説明

水素ガスの分離方法、および水素ガス分離装置

【課題】水素ガス分離に係る装置の大型化を抑制しつつ、高純度水素を高回収率で得るのに適した方法と装置を提供する。
【解決手段】本方法は、吸着剤が充填された吸着塔を用いて行うPSA法により、吸着塔に水素を含む混合ガスを導入して不純物を吸着剤に吸着させ、吸着塔から水素富化ガスを導出する吸着工程、および吸着剤から不純物を脱着させ、吸着塔からガスを導出する脱着工程、を含むサイクルを行うPSAガス分離工程と、吸着剤が充填された吸着塔20A,20Bを用いて行うTSA法により、吸着塔内の吸着剤が低温の状態にて、当該吸着塔に水素富化ガスを導入して不純物を吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から水素富化ガスよりも高純度の製品水素ガスを導出する吸着工程、および吸着塔内の吸着剤を昇温させつつ当該吸着剤から不純物を脱着させて当該吸着塔からガスを導出する再生工程、を含むサイクルを行うTSAガス分離工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含む混合ガスから不純物を除去して、高純度の水素ガスを効率よく分離する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止対策とも相俟って、エネルギーの原油依存体質からの脱却が世界的規模で重要課題となっており、環境保全に対する取り組みが盛んに行われている。かかる環境保全に対する取り組みとして、先行する欧州の先進国はもとより、米国や日本をはじめとするアジア諸国においても、水素ガスをエネルギー源とする燃料電池の実用化が進められている。
【0003】
燃料電池の燃料として使用される水素ガスの製造方法についても多くの研究が進められているが、現時点で最も安価で実現性の高い製造方法は、原料として天然ガス、LPG、灯油、ガソリン、メタノール、ジメチルエーテルなどの炭化水素系原料を使用し、これらを改質して水素ガスを製造する方法である。例えば天然ガスを改質して水素を製造するプロセスでは、水蒸気改質法が最もよく用いられている。天然ガスの主成分はメタン(CH4)であり、水蒸気改質法においては下記の式(1)および(2)で表される2段階の反応(改質反応および変成反応)により水素が生成する。
【0004】
【化1】

【化2】

【0005】
上記のような反応が理想的に進行すれば、生成物は水素(H2)と二酸化炭素(CO2)のみであるが、実際には改質反応・変成反応後のガス(以下、「改質ガス」と呼ぶ。)中には主成分の水素と合わせて不純物である水蒸気(H2O)や未反応メタン(CH4)、一酸化炭素(CO)、および二酸化炭素(CO2)が含まれる。これら不純物のうち一酸化炭素については、最大で1%程度含まれる。一般に、燃料電池自動車用の燃料水素ガスとしては5N(99.999容積%)程度以上の水素純度が求められ、特に一酸化炭素については、固体高分子形燃料電池の電極用触媒に用いられる白金(Pt)の被毒劣化防止の観点から10ppm以下の濃度に下げる必要がある。さらに、燃料電池の耐久性を考えた場合、一酸化炭素の濃度を0.2ppm以下程度まで低減する必要があるとされている。
【0006】
水素を含む混合ガス(改質ガス)から水素ガスを分離する代表的な方法として、選択酸化触媒法および圧力変動吸着法(PSA法)が知られている。
【0007】
選択酸化触媒法は、主に定置形燃料電池(家庭用燃料電池を含む)に対して開発が進められている技術であり、改質ガスに空気や酸素を添加し触媒を用いて改質ガス中の一酸化炭素ガスを選択的に酸化させて二酸化炭素にすることにより、燃料電池に対する一酸化炭素の被毒を防止する技術である。この選択酸化触媒法は、常圧プロセスであること、および比較的高い空塔速度(SV)で使用できることにより、装置のコンパクト化が可能である。その一方、一酸化炭素以外の不純物である二酸化炭素、水蒸気、メタンを有意に除去することができず、また、一酸化炭素と反応しない余剰分の酸素が水素と反応して水素を消費し、水素の回収率の低下を招いてしまう。このようなことから、選択酸化触媒法は、高い水素純度が要求される自動車用の燃料水素ガスの分離には利用することができない。
【0008】
一方、圧力変動吸着法(PSA法)は、不純物(二酸化炭素、メタン、水蒸気、一酸化炭素)を優先的に吸着する吸着剤が充填された吸着塔を用い、塔内の圧力を変動させながら改質ガス中の二酸化炭素、メタン、水蒸気、一酸化炭素を有意に除去する技術である。燃料電池自動車用の燃料水素ガスについては、一酸化炭素以外の不純物の除去も要求されるため、水素供給ステーションで化石燃料を改質して燃料水素を製造する場合には、通常このPSA法が採用される。
【0009】
PSA法による水素ガスの分離は、例えば各吸着塔において少なくとも吸着工程および脱着工程を含むサイクルを繰り返すことにより行われる。吸着工程では、高圧下で吸着塔に混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を吸着剤に吸着させ、水素が富化された水素富化ガスを導出する。脱着工程では、吸着塔内を減圧して吸着剤から不純物を脱着させつつ塔外へガスを導出し、吸着剤を再生させる。
【0010】
PSA法においては、得られる水素ガスの純度や回収率の観点から、種々の改良がなされている(例えば、特許文献1〜3を参照)。例えば、特許文献1には、不純物を吸着した後の吸着塔の洗浄工程を洗浄対象となる塔内に導入した洗浄ガスの少なくとも一部が塔外に導出されるまで行う方法により、水素ガスの回収率が従来法の70%より最大76%まで向上させる方法が開示されている。また、特許文献2には、洗浄ガスとして吸着工程を終了した吸着塔の塔内ガスを利用して、その洗浄ガス量を吸着剤の充填容量の2〜7倍とすることで水素ガスの回収率が76%に改善する方法が開示されている。さらに特許文献3には、吸着剤として、Si/Al比が1〜1.5のフォージャサイト構造を有し、かつリチウムイオン交換率が95%以上のゼオライトを単独で用いることで、PSA設備の小型化と水素ガスの回収率を74%まで向上させる方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、これら特許文献1〜3に開示された方法は、いずれも、一酸化炭素を含む混合ガス中の不純物成分の全てをPSA法により除去する方法であるが、PSA法では吸着剤による一酸化炭素の吸着容量が十分ではない。このため、PSA法において一酸化炭素の除去率を高めるには、多量の吸着剤を用いることに起因して吸着塔のサイズを極端に大きくする必要があり、その結果、PSA法による水素ガス分離に係る装置の大型化を招いてしまう。したがって、改質ガス中に最大1%程度含まれる一酸化炭素について、PSA法により、装置の大型化を抑制しつつ、燃料電池自動車用の燃料水素ガスに要求される一酸化炭素ガス濃度(0.2ppm以下)程度にほぼ全て除去することは、事実上不可能であった。また、水素回収率についても上記のようなPSA法による様々な改善策が検討されているものの、未だ充分ではない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−177726号公報
