説明

水硬性組成物

【課題】水硬性組成物の物性を何ら損ねることなく、鏝塗作業性を改善し、作業効率を高めることができる水硬性組成物を提供する。
【解決手段】陰イオン系で起泡性を有する界面活性剤(A群)の少なくとも1種、非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)の少なくとも1種、及び水溶性セルロースエーテルを含む水硬性組成物であって、A、B群それぞれの界面活性剤の添加量が水硬性組成物中の粉体物質に対し、固形分として各々0.000005〜0.004質量%であり、かつ水溶性セルロースエーテルの添加量が水硬性組成物の0.02〜1.2質量%であることを特徴とする水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量モルタル、補修モルタルを始めとする左官材・タイルモルタル等の水硬性組成物に関し、更に詳しくは鏝塗作業性が改善し、塗布時の作業効率の高い水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
左官材等の鏝で塗布する水硬性組成物は、古くは天然物の『つのまた』等の海藻のりを加えることにより、塗布時の作業性を確保していた。その後、半合成樹脂としてメチルセルロースが開発され、以降一般的に使用されている。
【0003】
このような水硬性組成物に関し、要求される物性として、良好な作業性(塗りやすさ・仕上げのしやすさ)、高い保水性(ドライアウト等による硬化不良防止)、ダレ(ズレ)防止性(塗布したモルタルの自重による変形防止、張り付けたタイルのズレ防止)等が求められており、作業現場での合理化が進む近年、これらの要求は益々高度になってきている。
【0004】
特開平11−349367号公報(特許文献1)においては、コンクリート分野における適応法として、陰イオン界面活性剤であるAE剤と、ポリオキシアルキレン共重合体等の収縮低減剤との組み合わせが例示されているが、ここに記載されているコンクリート分野における添加量で本発明に適用した場合、その量が過大すぎて作業性が著しく劣るようになるとともに、硬化物性にも悪影響を及ぼし、本発明の目的を達成することができなくなる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−349367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、水硬性組成物の物性を何ら損ねることなく、鏝塗作業性を改善し、作業効率を高めることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、起泡性を有する陰イオン系界面活性剤と非イオン系の界面活性剤である消泡剤との組み合わせにより、鏝塗作業性が著しく改善できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、陰イオン系で起泡性を有する界面活性剤(A群)の少なくとも1種、非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)の少なくとも1種、及び水溶性セルロースエーテルを含む水硬性組成物であって、A、B群それぞれの界面活性剤の添加量が水硬性組成物中の粉体物質に対し、固形分として各々0.000005〜0.004質量%であり、かつ水溶性セルロースエーテルの添加量が水硬性組成物の0.02〜1.2質量%であることを特徴とする水硬性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水硬性組成物の保水性、強度特性を損なうことなく、鏝塗作業性を著しく改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、陰イオン系で起泡性を有する界面活性剤(A群)、非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)を含む水硬性組成物である。通常、水硬性組成物中に起泡性を有する界面活性剤を添加すると、水硬性組成物の単位容積質量が低下するため鏝塗作業性は改善するが、保水性が悪くなったり、水硬性組成物自体の強度が低下したりするといった不都合が生じるようになる。一方、消泡剤である界面活性剤のみを添加した場合は、水硬性組成物の単位容積質量が増加し、鏝塗作業性が著しく悪くなるといった欠点を生じる。
【0011】
本発明に関する機構は解明されていないが、単に起泡剤と消泡剤とを用いて組成物中の空気量をコントロールして作業性改善効果というわけではなく、無機粉体への界面活性剤の吸着現象による粉体表面性改良効果が密接に関係しているものと推察される。
【0012】
本発明の水硬性組成物中の陰イオン系で気泡性を有する界面活性剤(A群)としては、脂肪酸石鹸系、アミドエーテルサルフェート系、ドデシルベンゼンスルホン酸系、ラウリル酸系、ラウリル硫酸系、ラウロイルザルコシネート系、スルホコハク酸系、アルキルサルフェート系、アルキルエーテルサルフェート系等が挙げられる。その添加量は、粉体物質に対し、固形分として0.000005〜0.004質量%、好適には0.00001〜0.0035質量%、更に好適には0.00005〜0.003質量%である。陰イオン系で気泡性を有する界面活性剤の添加量が0.000005質量%未満だと作業性改善の効果が認められず、0.004質量%を超えると水硬性組成物中に過大に空気が入り込み、強度が低下する。
【0013】
一方、非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)としては、ポリエーテル系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、植物油系等が挙げられる。その添加量は、粉体物質に対し、固形分として0.000005〜0.004質量%、好適には0.00001〜0.0035質量%、更に好適には0.00005〜0.003質量%である。非イオン系の消泡剤である界面活性剤の添加量が0.000005質量%未満だと作業性改善が認められず、0.004質量%を超えると空気が抜けすぎて作業性がかえって悪化する。
【0014】
