説明

水素吸蔵合金粉末の表面処理方法、ニッケル水素電池用負極活物質、ニッケル水素電池用負極、ならびにニッケル水素電池

【課題】高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池を提供する。
【解決手段】ニッケル水素電池の負極活物質としての水素吸蔵合金粉末として、組成が一般式(1):MmNixAlyMnzCoβFeγ(Mmは軽希土類元素の混合物、2.5≦x≦4.5、0.05≦(y+z)≦2、0≦β≦0.6、0≦γ≦0.6、5.6≦(x+y+z+β+γ)≦6)で表され、水酸化リチウムを含むアルカリ水溶液中での攪拌による表面処理が施されたものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池に関し、特に、その負極活物質である水素吸蔵合金粉末の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として水素吸蔵合金粉末を用いるニッケル水素電池は、出力特性が優れており、さらに、耐久性に優れ、長寿命で、保存特性が良好であることから、電気自動車などの動力源として注目されている。近年、このような動力源として、リチウムイオン二次電池も注目されているため、ニッケル水素電池の利点を際立たせる観点から、その出力特性や耐久性をより一層向上させることが望まれている。
【0003】
水素吸蔵合金粉末は、主として、MmNi5などのCaCu5型(AB5型)結晶構造を有するものが用いられている。また、CaCu5型の水素吸蔵合金粉末は、その容量を高め、かつ、ニッケル水素電池の負極として使用したときの放電特性の経時的劣化を抑制する観点から、Bサイトの元素の一部がコバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)などで置換されている。
【0004】
さらに、特許文献1に記載の発明では、CaCu5型の水素吸蔵合金粉末を負極に用いたニッケル水素電池について、その耐久性を高め、かつ、より一層高容量化するという観点から、上記水素吸蔵合金のAサイトの元素の一部をマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)などの周期表(IUPAC、1989年)第2族元素で置換している。また、特許文献2に記載の発明では、CaCu5型の水素吸蔵合金粉末について、Bサイトの元素のAサイトの元素に対する原子比(B/A、以下「AB比」という)が5.6〜6.0の範囲に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−042802号公報
【特許文献2】特開2008−053223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のニッケル水素電池は、高容量であり、放電特性の経時的劣化が抑制されているが、高温での保存特性が良好ではない。一方、特許文献2に記載の水素吸蔵合金粉末を負極に用いたニッケル水素電池は、高温保存特性が向上しているが、自己放電特性については、より一層の改良が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池を製造するための水素吸蔵合金粉末の表面処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池、ならびに、かかるニッケル水素電池を得るための負極活物質および負極を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、組成が一般式(1):MmNixAlyMnzCoβFeγ(Mmは軽希土類元素の混合物、2.5≦x≦4.5、0.05≦(y+z)≦2、0≦β≦0.6、0≦γ≦0.6、5.6≦(x+y+z+β+γ)≦6)で表される水素吸蔵合金粉末を、少なくとも水酸化リチウムを含むアルカリ水溶液中で攪拌することを特徴とする。
【0009】
上記組成の水素吸蔵合金粉末を、少なくとも水酸化リチウム(LiOH)を含むアルカリ水溶液中で攪拌したときには、水素吸蔵合金粉末が洗浄され、これにより、水素吸蔵合金粉末の表面や、水素吸蔵合金粉末を形成する微細な結晶粒子間の界面に偏析したMn、Coおよび鉄(Fe)が効率よく除去される。偏析したMn、CoおよびFeは、水素吸蔵合金を用いた負極の自己放電を促進させ、電池の寿命を低下させる原因となる。一方、偏析したMn、CoおよびFeが取り除かれた水素吸蔵合金粉末の表面および粒界は、高い耐食性を示し、しかも、水素吸蔵反応を阻害することがない。それゆえ、上記表面処理方法による表面処理が施され、表面に偏析したMn、CoおよびFeが除去された水素吸蔵合金粉末を、ニッケル水素電池の負極活物質として用いることによって、ニッケル水素電池の自己放電を抑制することができる。しかも、上記組成の水素吸蔵合金粉末は、AB比が上記範囲に設定されていることから、これを負極活物質として用いることによって、ニッケル水素電池の高温保存特性を良好なものとすることができる。
【0010】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法において、水素吸蔵合金粉末の組成は、一般式(2):La1-αCeαNixAlyMnzCoβFeγ(0≦α≦0.5)で表されることが好適である。すなわち、本発明において、Mmは、ランタン(La)単独であるか、または、Laとセリウム(Ce)との混合物であって、Ceの原子比が、LaとCeとの合計量を1としたときに、0.5以下であることが好ましい。本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によって得られる作用効果は、水素吸蔵合金の組成が上記一般式(2)で表される場合において、より一層顕著に現れる。
