説明

水硬性粉体用粉砕助剤の製造方法

【課題】粉砕効率及び得られる水硬性組成物の強度がエチレングリコールと同程度以上である粉砕助剤を、再生可能原料が利用可能なグリセリンやメタノールから製造する方法を提供する。
【解決手段】メタノールとグリセリンとを原料として、銅含有触媒存在下、水素を0.1〜20MPaの圧力で導入し200〜280℃で反応させる工程を有する、プロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールの合計量が75重量%以上である、水硬性化合物用粉砕助剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物等の再生可能原料が利用可能なグリセリンやメタノールから水硬性粉体用粉砕助剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性化合物、例えばポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ等を粉砕して種々の水硬性粉体が製造されている。例えば、ポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られたクリンカーに適量の石膏を加え、粉砕して製造される。その際、水硬性化合物の粉砕効率を高めるために、ジエチレングリコールやトリエタノールアミンなどの粉砕助剤が用いられている。粉砕工程においては、得られる水硬性粉体を用いた硬化体の強度を低下させることなく、水硬性化合物をできるだけ能率良く所望の粒径にすることが望ましい。このため、従来、粉砕工程において粉砕助剤を使用することが行われている。
【0003】
粉砕助剤としては、低級アルキレングリコールのオリゴマー、アルカノールアミン類、脂肪酸等が用いられており、特にジエチレングリコールは、粉砕効率が良く、比較的短時間で所望の粒径にすることができるとされている。また、粉砕助剤として多価アルコールを使用する技術として、例えば、特許文献1にはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール及び水素化ビスフェノールからなる群より選ばれる一種以上の多価アルコール含有する廃液を用いる技術が開示されている。また、天然物由来の化合物の有効利用として、例えば、特許文献2にはバイオ燃料由来のグリセリン等のジオールやトリオールを粉砕助剤として用いる技術が開示されている。
【0004】
一方、グリセリンからジオールを製造する技術が知られている。例えば、特許文献3にはバイオディーゼルの製造等で得られるグリセリン含有流(a glycerol-containing stream)を、銅含有の不均一触媒の存在下で、100〜320℃、100〜325バールの圧力で水素添加させる、1,2−プロパンジオールを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−89287号公報
【特許文献2】特表2008−5421182号公報
【特許文献3】特表2009−528392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水硬性化合物の粉砕助剤として広く使用されているジエチレングリコールは、石油を原料として得られるエチレンオキサイドからエチレングリコールを製造する際の副生物として、またはエチレングリコールにエチレンオキサイドを反応させて得られる。将来の石油資源の枯渇によるジエチレングリコールの供給不安や、地球環境に対する炭酸ガスの排出量削減の観点から、天然物等の再生可能な資源から得られる水硬性化合物用粉砕助剤が望まれる。特許文献2で用いられるグリセリンは天然物等から得られるが、水硬性化合物の粉砕効率がジエチレングリコールよりも劣るものであり、天然物等から得られ粉砕効率が高い水硬性粉体用粉砕助剤が望まれる。
【0007】
