説明

水素の酸化に使用される触媒および炭化水素を脱水素する方法

本発明は炭化水素の脱水素法で水素を酸化する触媒に関する。前記触媒はα−酸化アルミニウムに担持され、触媒の全質量に対して白金0.01〜0.1質量%および錫0.01〜0.1質量%を含有する。前記触媒を使用した組み込まれた酸化法により水素を酸化する方法および炭化水素を脱水素する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素の脱水素法で水素を酸化する触媒に関し、前記触媒はα−酸化アルミニウムに担持され、触媒の全質量に対して白金0.01〜0.1質量%および錫0.01〜0.1質量%を含有する。本発明は更に前記触媒を使用して、組み込まれた酸化法により水素を酸化する方法および炭化水素を脱水素する方法に関する。
【0002】
技術水準には種々の触媒および脱水素法で水素を酸化する方法が記載されている。
【0003】
米国特許第4599471号は酸素の多い水蒸気が供給された酸化帯域が2つの脱水素帯域の間に配置されている脱水素法を記載する。酸化触媒は0.01〜5質量%の量のVIII族の貴金属および1.35Å以上のイオン半径を有する金属または金属カチオンを含有する。
【0004】
欧州特許第826418号は酸化触媒およびエチルベンゼンからスチレンを生じる脱水素での水素の選択的酸化法を記載する。触媒は酸化アルミニウム担体上の白金0.01〜10質量%を含有し、酸化アルミニウムのBET表面積は0.5〜6m/gであり、酸化アルミニウムは5μモル/g以下のアンモニア吸着を有する。
【0005】
欧州特許第1229011号は酸化帯域が2つの脱水素段階の間に組み込まれ、第2脱水素段階で第1段階に対して2.1未満の二酸化炭素生成率が維持される、エチルベンゼンの脱水素法を記載する。使用される酸化触媒は白金、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、錫または鉛および/または4族の金属、例えばゲルマニウムを含有する触媒である。
【0006】
技術水準に記載された組み込まれた酸化段階を有する多数の炭化水素の脱水素法にもかかわらず、特に組み込まれた酸化法の選択率および経済性に関して改良する必要が依然として存在する。
【0007】
従って本発明の課題は、高い選択率および活性を示し、技術水準の触媒より経済的である水素の酸化のための触媒を見出すことである。更に、特に脱水素法に組み込まれた、水素を酸化する改良された方法が見出されるべきである。
【0008】
前記課題は、炭化水素の脱水素法で水素を酸化する触媒により解決され、前記触媒はα−酸化アルミニウムに担持され、触媒の全質量に対して白金0.01〜0.1質量%および錫0.01〜0.1質量%を含有することを特徴とする。
【0009】
白金および錫は有利に1:4〜1:0.2、有利に1:2〜1:0.5、特に約1:1の質量比で使用される。
【0010】
触媒は有利に触媒の全質量に対して白金0.05〜0.09質量%および錫0.05〜0.09質量%を含有する。
【0011】
白金および錫のほかに、場合によりアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を2質量%未満、特に0.5質量%未満の量で使用することができる。アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用する場合は、アルカリ金属化合物、特にナトリウム化合物、カリウム化合物および/またはセシウム化合物が有利である。
【0012】
酸化アルミニウム触媒は特に有利に白金および錫だけを含有する。微量のアルカリ金属およびアルカリ土類金属が、市販された酸化アルミニウムに典型的に存在する化合物に相当する大きさの程度で存在するかまたは例えばタブレット形成助剤としてステアリン酸マグネシウムを使用する場合に、成形体の製造に導入することができる。
【0013】
α−酸化アルミニウムを含有する触媒担体は有利に0.5〜15m/g、有利に2〜14m/g、特に7〜11m/gのBET表面積を有する。担体として成形体を使用することが有利である。有利な形状物は例えばペレット、環状ペレット、球、シリンダー、星形押出品またははめ歯車形押出品である。これらの形状物の直径は有利に1〜10mm、有利に2〜8mmであり、個々の直径は前記の平均直径の周りに分配できる。球またはシリンダー、特に球が特に有利である。球は一般に3〜7mmの平均直径を有し、有利に球の5質量%以下が3mm未満の直径を有し、球の5質量%以下が7mmより大きい直径を有することが有利である。
