説明

水素化ケイ素化剤によるゴムの硬化

熱可塑性加硫樹脂を製造する方法であって、ゴムと熱可塑性レジンとを含むブレンド物中のゴムを動的加硫する工程を含み、動的加硫は水素化ケイ素化剤と触媒とを含む硬化系を用いて行なわれ、水素化ケイ素化剤は下式で表わされる少なくとも3つの水素化ケイ素基を備える化合物を含み、下式で、各Rはそれぞれ独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子は位置的に少なくとも原子6個離れていることを特徴とする方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明のいくつかの実施形態は、水素化ケイ素化剤を用いて製造された熱可塑性架橋樹脂に関する。別の実施形態は水素化ケイ素化剤で硬化された熱硬化性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは公知である。熱可塑性エラストマーは熱硬化性エラストマーの性質を多く備える一方、熱可塑性レジンのように加工することもできる。ある種の熱可塑性エラストマーは、ゴムの微粒子が熱可塑性レジン中に分散していることを特徴とする熱可塑性架橋樹脂である。この微粒子状のゴムが架橋されていることにより弾性が生じる。
【0003】
例えば、米国特許第4,803,244号には、炭素−炭素二重結合を有する不飽和エラストマーと、実質的に飽和した熱可塑性レジンと、1分子中に少なくとも平均2つのSi−H基を有する多官能性有機ケイ素化合物と、不飽和エラストマーの炭素−炭素二重結合を水素化ケイ素化することができる触媒とを、反応条件下で混合することにより熱可塑性エラストマーを製造する方法が開示されている。
多官能性有機ケイ素化合物の例として、両末端がトリメチルシロキシ基またはアルコキシ基のポリメチルヒドロジメチルシロキサン、同様の両末端を有するポリメチルヒドロシロキサンポリマー、同様の両末端を有するポリメチルヒドロジメチルシロキサン−メチルシロキサンのターポリマー、ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、ビス(ジメチルシリル)アルカン、および液状シリコーンであって、1分子中に少なくとも平均2つのSi−H基を有するものが挙げられている。
【0004】
米国特許第5,672,660号には、ジエンを含有し、立体障害の無い炭素−炭素二重結合が大部分であるゴムを、白金含有触媒の存在下で水素化ケイ素化(hydrosilation)により動的加硫して製造した熱可塑性加硫樹脂(thermoplastic vulcanizate)が開示されている。ジエンを含有するゴムは、例えば、立体障害の無い炭素−炭素二重結合をもたらす5−ビニル−2ノルボルネンに由来するユニットを含有する。この特許はさらに、メチル水素ポリシロキサン、メチル水素ジメチルシロキサン共重合体、アルキルメチルポリシロキサン、ビス(ジメチルシリル)アルカン、および(ジメチルシリル)ベンゼンなどの、水素化ケイ素基を少なくとも2つ有する水素化ケイ素化剤を用いることを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、立体障害の無い炭素−炭素二重結合を有するジエン含有ゴムで、実用的に使用可能なものは限られている。例えば、5−ビニル−2ノルボルネンに由来するユニットを含有するエチレン−プロピレンゴムは容易に入手できず、特にジエン含有量の高いゴムは入手しにくい。
5−エチリデン−2ノルボルネンに由来するユニットを含有するエチレン−プロピレンゴムは容易に入手できるが、このゴムを水素化ケイ素化で加硫する場合、特に動的加硫で熱可塑性加硫樹脂を製造する場合には、多量の白金触媒が必要である。しかし、この触媒は高価であるためコスト的に不利である。
このため、5−エチリデン−2ノルボルネンに由来するユニットを含有するエチレン−プロピレンゴム等の容易に入手できるゴムを、より有効に水素化ケイ素化することが可能な技術が求められている。
【0006】
水素化ケイ素化剤は、不飽和ゴムを加硫して熱硬化性組成物を製造するときにも用いられている。例えば、米国特許第6,972,309号にはポリイソブチレンゴムと、水素化ケイ素化触媒と、架橋剤とをブレンドして作られた加硫可能な組成物が開示されている。架橋剤は、1分子中に少なくとも2つのヒドロシリル基を備え、次式で表わされる。
【化1】

ここで、nは1から3の整数であり、Rは炭素数1から4のアルキル基、あるいはフェニル基、ヒドロシリル基のいずれかである。
このような架橋剤を用いても、5−エチリデン−2ノルボルネンに由来するユニットのような立体障害のあるビニル基を有効に架橋させることはできない。したがって、この種のゴムについての、より有効な架橋剤の開発あるいは発見が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の1以上の実施形態により熱可塑性加硫樹脂の製造方法が提供され、この製造方法はゴムと熱可塑性ポリマーとのブレンド物中のゴムを動的加硫する工程を含み、動的加硫は水素化ケイ素化剤と触媒とを含む硬化剤系により行なわれ、水素化ケイ素化剤は、下式で表わされる水素化ケイ素基を少なくとも3つ備え、
【化2】

ここで、各Rは独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子は位置的に少なくとも原子6個離れている。
【0008】
また、この発明の1以上の実施形態により、ゴムと熱可塑性ポリマーとのブレンド物中のゴムが動的加硫された熱可塑性加硫樹脂が提供され、動的加硫は水素化ケイ素化剤と触媒とを含む硬化剤系により行なわれ、水素化ケイ素化剤は、下式で表わされる水素化ケイ素基を少なくとも3つ備え、
【化3】

ここで、各Rは独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子は位置的に少なくとも原子6個離れている。
【0009】
また、この発明の1以上の実施形態により熱硬化性ゴムの製造方法が提供され、この製造方法にはオレフィン系ゴムを触媒の存在下で水素化ケイ素化剤により硬化する工程が含まれ、水素化ケイ素化剤には下式で表わされる水素化ケイ素基を少なくとも3つ備える化合物が含まれ、
【化4】

