説明

水素化天然ゴムの製造方法、および水素化天然ゴムを用いたゴム部材

【課題】 水素添加率を制御可能な水素化天然ゴムの製造方法を提供する。また、水素化天然ゴムを用いて、耐熱性に優れたゴム部材を提供する。
【解決手段】 水素化天然ゴムの製造方法を、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴムのラテックスに、水素化触媒を添加する水素化触媒添加工程と、該水素化触媒が添加された該ラテックスに、水素を反応させて、該天然ゴムまたは該脱蛋白質化天然ゴム中の炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化させる水素化工程と、を有するように構成し、該水素化触媒として、塩化パラジウムが王水に溶解された塩化パラジウム王水溶液を使用する。また、当該製造方法により得られた水素化天然ゴムを含むゴム組成物を架橋して、ゴム部材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムの炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化して得られる水素化天然ゴムの製造方法、および水素化天然ゴムを含むゴム組成物を架橋してなるゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ない等の優れた性質を有している。このため、従来より、タイヤ、ベルト等の種々のゴム製品に用いられている。また、地球温暖化の一因である二酸化炭素の排出規制、石油資源の枯渇問題等の観点から、合成ゴムの代替材料として、天然ゴムが見直されている。しかしながら、天然ゴムには、合成ゴムと比較して、耐熱性 耐油性、耐オゾン性等が劣るという課題がある。
【0003】
例えば、自動車分野においては、低燃費化や排ガス規制対策等に伴って、エンジンルーム内が高温化する傾向にある。このため、エンジンマウント等に用いられる防振ゴム材料には、より高温環境下での使用に耐えられるように、高い耐熱性が要求される。したがって、天然ゴムを防振ゴム材料として用いるためには、耐熱性等の物性を向上させなければならない。
【0004】
天然ゴムの特性を生かしつつ、物性の向上を図る方法として、例えば、グラフト化、エポキシ化、水素化等による天然ゴムの改質が知られている(例えば、特許文献1〜4、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−277343号公報
【特許文献2】特開2008−184572号公報
【特許文献3】特開2008−308601号公報
【特許文献4】特開2006−131807号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石塚幸士朗、他三名、“天然ゴムラテックスの水素化”、「Polymer Preprints, Japan」(高分子学会予稿集)、2008年、Vol.57、No.1、3Pc157
【非特許文献2】井上眞一、他三名、“水素添加天然ゴムの合成”、「Polymer Preprints, Japan」(高分子学会予稿集)、2007年、Vol.56、No.2、2Pa035
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
天然ゴムを水素化する場合、従来の方法によると、水素添加率(天然ゴム中の炭素−炭素二重結合の水素添加された割合)を制御することが難しい。このため、なかなか狙い通りの水素添加率の水素化天然ゴムを得られない、という問題がある。したがって、水素化天然ゴムと水素化されていない天然ゴムとをブレンドして、あるいは、水素添加率の異なる複数の水素化天然ゴムをブレンドして、耐熱性等の物性の向上を図っている。しかし、両者の相溶性は良好とはいえないため、ブレンドによる物性の向上効果は小さい。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、水素添加率を制御可能な水素化天然ゴムの製造方法を提供することを課題とする。また、当該製造方法により得られた水素化天然ゴムを用いて、耐熱性に優れたゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明者は、従来の方法において水素添加率を制御することが難しい理由を、次のように考察した。すなわち、上記特許文献4、および非特許文献1、2に記載されているように、天然ゴムラテックスを用いた水素添加反応においては、水素化触媒として、固体の塩化パラジウムを水に溶解させた塩化パラジウム水溶液が用いられる。あるいは、固体の塩化パラジウムを塩酸に溶解させた塩化パラジウム塩酸溶液が用いられる。いずれの溶液においても、塩化パラジウムを完全に溶解させることは難しい。このため、溶解の程度により、溶液中には、塩化パラジウム(PdCl)と四塩化パラジウムイオン([PdCl2−)とが混在することになる。つまり、水素添加反応ごとに、塩化パラジウムの溶解状態が異なってしまう。
【0010】
塩化パラジウムの溶解状態が異なると、その後の還元により生成されるパラジウム粒子(Pd粒子)の粒子径のばらつきが大きくなる。具体的には、PdClを経て生成されるPd粒子の粒子径は、[PdCl2−を経て生成されるPd粒子よりも、大きくなると考えられる。水素添加反応は、Pd粒子の粒子径が小さいほど、速く進むと推測される。したがって、Pd粒子の粒子径のばらつきが大きく、そのばらつきが、水素添加反応ごとに異なると、同じ条件下で水素添加反応を行っても、反応速度が変化してしまう。その結果、得られる水素化天然ゴムの水素添加率がばらついてしまう。
