説明

水素製造用触媒及び水素の製造方法

【課題】低い反応温度においても高い転化率で効率的に脱水素反応を促進する触媒、及び該触媒を用いる効率の高い水素の製造方法を提供する。
【解決手段】白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、スズ、レニウム、及びゲルマニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が65〜130Åである、水素を生成する二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒、及び該水素製造用触媒と二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油とを接触させて水素を発生させる水素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二環芳香族炭化水素の水素化物からなる組成物から高純度水素ガスを効率良く製造することができる触媒及び該触媒を用いる水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題から、新しいエネルギー源として水素が有望視されており、例えば水素を直接燃料として用いる水素自動車、あるいは水素を用いる燃料電池などの開発が進められている。燃料電池は小型でも高い発電効率を有しており、加えて騒音や振動も発生しない、さらに廃熱を利用することができるなどの優れた利点を有している。
【0003】
一方、水素をエネルギー源として利用するに当っては、燃料となる水素を安全にかつ安定的に供給することが欠かせない。圧縮水素、液体水素として直接供給する方法、水素吸蔵合金やカーボンナノチューブなどの水素吸蔵材料を利用して水素を貯蔵、供給する方法、メタノールや炭化水素を水蒸気改質して水素を供給する方法など、種々の方法が提案されている。
【0004】
これらに並ぶ水素の供給方法として、近年、水素吸蔵率が高く、水素吸蔵と水素供給を繰返し行い再利用が可能であるとの理由から、有機ハイドライド(以下、水素化芳香族化合物ともいう。)を、水素を貯蔵、供給する媒体として用いることが注目されている。例えば、特許文献1には、有機ハイドライドを用いた水素製造について開示されているが、この方法では十分な転化率は得られていない。
【0005】
特許文献2には、表面積150m−1以上、細孔容量0.55cm−1以上、平均細孔径が90〜200Åであり、かつ細孔径90〜200Åの範囲の細孔容量が全細孔容量の60%以上を占めるγ−アルミナ担体に酸化亜鉛を担持した担体を600℃以上の高温で10時間以上焼成して結晶構造の大半がスピネル構造となった複合酸化物からなる複合担体に、白金、スズ及び周期律表の第1A族及び第2A族からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ性金属が担持され、該アルカリ性金属の担持が前記スズの担持よりも先に行われている触媒を用いて、水素化芳香族化合物を脱水素反応させることにより効率よく水素を製造する方法が示されている。
【0006】
しかしながら、水素化芳香族化合物の脱水素反応は吸熱反応であり、外部よりエネルギーの投入が必要となるため、本反応を利用する水素の製造においては、より低温でかつ高い転化率で脱水素反応が進む方法が望まれている。さらに、本反応を利用して水素ステーション等で水素を大量に製造するためには性能に加えて安価な触媒であることが望まれている。
一方、水素化芳香族化合物の脱水素によって水素の製造を行うにあたっては、蒸気圧が低く、1分子あたりに取り込める水素量が多いなど、より安全で、かつ、水素含有量が多い化合物を、水素を貯蔵、供給する媒体として用いることが望まれている。本発明者らは、既に単環芳香族化合物の水素化物を媒体に用いる水素製造用触媒について特許出願しているが(特許文献3参照)、媒体として二環芳香族化合物の水素化物を用いると、さらに蒸気圧が低く、取扱いが安全かつ容易であり、また、保有する水素含有量が多く、より効率的に水素の貯蔵、供給ができるものと期待される。このためには、二環芳香族化合物の水素化物であっても、効率的に脱水素反応を推進できる触媒が必要であり、すなわち、多環芳香族化合物の水素化物の脱水素反応において、より低い反応温度で、高い転化率が得られる脱水素活性の高い触媒が望まれている。
【特許文献1】特開2001−110437号公報
【特許文献2】特開2004−196638号公報
