説明

水溶液系二次電池

【課題】ナトリウムを含む水系電解液で作動する正極活物質を有する水溶液系二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の水溶液系二次電池10は、ナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型正極活物質を正極活物質12として含む正極と、ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質17を含む負極と、正極と負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液20と、を備えている。NASICON型正極活物質は、例えばNa32(PO43などであり、電解液20は、ナトリウムを溶解した水溶液である。また、負極活物質17は、NASICON型負極活物質(例えばLiTi2(PO43やNaTi2(PO43など)であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液系二次電池に関し、より詳しくは、ナトリウムを溶解した水溶液系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電解液として水溶液を用いた水溶液系リチウムイオン二次電池が知られている。この水溶液系リチウムイオン二次電池は、一般的に非水系リチウムイオン二次電池が有する問題に対して以下の利点がある。即ち、水溶液系リチウムイオン二次電池は、電解液に有機溶媒を用いていないため、基本的には燃えることはない。また、製造工程においてドライ環境を必要としないため、製造にかかるコストを大幅に削減することができる。さらに、水系電解液は非水系電解液に比べて導電性が高いため、水溶液系リチウムイオン二次電池は、非水系リチウムイオン二次電池に比べて内部抵抗が低くなる。このような利点を持つ反面、水溶液系リチウムイオン二次電池は、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められるため、非水系リチウムイオン二次電池と比較して起電力が小さくなる。このように、水溶液系リチウムイオン二次電池においては、高電圧・高エネルギー密度を犠牲として、高い安全性、低コスト及び低内部抵抗が確保される。
【0003】
また、近年、正極としてNa4Mn918や(例えば非特許文献1参照)、NaMnO2(非特許文献2参照)、MnO2(非特許文献3参照)などMn系のナトリウムイオン挿入脱離材料を用い、負極として電気二重層容量を使用する活性炭を用いたキャパシタが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L. Athouel et al., J. Phys. Chem. C, (2008) 112, 7270-7277.
【非特許文献2】Q. T. Qu et al., J. Power Sources, 194 (2009) 1222-1225.
【非特許文献3】J. F. Whitacre et al., Electrochem. Commun., 12 (2010) 463-466.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように、電解液を水溶液とした水溶液系リチウムイオン二次電池や、ナトリウムの挿入脱離を用いた水溶液系キャパシタの報告はあるものの、電解液を水溶液とする水溶液系ナトリウム二次電池については、今までに報告がない。リチウムを吸蔵放出する正極活物質がナトリウムを吸蔵放出するとは限らないし、非水系電解液で作動する正極活物質が水系電解液でそのまま作動するとも限らない。このように、水系電解液でナトリウムの吸蔵放出が作動する正極活物質が求められていた。また、上述した、Mn系のナトリウムイオン挿入脱離材料を用いたキャパシタでは、ナトリウムを含む水系電解液で作動するものの、エネルギー密度が小さく、エネルギー密度をより高めることが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、ナトリウムを含む水系電解液で作動し、エネルギー密度をより高めることができる正極活物質を有する水溶液系二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、NASICON型構造を有する複合化合物を正極活物質とすると、ナトリウムを含む水系電解液でナトリウムを吸蔵放出することができ、エネルギー密度をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の水系ナトリウム二次電池は、ナトリウムを溶解した水溶液系二次電池であって、ナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型正極活物質を含む正極と、ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水溶液系二次電池は、ナトリウムを含む水系電解液で作動し、エネルギー密度をより高めることができる。また、この水溶液系二次電池では、資源としてより豊富なナトリウムを利用することができる。また、この水溶液系二次電池では、より高出力であり、より高レート特性を有するものとすることができる。この理由は、水溶液系二次電池は、水系リチウム二次電池と同様の利点を有し、更に、ナトリウムイオンはリチウムイオンに比して水との相互作用が小さいためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の水溶液系二次電池10の一例を示す模式図。
