説明

水産加工品の製造装置および製造方法

【課題】水産加工品の身割れ等の損傷を抑制する。
【解決手段】製造装置10は、箱状本体14に内部画成された殺菌室14aに充填された過熱水蒸気によって対象物を加熱殺菌する殺菌手段12と、箱状本体14の殺菌室14aに対象物を搬入し、該殺菌室14aから対象物を搬出する搬送手段30と、箱状本体14における搬入口14bの搬送方向上流側に設けられた第1水分付与手段50Aと、箱状本体14における搬出口14cの搬送方向下流側に設けられた第2水分付与手段50Bとを備えている。製造装置10は、加熱殺菌する前に第1水分付与手段50Aによる調整水の散布によって対象物を濡らすと共に水分調整し、冷却する前に第2水分付与手段による調整水の散布によって対象物を濡らすと共に水分調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚介類等の対象物を加熱殺菌して水産加工品を製造する製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品に対する需要者の安全・安心志向が非常に高くなっている。これに対して、販売者(供給者)側には、長い消費期限の食品を供給すると共に、長く店頭に並べて販売機会を多くしたいという要望がある。ここで、食品を品質劣化させる原因は、食品に存在するカビや細菌等の微生物が一因として挙げられる。食品の中で、シラスやじゃこ等の小魚、えび、貝類などに代表される水産加工品は、生や半生等の各種加工状態(例えばシラスであれば、夾雑物を取除いた生状態、釜ゆで、シラス干し等の状態)で提供されることが多く、食品の品質劣化を最小限に抑えるために、殺菌処理を行うことが求められている。しかしながら、水産加工品の特性に合った殺菌処理を含んだ製造技術の確立が模索されているのが現状である。
【0003】
食品の殺菌処理は、殺菌作用を有する次亜塩素酸ナトリウム、エチルアルコール、ヨードホール、酢酸などの有機酸類等の殺菌剤を利用する、いわゆる化学的方法が用いられていたが、殺菌剤が残留する問題があって使用を制約されている。一方、殺菌処理の物理的方法としては加熱殺菌、放射線殺菌や超音波殺菌がある。加熱殺菌は、殺菌剤のように残留の心配がなく、放射線や超音波殺菌のように特別な設備を必要としないなどの利点があるので多く採用されている。そして、加熱殺菌の中でも、熱風によって加熱する方法と比べて処理時間を短くでき、食品の風味等の劣化が少ないことから、過熱水蒸気を用いて食品を加熱殺菌する方法が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示の殺菌装置は、二重管になる長方状ジャケットと、この長方状ジャケットの内筒の中を移行するコンベヤーベルトと、常圧において120℃以上の過熱水蒸気を発生するボイラーおよび加熱装置とから構成される。また殺菌装置は、長方状ジャケットの内筒に多数の蒸気噴出孔を設け、加熱装置により生成されて長方状ジャケット管の内筒と外筒との間に導入された過熱水蒸気が、蒸気噴出孔より噴射するようになっている。これにより、殺菌装置は、長方状ジャケットの内径内を移行するコンベヤーベルトに載置された食品に過熱水蒸気を接触させて加熱殺菌している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−341834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の如き過熱水蒸気による加熱殺菌は、熱風によって加熱する方法と比べて食品を乾燥させる度合いが小さいものの、加熱殺菌処理に際して食品から水分を若干奪ってしまう。特に水産加工品は、加熱殺菌処理に際して水分を失うことによって表面が裂ける身割れが生じ易く、商品価値を低下すると共に歩留まりを悪化させてしまう問題が指摘される。また水産加工品は、釜ゆでや天日干し等の前の加工過程で適度に水分調整したのにかかわらす、加熱殺菌に際して水分を失うことで、水分と一緒にうまみ成分が流出してしまって風味が損なわれると共に、更に食感や色等も損なってしまう弊害を招く。
【0007】
更に、加熱殺菌された食品は、高温になっているので、袋詰め等のパッケージングの前に冷風等にさらして冷却される。この冷却工程においても、食品から水分が若干奪われて乾燥してしまう。すなわち、食品の製造過程では、加熱殺菌工程だけでなく、冷却工程でも食品から水分が失われ、前述した身割れの発生や風味および食感の変質等の問題が生じる。
【0008】
すなわち本発明は、従来の技術に係る水産加工品の製造装置および製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、得られる水産加工品の身割れ等の損傷を抑制し得る水産加工品の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の水産加工品の製造装置は、
対象物を加熱殺菌した後に冷却して水産加工品を製造する製造装置であって、
箱状本体に内部画成された殺菌室に充填された過熱水蒸気によって対象物を加熱殺菌する殺菌手段と、
前記箱状本体の殺菌室に対象物を搬入し、該殺菌室から対象物を搬出する搬送手段と、
前記箱状本体における搬入口の搬送方向上流側および該箱状本体における搬出口の搬送方向下流側の少なくとも一方に設けられ、該搬送手段で搬送される対象物に対して調整水を散布する水分付与手段とを備えたことを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、箱状本体の搬送方向上流側に設けた水分付与手段から殺菌室への搬入前に調整水を付与しておくことで、殺菌室での加熱殺菌に際して対象物からの水分の蒸発および対象物の水分量の低下を抑えることができる。すなわち、加熱殺菌時の水分量の低下に起因する対象物の身割れや変質等の品質低下を抑制することができる。また、箱状本体の搬送方向下流側に設けた水分付与手段から殺菌室からの搬出後に調整水を付与しておくことで、冷却時に対象物からの水分の蒸発および対象物の水分量の低下を抑えることができる。すなわち、冷却時の水分量の低下に起因する対象物の身割れや変質等の品質低下を抑制することができる。