【特許文献3】特願2004−292628号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低い反応温度においても高い転化率で効率的に脱水素反応を促進する触媒、及び該触媒を用いる効率の高い水素ガスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、水素を製造するための媒体として用いる水素化芳香族化合物と脱水素反応の触媒の物性との関係に着目して鋭意検討した結果、二環芳香族炭化水素の水素化物を用いて脱水素反応を行うに際して、特に特定の細孔径、細孔容量を有する触媒を用いることにより水素を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示す水素製造用触媒、及び該触媒を用いて水素を製造する水素の製造方法に関するものである。
1.白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、スズ(Sn)、レニウム(Re)、及びゲルマニウム(Ge)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が65〜130Åであり、細孔径65〜130Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.25cm−1以上であり、及び、全細孔容量の50%以上を占めることを特徴とする、水素を生成する二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒。
2.平均細孔径が80〜110Åであり、かつ、細孔径が80〜110Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.10cm−1以上であり、及び、全細孔容量の20%以上を占める上記1に記載の水素製造用触媒。
3.多孔質担体が、酸化アルミニウム(Al)及び/又は二酸化ケイ素(SiO)からなる、上記1又は2に記載の水素製造用触媒。
【0010】
4.二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を上記1〜3のいずれかに記載の触媒と接触させて、水素を製造する水素の製造方法。
5.二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、炭化水素置換基を1個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
6.二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、炭化水素置換基を2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
【0011】
7.二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を1個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を60質量%以上含む、上記4に記載の水素の製造方法。
8.二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含む、上記4に記載の水素の製造方法。
9.炭化水素置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、及びターシャリーブチル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記4〜8のいずれかに記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水素製造用触媒を用いることにより、二環芳香族炭化水素の水素化物から、低い反応温度においても転化率と選択率の高い脱水素反応を行うことが可能となり、水素製造におけるエネルギー投入量が節減され、効率的に高純度な水素ガスを製造できるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる触媒としては、Pt、Ru、Pd、Rh、Sn、Re、及びGeよりなる群から選択される少なくとも1種の金属が担持され、触媒の平均細孔径が65〜130Åの範囲であり、かつ細孔径65〜130Åの範囲の細孔の細孔容量が0.25cm−1以上で、全細孔容量の50%以上を占める触媒を用いる。より好ましくは、細孔径65〜130Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.30cm−1以上で全細孔容量の60%以上を占めることが好ましい。
更には、触媒の平均細孔径が80〜110Åであり、かつ細孔径80〜110Åの範囲の細孔の細孔容量が0.10cm−1以上で、全細孔容量の20%以上を占める触媒を用いることが好ましい。
【0014】
平均細孔径が65Å未満の触媒では、反応対象分子である二環芳香族化合物の拡散が困難になり、脱水素反応性が低下する。平均細孔径が130Å以上を超える触媒では、反応対象となる細孔が必要十分以上に大きくなり、決められた大きさの反応器に充填する際に、反応器に収容できる触媒量が少なくなる、即ち触媒のかさ密度が低下して、触媒容量あたりの性能が低下する。