【0011】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法において、上記アルカリ水溶液は、さらに、水酸化カリウム(KOH)および水酸化ナトリウム(NaOH)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。アルカリ水溶液がLiOHを含むことによって、水素吸蔵合金粉末の表面に偏析しているMn、CoおよびFeを極めて効率よく除去することができる。そして、アルカリ水溶液が、さらにKOHおよびNaOHの少なくともいずれかを含むことによって、水素吸蔵合金粉末の表面に偏析している上記元素の除去効率を、より一層向上させることができる。
【0012】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法に用いられるアルカリ水溶液において、(i)LiOHの濃度は、0.01〜5mol/Lであることが好ましい。また、上記アルカリ水溶液が、さらにKOHおよびNaOHの少なくともいずれかを含む場合においては、さらに、(ii)KOHの濃度が5〜13mol/Lであること、または、(iii)NaOHの濃度が10〜15mol/Lであること、が好ましい。上記アルカリ水溶液におけるLiOH、KOH、およびNaOHの濃度を上記(i)〜(iii)に示す範囲に設定することによって、水素吸蔵合金粉末の表面に偏析しているMn、CoおよびFeを効率よく除去することができる。
【0013】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法においては、上記アルカリ水溶液の温度を70〜120℃に加熱して攪拌することが好適である。アルカリ水溶液の温度を上記範囲に設定することで、水素吸蔵合金粉末の表面に偏析しているMn、CoおよびFeの除去効率を、より一層向上させることができる。
【0014】
本発明のニッケル水素電池用負極活物質は、上記組成の水素吸蔵合金粉末であり、かつ、本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法による表面処理が施されたものを含むことを特徴とする。このニッケル水素電池用負極活物質は、上記組成の水素吸蔵合金粉末を、少なくともLiOHを含むアルカリ水溶液中で攪拌し、洗浄したものであって、その表面に偏析したMn、CoおよびFeが除去されている。しかも、上記組成の水素吸蔵合金粉末は、AB比が上記範囲に設定されている。それゆえ、本発明のニッケル水素電池用負極活物質を用いることによって、自己放電が抑制され、かつ高温保存特性が良好なニッケル水素電池を得ることができる。
【0015】
本発明のニッケル水素電池用負極は、負極芯材と、この負極芯材の表面に形成された負極合剤層と、を備え、上記負極合剤層が、本発明のニッケル水素電池用負極活物質を含んでいることを特徴とする。本発明のニッケル水素電池用負極を用いることによって、自己放電が抑制され、かつ高温保存特性が良好なニッケル水素電池を得ることができる。
【0016】
本発明のニッケル水素電池は、本発明のニッケル水素電池用負極と、正極と、上記ニッケル水素電池用負極と上記正極との間に介在されるセパレータと、電解液と、を備えることを特徴とする。本発明のニッケル水素電池は、自己放電が抑制されており、かつ、高温保存特性が良好である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記一般式(1)および(2)の組成の水素吸蔵合金粉末について、その表面や結晶粒子間の界面に偏析したMn、CoおよびFeを効率よく除去することができる。それゆえ、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池を得るのに好適な負極活物質を得ることができる。また、本発明によれば、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池およびニッケル水素電池用負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のニッケル水素電池の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、組成が一般式(1):MmNixAlyMnzCoβFeγで表されるか、好ましくは、一般式(2):La1-αCeαNixAlyMnzCoβFeγで表される水素吸蔵合金粉末を、少なくともLiOHを含むアルカリ水溶液中で攪拌することを特徴とする。
【0020】
一般式(1)の水素吸蔵合金粉末において、Aサイトの元素に相当するMmは、複数種の軽希土類元素の混合物を示している。軽希土類元素としては、La、Ce、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)およびユーロピウム(Eu)が挙げられ、なかでも好ましくは、La、Ce、Nd、PrおよびSmが挙げられる。また、Mmは、上記例示の軽希土類元素のなかでも特に、LaおよびCeが好ましい。一般に、Mmの主成分はLaである。
【0021】