ここで、各Rは独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子は位置的に少なくとも原子6個離れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の1以上の実施形態は不飽和ゴムに対し改良された反応性を示す水素化ケイ素化剤を用いて熱可塑性加硫樹脂を製造する方法に関する。この発明の方法は、従来は水素化ケイ素化することが困難であった炭素−炭素二重結合(例えば5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来する炭素−炭素二重結合)を有するゴムの硬化に特に有効である。
また、この発明の水素化ケイ素化剤により、圧縮永久歪の改善に示されるように、長期安定性が改善された熱可塑性加硫樹脂が得られる。この効果は、水素化ケイ素化されやすい炭素−炭素二重結合(例えば5−ビニル−2−ノルボルネン)を含有するゴムの場合にも認められる。
さらに、この発明の方法は、熱硬化性組成物の製造にも適用することができる。
【0011】
1以上の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂は、ゴムと熱可塑性ポリマーとを混合し、触媒の存在下で本願の優れた水素化ケイ素化剤によりゴムを動的加硫することにより製造される。
得られた組成物には、架橋または硬化された相と非架橋の相とが含まれている。架橋された相には架橋されたゴムが含まれ、非架橋の相には熱可塑性ポリマーが含まれる。
別の実施形態では、本願の優れた水素化ケイ素化剤でオレフィン系ゴムを硬化することにより、熱硬化性組成物を製造することができる。
【0012】
<ゴム>
この発明のゴムには、水素化ケイ素化で架橋可能なポリマーが含まれる。ゴムというときには、2以上のゴムの混合物が含まれる。
ゴムの非限定的例示として、オレフィン系エラストマーコポリマー、ブチルゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム、ブタジエン−スチレン−ビニルピリジンゴム、ウレタンゴム、ポリイソプレンゴム、エピクロルヒドリンターポリマーゴム、ポリクロロプレン、およびこれらの混合物が挙げられる。
1以上の実施形態では、オレフィン系エラストマーコポリマーには、エチレン−プロピレンゴム、プロピレンベースのエラストマーコポリマー、およびエチレンベースのプラストマーが含まれる。
【0013】
<エチレン−プロピレンゴム>
エチレン−プロピレンゴムというときは、エチレンと、少なくとも1種類のα−オレフィンモノマーと、任意に少なくとも1種類のジエンモノマーとが重合された、弾性共重合体を意味する。
α−オレフィンには例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、およびこれらの混合物が含まれる。しかし、これらに限定されない。
ひとつの実施形態では、α−オレフィンにはプロピレン、1−ヘキセン、1−オクテン、およびこれらの混合物が含まれる。
ジエンモノマーには、5−エチリデン−2ノルボルネン、5−ビニル−2ノルボルネン、ジビニルベンゼン、1,4−ヘキサジエン、5−メチレン−2ノルボルネン、1,6−オクタジエン、5−メチル1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,4−シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、およびこれらの混合物が含まれる。しかし、これらに限定されない。
弾性共重合体がエチレンと、α−オレフィンと、ジエンモノマーとから製造される場合はターポリマーと呼ばれ、あるいは複数のα−オレフィンまたはジエンモノマーが用いられる場合にはテトラポリマーと呼ばれる。
1以上の実施形態では、少なくとも2種類の異なるゴムのブレンド物を用い、この場合、第1のゴムは5−エチリデン−2ノルボルネンに由来するジエンユニットを含有し、第2のゴムは5−ビニル−2ノルボルネンに由来するジエンユニットを含有する。
また別の実施形態では、5−エチリデン−2ノルボルネンおよび5−ビニル−2ノルボルネンに由来するジエンユニットの両者がゴムに含有されている。
【0014】
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムは、エチレンモノマーに由来するエチレンユニットを約12から約85wt%含有し、または約20から約80wt%、または約40から約70wt%、または約60から約66wt%含有する。
エチレン−プロピレンゴムはさらに、ジエンモノマーに由来するジエンユニットを約0.1から約15wt%含有し、または約0.5から約12wt%、または約1から約10wt%、または約2から約8wt%含有し、残余はα−オレフィンモノマー(例えばポリプロピレンなどのCからC10のオレフィン)に由来するα−オレフィンユニットである。
モル%で表わすと、1つの実施形態のターポリマーはジエンモノマーに由来するジエンユニットを約0.1から約5モル%含有し、または0.5約から約4モル%、または約1から約2.5モル%含有する。
1以上の実施形態では、ジエンに5−エチリデン−2ノルボルネンが含まれる場合、エチレン−プロピレンゴムには5−エチリデン−2ノルボルネンが少なくとも1wt%、別の実施形態では少なくとも3wt%、別の実施形態では少なくとも4wt%、別の実施形態では少なくとも5wt%含まれ、別の実施形態では約1から15wt%、別の実施形態では約5wt%から約12wt%、別の実施形態では約7wt%から約11wt%含まれている。
【0015】
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムの重量平均分子量(Mw)は100000g/モルを超え、別の実施形態では200000g/モルを超え、別の実施形態では400000g/モルを超え、別の実施形態では600000g/モルを超え、またこれらの実施形態または別の実施形態では、好ましいエチレン−プロピレンゴムのMwは1200000g/モル未満、別の実施形態では1000000g/モル未満、別の実施形態では900000g/モル未満、別の実施形態では800000g/モル未満である。
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムの数平均分子量(Mn)は20000g/モルを超え、別の実施形態では60000g/モルを超え、別の実施形態では100000g/モルを超え、別の実施形態では150000g/モルを超え、またこれらの実施形態または別の実施形態では、好ましいエチレン−プロピレンゴムのMwは500000g/モル未満、別の実施形態では400000g/モル未満、別の実施形態では300000g/モル未満、別の実施形態では2500000g/モル未満である。
分子量(Mn,Mw,およびMz)を測定する方法は米国特許第4,540,753号(Cozewith, JuとVerstrate)(米国プラクティスのため本願に参照として組み込む)とそこに引用された文献、および、米国プラクティスのため本願に参照として組み込む21 MACROMOLECULES 3360(Verstrateら、1988年)に記載されている。
【0016】
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムはASTM D-1646に準拠して測定したムーニー粘度(ML(1+4)、125℃)が約10から約500、または約50から約450であることで特徴付けられる。
【0017】
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムはASTM D-1601に準拠してデカリン中135℃で測定した固有粘度が約1から約8dl/g、または約3から約7dl/g、または約4から約6.5dl/gであることで特徴付けられる。
【0018】
1以上の実施形態では、エチレン−プロピレンゴムはASTM E 1356に準拠して示差走査熱量測定(DSC)で測定したガラス転移温度(Tg)が−20℃未満、別の実施形態では−30℃未満、別の実施形態では−50℃未満、別の実施形態では約−20℃から約−60℃であることで特徴付けられる。
【0019】
エチレン−プロピレンゴムは種々の方法で製造または合成することができる。例えば、エチレン−プロピレン共重合体は溶液、スラリー、気相重合法により、バナジウム触媒を含むチーグラー・ナッタ触媒系を含む種々の触媒系を用い、液、スラリー、ガスなどの種々の相で製造または合成することができる。
触媒の例として、構造が規制された触媒及び第IVから第VI族のメタロセンやブルックハート触媒などのシングルサイト触媒が挙げられる。
エチレン−プロピレンゴムとして、商品名VistalonTM(ExxonMobil Chemical Co社; ヒューストン、テキサス)、KeltanTM(DSM Copolymers社、バトンルージュ、ルイジアナ)、NordelTMIP (DuPont Dow Elastomers社、ウィルミントン、デラウエア)、NORDEL MGTM(DuPont Dow Elastomers社)、RoyaleneTM(Chemtura社)、およびBunaTM(Lanxess社)等が市販されている。
【0020】
<エチレンベースのプラストマー>
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体でもあるエチレンベースのプラストマーには、エチレンと1種類以上のα−オレフィンコモノマーとの共重合体が含まれる。α−オレフィンコモノマーには、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、及びこれらの混合物が含まれる。
【0021】
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体は、共重合体の全重量に対し、α−オレフィンコモノマーに由来するモノマーユニットを少なくとも15wt%含み、別の実施形態では少なくとも30wt%含み、別の実施形態では少なくとも50wt%含む。
これらの実施形態または他の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体は、共重合体の全重量に対し、α−オレフィンコモノマーに由来するモノマーユニットを55wt%未満含み、別の実施形態では45wt%未満含み、別の実施形態では40wt%未満含む。
【0022】
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体はASTM D-792に準拠して室温で測定した密度が0.900g/cc未満であり、別の実施形態では0.870g/cc未満、別の実施形態では0.865g/cc未満、別の実施形態では0.860g/cc未満であることで特徴付けられ、これらのまたは別の実施形態では密度が少なくとも0.850g/cc、別の実施形態では少なくとも0.860g/ccであることで特徴付けられる。
【0023】
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体はDSCで測定したTgが−20℃未満、別の実施形態では−30℃未満、別の実施形態では−50℃未満であり、別の実施形態では約−20℃から約−60℃であることで特徴付けられる。
【0024】
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体はASTM 1238に準拠して荷重2.16kg、190℃の条件で測定したメルとインデックスが100dg/分未満、別の実施形態では50dg/分未満、別の実施形態では35dg/分未満、別の実施形態では15dg/分未満であり、別の実施形態では約0.1から約100dg/分未満であることで特徴付けられる。
【0025】
1以上の実施形態では、エチレン−α−オレフィン共重合体は国際公開第93/03093号に開示された方法で測定した組成分布指数が60%以上、別の実施形態では75%以上、別の実施形態では90%以上と狭いことで特徴付けられる。
【0026】
<ポリプロピレンベースのゴム共重合体>
1以上の実施形態では、プロピレン−α−オレフィン共重合体でもあるポリプロピレンベースのゴム共重合体は、プロピレンと、1種類以上のエチレン、または炭素数が4から約20のα−オレフィンと、任意に、1種類以上のジエンに由来するコモノマーユニットとに由来するモノマーユニット(すなわちmerユニット)を含有する。
1以上の実施形態では、α−オレフィンコモノマーユニットは、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび/または1−オクテンが含まれる。1以上の実施形態では、ジエンコモノマーユニットは、5−エチリデン−2ノルボルネン、5−ビニル−2ノルボルネン、ジビニルベンゼン、1,4−ヘキサジエン、5−メチレン−2ノルボルネン、1,6−オクタジエン、5−メチル1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,4−シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、およびこれらの混合物が含まれる。
以下の実施形態では、エチレンがα−オレフィンコモノマーである場合について説明するが、他のα−オレフィンコモノマーを含む共重合体についても同様に実施することができる。従って、α−オレフィンコモノマーがエチレンであるものとして、共重合体を単にポリプロピレンベースのゴム状共重合体ということがある。
【0027】
1以上の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、プロピレン由来のユニット、α−オレフィン由来のユニット、およびジエン由来のユニットの全重量に対し、エチレン由来のユニットを少なくとも5wt%、別の実施形態では少なくとも6wt%、別の実施形態では少なくとも8wt%、別の実施形態では少なくとも10wt%含有し、これらの実施形態または別の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体はエチレン由来のユニットを35wt%まで、別の実施形態では32wt%まで、別の実施形態では25wt%まで、別の実施形態では20wt%まで含有する。
別言すれば、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、プロピレン由来のユニット、およびジエン由来のユニットの全重量に対し、プロピレン由来のユニットを少なくとも75wt%、別の実施形態では少なくとも80wt%含有し、これらの実施形態または別の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、プロピレン由来のユニットを95wt%まで、別の実施形態では94wt%まで、別の実施形態では92wt%まで、別の実施形態では90wt%まで含有する。
【0028】
1以上の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、プロピレン由来のユニット、エチレン由来のユニット、およびジエン由来のユニットの全重量に対し、ジエン由来のユニットを少なくとも0.5wt%、別の実施形態では少なくとも1.5wt%、別の実施形態では少なくとも3wt%含有し、これらの実施形態または別の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、ジエン由来のユニットを11wt%まで、別の実施形態では6wt%まで、別の実施形態では4wt%まで含有する。
【0029】
この発明の1以上の実施形態では、ポリプロピレンベースのゴム状共重合体は、示差走査熱量測定(DSC)で測定したとき融点が1つであることで特徴付けられる。融点は、サンプルが融解する範囲内で、最大の熱吸収を示す温度と定義される。
プロピレンベースのゴム状共重合体は、主要ピークの近くに第2の融解ピークを示す場合が有る。本願では、このような第2の融解ピークも1つの融点に含め、これらのピークの内の最大のピークを、プロピレンベースのゴム共重合体の融点(Tm)とみなす。
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のTmは110℃未満であり、別の実施形態では90℃未満、別の実施形態では80℃未満、別の実施形態では70℃未満であり、これらの実施形態または他の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のTmは少なくとも25℃であり、別の実施形態では少なくとも35℃、別の実施形態では少なくとも40℃、別の実施形態では少なくとも45℃である。
【0030】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体はASTM E 793に準拠してDSC法で測定する融解熱量(Hf)で特徴付けられる。
融解熱量は、6から10mgのサンプルをDSC測定装置にセットし、このサンプルを10℃/分で加熱して測定する。
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体は、融解熱量が少なくとも0.5J/gであり、別の実施形態では1.0J/g、別の実施形態では少なくとも1.5J/g、別の実施形態少なくとも3.0J/g、別の実施形態では少なくとも4.0J/g、別の実施形態では少なくとも6.0J/g、別の実施形態では少なくとも7.0J/gであることで特徴付けられる。
これらの実施形態または他の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体は、融解熱量が80J/g未満であり、別の実施形態では70J/g未満、別の実施形態では60J/g未満、別の実施形態では50J/g未満、別の実施形態では40J/g未満、別の実施形態では最大40J/gであり、別の実施形態では30J/g未満であることで特徴付けられる。
【0031】
プロピレンベースのゴム状共重合体は、13CNMRで測定したとき、3つのプロピレンユニットから成るトライアッドタクシティシを75%以上、または80%以上、または82%以上、または85%以上、または90%以上有する。
1以上の実施形態では、トライアッドタクシティシ含有量の範囲は約50から約99%、別の実施形態では約60から約99%、別の実施形態では約75から約99%、別の実施形態では約80から約99%、別の実施形態では約60から約97%である。
トライアッドタクシティシは、米国特許出願第2004/0236042号に開示された方法で測定する。
【0032】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体は結晶化度が0.5%から40%、別の実施形態では1%から30%、別の実施形態では5%から25%である。
結晶化度は、ASTM E-794-95に準拠してDSC法により測定することができる。結晶化度は、6から10mgのサンプルをDSC測定装置にセットし、このサンプルを10℃/分で加熱して測定する。
本願では、プロピレンベースのゴム状共重合体の結晶化度は、結晶化度のパーセンテージで表わすこともある。
ポリプロピレンの最も高い熱エネルギーは209J/gと見積もられる(すなわち、結晶化度100%は209J/gに相当する)。
別の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体の結晶化度は40%未満であり、別の実施形態では約0.25%から約25%、別の実施形態では約0.5%から約22%、別の実施形態では約0.5%から約20%である。
【0033】
ASTM D-792に準拠して室温で測定したプロピレンベースのゴム状共重合体の密度は、1以上の実施形態では約0.85g/cmから約0.92g/cmであり、別の実施形態では約0.87g/cmから約0.90g/cm、別の実施形態では約0.88g/cmから約0.89g/cmである。
【0034】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のメルトインデックス(MI)(ASTM D-1238準拠、2.16kg、190℃)は10dg/分未満、別の実施形態では6.5dg/分以下、別の実施形態では6dg/分以下、別の実施形態では5.5dg/分以下、別の実施形態では5dg/分以下である。
【0035】
1以上の実施形態では、ASTM D-1238に準拠して、荷重2.16kg、230℃で測定したプロピレンベースのゴム状共重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.2dg/分以上、別の実施形態では少なくとも0.2dg/分、別の実施形態では少なくとも0.5dg/分、別の実施形態では少なくとも1.0dg/分である。
これらの実施形態あるいは別の実施形態では、メルトフローレートは350dg/分以下、別の実施形態では100dg/分未満である。
ひとつの実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のMFRは0.5dg/分から350dg/分、別の実施形態では2dg/分から30dg/分、別の実施形態では5dg/分から30dg/分、別の実施形態では10dg/分から30dg/分、別の実施形態では10dg/分から約25dg/分である。
【0036】
1以上の実施形態では、ASTM D-1646に準拠して測定したプロピレンベースのゴム状共重合体のムーニー粘度[ML(1+4)125 ℃]は100未満、別の実施形態は75未満、別の実施形態では60未満、別の実施形態では30未満である。
【0037】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のMwは約5000から約5000000g/モル、別の実施形態では約10000から約1000000g/モル、別の実施形態では約20000から約500000g/モル、別の実施形態では約50000から約400000g/モルである。
【0038】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のMnは約2500から約2500000g/モル、別の実施形態では約5000から約500000g/モル、別の実施形態では約10000から約250000g/モル、別の実施形態では約25000から約200000g/モルである。
【0039】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体のZ平均分子量(Mz)は約10000から約7000000g/モル、別の実施形態ではMzは約50000から約1000000g/モル、別の実施形態ではMzは約80000から約700000g/モル、別の実施形態ではMzは約10000から約500000g/モルである。
【0040】
1以上の実施形態では、プロピレンベースのゴム状共重合体の分子量分布指数(MWD=(MW/Mn))は約1から約40、別の実施形態では約1から約5、別の実施形態では約1.8から約5、別の実施形態では約1.8から約3である。
【0041】
1以上の実施形態では、ブチルゴムには、イソブチレンと少なくとも1種類の他のコモノマーとから成るコポリマーまたはターポリマーが含まれる。他のコモノマーには、イソプレン、ジビニル芳香族モノマー、アルキル置換されたビニル芳香族モノマー、及びこれらの混合物が含まれる。ジビニル芳香族モノマーの例として、ビニルスチレンが挙げられる。アルキル置換されたビニル芳香族モノマーの例として、α−メチルスチレン、パラメチルスチレンが挙げられる。塩素化または臭素化ブチルゴムの場合、前記のコポリマーまたはターポリマーはハロゲン化される。1以上の実施形態では、このようなハロゲン化されたポリマーは、パラブロモメチルスチレンなどのモノマーから誘導される。
【0042】
1以上の実施形態では、ブチルゴムには、イソブチレンとイソプレンから成るコポリマー、イソブチレンとパラメチルスチレンから成るコポリマー、イソブチレン、イソプレンおよびジビニルスチレンから成るターポリマー、分岐したブチルゴム、臭素化されたイソブテンおよびパラメチルスチレンのコポリマー(パラブロモメチルスチレンユニットを含む共重合体が生じる)などが含まれる。これらのコポリマーまたはターポリマーをハロゲン化することができる。
【0043】
ひとつの実施形態では、ブチルゴムがイソブチレン−イソプレンコポリマーを含む場合、コポリマーの全重量に対しイソプレンが重量%で約0.5から約30、または約0.8から約5含まれ、残余はイソブチレンである。
【0044】
別の実施形態では、ブチルゴムがイソブチレン−パレメチルスチレンコポリマーを含む場合、このコポリマーの全重量に対しパレメチルスチレンが重量%で約0.5から約25、または約2から約20含まれ、残余はイソブチレンである。
ひとつの実施形態では、イソブチレン−パレメチルスチレンコポリマーを臭素等でハロゲン化することができ、このハロゲン化されたコポリマーにはハロゲン化された基が約0から約10重量%、または約0.3から7重量%含まれる。
【0045】
別の実施形態では、ブチルゴムがイソブチレン、イソプレンおよびジビニルスチレンから成るターポリマーを含む場合、ターポリマーの全重量に対しイソブチレンが重量%で約95から約99、または約96から約98.5含まれ、イソプレンが重量%で約0.5から約5含まれ、または約0.8から約2.5含まれ、残余はジビニルスチレンである。
【0046】
ハロゲン化されたブチルゴムの場合、ブチルゴムには、コポリマーまたはターポリマーの全重量に対しハロゲンが重量%で約0.1から約10、または約0.3から約7、または約0.5から約3含まれる。
【0047】
1以上の実施形態では、この発明のブチルゴムのTgは約−55℃未満、または約−58℃未満、または約−60℃未満、または約−63℃未満である。
【0048】
1以上の実施形態では、この発明のブチルゴムのムーニー粘度(ML(1+8),125℃)は約25から約75、または約30から約60、または約40から約55である。
【0049】
Rubber World Blue Bookに記載されているように、多数のブチルゴムが市販されている。
例えば、ハロゲン化または非ハロゲン化イソブチレン−イソプレンコポリマーとして商品名Exxon ButylTM(ExxonMobil Chemical 社)、ハロゲン化または非ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレンコポリマーとして商品名EXXPROTM(ExxonMobil Chemical 社)、星状分岐ブチルゴムとして商品名STAR BRANCHEDBUTYLTM(ExxonMobil Chemical 社)、パラブロモスチレンユニットを含むコポリマーとして商品名EXXPRO 3745(ExxonMobil Chemical 社)が市販されている。
ハロゲン化または非ハロゲン化イソブチレン、イソプレン−ジビニルスチレンターポリマーとして商品名Polysar ButylTM(Lanxess社、ドイツ)が市販されている。
【0050】
<熱可塑性レジン>
熱可塑性加硫樹脂の製造に用いることができる熱可塑性レジンであれば、いかなる熱可塑性レジンでもこの発明の熱可塑性加硫樹脂の製造に用いることができる。
この発明に用いることができる熱可塑性レジンは、固体で高分子量の熱可塑性レジンである。1以上の実施形態では、このような熱可塑性レジンには非官能性の熱可塑性レジンが含まれる。別の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂の熱可塑性レジンには、官能性の熱可塑性レジン単独、または官能性の熱可塑性レジンと非官能性熱可塑性レジンを組み合わせて用いることができる。
【0051】
このような熱可塑性レジンには、結晶性または非結晶性のポリマーが含まれる。1以上の実施形態では、このような熱可塑性レジンは結晶化度が少なくとも25wt%であることで特徴付けられ、別の実施形態では少なくとも30wt%、別の実施形態では少なくとも35wt%であることで特徴付けられる。
結晶化度はサンプルの融解熱量を、結晶化度100%のポリマーの融解熱量で割り算して求めることができる。結晶化度100%のポリマーの融解熱量は、ポリプロピレンの場合209J/g、ポリエチレンの場合350J/gとみなす。
1以上の実施形態で熱可塑性レジンがプロピレンベースの場合、この熱可塑性レジンは融解熱量が少なくとも50J/gであり、別の実施形態では75J/gを超え、別の実施形態では100J/gを超えることで特徴付けられる。
1以上の実施形態で熱可塑性レジンがポリエチレンベースの場合、この熱可塑性レジンは融解熱量が少なくとも85J/gであり、別の実施形態では少なくとも100J/g、別の実施形態では少なくとも130J/gであることで特徴付けられる。
【0052】
1以上の実施形態では、熱可塑性レジンのMwは約50から約2000kg/モルであり、別の実施形態では約100から約600kg/モルであることで特徴付けられる。また、ポリスチレンを標準サンプルとしてGPCで測定したとき、熱可塑性レジンのMnが約25から約1000kg/モルであり、別の実施形態では約50から約300kg/モルであることでも特徴付けられる。
【0053】
1以上の実施形態では、熱可塑性レジンのMFR(ASTM D-1238準拠、2.16dg、230℃)が約0.2から5000dg/分であり、別の実施形態では約5から約500dg/分、別の実施形態では約10から約100dg/分である。
【0054】
1以上の実施形態では、 熱可塑性レジンのTmは約110℃から約250℃であり、別の実施形態では約155℃から約170℃、別の実施形態では約160℃から約165℃である。
熱可塑性レジンのTgは約−10℃から約10℃であり、別の実施形態では約−3℃から約5℃、別の実施形態では約0℃から約2℃である。
1以上の実施形態では、結晶化温度(Tc)が少なくとも約75℃であり、別の実施形態では少なくとも約95℃、別の実施形態では少なくとも約100℃、別の実施形態少なくとも約105℃であり、ひとつの実施形態では105℃から115℃の範囲内にある。
【0055】
熱可塑性レジンには、結晶性、半結晶性、および結晶化可能なポリオレフィン、オレフィンコポリマー、及び非オレフィンポリマーが含まれる。
熱可塑性レジンは、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、2−メチル−1−プロペン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、およびこれらの混合物などのαオレフィンを重合して製造される。
エチレンとプロピレンのコポリマー、あるいはエチレンおよび/またはプロピレンと、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、2−メチル−1−プロペン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、およびこれらの混合物などの他のαオレフィンとのコポリマーを用いることもできる。
特に、プロピレンと、エチレンまたは上記の高級α−オレフィンまたはC10−C20ジオレフィンとの、耐衝撃性反応器ランダムコポリマーが好ましい。
これらのコポリマー中の、コポリマーの重量に対するコモノマー含量は1wt%から約30wt%である。例えば米国特許第6,867,260 B2号を参照されたい。商品名VISTAMAXXTM(ExxonMobil社)として販売されているコポリマーは特に好ましい。
この他のポリオレフィンコポリマーには、スチレン−エチレン共重合体などのスチレンとオレフィンとのコポリマー、ポリエチレン−アクリレート共重合体などの、オレフィンとα,β−不飽和酸やα,β−不飽和エステルとのコポリマーが含まれる。非オレフィン系熱可塑性レジンには、スチレン、α,β−不飽和酸、α,β−不飽和エステル、およびこれらの組合せのホモポリマーまたはコポリマーが含まれる。例えば、ポリスチレン、ポリアクリレート、およびポリメチルアクリレートを用いることができる。
この発明では、2以上の上記のポリオレフィン熱可塑性レジン、あるいは他の高分子量改質剤のブレンド物または混合物を用いることもできる。熱可塑性レジンには耐衝撃性共重合体も含まれる。
【0056】
熱可塑性レジンの合成は、公知のチーグラー・ナッタ重合触媒や、メタロセン触媒などのシングルサイト有機金属触媒等を用いる重合法により行なうことができるが、これらに限定されない。
【0057】
ひとつの実施形態では、熱可塑性レジンには高結晶性のアイソタクチックまたはシンジオタクチックポリプロピレンのホモポリマーが含まれる。このようなポリプロピレンは密度が約0.85から約0.91g/ccであり、高度にアイソタクチックなポリプロピレンは密度が約0.90から約0.91g/ccである。また、フラクショナルメルトフローレート(fractional melt flow rate)を有する、高分子量または超高分子量ポリプロピレンを用いることもできる。
1以上の実施形態では、ポリプロピレンはMFR(ASTM D-1238準拠、2.16kg、230℃)が10dg/分以下であり、別の実施形態では1.0dg/分以下、別の実施形態では0.5dg/分以下である。
【0058】
<その他の成分>
1以上の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂はミネラルオイル、合成オイルおよびこれらの組合せを含有する。このようなオイルは可塑剤あるいはエクステンダーと呼ばれる。
ミネラルオイルには芳香族系、ナフテン系、パラフィン系およびイソパラフィン系オイルが含まれる。1以上の実施形態では、ミネラルオイルは処理または未処理のものである。この発明のミネラルオイルとして、商品名SUNP ARTM(Sun Chemicals社)を入手できる。この他、商品名PARALUXTM(Chevron社)を入手できる。
【0059】
1以上の実施形態では、合成オイルにはイソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ブタジエン、およびこれらの組合などの、ブテンのポリマーまたはオリゴマーが含まれる。
1以上の実施形態では、このようなオリゴマーは数平均分子量が約300g/モルから9000g/モル、別の実施形態では約700g/モルから1300g/モルであることで特徴付けられる。1以上の実施形態では、このようなオリゴマーはイソブテンモノマーユニットを含む。
合成オイルの例として、ポリイソブチレン、ポリ(イソブチレン−ブテン共重合体)、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−ブテン共重合体)、およびこれらの組合せが挙げられる。
1以上の実施形態では、合成オイルには直鎖ポリα−オレフィン、分岐ポリα−オレフィン、水素化ポリα−オレフィンおよびこれらの組合せが含まれる。
【0060】
1以上の実施形態では、合成オイルにはASTM D-4402に準拠し、38℃でブルックフィールド粘度計を用いて測定した粘度が約20cPを超える合成ポリマーまたは共重合体が含まれ、別の実施形態では粘度が約100cPを超え、別の実施形態では粘度が約190cPを超える合成ポリマーまたは共重合体が含まれる。これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、粘度は4000cP未満であり、別の実施形態では1000cP未満である。
【0061】
この発明の合成オイルとして、商品名PolybuteneTM(Soltex社、ヒューストン、テキサス)、商品名IndopolTM(BP社、英国)、ParapolTM(ExxonMobil社)を入手できる。
ブタジエンとコモノマーとから誘導されたオリゴマー共重合体として、商品名Ricon ResinTM(Sartomer社)を入手できる。
ホワイト合成オイルとして、以前はSHF Fluids(Mobil社)とElevastTM(ExxonMobil社)であった商品名SPECTRASYNTM(ExxonMobil社)を入手できる。
【0062】
1以上の実施形態では、エクステンダーオイルには、有機エステル、アルキルエステル、およびこれらの組合せが含まれる。1以上の実施形態では、有機エステルとアルキルエステルは一般に分子量が約10000未満である。1以上の実施形態では、好ましいエステルには分子量が約2000未満のモノマーまたはオリゴマーが含まれ、別の実施形態では分子量は約600未満である。
1以上の実施形態では、エステルは組成物中のポリαオレフィン成分とゴム成分の両者に対し混和性または相溶性を有する。すなわち、エステルは他の成分と混合して均一相となる。
1以上の実施形態では、このようなエステルには、脂肪族モノ−またはジ−エステル、またはオリゴマー脂肪族エステル、あるいはアルキルエーテルエステルが含まれる。
1以上の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂は高分子量の脂肪族および芳香族エステル、さらにリン酸エステルを含有しない。
【0063】
ある実施形態では、熱可塑性加硫樹脂は高分子量の加工助剤を含有する。この加工助剤は高メルトフローレートの高分子量レジンである。このような高分子量レジンには、メルトフローレートが約500dg/分を超え、好ましくは750dg/分を超え、好ましくは1000dg/分を超え、好ましくは1200dg/分を超え、好ましくは1500dg/分を超える、直鎖ポリマーおよび分岐ポリマーの両者が含まれる。
種々の分岐高分子量加工助剤の混合物、または種々の直鎖の高分子量加工助剤の混合物、さらに直鎖および分岐高分子量加工助剤の両者の混合物を用いることができる。高分子量加工助剤というときは、特に断りのない限り、直鎖および分岐ポリマーの両者を意味する。直鎖高分子量加工助剤にはポリプロピレンホモポリマーが含まれ、分岐高分子量加工助剤にはジエンで改質されたポリプロピレンが含まれる。
【0064】
この発明の熱可塑性加硫樹脂には、ゴム、熱可塑性レジン、任意成分の加工助剤に加え、強化用または非強化用充填剤、酸化防止剤、安定剤、ゴム用プロセスオイル、潤滑油、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ワックス、発泡剤、顔料、難燃剤などの、ゴム配合技術の分野で公知の添加剤が任意成分として含有される。
これらの添加剤は組成物に最大50wt%含まれる。充填剤には炭酸カルシウム、クレイ、シリカ、タルク、酸化チタン、カーボンブラックなどの公知の無機物を用いることができる。
【0065】
1以上の実施形態では、この発明の熱可塑性加硫樹脂には、この発明のゴム状組成物を形成するために十分な量のゴムが含まれる。
当業者であれば、この発明の熱可塑性加硫樹脂は、伸びが100%を超え、元の長さの200%まで伸長させ約10分間保持した後、速やかにもとの長さの150%以下まで収縮するものであることが理解できるであろう。
【0066】
すなわち、1以上の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂には少なくとも約25wt%のゴムが含有され、別の実施形態では少なくとも約45wt%、別の実施形態では少なくとも約65wt%、別の実施形態では少なくとも約75wt%のゴムが含有される。
これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂中のゴムの量は、ゴムと熱可塑性レジンの総重量に対し約15から90wt%であり、別の実施形態では約45から85wt%、別の実施形態では約60から80wt%である。
【0067】
1以上の実施形態では、熱可塑性加硫樹脂中の熱可塑性レジンの量は、ゴムと熱可塑性レジンの総重量に対し約5wt%から60wt%であり、別の実施形態では約10wt%から40wt%、別の実施形態では約12wt%から30wt%である。
【0068】
高分子量加工助剤が用いられる場合、高分子量加工助剤はゴムの100重量部に対し約0から5重量部含まれ、または約0.1から3重量部含まれ、または約0.2から約2重量部含まれる。
【0069】
エクステンダーオイルは、ゴムの100重量部に対し約0から250重量部含まれ、または約50から150重量部含まれ、または約75から約130重量部含まれる。添加するエクステンダーオイルの量は目的とする物性に依存し、上限はそのオイルとブレンド成分との相溶性に依存する。大量のエクステンダーオイルが滲み出すときは、上限を超えている。エクステンダーオイルの添加量は、少なくともある程度はゴムの種類に依存する。高粘度のゴムほど、大量にエクステンダーオイルを添加することができる。
【0070】
カーボンブラック、クレイ、炭酸カルシウムなどの充填剤は、ゴムの100重量部に対し約1から250重量部含まれ、別の実施形態では約10から150重量部含まれ、別の実施形態では約25から約50重量部含まれる。カーボンブラックの添加量は、少なくともある程度はカーボンブラックの種類とエクステンダーオイルの添加量に依存する。
【0071】
<加硫>
1以上の実施形態では、動的加硫によってゴムを硬化または架橋する。動的加硫という用語は、熱可塑性レジンとのブレンド物中のゴムを加硫または硬化する工程であって、熱可塑性レジンの融点以上の高温度、かつ高剪断下で、ゴムを架橋または加硫する工程を意味する。
【0072】
1以上の実施形態では、動的加硫は水素化ケイ素化剤を用いて行なわれる。
水素化ケイ素化剤は一般に触媒と組み合わせて用いられる。1以上の実施形態では、次式に示すように、水素化ケイ素化剤は少なくとも3つのSiH−を含む反応性部位、あるいは置換基を備える。
【化5】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である。
1以上の実施形態では、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基である。
【0073】
1価の有機置換基には、アルキル基、シクロアルキル基、置換されたシクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換されたシクロアルケニル基、アリール基、アリル基、置換されたアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、およびアルキニル基などが含まれ、各置換基は炭素数が1から20まで、あるいは、その基を構成するために必要な最小の炭素数から20までの炭素を含む。但し、これらの置換基に限定されない。
ヒドロカルビル基は、窒素、酸素、ケイ素、硫黄、およびリンなどのヘテロ原子を含んでいてもよい。但し、これらのヘテロ原子に限定されない。
いくつかの実施形態では、各Rはそれぞれ独立した短鎖ヒドロカルビル基である。特定の実施形態では、各Rはメチル基またはエチル基であり、別の実施形態では各Rはメチル基である。
【0074】
さらに、この水素化ケイ素化剤は、少なくとも2つのSiH−を含む反応性部位のケイ素原子間に、少なくとも6つの原子が存在することで特徴付けられる。
別言すれば、3つのSiH−を含む反応性部位の内、少なくとも2つのSiH−が、位置的に少なくとも原子6個離れている。
ある実施形態では、少なくとも3つのSiH−を含む反応性部位の各ケイ素原子が、位置的に少なくとも原子6個離れている。これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、各SiH−を含む反応性部位の各ケイ素原子が、最も近いSiH−を含む反応性部位の各ケイ素原子と少なくとも原子6個離れている。
特定の実施形態では、水素化ケイ素化剤は少なくとも3つのSiH−を含む反応性部位を備え、別の実施形態では少なくとも4つ、別の実施形態では少なくとも5つのSiH−を含む反応性部位を備える。
これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、SiH−を含む反応性部位のケイ素原子は少なくとも原子7個離れており、別の実施形態では少なくとも原子8個、別の実施形態では少なくとも原子9個離れている。
【0075】
1以上の実施形態では、水素化ケイ素化剤は、特定のケイ素含有基を、限られた数しか備えないか、あるいはこのようなケイ素含有基を備えない。
特定の限られたケイ素含有基には、次式に示す基が含まれる。
【化6】