さらに、細孔径80〜110Åの細孔径では、特に選択的に二環芳香族の水素化物から水素と二環芳香族を生成する脱水素反応が起こり、副反応を抑制して、高い水素純度の水素を製造することが可能となり、好ましい。
また、反応に有効な細孔径の範囲となる65〜130Åの細孔が有する細孔容量が十分でないと、反応対象物が細孔内に取り込まれる量が少なくなり反応性が低下する。また、細孔径65〜130Åの細孔が有する細孔容量が全細孔容量の50%以下では反応に有効な細孔径サイズの反応場を十分に得ることができず、脱水素反応性を高めることができない。
【0015】
上記の本発明の効果を確保するために、上記金属の担持率は0.001〜10質量%で担持することが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量%である。0.001質量%未満では十分な脱水素反応が得られず、一方10質量%を超えて担持しても、金属の増量に見合う効果が得られない。
【0016】
また、触媒の担体としては、酸化アルミニウム(Al)及び/又は二酸化ケイ素(SiO)からなる多孔質担体を用いることができる。これらの担体は65〜130Åの範囲に平均細孔径を制御しやすく、かつ反応に有効な細孔径65〜130Åの範囲の細孔の細孔容量を0.25cm−1以上とすることが容易となる。さらには、副反応を促進させる酸点も少なく、かつ担持させる金属粒子を担体表面に安定的に固定させることが可能となる。担体としてAlとSiOは、それぞれ単独で用いてもよいし、適宜の割合で両者を組み合わせて用いてもかまわない。
【0017】
本発明の触媒は、例えば次のようにして製造することができる。原料粉に水及び硝酸を添加して混練する。原料粉としては、ベーマイト粉や、シリカアルミナ粉を用いる。あるいは、ベーマイト粉に無定形のシリカ粉を混練してもよい。混練は、一般に触媒調製に用いられている混練機により行うことができる。混練時間は、通常30〜120分である。
【0018】
得られた混練物を、成形機を用いて、例えば0.5〜5mmの球状、円柱状、円筒状などに成形した後、乾燥する。成形機としては、例えばスクリュー型成形機など、一般に触媒調製に用いられている成形機を用いることができる。乾燥は、通常、常温〜150℃、特には100〜130℃の温度で、例えばオーブン中で乾燥する。次いで、乾燥させた成形物を焼成する。焼成は、350〜800℃で0.5時間以上、好ましくは400〜700℃、更には450〜650℃で0.5〜5時間焼成する。焼成には、例えばロータリーキルンなどの焼成装置を用いることができる。
【0019】
本発明においては、触媒の平均細孔径を65〜130Åとすることが必要であるが、担体原料粉を混練する際に添加する硝酸の量を制御することにより本発明の特定の平均細孔径を有する触媒を得ることができる。添加する水の量に対する硝酸量を多くするほど、細孔径は小さくなる。硝酸量に対して平均細孔径は1次式で予想される相関関係を示すので、予め、使用する原料粉を用いて硝酸量と平均細孔径との相関を求め、実際に使用する硝酸濃度を決定する。異なる原料粉を用いる場合は、同様にして硝酸量と硝酸濃度を調整すればよい。
【0020】
上記のようにして得られた担体に、上記の特定の金属を担持する。金属の担持方法は、特に限定されないが、通常、担体の細孔容量と同量の金属の水溶液をスプレーで担体に吹き付けるポアフィリング法で行う。例えば、白金(Pt)を担持する場合、塩化白金酸の水溶液(担持液)を用いる。担体に担持液をポアフィリング法などで含浸し、次いで乾燥した後、焼成することにより触媒が得られる。乾燥は、常温〜150℃、更には100〜130℃の温度において、通常、2時間以上、好ましくは2〜10時間、更には4〜8時間乾燥する。焼成は、乾燥空気流通下、450〜700℃、好ましくは500〜600℃で、0.5〜4時間行なう。
【0021】
本発明において、水素を製造するための原料としては、二環芳香族炭化水素の水素化物を含有する油を用いる。二環芳香族炭化水素の水素化物の他に、単環及び3環以上の多環芳香族炭化水素の水素化物あるいは、単環が共有結合で繋がったビフェニル類の水素化物、パラフィン系炭化水素などを含んでいても良いが、水素ガスの製造効率、副反応の発生などの観点から、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有する油を用いることが好ましく、更には80質量%以上、特には90質量%以上含有する油を用いることが望ましい。二環芳香族炭化水素の水素化物は、単一の化合物を用いることもでき、2種以上の化合物からなるものであっても良い。また、二環芳香族炭化水素の水素化物としては、炭化水素基の置換基を有するものが好ましく使用でき、炭化水素置換基を1個以上有する化合物が好ましく、更には炭化水素置換基を2個以上有する化合物が好ましい。また、上記の二環芳香族炭化水素の水素化物を含有する油は、炭化水素置換基を1個以上有する、又は、2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を少なくとも20%質量以上含有する油が好ましい。
