説明

水素検知素子及び水素検知センサ

【課題】HO、CO、CH、低分子シロキサンなど検知素子の性能を劣化させるガスを含んだガス中においても、水素濃度を正確に検知することができる水素検知素子及び水素検知センサを提供する。
【解決手段】
水素検知素子1は、水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部2と、感応部2の電気抵抗の変化を検出する検出部6とを備える。水素検知センサは、水素検知素子1と、水素検知素子1の少なくとも感応部2を実装するパッケージ部10と、金属メッシュ又は多孔質金属焼結体からなり、パッケージ部10に感応部2を覆うように装着されるフィルター部16とを備える。感応部2又はフィルター部16は、その表面が撥水処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中及び液相中に存在する水素ガスに反応して電気抵抗が変化することにより水素を検知することを原理とする新規の水素検知素子及び水素検知センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇、地球温暖化防止に代表される環境問題などにより、近年、燃料電池を中心とした水素エネルギーの活用に関する研究開発が活発に行なわれている。この燃料電池の自動車への活用において必要とされるデバイスに水素検知素子があり、その用途としては水素ガスの漏れ検知用と燃料電池用水素ガスの濃度検知用の2種類に大別される。このうち後者の濃度検知用については、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスを含んだ水素ガスの濃度を検知する必要があり、そのため耐被毒性に優れた水素検知素子の開発が待たれている。また同時に水素ガス配管内での水素濃度の検出に用いられるため、酸素がない雰囲気下での検知が必須条件となる。
【0003】
以上述べたように、燃料電池用水素ガスの濃度検知用の水素検知素子には、他のガスに対する耐被毒性と、酸素がない雰囲気下での検知が要求されるが、既存の水素検知素子ではこれらの要件を満たすものがないのが現状である。
【0004】
既存の水素検知素子として代表的なものとしては、半導体式と接触燃焼式の2種類があるが、いずれの方式の検知素子もその検知原理から酸素がない雰囲気下での正確な検知は困難である。またHO、CO、CHなどの被毒性ガスに対する耐性については、半導体式の場合はSnOに代表される金属酸化物半導体粒子を用いるため、金属酸化物半導体粒子そのものが酸化、還元などの被毒を受けることはないが、その検知原理が、金属酸化物半導体粒子の表面に形成される電子空乏層が空気中とHやCOなどの還元性ガス中とで変化することにより、検知素子の導電率変化が生じ、これによりガス検知を可能とするものであり、そのためHO、CO、CHなどのガスが水素中に存在すると、これらのガス吸着によって電子空乏層が変化するために、正確な水素濃度測定は困難となる。
【0005】
また接触燃焼式の場合は、アルミナやアルミナシリカなどのセラミックスにPtやPdなどの貴金属触媒を担持させたものが使用されるが、COなどのガスによりこの貴金属触媒が被毒されて触媒活性を消失し、水素検知機能も消失してしまう。
【0006】
また上述した半導体式と接触燃焼式以外に、特に酸素がない雰囲気下での検知が可能な水素検知素子として、Pd−Ni合金の薄膜を用いたものが米国「H2scan社」より上市されている(非特許文献1参照)。しかし、COガスなどによるPdの被毒も顕著であるという問題があり、十分な耐被毒性を有するものではなかった。
【0007】
本出願人はこれまでにも水素と反応して電気抵抗が変化する合金を感応部として備えて水素濃度を正確に検知できる水素検知素子についての提案を行っている(例えば特許文献1)。しかし、様々の状況において水素濃度を検知できる耐被毒性に優れた水素検知素子の開発がさらに望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−008869号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ross C. Thomas and Robert C. Hughes,J . Electrochem . Soc., Vol. 144 , No. 9 , September , 3245 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように燃料電池自動車の燃料電池用水素ガスの濃度検知用水素検知素子に関しては、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスを含んだ水素ガスの濃度を検知する必要があり、そのため耐被毒性に優れた水素検知素子の開発が待たれている。