【特許文献1】特開2002−191923号公報
【特許文献1】特開2002−191924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、水素を含む混合ガスから水素ガスを分離するにあたり、当該水素ガス分離に係る装置の大型化を抑制しつつ、高純度水素を高回収率で得るのに適した方法および装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の側面によって提供される水素ガスの分離方法は、水素を含む混合ガスから、水素ガスを分離するための方法であって、PSA吸着剤が充填されたPSA吸着塔を用いて行う圧力変動吸着法により、上記PSA吸着塔が相対的に高圧である状態にて、上記PSA吸着塔に上記混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を上記PSA吸着剤に吸着させ、当該PSA吸着塔から水素が富化された水素富化ガスを導出するPSA吸着工程、および上記PSA吸着塔を減圧して上記PSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該PSA吸着塔からガスを導出する脱着工程、を含むサイクルを繰り返し行う圧力変動吸着式ガス分離工程と、TSA吸着剤が充填されたTSA吸着塔を用いて行う温度変動吸着法により、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤が相対的に低温の吸着用温度にある状態にて、当該TSA吸着塔に上記水素富化ガスを導入して当該水素富化ガス中の不純物を上記TSA吸着剤に吸着させ、当該TSA吸着塔から、上記水素富化ガスよりも水素が富化された製品水素ガスを導出するTSA吸着工程、および上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤を相対的に高温の温度へと昇温させつつ当該TSA吸着剤から不純物を脱着させて当該TSA吸着塔からガスを導出することにより当該TSA吸着剤を再生する再生工程、を含むサイクルを繰り返し行う温度変動吸着式ガス分離工程と、を含む。
【0015】
好ましくは、上記温度変動吸着式ガス分離工程では、複数の上記TSA吸着塔のそれぞれにおいて上記TSA吸着工程および再生工程を行うことにより、上記TSA吸着工程が少なくともいずれか1つの上記TSA吸着塔にて常時的に行われる。
【0016】
好ましくは、上記TSA吸着塔は、その内部に上記TSA吸着剤が充填された吸着管を備え、上記TSA吸着工程では、液状冷媒を上記TSA吸着塔内に通流させることにより、上記TSA吸着剤を冷却し、上記再生工程では、液状熱媒を上記TSA吸着塔内に通流させることにより、上記TSA吸着剤を加熱する。
【0017】
好ましくは、上記再生工程にある上記TSA吸着塔から導出されるガスは、上記PSA吸着塔に導入される前の上記混合ガスに合流させられる。
【0018】
好ましくは、上記混合ガスは、炭化水素系原料の水蒸気改質反応により得られる改質ガスである。
【0019】
好ましくは、上記TSA吸着剤は、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトからなる群より選択される1または複数で構成される。
【0020】
好ましくは、上記TSA吸着剤がゼオライトを含むとき、当該ゼオライトは、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されている。
【0021】
好ましくは、上記PSA吸着剤は、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトからなる群より選択される1または複数で構成される。
【0022】
好ましくは、上記PSA吸着剤がゼオライトを含むとき、当該ゼオライトは、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されている。
【0023】
好ましくは、上記TSA吸着工程における上記吸着用温度は、−50〜−30℃であり、上記再生工程における上記TSA吸着剤の最高温度は、30〜50℃である。
【0024】
好ましくは、上記TSA吸着工程における上記TSA吸着塔の内部圧力は、0.01〜1MPaGであり、上記再生工程における上記TSA吸着塔の内部圧力は、上記TSA吸着工程における上記TSA吸着塔の内部圧力より低い限りにおいて、大気圧から0.05MPaGの範囲である。
【0025】
好ましくは、上記PSA吸着工程における上記PSA吸着塔の内部の最高圧力は、0.5MPaG以上であり、上記脱着工程における上記PSA吸着塔の内部の最低圧力は大気圧である。
【0026】
本発明の第2の側面によって提供される水素ガス分離装置は、水素を含む混合ガスから、水素ガスを分離するための装置であって、PSA吸着剤が充填されたPSA吸着塔を用いて行う圧力変動吸着法により、上記PSA吸着塔に上記混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を上記PSA吸着剤に吸着させ、当該PSA吸着塔から水素富化ガスを導出し、且つ、上記PSA吸着塔を減圧して上記PSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該PSA吸着塔からガスを導出するための、圧力変動吸着式ガス分離装置と、TSA吸着剤が充填されたTSA吸着塔を用いて行う温度変動吸着法により、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤が相対的に低温の状態にて、当該TSA吸着塔に上記水素富化ガスを導入して当該水素富化ガス中の不純物を上記TSA吸着剤に吸着させ、当該TSA吸着塔から製品水素ガスを導出し、且つ、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤を相対的に高温へと昇温させつつ当該TSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該TSA吸着塔からガスを導出するための、温度変動吸着式ガス分離装置と、を備える。
【0027】