【0022】
さらには、二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油において、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を1個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を60質量%以上含む油がより好ましく使用できる。あるいは、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含む油も好ましく使用できる。
上記の本発明による二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を用いることにより、同じ転化率を達成する反応温度を下げることができる。
【0023】
二環芳香族炭化水素の水素化物は、通常炭素数10〜20のものを用いることができ、炭素数11〜20のものが好ましく、11〜16がより好ましく、11〜14がさらに好ましい。
上記二環芳香族炭化水素の水素化物の炭化水素置換基としては、電子供与性の置換基であることが望ましい。電子供与性の置換基を有することにより、脱水素反応における反応性が高くなる。電子供与性置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、あるいはターシャリー(tert)ブチル基を例示することができる。これらの置換基のうち、メチル基、エチル基がより好ましい。なお、二環芳香族炭化水素の水素化物が、複数の置換基を有する場合、複数の置換基は、同一であっても、それぞれ異なるものであってもよい。
【0024】
本発明において、上記組成物中に含まれる二環芳香族炭化水素の水素化物として、置換基を持たない化合物としてはデカリンを例示でき、また炭化水素置換基が1個の化合物としては、例えば、メチルデカリン、エチルデカリン、プロピルデカリン、イソプロピルデカリン、ブチルデカリン、イソブチルデカリン、tert−ブチルデカリンなどを、炭化水素置換基が2個の化合物としては、ジメチルデカリン、ジエチルデカリン、ジプロピルデカリン、ジイソプロピルデカリン、ジブチルデカリン、ジイソブチルデカリン、ジ−tert−ブチルデカリン、エチルメチルデカリン、メチルプロピルデカリン、ブチルメチルデカリン、エチルプロピルデカリン、ブチルエチルデカリン、ブチルプロピルデカリンなどを、また、炭化水素置換基が3個以上の化合物としては、トリメチルデカリン、テトラメチルデカリン、トリエチルデカリンなどを、例示することができる。
【0025】
本発明に用いる水素製造用の二環芳香族炭化水素の水素化物からなる組成物の製造方法は、上記の二環芳香族炭化水素の水素化物を含むものが得られる製造方法であれば特に限定はされない。例えば、原油を、蒸留、水素化脱硫、水素化精製、接触改質、接触分解、溶剤抽出ないし吸着分離などの周知の石油精製プロセスを適宜組み合わせて処理して得たナフタレン及びアルキルナフタレン(以下、アルキルナフタレン類という。)を水素化することにより、二環芳香族炭化水素の水素化物、すなわちデカリン及び上記に例示したアルキルデカリン類を得ることができる。アルキルナフタレン類の水素化、すなわち芳香族環の核水添を行う水素化反応には、周知の方法を用いることができる。例えば、水素化触媒の存在下に、反応温度50〜400℃、好ましくは80〜350℃、水素分圧0.1〜10MPa、好ましくは0.3〜2MPaの条件で行えばよい。水素化触媒としては、市販又は公知の各種水素化触媒を使用することができ、例えばニッケル系、貴金属系、金属硫化物系の水素化触媒を用いることができる。
【0026】
二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応を行う際には貴金属触媒を使用することがあるので、水素化物中には、触媒毒となる硫黄分や窒素分をできるだけ含まないものが好ましく、硫黄分、窒素分はともに1質量ppm以下であることが好ましい。
また、水素製造反応における取り扱いを容易にするため、二環芳香族炭化水素の水素化物は、常温で液体、好ましくは流動点が−30℃以下であるものを選択する。
【0027】
本発明において、二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応により水素を製造する方法においては、本発明の脱水素反応触媒の存在下、例えば、反応温度100〜450℃、好ましくは200〜400℃、水素分圧0.1〜5MPa、好ましくは0.3〜2MPaの条件で、原料である二環芳香族炭化水素の水素化物を含む組成物(油)と水素を流通することにより実施される。二環芳香族炭化水素の水素化物を原料として用いる脱水素反応において、本発明の触媒を用いることにより、低い反応温度でありながら、高い転化率及び選択率を達成することができる。
【0028】