【0014】
触媒担体は有利にα−酸化アルミニウムのみからなる。
【0015】
α−酸化アルミニウム担体は当業者に知られたすべての方法により製造できる。酸化アルミニウム水和物(疑似ベーマイト)粉末および場合によりγ−酸化アルミニウム粉末を混合し、場合により黒鉛、ステアリン酸マグネシウム、ジャガイモ澱粉または硝酸のような助剤を添加して、ラム押出機に水を添加して、または有利に連続的に運転する押出機中で成形することによりシリンダー形成形体が有利に製造される。場合により成形体を押出の間に長さに切断できる。押出品を有利にベルト焼成器中で、100〜180℃、一般に400〜800℃の温度で、0.5〜5時間、有利に乾燥させる。引き続き押出品を、例えば回転管、竪炉またはマッフル炉中で、有利に1000〜1200℃の温度で、最終焼成する。代案として、疑似ベーマイト含有成形体から出発する焼成を1つの装置、例えばマッフル炉で、有利に段階的にまたは連続的に高める温度特性を使用して実施することができる。疑似ベーマイトとγ−Alの比により担体の機械的特性および細孔構造を調節できる。代案として、例えば欧州特許第1068009号に記載されるように、タブレット成形により成形を行うことができる。タブレット成形の場合に、1つの有利な構成は米国特許第6518220号に記載されるようにドーム形環状タブレットからなる。
【0016】
触媒の活性成分は一般に含浸により被覆する。α−酸化アルミニウム担体の含浸は例えばWO03/092887号に記載されるように行う。含浸は有利に二工程で、まず酸化アルミニウム担体に白金化合物の溶液、有利に硝酸白金溶液を含浸させ、触媒を乾燥し、引き続き錫化合物の溶液、有利に塩化錫(II)溶液を含浸させ、引き続き乾燥し、焼成することにより実施する。
【0017】
本発明の触媒は有利に5%未満の摩耗を有する。本発明の触媒は更に有利に10Nより大きい破壊硬度を有する。
【0018】
触媒は有利にシェル状の形を有する。かさ密度は有利に0.3〜2g/cm、特に0.6〜1.2g/cmである。
【0019】
本発明の触媒は有利に酸化触媒として使用できる。本発明の酸化法において、水素および炭化水素を含有するガス混合物を本発明の酸化触媒の存在で酸素含有ガスと反応させる。酸素含有ガスは有利に少なくとも80体積%、有利に少なくとも90体積%、特に少なくとも95体積%の酸素を含有し、量はそれぞれ標準条件下で気体である酸素含有ガスに関し、すなわち水蒸気での付加的希釈を考慮しない。場合により空気を使用することもできる。酸化反応は一般に400〜700℃、特に500〜650℃の温度および0.3〜10バール、特に0.4〜1バールの圧力で実施する。酸素と水素のモル比は一般に0.1:1〜1:1、有利に0.2:1〜0.6:1、特に0.3:1〜0.45:1である。水素と炭化水素のモル比は有利に0.01:1〜0.5:1、特に0.1:1〜0.3:1の範囲にある。
【0020】
本発明の触媒および本発明の酸化工程を有利に使用できる方法は炭化水素、特にアルキル芳香族化合物の脱水素法、特に有利にエチルベンゼンのスチレンへの脱水素である。
【0021】
脱水素反応は有利に連続に配置された多数の反応器中で実施し、本発明による少なくとも1個の酸化工程が2つの脱水素反応器の間で実施されるかまたは少なくとも1個の脱水素反応器に組み込まれる。
【0022】
連続に配置された3個の脱水素反応器の集合体が有利であり、本発明の酸化工程を流動方向で第2反応器におよび場合により流動方向で第3脱水素反応器に組み込む。酸化触媒および脱水素触媒の層の体積比は一般に0.1:1〜1:1、有利に0.15:1〜0.6:1、特に0.2:1〜0.4:1である。
【0023】
組み込まれた酸化触媒の場合は、この触媒は有利に脱水素触媒の上流に配置され、すなわちそれぞれの反応器中の反応ガスがまず酸化触媒を流動し、引き続き脱水素触媒を流動する。酸化触媒と脱水素触媒の触媒層が同心状に配置され、場合によりシリンダー状スクリーンにより互いに分離されている放射状の流動反応器を使用することが有利である。その場合は酸化触媒を2つの同心状、ほぼ中空のシリンダー層の内層として使用する。
【0024】