本発明の第2の側面において、好ましくは、上記TSA吸着塔は、第1ガス通過口および第2ガス通過口を有し、当該第1および第2ガス通過口と連通し且つ上記TSA吸着剤が充填された吸着管を備え、上記温度変動吸着式ガス分離装置は、上記吸着管内の上記TSA吸着剤を冷却するために上記TSA吸着塔に供給される液状冷媒を保持するための冷媒貯槽と、上記吸着管内の上記TSA吸着剤を加熱するために前記TSA吸着塔に供給される液状熱媒を保持するための熱媒貯槽と、上記冷媒貯槽から上記TSA吸着塔に上記冷媒を供給するための第1の冷媒ラインと、上記TSA吸着塔から上記冷媒貯槽に上記冷媒を戻すための第2の冷媒ラインと、上記熱媒貯槽から上記TSA吸着塔に上記熱媒を供給するための第1の熱媒ラインと、上記TSA吸着塔から上記熱媒貯槽に上記熱媒を戻すための第2の熱媒ラインと、を備える。
【0028】
本発明の第2の側面において、好ましくは、上記PSA吸着塔から導出される上記水素富化ガスを上記TSA吸着塔の上記第1ガス通過口側に供給可能に上記圧力変動式ガス分離装置および上記TSA吸着塔の間を繋ぐ第1の配管と、上記TSA吸着塔の上記第1ガス通過口側から導出されるガスを上記圧力変動吸着式ガス分離装置に供給可能に上記TSA吸着塔および上記圧力変動式ガス分離装置の間を繋ぐ第2の配管と、を備える。このような構成を具備する装置によれば、本発明の第1の側面に係る方法を適切に実行することが可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、水素を含む混合ガスから水素ガスを濃縮分離するに際し、圧力変動吸着法(PSA法)と温度変動吸着法(TSA法)とを組み合わせることにより、高純度水素を高回収率で得ることが可能となる。特に不純物たる一酸化炭素は他の不純物に比べてPSA法によってほぼ全て除去するのは困難であるところ、PSA法を経た水素富化ガスについてTSA法によるガス分離を行うことにより、一酸化炭素を効率よくほぼ全て除去することができる。このことは、本発明方法を実現する水素ガス分離に係る装置の大型化の抑制に寄与し、低コストで高純度水素を得るのに資する。
【0030】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る水素ガスの分離方法を実現するための水素ガス分離装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る水素ガスの分離方法を実現するための水素ガス分離装置の一部であるTSAガス分離装置の構成図である。
【図3】図2に示すTSAガス分離装置にて実行されるTSAガス分離工程において、各TSA吸着塔で行われる工程(ステップ)、および各ステップにおける各弁の開閉状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施の形態として、水素を含む混合ガスから水素ガスを濃縮分離する方法について、図面を参照して具体的に説明する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る水素ガスの分離方法を実行するのに使用することができる水素ガス分離装置の概略構成を示している。水素ガス分離装置Xは、直列的に配置された圧力変動吸着式ガス分離装置(PSAガス分離装置)1および温度変動吸着式ガス分離装置(TSAガス分離装置)2と、これらにつながる配管とを備えている。
【0034】
PSAガス分離装置1は、例えば吸着剤(PSA吸着剤)が充填された複数の吸着塔(PSA吸着塔、図示略)と、ガス流路をなす所定の配管(図示略)とを備え、圧力変動吸着式ガス分離工程(PSAガス分離工程)を行うべく、水素を含む混合ガスから、圧力変動吸着法(PSA法)を利用して水素を濃縮分離することが可能なように構成されたものである。PSA吸着剤は、混合ガスに含まれる不純物を選択的に吸着するためのものである。このような吸着剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトなどが挙げられ、これらは単独で使用しても複数種を併用してもよい。また、PSA吸着剤がゼオライトを含む場合、当該ゼオライトは、例えば、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されたものが用いられる。実際に使用される吸着剤は、混合ガスの組成、つまり除去すべき不純物の種類により個々具体的に決定される。例えば混合ガスとして後述するメタンの水蒸気改質によって得られたガス(改質ガス)を用いる場合、当該改質ガスには、主成分である水素の他に、不純物としての水蒸気や未反応メタン、一酸化炭素、および二酸化炭素が含まれる。例えば、二酸化炭素やメタンを吸着するための吸着剤としては、ゼオライトモレキュラーシーブ(CaA型)、カーボンモレキュラーシーブ、アルミナを用いることができる。水分を吸着するための吸着剤としては、アルミナゲルを用いることができる。一酸化炭素を吸着するための吸着剤としては、ゼオライトモレキュラーシーブ(CaX型)を用いることができる。
【0035】
PSAガス分離工程では、単一の吸着塔について、例えば吸着工程(PSA吸着工程)、および脱着工程を含むサイクルが繰り返される。吸着工程は、塔内が所定の高圧状態にある吸着塔に混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から水素が富化された水素富化ガスを導出するための工程である。脱着工程は、例えば吸着工程を終えた吸着塔を減圧して吸着剤から不純物を脱着させ、塔内のガスをオフガスとして塔外へ導出するための工程である。PSA吸着工程における塔内の最高圧力は、例えば0.5MPaG以上とされる。脱着工程における最低圧力は、例えば大気圧とされる。
【0036】
PSAガス分離工程としては、上記の吸着工程および脱着工程の他にも、減圧工程、昇圧工程、洗浄工程などの各工程を適宜含めてもよい。例えば、減圧工程は、吸着工程を終えた吸着塔について、後に行われる脱着工程のために塔内の圧力を低下させておく工程である。昇圧工程は、後に行われる吸着工程のために、吸着工程あるいは減圧工程にある他の吸着塔から導出される水素濃度の高いガスを吸着塔に導入し、塔内の圧力を上昇させる工程である。洗浄工程は、脱着工程を終えた吸着塔に対し、吸着工程あるいは減圧工程を行っている他の吸着塔から導出される水素濃度の高いガスを吸着塔に導入することにより、当該吸着塔内に滞留するガス(吸着剤から脱着した不純物を含む)を水素濃度の高いガスに置き換え、吸着塔内のガスをオフガスとして塔外に導出する工程である。
【0037】
このように、PSAガス分離工程(圧力変動吸着法)により、混合ガスから水素ガスを濃縮分離する操作は、例えば公知の技術(特開2002−177726号公報記載の技術)を利用して実現することができる。
【0038】