ここで各Rは、それぞれ独立した1価の有機置換基である。
1以上の実施形態では、水素化ケイ素化剤中のSiH−を含む反応性部位の20%未満がこのような置換基中にあり、別の実施形態では反応性部位の10%未満が、また別の実施形態では反応性部位の5%未満が、また別の実施形態ではSiH−を含む反応性部位の1%未満がこのような置換基中にある。
特定の実施形態では、水素化ケイ素化剤はこのような置換基中にあるケイ素原子を実質的に備えていない。ここで、実質的に備えていないとは、水素化ケイ素化剤の加硫効果に影響するほどの量が存在しないことを意味する。
これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、水素化ケイ素化剤はこのような置換基中にあるケイ素原子を備えていない。
【0076】
1以上の実施形態では、この発明の水素化ケイ素化剤は活性が約3から約80、別の実施形態では約4から約60、別の実施形態では約5から約50、別の実施形態では約8から約40であることで特徴付けられる。ここで、活性とは、ヒドリド化合物1kg中のヒドリド基(すなわちヒドリド基の等量)の数で計測される。
【0077】
1以上の実施形態では、この発明の水素化ケイ素化剤には下式に示すものが含まれる。
【化7】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素であり、αは少なくとも2つのSiH−を含む基が位置的に少なくとも原子6個離れている構造と成るために十分な数の原子を含む部位であり、xは3以上の整数である。
【0078】
例えば、特定の実施形態では、αはQグループ(Q group)を含む。
これらの実施形態あるいはその他の実施形態では、水素化ケイ素化剤では下式に示すユニットが少なくとも3回繰り返される。
【化8】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素であり、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素化ケイ素基などのケイ素を含む基である。
【0079】
特定の実施形態では、水素化ケイ素化剤には下式に示す樹脂が含まれる。
【化9】