一般式(2)の水素吸蔵合金粉末においては、Aサイトの元素がLa単独であるか、または、LaとCeとの混合物を含んでいる。Aサイトの元素がLaとCeとの混合物である場合において、Ceの原子割合αは、LaとCeとの合計量を1としたときに、0.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.05以上0.5以下である。αは0であってもよく、すなわち、Aサイトの元素が全てLaであってもよいが、Ceを上記割合で含有することで、水素吸蔵合金粉末の高容量化を図ることができる。逆に、αが上記範囲を上回ると、充放電の繰り返しによる水素吸蔵合金の膨張収縮が促進され、電池性能として寿命劣化が早まるといった不具合を生じる場合がある。
【0022】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、xはNiの原子割合を示し、2.5以上4.5以下、好ましくは、3.5以上4.5以下である。xが上記範囲を外れると、水素吸蔵合金粉末の容量低下が顕著になる。
【0023】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、(y+z)は、水素吸蔵合金粉末におけるAlおよびMnの原子割合の和を示し、0.05以上2.0以下、好ましくは、0.8以上1.5以下である。(y+z)が上記範囲を下回ると、水素吸蔵合金粉末のBサイトに含まれるAlおよびMnの割合が少なくなって、容量の低下や放電特性の経時的劣化を招く。逆に、(y+z)が上記範囲を上回ると、例えば、BサイトにおけるNiの含有割合が低下するため、水素吸蔵合金粉末の容量が低下する。さらにこの場合、ニッケル水素電池の電解液中に溶出するMnおよびAlの量が多くなるため、ニッケル水素電池の高温保存特性が低下する。
【0024】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、yはAlの原子割合を示し、好ましくは、2以下、さらに好ましくは、0.05以上1.0以下である。また、一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、zはMnの原子割合を示し、好ましくは、2以下、さらに好ましくは、0.5以上1.4以下である。一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、AlおよびMnは、少なくともいずれか一方が上記原子割合で含有されていればよい。
【0025】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、βはCoの原子割合を示し、0.6以下、好ましくは、0.3以下である。また、一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、γはFeの原子割合を示し、0.6以下、好ましくは、0.05以上0.3以下である。
【0026】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、(z+β+γ)は、水素吸蔵合金粉末におけるMn、CoおよびFeの原子割合の和を示し、0を上回り3.2以下、好ましくは、1.0以上2.0以下である。(z+β+γ)が0であるときは、Mn、CoおよびFeが水素吸蔵合金粉末を形成する微細な結晶粒子間の界面に偏析するという不具合が生じない。しかしながら、これらの元素をBサイトに置換することに伴う作用効果、すなわち、水素吸蔵合金粉末をニッケル水素電池の負極として使用したときの放電特性の経時的劣化を抑制するという効果が得られなくなる。逆に、(z+β+γ)が上記範囲を上回ると、水素吸蔵合金粉末のBサイトにおけるNiおよびAlの含有割合が低下するため、水素吸蔵合金粉末の容量の低下や、放電特性の経時的劣化を招く。
【0027】
また、一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、(x+y+z+β+γ)は、水素吸蔵合金粉末におけるBサイトの元素の原子割合を示す。一般式(1)におけるMmの原子割合や、一般式(2)におけるLaとCeとの原子割合の和は、いずれも1であることから、一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末において、(x+y+z+β+γ)は、AB比と同義である。(x+y+z+β+γ)は、5.6以上6以下、好ましくは、5.6以上5.8以下である。(x+y+z+β+γ)が上記範囲を下回ると、水素吸蔵合金粉末の容量の低下や、ニッケル水素電池の負極として使用したときの放電特性の経時的劣化を招く。逆に、(x+y+z+β+γ)が上記範囲を上回ると、Bサイトの元素が水素吸蔵合金粉末の表面や粒界において過剰に偏在し、充放電を繰返したときにニッケル水素電池の電解液中に過剰に溶出する。そして、このことにより、ニッケル水素電池の高温保存特性が低下する。
【0028】
水素吸蔵合金粉末の具体例としては、上記一般式(2)の範囲に含まれるものとして、例えば、下記表に示すものが挙げられる。
【0029】
【表1】

【0030】