PSAガス分離装置1には、混合ガスを供給するための混合ガス供給配管3が接続されている。混合ガスは、例えば炭化水素系原料の水蒸気改質反応により得られた改質ガスである。ここで、炭化水素系原料としては、天然ガス、LPG、灯油、ガソリン、メタノール、ジメチルエーテルなどが挙げられる。例えば、天然ガス(主成分はメタン)の水蒸気改質反応においては、上述の式(1)で表される改質反応と、上述の式(2)で表される変成反応との2段階の反応を経ている。そして、改質ガスには、主成分たる水素の他に、二酸化炭素、未反応のメタン、水蒸気、および一酸化炭素が不純物として含まれ、一酸化炭素の濃度(体積濃度)は、0.5%程度である。
【0039】
PSAガス分離装置1にはまた、水素富化ガス送出配管4、およびガス排出配管5が接続されている。水素富化ガス送出配管4は、吸着塔から導出される水素富化ガスをTSAガス分離装置2に送り出すためのものである。ガス排出配管5は、吸着塔から導出されるオフガスを装置外に排出するためのものである。
【0040】
PSAガス分離工程を経て導出される水素富化ガスにおいて、例えば一酸化炭素以外の不純物は1ppm以下の濃度にまで除去されている。その一方、当該水素富化ガスには一酸化炭素が約10ppm程度残存している。
【0041】
図2に示すように、TSAガス分離装置2は、吸着塔20A,20B(TSA吸着塔)と、ガス流路をなす配管21a〜21eと、熱交換器23Aと、クーラ23Bと、冷媒タンク23Cと、冷媒ポンプ23Dと、ブラインクーラ23Eと、熱媒タンク23Fと、熱媒ポンプ23Gと、冷媒流れ及び熱媒流れに係る配管24a〜24hとを備え、PSAガス分離装置1からの水素富化ガスから、温度変動吸着法(TSA法)を利用して水素を更に濃縮分離することが可能なように構成されたものである。
【0042】
吸着塔20A,20Bのそれぞれは、ガス通過口20a,20b、少なくとも一本の吸着管20c、二枚の管板20d、空間部20e,20fを有する。吸着管20cには、水素富化ガスに含まれる不純物を選択的に吸着するための吸着剤(TSA吸着剤)が充填されている。このような吸着剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトなどが挙げられ、これらは単独で使用しても複数種を併用してもよい。また、TSA吸着剤がゼオライトを含む場合、当該ゼオライトは、例えば、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されたものが用いられる。実際に使用される吸着剤は、水素富化ガスの組成、つまり除去すべき不純物の種類により個々具体的に決定される。本実施形態では、水素富化ガスとして、上述のようにメタンの水蒸気改質による改質ガスから水素が濃縮分離されたガスを用いる場合、不純物たる一酸化炭素を吸着するための吸着剤が用いられる。そのような吸着剤としては、例えばゼオライトモレキュラーシーブ(CaX型)を用いることができる。
【0043】
吸着剤が充填された吸着管20cは、塔内において管板20dに支持されており、吸着管20c内部と空間部20eないしガス通過口20a,20bとは連通している。また、空間部20eはガス流路の一部であり、空間部20fは、冷媒や熱媒を受容する部位であり、これら空間部20e,20fは管板20dによって仕切られている。
【0044】
図1および図2に示すように、TSAガス分離装置2には、製品ガス用配管6およびTSAオフガス用配管7が接続されている。製品ガス用配管6は、後述する各吸着塔20A,20Bのガス通過口20bから導出される製品水素ガスを回収するための配管である。TSAオフガス用配管7は、後述する各吸着塔20A,20Bのガス通過口20aから導出されるガスを混合ガスに合流させてPSAガス分離装置1に供給するためのものであり、混合ガス供給配管3に繋げられている。
【0045】
配管21aは、PSAガス分離装置1からの水素富化ガスを吸着塔20A,20Bに供給するためのものであり、水素富化ガス送出配管4と、分岐路を介して吸着塔20A,20Bの各ガス通過口20aのそれぞれとを繋いでいる。
【0046】
配管21bは、各吸着塔20A,20Bから導出される製品水素ガスの流路であり、製品ガス用配管6と、分岐路を介して吸着塔20A,20Bの各ガス通過口20bのそれぞれとを繋いでいる。
【0047】
配管21cは、配管21b内を通流する製品水素ガスの一部を吸着塔20A,20Bに供給するためのものであり、配管21bと、分岐路を介して吸着塔20A,20Bの各ガス通過口20bのそれぞれとを繋いでいる。
【0048】
配管21dは、各吸着塔20A,20Bから導出されるオフガスを混合ガスに合流させてPSAガス分離装置1に供給するためのものであり、TSAオフガス用配管7と、分岐路を介して吸着塔20A,20Bの各ガス通過口20aのそれぞれとを繋いでいる。
【0049】
配管21eは、吸着塔20A,20Bを互いに接続するためのものであり、分岐路を介して吸着塔20Aのガス通過口20bと吸着塔20Bのガス通過口20bとを繋いでいる。
【0050】
熱交換器23Aは、PSAガス分離装置1から導出され、水素富化ガス送出配管4を介して供給された水素富化ガスを冷却するためのものである。クーラ23Bは、熱交換器23Aを経た水素富化ガスを冷却するためのものである。冷媒タンク23Cは、液状の冷媒M1を保持するためのものである。冷媒M1としては、例えば、エタノール水溶液、メタノール水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化メチレン、またはエチレングリコールを使用することができる。冷媒ポンプ23Dは、冷媒タンク23C内の冷媒M1をブラインクーラ23E側ないし吸着塔20A,20B側に送流するためのものである。ブラインクーラ23Eは、冷媒M1が吸着塔20A,20Bに至る前に当該冷媒M1を所定温度まで冷却するための、冷凍機付き冷媒冷却器である。熱媒タンク23Fは、液状の熱媒M2を保持し且つ熱媒M2を加熱するためのものである。熱媒タンク23Fには所定の加熱手段(図示略)が設けられている。熱媒M2としては、例えば、エタノール水溶液、メタノール水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化メチレン、またはエチレングリコールを使用することができる。本実施形態では、冷媒M1および熱媒M2は同種の液体である。熱媒ポンプ23Gは、熱媒タンク23F内の熱媒M2を吸着塔20A,20B側に送流するためのものである。
【0051】
配管24a,24bは、吸着塔20A,20Bへの冷媒供給用配管であり、冷媒タンク23C、冷媒ポンプ23D、ブラインクーラ23Eを直列に連結し、且つ、吸着塔20A,20Bの空間部20fの下端側と連通可能に設けられている。
