処理溶液60Lを前記水浄化装置を用いて5L/minで循環処理を行った。本条件で検討した結果、消費エネルギー8Wh/Lで98%の蓚酸を分解し得た。
【0057】
(実施例2)
製造例2に記載の方法で得られたパラジウム担持酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布用いて、実施例1と同様の条件で検討を行った。250ppmの蓚酸を含む処理溶液60Lを5L/minで循環処理した。その結果、消費エネルギーが8Wh/Lで90%の蓚酸を分解し得た。
【0058】
(比較例1)
製造例1に記載の方法で得られた酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布を用いて、マイクロバブル注入槽を通さないこと以外は実施例1と同様の条件で検討を行った。250ppmの蓚酸を含む処理溶液60Lを5L/minで循環処理した。その結果、消費エネルギーが8Wh/Lで50%の蓚酸しか分解することができず、浄化能力は著しく低かった。
【0059】
(比較例2)
製造例2に記載の方法で得られたパラジウム担持酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布を用いて、マイクロバブル注入槽を通さないこと以外は実施例2と同様の条件で検討を行った。250ppmの蓚酸を含む処理溶液60Lを5L/minで循環処理した。その結果、消費エネルギーが8Wh/Lで70%の蓚酸しか分解することができず、浄化能力は著しく低かった。以下の表に結果をまとめて示す。
【0060】
【表1】


本発明のマイクロバブルを用いた水浄化装置は、極めて優れた蓚酸の分解性能を示すことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の水浄化装置の概念図である。
【図2】本発明に係るマイクロバブル注入槽の概念図である。
【図3】本発明に係る光触媒分解槽の概念図である。
【図4】本発明に係る光触媒カートリッジの概念図である。
【符号の説明】
【0062】
10 水浄化装置
11 処理水流入口
12 送水ライン
13 処理水流出口
20 マイクロバブル注入槽
21 マイクロバブル発生装置入口
22 マイクロバブル発生装置出口
23 マイクロバブル発生装置
30 光触媒分解槽
31 流動槽
32 平板状光触媒不織布カートリッジ
33 紫外線ランプ
41 平板状不織布
42 金網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入した後、該処理水を、紫外線を照射しながら酸化チタンを表面に有する光触媒に接触させることを特徴とする水浄化方法。
【請求項2】
前記光触媒が、表面に酸化チタンを有する光触媒繊維の不織布であることを特徴とする請求項1記載の水浄化方法。
【請求項3】
光触媒に照射される前記紫外線は、180−190nmと250−260nmとにピーク波長を有することを特徴とする請求項1記載の水浄化方法。
【請求項4】
有機物を含有する処理水に空気のマイクロバブルを注入するマイクロバブル注入槽と、該マイクロバブル注入槽から流出した処理水中の有機物を光触媒により分解する光触媒分解槽とからなる水浄化装置。
【請求項5】
前記光触媒分解槽は、表面に酸化チタンを有する光触媒繊維の平板状不織布と、紫外線ランプとが処理水の流れ方向に対してほぼ垂直に設置されていることを特徴とする請求項4記載の水浄化装置。
【請求項6】
前記光触媒繊維は、光触媒機能を有するシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物の繊維からなり、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しているシリカ基複合酸化物繊維であることを特徴とする請求項5記載の水浄化装置。
【請求項7】
前記光触媒繊維の表面に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1以上の金属が担持されていることを特徴とする請求項6記載の水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233635(P2009−233635A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86478(P2008−86478)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】