説明

水素分離体及びその製造方法

【課題】水素分離層に亀裂や剥離等の欠陥が生じ難く、耐久性に優れているとともに、良好な水素分離能と水素透過性能とを両立させた水素分離体を提供する。
【解決手段】その一の表面5から他の表面まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体2と、多孔質基体2の一の表面5に、一の表面5から所定深さまで浸入した状態で配設された水素分離層3とを備えた水素分離体1である。多孔質基体2の一の表面5の平均細孔径が0.02〜0.5μm、水素分離層の厚みTが1〜5μm、浸入部の浸入深さDが、0.05〜1μmであるとともに多孔質基体2の一の表面5の平均細孔径以上の深さであり、かつ水素分離層の厚みTの半分以下の深さである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素分離体に関し、更に詳しくは、耐久性に優れ、良好な水素透過性能等を有する水素分離体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水蒸気改質ガス等の水素を含有するガスから水素のみを選択的に取り出すために、セラミックス多孔質基体にパラジウム等からなる水素分離層を配設した水素分離体が使用されている。水素分離体は、高温において水素のみを分離するために使用されることがある。従って、水素分離体は、高温又は昇降温が繰り返される環境において高い気密性を有することが要求される。
【0003】
一般的な水素分離体は、図2に示すように、多孔質基体12と、この多孔質基体12の一の表面5に、一の表面5から所定深さ(浸入部の浸入深さD)まで浸入した浸入部17を形成した状態で配設された水素分離層13とを備えた構造を有するものである。なお、多孔質基体12は、その一の表面5から他の表面(図示せず)まで連通する多数の細孔を有するものであり、例えばセラミックス粒子4等により構成されている。図2に示すような構造の水素分離体11を製造するに際して水素分離層13を配設する方法としては、例えば特許文献1〜4等において開示された吸引メッキ方法等を挙げることができる。なお、このような吸引メッキ方法においては、多孔質基体12の一の表面5の細孔径を小さく設定し、薄い膜状の水素分離層13を形成することにより、水素分離膜13に亀裂等の欠陥が発生するのを抑制している。
【0004】
しかしながら、多孔質基体の細孔径が小さ過ぎる場合において、形成される浸入部の浸入深さが深過ぎると、被処理ガスから分離された水素ガスの透過が妨げられ、良好な水素透過性能を発揮することができないという問題がある。一方、形成される浸入部の浸入深さが浅過ぎると、水素分離層と多孔質基体との密着性が低下し、水素分離層が剥離し易くなるために水素分離体の耐久性が低下するという問題がある。
【特許文献1】特許第3213430号公報
【特許文献2】特開2003−190748号公報
【特許文献3】特開平10−113545号公報
【特許文献4】特開2000−317282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、水素分離層に亀裂や剥離等の欠陥が生じ難く、耐久性に優れているとともに、良好な水素分離能と水素透過性能とを両立させた水素分離体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、水素分離層が配設される多孔質基体の表面の平均細孔径と、浸入部の浸入深さとを所定の範囲内とすることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下に示す水素分離体が提供される。
【0008】
[1]その一の表面から他の表面まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体と、前記多孔質基体の前記一の表面に、多数の前記細孔を通じて前記一の表面から所定深さまで浸入した浸入部を形成した状態で配設された水素分離層とを備えた水素分離体であって、前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径が0.02〜0.5μm、前記水素分離層の厚みが1〜5μm、前記浸入部の浸入深さが、0.05〜1μmであるとともに前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径以上の深さであり、かつ前記水素分離層の厚みの半分以下の深さである水素分離体。
【0009】
[2]前記多孔質基体の前記一の表面の表面粗さRaが、1μm以下である前記[1]に記載の水素分離体。
【0010】
[3]前記多孔質基体が、セラミックスを主成分としてなる前記[1]又は[2]に記載の水素分離体。
【0011】