これらのガスの内、特に低分子シロキサンに関しては、水素検知素子の感応部に付着して感応部を形成する金属と結合すると共に、低分子シロキサン同士が架橋することにより、シリカ被膜を形成してしまう。この場合、シリカ被膜で感応部が覆われてしまうことにより、感応部を構成する金属と水素との反応が妨げられ、結果として水素検知素子の応答速度の遅延化を生じてしまう。また、HOに関しては、液状となって感応部に付着した場合、水素が感応部の金属に溶解するのを妨げてしまう。また、CO、CHに関しては、ガスとして感応部に付着して、HOの場合と同様に水素が感応部の金属に溶解するのを妨げてしまう。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、HO、CO、CH、低分子シロキサンなど検知素子の性能を劣化させるガスを含んだガス中においても、水素濃度を正確に検知することができる、新規の水素検知素子及び水素検知センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、以下の技術的手段から構成される。
【0013】
請求項1に係る発明は、水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部2と、前記感応部2の電気抵抗の変化を検出する検出部6とを備え、前記感応部2は、その表面が撥水処理されていることを特徴とする水素検知素子1である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1の水素検知素子1において、撥水処理がフッ素を含む化合物による処理であることを特徴とする水素検知素子1である。
【0015】
請求項3に係る発明は、水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部2、及び前記感応部2の電気抵抗の変化を検出する検出部6を有する水素検知素子1aと、前記水素検知素子1aの少なくとも感応部2を実装するパッケージ部10と、金属メッシュ又は多孔質金属焼結体からなり、前記パッケージ部10に前記感応部2を覆うように装着されるフィルター部16とを備え、前記フィルター部16は、その表面が撥水処理されていることを特徴とする水素検知センサである。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3の水素検知センサにおいて、撥水処理がフッ素を含む化合物による処理であることを特徴とする水素検知センサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、以下の効果が奏される。
【0018】
請求項1の発明は、感応部を構成する金属の表面に撥水性が付与されていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスが金属表面に付着して水素検知性能が損なわれることを防止できるので、感応部の応答速度の遅延化を防止し、水素濃度を正確に検知することができる。
【0019】
請求項2の発明は、撥水処理がフッ素を含む化合物でなされていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスの吸着をより防止することができ、感応部の応答速度の遅延化をさらに防止して水素濃度を正確に検知することができる。
【0020】
請求項3の発明は、感応部が、表面に撥水性が付与されたフィルター部に覆われていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるガスは、このフィルター部により外気から感応部側への移動が妨げられて感応部に到達しにくくなるので、感応部の応答速度の遅延化を防止し、水素濃度を正確に検知することができる。
【0021】
請求項4の発明は、撥水処理がフッ素を含む化合物でなされていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスの吸着をより防止することができ、感応部の応答速度の遅延化をさらに防止して水素濃度を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】撥水性の作用を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の一例を示す分解斜視図である。
【図4】(a)(b)は、検知信号特性を示すグラフである。