本発明の課題は、水硬性化合物の粉砕効率がジエチレングリコールと同程度以上であり、さらに得られる水硬性粉体から調製される水硬性組成物の強度もジエチレングリコールを用いた場合と同程度以上である水硬性粉体用粉砕助剤を、再生可能な原料が利用できるグリセリンやメタノールを原料とする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、メタノールとグリセリンとを含有する原料を、銅含有触媒存在下、水素を0.1〜20MPaの圧力で導入し200〜280℃で反応させる工程を有する水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法であって、水硬性化合物用粉砕助剤中のプロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールの合計量が75重量%以上である、水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られる水硬性化合物用粉砕助剤の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する水硬性粉体の製造方法であって、水硬性化合物100重量部に対し水硬性化合物用粉砕助剤を0.001〜0.2重量部用いる水硬性粉体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水硬性化合物の粉砕効率がジエチレングリコールと同程度以上であり、さらに得られる水硬性粉体から調製される水硬性組成物の強度もジエチレングリコールを用いた場合と同程度以上である水硬性粉体用粉砕助剤を、再生可能な原料が利用可能できるグリセリンやメタノールを原料とする製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法〕
本発明の水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法では、メタノールとグリセリンとを原料として、銅含有触媒存在下、水素を0.1〜20MPaの圧力で導入し200〜280℃で反応させる工程を有する。
【0012】
本発明で用いられるメタノールは市販品を用いることができる。再生可能原料を用いる観点から、植物等の醗酵で得られるメタンから製造されたメタノールや一酸化炭素と水素から製造されたメタノール等を用いることができる。
【0013】
本発明で用いられるグリセリンは市販品を用いることができる。再生可能原料を用いる観点から、植物や動物の油脂を原料として、油脂の加水分解やエステル交換で製造されたグリセリンを用いることができる。
【0014】
本発明で用いられるメタノール及び/またはグリセリンには不純物を含むことができる。不純物としては、例えば、水やグリセリン製造の原料油脂に由来する脂肪酸が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられるメタノールとグリセリン重量比(メタノール/グリセリン)は、水硬性化合物の粉砕効率と得られる水硬性粉体を用いた硬化強度の観点から、1/10〜10/1が好ましく、1/7〜7/1がより好ましく、1/4〜4/1がさらに好ましく、1/2〜2/1がよりさらに好ましい。グリセリンは一度プロピレングリコールに変換された後、メタノールと反応すると考えられ、この範囲の比率を用いることでグリセリンとメタノールの反応が効率的に進行する。
【0016】
本発明で用いられる銅含有触媒としては、一般に知られている銅を含有する何れの触媒も利用することができ、ラネー銅、微粒化銅粒子等、活性成分が銅のみである触媒の他、触媒活性、耐久性、凝集性を向上させるために、銅以外の成分と複合化させた触媒も好ましく用いられる。複合化させる金属成分としては、例えば、クロム、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、イットリウム、ランタン、セリウム、コバルト等が挙げられ、クロム、亜鉛、鉄、アルミニウムが好ましく、クロム、亜鉛がさらに好ましい。またさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭等の担体上に担持させることも可能である。
【0017】
これらの中でも、水硬性化合物の粉砕効率と得られる水硬性粉体を用いた硬化強度の観点から、銅にさらに亜鉛を含有する触媒が好ましく、さらに酸化チタン及び/又は水酸化チタンに担持させたものがより好ましい。銅が酸化チタン及び/又は水酸化チタンに担持されることで触媒活性が向上すると考えられる。例えば、酸化チタンに担持された銅−酸化亜鉛触媒が挙げられ、具体的には酸化銅もしくは酸化銅と酸化亜鉛からなる複合金属酸化物を、チタン酸化物及び/またはチタン水酸化物担体に担持させてなる触媒前駆体を還元して得られる触媒が挙げられる。この触媒前駆体をメタノールとグリセリンの水素添加反応の際に用いると、触媒前駆体の銅が還元されて、銅と酸化亜鉛が酸化チタン及び/又は水酸化チタンに担持された触媒になる。前記触媒では酸化銅と酸化亜鉛の重量比(酸化銅/酸化亜鉛)が100/0〜80/20が好ましく、さらに酸化銅と酸化亜鉛の合計とチタン酸化物及び/又は水酸化物担体の重量比〔(酸化銅+酸化亜鉛)/(チタン酸化物+水酸化物担体)〕は、15/85〜65/35が好ましい。
