説明

水素発生用多孔体、その製造方法及び水素発生方法

【課題】取扱い性が良好で、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能であり、しかも反応率が十分高い水素発生用多孔体、その製造方法、及び水素発生方法を提供する。
【解決手段】粒状の水素発生剤および樹脂を含有する水素発生用多孔体であり、好ましくは、気泡により多孔質化された水素発生用多孔体、並びに、粒状の水素発生剤と未硬化の熱硬化性樹脂とを混合した後、前記水素発生剤から水素ガスを発生させつつ熱硬化性樹脂を硬化させる工程を含む水素発生用多孔体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分等の反応液と反応して水素ガスを発生させる水素発生剤を含有する水素発生用多孔体、その製造方法、及び水素発生方法に関し、特に燃料電池に水素を供給するための技術として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、水を供給して水素ガスを発生させる水素発生剤としては、鉄、アルミニウム等の金属を主成分とするものや、水素化マグネシウムや水素化カルシウム等の水素化金属化合物を主成分とするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。なかでも、水素化カルシウムのような高反応性の主成分とする水素発生剤を用いる場合、水分との反応速度が急峻であるため、水分を液体(水)で供給すると水素ガスが初期に爆発的に発生するという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献2には、水素化金属化合物と水分との反応速度を適度にコントロールする目的で、水素化金属化合物と水との間に撥水性多孔体を介在させ、これを介して水蒸気を水素化金属化合物に供給する水素発生方法が開示されている。しかし、この方法では、水素発生剤の取扱いが煩雑となり、水素発生装置の装置構造が複雑になるという問題があった。
【0004】
一方、特許文献3には、酸水溶液と反応して水素ガスを発生させる金属水素錯化合物粉体と熱可塑性樹脂粉体とを混合した後に、圧縮成形してなる水素発生用圧縮成形体が開示されている。この水素発生用圧縮成形体では、回転板でその表面を削り取りながら、酸水溶液を供給して反応させる装置を用いて、水素ガスを発生させている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−314792号公報
【特許文献2】特開2003−313001号公報
【特許文献3】特開2003−146604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の水素発生用圧縮成形体は、水素発生の停止までの時間を短くする目的で、酸水溶液の浸透をさせないように高密度に圧縮成形されており、内部まで反応が進まないようにしてある。このため、酸水溶液と接触させるだけでは、表面付近だけしか反応が進まず、上記のような装置を用いない場合には、反応率が著しく低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、取扱い性が良好で、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能であり、しかも反応率が十分高い水素発生用多孔体、その製造方法、及び水素発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、水素発生剤と熱硬化性樹脂等とを混合して発泡・硬化させた多孔体が、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能であり、しかも反応率が十分高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の水素発生用多孔体は、粒状の水素発生剤および樹脂を含有することを特徴とする。本発明の水素発生用多孔体によると、多孔質構造を有するため、反応液の浸透性が良好となり、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能となる。また、樹脂を使用することで、多孔質構造が適度に崩壊して、反応が全体において進み易いため、十分な反応率が得られ易くなる。更に、樹脂により水素発生剤の反応性がある程度抑制されるため、取扱い性が良好となる。
【0010】
上記において、前記樹脂が熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂を使用することで、反応熱が生じても多孔質構造が閉塞しにくく、反応が全体においてより進み易いため、十分な反応率が得られ易くなる。
【0011】
また、本発明の水素発生用多孔体は、気泡により多孔質化されたものであることが好ましい。気泡により生成した多孔質構造は、気泡セル同士の境界壁が薄くなり易く、これが適度に崩壊しながら、反応が全体まで進み易くなる。
【0012】
水素発生用多孔体の密度は、0.1〜1.2g/cmであることが好ましい。この範囲の密度を有することで、反応液の浸透性が適度になり、取扱い性もより良好になる。
【0013】
また、前記水素発生剤が水素化金属化合物を含有することが好ましい。水素化金属化合物は水との反応で水素ガスを発生させることができ、これを利用して容易に気泡により多孔質化された構造を形成することができる。
【0014】
