説明

水素生成用触媒体、その製造方法及び水素生成装置

【課題】高効率で水素を製造し、水素の安定的な供給を可能にする水素生成用触媒体、その製造方法及び水素生成装置を提供する。
【解決手段】基材表面にCu及びZnを触媒成分として含む触媒膜を担持させてなる水素生成用触媒体において、前記触媒膜は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子と、前記多孔質粒子が分散されたCu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスとから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い水素生成性能を有する水素生成用触媒体、その製造方法及び水素生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電力産業分野や自動車産業分野等においては、化石燃料の枯渇に対応するための省エネルギー化の促進や、環境保全等の観点に基づくCOやNOの濃度の低減を実現するために、燃料を多様化する技術の研究および導入が促進されている。こうした燃料多様化技術の一つとして水素ガスの利用技術が挙げられる。
【0003】
この水素ガスの利用技術としては、例えば、燃料電池発電プラントや水素燃焼発電プラントが挙げられる。
【0004】
燃料電池発電プラントは、炭化水素等を改質させた水素リッチな燃料改質ガスと酸素とを電気化学的に反応させ、直接電気エネルギーを発生させるものであり、従来、多くの発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、水素燃焼発電プラントは、高圧の水素ガスと純酸素ガスとを燃焼させて高温の水蒸気を発生させ、発生した高温の水蒸気の膨張でタービンに仕事をさせ、その際に発生する動力で発電機を駆動して発電を行うものである(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
これらの燃料電池発電プラント及び水素燃焼発電プラントは共にNO、SO、CO等の環境汚染物質や温暖化ガスを発生させないという点で、理想的なエネルギーであるとされており、新エネルギー推進政策の一環として研究開発の成果が期待されている。
【0007】
炭化水素化合物、例えばジメチルエーテル等の含酸素炭化水素化合物から、水素を効率的に生成するためには、触媒を作用させながら、水蒸気改質を行うことが効果的である。
【0008】
この場合、触媒作用により水素を効率的に生成させるためには、水蒸気改質器の反応容器内に十分な量の触媒が存在することが必要である。
【0009】
一般的に触媒は、触媒の特性、例えば触媒の反応性などを向上させるために触媒前駆体のゾル等を熱処理することで作製することが多く行われているが、ゾル等の溶液から触媒を作製する際には、その熱処理後の収率が10分の1程度と低くなってしまう。そのため、反応容器内に設置する基材表面に十分な量の触媒を担持させるためには、基材への触媒前駆体の被着(含浸)及び熱処理を繰り返さなければならず、製造工程が複雑になるとともに、何度も熱処理が必要になるので、触媒の反応面積が減少するなどにより触媒の特性が劣化することがあった。
【0010】
そのため、ゾル濃度を高くして基材への触媒前駆体の被着(含浸)量を増加させる等の検討が行なわれていたが、高濃度化によるゲル状化が進み、粘性が極めて高くなり、金属イオンの分散状態が悪くなるため、いまだ満足いく効率は得られていない。
【特許文献1】特開2001−85040号公報
【特許文献2】特開平11−36820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように触媒反応の効率を向上させるために種々の検討がなされているにもかかわらず、いずれの場合においても未だ効率が十分とは言い難く、さらに効率向上のための有効な施策が求められていた。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであって、高効率で水素を製造し、水素の安定的な供給を可能にする水素生成用触媒体、その製造方法及び水素生成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、触媒反応の効率向上に関して鋭意研究を重ねた結果、基材表面に担持される触媒膜が、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子と、前記多孔質粒子が分散されたCu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスとから構成されるものとすることで、触媒膜の比表面積および被分解物質の吸着部位を大幅に増やすことが可能となり、触媒性能を大幅に向上させることができることを見い出した。