【0018】
本発明における触媒の量は、反応温度あるいは反応圧力に応じ、実用的な反応速度が得られる範囲内において任意に選択することができるが、水硬性化合物の粉砕効率、得られる水硬性粉体を用いた硬化強度及び反応時間の観点から、グリセリン100重量部に対し0.1〜50重量部が好ましく、0.5〜30重量部がより好ましく、1〜20重量部がさらに好ましい。
【0019】
本発明の製造方法では水素を0.1〜20MPaの圧力(ゲージ圧)で導入させる。工業的生産性の観点から、水素の圧力(ゲージ圧)は、好ましくは0.5〜15MPa、より好ましくは0.8〜10MPa、さらに好ましくは0.8〜8MPaである。水素の圧力が0.1MPa未満では反応速度が低下し、20MPaを超えると爆発等の危険性が増加するので、反応装置等の制約が多くなる。
【0020】
本発明の製造方法における水素添加工程での温度は、水硬性化合物の粉砕効率と得られる水硬性粉体を用いた硬化体の強度及び水素添加反応の速度の観点から、200〜280℃であり、210〜270℃が好ましく、220〜260℃がさらに好ましい。
【0021】
本発明の水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法により、ジオール混合物からなる水硬性化合物用粉砕助剤が得られる。ジオール混合物に含まれるジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオール、炭素数5以上のジオール等が挙げられる。ジオール混合物に含まれるジオール以外の化合物としては、グリセリン、ジオールを除く炭素数5以上の化合物等が挙げられる。
【0022】
本発明の水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法の反応機構は不明なるも、グリセリンの脱水及び水素添加によりプロピレングリコールが生成する反応と、グリセリンから生じたプロピレングリコールとメタノールとが縮合し、脱水及び水素添加により1,2−ブタンジオール及び2,3−ブタンジオールが生成する反応が進行しジオール混合物が得られると推定される。
【0023】
そして、本発明で得られる水硬性化合物用粉砕助剤は以下に述べる機構で粉砕効率と硬化体の強度に優れると推定される。水硬性組成物の粉砕に関し、一般に、水硬性化合物、例えばセメントクリンカーを粉砕すると、結晶粒界破壊と結晶粒内破壊が起こる。結晶粒内破壊が起こると、Ca−O間のイオン結合が切断され、陽イオン(Ca2+)が過剰に存在する表面と陰イオン(O2-)が過剰に存在する表面とが生じ、これらが粉砕機の衝撃作用によって静電気引力がおよぶ距離まで圧縮されて、凝集すること(アグロメレーション)で、粉砕効率が低くなるとされている。粉砕助剤は粒子破壊表面の表面エネルギーを小さくし、アグロメレーションを抑制することで、粉砕効率を上げていると考えられている。
【0024】
本発明で得られる水硬性化合物用粉砕助剤を、水硬性化合物を粉砕する際に存在させることで、短時間で所望の粒径にまで粉砕することができる。詳しい作用機作は不明なるも、ジオール混合物に含まれるジオールの分子層が生成されるために、比較的少ない添加量で粉砕効率が上がると推定される。ジオールの中でも隣接する炭素原子に水酸基を有するジオールが水硬性化合物に吸着し易く、粉砕効率の向上の観点から好ましくは2,3−ブタンジオールが比較的疎水性が高いため分子層の生成に有利と考えられる。
【0025】
また、ジオールの中でも隣接する炭素原子に水酸基が、得られる水硬性粉体のカルシウムに配位することにより、水硬性粉体が水と接触した際に水和反応の起点となる水酸化カルシウムの結晶が細かくなるようにコントロールされ、結晶が蜜に成長し硬化体の強度が向上すると推定される。さらに炭素原子が多くなると、疎水性が高くなって表面張力が低下することにより、水硬性組成物の調製時に起泡力による強度低下が現れるため、水硬性組成物の強度低下抑制の観点から、炭素原子が3個のプロピレングリコールが有利と考えられる。
【0026】
本発明の製造方法は、例えば、水素導入管を取り付けた攪拌機付のオートクレーブ等の加圧可能な反応装置に、所定量のグリセリン、メタノール及び銅含有触媒を入れ、その後反応装置内の水素置換を行う。次いで、反応容器内の液中に水素を導入し、反応装置内を所望の圧力に維持したまま、水素を流通させつつ所望の反応温度に維持する。反応終了後、反応装置内から液体を取り出す。この液体が本発明に係るジオール混合物である。反応物であるジオール混合物は、ガスクロマトグラフィー等でアルコールの組成を確認することができる。また、反応途中で反応装置のサンプリング口から反応装置内の反応物をサンプリングし、反応経過を確認することができる。