[4]前記水素分離層が、水素選択透過性金属からなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水素分離体。
【0012】
[5]前記水素選択透過性金属が、パラジウム(Pd)又はパラジウム(Pd)を含有する合金である前記[4]に記載の水素分離体。
【0013】
[6]その一の表面から他の表面まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体と、前記多孔質基体の前記一の表面に、多数の前記細孔を通じて前記一の表面から所定深さまで浸入した浸入部を形成した状態で配設された水素分離層とを備えた水素分離体の製造方法であって、前記一の表面の平均細孔径が、0.02〜0.5μmである前記多孔質基体を用意し、その浸入深さが、前記一の表面から0.05〜1μmであるとともに前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径以上の深さであり、かつ前記水素分離層の厚みの半分以下の深さである前記浸入部を形成して、その厚みが1〜5μmである前記水素分離層を配設することを含む水素分離体の製造方法。
【0014】
[7]前記水素分離層をメッキ処理により配設する前記[6]に記載の水素分離体の製造方法。
【0015】
[8]前記多孔質基体の前記一の表面の表面粗さRaが、1μm以下である前記[6]又は[7]に記載の水素分離体の製造方法。
【0016】
[9]前記多孔質基体が、セラミックスを主成分としてなる前記[6]〜[8]のいずれかに記載の水素分離体の製造方法。
【0017】
[10]前記水素分離層が、水素選択透過性金属からなる前記[6]〜[9]のいずれかに記載の水素分離体の製造方法。
【0018】
[11]前記水素選択透過性金属が、パラジウム(Pd)又はパラジウム(Pd)を含有する合金である前記[10]に記載の水素分離体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水素分離体は、水素分離層に亀裂や剥離等の欠陥が生じ難く、耐久性に優れているとともに、良好な水素分離能と水素透過性能とが両立されているといった効果を奏するものである。また、本発明の水素分離体の製造方法によれば、水素分離層に亀裂や剥離等の欠陥が生じ難く、耐久性に優れているとともに、良好な水素分離能と水素透過性能とが両立した水素分離体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
図1は、本発明の水素分離体の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の水素分離体1は、その一の表面5から他の表面(図示せず)まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体2と、多孔質基体2に配設された水素分離層3とを備えている。この水素分離層3は、多数の細孔を通じ、一の表面5から所定の深さまで浸入した浸入部7を形成した状態で、多孔質基体2の一の表面5に配設されている。また、水素分離層3は、一の表面5の側、又は他の表面の側から流入する水素を含む気体(被処理ガス)のうち水素だけを選択的に透過させて他の表面の側、又は一の表面5の側から流出させることが可能な層である。即ち、水素分離体1を用いて被処理ガスから水素を分離する場合には、被処理ガスを、一の表面5の側から流入させて他の表面の側から流出させてもよいし、他の表面の側から流入させて一の表面5の側から流出させてもよい。
【0022】
本実施形態の水素分離体1は、多孔質基体2の一の表面5の平均細孔径が、0.02〜0.5μmである。一の表面の平均細孔径が0.02μm未満であると、例えば図6に示す水素分離体41のように、水素分離層43が剥離し易くなるとともに、多孔質基体42の内部をガスが通り抜け難くなり、良好な水素透過性能を発揮し難くなる。一方、一の表面の平均細孔径が0.5μm超であると、例えば図4及び図5に示す水素分離体31のように、ガスが多孔質基体32の内部を通り抜け易くなる反面、水素分離層3を配設するときに、水素選択透過性金属により細孔を閉塞し難くなる。その結果、水素分離層33が緻密にならず、亀裂6等の欠陥を生じ易くなり、気密性が低下することがある。
【0023】
なお、水素透過性能を更に向上させ、水素分離膜に欠陥をより生じ難く、耐久性に更に優れた水素分離体を提供するといった観点からは、多孔質基体の一の表面の平均細孔径は、0.05〜0.3μmであることが更に好ましい。
【0024】
また、多孔質基体2の細孔は、その孔径が揃っていることが好ましい。このことにより、水素選択透過性金属が充填されない細孔が生じて気密性が低下してしまう問題を回避できる。
【0025】