【0014】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る水素生成用触媒体は、基材表面にCu及びZnを触媒成分として含む触媒膜を担持させてなる水素生成用触媒体において、前記触媒膜は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子と、前記多孔質粒子が分散されたCu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスとから構成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の実施形態に係る水素生成用触媒体の製造方法は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径10〜500μmの多孔質粒子を形成する工程と、前記多孔質粒子を、Cu、Zn及びAlのアルコキシドを含むゾルに分散させて分散液を調製する工程と、前記分散液を基材に被着させ、加熱により基材に触媒膜を形成させる工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のさらに他の実施形態に係る水素生成装置は、上記の水素生成用触媒体が容器に充填されて構成された水蒸気改質器を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高効率で水素を製造し、水素の安定的な供給を可能にする水素生成用触媒体、その製造方法及び水素生成装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。初めに、本発明の一実施形態に係る水素生成用触媒体について説明する。
【0019】
この実施形態に係る水素生成用触媒体は、基材と、基材表面に担持されたCu及びZnを触媒成分として含む触媒膜とから構成される。
この実施形態に用いられる触媒膜は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子と、前記多孔質粒子が分散されたCu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスとから構成される。基材表面上の多孔質粒子は、Cu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスにより基材表面上に担持されている。
【0020】
この実施形態における多孔質粒子は触媒としての性能を発揮し得る形状であればどのような形状であってもよい。例えば、楕円形、陥没球状、円柱状、フレーク等であってもよい。製造条件の制御等により形状の変更が可能である。例えば、スプレードライ法を用いて多孔質粒子を製造する場合には、ほぼ(真)球状の粒子を得ることができる。また、この多孔質粒子は多結晶状である。
【0021】
この実施形態における多孔質粒子の平均粒径は光学顕微鏡により測定することができる。また、この多孔質粒子の平均粒径は10〜500μmであるが、操業性及びプロセスでの安定性等を考慮すると、30〜450μmの範囲が好ましい。多孔質粒子の平均粒径を10μm未満とすると、製造時のハンドリングが困難となり、一方、平均粒径が500μmを超えると、脱落等により反応効率が低下するためである。
【0022】
この実施形態における多孔質粒子の気孔率は20〜90%の範囲である。気孔率は40〜90%の範囲がより好ましい。多孔質粒子の気孔率が20%未満であると十分な比表面積が得られず、触媒性能が十分ではない。また、気孔率が90%を超えると、多孔質粒子の強度が著しく低下し、実際の機器への適用が困難となるためである。なお、気孔率は、水銀ポロシメータを用いて測定することができる。
気孔率の調整は、例えば多孔質粒子を構成する(ゾル)溶液中へ、熱処理により除去される水溶性樹脂、例えばフェノール樹脂、ポリエチレングリコール等の添加量を制御することにより行なうことが可能である。
【0023】
この多孔質粒子が基材表面上に分散されていることが好ましい。なぜなら、基材と多孔質粒子とが接触する部位においては化学ポテンシャルが高いため被分解物質が効率良く吸着して、触媒性能が向上するからである。
【0024】
多孔質粒子は、基材表面上に30重量%以上で存在することが好ましい。多孔質粒子が
