説明

水素脆化の検査方法

【課題】 水素脆化を広範囲な領域について容易かつ確実に検査できる方法を提供する。
【解決手段】 被検査材料を引っ張り、被検査材料にひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行うことを特徴とし、被検査材料に段階的にひずみを付与し、それぞれの段階で染色浸透探傷試験を行うことによって、水素脆化の状況を把握し、またひずみ率が5%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験で割れが検出されない場合は、非検査材料にはすぐに問題となる水素脆化はないと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素脆化の検査方法に関するものである。詳しくはチタン材等に発生する水素脆化を容易かつ確実に検査する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンを硫化水素含有流体などの腐食環境で長時間使用した場合に、腐食に伴って発生した水素を吸収し、チタンの水素化物を析出、延性が低下し、破損に至る場合がある。この現象はチタンの水素脆化と呼ばれている。チタンは熱交換器のチューブの他、クラッド鋼板等として使用されており、石油精製プラント、石油化学プラント等で多く使用されている。水素脆化は、必ずしも表面に全面的に発生するものではなく、非常に限られた部位に深く特異的に発生することもある。
また、水素脆化はチタンのみならず、ジルコニウムやタンタルにも見られる。
これらの水素脆化を検出し、その状況を把握することは、設備の点検時期および設備の更新時期を決定する上で重要である。
【0003】
染色浸透探傷試験は、広範囲な領域について、存在する割れを容易かつ確実に検査することができるが、水素脆化を検出することはできない。
水素脆化の検出は、主にミクロ組織検査法、すなわち被検査材料の表面を研磨、エッチングし、金属組織を顕微鏡で観察する方法で行われている。また、渦流探傷法、電気抵抗法、硬度測定法も知られている(非特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、ミクロ組織検査法は、上記のとおり、表面を研磨、エッチングし、金属組織を顕微鏡で観察する方法であるため、検査領域が限られるという欠点を有している。例えば、長さが8000mmの熱交換器のチタンチューブの場合、通常、20mm程度の長さを5〜10箇所切り出して検査しており、合計で約100〜200mmの長さ、全体の1〜2.5%程度しか検査されない。無論、より多くの領域を検査することは可能であるが、膨大な費用と労力を必要とする。
また、渦流探傷法、電気抵抗法は、スポット的に発生している水素脆化を確実に検出することは困難である。更に硬度測定法は多大な時間を要し、必ずしも良い方法とは言えない。
【非特許文献1】石油学会規格 JPI-8R-13-2003 63〜68頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水素脆化を広範囲な領域について容易かつ確実に検査できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはかかる課題を解決するために、水素脆化の検出方法について鋭意検討した結果、被検査材料を引っ張り、ひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行うことによって、水素脆化を広範囲な領域について容易かつ確実に検査できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、被検査材料を引っ張り、被検査材料にひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行うことを特徴とする水素脆化の検査方法である。
被検査材料に段階的にひずみを付与し、それぞれの段階で染色浸透探傷試験を行うことによって、表面から比較的深い位置まで存在する水素化物(以下、単に深い水素化物と呼ぶ。)に対応する割れから表面から比較的浅い位置までしか存在しない水素化物(以下、単に浅い水素化物と呼ぶ。)に対応する割れを順に検出して水素脆化を検査する。
具体的には、ひずみ率が1%、3%、5%のひずみを段階的に付与して検査する。
ひずみ率が5%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験で割れが検出されない場合は、非検査材料にはすぐに問題となる水素脆化はないと判定する。
本発明は、チタンチューブまたはチタンプレートに発生する水素脆化の検査に好適に適用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、チタン材等に発生する水素脆化を広範囲領域について容易かつ確実に検査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の被検査材料として主にチタン材を例に詳細に説明するが、ジルコニウムやタンタルについても同様に行うことができる。
チタン材として、純チタン、チタン合金、純チタンにパラジウム処理等の表面処理をしたもの等、また、形状としてチューブ、プレート等、これらは特に限定されるものではない。
【0010】
本発明においては、水素化物があれば、被検査材料を引っ張り、ひずみを付与することによって、水素化物を起点に割れが発生するので、この割れを染色浸透探傷試験で検出する。
被検査材料に段階的にひずみを付与し、それぞれの段階で染色浸透探傷試験を行って、深い水素化物に対応する割れから浅い水素化物に対応する割れを順に検出して水素脆化を検査する。
【0011】