【0010】
請求項2に係る発明では、前記水分付与手段は、前記搬送手段の搬送面の上方に設置した散布ノズルを有し、圧送手段により圧送された調整水を、該散布ノズルから該搬送手段に載置された対象物に向けて霧状に散布するよう構成したことを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、調整水を霧状に散布することで、対象物への傷つけを防止しつつ対象物を濡らすことができる。また、対象物から流下する余剰な調整水の量を最小限に抑えることができる。
【0011】
請求項3に係る発明では、前記箱状本体における搬入口の搬送方向上流側に設けられる前記水分付与手段は、前記殺菌室で対象物から奪われる水分量に応じた調整水を対象物に付与するよう構成したことを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、殺菌室で奪われる水分量に応じて、殺菌手段における箱状本体の搬送方向上流側に設けた水分付与手段で調整水を付与することで、対象物から流下する調整水の無駄を最小限に抑えることができると共に、流下する調整水と一緒に塩分や栄養素等が流出することを回避できる。
【0012】
請求項4に係る発明では、前記箱状本体における搬出口の搬送方向下流側に設けられる前記水分付与手段は、冷却時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水を対象物に付与するよう構成したことを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、冷却時に奪われる水分量に応じて、殺菌手段における箱状本体の搬送方向下流側に設けた水分付与手段で調整水を付与することで、対象物から流下する調整水の無駄を最小限に抑えることができると共に、流下する調整水と一緒に塩分や栄養素等が流出することを回避できる。
【0013】
請求項5に係る発明では、前記水分付与手段は、前記搬送手段の搬送面の上方に位置して、上下方向に位置調節可能に設けた散布ノズルを有することを要旨とする。
請求項5に係る発明によれば、対象物に対する散布ノズルの上下位置を適宜調節することで、対象物に合わせて調整水を適切に付与することができる。
【0014】
請求項6に係る発明では、前記搬送手段は、前記対象物を載置可能で調整水の流下を許容する孔部を有する搬送体が、前記箱状本体の搬入口および搬出口を介して前記殺菌室を通ると共に該箱状本体の下方を通って連続的に周回するよう構成されることを要旨とする。
請求項6に係る発明によれば、搬送手段の搬送面を構成する搬送体は、調整水の流下を許容する孔部を有しているので、対象物に付与された調整水の余剰分を搬送面から排出し得る。
【0015】
請求項7に係る発明では、前記殺菌手段で加熱殺菌された対象物を冷却する冷却手段は、前記搬送手段の搬送終端に接続されて、殺菌済みの対象物を移送する移送手段と、該移送手段における移送面の上側をカバーで覆蓋して画成された移送空間に、気体を送り込む送風手段とから構成されることを要旨とする。
請求項7に係る発明によれば、カバーにより移送手段との間に画成された移送空間に送風手段により気体を送り込む構成とすることで、移送空間がダクトとして機能し、移送手段で移送される殺菌後の対象物と気体との接触機会を多くでき、対象物を迅速に冷却できる。
【0016】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項8に係る発明の水産加工品の製造方法は、
搬送手段に載置した対象物を搬送して殺菌手段における過熱水蒸気が充填された殺菌室を通過する過程で該過熱水蒸気により対象物を加熱殺菌し、殺菌済みの対象物を冷却して水産加工品を製造する方法であって、
前記殺菌室への搬入前および該殺菌室からの搬出後の少なくとも一方で、前記対象物に対して水分付与手段によって調整水を散布するようにしたことを特徴とする。
請求項8に係る発明によれば、水分付与手段によって殺菌室への搬入前に調整水を付与しておくことで、殺菌室での加熱殺菌に際して対象物からの水分の蒸発および対象物の水分量の低下を抑えることができる。すなわち、加熱殺菌時の水分量の低下に起因する対象物の身割れや変質等の品質低下を抑制することができる。また、水分付与手段によって殺菌室からの搬出後に調整水を付与しておくことで、冷却時に対象物からの水分の蒸発および対象物の水分量の低下を抑えることができる。すなわち、冷却時の水分量の低下に起因する対象物の身割れや変質等の品質低下を抑制することができる。
【0017】
請求項9に係る発明では、前記対象物には、加熱殺菌時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水が、前記殺菌室への搬入前に前記水分付与手段により付与されることを要旨とする。
請求項9に係る発明によれば、殺菌室で奪われる水分量に応じて、殺菌手段における箱状本体の搬送方向上流側に設けた水分付与手段で調整水を付与することで、対象物から流下する調整水の無駄を最小限に抑えることができると共に、流下する調整水と一緒に塩分や栄養素等が流出することを回避できる。
【0018】
請求項10に係る発明では、前記対象物には、冷却時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水が、前記殺菌室からの搬出後に前記水分付与手段により付与されることを要旨とする。
請求項10に係る発明によれば、冷却時に奪われる水分量に応じて、殺菌手段における箱状本体の搬送方向下流側に設けた水分付与手段で調整水を付与することで、対象物から流下する調整水の無駄を最小限に抑えることができると共に、流下する調整水と一緒に塩分や栄養素等が流出することを回避できる。
【0019】
請求項11に係る発明では、前記対象物には、前記殺菌室への搬入直前に調整水が付与されることを要旨とする。
請求項11に係る発明によれば、水分調節された対象物を直ちに殺菌室に搬入することができるので、水分付与手段で付与された調整水が蒸発または流下することを抑制でき、次工程の殺菌工程で調整水による対象物の保護作用を好適に享受し得る。