30重量%未満の場合には、多孔質粒子の比表面積の増大効果および基材と多孔質粒子とが接触する部位での吸着効果の相乗効果が減少し、触媒性能が低下するためである。
【0025】
また、この多孔質粒子はCu及びZnを触媒成分として含む。これらのCuとZnの配合比率は、使用される原料の種類に応じて決めることができる。例えば、原料としてエーテル系の原料(例えば、ジメチルエーテル)を用いる場合には、その比率は通常Cu:Zn=99.9:0.1〜60:40程度である。
【0026】
この多孔質粒子は、さらに酸化アルミニウムを含むことも可能である。酸化アルミニウムを含むことにより、各種の酸化アルミニウム(例えばγ−アルミニウム)が水素生成の一次触媒(後述するように、水素生成反応の第1段階の反応の触媒)として寄与することができる。酸化アルミニウムの多孔質粒子中の配合量は、使用される原料の種類に応じて決めることができる。例えば、原料としてエーテル系の原料を用いる場合には、多孔質粒子の全量100重量%を基準にして(100重量%のうち)、90重量%以下である。さらには、40〜80重量%の範囲がより好ましい。酸化アルミニウムの配合量が90重量%を超えると、水素生成の触媒反応の触媒性能(特に水素生成反応の第2段階の反応の触媒性能)が低下するからである。
【0027】
さらに、触媒成分としてPd、Ni等の金属も含むことができる。これらの金属も水素生成の触媒反応に寄与するからである。これらの配合量は、多孔質粒子の全量100重量%を基準にして、5重量%以下である。
【0028】
マトリックス中に分散される多孔質粒子の配合量は、多孔質粒子とマトリックスの全量100重量%を基準にして、10〜90重量%である。多孔質粒子の配合量が高いほど、比表面積が向上し、触媒性能が向上するが、多孔質粒子の配合量が90重量%を超えるとマトリックスによる基材への担持が弱くなり、多孔質粒子の配合比率が10重量%未満だと、比表面積の増大効果が減少し、触媒性能が低下するためである。
【0029】
次に、この実施形態における触媒膜を構成する、Cu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスについて説明する。このマトリックス中には、Cu及びZnを構成成分として含む多孔質粒子が分散されている。また、このマトリックスは、Cu、Zn及び酸化アルミニウムを触媒の構成成分として含むものである。
【0030】
Cu、Zn及び酸化アルミニウムの配合量(配合比率)は、使用される原燃料の種類により、最適な配合比率を試験的に容易に決めることができる。例えば、使用する原燃料がエーテル系の原料(例えば、ジメチルエーテル)である場合には、例えば、Cuは10〜39.9重量%、Znは0.1〜10重量%、酸化アルミニウムは、60〜89.9重量%の範囲内で適宜きめることができる。これらのうち、Cuは15〜30重量%、Znは0.2〜7重量%、酸化アルミニウムは65〜80重量%の範囲内が好ましい。Cu:Zn:酸化アルミニウムの配合比率は25:5:70が最も好ましい。
【0031】
このマトリックスは、Cu、Zn及び酸化アルミニウムの他に、触媒の構成成分として、例えばPd、Niなど又はゼオライト、酸化タングステン、例えば三酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン、例えば二酸化モリブデン(MoO)などを含むことができる。これらの配合量は、触媒膜を構成するマトリックスの全量100重量%を基準にして、5重量%以下含むことができる。
【0032】
次に、この実施形態で用いられる触媒膜の膜厚について説明する。これらの触媒膜の膜厚は、0.1〜500μmである。膜厚は、30〜200μmが好ましい。触媒膜の膜厚が0.1μmより小さいと接着強度が小さくなり多孔質粒子の剥離などが生じ、膜厚が500μmより大きいと膜自体の剥離が生じるためである。なお、これらの値は実験により確認された好ましい範囲である。
【0033】
また、この実施形態に用いられる触媒膜において、触媒膜の気孔率は、20〜90%である。触媒膜の気孔率は、40〜80%が好ましい。触媒膜の気孔率が20%未満であると十分な比表面積が得られず、触媒性能が十分ではない。また、気孔率が90%を超えると、触媒膜の強度が著しく低下し、実際の機器への適用が困難となるためである。なお、これらの値はこれらの値は実験により確認された好ましい範囲である。
気孔率の調整は、例えば多孔質粒子又は触媒膜を構成する(ゾル)溶液中へ、熱処理により除去される水溶性樹脂、例えばフェノール樹脂、ポリエチレングリコール等の添加量を制御することにより行なうことが可能である。
