説明

水系洗浄剤

【課題】溶剤系洗浄剤は引火の危険性や揮発による環境や人体への影響があり、水系洗浄剤は洗浄後の界面活性剤やアルカリ剤などの残留物を除去するために、さらに水ですすぐといった手間があり、また洗浄面の腐食といった問題があった。
【解決手段】非水溶性溶剤、界面活性剤およびアルカリ剤を使用せず、(A)界面活性化作用および耐腐食性を有する気化性化合物、(B)水、(C)水溶性溶剤を使用し、pHの範囲が5.0〜13.5である水系洗浄剤を用いて前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のブレーキやパーツ、塗装前の被塗物表面、空調機の熱交換フィン、建材等の被洗浄物に適した水系洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の洗浄剤として、フロンや塩素系溶剤が使用されてきたが、環境への影響や人体への影響から使用が禁止された為、石油系溶剤やアルコール系溶剤が使用されるようになった。(特許文献1参照)
【0003】
又、水系の洗浄剤も使用されているが、洗浄性能を出す為に、成分として界面活性剤やアルカリ剤を添加している。又、アルカリ剤の替わりに電気分解等によるアルカリイオン水が使用される場合もある.(特許文献2、特許文献3参照)
【0004】
さらに水系の洗浄剤で界面活性剤やアルカリ剤を添加せず、水溶性溶剤が使用される場合もある.(特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−150198号公報
【特許文献2】特開第3305260号公報
【特許文献3】特開2001−207199号公報
【特許文献4】特開平10−204497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上の技術によれば、フロンや塩素系といった溶剤はオゾン層破壊、地下水汚染、発がん性のように環境や人体への影響により使用が制限又は禁止され、さらに石油系溶剤やアルコール系溶剤は可燃性である為、引火による火災の危険や、揮発性の高さによる人体への影響や環境への影響が問題となっている。
【0007】
又、水系の洗浄剤は洗浄性能を出す為に、成分として界面活性剤やアルカリ剤を添加している為、洗浄後に界面活性剤やアルカリ剤が残留するので、さらに水によるすすぎ作業や酸での中和といったリンス作業が必要であり手間となる上、さらに金属面の場合は水や酸による腐食が発生する問題がある。
【0008】
さらにアルカリ剤の替わりに電気分解等によるアルカリイオン水を使用する場合があるが、活性水素の消滅によるアルカリ性の持続時間が短いといった問題や電気分解等により産出されるアルカリ性物質の残留といった問題がある。
【0009】
さらに界面活性剤やアルカリ剤を使用せず、水溶性溶剤が使用される水系の洗浄剤があるが、洗浄性能上、水の添加量を増やす事が困難であるといった問題がある。
【0010】
従って、本発明は、前述した溶剤系洗浄剤の抱える問題、水系洗浄剤の残留物、金属面の腐食、液性の変化といった問題点を解決し、水系で引火性が低く、洗浄性、耐腐食性、安定性に優れ、残留物が無く水すすぎが不要で、水の配合量を高く設定できる水系洗浄剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、第一発明は、下記の(A)〜(C)成分を含有し、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性及び両性から選択される界面活性剤を含まず、かつアルカリ金属水酸化物,アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属珪酸塩から選択されるアルカリ剤を含まないことを特徴とする水系洗浄剤である。(A)気化性化合物0.01〜25.0重量%、(B)水30.0〜99.99重量%、(C)水溶性溶剤0〜50.0重量%。
【0012】
以上の課題を解決するために、第二発明は、上記水系洗浄剤の25℃におけるpHの範囲が5.0〜13.5であることを特徴とする水系洗浄剤である。
【発明の効果】
【0013】
第一発明又は第二発明によれば、気化性化合物の界面活性化作用により汚れの洗浄が可能であり又、洗浄後に、この気化性化合物が自然乾燥やエアブローなどによる水の蒸発と共に気化するので残留物が残らず、水すすぎの必要がないので簡便である。同時に、引火による火災の危険性が低く、揮発溶剤成分による人体や環境への影響が小さく、さらに気化性化合物の耐腐食性により洗浄面の腐食を防止する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性及び両性から選択される界面活性剤並びにアルカリ金属水酸化物,アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属珪酸塩から選択されるアルカリ剤を含まないことが特徴であり、代わりに気化性化合物を含有するものである。
【0015】
本発明における(A)気化性化合物は気温0℃以上で気化性を有し、さらに界面活性化作用による洗浄性を有するもので、例としてジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト,ジイソプロピルアンモニウムナイトライト及びこれらの混合物がある。その他,シクロヘキシルアミンカーボネート及びジシクロヘキシルアンモニウムのカプリル酸塩,ラウリル酸塩,炭酸塩などがあり、さらにベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール及びアルキルベンゾトリアゾールなどがある。さらにアミン塩類,カプリル酸などの脂肪族系の酸及びこれらの塩類、安息香酸などの芳香族系の酸及びこれらの塩類がある。これらは、金属の腐食を防止するものとして知られている。
【0016】
これら本発明における(A)気化性化合物の含有量は、本組成物全体に対し、0.01〜25.0重量%に設定される。すなわち0.01%未満の配合量では洗浄力及び被洗浄物の耐腐食性が発現できず、25.0%を超えると経済的に不利となる。
【0017】
本発明における(B)水は、特に制限はないが、微量に存在する重金属やイオンなどを取り除いたイオン交換水や蒸留水を用いることが望ましい。成分(B)の含有量は、本組成物全体に対し、30.0〜99.99重量%の範囲に設定される。すなわち30.0%未満の配合量では、引火点が発現し火災の危険性が増し、99.99%を超えると洗浄力及び被洗浄物の耐腐食性が発現できない。
【0018】
本発明における(C)水溶性溶剤は、グリコールエーテル系溶剤、アルコール、ピロリドン化合物及びアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、リモネンがある。
【0019】
上記グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノプロピルエーテル,エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノブチルエーテル,プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のプロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール等があげられる。
【0020】
なかでも、浸透性、展着性及び洗浄性の点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノフェニルエーテル,ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0021】
上記アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、さらにブタノール類、ベンジルアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等がある。特に、浸透性、展着性及び洗浄性の点から、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0022】
上記ピロリドン化合物としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン等のN−アルキル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、5−エチル−2−ピロリドン、5−プロピル−2−ピロリドン等の5−アルキル−2−ピロリドン、N−メチル−3−ピロリドン、N−エチル−3−ピロリドン、N−プロピル−3−ピロリドン等のN−アルキル−3−ピロリドン等がある。特に展着性、浸透性及び洗浄性からN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0023】
これら(C)水溶性溶剤は(A)〜(B)の必須成分とともに、任意成分として必要に応じて配合することができ、単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。また配合量50.0重量%を超えると引火性や経済的に不利となる。この(C)成分は、洗浄面への展着性の向上、汚れへの浸透性及び洗浄性の向上に寄与する。
【0024】
本発明の水系洗浄剤は、原液における水素イオン指数すなわちpHは25℃で5.0〜13.5の範囲であるが、洗浄効果及び耐腐食性を保つためには7〜12が好ましい。pHが5.0未満又は13.5を超えると被洗浄物の腐食や取扱い上の危険性が生じることがある。
【0025】
本発明における水系洗浄剤には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の成分を添加する事ができる。例えば防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート剤、展着剤、浸透剤、表面改質剤、研磨剤、消臭剤、帯電防止剤、香料、染料などである。
【0026】
本発明の水系洗浄剤を使用する時は、塗装ラインなどの工場ラインでは、本発明品である水系洗浄剤へのディッピング洗浄が可能であるが、噴射パターンの調整やエアブローが可能な塗装ガンによる吹き付け洗浄が推奨される。工事現場などのスポット作業では移動が可能なエアレスガンによる吹き付け洗浄が推奨される。
【0027】
使用の簡便さから、噴射ポンプが付いたボトルへの充填や噴射ガスと共に充填するエアゾールが推奨される。エアゾールの噴射ガスとしては、圧縮空気、窒素、酸素、炭酸ガスや液化石油ガス、ジメチルエーテル及び代替フロン等があるが環境への影響が低い圧縮空気、窒素、酸素又はジメチルエーテルが推奨され、特にジメチルエーテルが洗浄性向上に寄与するので好ましい。又、本発明の水系洗浄剤はエアゾール缶の腐食防止にも寄与する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に拘束されるものではない。
【0029】
下記表1および表2に示す実施例1〜4、比較例1〜4の各組成を秤量、混合して得られた洗浄剤を用いて洗浄性、耐腐食性、危険物分類を評価して表3に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表3における洗浄性、耐腐食性、危険物分類の評価は下記の方法で行った。
[1]SPCC鋼板テスト板に動粘度14mm/S(40℃)の金属加工油を霧吹きにて塗布し、各洗浄剤を塗装用エアーガンにて吹き付け洗浄した。比較例2はさらに水でのすすぎを行い、残留物を流した。
[2]洗浄性は墨汁濡れ性による目視評価法を行い、墨汁のはじき具合を目視で確認し、
○はじき無し
△ややはじき有り
×はじき有り
で表した。
[3]耐腐食性は、洗浄後12時間放置した時点での赤錆の発生状況を
○赤錆無し
△一部に赤錆発生
×全面に赤錆発生
で表した。
[4]消防法上の分類は、タグ密閉式引火点測定器にて引火点を測定し、消防法上の危険物の分類を判定した。
【0033】
【表3】