【0020】
請求項12に係る発明では、前記対象物には、前記殺菌室からの搬出直後に調整水が付与されることを要旨とする。
請求項12に係る発明によれば、殺菌室で加熱された殺菌後の対象物から粗熱を直ちに奪うことができる。すなわち、殺菌工程で高温状態にされた対象物は、自らの熱によって水分が蒸発し易いが、水分付与手段から散布した調整水によって温度が下げることで、殺菌工程後に対象物から水分が蒸発するのを抑えることができる。また、対象物が自らの熱によって、殺菌加熱から進んで焼成されるのを回避でき、対象物の変質を防止し得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る水産加工品の製造装置および製造方法によれば、得られる水産加工品の身割れ等の損傷を抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好適な実施例に係る水産加工品の製造装置を一部破断して示す概略平面図である。
【図2】実施例の水産加工品の製造装置を示す側断面図である。
【図3】図2のA矢視図である。
【図4】図2のB−B線断面図である。
【図5】図2のC矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る水産加工品の製造装置および製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、水産加工品とされる対象物としては、シラス、シラス以外の小魚、エビ、カニ、貝等の魚介類や海草等の水産物である。
【実施例】
【0024】
図1および図2に示すように、実施例に係る水産加工品の製造装置(以下、単に製造装置という。)10は、過熱水蒸気によって対象物の加熱殺菌を行う殺菌手段12と、この殺菌手段12に対象物を搬入・搬出する搬送手段30と、殺菌手段12に対して過熱水蒸気を供給する蒸気供給手段40と、対象物に調整水を散布する水分付与手段50とを備えている。また製造装置10は、搬送手段30の搬送終端側に設けられて、殺菌手段12から搬出された対象物を冷却する冷却手段70を備え、この冷却手段70で冷却された対象物は、包装手段80でパッケージングされる(図1参照)。実施例の製造装置10は、クリーンルームに設置されており、搬送手段30の搬送始端に供給された対象物を、水分前付与、加熱殺菌、水分後付与、冷却およびパッケージングするまでの一連の工程を連続的に実施できるように構成されている。
【0025】
図2に示すように、前記殺菌手段12は、殺菌室14aが内部画成された長方体形状の箱状本体14と、殺菌室14aに設置され、蒸気供給手段40から供給された過熱水蒸気を殺菌室14aに送出する蒸気供給部20と、殺菌室14aから余剰の過熱水蒸気を排出する排気手段26とから基本的に構成される。箱状本体14は、長手辺が搬送手段30による対象物の搬送方向に沿うように配設されている(図1参照)。箱状本体14には、搬送方向に対向する一対の側面に殺菌室14aに連通する搬入口14bおよび搬出口14cが夫々開設され、搬入口14b、殺菌室14aおよび搬出口14cを貫通して搬送手段30の後述する搬送体32の搬送部分32aが設置されている。箱状本体14は、殺菌室14aの底面を構成する底部16が、搬送方向に交差する方向に対向する各側面から中央に向かうにつれて下方傾斜するよう形成されている。すなわち、箱状本体14は、底部16が過熱水蒸気が凝縮した水や洗浄時の洗浄水等を受容するドレインパンとして機能するようになっている。そして、箱状本体14には、底部16における両傾斜部の傾斜下端に挟まれた中央部に排出管18が接続され、この排出管18に設けられた排出弁(図示せず)を開放することで、水等を外部に排出できるようになっている。
【0026】
前記蒸気供給部20は、蒸気供給手段40に接続する接続部22と、この接続部22の端部に設けられて、過熱水蒸気の噴出口(図示せず)を複数備える噴出部24とから構成される(図2参照)。接続部22は、箱状本体14の上方で2つに分岐した分岐配管22a,22aの夫々が箱状本体14の天井板を貫通するよう配管され、分岐配管22aの殺菌室14aに臨む端部に噴出部24が夫々設けられている。実施例の蒸気供給部20では、2組の噴出部24,24が殺菌室14aにおいて搬送方向に離間して設置され、各分岐配管22aに介挿された調節弁22bによって、各噴出部24における過熱水蒸気の噴出量を調節可能となっている。なお、実施例の製造装置10では、搬送方向上流側に設置された噴出部24からの過熱水蒸気の供給量が、搬送方向下流側に設置された噴出部24からの過熱水蒸気の供給量より多くなるよう設定され、殺菌室14aに投入された対象物に対して初期段階で多くの熱量を付与するようになっている。各噴出部24は、図1に示すように、複数の噴出口となる小孔が開設された配管を平面視で「田」の字状になるよう組み合わせて構成され、噴出部24において配管が十字状に交差する部位から突出する配管に分岐配管22aに接続されている。
【0027】
前記箱状本体14には、搬入口14bおよび搬出口14cの夫々に、可撓性を有する遮蔽板15が吊り下げられており(図1または図2参照)、搬入口14bおよび搬出口14cを覆う遮蔽板15によって、蒸気供給部20を介して殺菌室14aに充填された過熱水蒸気が搬入口14bおよび搬出口14cから漏出するのを抑制している。また製造装置10では、遮蔽板15を搬送手段30に載置した対象物に接触しないように構成したり、遮蔽板15が変位または変形することで、搬送手段30による殺菌室14aへの対象物の搬入および搬出が許容される。
【0028】
