説明

水素化ニトリルゴム組成物

【課題】水素化ニトリルゴムが本来有する機械的強度や耐油性を殆ど損なうことなく、その耐熱性をさらに改善せしめた水素化NBR組成物を提供する。
【解決手段】水素化ニトリルゴム100重量部当り、瀝青質微粉末10〜130重量部、有機過酸化物1〜10重量部および多官能性不飽和化合物1〜10重量部を含有してなる水素化ニトリルゴム組成物。この水素化ニトリルゴム組成物は、空気加熱老化後の硬さ変化、引張り強さ変化率、伸び変化率によって示される耐熱性に加え、圧縮永久歪においても、優れた特性を有しているものであり、このような水素化ニトリルゴム組成物から成形されたシール材料は、自動車のエンジン、コンプレッサ等に用いられるOリング、メカニカルシール、ガスケット、パッキンなどの厳しい耐熱性が要求されるシール部品として有効に用いられる。また、炭酸ガス用シール部品としても用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ニトリルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、耐熱性、耐圧縮永久歪特性にすぐれた水素化ニトリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化ニトリルゴムは、本来有する優れた耐熱性、耐オゾン性、耐油性などにより各種シール材料として幅広く用いられている。近年、機器類の高性能化、小型・軽量化に伴う使用環境の高温化によって、さらなる耐熱性向上が求められつつある。
【0003】
かかる要求を満足すべく、出願人は先に、水素化ニトリルゴムに比表面積が約20〜200 m2/gのホワイトカーボンおよび有機過酸化物を含有せしめることによって、水素化ニトリルゴムが本来有する機械的強度や耐油性を殆ど損なうことなく、その耐熱性を改善せしめた水素化ニトリルゴム組成物を提案している。しかるに、この組成物は、所望の目的は達成させるものの、圧縮永久歪の点でさらなる改善が求められるものであった。
【特許文献1】特開平9−3246号公報
【0004】
一方、特許文献2には、水素化ニトリルゴムにオースチンブラック、天然マイカを配合したニトリルゴム系成形材料が提案されている。この水素化ニトリルゴム組成物は、炭酸ガスに対するガスシール性には優れているものの、耐圧縮永久歪特性の点で改良を要するものであった。
【特許文献2】特開2003−119320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水素化ニトリルゴムが本来有する機械的強度や耐油性を殆ど損なうことなく、その耐熱性をさらに改善せしめた水素化NBR組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、水素化ニトリルゴム100重量部当り、瀝青質微粉末10〜130重量部、有機過酸化物1〜10重量部および多官能性不飽和化合物1〜10重量部を含有してなる水素化ニトリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水素化ニトリルゴム組成物は、空気加熱老化後の硬さ変化、引張り強さ変化率、伸び変化率によって示される耐熱性に加え、圧縮永久歪においても、優れた特性を有しているものであり、このような水素化ニトリルゴム組成物から成形されたシール材料は、自動車のエンジン、コンプレッサ等に用いられるOリング、メカニカルシール、ガスケット、パッキンなどの厳しい耐熱性が要求されるシール部品として有効に用いられる。また、炭酸ガス用シール部品としても用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
水素化ニトリルゴムとしては、上市されているものであれば結合アクリロニトリル量、ヨウ素価、ムーニー粘度のいずれにあっても特に制限なく使用することができる。例えば、日本ゼオン製品ゼットポールシリーズなどをそのまま用いることが可能であり、耐寒性、耐油性等の各用途に応じて選択することができる。
【0009】
瀝青質微粉末としては、石炭を粉砕し、平均粒径10μm以下、通常1〜10μm、好ましくは3〜8μmに微粉末化したものであって、比重1.25〜1.45のものが用いられる。平均粒径がこれより大きいものでは、十分な補強性が得られなくなる。
【0010】
このような瀝青質微粉末は、水素化ニトリルゴム100重量部当り10〜130重量部、好ましくは30〜120重量部の割合で用いられる。瀝青質微粉末がこれより少ない割合で用いられると、所望の耐熱性の効果を得ることができず、一方これより多い割合で用いられると、ゴム成分の減少により、混練、成形が困難となる。
【0011】
以上の各成分からなる水素化ニトリルゴム組成物は、有機過酸化物を用いて過酸化物架橋される。有機過酸化物としては、例えばジ第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4′-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が、水素化ニトリルゴム100重量部当り約1〜10重量部、好ましくは約2〜8重量部の割合で用いられる。有機過酸化物がこれより少ない割合で用いられると、十分な架橋密度の加硫成形物を得ることができず、一方これ以上の割合で用いられると、発泡により加硫成形物が得られなかったり、成形物が得られた場合であっても、ゴム弾性の低下あるいは伸びの低下が起こるようになって好ましくない。
【0012】
有機過酸化物架橋に際しては、多官能性不飽和化合物が共架橋剤として併用される。これは、一般に水素化ニトリルゴムに使用可能なものであれば特に制限なく使用することが可能であり、例えばトリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート、N,N-m-フェニレンビスマレイミド、ブタジエンオリゴマー等が用いられる。これらの多官能性不飽和化合物は、水素化ニトリルゴム100重量部当り1〜10重量部、好ましくは3〜8重量部の割合で用いられる。多官能性不飽和化合物がこれより少ない割合で用いられると、十分な耐熱性の改善がみられず、一方これより多い割合で用いられると、発泡により加硫成形物が得られなかったり、成形物が得られた場合であっても、ゴム弾性の低下あるいは伸びの低下が起こるようになって好ましくない。
【0013】
以上の必須成分に加えて、組成物中にはカーボンブラック、ホワイトカーボンなどの補強剤、タルク、クレー、グラファイト、ケイ酸カルシウムなどの充填剤、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、老化防止剤、可塑剤などゴム工業で一般的用いられる各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0014】
ゴム組成物の調製は、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサなどの混練機またはオープンロールなどを用いて混練することによって行われ、その加硫は、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレスなどを用いて、一般に約150〜200℃、約3〜60分程度加熱することによって行われ、必要に応じて約100〜200℃、約0.5〜24時間の二次加硫が行われる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例
水素添加ニトリルゴム(日本ゼオン製品ゼットポール1020) 100重量部
瀝青質微粉末(Keystone Filler & Mfg製品Mineral Black 325BA 60 〃
平均粒径6μm)
N990カーボンブラック 10 〃
トリアリルイソシアヌレート 5 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 1 〃
ジフェニルアミン系老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックCD) 1 〃
イミダゾール系老化防止剤(同社製品ノクラックMBZ) 1 〃
ジクミルパーオキサイド 3 〃
以上の各成分をニーダおよびオープンロールで混練し、これを170℃で20分間プレス架橋して、150×150×2mmの加硫シートおよびP-24サイズのOリングを成形した。
【0017】
比較例1
実施例において、トリアリルイソシアヌレートが用いられなかった。
【0018】
比較例2
実施例1において、トリアリルイソシアヌレート、瀝青質微粉末およびN990カーボンブラックの代わりに、湿式法ホワイトカーボン(比表面積:80m2/g)55重量部およびビニル系シランカップリング剤(日本ユニカー製品A-172)1重量部が用いられた。
【0019】
比較例3
実施例1において、瀝青質微粉末量を5重量部に、N990カーボンブラック量を80重量部にそれぞれ変更して用いられた。
【0020】
比較例4
実施例1において、瀝青質微粉末量を150重量部に変更し、N990カーボンブラックを用いなかったところ、配合物の粘度が高すぎたため、混練が不可であった。
【0021】
比較例5
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が0.5重量部に変更されて用いられたところ、十分な架橋密度を得ることができず、正常な試験片が得られなかった。
【0022】
比較例6
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が12重量部に変更されて用いられたところ、加硫発泡し、正常な試験片が得られなかった。
【0023】
比較例7
実施例1において、トリアリルイソシアヌレート量が0.5重量部に変更されて用いられた。
【0024】
比較例8
実施例1において、トリアリルイソシアヌレート量が12重量部に変更されて用いられたところ、加硫発泡し、正常な試験片が得られなかった。
【0025】
以上の実施例および比較例1、2、3、7で得られた加硫シートを用い、常態物性および空気加熱老化試験を、またOリングについて圧縮永久歪試験をそれぞれ行った。
常態物性:JIS K6253、K6251準拠
空気加熱老化試験:JIS K6257準拠
圧縮永久歪試験:JIS K6262準拠
【0026】
得られた結果は、次の表に示される。