【0034】
上記表3の結果より、洗浄性は本発明の洗浄剤を用いた実施例1〜4は墨汁のはじきがなく、濡れ性が良好で油分が除去されていることがわかり、比較例1〜4に比べ同等もしくは同等以上の洗浄性であることがわかる。
【0035】
耐腐食性は比較例1〜3は残留した水による影響で赤錆が発生しており、比較例4も溶剤の揮発時の冷却効果により発生した結露による赤錆がやや発生している。比べて本発明の洗浄剤を用いた実施例1〜4は赤錆が発生せず、耐腐食性に優れていることがわかる。
【0036】
又、実施例1〜4は全て引火点が認められず、非危険物であることがわかる。
【0037】
「実施形態の効果」
この実施形態によれば、界面活性化作用を有する気化性化合物の働きで、界面活性剤やアルカリ剤を用いることなく洗浄ができ、さらに気化性を有するため洗浄後に残留物が残らないので、水すすぎや酸でのリンス処理などを必要としない。又、気化性化合物のもつ耐腐食性により、洗浄後に腐食が発生しない。又、アルカリイオン水を使用しないので、液性の変化が発生せずに安定である。さらに水と水溶性溶剤の配合量の調整により、より安全な高引火点もしくは引火点の発生しない非危険物とすることができる上、揮発分の少なさから環境や人体に対しての影響がほとんど発生しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分を含有し、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性及び両性から選択される界面活性剤を含まず、かつアルカリ金属水酸化物,アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属珪酸塩から選択されるアルカリ剤を含まないことを特徴とする水系洗浄剤。
(A)気化性化合物0.01〜25.0重量%。
(B)水30.0〜99.99重量%。
(C)水溶性溶剤0〜50.0重量%。
【請求項2】
25℃におけるpHの範囲が5.0〜13.5であることを特徴とする請求項1記載の水系洗浄剤。

【公開番号】特開2013−32473(P2013−32473A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178126(P2011−178126)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(511200443)
【Fターム(参考)】