図2に示すように、実施例の製造装置10は、搬送方向に離間して箱状本体14に接続された2組の排気手段26,26を備えている。各排気手段26は、一端が箱状本体14の上部に接続した排気ダクト27と、この排気ダクト27に介挿された排気ファン28とから構成されている。製造装置10では、箱状本体14における搬入口14b側の天井に一方の排気手段26の排気ダクト27が接続されると共に、箱状本体14における搬出口14c側の天井に他方の排気手段26の排気ダクト27が接続されている(図2参照)。そして、製造装置10は、各排気ファン28によって吸い込んだ殺菌室14aの余剰な過熱水蒸気を、排気ダクト27を介して外部に排出するようになっている。また、製造装置10では、箱状本体14における搬入口14b側に偏倚して設置した一方の排気手段26で余剰の過熱水蒸気を吸い出すことで、搬入口14bからの過熱水蒸気の漏出を抑制している。同様に、製造装置10では、箱状本体14における搬出口14c側に偏倚して設置した他方の排気手段26で過熱水蒸気を吸い出すことで、搬出口14cからの過熱水蒸気の漏出を抑制している。
【0029】
実施例の搬送手段30は、搬送方向に離間配置された複数の回転体31に巻回した無端索体(図示せず)に支持されて無端の搬送体32が周回する1基の所謂チェーンコンベヤで構成されている(図2参照)。なお、実施例の搬送手段30では、搬送終端側に設けられた回転体31の回転軸にモータMが接続され(図1参照)、このモータMの駆動によって搬送体32が周回するようになっている。搬送手段30は、前工程から受け取った対象物を載置して水平方向に搬送して次工程の冷却手段70に受渡す搬送体32の搬送部分32aが、箱状本体14の搬入口14b、殺菌室14aおよび搬出口14cを貫通して設置されると共に、搬送体32の帰還部分32bが箱状本体14の下方に設置されている。搬送体32は、調整水や洗浄水の流下を許容する孔部を複数有し、対象物を搬送体32に直接載置する場合には孔部が対象物より小さく形成される。なお、実施例の搬送手段30では、対象物が搬送体32上に直接載置される。ここで、実施例の搬送体32は、ステンレス等の金属製の網状であって、網目(孔部)が対象物より小さく形成されている。
【0030】
前記製造装置10は、搬送体32の帰還部分32bの下側に設けられて、搬送体32から流下した調整水や洗浄水等を受けるドレインパンとして機能する受容部34を備えている(図2参照)。受容部34は、搬送体32における帰還部分32bの下側の全域に亘って延在するよう配設される。また受容部34は、複数のトレイ状部材34aを組み合わせて構成され、搬送方向始端側および終端側に配置されたトレイ状部材34aが中央に向かうにつれて下方傾斜するよう配設されて、中央部に配置されたトレイ状部材34aに集水されるようになっている。更に、受容部34における中央部のトレイ状部材34aには、排水管35が接続され、受容部34で受容した水を排水管35を介して外部に排出し得るよう構成されている。
【0031】
前記製造装置10は、箱状本体14と搬送体32の帰還部分32bとの間に、該帰還部分32bに向けた下方に水を噴射する洗浄手段36を備え(図4参照)、この洗浄手段36から噴射した水によって搬送体32に付着した対象物を除去可能になっている。洗浄手段36は、箱状本体14の下方に横方向に離間して設置された複数(実施例では4基)の洗浄ノズル36aを備え、図示しないポンプ等の圧送手段で圧送された水が洗浄ノズル36aから搬送体32に向けて噴射される。洗浄手段36から噴射された水は、搬送体32の網目(孔部)を介して搬送体32の帰還部分32bにおける下面に付着した対象物を押し流し、帰還部分32bの下方に位置する受容部34で回収される。
【0032】
前記蒸気供給手段40は、水蒸気を発生するボイラと水蒸気を一定の圧力下で更に加熱する過熱器(何れも図示せず)とから構成されている。蒸気供給手段40は、殺菌室14aに設けられた図示しない温度検知手段による殺菌室14aの温度検知結果に基づいて、殺菌室14aが設定温度になるよう過熱水蒸気を供給するようになっている。
【0033】
実施例の製造装置10には、搬送手段30で搬送される対象物に対して調整水を散布する水分付与手段50が、箱状本体14における搬入口14bの搬送方向上流側および箱状本体14における搬出口14cの搬送方向下流側の両方に設けられている(図1または図2参照)。ここで、水分付与手段50を区別する場合は、箱状本体14の搬送方向上流側に設けられるものに第1を付し、箱状本体14の搬送方向下流側に設けられるものに第2を付す。第1水分付与手段50Aは、箱状本体14の搬送方向上流において箱状本体14側に偏倚した部位に設置され、搬送手段30による箱状本体14の殺菌室14aへの搬入直前に搬送体32上の対象物に調整水を散布するようになっている(図3参照)。また、第2水分付与手段50Bは、箱状本体14の搬送方向下流において箱状本体14側に偏倚した部位に設置され、搬送手段30による箱状本体14の殺菌室14aからの搬出直後に搬送体32上の対象物に調整水を散布するようになっている(図4参照)。なお、実施例の製造装置10では、第1水分付与手段50Aおよび第2水分付与手段50Bが同一の構成である。また、水分付与手段50から散布する調整水としては、水道水、水道水から異物等を取り除いた浄水、所定のpH値に調整した水、塩やホウ酸等の第三成分を添加した水等の何れであっても採用できる。
【0034】
各水分付与手段50は、搬送手段30における搬送体32の搬送部分(搬送面)32aの上方に位置して搬送方向と交差する横方向(以下、単に横方向という。)に延在する分配部52と、この分配部52に横方向に離間して並設された複数(実施例では4基)の散布ノズル54とを備えている(図3または図5参照)。また、水分付与手段50には、分配部52に対して貯水タンクまたは外部水源に接続されたポンプ等の圧送手段Pで圧送した調整水が供給され、複数の散布ノズル54から下方に向けて調整水を均等に、かつ搬送体32の横方向に亘ってカーテン状に隙間なく散布するよう構成される。分配部52は、搬送手段30における搬送体32の両脇に延在するフレーム30a,30aに対向して立設された一対の支柱56,56に夫々設けられた保持具58によって着脱可能に保持されている。各保持具58は、該保持具58に螺合したネジを支柱56に適宜間隔で設けた溝に係合させる等の係合構造によって、支柱56に沿って上下方向に位置調節可能に構成されている。すなわち、複数の散布ノズル54は、分配部52の上下位置を調節することで、搬送体32の搬送部分32aに対して上下方向に位置調節可能に構成される。ここで、各散布ノズル54は、所定の散布角度で調整水が拡散するよう構成されて、気流の影響がない理想的な状態において搬送体における略円形の領域に調整水が供給される。従って、水分付与手段50は、散布ノズル54を上方に位置させることで搬送体32の広い範囲に調整水を散布し得ると共に、散布ノズル54を下げることで調整水の散布範囲を狭くすることができる。なお、水分付与手段50に調整水を圧送する圧送手段Pとして、水道等の外部水源の水圧を利用してもよい。