【0052】
配管24c,24dは、吸着塔20A,20Bからの冷媒回収用配管であり、吸着塔20A,20Bの空間部20fの上端側と連通可能であり且つ空間部20fの下端側と連通可能に、設けられている。また、配管24c,24dは、冷媒タンク23Cに接続されている。
【0053】
配管24e,24fは、吸着塔20A,20Bへの熱媒供給用配管であり、熱媒タンク23Fおよび熱媒ポンプ23Gを直列に連結し、且つ、吸着塔20A,20Bの空間部20fの下端側と連通可能に設けられている。
【0054】
配管24g,24hは、吸着塔20A,20Bからの熱媒回収用配管であり、吸着塔20A,20Bの空間部20fの上端側と連通可能であり且つ空間部20fの下端側と連通可能に、設けられている。また、配管24g,24hは、熱媒タンク23Fに接続されている。
【0055】
配管21a〜21e,24a〜24hには、複数の弁25a〜25j,26a〜26hが設けられており、各弁25a〜25j,26a〜26hの開閉状態を適宜切り替えることにより、各吸着塔20A,20B内での流体の流れ方向や圧力が調整される。各吸着塔20A,20Bにおいては、弁25a〜25j,26a〜26hの切り替え状態に応じて、吸着工程(TSA吸着工程)、および再生工程を含むサイクルが繰り返される。吸着工程では、吸着管20c内が所定の高圧・低温状態にある吸着塔に水素富化ガスを供給することにより当該水素富化ガス中の不純物を吸着管20c内の吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から、上記水素富化ガスよりも水素が富化された製品水素ガスを導出させる。再生工程では、吸着工程を終えた吸着塔内の圧力を低下させる減圧工程、吸着塔内の温度を上昇させる昇温操作を行い、吸着剤からの不純物の脱着、塔外への導出を高温・低圧下で行う加熱脱着工程、および吸着管20c内を降温させる冷却操作と吸着工程への準備として吸着管20c内の圧力を上昇させる昇圧操作とを同時に行う冷却昇圧工程が順次行われる。なお、吸着工程を行っている吸着塔においては、吸着管20c内の最高圧力は例えば0.4〜1MPaGとされ、吸着管20c内の吸着剤の最低温度は例えば−50〜−30℃とされる。加熱脱着工程を行っている吸着塔においては、吸着管20c内の最低圧力は例えば大気圧程度とされ、吸着管20c内の吸着剤の最高温度は例えば30〜50℃とされる。
【0056】
本発明の実施形態においては、以上のように構成されたTSAガス分離装置2を用いて水素富化ガスから製品水素ガスが分離される。各吸着塔20A,20Bでは図3に示すようなタイミング(ステップ)で各工程が行われ、ステップNo.1〜6を1サイクルとして、このようなサイクルが繰り返し行われる。なお、図3には、各ステップにおける各弁25a〜25j,26a〜26hの開閉状態を同時に示した。
【0057】
ステップNo.1では、図3に示したように各弁25a〜25j,26a〜26hの開閉状態が選択され、吸着塔20Aでは吸着工程が行われ、吸着塔20Bでは減圧工程(塔内の減圧、昇温)が行われている。
【0058】
より具体的には、ステップ1では、冷媒M1が、冷媒タンク23Cから配管24aを介して吸着塔20Aの空間部20fの下端側に供給される。この冷媒M1は、冷媒タンク23Cから冷媒ポンプ23Dによってポンプアップされてブラインクーラ23Eを通過して冷却されたものである。ブラインクーラ23Eによる冷媒M1の冷却温度は例えば−50〜−40℃である。これとともに、吸着塔20Aの空間部20fの上端側から配管24cを介して冷媒タンク23Cに冷媒M1が回収される。この冷媒M1は、冷媒タンク23Cに回収される前にクーラ23Bを通過し、水素富化ガスを冷却するのに利用される。冷媒M1と水素富化ガスの比熱の差が大きいので、クーラ23Bでは効率よく水素富化ガスを冷却することができる。冷媒M1は、吸着塔20Aの空間部20fとブラインクーラ23Eとの間を巡回し、これにより、吸着塔20Aの吸着管20c内の吸着剤は冷却され続けて低温の吸着用温度に維持される。吸着用温度は低くとも−50℃とする。本実施形態では、吸着用温度は例えば−35℃である。これとともに、吸着塔20Aのガス通過口20a側に配管21aを介して水素富化ガスが導入されて、当該水素富化ガス中の不純物たる一酸化炭素を吸着塔20Aの吸着管20c内の吸着剤に吸着させ、且つ、水素富化ガスよりも水素が富化された製品水素ガスが吸着塔20Aのガス通過口20b側から導出される。製品水素ガスは、配管21b、製品ガス用配管6を介して装置外へ回収される。この製品水素ガスは、装置外に回収される前に熱交換器23Aを通過し、水素富化ガスを冷却するのに利用される。換言すると、製品水素ガスは、熱交換器23Aを通過する際に、相対的に高温な水素富化ガスによって加熱される。吸着工程にある吸着塔20Aの吸着管20cの内部圧力は、0.01〜1MPaGの範囲である。
【0059】
これとともに、熱媒M2が、熱媒ポンプ23Gによってポンプアップされて熱媒タンク23Fから配管24fを介して吸着塔20Bの空間部20fの下端側に供給される。熱媒タンク23F内では、熱媒M2は例えば45〜50℃に加熱されている。これとともに、吸着塔20Bの空間部20fの上端側から配管24hを介して熱媒タンク23Fに熱媒M2が回収される。熱媒M2は、吸着塔20Bの空間部20fと熱媒タンク23Fとの間を巡回し、これにより、吸着塔20Bの吸着管20c内の吸着剤は加熱されて昇温する。また、吸着塔20Bでは、先に吸着工程を行っていたことから、ステップ1の開始時に吸着管20cの内部は大気圧よりも高圧下にある(図3に示されるステップNo.6参照)。そして、吸着塔20Bの吸着管20c内のガスがガス通過口20a側から導出され、配管21dを介してTSAオフガス用配管7に送り出される。これにより、吸着塔20Bの吸着管20cの内部は、所定の圧力まで減圧される。
【0060】
ステップNo.2では、図3に示したように各弁25a〜25j,26a〜26hの開閉状態が選択され、吸着塔20Aでは吸着工程が行われ、吸着塔20Bでは加熱脱着工程が行われている。
【0061】
より具体的には、ステップ2では、吸着塔20Aにおいて、ステップ1から引き続き吸着工程が行われ、製品水素ガスが導出される。製品水素ガスは、熱交換器23Aを通過する際に、相対的に高温な水素富化ガスによって加熱される。そして、加熱されたこの製品水素ガスは、一部が配管21b、製品ガス用配管6を介して装置外へ回収され、残りが製品パージガスとして配管21cを介して吸着塔20Bに供給される。
【0062】