【0011】
このような知見に基づいてなされた本発明の水素化天然ゴムの製造方法は、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴムのラテックスに、水素化触媒を添加する水素化触媒添加工程と、該水素化触媒が添加された該ラテックスに、水素を反応させて、該天然ゴムまたは該脱蛋白質化天然ゴム中の炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化させる水素化工程と、を有し、該水素化触媒は、塩化パラジウムが王水に溶解された塩化パラジウム王水溶液であることを特徴とする。
【0012】
本発明の水素化天然ゴムの製造方法によると、水素化触媒として、塩化パラジウムが王水に溶解された塩化パラジウム王水溶液を使用する。王水は、濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した液体である。王水を溶媒とすることで、固体の塩化パラジウムを、完全に溶解することができる。したがって、塩化パラジウム王水溶液中には、塩化パラジウムが、四塩化パラジウムイオン([PdCl2−)として存在する。つまり、塩化パラジウムの溶解状態を、安定させることができる。
【0013】
塩化パラジウムの溶解状態が安定化することにより、その後の還元により生成されるPd粒子の粒子径のばらつきは、小さくなる。したがって、Pd粒子の粒子径を調整することにより、水素添加反応の反応速度を制御することができる。その結果、所望の水素添加率の水素化天然ゴムを、製造することができる。
【0014】
(2)また、本発明のゴム部材は、上記本発明の水素化天然ゴムの製造方法により製造された水素化天然ゴムを含むゴム組成物を架橋してなる。
【0015】
上述したように、本発明の水素化天然ゴムの製造方法によると、所望の水素添加率の水素化天然ゴムを、容易に得ることができる。したがって、用途に応じて、好適な水素添加率の水素化天然ゴムを含んでゴム組成物を調製し、当該ゴム組成物を成形、架橋することにより、所望の物性を有するゴム部材を得ることができる。例えば、耐熱性が高い水素化天然ゴムを用いた本発明のゴム部材は、自動車等に用いられる防振部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水素添加反応時間に対する水素添加率の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1〜4の水素化天然ゴムにおける、水素添加反応時間と水素添加率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の水素化天然ゴムの製造方法およびゴム部材の実施形態について説明する。なお、本発明の水素化天然ゴムの製造方法およびゴム部材は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
<水素化天然ゴムの製造方法>
本発明の水素化天然ゴムの製造方法は、水素化触媒添加工程と、水素化工程と、を有している。まず、水素化触媒添加工程について説明する。本工程においては、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴムのラテックス(以下、適宜「ラテックス」と称す)に、水素化触媒を添加する。
【0019】
本工程においては、天然ゴムラテックス、蛋白質を除去した脱蛋白質化天然ゴムラテックスのいずれを使用してもよい。天然ゴムラテックスとしては、例えば、フィールドラテックス、市販のアンモニア処理ラテックス等を使用すればよい。ラテックスのゴム分(乾燥ゴム質量、以下同じ)濃度は、特に限定されるものではない。例えば、水素化天然ゴムの生産性を考慮すると、ラテックスのゴム分濃度は、6質量%以上であることが望ましい。18質量%以上であるとより好適である。一方、ラテックスのゴム分濃度が高くなると、凝集しやすくなる。よって、ゴム分濃度は、60質量%以下であることが望ましい。
【0020】
また、ラテックスを安定化して水素添加反応を進めやすくするために、ラテックスに、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、およびノニオン界面活性剤のいずれも使用することができる。アニオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩型、イミダゾリニウム塩型等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンエーテル系、多価アルコール脂肪酸エステル系等が挙げられる。
【0021】
水素化触媒としては、塩化パラジウム王水溶液を使用する。塩化パラジウム王水溶液は、塩化パラジウムを王水に溶解させて調製すればよい。塩化パラジウム王水溶液の塩化パラジウム濃度は、特に限定されるものではない。例えば、水素添加反応の速度を考慮すると、塩化パラジウム濃度は、0.1mol/L以上であることが望ましい。一方、塩化パラジウムの溶解度を考慮すると、塩化パラジウム濃度は、6mol/L以下であることが望ましい。また、塩化パラジウム王水溶液の添加量は、濃度により適宜調整すればよい。例えば、ラテックスのゴム分100質量部に対して、塩化パラジウムが0.01質量部以上1質量部以下となるように添加することが望ましい。
