説明

水素貯蔵電池、ニッケル正極、正極活物質、並びに製法

【課題】改善されたサイクル寿命を有する水素貯蔵電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電池は、負極電気化学活物質及び負極容量を有する負電極と、負極と電気化学的に結合した正極とを含み、正極は、正極容量及び予備充電を与えられた正極電気化学活物質を有している。また、水素貯蔵電池用正極材料及びその製造方法が説明される。正極材料は、部分的に酸化されていない事前酸化正極活物質を含む。事前酸化材料は、正極に予備充電を与えるべく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の説明)
本発明は、2001年6月29日出願の、開示内容が此処に引用して取り入れてある、米国仮出願特許番号第60/302131号に関し、その先出願日及び優先権の恩典を与えられるものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は、再充電可能な水素貯蔵電池、並びにその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、活性水素貯蔵材料を有する負極、及びニッケル正極を具備する再充電可能な水素貯蔵電池に関する。
【背景技術】
【0003】
高いエネルギー密度、大容量及び長いサイクル寿命を有する再充電可能な電池は、非常に望ましいものである。一般に用いられている二つの型の再充電可能なアルカリ電池は、Ni−Cd(ニッケルカドミウム)型とNi−MH(ニッケル金属水素化物)型である。両方の型の電池において、負極は異なるが、正極は水酸化ニッケル活物質を用いて作られる。
【0004】
Ni−MH電池は、Ni−Cd電池とは著しく異なった機構で作動する。Ni−MH電池は、可逆的な電気化学的水素貯蔵能力がある負極を利用しており、従って水素貯蔵電池と言われる。負及び正極は、アルカリ性電解液中で離して配置される。Ni−MH電池に電位を印加すると、式1に示すように、負極活物質は水素の電気化学的吸収とヒドロキシ・イオンの電気化学的な放出によって充電される。
【化1】

【0005】
負極電池反応は可逆的である。放電に際しては、貯蔵された水素が解放されて水分子を形成し、電導性ネットワークを通じて電池端子に電子を放出する。
【0006】
Ni−MH電池の正極で起こる反応は、式2に示されている。
【化2】