【図5】(a)(b)は、検知信号特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る水素検知素子を説明する。
【0024】
図1は、本発明の水素検知素子1の一例を示す概略図である。水素検知素子1は、素子基材5の表面に薄膜状に所定のパターンで形成された感応部2と、感応部2の電気抵抗の変化を検出する検出部6とを備えている。感応部2は、等幅の直線が蛇行して形成されたパターンで素子基材5の表面に形成されており、その両端部で一対の電極パッド3と接続され、この電極パッド3及び導電線8を介して検出部6と接続されている。また、素子基材5の表面の感応部2の近傍には、導電性の金属により形成され、感応部2とは接触せずに感応部2に沿って等幅の直線が蛇行したパターンで形成されたヒーター部4が設けられている。ヒーター部4は導電線9を介してヒーター制御部7と接続されており、ヒーター部4の温度がヒーター制御部7により制御されている。
【0025】
感応部2は、水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属により形成されている。このような金属としては、Pd系合金、La系合金、Zr系合金、Ni系合金、Ti系合金、Mg系合金などを用いることができ、代表的な合金として、PdNi、PdCuSi、PdCuNiP、LaNi、ZrNi、ZrPd、TiNi、TiMn、NiNbZr、MgPdなどが挙げられる。これらの金属、合金に水素が溶解すると、ガス中の水素分圧に従って電気抵抗が増加し、これを測定することにより水素濃度の検出が可能となる。
【0026】
感応部2の形態としては、薄膜、箔、粉体などの形態を用いることができるが、その形状は、水素検知時における電気抵抗の変化量が大きくなるようなものであることが好ましい。例えば、感応部2の形態としては、厚さ10〜10000nmの薄い金属薄膜が好適に使用され、電気抵抗が高くなるようなパターン形状で形成されるのが好ましい。薄膜の作製方法としては、好適には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等の方法が挙げられる。しかし、これらの方法に制限されるものではなく、適宜の方法を用いて薄膜を形成することができる。薄膜の場合は、酸化膜付きシリコン基板などに直接形成することができる。もしくは薄膜の密着カを強化するために、下地としてTiやCrなどの金属薄膜を形成し、その下地表面に合金薄膜を形成してもよい。
【0027】
検出部6は、感応部2の電気抵抗の変化を検出するものである。感応部2が水素にさらされた場合、金属が水素を溶解することにより感応部2の電気抵抗は水素濃度が高くなるにつれて大きくなるため、感応部2の一端と他端との間の電気抵抗を検出部6で検出し、電気抵抗の変化量を見ることで、水素濃度の定量を行うことができる。この電気抵抗の検出にあたっては、感応部2が小さいものでも十分に測定することが可能であり、水素検知素子1を小さく形成することが可能である。
【0028】
素子基材5としては、特に限定されるものではなく、ガラス、プラスティックのような堅いものから、ビニールシート、ラップのような柔らかい物まで、様々な種類の材料のものを使用することが可能である。また、素子基材5の形態も特に制限されるものではないが、例えば、図示のように基板状のものが薄膜状の感応部2を形成しやすいことから好適である。また、セラミックスなどでできた円筒状の素子基材5を用い、感応部2として箔状の金属を巻き付けて素子を形成してもよい。また、表面に酸化膜を形成したシリコン基板、セラミックス基板、ガラス基板などの基板を素子基材5として用い、粉体の金属を有機バインダ、有機溶剤などと共に混練、ペースト化して、素子基材5の表面にスクリーン印刷により成膜して感応部2を形成して素子を作製してもよい。この場合は、薄膜や箔に比べて電気抵抗が高くなるので、素子基材5の表面にあらかじめ金などの金属で電極を形成しておき、その表面に成膜して電気抵抗を調整することもできる。
【0029】
ヒーター部4は、導電性を有する適宜の金属を用いて形成されるものであり、ヒーター制御部7にてヒーター部4への通電を制御することにより感応部2付近の温度を一定にして、水素濃度の検知の正確性を高めるものである。
【0030】