これとともに、熱媒M2が、吸着塔20Bの空間部20fと熱媒タンク23Fとの間を巡回し、これにより、吸着塔20Bの吸着管20c内の吸着剤は加熱され続けて例えば40℃に至るまで昇温される。加熱脱着工程における吸着剤の最高温度は高くとも50℃とする。吸着塔20Bでは、先に減圧工程を終えて、吸着管20cの内部は高温・低圧下にあることから、吸着剤から不純物が脱着する。また、これとともに、吸着塔20Bのガス通過口20b側に、吸着塔20Aから導出された製品水素ガスの一部が配管21cを介して導入されつつ、吸着塔20Bのガス通過口20a側から吸着管20c内のガスが導出される。これにより、吸着管20cの内部を洗浄することができる。さらに、吸着塔20Bに導入される製品水素ガスは熱交換器23Aで加熱されているため、吸着管20c内の吸着剤の昇温(加熱)に寄与する。吸着塔20Bのガス通過口20a側から導出されたガスは、配管21dを介してTSAオフガス用配管7に送り出される。また、加熱脱着工程にある吸着塔20Bの吸着管20cの内部圧力は、吸着工程における吸着管20cの内部圧力より低い限りにおいて、大気圧から0.05MPaGの範囲である。
【0063】
ステップNo.3では、図3に示したように各弁25a〜25j,26a〜26hの開閉状態が選択され、吸着塔20Aでは吸着工程が行われ、吸着塔20Bでは冷却昇圧工程が行われている。
【0064】
より具体的には、ステップ3では、吸着塔20Aにおいて、ステップ1から引き続き吸着工程が行われ、製品水素ガスが導出される。この製品水素ガスは、一部が配管21b、製品ガス用配管6を介して装置外へ回収され、残りが製品パージガスとして配管21eを介して吸着塔20Bに供給される。
【0065】
これとともに、冷媒M1が、冷媒タンク23Cから配管24bを介して吸着塔20Bの空間部20fの下端側に供給される。この冷媒M1は、冷媒タンク23Cから冷媒ポンプ23Dによってポンプアップされてブラインクーラ23Eを通過して冷却されたものである。これとともに、吸着塔20Bの空間部20fの上端側から配管24dを介して冷媒タンク23Cに冷媒M1が回収される。冷媒M1は、吸着塔20Bの空間部20fとブラインクーラ23Eとの間を巡回し、これにより、吸着塔20Bの吸着管20c内の吸着剤は冷却され続けて例えば−35℃(吸着用温度)に至るまで降温される。これとともに、吸着塔20Bのガス通過口20b側に、吸着塔20Aから導出された製品水素ガスの一部が配管21eを介して導入される。これにより、吸着塔20Bの吸着管20c内部を昇圧することができる。さらに、吸着塔20Bへと導入される製品水素ガスは、吸着工程を経て低温であり且つ加熱されていないため、吸着塔20Bの吸着管20c内の吸着剤の冷却に寄与する。
【0066】
ステップNo.4〜No.6では、ステップNo.1〜No.3で吸着塔20Aにおいて行われたのと同様に、吸着塔20Bにおいて吸着工程が行われる。これとともに、ステップNo.4〜No.6では、ステップNo.1〜No.3で吸着塔20Bにおいて行われたのと同様に、吸着塔20Aにおいて、減圧工程(ステップNo.4)、加熱脱着工程(ステップNo.5)、冷却昇圧工程(ステップNo.6)が行われる。
【0067】
以上のようにして、TSAガス分離装置2では、吸着塔20A,20BのいずれかでTSA吸着工程が常時的に行われ、水素ガス分離装置Xから、高純度の製品水素ガスが回収され続ける。この製品水素ガスにおいて、一酸化炭素は0.1ppm以下の濃度にまで除去されている。
【0068】
本実施形態によれば、水素を含む混合ガスから水素ガスを濃縮分離するに際し、PSA法とTSA法とを組み合わせることにより、高純度水素を高回収率で得ることが可能となる。特に不純物たる一酸化炭素は他の不純物に比べてPSA法によってほぼ全て除去するのは困難であるところ、PSA法を経た水素富化ガスについてTSA法によるガス分離を行うことにより、一酸化炭素を効率よくほぼ全て除去することができる。このことは、本発明方法を実現する水素ガス分離装置Xの大型化の抑制に寄与し、低コストで高純度水素を得るのに資する。
【0069】
本実施形態のTSA法によるガス分離は、既に水素が富化された水素富化ガスから更に水素が濃縮された製品水素ガスを得るために行われる。したがって、TSA法における再生工程(減圧工程ないし加熱脱着工程)にある吸着塔20A,20Bの吸着管20cから導出されるオフガスの水素濃度は、混合ガスに比べて高い。本実施形態では、このようなオフガスを、装置外に排気せずに混合ガスに合流させ、PSA法およびTSA法による再度の水素富化に供する。したがって、このような方法は、高純度水素を高回収率で得るのに適している。
【0070】
加えて、本実施形態によると、TSAガス分離装置2でのTSAサイクル時間を短縮化しやすい。本実施形態では、吸着剤の温度変動を伴うTSA法を実行するうえで、液状の冷媒M1および液状の熱媒M2を用いて吸着剤の温度変動を実現するからである。
【0071】
具体的には、TSA法における加熱脱着工程では、液状の熱媒M2を用いて吸着管20c内の吸着剤を加熱する。吸着剤が充填されている吸着管20cに液状の熱媒M2を接触させて、当該熱媒M2から吸着管20c内の吸着剤へと熱を供給することによって、吸着剤を加熱する。液状の熱媒M2は気体よりも比熱が相当程度に大きいので、TSA法において吸着剤を加熱するための媒体として気体を用いる場合よりも、本実施形態のように液状の熱媒M2を用いて吸着剤を加熱する場合の方が、吸着剤を所望の温度にまで早く昇温させることができる。これにより、短時間で加熱脱着工程を終了させることが可能である。加熱脱着工程時間の短縮化は、TSAサイクル時間の短縮化に資する。
【0072】
一方、冷却昇圧工程では、液状の冷媒M1を用いて吸着管20c内の吸着剤を冷却する。吸着剤が充填されている吸着管20cに液状の冷媒M1を接触させて、当該冷媒M1によって吸着管20c内の吸着剤から熱を奪うことによって、吸着剤を冷却する。液状の冷媒M1は気体よりも比熱が相当程度に大きいので、TSA法において吸着剤を冷却するための媒体として気体を用いる場合よりも、本実施形態のように液状の冷媒M1を用いて吸着剤を冷却する場合の方が、吸着剤を所望の温度にまで早く降温させることができる。これにより、短時間で冷却昇圧工程を終了させることが可能である。冷却昇圧工程時間の短縮化は、TSAサイクル時間の短縮化に資する。
【0073】
本実施形態の水素ガス分離方法において、TSAガス分離装置2での吸着工程における吸着剤の吸着用温度は、上述のように−50℃以上である。このような構成は、本方法を簡便に実施する観点から好ましい。低くとも−50℃の吸着用温度を実現する程度に冷媒M1を冷却することは、比較的入手が容易な冷却機等によって実現可能だからである。
【0074】
本方法のTSAガス分離装置2での加熱脱着工程において加熱される吸着剤の温度は、上述のように、高くとも50℃である。加熱脱着工程において高くとも50℃の加熱温度を実現する程度に熱媒M2を加熱することは、比較的入手が容易な電気ヒータ等によって実現可能である。