【0022】
水素化触媒を添加した後、ゴムの凝固を抑制するために、ラテックスのpHを中性付近に調整することが望ましい。具体的には、アルカリ水溶液を添加して、ラテックスのpHを5〜7程度に調整するとよい。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等が好適である。ラテックス中の四塩化パラジウムイオン([PdCl2−)は、添加されたアルカリ水溶液と反応して、水酸化パラジウム(Pd(OH))になる。
【0023】
アルカリ水溶液の濃度については、塩化パラジウム王水溶液の濃度等に応じて、ラテックスのpHを中性付近に調整できるように決定すればよい。例えば、塩化パラジウム王水溶液の濃度が3mol/L前後であって、水酸化ナトリウム水溶液を添加する場合には、その濃度を0.1mol/L以上6mol/L以下とするとよい。1mol/L以上3mol/L以下とすると、より好適である。
【0024】
また、後の実施例で示すように、アルカリ水溶液の濃度や添加速度により、水素添加反応の進み方が変化する。上述したように、水素添加反応の速度は、Pd粒子の粒子径に依存すると考えられる。Pd粒子は、アルカリ水溶液の添加により生成される水酸化パラジウム(Pd(OH))粒子が、水素添加反応の際に還元されることにより、生成される。よって、Pd(OH)粒子の粒子径が小さければ、生成されるPd粒子の粒子径も小さくなる。
【0025】
例えば、アルカリ水溶液の添加速度を小さくする、つまり、アルカリ水溶液をゆっくり添加すると、生成される水酸化パラジウム粒子の粒子径は、小さくなる傾向にある。したがって、アルカリ水溶液の添加速度を小さくすることにより、Pd粒子の粒子径を小さくし、結果的に、水素添加反応の速度を向上させることができる。例えば、上記0.1mol/L以上6mol/L以下の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、所望の反応速度を実現するためには、添加速度を0.05g/10秒以上0.05g/3秒(約0.17g/10秒)以下とすることが望ましい。
【0026】
次に、水素化工程について説明する。本工程においては、先の水素化触媒添加工程において調製されたラテックスに、水素を反応させて、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴム中の炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化させる。すなわち、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴムの水素添加反応を行う。
【0027】
水素化触媒が添加されたラテックスに水素を反応させると、Pd(OH)粒子が還元されて、Pd粒子になる。生成されたPd粒子を触媒として、天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴム中の炭素−炭素二重結合が、水素化される。炭素−炭素二重結合の全部を水素化してもよく(水素添加率100%)、その一部を水素化するだけでもよい。
【0028】
水素添加反応は、水素の存在下で行えばよく、バッチ式、セミバッチ式、連続式、のいずれを採用してもよい。例えば、ラテックス中に水素をバブリングさせる等、水素を供給しながら行うことができる。
【0029】
実用的な速度で水素添加反応を進行させるためには、反応温度を、25℃以上とすることが望ましい。60℃以上とするとより好適である。一方、反応温度が高すぎると、ラテックスが凝固したり、ゴムの低分子量化を招くおそれがある。したがって、反応温度を、90℃以下とすることが望ましい。80℃以下とするとより好適である。反応時間については、反応温度、反応圧力等に応じて、所望の水素添加率を得られるように、適宜調整すればよい。
【0030】
水素添加率は、製造される水素化天然ゴムの用途等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、防振ゴム材料として用いる場合には、水素添加率を1%以上98%以下とすることが望ましい。なお、水素添加率については、H−NMR測定等により求めればよい。
【0031】
水素化工程の後には、ラテックスから触媒を除去することが望ましい。触媒の除去は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、水素添加反応後のラテックスに、過酸化水素等の酸化剤を添加して、Pd粒子を酸化させる(Pd+H+2H→Pd2++2HO)。次に、ジメチルグリオキシム等を添加して、Pd2+との錯体を形成させる。そして、静置後、ろ過等の手段により、錯体を除去する。触媒を除去した後、ろ液(ラテックス)から水素化天然ゴムを析出させて、さらに乾燥させることにより、水素化天然ゴムを得ることができる。
【0032】
<ゴム部材>