【0080】
1以上の実施形態では、水素化ケイ素化剤は分子量が約200から約800000g/モル、別の実施形態では約300から約300000g/モル、別の実施形態では約400から約150000g/モルであることで特徴付けられる。
【0081】
αがQ樹脂(Q resin)を含み、HQ−樹脂、またはヒドリド改質シリカQ樹脂とも呼ばれる水素化ケイ素化剤の具体的な例は、分子量が900g/モルで、活性が9.5当量/kgのヒドリド改質シリカQ樹脂であり、商品名MQH-9TM(Clariant LSM, Inc.社)として販売されている化合物である。
あるいは、分子量が500g/モルで、活性が8−9当量/kgのヒドリド改質シリカQ樹脂であり、HQM 105TM(Gelest, Inc.社)として販売されている化合物である。
あるいは、分子量が900g/モルで活性が8−9当量/kgのヒドリド改質シリカQ樹脂であり、HQM 107TM(Gelest, Inc.社)として販売されている化合物である。
【0082】
この他のα部位の例として、分岐した炭化水素ポリマー鎖や樹枝状に分岐した炭化水素ポリマーが挙げられる。このようなポリマー鎖やポリマー鎖には、ケイ素原子などのヘテロ原子が含まれる。例えば、α部位に分岐した炭化水素ポリマー鎖が含まれている実施形態では、水素化ケイ素化剤は下式で定義される。
【化10】