【図2】NASICON型構造を有する複合化合物の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水溶液系二次電池は、ナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型正極活物質を含む正極と、ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、正極と負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、を備えている。
【0012】
本発明の水溶液系二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合して正極材とし、集電体の表面に圧着してもよいし、この正極材に適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。本発明の水溶液系二次電池において、正極活物質は、水溶液中でナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型構造を有する複合化合物(NASICON型正極活物質)である。一般に、NASICON(Na Super Ionic Conductor)はNa3Zr2Si2PO12で表される固体電解質を示す。本願において、NASICON型構造とは、NASICONと同種の結晶系に属するものとすることができ、一般式Aa2(XO43(a=1〜3、A,M,Xについては後述)で表され、MO6八面体とXO4四面体とが頂点を共有して三次元ネットワークを構成しているものとすることができる(例えば図2参照)。なお、図2ではAの存在できるサイトとしては、図2に示すようにMO6八面体およびXO4四面体のいずれにも含まれない六配位のA1(6b)サイトと、MO6八面体又はXO4四面体の稜線上に存在する六配位のA2(18e)サイトの2種類があり、AM2(XO43(a=1)ではA1サイトが満たされA2サイトが空であり、A32(XO43(a=3)ではA1サイトおよびA2サイトの両方が満たされていると推察される。なお、NASICON型構造は、一般式Aa2(XO43におけるA,M,X,Oなどの元素の一部が他の元素で置換されていてもよいし、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損または過剰となる非化学量論組成のものであってもよい。また、ここでは、Aa2(XO43について説明したが、後述するEb2(RO43についても同様とすることができる。
【0013】
NASICON型正極活物質は、例えば、一般式Aa2(XO43で表すことができる。一般式Aa2(XO43において、Aはアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上とすることができる。このうち、アルカリ金属であることが好ましく、Li及びNaのうち1以上であることがより好ましく、Naであることがより好ましい。また、一般式Aa2(XO43において、Mは遷移金属とすることができる。遷移金属としては、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Zr,Hfなどが挙げられる。このうち、Ti,V,Feのうち1種以上であることが好ましく、Vであることがより好ましい。この遷移金属は、その一部が他の遷移金属や、Ge,Snなどの遷移金属以外の金属と置換されていてもよい。また、一般式Aa2(XO43において、XはSi,P,S,As,Mo,Wのうち1種以上とすることができる。これらの元素は、四つの酸素と結合して、リジットな三次元骨格をもつオキソ酸塩を形成することができる。XはSi,P,Sのうち1種以上であることが好ましく、Pであることがより好ましい。また、一般式Aa2(XO43において、aは1以上3以下である。例えば、一般式Aa2(XO43においてAがNaである場合には、放電状態ではNa32(XO43となり、充電状態ではNaM2(XO43となると考えられる。なお、一般式Aa2(XO43で表される化合物は、少なくとも放電状態、即ち、a=3ではNASICON型構造を有していることが好ましい。本発明の水溶液系二次電池において、正極活物質としては、上述したNASICON型正極活物質を単独で又は2種以上を組み合わせたものを用いてもよく、その他の化合物を含んでもよい。また、本発明の水溶液系二次電池において、正極活物質としては、上述した種々のNASICON型正極活物質を適宜組み合わせて用いることができるが、これらのうち、Na32(PO43を含むものであることが好ましい。Na32(PO43は、Naの挿入脱離電位(もしくは吸蔵放出電位)が0.5V(vs.Ag/AgCl)程度であるため、正極における酸素発生の起こらない電位で充放電が可能であり、大きな電池電圧(エネルギー密度)を実現することができ、好ましい。なお、これまで、Na32(PO43を水溶液系のナトリウム電池の材料として用いることは知られていない。また、正極活物質は、その表面が導電相によりコーティングされていてもよい。上述したNASICON型構造を有する複合化合物は、絶縁体であることが多く、導電性を高めることが好ましいからである。この導電相は、導電性を高めることができるものであればよく、例えば、カーボン、金属、窒化物、ホウ化物、酸化物、導電性高分子などのうち1以上を用いることができる。