脱水素反応を行った後、二環芳香族炭化水素(未反応の水素化物を含む)を回収し、水素化反応(芳香族環の核水添反応)を行い対応する水素化物とすることにより、水素製造用の原料、あるいは水素を貯蔵し、供給する媒体として繰り返し利用することができる。したがって、水素供給源で二環芳香族炭化水素を水素化して二環芳香族炭化水素の水素化物を製造して、これを水素消費地に輸送して本発明の水素製造用触媒にて脱水素反応を行って水素を製造し、燃料電池等に水素を供給することができる。また、脱水素反応で生じた二環芳香族炭化水素は、上記のように再び水素供給源に輸送され、そこで水素化して二環芳香族炭化水素の水素化物を製造する。本発明はこのような水素の供給システムにも有用である。
【0029】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、係る実施例によって何ら制限されない。
【0030】
なお、転化率、反応速度定数は、それぞれ次のように定義する。
(1)転化率
転化率(%)=100−未反応の原料のGC面積百分率
ここで、GC面積百分率はガスクロマトグラフ(GC)により検出された全ての有機化合物のピーク面積に対する対応する化合物のピーク面積百分率を指す。なお、原料として供される二環芳香族炭化水素の水素化物は、全ての芳香族炭化水素が水素化されているものとした。
(2)反応速度定数
反応速度定数(h−1−1
=液空間速度(h−1)×LN(1/(1−転化率%/100))/触媒重量(g)
【0031】
(触媒の調製)
市販のベーマイト粉1000gに水1000gと硝酸35gを加えて、双腕式混練機により、成形前駆体となるドウを作り、スクリュー式成形機で径1mm×長さ3mm程度の円柱状の担体前駆体を得た。得られた担体前駆体を130℃で8時間乾燥後、600℃で回転型焼成機に乾燥空気を4dmmin−1で流通させ焼成を行うことにより担体1を得た。同様に、市販ベーマイト粉1000gに水1000gと硝酸30g、20g、及び10gをそれぞれ加えて、同様に双腕式混練機とスクリュー式成形機で径1mm×長さ3mm程度の円柱状の担体前駆体を得て、130℃で8時間乾燥後に、600℃で回転型焼成機に乾燥空気を4dmmin−1で流通させて焼成を行い、担体2、3、及び4をそれぞれ得た。
さらに、市販のベーマイト粉1000gに水1000gと硝酸30gを加えて、転動造粒機により直径約1.5mmの球状の担体前駆体を得た。得られた担体前駆体を130℃で8時間乾燥後、700℃で回転型焼成機に乾燥空気を4dmmin−1で流通させ焼成を行うことにより担体5を得た。このようにして製造した5種類のAl担体(担体1、担体2、担体3、担体4、及び担体5)それぞれに、塩化白金酸六水和物を用いてPtを0.5質量%となるように含浸法により含浸して、130℃で8時間乾燥後、500℃で30分、乾燥空気を8dmmin−1で流通させて焼成を行い、触媒1〜触媒5を得た。また、小型の実験装置で反応を行う場合には、偏流を抑制して実験精度を上げるためにさらに粉砕、分級した触媒を用いた。
【0032】
得られた5種類の触媒について窒素吸着法による細孔径分布測定装置(ASAP2400、マイクロメリテックス社製)を用いて、比表面積、細孔径、細孔容量、細孔分布を求めた。比表面積はBET法、細孔分布はBJH法により計測される20〜600Åの範囲の細孔容量を用いた。求めた細孔径ごとの細孔容量を積算して細孔容量の積算値が50%となる時の細孔径を平均細孔径(D50)と定義した。また、触媒中の白金量は、JIS K 0102に準じた高周波プラズマ分光分析(ICP)法により求めた。細孔物性等が異なる5種類の触媒(触媒1〜触媒5)の物性を表1に示す。このようにして調製された触媒それぞれについて、二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応を行い、その性能を評価した。
【0033】
【表1】

【実施例1】
【0034】
1−メチルナフタレン:ジメチルナフタレン:1−エチルナフタレン=70:20:10(質量比)の組成からなるアルキルナフタレン混合物から、流通式反応装置に30cmの市販Ni触媒を充填し、2MPa、LHSV=1h−1、H/Oil=900dm/dm、反応温度240℃で水素化し、1−メチルデカリン:ジメチルデカリン:1−エチルデカリン=70:20:10(質量比)の組成からなるアルキルデカリンの混合物Aを得た。該混合物Aの性状を表2に示す。表2において、密度、引火点、及び流動点は、それぞれJIS K 2249、JIS K 2265、及びJIS K 2269に従って測定した。GC蒸留沸点範囲は、JIS K 2254のガスクロマトグラフ法に準じて測定した。硫黄分は、JIS K 2541に準じて測定し、窒素分は、JIS K 2609に準じて測定した。また、平均分子量は、GC質量分析から求めた同定成分とその濃度から計算により求めた。
【0035】