一方、本発明の水素発生用多孔体の製造方法は、粒状の水素発生剤と未硬化の熱硬化性樹脂とを混合した後、前記水素発生剤から水素ガスを発生させつつ熱硬化性樹脂を硬化させる工程を含むことを特徴とする。本発明の水素発生用多孔体の製造方法によると、簡易な方法により、取扱い性が良好で、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能であり、しかも反応率が十分高い水素発生用多孔体を製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法により得られる水素発生用多孔体の密度は0.1〜1.2g/cmであることが好ましい。この範囲の密度を有することで、得られる水素発生用多孔体の反応液の浸透性が適度になり、取扱い性もより良好になる。
【0016】
他方、本発明の水素発生方法は、上記いずれかに記載の水素発生用多孔体と反応液とを接触させて水素を発生させることを特徴とする。本発明の水素発生方法によると、取扱い性が良好な水素発生用多孔体を用いて、反応液と接触させるだけで適度な水素発生が可能であり、しかも十分高い反応率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水素発生用多孔体は、粒状の水素発生剤および樹脂を含有する。水素発生剤は、水等の反応液と反応して水素ガスを発生するものであり、本発明は、水素発生剤の取り扱い性を向上させる観点から、特に高反応性の水素発生剤に対して有効である。
【0018】
このような高反応性の水素発生剤としては、水素化カルシウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化アルミニウムナトリウム、又は水素化マグネシウムなどの水素化金属化合物を含有するものが挙げられる。これらの化合物等は、いずれも水と急激に又は爆発的に反応して水素ガスを発生することが知られており、いずれも水素化マグネシウム以上の水との反応性を示す。
【0019】
また、上記化合物以外の水素発生剤として、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウム等の金属、上記以外の金属水素錯化合物などを含有してもよい。水素化金属化合物、金属、金属水素錯化合物は、何れかを複数組み合わせて使用することもでき、また、それぞれを組み合わせて使用することも可能である。化合物を併用する場合、気泡による多孔質化を促進し易い化合物を含むことが好ましい。このような化合物としては、水素化カルシウムが特に好ましい。
【0020】
粒状の水素発生剤の平均粒径は、多孔体中への分散性や反応性を制御する観点から、1〜100μmが好ましく、6〜30μmがより好ましく、8〜10μmが更に好ましい。
【0021】
水素発生剤の含有量は、適度な反応性とある程度の水素発生量を確保する観点から、多孔体中、10〜60重量%が好ましく、30〜50重量%が好ましい。
【0022】
用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、耐熱性樹脂などが挙げられるが、熱硬化性樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、耐熱性樹脂としては、芳香族系のポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどが挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、または熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、水素発生反応中に多孔質構造を適度に維持できる観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
【0024】
樹脂の含有量は、適度な保形性とある程度の水素発生量を確保する観点から、多孔体中、30〜90重量%が好ましく、50〜70重量%が好ましい。
【0025】
本発明の水素発生用多孔体には、上記の成分以外の任意成分として、触媒、充填材、発泡剤などのその他の成分を含有してもよい。触媒としては、水素発生剤用の金属触媒の他、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ化合物も有効である。
【0026】
発泡剤としては、未硬化の熱硬化性樹脂に相分離・分散して、熱硬化性樹脂の反応温度で気化する液体が挙げられる。また、水素発生剤と反応して水素ガスを発生させる反応液を、未硬化の熱硬化性樹脂に微量添加しておくことも可能である。このような反応液としては、水、酸水溶液、アルカリ水溶液などが挙げられる。
【0027】
本発明の水素発生用多孔体は、気泡(発泡)、焼結、又は相分離などにより多孔質化された構造を有するが、好ましくは、気泡により多孔質化された構造を有するものである。多孔質化のための気泡は、発泡剤により生成するものでもよいが、水素発生剤から発生した水素ガスであることが好ましい。
【0028】
つまり、本発明の水素発生用多孔体は、本発明の製造方法、即ち、粒状の水素発生剤と未硬化の熱硬化性樹脂とを混合した後、前記水素発生剤から水素ガスを発生させつつ熱硬化性樹脂を硬化させる工程を含む製法により製造されることが好ましい。
【0029】
本発明の水素発生用多孔体は、密度が0.1〜1.2g/cmであることが好ましく、0.2〜0.9g/cmであることがより好ましく、0.3〜0.5g/cmであることが更に好ましい。この範囲の密度を有することで、反応液の浸透性が適度になり、取扱い性もより良好になる。このような密度は、例えば、水素ガスの発生量でコントロールすることが可能である。
【0030】
また、水素発生用多孔体の気泡径は、反応液の浸透性を適度に制御する観点から、直径0.1〜2mmが好ましく、直径0.5〜1mmがより好ましい。このような気泡径は、例えば、水素ガスの発生量でコントロールすることが可能である。また、気泡径や密度をコントロールするために、加圧条件下で熱硬化性樹脂の硬化を行ってもよい。