【0027】
本発明の製造方法で得られる水硬性化合物用粉砕助剤中のプロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールの合計量が75重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。これらの合計量を75重量%以上にする方法としては、水素添加の反応時間を調整する方法が挙げられる。前記合計量は反応開始から増加するが、反応を進めるにつれて炭素数5以上の多価アルコールの生成が起こり、反応時間が長すぎると逆に減少する傾向がある。
【0028】
本発明の製造方法では、反応時間、すなわち所望の反応温度に到達後から保持する時間は、グリセリン及びメタノール及び銅含有触媒の量、攪拌条件や反応装置の大きさや形状によって異なるが、グリセリンとメタノールの反応が進行する観点から3時間以上が好ましい。また、反応時間は、反応により得られるジオール混合物の蒸留等の分離操作が不要となる観点から、ジオール混合物中のプロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオール合計量が75重量%以上となる反応時間で行うことが好ましい。さらに反応時間は、粉砕効率の向上及び硬化体強度の向上の観点から、前記合計量がさらに80重量%以上、85重量%となる反応時間で行うことが好ましい。プロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールの生成と炭素数5以上の多価アルコールの生成を抑制する観点から反応時間は、100時間以下が好ましく、5〜70時間がより好ましくは、6〜60時間がより好ましく、10〜30時間がさらに好ましい。
【0029】
本発明の製造方法において、反応を促進するための添加剤を用いることができる。添加剤として水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられるが、ジオール混合物に乳酸が含まれると水硬性粉体の硬化を遅延する作用があるので、副生物として乳酸が生じない条件で用いることが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法で得られるジオール混合物は、プロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールを主成分とするものである。これらのジオールの合計量は、水硬性化合物の粉砕効率と得られる水硬性粉体を用いた硬化体の強度の観点から、ジオール混合物中、60〜100重量%が好ましく、75〜100重量%がより好ましく、85〜100重量%がさらに好ましい。エチレングリコールは、ジオール混合物中、0〜10重量%が好ましく、0〜8重量%がより好ましく、0〜5重量%がさらに好ましい。エチレングリコールの含有量を少なくする方法として、反応時間を長くする方法が挙げられる。また、ジオールとして炭素数5のジオール及び炭素数6のジオールも含まれている。
【0031】
前記したようにプロピレングリコールが水硬性化合物の水硬性粉体を用いた硬化強度向上への寄与が高いと考えられることからプロピレングリコールはジオール混合物中、20〜80重量%が好ましく、35〜80重量%がより好ましい。また、2,3−ブタンジオールが粉砕効率向上への寄与が高いと考えられることから、2,3−ブタンジオールがジオール混合物中、10〜60重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
【0032】
さらにこれらの中でも、プロピレングリコール及び2,3−ブタンジオールが、水硬性化合物の粉砕効率と得られる水硬性粉体を用いた硬化体の強度の両方を向上する点で、プロピレングリコール及び2,3−ブタンジオールの合計量が、ジオール混合物中、60〜100重量%が好ましく、75〜100重量%がより好ましく、80〜100重量%がさらに好ましい。
【0033】