【0034】
次に、この実施形態で用いられる基材について説明する。この基材は、上記の多孔質粒子及びマトリックスからなる触媒膜を担持できる基材であればどのようなものも使用することが可能である。例えば、セラミクス多孔体、多孔質ビーズ等を挙げることができる。セラミクス多孔体は、例えばアルミナ、セリア、ジルコニア、窒化アルミナ、チタニア、炭化珪素、シリカ及びマグネシアのうちから選択される、少なくとも1つ以上の、金属酸化物、金属窒化物又は金属炭化物で組成されることができる。また、セラミクス多孔体は、三次元網目構造を有するセラミクス多孔体が好ましい。基材が三次元網目構造を有するセラミックス多孔体であることで、基材表面に触媒を効率よく担持させることが可能になる。
【0035】
この実施形態に係る水素生成用触媒体が用いられる原燃料としては、炭化水素、特に含酸素炭化水素が挙げられる。具体的には、炭化水素としては、例えばメタン、エタン、プロパン、エーテル系炭化水素としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、アルコール系炭化水素としては、例えばメタノール、エタノール等が挙げられる。これらのうち、エーテル系炭化水素が好ましく、中でもジメチルエーテルが最も好ましい。
【0036】
この実施形態に係る水素生成用触媒体によれば、触媒膜中に、平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子が分散しているため、比表面積が増大し、反応面積が増大する。また、基材と多孔質粒子とが接触する部位においては、化学ポテンシャルが高いため被分解物質が効率良く吸着される。これらの両者の相乗効果により、触媒性能を大幅に向上できる。
【0037】
次に、本発明の第二の実施形態に係る水素生成用触媒体の製造方法について説明する。この水素生成用触媒体の製造方法をゾルゲル法に基づいて説明する。この水素生成用触媒体の製造方法は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径10〜500μmの多孔質粒子を形成する工程と、前記多孔質粒子を、Cu、Zn及びAlのアルコキシドを含むゾルに分散させて分散液を調製する工程と、前記分散液を基材に被着させ、加熱により基材に触媒膜を形成させる工程と、を具備するものである。
【0038】
まず、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径10〜500μmの多孔質粒子を形成する工程について説明する。例えば、硝酸銅と硝酸亜鉛の(ゾル)溶液を調製し、次いで、スプレードライ法により又は所定の加熱条件下で乾燥させることにより作製できる。CuとZnの配合比率は、硝酸銅と硝酸亜鉛の溶液(アルコキシド溶液)の濃度比により容易に調製することができる。また、さらに他の成分、例えば酸化アルミニウム等を加える場合には、アルミニウム等のアルコキシドを加えることにより作製することができる。
【0039】
多孔質粒子の平均粒径を調整するためには、アルコキシド溶液を加熱する場合にはその加熱温度及び加熱時間等を調整することにより、また、スプレードライ法により作製する場合にはディスクの回転数若しくは熱風温度を調整することにより行うことができる。これらのうち、スプレードライ法を用いる方が、アルコキシド(ゾル)溶液が瞬時に乾燥されるので、触媒の偏析が少なくなるため好ましい。
また、多孔質粒子の気孔率は、熱処理によって酸化され、除去される水溶性樹脂の添加及びその添加量によって制御することができる。所望の気孔率を得るための水溶性樹脂の添加量は、試験的に容易に決定できる。
【0040】
次に、この実施形態における多孔質粒子を、Cu、Zn及びAlのアルコキシドを含むゾルに分散させて分散液を調製する。これらのアルコキシドのCu、Zn及びAlの配合量は、触媒膜を構成するマトリックスの、それぞれの触媒成分の所望の配合比率に応じて容易に決定することができる。また、多孔質粒子と、Cu、Zn及びAlのアルコキシドを含むゾルの配合比率は、最終的に調製する触媒膜中の多孔質粒子及び触媒膜中のマトリックスの配合量に基づいて容易に決定することができる。例えば、多孔質粒子の配合量を多くすることにより、触媒膜中の多孔質粒子の配合量を増加させることができる。また、多孔質粒子の配合量を多くすることにより、基材への触媒膜の形成の回数を減少させることができるので、触媒体の作製がより容易になる。
触媒膜の気孔率は、熱処理によって酸化され、除去される水溶性樹脂の添加及びその添加量によって制御することができる。所望の気孔率を得るための水溶性樹脂の添加量は、試験的に容易に決定できる。