本発明のゴム部材は、上記本発明の水素化天然ゴムの製造方法により製造された水素化天然ゴムを含むゴム組成物を架橋してなる。ゴム組成物には、必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の配合剤を配合すればよい。まず、水素化天然ゴム、配合剤等を、ロールや混練機により混練りして、ゴム組成物を調製する。次に、調製したゴム組成物を、所定の形状に成形して、架橋する。こうすることにより、本発明のゴム部材を製造することができる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0034】
<塩化パラジウムの溶解状態と水素添加率との関係>
水素化触媒の塩化パラジウム溶液の種類を変えて、塩化パラジウムの溶解状態により水素添加率がどのように変化するのかを検討した。
【0035】
[脱蛋白質化天然ゴムラテックスの製造]
次のようにして、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを製造した。天然ゴムラテックスとしては、VON社製のハイアンモニアラテックス(ゴム分濃度60質量%)を使用した。まず、ハイアンモニアラテックスを、ゴム分濃度が30質量%となるように希釈した。次いで、希釈したラテックスのゴム分100質量部に対して、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS:アニオン系界面活性剤)1.0質量部を添加し、ラテックスを安定させた。次に、ラテックスのゴム分100質量部に対して、尿素0.1質量部を添加し、室温で10分間、回転速度200rpmで攪拌することにより、蛋白質分解処理を行った。その後、蛋白質分解処理が完了したラテックスを、回転速度8000rpmで45分間、遠心分離処理した。分離された上層を取り出して、上記同様に、遠心分離処理を二回行った。最後に得られた上層のクリーム分に、SDSを0.03質量部添加して、室温で30分間、回転速度300rpmで攪拌して、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得た。
【0036】
[水素化天然ゴムの製造]
水素化触媒として三種類の塩化パラジウム溶液を使用して、製造した脱蛋白質化天然ゴムラテックスに対する水素添加反応を行った。塩化パラジウム溶液としては、以下の触媒(a)〜(c)を使用した。なお、溶解日数とは、塩化パラジウムを溶媒(塩酸)に溶解させた日数である。
触媒(a):塩化パラジウム王水溶液(2.8mol/L;石福金属興業(株)製)
触媒(b):塩化パラジウム塩酸溶液(1mol/L、溶解日数1日)
触媒(c):塩化パラジウム塩酸溶液(同上、溶解日数5日)
まず、脱蛋白質化天然ゴムラテックスに蒸留水を添加して、ゴム分濃度が18質量%となるように希釈した。次に、希釈したラテックスを回転速度200rpmで攪拌しながら、当該ラテックスに、SDSを、ラテックスのゴム分100質量部に対して0.03質量部添加した。続いて、ラテックスに、上記(a)〜(c)の塩化パラジウム溶液を、各々滴下した。(a)〜(c)のいずれについても、ラテックスのゴム分100質量部に対して、0.57質量部滴下した。それから、ラテックスに、水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L)を、添加速度0.05g/3秒で添加して、ラテックス中のpHを約6に調整した。そして、ラテックスを温浴中にて約70℃まで加熱した。
【0037】
次に、ラテックス中に、水素を流量0.1L/分にてバブリングさせて、水素添加反応を所定時間行った。水素添加反応を終えた後、ラテックスを約40℃まで降温し、過酸化水素を添加して、1時間攪拌した。続いて、ジメチルグリオキシムを添加して、1時間攪拌した。その後、室温で12時間静置して、固形分(水素化触媒)をろ別した。そして、得られたろ液を乾燥させて、水素化天然ゴムを得た。得られた水素化天然ゴムについて、H−NMR測定を行い、水素添加率を算出した。H−NMR測定は、バリアン社製のNMR装置「INOVA−400」を用いて行った。
【0038】
[水素化天然ゴムの水素添加率]
製造した水素化天然ゴムについて、使用した触媒(a)〜(c)ごとに、水素添加反応時間に対する水素添加率の関係を調べた。結果を、図1に示す。
【0039】
図1に示すように、水素化触媒の溶媒の種類や、溶解日数が異なることにより、同じ条件で水素化添加反応を行っても、水素添加率が異なることがわかる。例えば、塩酸を溶媒とした触媒(b)、(c)を使用した場合には、塩化パラジウムの溶解日数が異なるだけで、同じ時間水素と反応させても、得られる水素化天然ゴムの水素添加率が変化した。この理由は、溶解日数により、塩化パラジウムの溶解状態が異なるため、同じ条件下で水素添加反応を行っても、反応速度に差が生じたためと考えられる。このように、従来の水素化触媒を用いると、水素添加率を制御することは難しい。
【0040】
<塩化パラジウム王水溶液を用いた水素化天然ゴムの製造>
上記触媒(a)の塩化パラジウム王水溶液を使用して、上記製造方法において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度または添加速度を変更して、さらに三種類の水素化天然ゴムを製造した。製造した合計四種類の水素化天然ゴムを、実施例1〜4とした。表1に、実施例1〜4の水素化天然ゴムについて、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、添加速度、および水素添加反応開始から3.4時間後の水素添加率を示す。また、図2に、実施例1〜4の水素化天然ゴムにおける、水素添加反応時間と水素添加率との関係を示す。