本発明の製造方法で得られるジオール混合物に含まれる、炭素数5以上の化合物は、構造は不明なるも炭素数3の炭化水素基に水酸基、炭素数1〜2のアルキル基及び水酸基を有する炭素数1〜2の炭化水素基から得らればれる1種以上が結合し、合計の炭素数が5以上になったもので、炭素数5以上の化合物は、炭素数5のジオールと炭素数6のジオールが主成分であると考えられる。炭素数5以上の多価アルコールは、炭素数3または4のジオールよりも水硬性化合物の粉砕効率及び得られる水硬性粉体を用いた硬化体の強度の向上効果が劣る点で、その含有量は少ないことが好ましく、具体的にはジオール混合物中、0〜35重量%が好ましく、0〜25重量%がより好ましく、0〜15重量%がさらに好ましい。炭素数5以上の多価アルコールの含有量を少なくする方法は、例えば、反応時間が長くなると増加する傾向があるので、炭素数5以上の化合物が増加する前に反応を中止する方法、反応で得られたジオール混合物を蒸留し、沸点の高い炭素数5以上の化合物を除去する方法が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法で反応を促進するためにアルカリを併用すると、ジオール混合物中に乳酸またはその塩が副生する場合がある。一般的に乳酸は水硬性組成物の硬化遅延剤として用いられている。乳酸またはその塩を含有する水硬性粉体は、硬化遅延する傾向があるので、硬化体の強度発現の観点から粉砕助剤として用いるジオール混合物中の乳酸またはその塩の含有量が少ないことが好ましい。具体的には乳酸塩の場合は乳酸に換算して、乳酸の含有量はジオール混合物中、0〜10重量%が好ましく、0〜5重量%がより好ましく、0〜1重量%がさらに好ましい。乳酸またはその塩をジオール混合物中の含有量が少なくする方法は、例えばアルカリを併用しない方法が挙げられる。
【0035】
本発明の製造方法で得られるジオール混合物には、その他の成分として、グリセリン等が挙げられる。これらは、合計量でジオール混合物中、0〜10重量%が好ましく、0〜8重量%がより好ましく、0〜5重量%がさらに好ましい。グリセリンの含有量を少なくする方法として、反応時間を長くする方法が挙げられる。
【0036】
〔水硬性粉体の製造方法〕
本発明の水硬性粉体の製造方法は、前記の製造方法で得られる水硬性化合物用粉砕助剤の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する。
【0037】
水硬性化合物とは、水と反応して硬化する性質をもつ物質および単一物質では硬化性を有しないが、2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する化合物をいう。一般に、アルカリ土類酸化物とSiO2、Al23、TiO2、P25、ZnOなど多価の酸化物が常温または水熱条件下で水和物を形成する。本発明では、水硬性化合物はセメントクリンカーが好ましい。
【0038】
通常、水硬性粉体であるポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られた水硬性化合物であるクリンカー(セメントクリンカーとも言い、石膏が入っている場合もある。)を予備粉砕し、適量の石膏を加え、仕上粉砕して、ブレーン値2500cm2/g以上の比表面積を有する粉体として製造される。本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤は、水硬性化合物、好ましくはクリンカーの粉砕の際の粉砕助剤として、好適には仕上粉砕での粉砕助剤として用いられる。本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤は、粉砕に用いられる原料の水硬性化合物、例えばセメントクリンカー100重量部に対して固形分で0.001〜0.2重量部、さらに0.005〜0.1重量部用いることが短時間で所望の粒径に粉砕する観点から好ましい。水硬性化合物、例えばクリンカーを含む原料に本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤を添加して行うことが好ましい。添加する方法としては、本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤の液状物、もしくは本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤と他の成分とを含む液状混合物を、滴下、噴霧等により供給する方法が挙げられる。
【0039】
本発明では、原料、用途等により、適当な粒径の粉体が得られるよう、粉砕の条件を調整すればよい。一般に、比表面積、ブレーン値が2500〜5000cm2/g、さらに3000〜4000cm2/gの粉体となるまで、水硬性化合物、例えばクリンカーの粉砕を行うことが好ましい。目的のブレーン値は、例えば粉砕時間を調整することにより得ることができる。粉砕時間を長くするとブレーン値が大きくなり、短くするとブレーン値が小さくなる傾向がある。