【0035】
各散布ノズル54は、調整水を霧状に散布するものであって、調整水の平均粒径(ザウター平均径)が10μm〜1.0mmの範囲、より好適には100μm〜300μmの範囲になるよう設定するのがよい。これは、散布ノズル54から散水する調整水の平均粒径が10μm未満のドライフォグ(超微霧)であると、対象物の表面を適切に濡らすことができず、調整水の平均粒径が1.0mmより大きくなると、対象物によっては傷ついたり、また調整水の供給過多により塩分や栄養分等が流出するおそれがある。また、散布ノズル54から散布する調整水の平均粒径を、10μm〜100μm未満に設定してもよいが、散布された調整水が気流の影響を受け易い欠点があるので、水分付与手段50をカバーで覆う等の措置が必要となる。同様に、散布ノズル54から散布する調整水の平均粒径を、300μm超〜1.0mmの範囲に設定してもよいが、身が非常に柔らかいシラス等を対象物とする場合に、前述の如く対象物の傷つき等の問題が生じる。なお、調整水の平均粒径は、散布ノズル54の形状、散布圧力および散布量を調節することで制御可能である。
【0036】
前記第1水分付与手段50Aは、殺菌室14aでの殺菌工程で対象物から奪われる水分量(以下、奪取水分量という)の少なくとも50%以上、好適には奪取水分量以上の水分を対象物に付与するよう設定するのがよい。同様に、第2水分付与手段50Bは、冷却手段70での冷却工程で対象物から奪われる水分量(以下、奪取水分量という)の少なくとも50%以上、好適には奪取水分量以上の水分を対象物に付与するよう設定するのがよい。これは、水分付与手段50からの調整水の供給量が、奪取水分量の50%未満であると、対象物の全体に調整水を付与するのが難しくなり、また殺菌工程または冷却工程における身割れ等の損傷を抑制する作用が低くなるからである。なお、得られる水産加工品の歩留まりが許容できるものであれば、水分付与手段50からの調整水の供給量を奪取水分量の50%未満に設定してもよい。更に、水分付与手段50からの調整水の供給量は、奪取水分量より過剰に調整水を付与することで対象物の含有水分量が多くなるよう調節することも可能であるが、供給量が過剰になるにつれて流下する調整水が多くなり、調整水を無駄に消費する問題が生じると共に対象物から栄養分等が流出するおそれがある。
【0037】
例えば、シラスが対象物の場合には、殺菌手段12による殺菌工程で対象物の重量に対して3%〜10%の範囲で水分が奪われることが分かっているので、対象物の重量当たり5%以上の水分を第1水分付与手段50Aから付与するとよい。同様に、シラスが対象物の場合には、冷却手段70による冷却工程で対象物の重量に対して3%〜10%の範囲で水分が奪われることが分かっているので、対象物の重量当たり5%以上の水分を第2水分付与手段50Bから付与するとよい。また、対象物の含有水分量が高い場合(例えば釜揚げのシラス)には、含有水分量が低い対象物と比べて奪取水分量が多くなるので、水分付与手段50からの調整水の付与量が多めに設定される。なお、各水分付与手段50からの調整水の供給量は、散布ノズル54からの単位時間当たりの散布量、奪取水分量、対象物の量および搬送手段30による対象物の搬送速度等を調節することで制御可能である。
【0038】
前記冷却手段70は、搬送手段30の搬送終端に接続され、殺菌済みの対象物を移送する移送手段72と、この移送手段72における移送面の上側をカバー74で覆蓋して画成された移送空間に、気体を送り込むブロワ等の送風手段Bとから構成される(図1参照)。冷却媒体として用いられる気体としては、空気(実施例)、炭酸ガスや窒素等を採用することができる。また、気体として空気を用いる場合には、HEPAフィルター等の濾過装置を送風ダクト76に設けることで、空気中に含まれる微細なホコリ等を取り除いた所謂クリーンエアーとするとよい。実施例の移送手段72は、移送終端に向けて上方傾斜するよう設置されたベルトコンベヤで構成されており、移送始端が搬送手段30の搬送終端に接続されると共に移送終端が包装手段80に接続されている。また、移送手段72は、移送始端および移送終端を除いてカバー74および移送手段72自体によって空間的に画成されており、移送空間がダクトとして機能するようになっている。そして、冷却手段70は、送風手段Bによってカバー74に接続された送風ダクト76を介して移送空間に送り込まれた空気を、移送手段72で移送する過程で殺菌後の対象物に接触させることで、対象物を所要温度まで冷却するようになっている。包装手段80は、冷却手段70を経て得られた水産加工品を所定量ずつ袋に詰めて袋の口を封止したり、水産加工品を所定量ずつトレーに載せてラップフィルム等で包んだりすること等によりパッケージングを自動的に行う公知の包装装置が採用されている。
【0039】
次に、実施例に係る製造装置10を用いた水産加工品の製造方法について説明する。実施例の製造方法では、対象物を一次加工する前工程と、対象物に調整水を付与する水分前付与工程と、対象物を過熱水蒸気によって加熱殺菌する殺菌工程と、殺菌後の対象物に調整水を付与する水分後付与工程と、対象物を冷却する冷却工程とを経て水産加工品が製造される。そして、得られた水産加工品は、包装工程で所要の形態にパッケージングされる。
【0040】
前工程では、水揚げされた対象物から水洗い等により異物の除去したり、対象物を茹でたりあるいは焼くといった調理を行う一次加工が行われる。例えば、シラスを対象物とする場合であれば、水揚げされたシラスを塩ゆでしたのみの所謂釜揚げとしたり、塩ゆでしたシラスを更に天日等で乾燥することで水分量を調節した所謂シラス干しの状態等まで前工程で一次加工される。そして、前工程で得られた対象物が、搬送手段30の搬送始端において搬送体32に広げて載置される。