【0007】
Ni−MH電池用の正極活物質としての水酸化ニッケルの使用は一般的に知られている。例えば、その開示内容が此処に引用して取り入れてある“Enhanced Nickel Hydroxide Positive Electrode Materials For Alkaline Rechargeable Electrochemical Cell”と題し、オブシンスキー他に1996年6月4日発行された、米国特許番号第5,523,182号を参照のこと。米国第5,523,182号において、オブシンスキー他は、水酸化ニッケル正極材料の粒子と、導電性及び腐食生成物に対する抵抗性を増すために粒子上に析出された殆どに連続的で均一なカプセル被覆層である前駆体被膜を含む正極材料について記述している。
【0008】
正極の数種の形態が現在存在し、焼結型、気泡体型、及びペースト塗布型の電極を含む。焼結電極は、多孔質金属マトリックスの隙間に活物質を堆積させ、引き続いてその金属を焼結することにより生産される。気泡体、及びペースト電極は、導電性ネットワーク又は基板、最も一般的にはニッケル気泡体又はニッケルで被覆した穴開きステンレス鋼、と接触した水酸化ニッケル粒子を用いて作られる。数種のこれら電極の異形体が存在し、黒鉛を微小導電体として用いるプラスチック結合ニッケル電極、並びに高多孔質性で導電性のニッケル繊維又はニッケル気泡体の上に装着した水酸化ニッケル粒子を利用するペースト塗布されたニッケル繊維電極、を含んでいる。現在の傾向は、ペースト電極が選ばれて、焼結電極を利用することからは離れているが、その理由はペースト電極のほうがはるかに高い充填率が得られるからである。
【0009】
正極を製造する数種の方法が一般的に知られているが、例えば、その開示内容が此処に引用して取り入れてあり、電極が560mAh/cc以上の容量を有することが報告されている、オブシンスキー他に発行された米国特許番号第5,344,728号を参照のこと。電極を製造するのに用いられた特定の方法が、その電極の性能に著しい影響を与えることがあり得る。例えば、従来の焼結電極は、現在480〜500mAh/ccのエネルギー密度が得られる。焼結正極は、ニッケル粉スラリーをニッケルめっきした鋼の基体に塗布し、引き続いて高温で焼結することにより構成される。この方法は、ニッケルの個々の粒子をその接触点で融着させ、結果として凡そ80%が空間で20%が固体金属である多孔質材料をもたらす。焼結された材料は、次いで硝酸ニッケルの酸性溶液に浸漬して活物質を充填させ、引き続いてアルカリ金属水酸化物との反応で水酸化ニッケルに変換させる。充満させた後、材料は、電気化学的形成処理を受ける。ペースト電極は、水酸化ニッケル粒子、材料、結合剤及び添加物などの種々の粉体を混合し、混合物を導電性の格子状物に塗布することにより製造される。
【0010】
水酸化ニッケル粒子の生産法は一般的に知られており、典型的には、その開示内容が此処に引用して取り入れてあり、例えばオブシンスキー他に発行された米国特許番号第5,348,822号に記述されているような、析出反応を用いて製造される。米国特許番号第5,348,822号において、オブシンスキー他は、ニッケル塩を水酸化物と組合せて水酸化ニッケルを析出させる方法で、水酸化ニッケルを生産することにつき記述している。電極形成と同様、ニッケル活物質の製造法は電極の性質と性能に著しい影響を与え得る。
【0011】
水酸化ニッケル材料は、大きな容量と長いサイクル寿命を具備しなければならない。1.4〜1.7g/cmの見かけ密度、約1.8〜2.3g/cmの充填密度、及び約5〜50μの平均粒径範囲を有する水酸化ニッケルを形成することによって、優れた結果が得られた。約10μmの平均粒径と約2.2g/ccの充填密度を有する殆ど球状の粒子によってもたらされるような、高い充填密度と狭い粒径分布を有する活性水酸化ニッケルを製造することによっても、優れた結果が得られた。この種の活物質を用いて製造したペーストは、よい流動性と均一性を有し、大容量で均一に充填された電極の組立を可能にする。この種の活物質の使用は、利用率及び放電容量も改善する。しかし、処理条件が注意深く制御されないと、結果として得られる析出物は、形が不規則で低い充填密度になる。低密度の水酸化ニッケルで形成された電極は、大容量及び高いエネルギー密度に欠けるものとなる。不適切な処理条件により細かすぎる粉体が生産されることもある。非常に細かい粉体は、粒子の表面における水の吸着を増大させ、従って永い濾過時間を必要とする。更に、もし処理条件が適正に制御されないと、析出粒子は過度に広い粒径分布(1から数百ミクロンに及ぶ)を持って形成される。過度に広い粒径分布を持って製造された水酸化ニッケルは、使用できるようにするために粉砕などの追加処理を必要とする。これら及びその他の理由により、低密度、不規則形状、及び/又は劣悪な粒度分布を有する活性粉体は、大容量ニッケル金属水酸化物電池としての使用には望ましいものではない。
【0012】
高密度で、殆ど球形の水酸化ニッケル粉を生産するためには、核生成をして徐々に水酸化ニッケルの粒子を成長させるのに注意深く制御された処理条件が用いられる。処理条件は変化させることが出来るけれども、一般的に工程は、ニッケル塩をアンモニウム・イオンと組合せてニッケル・アンモニウム錯体を形成することを含んでいる。ニッケル・アンモニウム錯体は、通常は苛性アルカリを用いて分解され、徐々に水酸化ニッケルを析出させる。しかし、この反応速度は制御するのが難しく、生産工程において幾つかの工程に分割する方法が導入されている。例えば、その開示内容が此処に引用して取り入れてある、“Method for Preparing High Density Nickel Hydroxide used for Alkali Rechargeable Batteries”と題し、Shinに1996年3月12日発行された、米国特許番号第5,498,403号は、分離された又は隔離されたアミン反応装置を用いて硫酸ニッケル溶液から水酸化ニッケルを調製する方法を開示している。硫酸ニッケルは、隔離されたアミン反応装置内で水酸化アンモニウムと混合され、ニッケル・アンモニウム錯体を形成する。ニッケル・アンモニウム錯体は反応装置から取り出され、第二の混合容器又は反応装置に送られ、水酸化ナトリウム溶液と組み合わされて水酸化ニッケルが得られる。水酸化ニッケル粒子は、次いで、適切な結合剤、添加物、導電性粉体、などを用いてペースト電極に形成される。電極は、次に、負極、セパレータ、及び適切な電解液と組み合わされて、水素貯蔵電池を形成する。
【0013】
水素貯蔵電池の一つの有用な形態は、密閉型である。密閉型電池は、メンテナンスが不要なので特に便利である。密閉型電池は、通常は少量の液体を用い、渇液状態で作動する。しかし、密閉型水素貯蔵電池は、サイクル中、特に過充電乃至過放電状態の場合の劣化するという弱点がある。例えば、過充電は負極活物質の酸化に影響を及ぼし得る。更に、負極活物質の酸化は、負極容量の不可逆的損失及び正極と負極との間の充電の不均衡状態をもたらす。起こり得るもう一つの問題点は、電池のガス抜けである。電池ガス抜けは、主として、電池内でそれを相殺することが出来る速度では再結合できないような速度において水素ガスが発生する結果としての、圧力増加によって発生し得る。臨界圧力に達すると、電池安全弁を通じてガスが抜ける。この過剰ガス発生の大部分は、負極表面での過充電に際して発生する。この問題に更に、負極の局部的加熱によって更なる水素放出が起こることがあるということが付け加えられる。局部的加熱は、負極に蓄えられた水素と酸素ガスの再結合の発熱反応によって起こる。更に、この局部的加熱は負極表面の水素放出電位を下げる。最終的結果は、水素ガスの増加とガス抜けである。このガス抜けは、電池容量の不可逆的損失と電池インピーダンスの増加の原因となる。
【0014】
負極活物質の酸化電位を低減しガス発生を最小にするために、現在実行されていることは、正極限定型の、即ち負極容量より小さな正極容量を備えた、水素貯蔵電池を製造することである。過剰な負極容量は、負極が完全に充電された状態になるのを防ぎ、且つ理想的には、正極で生じた酸素が以下の反応に従って負極の表面で容易に再結合するようにさせる。
【化3】