【0040】
本発明において、水硬性化合物の粉砕に使用される粉砕装置は、特に限定されないが、例えばセメントなどの粉砕で汎用されているボールミルを挙げることができる。該装置の粉砕媒体(粉砕ボール)の材質は、被粉砕物(例えばセメントクリンカーの場合、カルシウムアルミネート)と同等又はそれ以上の硬度を有するものが望ましく、一般に入用可能な市販品では、例えば鋼、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、タングステンカーバイド等を挙げることができる。
【0041】
本発明の水硬性粉体の製造方法は、本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤を2種以上併用してもよい。さらに、本発明に係る水硬性化合物用粉砕助剤とその他の粉砕助剤と併用して使用することができる。例えば、その他の粉砕助剤は、粉砕助剤全体の40重量%以下の量を配合して用いることができる。公知の粉砕助剤であるジエチレングリコールやトリエタノールアミン等、安全性の観点から天然成分であるグリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物等を配合しても良い。
【0042】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体は、硬化後の強度が向上されたものとなる。水硬性粉体としては、ポルトランドセメント、高炉スラグ、アルミナセメント、フライアッシュ、石灰石、石膏等が挙げられ、粉砕に供する水硬性化合物は、これら水硬性粉体の原料である。
【0043】
なお、本発明では、上記した水硬性化合物を基準とする量比については、水硬性化合物がセメントクリンカーを含む場合は、セメントクリンカーを基準とした量に置き換えてもよい。例えば、水硬性化合物100重量部に対する量は、水硬性化合物中のセメントクリンカー100重量部に対する量としてもよい。水硬性化合物がセメントクリンカーの場合は、セメントクリンカーを100重量部とすることが好ましい。水硬性化合物がセメントクリンカーとスラグの混合物である混合セメントの製造の場合は、セメントクリンカーとスラグの合計を100重量部とすることが好ましい。
【実施例】
【0044】
〔触媒前駆体の調製〕
特開平1−305042号公報記載の方法に従って触媒調製を行った。即ち、テトライソプロピルチタネート{〔(CH3)2CHO〕4Ti}の加水分解生成物を担体原料にし、硝酸銅および硝酸亜鉛の混合水溶液と10重量%の炭酸ナトリウム水溶液を98℃にて撹拌混合することにより、pHが9のスラリーを得た。このスラリーより沈澱物を濾別し十分水洗した後乾燥し、450℃の温度で空気中2時間焼成して、酸化銅47.5%、酸化亜鉛2.5%、酸化チタン50%の重量組成を有する酸化チタンに担持された酸化銅−酸化亜鉛の複合酸化物からなる触媒前駆体Aを得た。この触媒前駆体Aは還元雰囲気で使用することで酸化銅が還元されて銅含有触媒(酸化チタンに担持された銅−酸化亜鉛触媒)となる。
【0045】
〔水硬性組成物用粉砕助剤の製造〕
製造例1
触媒前駆体A15gと、メタノール150g、グリセリン150gを500mLのオートクレーブに入れ、水素置換後、水素を0.5MPa(ゲージ圧)まで導入し昇温した。250℃到達後、水素の圧力を2MPa(ゲージ圧)で維持し、密閉下、250℃で95時間、撹拌を続けた。撹拌時間、6、14、22、41、58、74時間後に途中サンプリングした。冷却後、系内の生成物をガスクロマトグラフィーにて分析した。各生成物のグリセリン及びグリセリン反応物の重量比率を表1に示した。途中サンプリング及び反応終了後のジオール混合物は、ろ過後、メタノールと水を留去し、粉砕助剤として用いた。それぞれ実施例1〜5並びに比較例1及び2として示した。
【0046】
なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。各成分の定量は検量線を作成して行った。なお、炭素数5以上の化合物として、炭素数5の化合物は、1,2−ペンタンジオールを、炭素数6の化合物は、1,2−ヘキサンジオールで検量線を作成した。
カラム:Ultra-alloy キャピラリーカラム 15.0m×250μm×0.15μm(Frontier Laboratories 社製)
インジェクション温度:300℃
検出器:FID、350℃
ヘリウム流量:4.6mL/min.