そして本実施の形態では、感応部2の表面が撥水処理されているものである。撥水処理は、感応部2の表面を撥水性の化合物により表面処理することにより行われる。撥水性の化合物としては、フッ素を含む化合物やメチル基(CH)を有する化合物が好適に用いられ、これらを塗布法、スプレー法、真空蒸着法などの方法により感応部2を形成する合金金属の表面を処理することによって撥水処理をすることができる。フッ素を含む化合物としては、フッ素系有機化合物が挙げられ、具体的には、例えば、フルオロアルキルシラン、パーフルオロエーテル、パーフルオロアルコール、パーフルオロアシド、パーフルオロアクリレート、パーフルオロエステル、ハイドロフルオロエーテルなどや、メタキシレンへキサフロライドなどが挙げられる。またメチル基を有する化合物としては、シラン系化合物などが挙げられ、具体的には、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0031】
このように、感応部2を構成する金属の表面に撥水性が付与されていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるさまざまなガスが金属表面に付着して水素検知性能が損なわれることを防止することができる。したがって、感応部2の応答速度の遅延化を防止し、水素濃度を正確に検知することができる。
【0032】
これらのガスの内、特に低分子シロキサンに関しては、水素検知素子1の感応部2に付着し、感応部2を形成する金属と結合すると共に低分子シロキサン同士が架橋することにより感応部2の表面にシリカ被膜を形成してしまう。この場合、シリカ被膜で感応部2が覆われてしまうことにより、感応部2を構成する金属と水素との反応が妨げられ、その結果、水素検知素子1の応答速度の遅延化を生じてしまう。また、この架橋反応は、温度が高くなるほど顕著となり、特に水素検知素子1がヒーター部4などによって加熱されている場合は、室温付近での使用に比べてより顕著に起こる。
【0033】
本発明の水素検知素子1は、このような低分子シロキサンの付着を防止するものであり、特にフッ素を含む化合物により撥水処理を行えばより効果的に低分子シロキサンの付着が防止できるものである。フッ素を含む化合物(フッ素系化合物)は表面エネルギーが低く、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどのガスが付着しにくいという性質を有する。特に低分子シロキサンに対しては、フッ素系化合物は、メチル基(CH)を有する化合物に比べて耐付着性に優れている。さらに、検知対象である水素ガスは、分子サイズが小さいので、フッ素系化合物により感応部2が表面処理されていても、金属に容易に到達し、この金属に溶解することができる。
【0034】
図2は、フッ素系化合物により表面が撥水処理された感応部2が、低分子シロキサンの付着を防止するとともに、水素ガスを溶解させる機構を示す模式図である。図示の例では、フッ素系化合物21としてフルオロアルキルシラン21aが用いられており、このフルオロアルキルシラン21aのシラノール基22が金属と結合することにより感応部2が表面処理されている。低分子シロキサン23は分子サイズが大きく、またフッ素への親和性が低いため、感応部2の表面に付着されたフッ素系化合物21により反発されて感応部2の表面に近づくことができない(図の矢印A)。一方、水素分子24は、分子サイズが小さいので、フッ素系化合物21の隙間を容易に通過して感応部2に到達することができる(図の矢印B)。このようにして、低分子シロキサン23による水素濃度の検知性能の劣化を防止することができる。
【0035】
フッ素を含む化合物による表面処理は適宜の方法により行うことができる。ただし、フッ素樹脂の微粒子をバインダ樹脂を介して被処理物の表面に密着させるタイプのフッ素コーティング処理は、通常、被処理物の表面にプライマー樹脂をコーティングした後、フッ素樹脂の微粒子を含んだバインダ樹脂を塗装するものであるが、このタイプのコーティング処理は、一般的にコーティング膜の膜厚が厚くなり、水素ガスが金属の表面に到達するためにコーティング膜内を拡散しなければならず、応答速度が遅くなってしまうので好適ではない。以上のような観点から、プライマー層を設けずにフッ素を含む化合物を金属に直接コーティングして撥水処理することが好ましく、また、フッ素を含む化合物により形成される撥水層の厚みに関しては薄い方が望ましく、この撥水層がフッ素系化合物の単分子膜であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明に係る水素検知センサを説明する。
【0037】
図3は、本発明の水素検知センサの一例を示す分解斜視図である。この水素検知センサは、図1と略同様の構成の水素検知素子1(1a)と、この水素検知素子1aの感応部2やヒーター部4が形成された素子基材5を実装するパッケージ部10と、このパッケージ部10に感応部2を覆うように装着されるフィルター部16とを備えている。フィルター部16は、金属メッシュ又は多孔質金属焼結体により形成されている。
【0038】