ここで、各Rはそれぞれ独立した1価の有機置換基であり、Rはそれぞれ独立した2価の有機置換基である。
1以上の実施形態では、2価の有機置換基にはヒドロカルビレン基、あるいは置換されたヒドロカルビレン基が含まれ、例としてアルキレン基、シクロアルキレン基、置換されたアルキレン基、置換されたシクロアルキレン基、アルケニレン基、シクロアルケニレン基、アリーレン基(arylene)置換されたアリーレン基などが含まれ、各置換基は炭素数が1から20まで、あるいは、その基を構成するために必要な最小の炭素数から20までの炭素を含む。但し、これらの置換基に限定されない。
置換されたヒドロカルビレン基には、1以上の水素原子がアルキル基で置換されたヒドロカルビレン基が含まれる。
2価の有機置換基は、1以上のヘテロ原子が含まれていてもよく、ヘテロ原子の例として窒素、酸素、ホウ素、ケイ素、硫黄、リン原子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
他の水素化ケイ素化剤の例として、下式に示す化合物が挙げられる。
【化11】

ここで、各nはそれぞれ独立して、1から約1000の整数であり、別の実施形態では2から約100の整数、別の実施形態では2から約20の整数である。
【0084】
他の水素化ケイ素化剤の例として、下式に示す化合物が挙げられる。
【化12】

ここで、各nはそれぞれ独立して、1から約1000の整数であり、別の実施形態では1から約100の整数、別の実施形態では2から約20の整数である。
1以上の実施形態では、ポリマー鎖には共役ジエンと、任意成分としてビニル芳香族モノマー等のコモノマーとを重合して誘導されたポリマー鎖が含まれる。
【0085】
また別の水素化ケイ素化剤の例として、下式に示す化合物が挙げられる。
【化13】