【0041】
さらに、上記の分散液を基材に被着させて、加熱により基材に触媒膜を形成させる。分散液の基材への被着の量は、分散液中の多孔質粒子の配合量の調整等により決められる。
基材へ被着された分散液を加熱することにより、基材表面上に触媒体を形成させることができる。また、基材表面に所望量の触媒膜が形成されるまで、分散液を基材に被着させ、加熱により基材に触媒膜を形成させる工程を繰り返すことが可能である。
【0042】
多孔質粒子は、新たなゾル液に添加しても、多孔質粒子の作製に使用した元のゾル液に戻してもよい。また、これらの多孔質粒子は必要に応じて分級した後のものを用いてもよい。
【0043】
また、このような触媒体の製造方法としては、ゾルゲル法の他にも、いわゆる共沈法、溶液法等によっても製造することが可能である。
【0044】
この実施形態に係る水素生成用触媒体の製造方法によれば、例えばゾルゲル法において、分散液(ゾル)が多孔質粒子を有するので、担時量を容易に増加させることが可能になる。そのため、基材表面に触媒膜を形成させる前駆体被着(含浸)と熱処理の工程の繰り返し数を低減させることが可能になり、製造工程が簡素化され、水素生成用触媒体の製造コストが低減し、量産が可能となる。また、触媒膜が熱処理される回数が低減されるため、触媒膜の特性の劣化、例えば熱処理による比表面積(反応面積)の減少が抑制できる。
【0045】
また、本発明の第三の実施形態に係る水素生成装置について説明する。図1は、本発明の第三の実施形態である水素生成装置の一例の概略を示す概念図である。水素生成装置1は、水蒸気改質器2、この水蒸気改質器2中に配置された改質部3、バーナ4、熱交換器5を備える。水素生成装置1は、水蒸気改質器から供給される生成ガス(改質(水素リッチ)ガス)を処理するためのCO変成器6、CO除去器7等の少なくとも1つを備えていてもよい。本発明の第一の実施形態に係る水素生成用触媒体は、水蒸気改質器2中の改質部3に配置される。
【0046】
以下に、水蒸気改質の作用について説明する。原燃料として、含酸素炭化水素(例えば、ジメチルエーテル)を用いる場合に基づいて説明する。原燃料(ジメチルエーテル)に、熱交換機5を通過した水蒸気を加えた混合燃料ガスが、水蒸気改質器2に供給される。一方、燃焼ガス及び空気等がバーナ4で燃焼された高温ガスが水蒸気改質器に供給される。水蒸気改質器2中の改質部3に導入された混合燃料ガスが、高温ガスの熱により水蒸気改質されて水素が発生する。なお、水蒸気改質器2を通った高温ガスは、熱交換器5に導入され、水を水蒸気へと変換する熱源として使用される。
【0047】
この実施形態における水蒸気改質器2中の改質部3に配置された水素生成用触媒体により、例えば、ジメチルエーテルを原燃料とする場合には、下記の反応
CHOCH + HO = 2CHOH (1)
2CHOH + 2HO = 6H + 2CO (2)
により、水素を生成することが可能となる。
なお、水素の生成とは、原燃料が全て水素に変換される場合だけでなく、水素量が増加したいわゆる水素リッチな燃料改質ガスを生成することも含む。
【0048】
この実施形態に係る水素生成装置は、水素生成用触媒体が容器に充填されて構成された水蒸気改質器を具備することができる。この水素生成装置は、水素生成用触媒体が容器に充填されて構成された水蒸気改質器構造とすることで、より効率的な水素生成が可能となる。
【0049】
この実施形態における水素生成用触媒体は、上記の水素生成装置に限らず、水蒸気改質器を有する水素生成装置のいずれにも使用することが可能である。
【0050】
この実施形態に係る水素製造装置は、改質部3から水素リッチな燃料改質ガスに含まれているCOを、CO変成器6及びCO除去器7の少なくとも一方の処理によって、より水素リッチな燃料改質ガスを生成させることも可能である。
【0051】
また、この実施形態に係る水素生成装置の水蒸気改質器に供給される原燃料は、含酸素炭化水素を使用することが好ましい。これらのうち、ジメチルエーテルが特に好ましい。
【0052】
この水素生成装置は、原燃料をジメチルエーテルとすることで、安全性が高い原料で効率よく水素を生成することが可能となる。
【0053】
なお、この実施形態に係る水素生成装置は、燃料電池発電プラントや水素燃焼発電プラント等に使用することができる。
【0054】