上記表1の触媒1を固定床流通式反応装置に10cm充填し、触媒層温度325〜340℃、反応圧力=0.3MPa、液空間速度(LHSV)=2h−1、水素/オイル比(H/Oil)=523dm/dmの条件下でアルキルデカリン混合物Aを脱水素反応し、アルキルナフタレン及び水素の生成反応活性を調べた。反応後8時間経過後の安定状態における2時間平均の触媒層温度及び採取した生成油のガスクロ分析による転化率、及び反応速度定数を求めた。それらの結果を、表3にまとめて示す。なお、水素純度は、発生ガスからドライアイスメタノールトラップを用いて生成油並びに未反応油を分離した後、ガスクロマトグラフでガス組成分析した結果を示すが、全て99.92容量%以上の純度であった。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【実施例2】
【0038】
アルキルデカリン混合物Aの脱水素反応において、充填する触媒を触媒2とした以外は、前記実施例1に記載した手順と全く同じ手順で行い、前記実施例1と同様にして、転化率、及び反応速度定数を求めた。結果を、実施例1と同様に表3に示す。
【実施例3】
【0039】
触媒3を用いた以外は、前記実施例1と全く同様にしてアルキルデカリン混合物Aの脱水素反応を実施した。結果を、実施例1と同様に表3に示す。
【実施例4】
【0040】
触媒4を用いた以外は、前記実施例1と全く同様にしてアルキルデカリン混合物Aの脱水素反応を実施した。結果を、実施例1と同様に表3に示す。
【0041】
実施例1〜4の結果に基づいて、平均細孔径に対する反応転化率を示したのが図1である。本発明において、325℃の反応温度で80%以上の転化率を示す平均細孔径の範囲は65〜130Åであり、90〜100Å付近で最も高い転化率を示し、特に好ましい。また、本システムの経済性を成り立たせるために必要な最低転化率80%を維持させることが、325℃という比較的低い温度で達成することが可能となり、エネルギー効率を高めることができる。細孔径が65Å未満あるいは130Åを超えるものは、本システムの経済性を成り立たせるために必要な最低の転化率を割り込むため、本システムの水素製造用触媒として適さない。
【0042】
実施例2及び3で用いた触媒は平均細孔径がそれぞれ84Å及び103Åのものであるが、特に80〜110Åの範囲においては、上記実施例の反応温度325℃において、85%以上の転化率を維持することができ、システムの経済性を増す上でさらに有効である。また、この範囲では、表3に示したように高い純度の水素が得られたことから、副反応によって生じるメタンなどの炭化水素の反応が抑制され、目的とする脱水素反応が選択的に行われたことが推察される。このように高い純度の水素を製造できることは、不純物となる副反応物質の除去などに必要な分離プロセスへの負担が軽減されるため、さらに好ましい。
【実施例5】
【0043】
流通式反応装置の中に10cmの触媒5を充填し、アルキルデカリン混合物Aを、0.3MPa、LHSV=2h−1、H/Oil=525dm/dmの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がアルキルナフタレン混合物:アルキルデカリン混合物=95:5となる触媒層温度を求めたところ、342℃であった。このとき、実施例1と同様にして出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.99%であった。
【実施例6】
【0044】
ジメチルナフタレン:トリメチルナフタレン:メチルビフェニル:ジメチルビフェニル=42:38:8:12(質量比)の組成からなるアルキルナフタレン混合物から、流通式反応装置に30cmの市販Ni触媒を充填し、2MPa、LHSV=1h−1、H/Oil=1000dm/dm、触媒層温度230℃で水素化し、ジメチルデカリン:トリメチルデカリン:メチルビシクロヘキシル:ジメチルビシクロヘキシル=42:38:8:12(質量比)の組成からなるアルキルデカリン混合物Bを得た。該混合物Bの性状を表2に示す。
流通式反応装置の中に白金アルミナ触媒(触媒5)を10cm(7.44g)充填し、アルキルデカリン混合物Bを、0.3MPa、LHSV=2h−1、H/Oil=525dm/dmの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がアルキルナフタレン混合物:アルキルデカリン混合物=95:5となる触媒層温度を求めたところ、320℃であった。このとき、実施例1と同様にして出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.99%であった。
【実施例7】
【0045】
流通式反応装置の中に白金アルミナ触媒(触媒3)を10cm(5.87g)充填し、アルキルデカリン混合物Bを、0.3MPa、LHSV=2h−1、H/Oil=525dm/dmの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がアルキルナフタレン混合物:アルキルデカリン混合物=95:5となる触媒層温度を求めたところ、322℃であった。このとき、実施例1と同様にして出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.99%であった。