【0041】
前記水分前供給工程では、搬送体32に載置された対象物に対して搬送手段30で殺菌室14aに搬入される前に、殺菌手段12による殺菌工程で奪われる奪取水分量を勘案して第1水分付与手段50Aによって調整水を付与する。第1水分付与手段50Aは、圧送手段Pによって圧送された調整水を複数の散布ノズル54から搬送体32に向けて霧状に散布することで、搬送手段30による対象物の搬送経路上に水幕を形成する。対象物は、霧状の調整水の中を通過する過程で調整水に濡れることで、表面に水膜が形成される。水分前付与工程では、第1水分付与手段50Aから霧状に調整水を散布することで、調整水の水勢により対象物を傷つけることはなく、対象物に付着した調整水が流下し難く、調整水の流下を最小限に抑えて対象物の表面に適切に水膜を形成することができる。すなわち、対象物に付与する調整水の無駄を省くことが可能であり、対象物に一旦付着した調整水と共に対象物から塩分や栄養分等が流出することを回避し得る。
【0042】
また水分前付与工程では、箱状本体14の搬入口14bの直前に配置された第1水分付与手段50Aで調整水を付与しているので、水分調節された対象物を直ちに殺菌室14aに搬入することができる。このため、製造装置10では、第1水分付与手段50Aによる水幕をくぐってから殺菌室14aに入るまでの間に、第1水分付与手段50Aで付与された調整水が蒸発または流下することを抑制でき、次工程の殺菌工程で調整水による対象物の保護作用を好適に享受し得る。
【0043】
前記殺菌工程では、殺菌室14aに搬送手段30で搬入した対象物を、該殺菌室14aに充填された過熱水蒸気に接触させて加熱殺菌する。ここで、殺菌室14aは、空気に比べて対流・放射伝熱性がよく、熱効率が良い過熱水蒸気が充填されて、ほぼ無酸素状態になっている。殺菌室14aでは、過熱水蒸気が相転移することによる凝縮伝熱と、過熱水蒸気による対流・放射伝熱との両方の加熱が対象物に対して一度に行われるので、対象物の酸化および水分量低下を抑制しつつ短時間で均一に加熱することができる。対象物は、殺菌室14aに搬入する前に調整水を付与して表面を予め濡らしてあるので、対流・放射伝熱より熱伝導率がよい凝縮伝熱が対象物の表面で優勢になるから、更に熱の伝達が効率よく行われ、対象物の表面だけでなく芯まで迅速に昇温し得る。第1水分付与手段50Aから霧状に調整水を散布して、対象物全体に水膜を形成するように調整水を付与しておけば、殺菌工程においてより均一に加熱することが可能となる。すなわち、対象物は、表面を調整水で濡らした状態で過熱水蒸気により加熱殺菌することで、調整水が付与されていない対象物を過熱水蒸気にさらす場合と比べて、加熱時間をより短くすることができる。また、対象物の表面を調整水で保護しているので、殺菌工程において過熱水蒸気の温度を高く設定することも可能であり、温度の高い過熱水蒸気を用いることによっても加熱時間を短くすることができる。従って、殺菌工程において、対象物の加熱時間をより短縮できるので、対象物からの水分、塩分や栄養素等の流出を適切に抑制でき、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生および風味、食感、色等の変質を高いレベルで抑えることができる。
【0044】
また、対象物に調整水を予め付与しておくことで、殺菌工程において過熱水蒸気により加熱された対象物自体から水分が奪われる前に、対象物の表面に付与された水膜が優先して蒸発するので、対象物自体から水分が奪われ難い。すなわち、殺菌工程において、対象物の加熱時間の短縮によらなくても、対象物からの水分の流出を適切に抑制でき、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生を高いレベルで抑えることができる。更に対象物が加熱された場合であっても、対象物自体に殺菌工程で奪われる奪取水分量を勘案して調整水を水分前付与工程で含ませておくことで、対象物表面の乾燥を抑えつつ水産加工品として予定している水分量を保つことができる。これによっても、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生および風味、食感、色等の変質を抑えることができる。このように、第1水分付与手段50Aによる水分前付与工程は、対象物の表面に調整水の保護膜を形成する、調整水により熱伝導率を向上する、対象物の水分量を調整するといった大きくは三つの作用がある。
【0045】
前記水分後付与工程では、搬送体32に載置された対象物に対して搬送手段30で殺菌室14aから搬出された後でかつ冷却手段70による冷却を開始する前に、冷却手段70による冷却工程で奪われる奪取水分量を勘案して第2水分付与手段50Bによって調整水を付与する。第2水分付与手段50Bは、圧送手段Pによって圧送された調整水を複数の散布ノズル54から搬送体に向けて霧状に散布することで、搬送手段30による対象物の搬送経路上に水幕を形成する。殺菌後の対象物は、霧状の調整水の中を通過する過程で調整水に濡れることで、冷却されると共に表面に水膜が形成される。水分後付与工程では、第2水分付与手段50Bから霧状に調整水を散布することで、調整水の水勢により対象物を傷つけることはなく、対象物に付着した調整水が流下し難く、調整水の流下を最小限に抑えて対象物の表面に適切に水膜を形成することができる。すなわち、対象物に付与する調整水の無駄を省くことが可能であり、対象物に一旦付着した調整水が流下する際に対象物から塩分や栄養分等が流出することを回避し得る。
【0046】
また水分後付与工程では、箱状本体14の搬出口14cの直後に配置された第2水分付与手段50Bで調整水を付与しているので、殺菌室14aで加熱された殺菌後の対象物から粗熱を直ちに奪うことができる。すなわち、殺菌工程で高温状態にされた対象物は、自らの熱によって水分が蒸発し易いが、第2水分付与手段50Bから散布した調整水によって温度が下げることで、殺菌工程後に対象物から水分が蒸発するのを抑えることができる。また、対象物が自らの熱によって、殺菌加熱から進んで焼成されるのを回避でき、対象物の変質を防止し得る。