一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末を作製する方法は、特に限定されず、各種の作製方法を採用することができる。具体的には、例えば、プラズマアーク溶融法、高周波溶融(金型鋳造)法、メカニカルアロイング法(機械合金法)、メカニカルミリング法、急冷凝固法などが挙げられる。なかでも、メカニカルアロイング法やメカニカルミリング法は、水素吸蔵合金粉末の大きさと結晶型とを容易に制御できることから、特に好適である。水素吸蔵合金の形成原料は、水素吸蔵合金を構成する元素の単体を、目的とする構成元素の含有比率に応じて混合したものが挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末に対する表面処理に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、LiOH水溶液、LiOHとKOHとの混合水溶液、LiOHとNaOHとの混合水溶液、および、LiOHとKOHとNaOHとの混合水溶液が挙げられる。アルカリ水溶液は、上記例示のなかでも特に、LiOHとKOHとの混合水溶液、およびLiOHとNaOHとの混合水溶液が好ましい。
【0032】
アルカリ水溶液中のLiOHの濃度は、好ましくは、0.01〜5mol/Lであり、さらに好ましくは、0.1〜3mol/Lであり、特に好ましくは、0.5〜3mol/Lである。LiOHの濃度が上記範囲を下回ると、水素吸蔵合金粉末を形成する微細な結晶粒子間の界面に偏析したMn、CoおよびFeの元素を選択的に効率よく除去するという本発明の作用効果が十分に発揮されなくなる。逆に、LiOHの濃度が上記範囲を上回ると、アルカリ水溶液中でLiOHの結晶が析出するおそれがあり、表面処理の生産性の低下や表面処理による作用効果の再現性の低下を招くおそれがある。
【0033】
アルカリ水溶液がLiOHとKOHとを含む場合において、アルカリ水溶液中のKOHの濃度は、好ましくは、5〜13mol/Lである。KOHの濃度が上記範囲を下回るときは、アルカリ水溶液にKOHを併存させる効果が乏しくなる。逆に、KOHの濃度が上記範囲を上回ると、アルカリ水溶液中でKOHの結晶が析出するおそれがあり、表面処理の生産性の低下や表面処理による作用効果の再現性の低下を招くおそれがある。
【0034】
アルカリ水溶液がLiOHとNaOHとを含む場合において、アルカリ水溶液中のNaOHの濃度は、好ましくは、10〜15mol/Lである。NaOHの濃度が上記範囲を下回るときは、アルカリ水溶液にNaOHを併存させる効果が乏しくなる。逆に、NaOHの濃度が上記範囲を上回ると、アルカリ水溶液中でNaOHの結晶が析出するおそれがあり、表面処理の生産性の低下や表面処理による作用効果の再現性の低下を招くおそれがある。
【0035】
アルカリ水溶液がLiOHとKOHとを含むか、またはLiOHとNaOHとを含み、さらに、アルカリ水溶液中のKOHおよびNaOHの濃度がそれぞれ上記範囲に設定される場合において、アルカリ水溶液中のLiOHの濃度は、好ましくは、0.5〜3mol/Lである。LiOHの濃度が上記範囲を上回ると、アルカリ水溶液中でLiOHや、KOHまたはNaOHの結晶が析出しやすくなり、表面処理の生産性の低下や表面処理による作用効果の再現性の低下を招くおそれがある。
【0036】
上記一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末に対する表面処理においては、アルカリ水溶液の温度を70〜120℃に加熱して攪拌することが好ましい。アルカリ水溶液の温度が上記範囲を下回ると、水素吸蔵合金粉末に対する所望の反応が生じにくくなるおそれがある。一方、アルカリ水溶液の温度が上記範囲を上回ると、LiOH、KOHおよびNaOHの濃度にかかわらず、突沸などの不具合が生じやすくなるおそれがある。
【0037】
上記一般式(1)および(2)の水素吸蔵合金粉末を、少なくともLiOHを含むアルカリ水溶液中での攪拌操作は、例えば、容器壁を熱媒で加熱可能な攪拌装置を用いればよい。また、上記アルカリ水溶液中での攪拌後には、例えば、加圧ろ過などによって水素吸蔵合金粉末を取り出し、これを乾燥させればよい。
【0038】
上記表面処理が施された水素吸蔵合金粉末の粒子径は、特に限定されない。しかしながら、本発明によって表面処理が施された水素吸蔵合金がニッケル水素電池用の負極活物質として用いられることに鑑みれば、水素吸蔵合金粉末の体積平均粒子径は、好ましくは、20〜40μmであり、さらに好ましくは、25〜35μmである。
【0039】
本発明に係る水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によって表面処理が施された水素吸蔵合金粉末は、例えば、ニッケル水素電池における負極活物質として好適である。上記表面処理が施された水素吸蔵合金粉末をニッケル水素電池における負極活物質として用いることによって、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池を製造することができる。
【0040】
本発明のニッケル水素電池用負極は、負極芯材と、負極芯材の表面に形成された負極合剤層と、を備えており、この負極合剤層は、上記表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を必須成分として含んでいる。このニッケル水素電池用負極は、上記表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を含む負極合剤を所定形状に成形し、成形された負極合剤を負極芯材に支持させることによって作製されるか、あるいは、上記表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を含む負極合剤ペーストを調製し、これを負極芯材に塗布し、乾燥することによって作製される。負極合剤の成形方法、負極合剤ペーストの塗布方法、およびその他のニッケル水素電池用負極の製造方法は、特に限定されず、本発明の分野における各種の製造方法を採用することができる。