比較例
測定項目 実施例
常態物性
硬さ (デュロメータA) 80 81 80 80 80
引張り強さ (MPa) 16.2 13.5 22.0 17.5 13.6
伸び (%) 530 500 450 380 520
空気加熱老化試験(150℃、70時間)
硬さ変化 (ポイント) +1 +1 +3 +4 +2
引張り強さ変化率(%) +2 +0 +6 +9 +1
伸び変化率 (%) -28 -31 -19 -12 -28
空気加熱老化試験(150℃、168時間)
硬さ変化 (ポイント) +3 +3 +4 +5 +3
引張り強さ変化率(%) +3 -2 +17 +7 +2
伸び変化率 (%) -45 -42 -27 -20 -38
空気加熱老化試験(150℃、336時間)
硬さ変化 (ポイント) +5 +5 +7 +8 +5
引張り強さ変化率(%) +2 +3 +34 +17 +0
伸び変化率 (%) -58 -61 -42 -39 -60
空気加熱老化試験(150℃、500時間)
硬さ変化 (ポイント) +6 +6 +7 +9 +6
引張り強さ変化率(%) +0 -1 +36 +26 +3
伸び変化率 (%) -66 -72 -60 -56 -70
圧縮永久歪試験(150℃)
70時間後 (%) 28 31 38 39 31
168時間後 (%) 34 38 50 59 37
336時間後 (%) 42 47 63 73 47
500時間後 (%) 49 55 74 80 56

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴム100重量部当り、瀝青質微粉末10〜130重量部、有機過酸化物1〜10重量部および多官能性不飽和化合物1〜10重量部を含有してなる水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
瀝青質微粉末が平均粒径10μm以下の石炭微粉末である請求項1記載の水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項3】
シール材の成形材料として用いられる請求項1または2記載の水素化ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項3記載の水素化ニトリルゴム組成物を架橋成形して得られたシール材。

【公開番号】特開2006−213743(P2006−213743A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24876(P2005−24876)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】