【0075】
本方法のTSAガス分離装置2での吸着工程にある吸着塔20A,20Bの吸着管20cの内部圧力は、上述のように0.01〜1MPaGの範囲であり、且つ、再生工程(加熱脱着工程)にある吸着塔20A,20Bの吸着管20cの内部圧力は、上述のように、吸着工程における吸着管20cの内部圧力より低い限りにおいて、大気圧から0.05MPaGの範囲である。このような構成は、吸着工程にて吸着剤への不純物一酸化炭素の吸着を促進し、加熱脱着工程にて吸着剤から不純物一酸化炭素の脱着を促進するうえで、好適である。
【実施例】
【0076】
〔実施例1〕
本実施例では、複数の吸着塔を有するPSAガス分離装置1と、図2に示したような2つの吸着塔20A,20Bを備えるTSAガス分離装置2により、以下に説明する条件下で、図3に示したステップからなるTSAサイクルを繰り返し行って改質ガスからの水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0077】
各PSA吸着塔内には、PSA吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ、カーボンモレキュラーシーブ、アルミナを積層して、合計2.935L充填した。改質ガスとしては、組成が、水素77.77容積%、二酸化炭素19.62容積%、一酸化炭素1容積%、窒素0.0008容積%、メタン1.61容積%であるものを用いた。改質ガス流量は、8.81L/minとした。PSAガス分離装置1の吸着工程におけるPSA吸着塔内の最高圧力は0.9MPaGとした。また、脱着圧力は0.01MPaGとした。
【0078】
TSAガス分離装置2の各吸着塔20A,20Bの吸着管20c内には、TSA吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ(CaX型)を6.05L充填した。TSAガス分離装置2の吸着工程における各吸着塔20A,20Bの吸着管20c内の最高圧力は0.9MPaG、吸着管20c内の最低温度は−35℃、再生工程における吸着管20c内の最低圧力は大気圧付近、吸着管20c内の最高温度を40℃とした。
【0079】
〔実施例2〕
本実施例においては、各PSA吸着塔内に充填するPSA吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ(LiX型)を使用した以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0080】
〔実施例3〕
本実施例においては、PSAガス分離装置1の吸着工程におけるPSA吸着塔内の最高圧力を0.5MPaGにした以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0081】
〔実施例4〕
本実施例においては、吸着塔20A,20Bに充填するTSA吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ(LiX型)を使用した以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0082】
〔実施例5〕
本実施例においては、吸着塔20A,20Bに充填するTSA吸着剤としてゼオライトモレキュラーシーブ(Caモルデナイト型)を使用した以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0083】
〔実施例6〕
本実施例においては、TSAガス分離装置2の吸着工程における各吸着塔20A,20Bの吸着管20c内の最低温度を−50℃にした以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0084】
〔実施例7〕
本実施例においては、TSAガス分離装置2の再生工程における吸着管20c内の最高温度を25℃にした以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0085】
〔比較例1〕
本比較例においては、PSAガス分離装置1で精製された水素富化ガスをTSAガス分離装置2で精製しない以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0086】
〔比較例2〕
本比較例においては、TSAガス分離装置2の吸着工程における各吸着塔20A,20Bの吸着管20c内の最低温度を0℃にした以外は実施例1と同様にして水素ガスの分離を試みた。その結果を表1に示した。
【0087】
【表1】

【符号の説明】
【0088】
X 水素ガス分離装置
1 PSAガス分離装置
2 TSAガス分離装置
3 混合ガス供給配管
4 水素富化ガス送出配管(第1の配管)
5 ガス排出配管
6 製品ガス用配管
7 TSAオフガス用配管(第2の配管)
20A,20B 吸着塔(TSA吸着塔)
20a ガス通過口(第1ガス通過口)
20b ガス通過口(第2ガス通過口)
20c 吸着管
21a〜21e 配管
23C 冷媒タンク
23F 熱媒タンク
24a〜24h 配管
25a〜25j 弁
26a〜26h 弁
M1 冷媒
M2 熱媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む混合ガスから、水素ガスを分離するための方法であって、
PSA吸着剤が充填されたPSA吸着塔を用いて行う圧力変動吸着法により、上記PSA吸着塔が相対的に高圧である状態にて、上記PSA吸着塔に上記混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を上記PSA吸着剤に吸着させ、当該PSA吸着塔から水素が富化された水素富化ガスを導出するPSA吸着工程、および上記PSA吸着塔を減圧して上記PSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該PSA吸着塔からガスを導出する脱着工程、を含むサイクルを繰り返し行う圧力変動吸着式ガス分離工程と、
TSA吸着剤が充填されたTSA吸着塔を用いて行う温度変動吸着法により、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤が相対的に低温の吸着用温度にある状態にて、当該TSA吸着塔に上記水素富化ガスを導入して当該水素富化ガス中の不純物を上記TSA吸着剤に吸着させ、当該TSA吸着塔から、上記水素富化ガスよりも水素が富化された製品水素ガスを導出するTSA吸着工程、および上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤を相対的に高温の温度へと昇温させつつ当該TSA吸着剤から不純物を脱着させて当該TSA吸着塔からガスを導出することにより当該TSA吸着剤を再生する再生工程、を含むサイクルを繰り返し行う温度変動吸着式ガス分離工程と、を含む、水素ガスの分離方法。