【0041】
負極芯材としては、ニッケル水素電池の負極用芯材として用いられる各種材料が挙げられる。具体的には、これに限定されないが、例えば、鉄製のパンチングメタルなどが挙げられる。
【0042】
負極合剤層は、負極活物質を含んでおり、さらに必要に応じて、導電剤、増粘剤、結着剤などの添加剤を含んでいる。
負極活物質には、本発明に係る水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によって表面処理が施された水素吸蔵合金粉末が用いられる。
【0043】
導電剤としては、電子伝導性を有する材料であること以外は特に限定されず、各種の電子伝導性材料を用いることができる。具体的には、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、例えば、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、例えば、銅粉などの金属粉末類、例えば、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられ、なかでも、人造黒鉛、ケッチェンブラック、炭素繊維が好ましい。上記例示の電子伝導性材料は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記例示の電子伝導性材料は、水素吸蔵合金粉末の表面に被覆させて用いてもよい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、水素吸蔵合金粉末100重量部に対し、0.1〜50重量部が好ましく、0.1〜30重量部がさらに好ましい。
【0044】
負極を、負極合剤ペーストを用いて作製する場合において、増粘剤は、負極合剤ペーストに対して粘性を付与する。例えば、負極合剤ペーストの分散媒として水を用いる場合には、増粘剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどを用いることができる。
【0045】
結着剤は、水素吸蔵合金粉末や導電剤を集電体に結着させる役割を果たす。結着剤は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。結着剤の具体例としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素系ポリマー、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、およびこれらエチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体のNa+イオン架橋体、などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本発明のニッケル水素電池用負極を用いることによって、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されたニッケル水素電池を提供することができる。
【0047】
図1は、本発明のニッケル水素電池の一実施形態を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明のニッケル水素電池は、負極12と、正極11と、負極12と正極11との間に介在されるセパレータ13と、図示しない電解液と、を備えている。
【0048】
本発明のニッケル水素電池において、負極12には、本発明のニッケル水素電池用負極が用いられる。負極12は、上述のとおり、負極芯材12bと、負極芯材12bの表面に形成された負極合剤層12aと、を備えている。この負極合剤層12aには、本発明の表面処理方法による表面処理が施された水素吸蔵合金粉末が必須成分として含まれている。また、負極12は、その長手方向の一端に、負極合剤層12aが形成されずに負極芯材12bが露出している露出部を備えている。
【0049】
正極11は、正極芯材11bと、正極芯材11bの表面に形成された正極合剤層11aと、を備えている。この正極合剤層11aには、正極活物質が必須成分として含まれている。正極活物質としては、例えば、水酸化ニッケルなどの、本発明の分野における各種の正極活物質を用いることができる。正極11の具体例は、これに限定されないが、例えば、焼結式ニッケル正極などが挙げられる。この正極11は、その長手方向の一端に、正極合剤層11aが形成されずに正極芯材11bが露出している露出部を備えている。
【0050】
セパレータ13は、負極12と正極11との間に介在され、負極12と正極11とを隔離している。このセパレータ13には、本発明の分野における各種のセパレータを用いることができ、具体的には、ポリプロピレン製の不織布などが挙げられる。
【0051】
正極11と負極12とは、セパレータ13を介して捲回されており、円柱状の極板群20を形成している。この極板群20において、正極11のうち正極芯材11bが露出している露出部と、負極12のうち負極芯材12bが露出している露出部とは、極板群20の捲回軸方向で互いに反対側の端面に露出されるように配置されている。そして、正極芯材11bが露出する側の極板群20の端面21に、正極集電板18が溶接され、負極芯材12bが露出する側の極板群20の端面22に、負極集電板19が溶接されている。