【0014】
正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、水や有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどを用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。このうち、導電性や耐腐食性を考慮すると、アルミニウム、ニッケル及びチタンから選ばれる少なくとも1種で形成されていることが好ましい。この集電体は、2種類以上を複合して用いてもよい。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0015】
本発明の水溶液系二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合して負極材とし、集電体の表面に圧着してもよいし、この負極材に適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。本発明の水溶液系二次電池において、負極活物質は、水溶液中でナトリウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されずに用いることができるが、水溶液中でナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型構造を有する複合化合物(NASICON型負極活物質)を含むものであることが好ましい。このように、正極活物質だけでなく、負極活物質もNASICON型構造を有するものとすれば、充放電時の安定性が向上すると考えられ、好ましい。充放電時の安定性が向上する理由としては、正極活物質と負極活物質とが同じ結晶構造を有することにより、充放電に伴う副反応や体積変化が同程度であるためと推察される。なお、これまで、同一の結晶系に属する正極活物質と負極活物質を用いたナトリウムを溶解した水溶液系二次電池についての報告はされておらず、この点においても、本発明はこれまでにない技術的思想に基づくものであるといえる。このNASICON型負極活物質は、例えば、一般式Eb2(RO43で表すことができる。一般式Eb2(RO43において、Eはアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上とすることができる。このうち、アルカリ金属であることが好ましく、Li及びNaのうち1以上であることがより好ましく、Naであることがより好ましい。また、一般式Eb2(RO43において、Lは遷移金属とすることができる。遷移金属としては、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Zr,Hfなどが挙げられる。このうち、Ti,V,Feのうち1種以上であることが好ましく、Tiであることがより好ましい。この遷移金属は、その一部が他の遷移金属や、Ge,Snなどの遷移金属以外の金属と置換されていてもよい。また、一般式Eb2(RO43において、RはSi,P,S,As,Mo,Wのうち1種以上とすることができる。これらの元素は、四つの酸素と結合して、リジットな三次元骨格をもつオキソ酸塩を形成することができる。RはSi,P,Sのうち1種以上であることが好ましく、Pであることがより好ましい。また、一般式Eb2(RO43において、bは1以上3以下である。例えば、一般式Eb2(RO43においてEがNaである場合には、放電状態ではNaL2(RO43となり、充電状態ではNa32(RO43となると考えられる。なお、一般式Eb2(RO43で表される化合物は、少なくとも放電状態、即ち、b=1ではNASICON型構造を有していることが好ましい。本発明の水溶液系二次電池において、負極活物質としては、上述したNASICON型負極活物質を単独で又は2以上を組み合わせたものを用いてもよく、その他の化合物を含んでもよい。また、本発明の水溶液系二次電池において、負極活物質としては、上述した種々のNASICON型負極活物質を適宜組み合わせて用いることができるが、これらのうち、LiTi2(PO43及びNaTi2(PO43の少なくとも一方を含むものであることが好ましい。LiTi2(PO43及びNaTi2(PO43は、ナトリウム挿入脱離電位が、共に−0.75V(vs.Ag/AgCl)程度である。これは、負極における水素発生の過電圧を加味した負極電位としては良好な電位であり、より大きな電池電圧を実現することができ、好ましい。なお、負極活物質はNASICON型構造を有するものでなくてもよい。また、負極活物質は、その表面が導電相によりコーティングされていることが好ましい。上述したNASICON型構造を有する複合化合物、特に、チタン及びリン(リン酸など)を含む複合化合物、を含む複合化合物は、絶縁体であることが多く、導電性を高めることが好ましい。この導電相は、導電性を高めることができるものであればよく、例えば、カーボン、金属、窒化物、ホウ化物、酸化物、導電性高分子などのうち1以上を用いることができる。
【0016】
また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラスなどを用いることができる。このうち、導電性や耐腐食性を考慮すると、アルミニウム、ニッケル及びチタンから選ばれる少なくとも1種で形成されていることが好ましい。この集電体は、2種類以上を複合したりして用いてもよい。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0017】