【0031】
本発明の製造方法において、水素発生剤から水素ガスを発生させるには、予め未硬化の熱硬化性樹脂に反応液を微量添加しておく方法や、未硬化の熱硬化性樹脂に含まれる反応液を利用する方法も可能であるが、硬化反応のための加熱により、水素発生剤(水素化金属化合物の場合)から水素ガスを脱離させる方法が好ましい。
【0032】
水素発生剤から水素ガスを脱離させる際の温度は、水素化金属化合物の種類によっても異なるが、50〜250℃が好ましく、80〜200℃がより好ましい。つまり、未硬化の熱硬化性樹脂の硬化温度として、この範囲の温度を選択することが好ましい。なお、水素ガスの発生温度と硬化温度とを変えることも可能である。
【0033】
硬化して得られた水素発生用多孔体は、その表面の反応性が破断面の反応性に比べて、低いという性質を有する。このため、粉砕、切断、破断等により破断面を露出させることで、水素発生用多孔体の反応性をより高めることができる。このような観点から、硬化物を更に粉砕したものが好ましい。粉砕を行う場合、その粒径は、1〜20mmが好ましく、3〜10mmがより好ましい。
【0034】
本発明の水素発生方法は、以上のような水素発生用多孔体と反応液とを接触させて水素を発生させるものである。反応液としては、水、酸水溶液、アルカリ水溶液などが挙げられる。供給する反応液の温度は、室温でもよいが、30〜80℃に加熱することも可能である。
【0035】
また、反応液の供給は、発生させる水素ガスの量に応じて供給量を調整することも可能であるが、本発明では過剰供給を行っても、反応速度が制御されているため、適度な発生速度で水素発生が可能である。
【0036】
従って、本発明の水素発生方法では、過剰な反応液中に水素発生用多孔体を浸漬する方法により、適度な発生速度で水素発生が可能である。また、反応液中への浸漬量を変えることで、水素発生速度を調整することも可能である。その他、水素発生用多孔体の表面の一部を、反応液の非透過性材料で覆うことにより、水素発生速度を調整することも可能である。
【0037】
本発明の水素発生用多孔体は、水素発生装置の装置構造を簡易化できるため、特に形態機器用の燃料電池の水素供給装置に使用する場合に有効である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0039】
(1)平均粒径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した写真から、平均的な粒子径を有するものを選び出し、その長径と短径とを平均して求めた。
【0040】
(2)密度
サンプルの質量を測定し、各辺の寸法から測定した体積で質量を除して密度を求めた。
【0041】
実施例1
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)3gにCaH(和光純薬社製、平均粒径10μm)1gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.32g/cmであり、図1に示すように、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。
【0042】
水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約3時間経過後には約800cc(理論水素発生量の73%)の水素が発生した。また、その15時間後には総水素発生量が約1000cc(理論値:CaH[1g]→約1100cc)に到達した。
【0043】
実施例2
実施例1においてエポキシ樹脂の含有量を1.5gに変える以外は同様にして、密度0.51g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体を得た。得られた多孔体を20℃の水中に浸して水上置換法で水素発生流速を1分毎に測定した。その結果を図2に示す。
【0044】
水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約4.5時間経過後には約970cc(理論水素発生量の83%)の水素が発生した。その後、水素発生が完全に停止した。なお、水素発生流速の様子としては、実験開始直後(約2分間)は10cc/min、その後、約90分間は6cc/minで推移した後、図2に示すように流速を減少させながら収束に至った。
【0045】
実施例3
未硬化の二液型エポキシ樹脂(東都化学社製、ベストン)3g(主剤2g+硬化剤1g)にCaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.2gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.42g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。
【0046】
水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約3時間経過後には約150cc(理論水素発生量の65%)の水素が発生した。また、その25時間後には総水素発生量が約180cc(理論値:CaH[0.2g]→約230cc)に到達した。1液型樹脂(実施例1)に比べて、2液型樹脂(実施例3)は崩れ易いサンプル構造になることが分かった。つまり、反応が進行するにつれて、サンプルが徐々に脆くなる現象が観察できた。
【0047】
実施例4
未硬化の2液型ポリエステルパテ(武蔵ホルト社製、アツヅケパテホワイト)3g(主剤2.8g、硬化剤0.2g)にCaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.5gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.62g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。