被検査材料を引っ張り、被検査材料にひずみを付与する方法としては、略定速で引っ張る方法であれば特に制限されるものではなく、通常、JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に準拠した方法で行われる。試験片の大きさも特に限定されるものではなく、引張試験機の大きさ等による。通常、約300〜700mmの長さとし、標点間距離は約200〜600mmに設定される。引張速度は、通常、約10〜30mm/分に設定される。
また、染色浸透探傷試験は、JIS Z 2343「浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」に準拠して行われる。
【0012】
初めから大きなひずみ率のひずみを付与すると、深い水素化物に対応する割れも浅い水素化物に対応する割れも同時に検出されるので、水素脆化の状況が把握できないので、段階的にひずみを付与して行う。
具体的には、まず、ひずみ率が1%のひずみを与えた時点、すなわち、標点間距離が1%伸びた時点で引っ張りを止め、試験片を試験機から取出し、試験片について染色浸透探傷試験を行い、割れの有無およびその状況を観察する。割れが認められない場合、試験片を試験機に再度取付け、同様にしてひずみ率が3%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行い、割れの有無およびその状況を観察する。それでも割れが認められない場合、同様にしてひずみ率が5%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行い、割れの有無およびその状況を観察する。ひずみ率が5%のひずみを付与しても割れが検出されない場合は、すぐに問題となる水素脆化はないと判定する。
【0013】
ひずみ率を1%、3%に限定するものではなく、例えば、2%、4%でも、0.5%、1.5%、2.5%、3.5%、4.5%でも構わない。なお、すぐに問題となる水素脆化のない材料はひずみ率が5%のひずみを付与しても割れは見られない。従って、すぐに問題となる水素脆化がないことが予想され、それを確認するために、または単に水素脆化の有無のみを検出するために、初めからひずみ率が5%のひずみを付与して検査することも可能である。
【0014】
本発明の方法は、被検査材料を引っ張り、被検査材料にひずみを付与することを追加し、染色浸透探傷試験を行うだけで、被検査材料のほぼ全域について水素脆化を容易かつ確実に検査することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
染色浸透探傷試験、ミクロ組織検査は下記のとおり行った。
【0016】
(1)染色浸透探傷試験
JIS Z 2343の試験方法VC-Sに準拠して行った。染色液としては溶剤除去性染色浸透液、現像液としては速乾式現像材を用いた。
(2)ミクロ組織検査
染色浸透探傷試験で割れを示したサンプルを樹脂に埋め込み、耐水研磨紙#60から順次細かい研磨紙で研磨し、最終的にバフ研磨した後、酸水溶液(フッ酸:2容積%、硝酸:10容積%、水88容積%)に浸漬してエッチング後、ミクロ組織を顕微鏡観察した。
【0017】
約6.5年使用した熱交換器から抜管した11本のチタンチューブ(チューブAと呼ぶ。)と約2年使用した熱交換器から抜管した6本のチタンチューブ(チューブBと呼ぶ。)について、水素脆化を検査した。なお、抜管したチューブは双方共に、外径が19.1mmφ、厚さが1.2mm、長さが5000mmである。
チューブAから1本当たり長さ500mmのサンプルチューブを3〜4本切り出し、合計37本のサンプルチューブを得た。チューブBからは1本当たり長さ500mmのサンプルチューブを3本切り出し、合計18本のサンプルチューブを得た。
【0018】
各サンプルチューブについて、万能引張試験機モデル1128(インストロン社製)を用い、標点間距離を400mmとして、20mm/分の引張速度で引っ張り、ひずみ率が1%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行い割れの有無を観察した。
割れが認められたサンプルチューブについて、ミクロ組織検査を行い、水素化物とその深さを確認した。
ひずみ率が1%で水素脆化が認めらなかったサンプルチューブについて、ひずみ率が3%のひずみ、更にひずみ率が5%のひずみ、最終的にはサンプルチューブが破断するまでひずみを与えて、ひずみ率が1%の時と同様に水素脆化の検査を行った。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

最大深さ:検出した水素化物の深さのうち、最大のものを示す。
【0020】
チューブAについては、比較的浅い水素脆化と共に、ひずみ率が1%のひずみを与えて検出される、特異的に発生した深い水素脆化が検出されている。また、チューブBには全く水素脆化は検出されていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査材料を引っ張り、被検査材料にひずみを付与した後、染色浸透探傷試験を行うことを特徴とする水素脆化の検査方法。
【請求項2】
被検査材料に段階的にひずみを付与し、それぞれの段階で染色浸透探傷試験を行う請求項1記載の水素脆化の検査方法。
【請求項3】
ひずみ率が1%、3%、5%のひずみを段階的に付与する請求項2記載の水素脆化の検査方法。
【請求項4】
ひずみ率が5%のひずみを付与した後、染色浸透探傷試験で割れが検出されない場合は、非検査材料にはすぐに問題となる水素脆化はないと判定する請求項1〜3記載の水素脆化の検査方法。
【請求項5】
被検査材料がチタンチューブまたはチタンプレートである請求項1〜4記載の水素脆化の検査方法。



【公開番号】特開2006−153550(P2006−153550A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341869(P2004−341869)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】