本発明の水溶液系二次電池において、正極活物質と負極活物質との組み合わせは、電池として作動するものであれば特に限定されないが、正極活物質がNa32(PO43であり、負極活物質がLiTi2(PO43及びNaTi2(PO43の少なくとも一方であることが好ましい。Na32(PO43はNaの挿入脱離電位(もしくは吸蔵放出電位(以下同じ))が0.5V(vs.Ag/AgCl)程度であり、LiTi2(PO43及びNaTi2(PO43はナトリウム挿入脱離電位が共に−0.75V(vs.Ag/AgCl)程度であるため、約1.25Vという高い電池電圧が得られるからである。正極と負極は、Naの挿入脱離電位が異なるものとすればよく、正極と負極とが共にNASICON型である場合には、同様の元素構成の活物質を用いてもよいし、異なる元素構成の活物質を用いてもよい。このうち、正極活物質と負極活物質で異なる元素構成の活物質を用いることが好ましい。ここで、同様の元素構成とは、例えば放電状態における正極がA32(XO43で負極がAM2(XO43のような組み合わせや、放電状態における正極がA22(XO43で負極がM2(XO43のような組み合わせなどが考えられる。なお、ここではA,M,Xは正負極で同一の元素とする。2段階の充放電挙動を示す(充放電曲線において2段階の平坦部を有する)活物質などでは、正負極で同様の元素構成の活物質とすることができる。
【0018】
本発明の水溶液系二次電池において、水系電解液は、ナトリウム塩を主電解質とするものであれば、特に限定されない。ナトリウム塩としては、例えばNaNO3、Na2SO4、NaOH、NaCl、及びCH3COONa等が挙げられ、このうちNaNO3が溶解性の観点から好ましい。これらのナトリウム塩は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用することもできる。水系電解液は、ナトリウムイオンを1mol/l以上含有することが好ましい。こうすれば、電極反応の交換電流密度が十分に高くなると考えられ、高い出力特性を実現できるからある。なお、ナトリウムイオンの濃度は、溶解限界以下であることが好ましい。水系電解液のpHは、3以上11以下であることが好ましい。水系電解液のpHが3以上であれば、負極上での水素発生過電圧が小さくなりすぎないため、副反応である水素発生が電池反応に競合して充放電効率が低下することなどを抑制することができ、好ましい。また、水系電解液のpHが11以下であれば、正極上での酸素発生過電圧が小さくなりすぎないため、副反応である酸素発生が電池反応に競合して充放電効率が低下することなどを抑制することができ、好ましい。また、水系電解液のpHが3以上11以下であれば、例えば、正負極の集電体などから金属が溶出するのをより抑制することができ、好ましい。
【0019】
本発明の水溶液系二次電池において、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。このセパレータには、水系電解液が浸透してイオンが透過しやすいように、親水処理を施したり微多孔化を施すのが好ましい。セパレータとしては、ナトリウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0020】
本発明の水溶液系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明の水溶液系二次電池10の一例を示す模式図である。この水溶液系二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす電解液20と、を備えたものである。この水溶液系二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。ここでは、正極活物質12は、NASICON型構造を有する複合化合物(NASICON型正極活物質)であり、電解液20は、ナトリウムを溶解した水溶液である。
【0021】
以上詳述した本実施形態の水溶液系二次電池では、正極活物質としてNASICON型構造を有する複合化合物(例えばNa32(PO43など)を含んでおり、水系の電解液中でナトリウムイオンを吸蔵放出することができ、エネルギー密度をより高めることができる。また、この水溶液系二次電池は、非水系二次電池や水系リチウム二次電池に比して、より高出力であり、より高レート特性を有している。この理由は、電解液である水溶液の導電率が非水系の有機溶媒と比較して10倍以上高いことが要因であると考えられる。また、水系リチウム二次電池との比較において、水溶液中のナトリウムイオンは、水溶液中のリチウムイオンと比較して水和水との相互作用が小さいため、電極反応であるナトリウムイオンの挿入脱離の際の脱水和エネルギーが小さく、反応がリチウムイオンと比較して早いためであると推察される。また、ナトリウムイオンの導電率は、一般的にリチウムイオンの導電率よりも高いことも出力特性の向上の一因であると推察される。更に、資源量の面からも、ナトリウムは地殻及び海水中などに豊富に含まれているため、コストや量産性の面でより優れている。また、正極活物質だけでなく、負極活物質もNASICON型構造を有するものとすれば、充放電に伴う副反応や体積変化が同程度で、充放電時の安定性が向上すると考えられ、好ましい。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下には、NASICON型正極活物質を含む正極を備えた水溶液系二次電池を具体的に作製した例を、実施例として説明する。まず、活物質の作製方法について説明する。