また、陰イオン系で気泡性を有する界面活性剤(A群)と非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)の添加割合は、A/B=10/90〜90/10(固形分質量比)であることが好ましく、より好適にはA/B=20/80〜80/20、更に好適にはA/B=30/70〜70/30である。添加割合(A/B)が10/90〜90/10の範囲外の場合、A群による泡の発生が多くなり過ぎ、水硬性組成物の強度低下を引き起こすか、B群が多くなり過ぎることにより、必要な空気までが抜けてしまい、作業性が著しく劣るようになる。
【0015】
更に、これら界面活性剤の添加量は極微量であるため、A群、B群の界面活性剤として、シリカ質微粉末等の無機担持体や、セルロースエーテル等の有機担持体に含浸させておいたものを使用してもよい。界面活性剤の担持体としてのシリカ質微粉末には、例えばホワイトカーボン等の無晶形二酸化ケイ素、珪藻土のような多孔質二酸化ケイ素、多孔質ケイ酸カルシウム等が挙げられる。界面活性剤の担持体としてのセルロースエーテルには、後述の水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。
この場合、界面活性剤/有機又は無機担持体=30/70〜5/95(固形分質量比)の割合で使用するのが好ましい。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、保水性、可塑性を確保するため、更に水溶性セルロースエーテルを含む。具体的にはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等の水溶性アルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース等の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。水溶性セルロースエーテルの添加量は組成物全体の0.02〜1.2質量%、好ましくは0.03〜0.7質量%、更に好ましくは0.04〜0.55質量%である。水溶性セルロースエーテルの添加量が0.02質量%より少ないと十分な保水性が認められず、ドライアウトが発生したり、可塑性が不足するため、下地への密着性が悪くなったりし、硬化後の剥落の原因となったりする。逆に1.2質量%を超えると粘性が高過ぎ、作業性改善効果が望めないだけでなく、経済的にも好ましくない。
【0017】
水溶性セルロースエーテルの粘度は、通常20℃、1質量%水溶液とした場合に、B型又はブルックフィールド型粘度計20rpmで、5〜30,000mPa・sであることが好ましく、より好適には10〜10,000mPa・s、更に好適には15〜7,000mPa・sである。粘度が5mPa・sより低い場合は、水硬性組成物の保水性が不十分となる場合があり、30,000mPa・sより高い場合は、水硬性組成物の粘性が高過ぎて、作業性改善効果が望めない場合がある。
【0018】
本発明の水硬性組成物は、上記成分の他に、セメント、石膏、細骨材、無機増量材、有機増量材、水等を含めることができる。
【0019】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、ジェットセメント等の各種のセメントを用いることができる。また、セメントの一部又は全部を石膏に置き換えて用いることも可能であり、例えば半水石膏が用いられる。更に、凝結調整のため無水石膏又は二水石膏を添加することもできる。セメント又は石膏の添加量(以下、添加量に関しては、セメント、石膏、細骨材、増量材の合計質量を100質量部として表記し、その他の混和剤に関しては、前記100質量部に対する質量%で表記する)は、15〜85質量部、好適には20〜80質量部、更に好適には25〜75質量部である。添加量が15質量部より少ない場合は、硬化が著しく遅れたり、硬化しなかったりといった不都合が生じる場合がある。また、添加量が85質量部より多い場合は、乾燥収縮や自己収縮が起こり、硬化後の表面にひび割れが発生したりするといった不都合が生じる場合がある。
【0020】
細骨材は、川砂、山砂、海砂、砕砂等が好適で、左官用細骨材が用いられたりする。その粒径は、5mm以下、好ましくは2mm以下、更に好ましくは1mm以下であるものが望ましい。この添加量は、85〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好適には80〜20質量部、更に好適には75〜25質量部の範囲で使用される。また、細骨材の一部を無機又は有機増量材と置き換えてもよく、無機増量材としては、フライアッシュ、高炉スラグ、タルク、炭酸カルシウム、大理石粉(石灰石粉)、パーライト、シラスバルーン等が使用され、粒径が5mm以下のものが通常使用される範囲である。有機増量材としては、発泡スチレンビーズ、発泡エチレンビニルアルコールの粉砕物等が使用される。これらの粒径は、通常10mm以下のものが使用される。
【0021】
その他、水硬性組成物の物性に悪影響を及ぼさない範囲で、ダレ・ズレ止め効果のあるポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等の合成高分子や、ペクチン、ゼラチン、カゼイン、ウェランガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム、澱粉誘導体等の天然物由来の高分子等や、その他の強度増強剤等を併用することは差し支えない。
【0022】
更に、本発明の水硬性組成物は、水を添加して常法により混練、施工するが、水の添加量は強度物性等を損なわない範囲で所定のワーカビリティーが得られる量とすることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】
《使用材料》
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋マテリアル社製)
半水石膏:試薬(和光純薬社製)
三河珪砂:5・6号(三河珪砂社製)
フライアッシュ:市販品(常磐フライアッシュ社製)
炭酸カルシウム:試薬(和光純薬社製)
発泡スチレンビーズ:粒径1mm以下
再乳化型粉末樹脂:LDM7100P(ニチゴーモビニール社製)
陰イオン系起泡剤(界面活性剤):表1に示した
非イオン系消泡剤(界面活性剤):表2に示した
水溶性セルロースエーテル:表3に示した
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1及び表2に示した界面活性剤は、全てシリカ質微粉末に含浸(界面活性剤/シリカ質微粉末=50/50(固形分質量比)で調整)したものを用いた。
【0028】
【表3】