【0086】
この発明の触媒には、反応性のSiH−を含有する部位または置換基と、炭素−炭素二重結合などの炭素−炭素結合との水素化ケイ素化反応の触媒となる化合物または分子が含まれる。
また1以上の実施形態では、これらの触媒は反応媒体に可溶である。
このような触媒には、第VIII族金属を含む化合物などの、遷移金属化合物が含まれる。第VIII族金属には、パラジウム、ロジウム、ゲルマニウム、白金が含まれる。
触媒の例として、塩化プラチナ酸、プラチナ元素、塩化プラチナ酸ヘキサハイドレート、塩化プラチナ酸とsym−ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体、ジクロロ−ビス(トリフェニルホスフィン)プラチナ(II)、cis−ジクロロ−ビス(アセトニトリル)プラチナ(II)、ジカルボニルジクロロプラチナ(II)、塩化プラチナ、酸化プラチナ、カールシュテット(Karstedt's)触媒等のゼロ価のプラチナ金属錯体、担体(アルミナ、シリカ、またはカーボンブラック)に担持された固形プラチナ等が挙げられる。
また、触媒の例として、プラチナ−ビニルシロキサン錯体(例えばPtn(ViMe2SiOSiMe2 Vi)n,Pt[(MeViSiO)4]m)、プラチナ−ホスフィン錯体(例えばPt(PPh3)4,Pt(PBu3)4)、プラチナ−ホスファイト錯体(例えばPt[P(OPh) 3] 4,Pt[P(OBu) 3] 4)が挙げられる。ここで、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基、nとmは整数を表わす。
さらに別の触媒の例として、RhCl(PPh3)3、RhCl3、Rh/Al2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4等が挙げられる。
【0087】
1以上の実施形態では、触媒は触媒抑制剤と併用される。
触媒抑制剤は熱可塑性加硫樹脂を動的硬化により製造するとき、特に有用である。有用な触媒抑制剤には、急速な触媒反応または開裂を抑制または安定化する化合物が含まれる。触媒抑制剤の例として、165℃以上の温度で安定なオレフィンが挙げられる。他の触媒抑制剤の例として、1,3,5,7−テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。
【0088】
当業者であれば、目的とする硬化を行うために、適切な水素化ケイ素化剤の量を容易に選択することができる。
1以上の実施形態では、使用する水素化ケイ素化剤の量は、水素化ケイ素化剤の等量(すなわち水素化ケイ素基の数)と、ビニル二重結合の等量(すなわち、ポリマーのジエン由来のユニット数)との比率で表わされる。
ある実施形態では、ビニル二重結合の等量に満たない水素化ケイ素が用いられる。別の実施形態ではビニル二重結合の等量を超える水素化ケイ素が用いられる。1以上の実施形態では、水素化ケイ素の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比率は約0.7:1から約10:1、別の実施形態では約0.95:1から約7:1、別の実施形態では1:1から5:1、別の実施形態では1.5:1から4:1である。
【0089】
当業者であれば、目的とする硬化を行うために、適切な触媒の量を容易に選択することができる。
1以上の実施形態では、使用する触媒の量はゴム100重量部に対し約0.00007重量部から約0.01重量部であり、別の実施形態では約0.0001重量部から約0.0005重量部、別の実施形態では約0.0005重量部から約0.001重量部である。
【0090】
この発明の組成物は、ゴムが部分的、あるいは完全に硬化されているにも拘らず、押出成型、射出成型、ブロー成型、圧縮成型等の公知のプラスチック加工方法により、加工および再加工することができる。
熱可塑性加硫樹脂中のゴムは、熱可塑性レジンの連続相あるいはマトリックス中に、加硫または硬化されたゴムの微粒子が良好に分散した状態で存在する。
別の実施形態では、共連続相または逆転した相のモルフォロジーが得られる。
ゴムの微粒子が熱可塑性レジン中に分散した状態となる実施形態では、ゴムの微粒子の平均径は50μm未満、あるいは30μm未満、あるいは10μm未満、あるいは5μm未満、あるいは1μm未満となる。
ある実施形態では、少なくとも50%、あるいは少なくとも60%、あるいは少なくとも75%のゴムの微粒子平均径が5μm未満、あるいは2μm、あるいは1μm未満となる。
【0091】
1以上の実施形態では、ゴムは高度に硬化されている。ひとつの実施形態では、ゴムが完全に硬化されていることが好ましい。ゴムの硬化度は、抽出剤にシクロヘキサンまたは沸騰キシレンを用いて、熱可塑性加硫樹脂から抽出されるゴムの量を測定することで求められる。
この測定方法は本願に米国プラクティスのため組み込まれる米国特許第4,311,628号に開示されている。
ひとつの実施形態ではゴムは三次元的に硬化され、本願に米国プラクティスのため組み込まれる米国特許第5,100,947号、第5,157,081号に開示された方法により23℃で測定したシクロヘキサン抽出量が90wt%以下であり、別の実施形態ではシクロヘキサン抽出量が50wt%以下、別の実施形態ではシクロヘキサン抽出量が30wt%以下、別の実施形態ではシクロヘキサン抽出量が10wt%以下、別の実施形態ではシクロヘキサン抽出量が5wt%以下である。
あるいは、1以上の実施形態では、ゴムは、ゴムの1ミリリットル当りの架橋密度が好ましくは少なくとも4×10−5、別の実施形態では架橋密度が少なくとも7×10−5、別の実施形態では架橋密度が好ましくは10×10−5となる硬化度を有する。Ellulらの「Crosslink Densities and Phase Morphologies in Dynamically Vulcanized TPEs」(68 RUBBER CHEMISTRY AND TECHNOLOGY,573-584ページ,1995年)を参照されたい。
【0092】
この発明の熱可塑性加硫樹脂は、ウェザーシール、ホース、ベルト、ガスケット、成形品、ブーツ、弾性繊維等の種々の製品の製造に用いることができる。
この発明の熱可塑性加硫樹脂は、ブロー成型、押出成型、射出成型、熱成型、エラストウェルディング(elasto−welding)や圧縮成型などの成型方法による種々の製品の製造に用いることができる。
特に、この発明の熱可塑性加硫樹脂は、ウェザーシール、カップなどのブレーキ部品、カップリングディスク、ダイアフラムカップ、定速ジョイント用ブーツ、ラックとピニオンのジョイント用ブーツ、チューブ、シーリングガスケット、油圧または空気圧で操作される装置の部品、Oリング、ピストン、バルブ、バルブシート、バルブガイド、その他の弾性ポリマーで作られる部品、あるいは金属/プラスチックを組み合わせて作られる部品等の、自動車用部品の製造に用いることができる。
また、Vベルトや、繊維を含有し、先端が切り落とされたV状リブ、短繊維で強化されたV状リブ、短繊維をゴムで固めて成型したV状リブを有する歯付きベルトなどのトランスミッション用ベルトに用いることも可能である。
【0093】
別の実施形態では、この発明の水素化ケイ素化剤と、公知の熱硬化性樹脂を製造する方法とを用いて熱硬化性樹脂を製造することができる。
熱硬化性樹脂に関する実施形態では、前記の水素化ケイ素化剤と、前記の触媒とを併用することができる。
熱硬化性樹脂を製造する方法は公知である。1以上の実施形態では、熱硬化性樹脂は、成型型またはプレスを用いて静的硬化により製造することができる。
別の実施形態では、加硫可能なフィルムをゴムと硬化剤を用いて成型し、次にこのフィルムを硬化させることにより、硬化されたフィルムを製造することができる。いずれの場合でも、硬化は時間および/または温度により開始される。
【0094】
この発明の実施形態を示すために、以下のサンプルを作製し、測定した。しかし、これらのサンプルはこの発明の範囲を限定するものではない。この発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載により定められる。
【実施例】
【0095】
以下の実施例では、数種類の水素化ケイ素化剤について、熱可塑性加硫樹脂および熱硬化性樹脂に適用したときの効果を比較した。
用いた水素化ケイ素化剤には以下のものが含まれる。
【0096】
水素化ケイ素化剤Iは、ヒドリド改質シリカQ樹脂であり、商品名HQM 107TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤Iは、分子量が約900g/モルで活性が約8−9当量/kgであり、位置的に少なくとも原子6個離れた少なくとも3つの水素化ケイ素基を備える。
【0097】
水素化ケイ素化剤IIは、メチルヒドロシロキサン−オクチルメチルシロキサン共重合体の水素化ケイ素化剤であり、商品名DC2-5084TM(Dow Corning社)として入手した。
水素化ケイ素化剤IIは、分子量が約1800g/モルで活性が約7.2当量/kgであり、少なくとも3つの水素化ケイ素基を備えるが、これらの水素化ケイ素基は位置的に少なくとも原子6個離れたものではない。
【0098】
水素化ケイ素化剤IIIは、二官能性の両末端ヒドリド基ポリジメチルシロキサンであり、商品名DMS H11TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤IIIは、分子量が1050g/モルであることを特徴とする。
【0099】
水素化ケイ素化剤IVは、二官能性の両末端ヒドリド基ポリジメチルシロキサンであり、商品名DMS H03TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤IVは、分子量が450g/モルである。
【0100】
水素化ケイ素化剤Vは、フェニルトリス(ジメチルシロキシ)硬化剤であり、商品名SIP 6826TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤Vは、分子量が331g/モルであり、1分子当り3つの水素化ケイ素基を備えるが、これらの水素化ケイ素基は位置的に少なくとも原子6個離れたものではない。
【0101】
水素化ケイ素化剤VIは、テトラキス(ジメチルシロキシ)硬化剤であり、商品名SIT 7278TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤VIは、分子量が329g/モルであり、1分子当り3つの水素化ケイ素基を備えるが、これらの水素化ケイ素基は位置的に少なくとも原子6個離れたものではない。
【0102】
水素化ケイ素化剤VIIは、ヒドリド改質シリカQ樹脂であり、商品名HQM 105TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤VIIは、分子量が500g/モルで活性が約8−9当量/kgであり、位置的に少なくとも原子6個離れた少なくとも3つの水素化ケイ素基を備える。
【0103】
水素化ケイ素化剤VIIIは、ヒドリド改質シリカQ樹脂であり、商品名MQH-9TM(Gelest, Inc.社)として入手した。
水素化ケイ素化剤VIIIは、分子量が約900g/モルで活性が約9.5当量/kgであり、1分子当り約8.8個の水素化ケイ素官能基を含有する。少なくとも2つの水素化ケイ素官能基が、位置的に少なくとも原子6個離れている。
【0104】
<サンプル1−7>
熱可塑性加硫樹脂は、公知の方法によりエラストマー共重合体をブラベンダーミキサー中で動的加硫して調製した。動的加硫はプラチナ触媒の存在下で、数種類の異なる水素化ケイ素化剤を用いて行なった。
【0105】
構成成分は、100重量部のエラストマー共重合体(原料ゴムには100重量部のゴムと75重量部のオイルが含まれているが、このエラストマー共重合体の重量部はゴムのみの重量部である)と、50重量部の熱可塑性レジンと、100重量部のエラストマー共重合体に対しトータル125重量部のオイル[商品名ParaluxTM6001(Chevron社)のホワイトオイル30重量部、商品名SunparTM150Mのパラフィンオイル20重量部、油展原料ゴム中のパラフィンオイル75重量部]と、20重量部のクレイと、2重量部の酸化亜鉛とから成る。
【0106】
用いたエラストマー共重合体はエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体であり、商品名VistalonTM3666(ExxonMobil社)である。
このエラストマー共重合体は、ジエン含有量が約4.5wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約52(油展)、デカリン中の固有粘度が約4dl/g、重量平均分子量が約850kg/モル、数平均分子量が約170kg/モル、エチレン含有量が約64wt%、オイル含有量75phr(原料ゴムがオイルを含む場合でも、ゴム単独に対する重量部を意味する)である。
熱可塑性レジンはMFRが0.8dg/分であり、商品名PP5341TM(ExxonMobil社)である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
サンプル1−6の触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
サンプル7は、フェノール樹脂と、1.5重量部の塩化第一スズ二水和物とを併用して硬化させた。このフェノール樹脂の商品名はSPTM1045(Schenectady社、ニューヨーク)である。
【0107】
表1に、各サンプルに用いた水素化ケイ素化剤の種類と量(ゴム100重量部に対する重量部)と、各サンプルの物性評価結果を示す。
表の中では、この発明のに係る実施例は「I」で示し、比較例は「C」で示した。
【表1】