【0047】
前記冷却工程では、移送手段72で殺菌後の対象物を包装手段80までに移送するまでに、送風手段Bによって対象物に送風することで、対象物を包装可能な温度まで積極的に冷却して、水産加工品とされる。ここで、対象物は、移送手段72に受渡される前に第2水分付与手段50Bによって調整水を付与して表面を予め濡らしておくことで、調整水が蒸発する際に対象物から熱を奪うので、冷却が効率よく行われる。すなわち、対象物は、表面を調整水で濡らした状態で冷却することで、調整水が付与されていない対象物を冷却する場合と比べて、冷却時間をより短くすることができる。しかも、対象物は、冷却工程の前に水分後付与工程における調整水の散布によっても冷却されているから、冷却工程での冷却時間が一層短縮される。従って、冷却工程において、対象物の冷却時間をより短縮できるので、対象物からの水分の流出を適切に抑制でき、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生および風味、食感、色等の変質を高いレベルで抑えることができる。
【0048】
また、対象物に調整水を予め付与しておくことで、冷却工程において送風によって対象物自体から水分が奪われる前に、対象物の表面に付与された水膜が優先して蒸発するので、対象物自体から水分が奪われ難い。すなわち、冷却工程において、対象物の冷却時間の短縮によらなくても、対象物からの水分の流出を適切に抑制でき、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生を高いレベルで抑えることができる。更に、対象物自体に冷却工程で奪われる奪取水分量を勘案して調整水を水分後付与工程で含ませておくことで、対象物表面の乾燥を抑えつつ水産加工品として予定している水分量を保つことができる。これによっても、乾燥に起因する身割れ等の損傷の発生および風味、食感、色等の変質を抑えることができる。このように、第2水分付与手段50Bによる水分後付与工程は、殺菌後の対象物を一次冷却する、対象物の表面に調整水の保護膜を形成する、対象物の水分量を調整するといった大きくは三つの作用がある。
【0049】
そして、冷却工程を経て得られた水産加工品は、包装手段でパッケージングされる。このように、実施例によれば、搬送手段30によって対象物が搬送されている過程で水分前付与工程、殺菌工程および水分後付与工程が行われると共に、移送手段72によって搬送手段30から包装手段80に受渡す過程で冷却工程が行われる。すなわち、前工程から受け入れた対象物を水産加工品として包装するまでの過程において、人手を介在させる必要がなく、生産性を向上し得ると共に、人手を介することに起因する汚染を回避することができる。
【0050】
実施例によれば、殺菌工程の前に水分前付与工程で調整水を付与し、殺菌工程後で冷却工程の前に水分後付与工程で調整水を付与するので、対象物から水分が奪われる殺菌工程および冷却工程の両方において対象物を乾燥および変質から総合的に保護できる。よって、得られた水産加工品は、身割れや変質等の損傷が抑えられ、歩留まりを向上し得る。しかも、殺菌工程の加熱時間および冷却工程の冷却時間を短縮できるので、生産効率がよい。そして、前述した有益な作用効果が、調整水を散布する水分付与手段50を設けるだけの簡単な設備で得られ、また調整水を散布するだけの簡単な方法で達成できる。
【0051】
前記製造装置10は、各水分付与手段50において対象物に対する散布ノズル54の上下位置を適宜調節することで、対象物に合わせて調整水を適切に付与することができる。すなわち、水分付与手段50は、各散布ノズル54から下方に向かうにつれて拡散するよう調整水が散布されるので、散布ノズル54を上側に設定すれば、調整水の散布範囲を広げると共に単位面積当たりの調整水の供給量を圧送手段Pを変更することなく少なくできる。一方、散布ノズル54を下側に設定すれば、調整水の散布範囲を狭めると共に単位面積当たりの調整水の供給量を圧送手段Pを変更することなく多くできる。
【0052】
(変更例)
実施例の構成および方法に限定されず、以下のように変更することも可能である。
(1)実施例の搬送手段としてチェーンコンベアを例に挙げたが、ベルトコンベヤやローラーコンベア等であっても、また実施例では、搬送手段の搬送体に対象物を直接載置したが、かごやトレイ等の容器に入れたり、ネットに入れてもよい。
(2)実施例では、搬送手段と冷却手段の移送手段とを別体に構成したが、搬送手段が冷却手段の移送手段を兼ねる構成も採用できる。
【0053】
(3)実施例では、殺菌手段の箱状本体の搬送方向上流側および搬送方向下流側の両方に水分付与手段を設けたが、箱状本体の搬送方向上流側または搬送方向下流側の何れか一方にだけ設ける構成も採用し得る。特に、水分付与手段を箱状本体の搬送方向上流側だけに設ける場合は、殺菌手段による殺菌工程だけでなく、冷却手段による冷却工程においても奪われる水分量を勘案して該水分付与手段から調整水を散布してもよい。
(4)実施例の水分付与手段は、対象物の上側から調整水を散布したが、対象物の横側または下側から調整水を散布してもよい。
(5)水分前付与工程において、殺菌工程での奪取水分量より過剰に調整水を付与することで、対象物に含まれる水分量を多くして身を柔らかくする等の措置も可能である。同様に、水分後付与工程において、冷却工程での奪取水分量より過剰に調整水を付与しても、対象物に含まれる水分量を多くして身を柔らかくする等ができる。更に、調整水に、殺菌剤、塩、だし等の第三成分を混ぜることで、殺菌、塩分調節、香り付けまたは風味付けを行うことができる。
(6)第1水分付与手段および第2水分付与手段は、散布ノズルの組を搬送方向に離間して多段に設けてもよい。また散布ノズルは、単数でもよい。
(7)第1水分付与手段は、殺菌手段における箱状本体の搬入口の搬送方向上流側であれば、搬送手段の搬送始端や中間部に設置してもよい。また、第2水分付与手段は、箱状本体の搬出口の搬送方向下流側で、かつ冷却手段の搬送方向上流側であれば、搬送手段の搬送終端や中間部に設置してもよい。