この実施形態に係る水素生成装置によれば、水素生成用触媒体を含む水蒸気改質器構造を有するので、水素の生成を効率的に行なうことが可能となり、水素の安定的な供給が可能になる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の水素生成用触媒体、その製造方法および水素生成装置について、図2ないし図5を用いて説明する。なお、この実施例では触媒膜及び触媒体の製造手順を示すとともに、多孔質粒子の平均粒径等を変えた触媒膜を作製した。
【0056】
(実施例1)
純水2Lに、アルミニウムイソプロポキシド、硝酸銅、硝酸亜鉛を添加した溶液にエチレングリコールをさらに添加した溶液を、80℃に加熱しながら硝酸を添加しpHを2に調整して、最終的にアルミナ70%、銅25%、亜鉛5%となるように調整したゾル溶液を得た。
このようにして作製したゾル溶液の半分の量をスプレードライ法(ディスクの回転数10000rpm、熱風温度200℃)を用いて乾燥させ、平均粒径が70μmである球状の触媒乾燥体(多孔質粒子)を得た。
【0057】
この多孔質粒子を、残りの半分の量のゾル溶液に加えてゾル中に球状の多孔質粒子が分散したゾル溶液を得た。
【0058】
これを基材となるコーディエライト(MgAlSi18)を主成分とし、気孔率85%の三次元網目構造を有するセラミックス多孔体に含浸塗布し、乾燥した。なお、所望の触媒膜の膜厚(50μm)を得るために、この操作を2回繰り返した。その後、500℃で5時間の酸化処理と、水素気流中で、400℃で10時間の還元処理を施し、基材に触媒膜が担持された触媒体を得た。
この触媒膜中の多孔質粒子の平均粒径は50μmであった。また、多孔質粒子の気孔率は40%であった。さらに、この触媒膜を走査型電子顕微鏡により観察したところ、基材表面上に多孔質粒子が存在することが確認された。
この触媒膜の膜厚は50μmであり、触媒膜の気孔率は60%であった。
【0059】
(比較例1)
比較のため、多孔質粒子を添加しないものを実施例1と同様の方法により作製した。なお、この場合、濃度15重量%のゾル液を使用したが、所望の触媒膜の膜厚(50μm)を得るために、7回、基材への含浸、乾燥を繰り返した。
【0060】
実施例1の触媒体及び比較例1の触媒体を水蒸気改質装置内に設置し、ジメチルエーテルを原燃料として水蒸気改質を実施し、水素生成率を評価した。なお、水蒸気改質温度は350℃、1atmの条件化で行った。これらの結果を図2に示す。
【0061】
これらの結果より、水素生成率は多孔質粒子が分散された実施例1が優れていることが明らかになった。
【0062】
(実施例2)
スプレードライ法の条件(ディスク回転数、熱風温度)を変えて、平均粒径が異なる多孔質粒子を作製し、これらの多孔質粒子を用いて、実施例1と同様に触媒体を作製した。さらに、実施例1と同様に、これらの触媒体を水蒸気改質装置内に設置し、ジメチルエーテルを原燃料として水蒸気改質を実施し、水素生成率を評価した。なお、水蒸気改質温度は350℃、1atmの条件化で行った。その結果を図3に示す。
【0063】
なお、比較のため平均粒径が10μm未満の多孔質粒子も作製しようとしたが、ゾル中での分散が困難であり、触媒膜を作製できなかった。また、同様に500μmを越える粒径の多孔質粒子により作製した触媒膜も、プロセス中での脱落が大きかった。
また、図3の結果より、多孔質粒子の平均粒径が10〜500μmの範囲である場合に、水素生成率が良好であり、中でも、多孔質粒子の平均粒径が30〜450μmの範囲である場合に、水素生成率がより良好であった。この結果より、水素生成率は実施例の方が優れていることが明らかになった。
【0064】
(実施例3)
多孔質粒子を作製するゾル中へ、熱処理によって酸化し、除去されるフェノール性樹脂の添加量を調整して、気孔率がそれぞれ異なる多孔質粒子を作製した。これらの多孔質粒子を用いて、実施例1と同様の方法により、触媒体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法により、これらの触媒体を水蒸気改質器内に設置し、ジメチルエーテルを原燃料として水蒸気改質を実施し、水素生成率を評価した。なお、水蒸気改質温度は350℃、1atmの条件化で行った。その結果を図4に示す。
【0065】
比較例として、気孔率が95%の多孔質粒子を作製しようとしたが、崩壊し形状を維持することはできなかった。また図4の結果より、水素生成率は、多孔質粒子の気孔率が、20〜90%の範囲が良好であり、40〜90%の範囲がより良好であることが確認された。
【0066】
(実施例4)
ゾル中に添加する多孔質粒子の量を変え、基材表面上の多孔質粒子の存在分布を、それぞれ変えた以外は、実施例1と同様に触媒体を作製し、水素生成率を評価した。その結果を図5に示す。