水素検知素子1aは、感応部2が撥水処理されていない点を除いては、図1の水素検知素子1と略同様の構成となっている。すなわち、水素検知素子1aは、水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部2と、感応部2の電気抵抗の変化を検出する検出部6(不図示)とを備えている。また、素子基材5の表面の感応部2の近傍には、導電性の金属により形成されるヒーター部4が設けられている。
【0039】
パッケージ部10は金属、セラミックス、又はエンジニアリング・プラスチックから形成され水素検知素子1を実装するものである。パッケージ部10に設けられた一対の電極端子11は金ワイヤーなどの導電線12により電極パッド3と接続されており、感応部2において変化する電気抵抗はこの電極端子11を介して検出部6にて検出される。また、ヒーター部4は電極端子13と金ワイヤーなどの導電線14により接続されている。
【0040】
フィルター部16は、図示の例では、フィルターキャップ15の一部になっており、金属メッシュ又は多孔質金属焼結体により形成されることによって水素検知センサの内部(水素検知素子1a側)と外部側とを貫通する孔が設けられている。図示の例では、フィルターキャップ15がパッケージ部10に嵌め込まれることにより、フィルター部16がパッケージ部10に装着される。なお、図示のものでは円形のフィルター部16が円形のパッケージ部10に装着される例を示しているが、これらの形状は特に限定されるものではない。
【0041】
そして本実施の形態では、フィルター部16の表面が撥水処理されているものである。フィルター部16に撥水処理を施していない場合、COやCHなどのガスは金属メッシュや多孔質金属焼結体により形成されたフィルター部16の孔を容易に通り抜け、感応部2に付着してしまう。また、HOや低分子シロキサンなどのガスは、その一部がフィルターの孔を容易に通り抜けて感応部2に付着してしまうとともに、その一部がフィルター部16自体に付着して水素を通りにくくし、水素ガスが感応部2に到達するのを妨げてしまう。そこで、フィルター部16の表面が撥水処理されていることにより、HO、CO、CH及び低分子シロキサンなどの検知素子の性能を劣化させるガスが、このフィルター部16により外気から感応部2側への移動を妨げられて感応部2に到達しにくくなるので、感応部2の応答速度の遅延化を防止し、水素濃度を正確に検知することができるものである。
【0042】
フィルター部16の撥水処理に関しては、前述の感応部2の撥水処理と同様の材料・方法を用いることができ、フッ素を含む化合物やメチル基を有する化合物を使用することができる。また、フッ素系化合物をNiなどの金属メッキ膜中に分散させて複合メッキ膜として形成することにより、撥水処理を施すこともできる。撥水処理は、前述したように、低分子シロキサンの付着を防止する観点から、フッ素系化合物により表面が撥水処理されていることが好ましい。撥水処理を行う部分としては、フィルターキャップ15全体を撥水処理することによりフィルター部16の撥水処理を行ってもよいし、フィルターキャップ15におけるフィルター部16のみを撥水処理してもよい。このように、撥水処理されたフィルター部16を、感応部2を覆うようにパッケージ部10に装着することにより、フィルター部16が検知素子の性能を劣化させるガスの移動を妨げて感応部2の水素に対する応答速度の遅延化を防止することができるものである。
【0043】
ところで、図1の水素検知素子1を図3のようにパッケージ部10に実装し、フィルターキャップ15を装着して水素検知センサを形成することができる。この場合、感応部2が撥水処理されているのでフィルター部16の撥水処理は必ずしも行わなくてもよい。しかしながら、感応部2及びフィルター部16の両方を撥水処理することもでき、この場合、水素濃度の検知の正確性を向上することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
【0045】
[実施例1]
図1の形態の水素検知素子1を作製してパッケージ部10に実装し、水素検知センサを製造した。
【0046】
(1)感応部の作製
両面にそれぞれ500nmの厚みで酸化膜を形成した厚み0.525mmのシリコン基板(素子基材5)の表面に、スパッタ成膜法を用いて、Ti/Ptを成膜した。このときの膜厚は各0.01μm/0.5μmとした。次いでこの薄膜をフォトリソ法によりパターニングし、電極パッド3とヒーター部4を作成した。そして、基板の表面に感光性レジストをコーティングし、露光、現像、ポストベークを行うことにより、感応部2のリフトオフ・パターンを形成し、スパッタ成膜法を用いて、Pd−Cu−Si系非晶質合金薄膜を感応部2として形成した。この合金薄膜の元素組成比は、Pd77CuSi17であり、薄膜の厚みは100nmであった。