【実施例8】
【0046】
流通式反応装置の中に白金アルミナ触媒(触媒5)を10cm(7.44g)充填し、市販1−メチルデカリンを、0.3MPa、LHSV=2h−1、H/Oil=525dm/dmの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成が1−メチルナフタレン:1−メチルデカリン=95:5となる触媒層温度を求めたところ、350℃であった。このとき、実施例1と同様にして出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.98%であった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】反応温度をパラメータとした平均細孔径と反応転化率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、スズ、レニウム、及びゲルマニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が65〜130Åであり、かつ、細孔径65〜130Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.25cm−1以上であり、及び、全細孔容量の50%以上を占めることを特徴とする、二環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒。
【請求項2】
平均細孔径が80〜110Åであり、かつ、細孔径が80〜110Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.10cm−1以上であり、及び、全細孔容量の20%以上を占める請求項1に記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
多孔質担体が、酸化アルミニウム(Al)及び/又は二酸化ケイ素(SiO)からなる、請求項1又は2に記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を請求項1〜3のいずれかに記載の触媒と接触させて、水素を製造することを特徴とする水素の製造方法。
【請求項5】
二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、炭化水素置換基を1個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含有する、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項6】
二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、炭化水素置換基を2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含有する、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項7】
二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を1個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を60質量%以上含む、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項8】
二環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、二環芳香族炭化水素の水素化物を70質量%以上含有し、かつ炭化水素置換基を2個以上有する二環芳香族炭化水素の水素化物を20質量%以上含む、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項9】
炭化水素置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、及びターシャリーブチル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4〜8のいずれかに記載の水素の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−272324(P2006−272324A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55895(P2006−55895)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】