【0067】
図5の結果より、高い水素生成率を得るためには、基材表面上の多孔質粒子の存在分布は、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましいことが確認された。
【0068】
(実施例5)
純水に、硝酸銅の溶液及び硝酸亜鉛の溶液を加えた溶液を用いて、実施例1と同様の方法で、最終的に銅80%、亜鉛20%となるように調整してゾル溶液を得た。
スプレードライ法(ディスクの回転数10000rpm、熱風温度200℃)を用いて乾燥させ、平均粒径が60μmである球状の多孔質粒子を得た。
【0069】
このようにして得られた多孔質粒子が分散したゾル溶液を用いて作製した水素生成用触媒体も、実施例1と同様に水素生成用触媒として良好な触媒作用をすることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る水素製造装置の概略を示す概念図である。
【図2】本発明の実施形態に係る触媒体の多孔質粒子の添加効果と触媒効率との関係示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る触媒体の多孔質粒子の平均粒径と触媒効率との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る触媒体の多孔質粒子の気孔率と触媒効率との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る触媒体における、基材表面上の多孔質粒子の存在分布と触媒効率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1…水素生成装置、2…水蒸気改質器、3…改質部、4…バーナ、5…熱交換器、6…CO変成器、7…CO除去器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面にCu及びZnを触媒成分として含む触媒膜を担持させてなる水素生成用触媒体において、
前記触媒膜は、Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径が10〜500μmの多孔質粒子と、前記多孔質粒子が分散されたCu、Zn及び酸化アルミニウムを含むマトリックスとから構成されることを特徴とする水素生成用触媒体。
【請求項2】
前記多孔質粒子の気孔率は、20〜90%であることを特徴とする請求項1記載の触媒体。
【請求項3】
前記多孔質粒子は、基材表面上に30重量%以上で存在することを特徴とする請求項1又は2記載の触媒体。
【請求項4】
前記多孔質粒子は、酸化アルミニウムを触媒成分としてさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の触媒体。
【請求項5】
前記触媒膜の膜厚は、0.1〜500μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の触媒体。
【請求項6】
前記触媒膜の気孔率は、20〜90%であることを特徴とする請求項5記載の触媒体。
【請求項7】
前記基材が三次元網目構造を有するセラミックス多孔体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の触媒体。
【請求項8】
Cu及びZnを触媒成分として含む平均粒径10〜500μmの多孔質粒子を形成する工程と、
前記多孔質粒子を、Cu、Zn及びAlのアルコキシドを含むゾルに分散させて分散液を調製する工程と、
前記分散液を基材に被着させ、加熱により基材に触媒膜を形成させる工程と
を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の水素生成用触媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の水素生成用触媒体が容器に充填されて構成された水蒸気改質器を具備することを特徴とする水素生成装置。
【請求項10】
前記水蒸気改質器に供給される原燃料が、ジメチルエーテルであることを特徴とする請求項9記載の水素生成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−260511(P2007−260511A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86420(P2006−86420)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】