炭化水素の脱水素は当業者に知られたすべての方法により実施できる。アルキル芳香族化合物からアルケニル芳香族化合物を生じる脱水素は有利に断熱法または等温法で、特に断熱法で行う。反応は一般に連続して配置された複数の反応器、有利に放射状の流動反応器(R)に分配される。連続して配置された2〜4個の反応器が有利である。それぞれの反応器に脱水素触媒を含有する固定床が配置される。脱水素触媒は一般に酸化鉄を有する触媒である。これらは当業者に知られ、例えばドイツ特許第10154718号に記載されている。脱水素触媒(DC)は例えば欧州特許第1027928号、または欧州特許第423694号に記載されるように、有利に中実シリンダー、星形押出品、またははめ歯車形押出品の形で使用される。直径(横断面)約2〜6mm、特に2.5〜4mmを有する棒(中実シリンダー)、直径3〜5mmを有する星形押出品または直径2.5〜4mmを有するはめ歯車形押出品が特に有利である。
【0025】
エチルベンゼンからスチレンを生じる脱水素において、エチルベンゼン(EB)を、典型的に、有利にエチルベンゼンに対して15質量%未満の量の水蒸気(HO)と一緒に、熱交換器(HE)を使用して約500℃の温度に加熱し、第1反応器(R)中の所望の導入温度が一般に600〜650℃であるように、第1反応器(R)に導入する直前に水蒸気過熱装置(SSH)からの過熱した水蒸気と混合する。第1反応器中の脱水素触媒の層に導入する際の水蒸気(全水蒸気)とエチルベンゼンの質量比は有利に0.7:1〜2.5:1である。水蒸気/エチルベンゼン比0.75:1〜1.8:1、特に0.8:1〜1.5:1を使用することが有利である。供給される酸素を水蒸気で希釈する場合は、引き続く反応器段階の方向で水蒸気/エチルベンゼン比を高めることができる。前記方法は有利に減圧下で運転し、典型的な反応器圧力は300〜1000ミリバールの範囲にある。脱水素触媒を有する層の活性体積(すなわち流れがほとんどまたは全く生じない死帯域の体積を除いた層の体積)に対する液体空間時間速度(LHSV)は一般に0.2〜0.7/h、有利に0.3〜0.5/h、特に0.35〜0.45/hである。有利に中空シリンダー触媒床(放射状反応器)を通過する流れは内側から外に向かう。
【0026】
第2反応器(R)中の酸化触媒(OC)上で、50〜150℃、特に70〜130℃の有利な温度の上昇を達成するために、使用される酸素(O)と先行する反応器(R)から排出される水素のモル比は一般に0.1:1〜0.6:1、有利に0.2:1〜0.5:1、特に0.3:1〜0.45:1である。爆発する混合物を避けるために、酸素は空気の形でまたは有利に水蒸気(HO)で希釈された富化された形で供給できる。酸素は、水蒸気での希釈を考慮しない、標準条件で気体である酸素含有ガスに対して、有利に少なくとも80体積%、特に少なくとも90体積%、特に有利に少なくとも95体積%の濃度で使用する。
【0027】
第3反応器(R)に導入する前に、反応混合物を有利に熱交換器(HE)中で過熱水蒸気を使用して一般に600〜650℃の温度に戻す。第3反応器(R)の出口の圧力は有利に700ミリバール以下、有利に600ミリバール以下、特に500ミリバール以下であるべきである。代案として、熱交換器の代わりに、本発明の他の酸化触媒層をRの入口で、Rの入口での熱の導入に類似の方法で、酸素を付加的に添加して、貯蔵することができる。
【0028】
水蒸気および液体炭化水素の大部分の凝縮後に方法を離れるガス(脱水素ガス)中の二酸化炭素の割合は有利に20体積%以下、より有利に15体積%以下、特に10体積%以下である。
【0029】
第3反応器の後方で、生成物流を冷却し、気体生成物および液相を分離し、残りの流れを蒸留により所望の生成物としてスチレン(ST)、未反応出発物質としてエチルベンゼン、および副生成物としてベンゼン、トルエンおよび高沸点物に分離する。反応生成物混合物の後処理後に、未反応エチルベンゼンを再循環することができる。
【0030】
運転条件に依存して、約60〜80%、特に65〜75%の3個のすべての反応器段階での全部の変換率が達成される。スチレン選択率は一般に約95〜98%である。形成される副生成物は主にトルエン、ベンゼン、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタンおよびエテンである。
【0031】
図1に1つの有利な構成に使用される装置を示す。熱交換器の数および配置が簡略にした形で示され、生成物混合物の後処理は示されない。
【0032】
本発明の触媒の利点は活性触媒の質量の減少にもかかわらず高い選択率である。貴金属含有量の減少は技術水準の触媒よりすぐれた大きな経済的利点を生じる。
【0033】
例1
A 酸化触媒の製造