【0048】
水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約3分間経過した時点で約450cc(理論水素発生量の78%)の水素が発生した。その後、水素発生がピタッと止まった(理論値:CaH[0.5g]→約580cc)。その際、反応が進むにつれて、サンプルの細分化(崩れていく)する現象が観察できた。短時間で総水素発生量の8割近く水素発生ができるという現象が確認できた。
【0049】
実施例5
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)1gにLiH(和光純薬社製、平均粒径10μm)0.5gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.32g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。
【0050】
水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約5.5時間経過後には約770cc(理論水素発生量の51%)の水素が発生した。その後、19時間経過後には総水素発生量が約920cc(理論水素発生量の61%)に達して反応が完全に停止した。LiHもエポキシ樹脂に混ざり、且つ、水素発生を行なう現象が確認できた。
【0051】
実施例6
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)0.5gにCaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.5gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.57g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸す際に、水の量を変えた場合(水量10cc、水量50cc、水量1000cc)の水素発生の挙動を観察した。また、反応時の表面温度をサーモグラフィーで観察した。
【0052】
その結果、各々の水量において、水素発生度合いの違いは見られなかった。また、各々の反応時におけるサンプルの表面温度の違いも見られなかった(35〜40℃位)。このことより、サンプルの反応性は反応に必要以外の水量に依存しないことが確認できた。この結果から、注水量によって、水素発生流速の制御、水素発生のON及びOFFが容易にできることが確認できた。
【0053】
実施例7
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)0.5gにアルミニウム(高純度化学研究所社製、平均粒径3μm)0.5gと水酸化ナトリウム(和光純薬社製、平均粒径5.5mm)0.05gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.48g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約18時間経過後には約210cc(理論水素発生量の31%)の水素が発生した。
【0054】
実施例8
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)1.1gに水素化ホウ素ナトリウム(東京化成工業社製、平均粒径10μm)0.52gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.58g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約18時間経過後には約125cc(理論水素発生量の9%)の水素が発生した。
【0055】
実施例9
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)1gにLiH(和光純薬社製、平均粒径10μm)0.5gとCaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.05gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度0.57g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。この多孔体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。水素発生挙動としては、多孔体を水中に浸した直後から水素発生が始まり、約15.5時間経過後には約1268cc(理論水素発生量の76%)の水素が発生した。
【0056】
比較例1
高密度ポリエチレン樹脂(三菱化学社製、HY540)3gを粒径0.1mmに粉砕したものに、CaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)1gを添加して撹拌後、底面積が1cmのプレス成形用金型を用いて、温度約140℃、圧力150kg/cmの条件で10分間プレス成形を行い、圧縮成形体を得た。得られた圧縮成形体は、非多孔体であり、気泡が存在しない構造を有していた。この圧縮成形体を20℃の水中に浸すと、水素が発生した。水素発生挙動としては、圧縮成形体を水中に浸した直後に水素が発生したが、10分間経過後に発生が停止し、水素発生量は154cc(理論水素発生量の14%)であった。
【0057】
比較例2