本実施形態の水素分離体1の水素分離層3の厚みは、1〜5μmであり、2〜5μmであることが好ましい。水素分離層3の厚みが1μm未満であると、水素分離層3に欠陥が生じ易くなる。一方、5μm超であると、水素分離層3による水素の分離の分離効率が低下する。なお、図1に、多孔質基体2の一の表面5から水素分離層3の表面までの長さと、浸入部の浸入深さDの和を「水素分離層の厚みT」として便宜上表記しているが、本明細書において「水素分離層の厚み」というときは、X線蛍光膜厚測定装置で測定した値をいう。即ち、水素分離膜の表面から、多孔質基体内部までのパラジウム(Pd)の量を積算した値から算出した値を「水素分離層の厚み」とする。
【0026】
また、本実施形態の水素分離体1は、浸入部の浸入深さDが0.05〜1μmである。浸入部の浸入深さが0.05μm未満であると、例えば図3に示す水素分離体21のように、浸入部27の浸入深さ(浸入部の浸入深さD)が浅過ぎる(D>D)ために、多孔質基体22と水素分離層23との密着性が低下して水素分離層23が剥離し易くなる。一方、浸入部の浸入深さが1μm超であると、例えば図2に示す水素分離体11のように、浸入部17の浸入深さ(浸入部の浸入深さD)が深い(D<D)ために多孔質基体22と水素分離層23がより強固に結合し、これらの密着性が向上して水素分離体11の耐久性が良好となる反面、水素分離層23をガスが通り抜け難くなり、良好な水素透過性能を発揮し難くなる。
【0027】
なお、水素透過性能を更に向上させ、水素分離層の剥離をより生じ難く、耐久性に更に優れた水素分離体を提供するといった観点からは、浸入部の浸入深さDは、0.1〜0.8μmであることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の水素分離体1は、浸入部の浸入深さDが、多孔質基体2の一の表面5の平均細孔径以上の深さであり、平均細孔径の1.5倍以上の深さであることが更に好ましい。浸入部の浸入深さDが、多孔質基体2の一の表面5の平均細孔径未満の深さであると、水素分離層が剥離し易くなるために好ましくない。
【0029】
また、浸入部の浸入深さDは、水素分離層の厚みTの半分以下の深さである。浸入部の浸入深さDが、水素分離層の厚みTの半分を超える深さであると、水素の透過を妨げるために好ましくない。
【0030】
多孔質基体2の一の表面5の表面粗さRaは、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。表面粗さRaが1μm超であると、膜に欠陥が生じ易くなる傾向にある。なお、本発明において、多孔質基体の一の表面の表面粗さRaの下限値については特に限定されないが、実質的な製造可能性等の観点からは0.01μm以上であればよい。また、本明細書において、「表面粗さRa」とは、JIS B0601「表面粗さ−定義及び表示」による算術平均粗さのことをいう。
【0031】
また、多孔質基体2の熱膨張率(a)に対する、水素分離層3の熱膨張率(b)の比(b/a)の値が、0.7〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.3であることが更に好ましい。(b/a)の値が0.7未満であると、水素分離層の熱膨張率(b)が多孔質基体の熱膨張率(a)に比して小さ過ぎるため、熱サイクルを加えた場合に、両者の熱膨張率の差に起因して水素分離層が多孔質基体から剥離し易くなる傾向にある。一方、(b/a)の値が1.5超であると、多孔質基体の熱膨張率(a)が水素分離層の熱膨張率(b)に比して小さ過ぎるため、熱サイクルを加えた場合に、やはり両者の熱膨張率の差に起因して水素分離層が多孔質基体から剥離し易くなる傾向にある。
【0032】
多孔質基体2は、セラミックスを主成分としてなるものであることが好ましい。セラミックスを主成分とすることにより、耐熱性、耐食性等に優れ、水素分離体1の機械的強度を高めることができる。セラミックスの種類としては特に限定されるものではなく、水素分離体として一般的に使用されるセラミックスのいずれでも採用することができる。例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア等を挙げることができる。なお、セラミックス以外の成分として、不可避的に含有される成分や、通常添加されるような成分を少量含有してもよい。また、多孔質基体2の熱膨張率を、2種類以上のセラミックス、又はセラミックスと金属とを複合化することによって調整してもよい。
【0033】
水素分離層3は、水素選択透過性金属から構成されていることが好ましい。また、水素選択透過性金属の種類は、水素を選択的に透過させることができるものであれば特に限定されるものではない。具体的にはパラジウム(Pd)又はパラジウム(Pd)を含有する合金が好ましい。パラジウム(Pd)は水素だけを選択的に効率よく透過させることができるために好ましい。パラジウム(Pd)を含有する合金としては、パラジウム(Pd)と銀(Ag)との合金やパラジウム(Pd)と銅(Cu)との合金が好ましい。パラジウム(Pd)と銀(Ag)や銅(Cu)とを合金化することにより、パラジウム(Pd)の水素脆化が防止され、高温時における水素の分離効率が向上する。