【請求項2】
上記温度変動吸着式ガス分離工程では、複数の上記TSA吸着塔のそれぞれにおいて上記TSA吸着工程および再生工程を行うことにより、上記TSA吸着工程が少なくともいずれか1つの上記TSA吸着塔にて常時的に行われる、請求項1に記載の水素ガスの分離方法。
【請求項3】
上記TSA吸着塔は、その内部に上記TSA吸着剤が充填された吸着管を備え、
上記TSA吸着工程では、液状冷媒を上記TSA吸着塔内に通流させることにより、上記TSA吸着剤を冷却し、
上記再生工程では、液状熱媒を上記TSA吸着塔内に通流させることにより、上記TSA吸着剤を加熱する、請求項1または2に記載の水素ガスの分離方法。
【請求項4】
上記再生工程にある上記TSA吸着塔から導出されるガスは、上記PSA吸着塔に導入される前の上記混合ガスに合流させられる、請求項1ないし3のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項5】
上記混合ガスは、炭化水素系原料の水蒸気改質反応により得られる改質ガスである、請求項1ないし4のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項6】
上記TSA吸着剤は、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトからなる群より選択される1または複数で構成される、請求項1ないし5のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項7】
上記TSA吸着剤がゼオライトを含むとき、当該ゼオライトは、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されている、請求項6に記載の水素ガスの分離方法。
【請求項8】
上記PSA吸着剤は、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂およびゼオライトからなる群より選択される1または複数で構成される、請求項1ないし7のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項9】
上記PSA吸着剤がゼオライトを含むとき、当該ゼオライトは、A型、X型、Y型、モルデナイト型およびMFI型よりなる群から選択される構造を有し、交換イオンがK、Li、Mg、NaおよびCaからなる群より選択されるイオンで交換されている、請求項8に記載の水素ガスの分離方法。
【請求項10】
上記TSA吸着工程における上記吸着用温度は、−50〜−30℃であり、上記再生工程における上記TSA吸着剤の最高温度は、30〜50℃である、請求項1ないし9のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項11】
上記TSA吸着工程における上記TSA吸着塔の内部圧力は、0.01〜1MPaGであり、上記再生工程における上記TSA吸着塔の内部圧力は、上記TSA吸着工程における上記TSA吸着塔の内部圧力より低い限りにおいて、大気圧から0.05MPaGの範囲である、請求項1ないし10のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項12】
上記PSA吸着工程における上記PSA吸着塔の内部の最高圧力は、0.5MPaG以上であり、上記脱着工程における上記PSA吸着塔の内部の最低圧力は大気圧である、請求項1ないし11のいずれかに記載の水素ガスの分離方法。
【請求項13】
水素を含む混合ガスから、水素ガスを分離するための装置であって、
PSA吸着剤が充填されたPSA吸着塔を用いて行う圧力変動吸着法により、上記PSA吸着塔に上記混合ガスを導入して当該混合ガス中の不純物を上記PSA吸着剤に吸着させ、当該PSA吸着塔から水素富化ガスを導出し、且つ、上記PSA吸着塔を減圧して上記PSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該PSA吸着塔からガスを導出するための、圧力変動吸着式ガス分離装置と、
TSA吸着剤が充填されたTSA吸着塔を用いて行う温度変動吸着法により、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤が相対的に低温の状態にて、当該TSA吸着塔に上記水素富化ガスを導入して当該水素富化ガス中の不純物を上記TSA吸着剤に吸着させ、当該TSA吸着塔から製品水素ガスを導出し、且つ、上記TSA吸着塔内の上記TSA吸着剤を相対的に高温へと昇温させつつ当該TSA吸着剤から不純物を脱着させ、当該TSA吸着塔からガスを導出するための、温度変動吸着式ガス分離装置と、を備える、水素ガス分離装置。
【請求項14】
上記TSA吸着塔は、第1ガス通過口および第2ガス通過口を有し、当該第1および第2ガス通過口と連通し且つ上記TSA吸着剤が充填された吸着管を備え、
上記温度変動吸着式ガス分離装置は、
上記吸着管内の上記TSA吸着剤を冷却するために上記TSA吸着塔に供給される液状冷媒を保持するための冷媒貯槽と、
上記吸着管内の上記TSA吸着剤を加熱するために前記TSA吸着塔に供給される液状熱媒を保持するための熱媒貯槽と、
上記冷媒貯槽から上記TSA吸着塔に上記冷媒を供給するための第1の冷媒ラインと、
上記TSA吸着塔から上記冷媒貯槽に上記冷媒を戻すための第2の冷媒ラインと、
上記熱媒貯槽から上記TSA吸着塔に上記熱媒を供給するための第1の熱媒ラインと、
上記TSA吸着塔から上記熱媒貯槽に上記熱媒を戻すための第2の熱媒ラインと、を備える、請求項13に記載の水素ガス分離装置。
【請求項15】
上記PSA吸着塔から導出される上記水素富化ガスを上記TSA吸着塔の上記第1ガス通過口側に供給可能に上記圧力変動式ガス分離装置および上記TSA吸着塔の間を繋ぐ第1の配管と、
上記TSA吸着塔の上記第1ガス通過口側から導出されるガスを上記圧力変動吸着式ガス分離装置に供給可能に上記TSA吸着塔および上記圧力変動式ガス分離装置の間を繋ぐ第2の配管を備える、請求項14に記載の水素ガス分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−167629(P2011−167629A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33552(P2010−33552)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】