【0047】
(2)感応部の表面の撥水処理
撥水処理のためのフッ素を含む化合物として、フルオロアルキルシランであるGelest社の「SIT8176.0」[Tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl trimethoxysilane:CF(CFCHCHSi(OCH]を用いた。このフルオロアルキルシラン(2重量部)と、0.1N硝酸(1重量部)と、イソプロピルアルコール(197重量部)とにより、表面処理のためのコーティング溶液を作成した。次いでスピンコート法により、(1)で作製した基板の表面に、コーティング溶液をコーティングし、100℃で1時間加熱処理を行った後、レジストのリフトオフを行うことにより、表面が撥水処理されたPd−Cu−Si系非晶質合金薄膜による感応部2が形成された水素検知素子1を作製した。
【0048】
(3)水素検知素子の実装
上記により作製した水素検知素子1の基板を、TO−5型金属からなるパッケージ部10にエポキシ樹脂接着材を用いて実装し、パッケージ部10の各電極端子11,13と、水素検知素子1の電極パッド3、ヒーター部4とをそれぞれ金ワイヤー(導電線12,14)を用いて接続した。
【0049】
(4)フィルターキャップの装着
100メッシュのステンレス製フィルターキャップ15を上記(3)の水素検知素子1が実装されたパッケージ部10に装着し、水素検知センサを製造した。
【0050】
[実施例2]
図2の形態の水素検知センサを製造した。
【0051】
(1)感応部の作製
上記実施例1(1)の方法と略同様にして基板表面に感応部2を作製した。すなわち、両面にそれぞれ500nmの厚みで酸化膜を形成した厚み0.525mmのシリコン基板の表面に、スパッタ成膜法を用いて、Ti/Ptを成膜した。このときの膜厚は各0.01μm/0.5μmとした。次いでこの薄膜をフォトリソ法によりパターニングし、電極パッド3とヒーター部4を作成した。そして、基板の表面に感光性レジストをコーティングし、露光、現像、ポストベークを行うことにより、感応部2のリフトオフ・パターンを形成し、スパッタ成膜法を用いて、Pd−Cu−Si系非晶質合金薄膜を形成した。
【0052】
次いで、レジストのリフトオフを行うことにより、Pd−Cu−Si系非晶質合金薄膜による感応部2が形成された水素検知素子1aを作製した。この合金薄膜の元素組成比は、Pd77CuSi17であり、薄膜の厚みは100nmであった。
【0053】
(2)水素検知素子の実装
上記(1)により得た水素検知素子1aを上記実施例1(3)と同様の方法にてパッケージ部10に実装した。
【0054】
(3)フィルターキャップの撥水処理
100メッシュのステンレス製フィルターキャップ15を上記実施例1(2)にて用いたコーティング溶液にディップコートし、100℃で1時間加熱乾燥することにより、その表面を撥水処理した。
【0055】
(4)フィルターキャップの装着
上記(3)にて撥水処理されたフィルターキャップ15を、上記(2)の水素検知素子1aが実装されたパッケージ部10に装着し、水素検知センサを製造した。
【0056】
[実施例3]
感応部2を表面処理するコーティング溶液の撥水性化合物として、3M社製「ノベック EGC−1700」(ハイドロフルオロエーテル)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして水素検知素子1を作製し、これをパッケージ部10に実装し、100メッシュのステンレス製フィルターキャップ15を装着することにより水素検知センサを製造した。
【0057】
[比較例1]
上記実施例2の(1)及び(2)と同じ方法で水素検知素子1aが実装されたパッケージ部10を作製した。このパッケージ部10に100メッシュのステンレス製フィルターキャップ15を装着し、水素検知センサを製造した。
【0058】
[応答性試験]
実施例及び比較例により製造した水素検知センサの水素に対する応答性を、検出部6で感応部2の電気抵抗を検出することで評価した。
【0059】
(初期応答性)
密閉チャンバーの中に水素検知センサを入れ、チャンバー内に100%の窒素ガスを流しながら水素検知素子のヒーター部4に通電し、水素検知素子が100℃となるように制御した。水素検知素子の温度と検出される電気抵抗とが安定した時点で応答性試験の測定を開始した。応答性試験は、初めに100%窒素ガスを30秒間流し、次いで100%水素ガスと100%窒素ガスとを10秒間隔で切り替えてチャンバー内に流し、水素ガスが計5回流れた後、窒素ガスを30秒間流して測定を終えた。この間の感応部2の電気抵抗値を0.1秒毎に出力した。このようにして得られた電気抵抗値について、初期値(測定開始時における安定した電気抵抗)をRとし、応答性試験中における電気抵抗をRとし、初期値に対する測定値の電気抵抗率R/Rを水素ガス検知信号とした。