【0052】
さらに、極板群20は、その負極集電板19側から、有底円筒形の電池ケース15に収容されている。この電池ケース15は、負極端子と兼用される部材である。電池ケース15は、その底部において、負極リード19aを介して、負極集電板19と電気的に接続されている。また、電池ケース15内には、電解液が注液されており、周縁にガスケット17を備える封口板6によって、電池ケース15の開口部が封口されている。この封口板6は、正極端子と兼用される部材である。封口板6は、その電池ケース15内部側表面において、正極リード18aを介して、正極集電板18と電気的に接続されている。
【0053】
電解液には、本発明の分野における各種のアルカリ電解液を用いることができる。具体的には、例えば、LiOHやNaOHを含有するKOH水溶液などが挙げられる。
以上の構成要素を常法により組み合わせることによって、本発明のニッケル水素電池を得ることができる。本発明のニッケル水素電池は、高温保存特性に優れ、自己放電が抑制されている。それゆえ、各種機器の駆動用電源として好適であり、特に、高温環境下で使用されるハイブリッド自動車用電源などの分野に好適である。
【実施例】
【0054】
実施例1
(i)水素吸蔵合金粉末の作製
金属状態のLa、Ce、Ni、Mn、Co、AlおよびFeを所定の割合で混合し、高周波溶解炉を用いて1480℃で溶解させた。次いで、溶融物をロール急冷法によって急冷し、凝固させた。こうして、式:La0.95Ce0.05Ni3.6Al0.5Mn1.0Co0.2Fe0.3で表される水素吸蔵合金のインゴットを得た。この水素吸蔵合金は、上記一般式(2)の範囲に含まれるものであった(α=0.05、x=3.6、y=0.5、z=1.0、β=0.2、およびγ=0.3)。
【0055】
次に、上記水素吸蔵合金のインゴットを800℃のアルゴン雰囲気下で5時間加熱し、ジェットミル粉砕機に投入して粉砕した。こうして、体積平均粒径が30μmの水素吸蔵合金粉末を得た。
【0056】
(ii)水素吸蔵合金粉末の表面処理
攪拌槽に上記粉砕後の水素吸蔵合金粉末100kgと、アルカリ水溶液45kgとを投入した。アルカリ水溶液には、LiOHとKOHとの混合水溶液を用い、LiOHの濃度は1mol/Lとし、KOHの濃度は10mol/Lとした。そして、攪拌槽の攪拌翼を回転させて、水素吸蔵合金粉末とアルカリ水溶液との混合物を10分間攪拌した。このとき、攪拌槽内の温度は、アルカリ水溶液の温度が90℃で一定となるように調整した。
【0057】
攪拌後、水素吸蔵合金とアルカリ水溶液との混合物を加圧濾過槽に導入して、2kgf/cm2(約0.2MPa)で加圧しながら濾過することにより、アルカリ水溶液を除去した。次いで、残渣を多量の水で洗浄することにより、表面処理後の水素吸蔵合金粉末を得た。
【0058】
(iii)溶出試験
表面処理後の水素吸蔵合金粉末1gを、48重量%のNaOH水溶液100mLに浸漬させ、80℃の恒温室内で8時間保持することにより、上記NaOH水溶液中に上記水素吸蔵合金粉末の構成元素を溶出させた。8時間経過後、上記NaOH水溶液から水素吸蔵合金粉末を取り出し、NaOH水溶液中に溶出している元素を、誘起結合プラズマ(ICP)分光分析によって分析し、検出された元素ごとの濃度を記録した。この溶出試験の結果に基づいて、表面処理が施された水素吸蔵合金粉末について、ニッケル水素電池の負極活物質として使用したときの耐久性を評価した。
【0059】
(iv)負極の作製
表面処理後の水素吸蔵合金粉末100重量部に対し、CMC(エーテル化度0.7、重合度1600)0.15重量部と、アセチレンブラック0.3重量部と、SBR0.7重量部とを加え、さらに水を加えて混合することにより、負極合剤のペーストを得た。このペーストを、ニッケルメッキが施された鉄製パンチングメタル(厚み60μm、孔径1mm、開孔率42%)からなる負極芯材12bの両面に塗布し、乾燥させることにより、負極合剤層12aを形成した。負極合剤層12aは、乾燥後に、負極芯材12bとともにローラでプレスし、切断した。こうして、厚み0.4mm、幅35mm、容量2200mAhの負極12を得た(図1参照)。この負極12の長手方向の一端には、負極芯材12bが負極合剤層12aで覆われていない露出部を設けた。
【0060】
(v)ニッケル水素電池の作製
正極11として、長手方向の一端に正極芯材11bの露出部を有する、幅35mm、容量1500mAhの焼結式ニッケル正極を用いた。セパレータ13には、スルホン化処理されたポリプロピレン不織布(厚み100μm)を用いた。電解液には、比重1.3のKOH水溶液に、40g/Lの濃度でLiOHを溶解させたものを用いた。
【0061】
そして、上述の正極11、負極12、セパレータ13、および電解液を用いて、図1に示すニッケル水素電池を作製した。このニッケル水素電池は、4/5Aサイズ(直径約17mm、長さ約43mm)であって、公称容量は1500mAhであった。
【0062】
(vi)容量維持率
ニッケル水素電池を、40℃の環境下において、2時間率(750mA)で2時間充電し、5時間率(300mA)で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電サイクルをさらに1回繰り返して、充放電サイクルを通算2サイクル経た後の放電容量を測定し、これを初期放電量(mAh)とした。さらに、上記放電サイクルを繰返し行い、充放電サイクルを通算100サイクル経た後の放電容量を測定し、これを繰返し後の放電量(mAh)とした。そして、下記式(3)により、容量維持率(%)を算出し、ニッケル水素電池の高温保存特性を評価した。