(8)水分付与手段から霧状に散布する場合を例に挙げたが、甲殻類等の表面が硬い対象物であれば、調整水をシャワー状に散布してもよい。
(9)調整水としては、対象物を変質させない温度であれば、常温水、温水または冷水を採用し得る。例えば、第1水分付与手段による水分前付与工程において、温水を対象物に散布することで、対象物を殺菌工程前に温めておくことが可能となる。また第2水分付与手段による水分後付与工程において、温水を対象物に散布することで、殺菌後の対象物に対する熱衝撃を軽減できる。
【0054】
(10)実施例の冷却手段は、送風手段によって対象物に送風して積極的に冷却する構成であるが、送風手段を設けないで熱を自然に放散させてもよい。また、移送手段にカバーを設けずに開放してもよい。
(11)洗浄手段は、対象物を搬送体に直接載置しない場合や対象物が搬送体に付着しない場合には省略することができる。
(12)水産加工品の製造装置は、前工程の一次加工を行う茹で設備等の加工設備から一連の製造ラインを構成しても、前工程の加工設備と別ラインで構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
12 殺菌手段
14 箱状本体
14a 殺菌室
14b 搬入口
14c 搬出口
30 搬送手段
32 搬送体
50 水分付与手段
50A 第1水分付与手段
50B 第2水分付与手段
54 散布ノズル
70 冷却手段
72 移送手段
74 カバー
B 送風手段
P 圧送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加熱殺菌した後に冷却して水産加工品を製造する製造装置であって、
箱状本体(14)に内部画成された殺菌室(14a)に充填された過熱水蒸気によって対象物を加熱殺菌する殺菌手段(12)と、
前記箱状本体(14)の殺菌室(14a)に対象物を搬入し、該殺菌室(14a)から対象物を搬出する搬送手段(30)と、
前記箱状本体(14)における搬入口(14b)の搬送方向上流側および該箱状本体(14)における搬出口(14c)の搬送方向下流側の少なくとも一方に設けられ、該搬送手段(30)で搬送される対象物に対して調整水を散布する水分付与手段(50)とを備えた
ことを特徴とする水産加工品の製造装置。
【請求項2】
前記水分付与手段(50)は、前記搬送手段(30)の搬送面の上方に設置した散布ノズル(54)を有し、圧送手段(P)により圧送された調整水を、該散布ノズル(54)から該搬送手段(30)に載置された対象物に向けて霧状に散布するよう構成した請求項1記載の水産加工品の製造装置。
【請求項3】
前記箱状本体(14)における搬入口(14b)の搬送方向上流側に設けられる前記水分付与手段(50A)は、前記殺菌室(14a)で対象物から奪われる水分量に応じた調整水を対象物に付与するよう構成した請求項1または2記載の水産加工品の製造装置。
【請求項4】
前記箱状本体(14)における搬出口(14c)の搬送方向下流側に設けられる前記水分付与手段(50B)は、冷却時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水を対象物に付与するよう構成した請求項1〜3の何れか一項に記載の水産加工品の製造装置。
【請求項5】
前記水分付与手段(50)は、前記搬送手段(30)の搬送面の上方に位置して、上下方向に位置調節可能に設けた散布ノズル(54)を有する請求項1〜4の何れか一項に記載の水産加工品の製造装置。
【請求項6】
前記搬送手段(30)は、前記対象物を載置可能で調整水の流下を許容する孔部を有する搬送体(32)が、前記箱状本体(14)の搬入口(14b)および搬出口(14c)を介して前記殺菌室(14a)を通ると共に該箱状本体(14)の下方を通って連続的に周回するよう構成される請求項1〜5の何れか一項に記載の水産加工品の製造装置。
【請求項7】
前記殺菌手段(12)で加熱殺菌された対象物を冷却する冷却手段(70)は、前記搬送手段(30)の搬送終端に接続されて、殺菌済みの対象物を移送する移送手段(72)と、該移送手段(72)における移送面の上側をカバー(74)で覆蓋して画成された移送空間に、気体を送り込む送風手段(B)とから構成される請求項1〜6の何れか一項に記載の水産加工品の製造装置。
【請求項8】
搬送手段(30)に載置した対象物を搬送して殺菌手段(12)における過熱水蒸気が充填された殺菌室(14a)を通過する過程で該過熱水蒸気により対象物を加熱殺菌し、殺菌済みの対象物を冷却して水産加工品を製造する方法であって、
前記殺菌室(14a)への搬入前および該殺菌室(14a)からの搬出後の少なくとも一方で、前記対象物に対して水分付与手段(50)によって調整水を散布するようにした
ことを特徴とする水産加工品の製造方法。
【請求項9】
前記対象物には、加熱殺菌時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水が、前記殺菌室(14a)への搬入前に前記水分付与手段(50A)により付与される請求項8記載の水産加工品の製造方法。
【請求項10】
前記対象物には、冷却時に対象物から奪われる水分量に応じた調整水が、前記殺菌室(14a)からの搬出後に前記水分付与手段(50B)により付与される請求項8または9記載の水産加工品の製造方法。
【請求項11】
前記対象物には、前記殺菌室(14a)への搬入直前に調整水が付与される請求項8〜10の何れか一項に記載の水産加工品の製造方法。
【請求項12】
前記対象物には、前記殺菌室(14a)からの搬出直後に調整水が付与される請求項8〜11の何れか一項に記載の水産加工品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178678(P2010−178678A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25275(P2009−25275)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(507142753)中部乳業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】