【0029】
HPMC:
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒドロキシアルキルアルキルセルロース)
HEMC:
ヒドロキシエチルメチルセルロース(ヒドロキシアルキルアルキルセルロース)
HEC:
ヒドロキシエチルセルロース(ヒドロキシアルキルセルロース)
MC:
メチルセルロース(アルキルセルロース)
【0030】
[実施例1〜10、比較例1〜5]
上記の材料を表4〜8に示した配合で下記に示す方法により調製し、水硬性組成物を得た。この組成物を用いて、テーブルフロー、作業性、保水率、曲げ強さの実験を行った。結果を表4〜8に示す。
なお、下記表4〜8において、試料A、B、Cの添加量については、粉体物質(例えば水及び試料A〜C以外の物質)に対する固形分質量%であり、水の添加量については、試料A〜C以外の物質の合計量に対する質量%である。また、試料A/試料Bは固形分質量比である。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】
【表8】

【0036】
〔評価方法〕
水以外の材料(粉体)を予めブレンドしておき、5リットルモルタルミキサーに粉体を投入し、撹拌しながら所定量の水を投入した。混練を3分間行い、その後、以下の測定を実施した。
【0037】
《測定》
(1)テーブルフロー試験
JIS R 5201に準じた。
(2)鏝塗作業性
官能試験:作業員3人による評価の平均値とした。基準を3とし、5は最も塗りやすく、1は最も塗りにくいことを表す。
(3)保水率
JIS A 6916 に準じた。
(4)曲げ強さ
作製はJIS R 5201に準じ、養生はJIS A 1171に準じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン系で起泡性を有する界面活性剤(A群)の少なくとも1種、非イオン系の消泡剤である界面活性剤(B群)の少なくとも1種、及び水溶性セルロースエーテルを含む水硬性組成物であって、A、B群それぞれの界面活性剤の添加量が水硬性組成物中の粉体物質に対し、固形分として各々0.000005〜0.004質量%であり、かつ水溶性セルロースエーテルの添加量が水硬性組成物の0.02〜1.2質量%であることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
A群とB群の添加割合が、固形分質量としてA/B=10/90〜90/10である請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水溶性セルロースエーテルが、B型又はブルックフィールド型粘度計を用いた20℃における1質量%濃度の水溶液粘度が20rpmで5〜30,000mPa・sである水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、又は水溶性ヒドロキシアルキルセルロースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
A群及び/又はB群の界面活性剤が、担持体であるシリカ質微粉末に含浸させたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
A群及び/又はB群の界面活性剤が、担持体である水溶性セルロースエーテルに含浸させたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。

【公開番号】特開2008−37663(P2008−37663A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209587(P2006−209587)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】