【0108】
全ての評価用サンプルは、圧縮成型で厚み2.00mmの平板を成型して調製した。
ショア硬度は、ISO 868および/またはASTM D-2240に準拠して5秒間で測定した。
引張り強さ、伸び、および100%モジュラスは、ASTM D-412に準拠し、インストロン引っ張り試験機を用いて23℃で測定した。
重量変化率は、ASTM D-471に準拠し、121℃で24時間経過した後測定した。
引張永久歪は、ASTM D-412に準拠し、空気循環オーブン中でサンプルを25%伸張させた状態で、70℃、22時間の条件で促進熱老化させて測定した。
圧縮永久歪は、ASTM D-395(B) に準拠し、100℃の温度下でサンプルを25%圧縮し、1週間経過後測定した。
【0109】
表1のデータから、この発明の水素化ケイ素化剤で調製した熱可塑性加硫樹脂は、従来の水素化ケイ素化剤で調製したサンプル(すなわちサンプル4−6)と比較して重量変化率が小さいことで示されるように、より効率的に硬化されていることで特徴付けられる。
また、フェノール樹脂で硬化された熱可塑性加硫樹脂(サンプル7)と比較した場合、この発明熱可塑性加硫樹脂は同等の硬化性を示し、色相に優れ(黄色みを帯びていない)、さらに非吸湿性である。
【0110】
<サンプル8−15>
8種類の加硫組成物を、ブラベンダーミキサー中で混合し、200℃のムービングダイレオメータ(Moving Die Rheometer)中で15分間硬化させて調製した。硬化または架橋の程度の指標となるトルクを測定し記録した。各表には、15分経過後のトルクを「最大トルク」として示した。
【0111】
加硫組成物には、100重量部のゴム(エクステンダーオイルを除く)と、20重量部のクレイ充填剤と、95重量部のオイル(75重量部のゴムのエクステンダーオイル、および20重量部の追添オイル)と、2重量部の酸化亜鉛とが含まれている。
加硫組成物にはさらに、二官能性水素化ケイ素化剤と、プラチナ触媒とが含まれている。
表2に、二官能性水素化ケイ素化剤と、プラチナ触媒の添加量を示す。
【0112】
用いたエラストマー共重合体はエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体であり、商品名VistalonTM3666(ExxonMobil社)である。
このエラストマー共重合体は、ジエン含有量が約4.5wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約52(油展)、デカリン中の固有粘度が約4dl/g、重量平均分子量が約850kg/モル、数平均分子量が約170kg/モル、エチレン含有量が約64wt%、オイル含有量75phr(原料ゴムがオイルを含む場合でも、ゴム単独に対する重量部を意味する)である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表2】

【0113】
表2に示す結果は、いずれのトルク値も低いことに表れているように、二官能性水素化ケイ素化剤は技術的に有意義なレベルまでゴムを架橋することができないことを示している。
【0114】
<サンプル16−21>
サンプル8−15と同様にして、さらに5種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
【0115】
これらのサンプルに用いた成分は、水素化ケイ素化剤を除き、サンプル8−15と同様である。
表3に、二官能性水素化ケイ素化剤と、プラチナ触媒の添加量を示す。
【表3】

【0116】
表3のデータは、従来用いられていた水素化ケイ素化剤と比較して、この発明の水素化ケイ素化剤により優れた硬化性が得られることを示している。
【0117】
<サンプル22−26>
サンプル16−21と同様にして、さらに5種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
加硫組成物は100重量部のゴムと、75重量部のオイルと、表4に示す硬化系とを含む。
【0118】
用いたエラストマー共重合体はエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体であり、商品名VistalonTM3666(ExxonMobil社)である。
このエラストマー共重合体は、ジエン含有量が約4.5wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約52(油展)、デカリン中の固有粘度が約4dl/g、重量平均分子量が約850kg/モル、数平均分子量が約170kg/モル、エチレン含有量が約64wt%、オイル含有量75phr(原料ゴムがオイルを含む場合でも、ゴム単独に対する重量部を意味する)である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表4】

【0119】
表4のデータは、従来用いられていた水素化ケイ素化剤の活性をこの発明の水素化ケイ素化剤と同レベルまで増加させたとしても、この発明の水素化ケイ素化剤の方が、より優れた硬化性を発現することを示している。
【0120】
<サンプル27−34>
サンプル22−26と同様にして、さらに8種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
加硫組成物は100重量部のゴムと、100重量部のホワイトオイルと、5重量部のクレイ充填剤と、2重量部の酸化亜鉛と、表5に示す硬化系とを含む。
【0121】
用いたエラストマー共重合体はエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体であり、ジエン含有量が約9.0wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約45(油展)、重量平均分子量が約504kg/モル、数平均分子量が約198kg/モル、エチレン含有量が約63wt%、ホワイトオイル含有量100phr(原料ゴムがオイルを含む場合でも、ゴム単独に対する重量部を意味する)である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表5】

【0122】
表5のデータもまた、この発明の水素化ケイ素化剤の方が従来のものより優れていることを示している。
このデータはさらに、この発明の水素化ケイ素化剤により、触媒の量が相対的に少ないときでも高度な硬化が得られることを示している。
さらに、このデータは相対的に高ENB含有量のゴムと、触媒性能に影響する不純物含有量が少ないと考えられるホワイトオイル(すなわちParaluxTM3001)とを用いることにより、優れた効果が得られることを示している。
【0123】
<サンプル33−37>
サンプル27−34と同様にして、さらに3種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
加硫組成物は、100重量部のゴムと、100重量部のホワイトオイルと、5重量部のクレイ充填剤と、2重量部の酸化亜鉛と、表6に示す硬化系とを含む。
【0124】
用いたゴムはエチレン、プロピレン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、および5−ビニル−2−ノルボルネンに由来するユニットを含む四元共重合体である。この四元共重合体は、5−エチリデン−2−ノルボルネン含有量が約4.1wt%、5−ビニル−2−ノルボルネン含有量が約0.3wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約52(油展)、デカリン中の固有粘度が約5.2dl/g、重量平均分子量が約737kg/モル、数平均分子量が約260kg/モル、エチレン含有量が約64wt%、オイル含有量100phr(原料ゴムがオイルを含む場合でもゴム単独に対する重量部を意味する)である。
この四元共重合体の商品名はKeltan TerpoTM(DSM社)である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表6】

【0125】
表6のデータは、この発明の水素化ケイ素化剤は、5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来する二重結合のように、立体障害のある二重結合でも効果的に硬化させることができることを示唆している。
公知のように、5−ビニル−2−ノルボルネンに由来する二重結合は、従来の水素化ケイ素化剤により有効に硬化させることができる。このことは、サンプル35のデータにより確認される。
サンプル36と37では、サンプル35と同一のゴムを用いているにも拘らず、この発明の水素化ケイ素化剤を用いることによりサンプル35より優れた硬化性が得られた。この優れた硬化性は、5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来する二重結合が架橋されたことに起因すると考えられる。
【0126】
<サンプル38−40>
サンプル35−37と同様にして、さらに3種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
加硫組成物は100重量部のゴムと、表7に示す硬化系とを含む。
【0127】
用いたゴムは、国際公開公報2005/0107534 Alと、米国特許第6,268,438 B1号に従って調製した、プロピレンベースのゴム状共重合体である。
このプロピレンベースのゴム状共重合体は、エチレン、プロピレン、および5−エチリデン−2−ノルボルネンを含むターポリマーである。
このターポリマーは、5−エチリデン−2−ノルボルネン含有量が約2.1wt%、数平均分子量が約69kg/モル、多分散性が約2.1、エチレン含有量が約15wt%である。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表7】

【0128】
表7のデータは、異なる種類のゴムであっても、この発明の水素化ケイ素化剤を用いることにより、従来の硬化剤と比較して優れた硬化性が得られることを示している。
さらに、この実施例に係る油展されていないゴムを用いた場合、本願発明によれば、相対的に少ない量の触媒存在下で硬化できることを示している。触媒が相対的に少ない量で済むのは、オイル残渣による触媒阻害がないためと思われる。
【0129】
<サンプル41−50>
サンプル8−15と同様にして、さらに10種類の加硫組成物を調製、硬化、分析し、硬化の有効性を評価した。
これらの加硫組成物は、100重量部のゴムと、ホワイトオイルと、表8に示す硬化系とを含む。
サンプル41−44には、第1ゴムが含まれている。この第1ゴムを、0.7%VNBゴムと言うことがある。
第1ゴムは、エチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体であり、ジエン含有量が約0.7wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約52(油展)、デカリン中の固有粘度が約5.0dl/g、重量平均分子量が約950kg/モル、数平均分子量が約120kg/モル、Mw/Mnが7.9、エチレン含有量が約63wt%、ホワイトオイル含有量100phr(原料ゴムがオイルを含む場合でも、ゴム単独に対する重量部を意味する)である。
サンプル45−50には第2ゴムが含まれている。この第2ゴムを、3%VNBゴムと言うことがある。
第2ゴムは、エチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体であり、
ジエン含有量が約3wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約35(油展)、デカリン中の固有粘度が約2.2dl/g、重量平均分子量が約870kg/モル、数平均分子量が約63kg/モル、Mw/Mnが14、エチレン含有量が約63wt%、ホワイトオイル含有量75phrである。
第1ゴムと第2ゴムは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて調製した。
サンプル45−50には、各サンプルが100重量部のホワイトオイルを含有するように、25重量部のホワイトオイルを追添した。
【表8】