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)0.5gにアルミニウム(高純度化学研究所社製、平均粒径3μm)0.5gを添加して撹拌後、乾燥機(120℃設定)にて約20分間乾燥硬化させた。得られた硬化物は、密度1.18g/cmであり、図3に示すように気泡が存在しない構造を有していた。この硬化物を20℃の水中に浸すと、水素が発生しなかった。
【0058】
比較例3
市販のゴミ袋に使用されたポリエチレン樹脂3.5gを細分化してシャーレに入れ、ホットプレートで150〜200℃に加熱して溶融させ、CaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.35gを添加して撹拌混合した後、冷却固化させた。得られた固化物は、密度3g/cmであり、気泡がほとんど存在しない構造を有していた。この固化物を20℃の水中に浸すと、最初の5分間で30ccの水素が発生したが(表面でのみ反応が生じたと考えられる)、その後、15分間は1cc/min程度の水素発生が起こり、以後、15時間経過で約15cc程度の水素発生が行なわれた。なお、CaHの理論水素発生量に対して水素発生量はその16%に過ぎなかった。
【0059】
試験例1
未硬化の一液型エポキシ樹脂(スリーボンド社製、2225G)0.48gにCaH(ケメタル社製、平均粒径10μm)0.48gを添加して撹拌後、アルミホイルに移して覆い、上から重しを載せて、乾燥機(120℃設定)にて約30分間乾燥硬化させた。得られた硬化物からアルミホイルを剥がして、硬化物(厚み4.5mm)を得た。この硬化物は、密度0.53g/cmであり、気泡により多孔質化された構造を有する多孔体であった。
【0060】
また、上記と同様にして作製した硬化物を約3mm角に粉砕したもの1.1gと、原料CaH粉末0.5gを用意した。これらを用いて、ポリカーボネート樹脂製の容器内(容積4.8cm)に入れ、容器内に水が満たされるように、水を供給して、水素を発生させた。その際の容器外表面の温度を熱電対を備える温度計で測定した。その際の温度変化を図4に示す。
【0061】
その結果、粉砕物の方が未粉砕物より水素発生時の温度が高温になり、反応性が高くなることが分かった。なお、原料CaH粉末を用いた場合、温度が120℃以上になり、反応の制御も困難であった。
【0062】
試験例2
CaHの含有量を10重量%に変えたこと以外は、実施例1と同じ条件で硬化物を作製した。この硬化物の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。この写真が示すように、本発明の多孔体は、気泡により多孔質化した構造が形成されており、大きな気泡セル同士の間に隔壁を有すると共に、その隔壁にも小さな気泡セルが形成されている構造であった。また、別のSEM写真から、エポキシ樹脂自体が微小な多孔質構造を有していることが分かった。
【0063】
また、この硬化物の破断面における材料の分布を調べるために、X線マイクロアナライザーを用いて、硬化物のSEM像の撮影と、像中のC点について元素分析を行った。その結果を図6に示す。その結果、大きな気泡セル同士の間の隔壁に、CaH粉末が埋設されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1と同じ条件(但し、CaHの含有量は50重量%)で作製した硬化物のデジタルカメラ写真(左側)及び光学顕微鏡写真(150倍、右側)
【図2】実施例2における水素ガスの発生流速の経時変化を示すグラフ
【図3】実施例1と同じ条件(但し、CaHの含有量は10重量%)で作製した硬化物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率のみを変えた写真、下側ほど高倍率)
【図4】試験例1における容器の外表面の温度変化を示すグラフ
【図5】実施例1と同じ条件(但し、CaHの含有量は10重量%)で作製した硬化物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真と、そのC点について元素分析を行った結果を示すグラフ
【図6】比較例2で作製した硬化物のデジタルカメラ写真(左側)及び光学顕微鏡写真(150倍、右側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の水素発生剤および樹脂を含有する水素発生用多孔体。
【請求項2】
前記樹脂が熱硬化性樹脂である請求項1に記載の水素発生用多孔体。
【請求項3】
気泡により多孔質化されたものである請求項1又は2に記載の水素発生用多孔体。
【請求項4】
密度が0.1〜1.2g/cmである請求項1〜3いずれかに記載の水素発生用多孔体。
【請求項5】
前記水素発生剤が水素化金属化合物を含有する請求項1〜4いずれかに記載の水素発生用多孔体。
【請求項6】
粒状の水素発生剤と未硬化の熱硬化性樹脂とを混合した後、前記水素発生剤から水素ガスを発生させつつ熱硬化性樹脂を硬化させる工程を含む水素発生用多孔体の製造方法。
【請求項7】
得られる水素発生用多孔体の密度が0.1〜1.2g/cmである請求項6に記載の水素発生用多孔体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5いずれかに記載の水素発生用多孔体と反応液とを接触させて水素を発生させる水素発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−173460(P2009−173460A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10663(P2008−10663)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(506239784)アクアフェアリー株式会社 (40)
【Fターム(参考)】