【0024】
<Na32(PO43の作製>
五酸化バナジウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素アンモニウムをNa32(PO43の組成になるように混合し、300℃のAr雰囲気下で12時間仮焼を行って粉末を得た。得られた粉末を十分に解砕し、ペレット状に成形した後、H2(4%)/N2雰囲気中で850℃熱処理することによって、Na32(PO43の粉末を得た。
【0025】
<LiTi2(PO43の作製>
チタンイソプロポキシド、酢酸リチウム、リン酸二水素アンモニウムを原料として用いた。チタンイソプロポキシドをプロパノールで希釈した溶液と酢酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムを水に溶解した溶液とをLiTi2(PO43の組成になるように混合し、チタンイソプロポキシドを加水分解した。得られた白濁溶液を真空乾燥し、白色の粉末を得た。得られた粉末を400℃で12時間熱処理したあと、700℃で16時間空気中で焼成し、LiTi2(PO43の粉末を得た。得られたLiTi2(PO43の粉末に、導電性を高めるべくカーボンコートを行った。炭素源としてのスクロースを溶解した水溶液にLiTi2(PO43の粉末を入れ、乾燥したのち、不活性雰囲気(Ar)中、650℃で4時間処理を行い、活物質粉末の表面に炭素をコートした。
【0026】
<NaTi2(PO43の作製>
原料として酢酸リチウムの代わりに酢酸ナトリウムを用いた以外はLiTi2(PO43の作製と同様の工程を経てNaTi2(PO43の粉末を得た。得られた粉末は、LiTi2(PO43と同様にカーボンコートを行った。
【0027】
<LiFePO4の作製>
出発原料としてシュウ酸鉄、炭酸リチウム、リン酸二水素アンモニウムをモル比でLi:Fe:Pが1.2:1:1となるように混合し、ペレット状に成形して650℃、Ar雰囲気下で24時間焼成することによりLiFePO4を作製した。
【0028】
[実施例1]
Na32(PO43を正極活物質として含む正極、NaTi2(PO43を負極活物質として含む負極、NaNO3を電解質として含む水溶液である電解液とを用いた水溶液系二次電池を作製した。正極活物質のNa32(PO43を90重量%、導電材のカーボンブラックを6重量%、結着材としてカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとの混合物を4重量%としてよく混合し、分散剤として水を適量加え、分散させてスラリー状正極合材とした。この正極合材を厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥させたあと、ロールプレスで高密度化し、正極シート電極とした。次に、負極活物質のNaTi2(PO43を80重量%、導電材のカーボンブラックを10重量%、結着材としてカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとの混合物を10重量%としてよく混合し、分散剤として水を適量加え、分散させてスラリー状負極合材とした。この負極合材を厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥させたあと、ロールプレスで高密度化し、負極シート電極とした。電解液には6mol/LのNaNO3水溶液を用いた。作製した正・負極シート電極を親水処理を施したオレフィン製のセパレータを介してロール状に捲回し、円筒状のプリプロピレン製電池ケースに挿入し、上記の電解液を注入したあと、トップキャップをしめて密閉した。この電池は、正極規制の電池とし200mAhの設計容量とした。なお、ここでは、集電タブ及び集電キャップとしてアルミニウム製のものを用いた。得られた水溶液系二次電池を実施例1とした。
【0029】
[実施例2]
負極活物質として上記LiTi2(PO43を用いる以外は実施例1と同様の方法で水溶液系二次電池を作製し、これを実施例2とした。
【0030】
[比較例1]
正極活物質として上記LiFePO4を用い、負極活物質として上記LiTi2(PO43を用い、電解液として6mol/LのLiNO3水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で水系リチウム二次電池を作製し、これを比較例1とした。なお、正極活物質としてLiFePO4を用いる場合、単位重量当たりの正極容量が低く充放電挙動がやや不安定であることから、正極活物質を過剰として負極規制の電池とした。
【0031】
[比較例2]
1mol/LのLiPF6をエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを重量比で3:7で混合した有機溶媒に溶解させた電解液を用いた以外は比較例1と同様の方法で非水系リチウム二次電池を作製し、これを比較例2とした。
【0032】
(電池性能評価)