【表1】

【0041】
図2に示すように、塩化パラジウム王水溶液を使用した場合には、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、添加速度を調整することにより、水素添加率を制御できることがわかる。
【0042】
また、水酸化ナトリウム水溶液の添加速度が小さい、つまり、水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり添加した実施例4については、同じ濃度の実施例1と比較して、反応速度が大きくなった。この理由は、次のように考えられる。すなわち、水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり添加すると、生成される水酸化パラジウム粒子の粒子径が、小さくなる。水酸化パラジウム粒子は、水素添加反応時に還元されて、Pd粒子となる。つまり、水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり添加すると、Pd粒子の粒子径が小さくなる。その結果、水素添加反応の速度が向上する。
【0043】
<水素化天然ゴムの耐熱性評価>
上記触媒(a)の塩化パラジウム王水溶液を使用して製造された、五種類の水素添加率(19%、33%、51%、72%、98%)の水素化天然ゴムについて、耐熱性を評価した。まず、各々の水素化天然ゴムについて、JIS K 6251(2004)に準じた引張試験を行い、引張強さ(TS)、および切断時伸び(E)を測定した。引張試験には、ダンベル状7号形の試験片を使用した。次に、各試験片を、120℃下で72時間保持して熱老化させた。その後、同様に引張試験を行い、引張強さ(TS)、および切断時伸び(E)を測定した。そして、72時間熱老化させた後の、TS、Eの変化率を、次式(1)、(2)により算出した。
TS変化率(%)=[(熱老化後のTS)−(初期のTS)]/[初期のTS]×100・・・(1)
変化率(%)=[(熱老化後のE)−(初期のE)]/[初期のE]×100・・・(2)
表2に、各々の水素化天然ゴムにおける、初期(熱老化前)のTS、E、および72時間熱老化させた後のTS、Eの変化率を示す。
【0044】
また、比較のため、天然ゴム(NR)、脱蛋白質化天然ゴム(DPNR)、およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)についても、上記同様の試験を行い、TS、Eの変化率を算出した。これらの結果を、表3に示す。なお、比較のために使用した材料については、以下の通りである。
天然ゴム:RSS(Ribbed Smoked Sheet)。
脱蛋白質化天然ゴム:本実施例で製造した脱蛋白質化天然ゴムラテックスから製造した。
EPDM:住友化学(株)製「エスプレン(登録商標)E505」。
【表2】

【表3】

【0045】
表2、表3に示すように、天然ゴム、脱蛋白質化天然ゴムについては、熱老化により、引張強さおよび切断時伸びが、著しく低下した。これに対して、本発明の製造方法により製造された水素化天然ゴムについては、いずれもEPDMと同等以上の引張強さを有していた。また、切断時伸びについても、天然ゴム、脱蛋白質化天然ゴムと比較して、改善が見られた。特に、水素添加率が高い水素化天然ゴムにおいては、切断時伸びが低下しなかった。
【0046】
このように、本発明の製造方法によると、所望の水素添加率の水素化天然ゴムを、容易に製造することができる。これにより、用途に応じて必要な物性を有するゴム部材を、容易に得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
例えば、耐熱性が高い水素化天然ゴムを用いた本発明のゴム部材は、自動車等に用いられる防振部材、免震部材等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムまたは脱蛋白質化天然ゴムのラテックスに、水素化触媒を添加する水素化触媒添加工程と、
該水素化触媒が添加された該ラテックスに、水素を反応させて、該天然ゴムまたは該脱蛋白質化天然ゴム中の炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化させる水素化工程と、
を有し、
該水素化触媒は、塩化パラジウムが王水に溶解された塩化パラジウム王水溶液であることを特徴とする水素化天然ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記水素化触媒添加工程において、前記水素化触媒を添加した後、前記ラテックスのpHを中性付近に調整するために、アルカリ水溶液を添加する請求項1に記載の水素化天然ゴムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水素化天然ゴムの製造方法により製造された水素化天然ゴムを含むゴム組成物を架橋してなるゴム部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213766(P2011−213766A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80574(P2010−80574)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】