【0047】
製造例2
製造例1で得られた反応終了後のジオール混合物(比較例2で用いた混合物)をろ過後、メタノールと水を留去した。得られた溶液をビグリューカラムを用いて蒸留をおこなった。蒸留は3kPaに保ちつつ室温から昇温し、85〜98℃の留分を粉砕助剤として用いた。製造例1と同様に分析した組成を表1の実施例6として示した。
【0048】
参考例1〜6
多価アルコールの単品を用いた場合を参考例として示した。以下の市販品を用いた。
・グリセリン 和光純薬工業社製、試薬(純度99%)
・ジエチレングリコール 和光純薬工業社製、試薬(純度99%)
・エチレングリコール 和光純薬工業社製、試薬(純度99.5%)
・プロピレングリコール シグマアルドリッチジャパン社製、試薬(純度99%)
・1,2−ブタンジオール 和光純薬工業社製、試薬(純度98%)
・2,3−ブタンジオール 東京化成工業社製、試薬(純度99%)
【0049】
〔性能評価〕
以下の使用材料を以下の配合量で用いて、一括仕込みし、ボールミルにより粉砕したときの粉砕効率(到達粉砕時間)と、得られたセメントの強度試験を以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0050】
(1−1)使用材料
・クリンカー:成分が、CaO:約65%、SiO2:約22%、Al23:約5%、Fe23:約3%、MgO他:約3%(重量基準)となるように、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等を組み合わせて焼成したものを、クラッシャー及びグラインダーにより一次粉砕して得た、普通ポルトランドセメント用クリンカー(3.5mmふるい通過物)
・二水石膏:SO3量44.13%の二水石膏
・粉砕助剤:表1及び前記製造例参照
【0051】
(1−2)配合量
・クリンカー:1000g
・二水石膏:38.5g、添加SO3量を1.7%とした(1000g×1.7%/44.13%=38.5g)
・粉砕助剤:表1の化合物を、水硬性化合物(クリンカー)100重量部に対する添加量が0.03重量部となるように、50重量%水溶液で使用した。
【0052】
(1−3)ボールミル
株式会社セイワ技研製AXB−15を用い、ステンレスポット容量は18リットル(外径300mm)とし、ステンレスボールは30mmφ(呼び1・3/16)を70個、20mmφ(呼び3/4)を70個の合計140個のボールを使用し、ボールミルの回転数は、45rpmとした。また粉砕途中で粉砕物を排出する時間を1分間と設定した。
【0053】
(1−4)粉砕到達時間
目標ブレーン値を3300±100cm2/gとし、粉砕開始から60分、75分、90分後のブレーン値を測定し、目標ブレーン値3300cm2/gに達する時間を二次回帰式により求め、最終到達時間(粉砕到達時間)とした。最終到達時間が短いほど良い。なおブレーン値の測定は、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に定められるブレーン空気透過装置を使用した。クリンカー1000gのスケールであるこの試験での粉砕到達時間の相違は、クリンカーの重量がトンスケールの実機レベルではより大きな差となってあらわれる。
【0054】
(1−5)強度試験
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)に準じ混練7日後の強度を測定した。強度は高いほど良い。用いたセメントは、前記で得られたブレーン値3300±100cm2/gのものである。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜6の粉砕助剤は、参考例1のグリセリンを単独で用いた場合と比べて、粉砕時間が11分以上短縮された。また、実施例1〜4の粉砕助剤は参考例1のグリセリンを単独で用いた場合と比べて、7日強度が同等以上であった。実施例3は、現在粉砕助剤として用いられているジエチレングリコールよりも粉砕時間と7日強度の両方で良い結果であった。なお、本発明の製造方法におけるもう一つの原料であるメタノールは粉砕性能の向上や強度向上の効果はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールとグリセリンとを含有する原料を、銅含有触媒存在下、水素を0.1〜20MPaの圧力で導入し200〜280℃で反応させる工程を有する水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法であって、水硬性化合物用粉砕助剤中のプロピレングリコール、2,3−ブタンジオール及び1,2−ブタンジオールの合計量が75重量%以上である、水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法。
【請求項2】
前記原料中のメタノールとグリセリンの重量比が1/10〜10/1である、請求項1記載の水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法。
【請求項3】
銅含有触媒が、酸化チタンに担持された銅−亜鉛触媒である請求項1又は2記載の水硬性化合物用粉砕助剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られる水硬性化合物用粉砕助剤の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する水硬性粉体の製造方法であって、水硬性化合物100重量部に対し水硬性化合物用粉砕助剤を0.001〜0.2重量部用いる、水硬性粉体の製造方法。

【公開番号】特開2011−173836(P2011−173836A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39808(P2010−39808)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】