作製した各電池を用いて、上限電圧を1.5V(比較例1では1.2V、比較例2では1.3V)とし、下限電圧を0.9V(比較例1,2では、0.6V)とし、20mAで充放電を行った。このときの放電容量を「20mA容量」とする。その後、充電状態を50%(SOC=50%)とした状態から200mAで10秒間放電を行ったときの電圧降下を測定した。このときの電圧降下を「200mA分極」とする。更に、20mAで上限電圧まで定電流充電したあと200mAで放電したときの放電容量を「200mA容量」とし、200mA容量を20mA容量で除算した値を「レート特性」とした。また、SOC=50%のときの開放電圧を「SOC50%OCV」とした。表1には、実施例1,2及び比較例1,2の電池構成と試験条件を示した。
【0033】
【表1】

【0034】
(実験結果)
表1に実施例1,2及び比較例1,2の電池構成、表2にそれぞれの20mA容量、200mA分極、200mA容量、レート特性及びSOC50%OCVを示す。実施例1,2及び比較例1,2はいずれも20mA容量が200mAh程度であった。実施例1,2は正極及び負極の充放電電位が水の電気分解電位内で比較例よりも広く電位をとれるため、電池電圧(SOC50%OCV)が約0.3V程度高くなり、同じ容量でもエネルギー密度が高くなることが分かった。200mA分極は、電池の出力特性を示す指標となる。降下電圧が小さいほど出力特性が高い(I−V抵抗が低い)といえる。実施例1,2は比較例1と比較すると、降下電圧が小さく、出力特性がより高いことが分かった。これは、ナトリウムイオンの水との相互作用がリチウムイオンよりも小さいことに起因していると推察された。比較例2は、200mA分極が115mVと他に比べて非常に高い値を示した。これは電解液の導電率が非水系電解液と水溶液とで10倍以上違うことが原因であると推察された。レート特性についても、比較例2は低い値を示した。これは、ナトリウムの導電率が小さく反応抵抗が大きいためと推察された。以上の結果より、実施例1,2は、水溶液中でナトリウムイオンを吸蔵・放出可能でエネルギー密度をより高めることが可能であり、比較例に比してより高い出力特性およびレート特性を有していることが明らかとなった。この理由は、導電率の高い水溶液を電解液としており、且つナトリウムがリチウムに比して水との相互作用が小さいためであると推察された。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 水溶液系二次電池、11 集電体、12 正極活物質、13 正極シート、14 集電体、17 負極活物質、18 負極シート、19 セパレータ、20 電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムを溶解した水溶液系二次電池であって、
ナトリウムを吸蔵放出可能なNASICON型正極活物質を含む正極と、
ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、
を備えた水溶液系二次電池。
【請求項2】
前記負極は、NASICON型負極活物質を含む、請求項1に記載の水溶液系二次電池。
【請求項3】
前記正極は、一般式Aa2(XO43(Aはアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上であり、Mは遷移金属であり、XはSi,P,S,As,Mo,Wのうち1種以上である。aは1以上3以下である。)で表されるNASICON型正極活物質を含む、請求項1又は2に記載の水溶液系二次電池。
【請求項4】
前記正極は、一般式Na32(PO43で表されるNASICON型正極活物質を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項5】
前記負極は、一般式Eb2(RO43(Eはアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上であり、Lは遷移金属であり、RはS,P,As,Mo,Wのうち1種以上である。bは1以上3以下である。)で表されるNASICON型負極活物質を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項6】
前記負極は、一般式LiTi2(PO43及び一般式NaTi2(PO43の少なくとも一方で表されるNASICON型負極活物質を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項7】
前記電解液は、ナトリウムイオンを1mol/l以上含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項8】
前記電解液は、pHが3以上11以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項9】
前記正極活物質及び前記負極活物質の少なくとも一方は、表面が導電相によりコーティングされている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。
【請求項10】
前記正極及び負極は、アルミニウム、ニッケル及びチタンから選ばれる少なくとも1種で形成された集電体を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水溶液系二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−3928(P2012−3928A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137419(P2010−137419)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】