欧州特許第1068009号の担体製造例に類似してγ−酸化アルミニウムおよび疑似ベーマイトの混合物を押出し、引き続きBET表面積7m/gに焼成することにより、最終表面直径4mm、吸水率0.38cm/gおよび切断硬度60Nを有する中実シリンダー押出品の形のα−酸化アルミニウム担体を製造した。担体225g(250cm)に、硝酸白金0.3134g(白金含量57.52%)の溶液86mlを含浸させた。2時間後、含浸させた触媒担体を120℃で乾燥した。引き続き触媒に塩化錫(II)二水和物0.3427gの溶液77mlを含浸させた。引き続き触媒を120℃で乾燥し、500℃で3時間焼成した。
【0034】
B 酸化触媒の組成
α−酸化アルミニウム 99.84質量%
白金 0.08質量%
錫 0.08質量%
BET表面積 7m/g。
【0035】
C エチルベンゼンのスチレンへの脱水素
連続して配置された3個の断熱した管形反応器を有する三段階反応器装置のそれぞれの反応器に3mm押出品の形のドイツ特許第10154718号の例8(例7の酸化鉄を使用)に記載された触媒434mlを設置した。第1反応器段階および第3反応器段階の反応器にそれぞれガス流入のための予熱器を備えた。第2反応器中で、脱水素触媒の上に酸化触媒127mlの層を設置し、不活性ステアタイトリングの長さ10cmの層により脱水素触媒から分離した。反応器の断熱した部分に酸化触媒の層を完全に配置した。ランスにより、酸化触媒層の真上の第1反応器段階から生じる反応混合物に空気を供給した(工業的規模でなく、実験でのみ、水蒸気での希釈より窒素の希釈が有利である)。徐々に負荷を増加して空気を導入せずに装置を7日間運転した後に、運転の8日目から第2反応器段階への空気の導入を開始した。運転の22日目に得られた条件および結果を以下の表に記載する。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の有利な構成に使用される装置の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の脱水素法で水素を酸化する触媒において、前記触媒がα−酸化アルミニウムに担持され、触媒の全質量に対して白金0.01〜0.1質量%および錫0.01〜0.1質量%を含有することを特徴とする炭化水素の脱水素法で水素を酸化する触媒。
【請求項2】
白金と錫の質量比が1:4〜1:0.2である請求項1記載の触媒。
【請求項3】
触媒が、触媒の全質量に対して白金0.05〜0.09質量%および錫0.05〜0.09質量%を含有する請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
α−酸化アルミニウムのBET表面積が0.5〜15m/gである請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
触媒がα−酸化アルミニウム上の白金および錫だけを含有する請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
水素の酸化法において、水素および炭化水素を含有するガス混合物を、請求項1から5までのいずれかに記載の酸化触媒の存在で酸素含有ガスと反応させることを特徴とする水素の酸化法。
【請求項7】
酸素と水素の比が0.1:1〜1:1である請求項6記載の方法。
【請求項8】
炭化水素の脱水素法において、脱水素反応を、連続に配置された多数の反応器中で実施し、請求項6または7記載の少なくとも1つの酸化法を、2つの脱水素反応器の間に中間接続するかまたは少なくとも1つの脱水素反応器に組み込むことを特徴とする炭化水素の脱水素法。
【請求項9】
連続に配置された3つの脱水素反応器を使用し、請求項6または7記載の酸化法を流動方向で第2脱水素反応器に組み込み、適当な場合は流動方向で第3脱水素反応器に組み込む請求項8記載の方法。
【請求項10】
エチルベンゼンをスチレンに脱水素する請求項8または9記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−537029(P2007−537029A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505446(P2007−505446)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003010
【国際公開番号】WO2005/097715
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】