【0034】
多孔質基体2の一の表面5に水素分離層3を配設する方法としては、特に限定されるものではない。具体的には、メッキ処理、スパッタ処理、又は化学気相堆積(CVD)処理等の方法が好ましい。特に、大型の多孔質基体に対しても比較的成膜が容易である点から、メッキ処理がより好ましい。
【0035】
次に、本発明の水素分離体の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態の水素分離体の製造方法では、先ず、図1に示すような、一の表面5の平均細孔径が0.02〜0.5μmである多孔質基体2を用意する。多孔質基体2の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法によって製造することができる。なお、用いるセラミックス粒子の形状・粒径等、及び造孔剤の種類・使用量等を適宜調整することによって、一の表面5の平均細孔径を所望の値とすることができる。
【0036】
次いで、例えばメッキ処理により、多孔質基体2の一の表面5から0.05〜1μmの深さまで浸入した浸入部7を形成して水素分離層3を配設する。水素分離層3の厚みを所定の範囲内とするには、メッキ処理に際して使用するメッキ液に多孔質基体2を浸漬する時間を適当に調整等すればよい。また、形成される浸入部7の深さを所定の範囲内とするには、メッキ処理の際に、多孔質基体2の一の表面5の反対側の他の表面の側から真空ポンプ等で適当に減圧等すればよい。浸入部7の深さは、減圧等した際の圧力値をメッキ中所定の値に保持したり、メッキ中に変化させることによって調節可能である。
【0037】
多孔質基体2の一の表面5に水素分離層3をメッキ処理することにより配設するには、例えば、化学メッキを採用することが好ましい。化学メッキにより多孔質基体2の一の表面5にパラジウム(Pd)を配設するには、先ず、多孔質基体2を活性化金属を含有する溶液に浸漬させることにより、一の表面5に活性化金属を含有する溶液を付着させた後、水洗する。活性化金属としては、2価のパラジウムを含有する化合物を好適に用いることができる。活性化金属を一の表面5に付着させる方法としては、例えば、水素選択透過性金属としてパラジウム(Pd)を用いる場合、多孔質基体2を塩化パラジウムの塩酸水溶液と塩化錫の塩酸水溶液に交互に浸漬させることが好ましい。
【0038】
活性化金属を一の表面5に付着させた後に、多孔質基体2の一の表面5の側を、水素選択透過性金属(例えば、パラジウム(Pd))と還元剤とを含有するメッキ溶液に浸漬させる。これにより、活性化金属を核として、パラジウム(Pd)が析出し、パラジウム(Pd)からなる水素分離層3が形成される。還元剤としては、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0039】
水素分離層3を構成する水素選択透過性金属として、パラジウム(Pd)と銀(Ag)との合金を用いる場合には、パラジウム(Pd)からなる層を一の表面5に化学メッキすることにより配設した後、このパラジウム(Pd)からなる層の表面に銀(Ag)を更にメッキする。次いで、加熱することにより、パラジウム(Pd)と銀(Ag)とを相互拡散させれば、パラジウム(Pd)と銀(Ag)との合金を水素選択透過性金属として用いた水素分離層3を形成することができる。なお、パラジウム(Pd)からなる層の表面に銀(Ag)をメッキするに際しては、化学メッキをすることや、パラジウム(Pd)からなる層を電極とし、電気メッキすることが好ましい。この際、用いるパラジウム(Pd)と銀(Ag)との質量比(Pd:Ag)が、90:10〜70:30であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
多孔質基体として、外径10mm、内径7mm、長さ300mm、外周表面の平均細孔径が0.2μmである円筒管形状のα−アルミナ多孔質管を用意した。このα−アルミナ多孔質管を純水で洗浄した後、活性化処理を行った。活性化処理は、α−アルミナ多孔質管を2価のパラジウム(Pd)イオンを含有する溶液中に浸漬した後、還元処理を行うことによって実施した。活性化処理を行ったα−アルミナ多孔質管を、パラジウム(Pd)塩、錯化剤、及び還元剤を含有する溶液(メッキ液)中に浸漬することによって、α−アルミナ多孔質管の外周表面に対してパラジウム(Pd)の化学メッキを行い、パラジウム(Pd)膜を形成した。なお、化学メッキするに際しては、真空ポンプを使用してα−アルミナ多孔質管の内側を減圧状態とした。次いで、パラジウム(Pd)膜上に銀(Ag)を電気メッキによって成膜した。なお、パラジウム(Pd)と銀(Ag)の質量比は80:20となるように調整した。これをアルゴン(Ar)ガス中800℃で1時間加熱処理することによって合金化を行うことによりパラジウム(Pd)合金膜を形成して水素分離体(実施例1)を作製した。パラジウム(Pd)合金膜(水素分離層)の膜厚は2μm、パラジウム(Pd)合金のα−アルミナ多孔質管の内部への浸入深さは0.5μmであった。なお、パラジウム(Pd)合金の膜厚はX線蛍光膜厚測定装置によって、パラジウム(Pd)合金のα−アルミナ多孔質管の内部への浸入深さは断面の電子顕微鏡観察によって、それぞれ測定した。