容量維持率(%)=[(繰返し後の放電量/mAh)/(初期放電量/mAh)]×100 …(3)
【0063】
容量維持率(%)は、下記の基準で評価した。
A+(極めて良好):90%≦(容量維持率)
A(良好):85%≦(容量維持率)<90%
B(実用上許容):75%≦(容量維持率)<85%
C(実用上不適当):(容量維持率)<75%
【0064】
(v)自己放電率
ニッケル水素電池を、20℃の環境下において、2時間率(750mA)で2時間充電し、20℃の環境下で2週間保存した。そして、保存後のニッケル水素電池を、5時間率(300mA)で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。このときの放電容量を残存放電量(mAh)とし、この残存放電量と、容量維持率の評価に用いた初期放電量とを用い、下記式(4)により、自己放電率(%)を算出した。
自己放電率(%)=[(初期放電量/mAh)−(残存放電量/mAh)]/(初期放電量/mAh)×100 …(4)
【0065】
自己放電率(%)は、下記の基準で評価した。
A+(極めて良好):(自己放電率)≦25%
A(良好):25%<(自己放電率)≦27%
B(実用上許容):27%<(自己放電率)≦35%
C(実用上不適当):35%<(自己放電率)
【0066】
実施例2〜7
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液のLiOHの濃度を、0.01mol/L(実施例2)、0.1mol/L(実施例3)、0.5mol/L(実施例4)、3mol/L(実施例5)、5mol/L(実施例6)、または7mol/L(実施例7)に設定したこと以外は、実施例1と同様にして調製されたものを使用した。そして、アルカリ水溶液の組成が異なること以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。さらに、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0067】
比較例1
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液として、KOH水溶液(KOHの濃度10mol/L)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。そして、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0068】
実施例8
攪拌槽に、実施例1と同様にして作製され、かつ粉砕された水素吸蔵合金粉末(La0.95Ce0.05Ni3.6Al0.5Mn1.0Co0.2Fe0.3)100kgと、アルカリ水溶液45kgとを投入した。アルカリ水溶液には、LiOHとNaOHとの混合水溶液を用い、LiOHの濃度は1mol/Lとし、NaOHの濃度は13mol/Lとした。そして、攪拌槽の攪拌翼を回転させて、水素吸蔵合金粉末とアルカリ水溶液との混合物を10分間攪拌した。このとき、攪拌槽内の温度は、アルカリ水溶液の温度が90℃で一定となるように調整した。攪拌後、実施例1と同様にして、ろ過および水洗することにより、表面処理後の水素吸蔵合金粉末を得た。さらに、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0069】
実施例9〜14
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液のLiOHの濃度を、0.01mol/L(実施例9)、0.1mol/L(実施例10)、0.5mol/L(実施例11)、3mol/L(実施例12)、5mol/L(実施例13)、または7mol/L(実施例14)に設定したこと以外は、実施例8と同様にして調製されたものを使用した。そして、アルカリ水溶液の組成が異なること以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。さらに、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0070】
比較例2
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液として、NaOH水溶液(NaOHの濃度13mol/L)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。そして、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0071】
実施例15〜19
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液として、KOHの濃度を3mol/L(実施例15)、5mol/L(実施例16)、8mol/L(実施例17)、13mol/L(実施例18)、または15mol/L(実施例19)に設定したこと以外は、実施例1と同様にして調製されたものを使用した。そして、アルカリ水溶液の組成が異なること以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。さらに、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0072】