【0130】
表8のデータは、ジエン含有量が増加すると、硬化性が向上することを示している。
【0131】
<サンプル51−55>
サンプル1−7と同様の原料成分と方法を用いて、水素化ケイ素化剤を用いて動的加硫することにより、さらに5種類の加硫組成物を調製した。
各サンプルに用いた水素化ケイ素化剤を含め、各サンプルに使用した原料成分、および、得られた熱可塑性加硫樹脂についての評価結果を表9に示す。
各サンプルに用いたゴムは、サンプル45−50と同様、3wt%のジエンを含むエチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体である。
動的加硫した後、安定剤および酸化防止剤を添加した。
また、動的加硫した後、20重量部のホワイトオイルを添加した。このホワイトオイルの商品名はPARALUXTM 6001(Chevron社)である。
熱可塑性レジンのMFRは0.7dg/分で、商品名は51SO7A(Sunoco社)である。
【表9】

【0132】
表9のデータは、この発明により、従来の水素化ケイ素化剤を用いた場合(すなわち、サンプル51と52)と比較して、圧縮永久歪において優れた熱可塑性加硫樹脂が得られることを示している。
また、表9のデータによれば、従来の水素化ケイ素化剤で十分硬化できると考えられていた炭素−炭素二重結合を含むゴムであっても、この発明により圧縮永久歪が改善されていることから、熱可塑性加硫樹脂の長期安定性が向上することが示唆される。
【0133】
<サンプル56−59>
サンプル1−7、および51−55と同様の原料成分と方法を用いて、さらに4種類の加硫組成物を調製し、評価した。
各サンプルで用いた硬化剤を含む原料成分、および熱可塑性加硫樹脂の物性を表10に示す。各サンプルに用いたゴムは、サンプル27−34に用いたものと同様の、ジエン含有量が約9%のエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体である。
前述のサンプルと同様、サンプル56と57の安定剤と酸化防止剤は、動的加硫の後に添加した。また、動的加硫後、20重量部のホワイトオイルを添加した。
【表10】

【0134】
表10のデータは、この発明により優れた圧縮永久歪を有する熱可塑性加硫樹脂が得られることを示している。
特に、この発明に係るサンプルの圧縮永久歪は、従来優れた圧縮永久歪が得られると考えられていたフェノール樹脂硬化剤を用いた熱可塑性加硫樹脂と比較して、改良されていることが認められる。
【0135】
<サンプル60−61>
サンプル51−55と同様の原料成分と方法を用いて、さらに2種類の加硫組成物を調製し、評価した。
サンプル60には、ジエン含有量が約4.7wt%、ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が約25、デカリン中の固有粘度が約2.4dl/g、重量平均分子量が約180kg/モル、数平均分子量が約60kg/モル、エチレン含有量が約57wt%で、油展されていないエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体が含まれている。
サンプル61には、サンプル38−40と同様のプロピレンベースのゴム状共重合体を用いた。
充填剤は無水ケイ酸アルミニウムであり、商品名ICECAPTMKである。
触媒には、シクロビニルシロキサン配位子を有する活性プラチナ2.2wt%の触媒を用いた。この触媒の商品名はPC085TMである。
【表11】

【0136】
表11のデータは、従来のオレフィン系エラストマーと、プロピレンベースのゴム状共重合体との、いずれを用いたときでも、この発明により技術的に有用な熱可塑性加硫樹脂を製造できることを示している。
【0137】
当業者であれば、この発明の範囲と思想を逸脱しない範囲で種々の改変を行なうことができることは明らかであろう。この発明は、ここに示した実施形態に限定されない。

1. 第1実施形態は、熱可塑性加硫樹脂を製造する方法であって、ゴムと熱可塑性レジンとを含むブレンド物中のゴムを動的加硫する工程を含み、動的加硫は水素化ケイ素化剤と触媒とを含む硬化系を用いて行なわれ、水素化ケイ素化剤は下式で表わされる少なくとも3つの水素化ケイ素基を備える化合物を含み、
【化14】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子が位置的に少なくとも原子6個離れていることを特徴とする方法である。

2. 各Rがそれぞれ独立してアルキル基から選択される第1実施形態の方法。

3. 水素化ケイ素化剤が下式で表わされ、
【化15】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基であり、αは少なくとも2つのSiH−を含む基が位置的に少なくとも原子6個離れている構造と成るために十分な数の原子を含む部位であり、xは3以上の整数である、第1または第2実施形態の方法。

4. 水素化ケイ素化剤が下式で表わされる置換基を少なくとも3つ備え、
【化16】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素であり、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基またはケイ素を含む基である、前記のいずれかの方法。

5. 水素化ケイ素化剤が下式で表わされる置換基を備える、前記のいずれかの方法。
【化17】

6. 水素化ケイ素化剤中のケイ素原子の20%未満が、下式で表わされる置換基中にあり、
【化18】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、前記のいずれかの方法。

7. 水素化ケイ素化剤が、下式で表わされる置換基中にあるケイ素原子を実質的に備えておらず、
【化19】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、第2実施形態の方法。

8. 水素化ケイ素化剤が、下式で表わされる置換基中にあるケイ素原子を備えておらず、
【化20】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、第2実施形態の方法。

9. 触媒が第XIII族金属を含む、前記のいずれかの実施形態の方法。

10. 触媒が、塩化プラチナ酸、プラチナ元素、塩化プラチナ酸ヘキサハイドレート、塩化プラチナ酸とsym−ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体、ジクロロ−ビス(トリフェニルホスフィン)プラチナ(II)、cis−ジクロロ−ビス(アセトニトリル)プラチナ(II)、ジカルボニルジクロロプラチナ(II)、塩化プラチナ、酸化プラチナ、ゼロ価のプラチナ金属錯体、担体に担持された固形プラチナ、プラチナ−ビニルシロキサン錯体、プラチナ−ホスフィン錯体、プラチナ−ホスファイト錯体、RhCl(PPh3)3、RhCl3、Rh/Al2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4、およびこれらの組合せからなる群から選択される、第9実施形態の方法。

11. 水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約0.7:1から約10:1である、前記のいずれかの実施形態の方法。


12. 水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約0.95:1から約7:1である、第11実施形態の方法。

13. 水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約1.5:1から約4:1である、第11実施形態の方法。

14. 触媒の添加量が、ゴム100重量部に対し、約0.00007重量部から約0.01重量部である、前記のいずれかの実施形態の方法。

15. ゴムが、1以上の5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来するユニットを含有するオレフィン系エラストマーコポリマーを含む、前記のいずれかの実施形態の方法。

16. オレフィン系エラストマーコポリマーが、少なくとも3wt%の5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来するユニットを含有する、請求項15の方法。

17. 前記のいずれかの方法で製造された熱可塑性加硫樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性加硫樹脂を製造する方法であって、ゴムと熱可塑性レジンとを含むブレンド物中のゴムを動的加硫する工程を含み、動的加硫は水素化ケイ素化剤と触媒とを含む硬化系を用いて行なわれ、水素化ケイ素化剤は下式で表わされる少なくとも3つの水素化ケイ素基を備える化合物を含み、
【化1】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機基または水素であり、各水素化ケイ素基のケイ素原子が位置的に少なくとも原子6個離れていることを特徴とする方法。
【請求項2】
各Rがそれぞれ独立してアルキル基から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水素化ケイ素化剤が下式で表わされ、
【化2】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基であり、αは少なくとも2つのSiH−を含む基が位置的に少なくとも原子6個離れている構造と成るために十分な数の原子を含む部位であり、xは3以上の整数である、請求項1または請求項に記載の方法。
【請求項4】
水素化ケイ素化剤が下式で表わされる置換基を少なくとも3つ備え、
【化3】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素であり、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基またはケイ素を含む基である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水素化ケイ素化剤が下式で表わされる置換基を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【化4】

【請求項6】
水素化ケイ素化剤中のケイ素原子の20%未満が、下式で表わされる置換基中にあり、
【化5】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水素化ケイ素化剤が、下式で表わされる置換基中にあるケイ素原子を実質的に備えておらず、
【化6】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
水素化ケイ素化剤が、下式で表わされる置換基中にあるケイ素原子を備えておらず、
【化7】

ここで、各Rはそれぞれ独立して1価の有機置換基または水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
触媒が第XIII族金属を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
触媒が、塩化プラチナ酸、プラチナ元素、塩化プラチナ酸ヘキサハイドレート、塩化プラチナ酸とsym−ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体、ジクロロ−ビス(トリフェニルホスフィン)プラチナ(II)、cis−ジクロロ−ビス(アセトニトリル)プラチナ(II)、ジカルボニルジクロロプラチナ(II)、塩化プラチナ、酸化プラチナ、ゼロ価のプラチナ金属錯体、担体に担持された固形プラチナ、プラチナ−ビニルシロキサン錯体、プラチナ−ホスフィン錯体、プラチナ−ホスファイト錯体、RhCl(PPh3)3、RhCl3、Rh/Al2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約0.7:1から約10:1である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約0.95:1から約7:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水素化ケイ素化剤中の水素化ケイ素化基の等量と、ゴム中のビニル二重結合の等量との比が約1.5:1から約4:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
触媒の添加量が、ゴム100重量部に対し、約0.00007重量部から約0.01重量部である、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ゴムが、1以上の5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来するユニットを含有するオレフィン系エラストマーコポリマーを含む、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
オレフィン系エラストマーコポリマーが、少なくとも3wt%の5−エチリデン−2−ノルボルネンに由来するユニットを含有する、請求項15の方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の方法で製造された熱可塑性加硫樹脂。

【公表番号】特表2010−506972(P2010−506972A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532491(P2009−532491)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/078656
【国際公開番号】WO2008/060749
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(591162239)アドバンスド エラストマー システムズ,エル.ピー. (14)
【住所又は居所原語表記】388 South Main Street,Akron,Ohio 44311−1059,United Stetes of America
【Fターム(参考)】