【0042】
(実施例2〜8、比較例1〜11)
その外周表面の平均細孔径(μm)が、表1に示す値である円筒管形状のα−アルミナ多孔質管を使用し、この外周面上に、表1に示す厚み(μm)を有するパラジウム(Pd)合金膜(水素分離層)を、パラジウム(Pd)合金膜のα−アルミナ多孔質管の内部への浸入深さが表1に示す深さ(μm)となるように形成したこと以外は、前述の実施例1と同様にして水素分離体(実施例2〜8、比較例1〜11)を作製した。なお、それぞれの水素分離体のパラジウム(Pd)合金膜の厚みは、メッキ液へのα−アルミナ多孔質管の浸漬時間を変化させことによって適宜調整した。また、パラジウム(Pd)合金膜のα−アルミナ多孔質管の内部への浸入深さは、真空ポンプの吸引圧力を変化させることによって適宜調整した。
【0043】
(ヘリウム(He)ガス漏洩量の測定)
水素分離体(実施例1〜8、比較例1〜11)のパラジウム(Pd)合金膜の側に800kPaの圧力でヘリウム(He)ガスを導入し、α−アルミナ多孔質管の内周面側に漏洩するヘリウム(He)ガス量を測定することによって行った。ヘリウム(He)ガス漏洩量を測定した結果を表1に示す。
【0044】
(水素透過係数の測定)
水素分離体(実施例1〜8、比較例1〜11)を電気炉中で500℃に加熱した状態で、α−アルミナ多孔質管の外周表面のパラジウム(Pd)合金膜の側に加える圧力を変化させながら水素(H)ガスを導入し、α−アルミナ多孔質管の内周面側に漏洩する水素(H)ガス量を測定した。水素透過係数を測定した結果を表1に示す。
【0045】
(評価)
各水素分離体を、以下に示す基準に従ってA〜Dの四段階に評価した。評価結果を表1に示す。
「A」:ヘリウムガス漏洩量が0.01ml/(cm・min)未満、水素透過係数が100ml/(cm・min・Pa1/2)以上、かつ水素透過係数と水素分離層の厚みとの積が500{ml/(cm・min・Pa1/2)}・μm以上
「B」:ヘリウムガス漏洩量が測定可能であり、かつ0.01ml/(cm・min)以上
「C」:水素分離層に剥離を生じてガス漏洩量が過多となり、ヘリウムガス漏洩量又は水素透過係数の測定不能
「D」:ヘリウムガス漏洩量が0.01ml/(cm・min)未満であるとともに、水素透過係数が100ml/(cm・min・Pa1/2)未満、又は水素透過係数と水素分離層の厚みとの積が500{ml/(cm・min・Pa1/2)}・μm未満
【0046】
ここで、水素分離体の評価を上記のような基準としたのは、パラジウム(Pd)の使用量を削減するためには水素透過係数が大きいことが望ましく、また、一般的に、水素透過係数は水素分離層の厚みの逆数に比例することから、水素透過係数と水素分離層の厚みとの積の値が大きいほど、パラジウム(Pd)合金膜の特性が引き出されていると判断できるためである。なお、水素透過係数が100ml/cm・min・Pa1/2以上であることや、水素透過係数と水素分離層の厚みとの積が500ml/cm・min・Pa1/2・μm以上であることを評価の基準としたのは、水素分離層を構成する水素透過性金属として、パラジウム(Pd)と銀(Ag)の比率(質量比)が80:20のパラジウム(Pd)−銀(Ag)合金を使用したからである。従って、水素分離層を構成する水素透過性金属として、その他の組成のパラジウム(Pd)合金やパラジウム(Pd)を使用した場合には、それらの組成に応じた値を評価の基準とすることが当然に好ましい。