実施例20〜23
水素吸蔵合金粉末の表面処理に用いるアルカリ水溶液として、NaOHの濃度を8mol/L(実施例20)、10mol/L(実施例21)、15mol/L(実施例22)、または17mol/L(実施例23)に設定したこと以外は、実施例8と同様にして調製されたものを使用した。そして、アルカリ水溶液が異なること以外は実施例1と同様にして、水素吸蔵合金粉末に表面処理を施した。さらに、こうして表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル水素電池を作製し、容量維持率および自己放電率の評価を行った。
【0073】
実施例1〜23および比較例1〜2で用いた水素吸蔵合金粉末の組成と、評価結果とを、表2〜3に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
実施例1〜23のニッケル水素電池は、いずれも、負極活物質としての水素吸蔵合金粉末に、少なくともLiOHを含むアルカリ水溶液による表面処理が施されている。一方、比較例1および2のニッケル水素電池では、水素吸蔵合金粉末への表面処理に用いたアルカリ水溶液がLiOHを含んでいない。
そして、表2および表3より明らかなように、実施例1〜23のニッケル水素電池は、比較例1および2のニッケル水素電池と比べて、いずれも自己放電率が低く抑えられており、しかも、容量維持率が高く、高温での保存特性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、例えば、ニッケル水素電池の負極活物質として用いられる水素吸蔵合金粉末の表面処理方法として有用である。また、本発明のニッケル水素電池用負極活物質、それを用いた負極およびニッケル水素電池は、ニッケル水素電池の高温保存特性が大幅に改善され、しかも、自己放電率が抑制されていることから、各種機器の駆動用電源として利用可能である。特に、高温環境下で使用されるハイブリッド自動車用電源などの分野における利用に好適である。
【符号の説明】
【0078】
6 封口板、 11 正極、 11a 正極合剤層、 11b 正極芯材、 12 負極、 12a 負極合剤層、 12b 負極芯材、 13 セパレータ、 15 電池ケース、 17 ガスケット、 18 正極集電板、 18a 正極リード、 19 負極集電板、 19a 負極リード、 20 極板群、 21、22 極板群の端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が一般式(1):MmNixAlyMnzCoβFeγ(Mmは軽希土類元素の混合物、2.5≦x≦4.5、0.05≦(y+z)≦2、0≦β≦0.6、0≦γ≦0.6、5.6≦(x+y+z+β+γ)≦6)で表される水素吸蔵合金粉末を、少なくとも水酸化リチウムを含むアルカリ水溶液中で攪拌する、水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金粉末の組成が、一般式(2):La1-αCeαNixAlyMnzCoβFeγ(0≦α≦0.5)で表される、請求項1に記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液が、さらに、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの少なくともいずれかを含む、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液における水酸化リチウムの濃度が0.01〜5mol/Lである、請求項1〜3のいずれかに記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液における水酸化カリウムの濃度が5〜13mol/Lである、請求項3または4に記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項6】
前記アルカリ水溶液における水酸化ナトリウムの濃度が10〜15mol/Lである、請求項3または4に記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液の温度を70〜120℃に加熱して攪拌する、請求項1〜6のいずれかに記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理方法による表面処理が施された水素吸蔵合金粉末を含む、ニッケル水素電池用負極活物質。
【請求項9】
負極芯材と、前記負極芯材の表面に形成された負極合剤層と、を備え、前記負極合剤層が、請求項8に記載の負極活物質を含んでいる、ニッケル水素電池用負極。
【請求項10】
請求項9に記載のニッケル水素電池用負極と、正極と、前記負極と前記正極との間に介在されるセパレータと、電解液と、を備える、ニッケル水素電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−262763(P2010−262763A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110897(P2009−110897)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】