【0060】
応答性試験においては、窒素ガスから水素ガスに切り替えた際、水素ガス検知信号は上昇し、一定の値となって安定するが、この上昇して安定した際の検知信号を100%に設定し、測定開始時における水素ガス検知信号を0%と設定して、窒素ガスから水素ガスに切り替えてから水素ガス検知信号が90%に至るまでの時間(90%応答時間:T)と、水素ガスから窒素ガスに切り替えてから水素ガス検知信号が10%に至るまでの時間(10%戻り時間:T)を測定した。水素ガスに切替えた際の5回の測定の平均値を計算し、初期応答性とした。
【0061】
(ガス暴露)
実施例及び比較例により製造された水素検知センサを低分子シロキサンを含んだガスに暴露させた。低分子シロキサンとしては、代表的なものである、Gelest社の「SID2650.0」[decamethyl cyclopentasiloxane:C1030Si]を用いた。この低分子シロキサン(液体)を密閉された容器に入れ、液体中に窒素ガスを吹き出しバブリングさせて、発生したガスを水素検知センサが入っている密閉容器内に流した。低分子シロキサンの温度は25℃、水素検知素子の温度は100℃、暴露時間は1時間とした。
【0062】
(ガス暴露後の応答性)
上記により低分子シロキサンのガスが暴露された水素検知センサを用い、上記初期応答性と同様の方法により暴露後の90%応答時間(T)と、暴露後の10%戻り時間(T)を測定した。水素ガスに切替えた際の5回の測定の平均値を計算し、ガス暴露後の応答性とした。
【0063】
表1に実施例、比較例により得た水素検知センサの応答性試験の結果(T〜T)を示す。また、図4(a)に実施例1の初期応答性の、図4(b)に実施例1のガス暴露後の応答性の、図5(a)に比較例1の初期応答性の、図5(b)に比較例1のガス暴露後の応答性の、それぞれ測定チャート(検知信号特性)を示す。図4、5における測定チャートでは、横軸を測定時間、縦軸を電気抵抗率R/Rとしている。
【0064】
実施例により得た水素検知センサは、低分子シロキサンに暴露された後も応答速度に変化がないのに対し、比較例により得た水素検知センサは、暴露後に90%応答時間及び10%戻り時間のいずれも遅くなっている。比較例では、低分子シロキサンが感応部2に付着し、水素と感応部2を構成する金属との反応が妨げられたために応答時間が遅くなったものと考えられる。一方、実施例では、撥水処理により低分子シロキサンが感応部2に付着することを防止しているため、水素検知素子の応答性能が劣化しなかったものと考えられる。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1 水素検知素子
2 感応部
3 電極パッド
4 ヒーター部
5 素子基材
6 検出部
7 ヒーター制御部
8 導電線
9 導電線
10 パッケージ部
11 電極端子
12 導電線
13 電極端子
14 導電線
15 フィルターキャップ
16 フィルター部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部と、前記感応部の電気抵抗の変化を検出する検出部とを備え、前記感応部は、その表面が撥水処理されていることを特徴とする水素検知素子。
【請求項2】
撥水処理がフッ素を含む化合物による処理であることを特徴とする請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項3】
水素を溶解して電気抵抗が変化する特性を有する金属からなる感応部、及び前記感応部の電気抵抗の変化を検出する検出部を有する水素検知素子と、前記水素検知素子の少なくとも感応部を実装するパッケージ部と、金属メッシュ又は多孔質金属焼結体からなり、前記パッケージ部に前記感応部を覆うように装着されるフィルター部とを備え、前記フィルター部は、その表面が撥水処理されていることを特徴とする水素検知センサ。
【請求項4】
撥水処理がフッ素を含む化合物による処理であることを特徴とする請求項3に記載の水素検知センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223816(P2010−223816A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72383(P2009−72383)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】