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す結果から、実施例1〜8の水素分離体は、比較例1〜11の水素分離体に比して、ヘリウム(He)ガス漏洩量が少なく(気密性が高く)、水素透過係数が大きい(水素透過性能が高い)ものであり、かつ、水素分離層の剥離等の欠陥が生じ難い耐久性に優れたものであることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の水素分離体は、水素分離層に亀裂や剥離等の欠陥が生じ難く、高温条件下での使用や長期間使用に好適であり、水蒸気改質ガス等の水素を含有するガスから水素のみを選択的に取り出す分離体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の水素分離体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】水素分離体の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】水素分離体の他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】水素分離体の更に他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】図4に示す水素分離体の水素分離層に亀裂が生じた状態を模式的に示す断面図である。
【図6】水素分離体の更に他の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1,11,21,31,41:水素分離体、2,12,22,32,42:多孔質基体、3,13,23,33,43:水素分離層、4:セラミックス粒子、5:一の表面、6:亀裂、7,17,27:浸入部、T:水素分離層の厚み、D,D,D:浸入部の浸入深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その一の表面から他の表面まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体と、前記多孔質基体の前記一の表面に、多数の前記細孔を通じて前記一の表面から所定深さまで浸入した浸入部を形成した状態で配設された水素分離層とを備えた水素分離体であって、
前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径が0.02〜0.5μm、前記水素分離層の厚みが1〜5μm、
前記浸入部の浸入深さが、0.05〜1μmであるとともに前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径以上の深さであり、かつ前記水素分離層の厚みの半分以下の深さである水素分離体。
【請求項2】
前記多孔質基体の前記一の表面の表面粗さRaが、1μm以下である請求項1に記載の水素分離体。
【請求項3】
前記多孔質基体が、セラミックスを主成分としてなる請求項1又は2に記載の水素分離体。
【請求項4】
前記水素分離層が、水素選択透過性金属からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離体。
【請求項5】
前記水素選択透過性金属が、パラジウム(Pd)又はパラジウム(Pd)を含有する合金である請求項4に記載の水素分離体。
【請求項6】
その一の表面から他の表面まで連通する多数の細孔を有する多孔質基体と、前記多孔質基体の前記一の表面に、多数の前記細孔を通じて前記一の表面から所定深さまで浸入した浸入部を形成した状態で配設された水素分離層とを備えた水素分離体の製造方法であって、
前記一の表面の平均細孔径が、0.02〜0.5μmである前記多孔質基体を用意し、
その浸入深さが、前記一の表面から0.05〜1μmであるとともに前記多孔質基体の前記一の表面の平均細孔径以上の深さであり、かつ前記水素分離層の厚みの半分以下の深さである前記浸入部を形成して、その厚みが1〜5μmである前記水素分離層を配設することを含む水素分離体の製造方法。
【請求項7】
前記水素分離層をメッキ処理により配設する請求項6に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質基体の前記一の表面の表面粗さRaが、1μm以下である請求項6又は7に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質基体が、セラミックスを主成分としてなる請求項6〜8のいずれか一項に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項10】
前記水素分離層が、水素選択透過性金属からなる請求項6〜9のいずれか一項に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項11】
前記水素選択透過性金属が、パラジウム(Pd)又はパラジウム(Pd)を含有する合金である請求項10に記載の水素分離体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−239679(P2006−239679A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17792(P2006−17792)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】