【0015】
しかし、電池を正極限定型にするだけでは、過充電、過放電及び充電の際の問題に起因する早期の機能停止を防げない。これらの問題の結果として、負極での酸化とガス放出は、電極酸化、電極劣化、電池ガス抜け、活物質の崩壊などを発生させて、電池のサイクル寿命を体系的に低下させるよう作用する。
【発明の概要】
【0016】
上述した問題その他に目標を絞って、本発明は、サイクル寿命を改善するために、過充電リザーブ容量、過放電リザーブ容量、及び過充電リザーブ容量と過放電リザーブ容量との間の設計された均衡を具備した水素貯蔵電池を提供する。設計された均衡は、過剰負極容量を過充電リザーブ容量と過放電リザーブ容量の間を均衡させるのに十分な量の、予め酸化された(事前酸化)正極活物質を正極に添加することにより得られる。
【0017】
本発明は、更に、過充電リザーブ容量と過放電リザーブ容量とを均衡させるための、水素貯蔵電池の正極用の事前酸化正極活物質を提供する。事前酸化正極活物質は、持続性の放電能力を有する複数の部分的に酸化された粒子を含んでいる。
【0018】
本発明は、更に、事前酸化活物質を製造する方法を提供する。その方法は、完全に酸化された表面は持たず、部分的に酸化された体積内部を持つ活性粒子を形成する工程を含んでいる。
【0019】
本発明は、更に、正極と負極の間の事前活性化充電(予備充電)を均衡させることにより改善されたサイクル寿命を有する再充電可能な電気化学的水素貯蔵電池を製造する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】事前酸化正極活物質を本発明に従って製造する方法の工程図である。
【図2a】本発明による事前酸化正極活物質の断面図である。
【図2b】本発明に従よる事前酸化正極活物質の断面図である。
【図3】従来の水素貯蔵単電池と本発明に従って均衡を取った水素貯蔵単電池との比較図である。
【図4】比較試料と本発明に従って調製した試料との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のより完全な理解のために、以下の詳細な説明と添付された図面を参考にする。
【0022】
本発明の水素貯蔵電池は、負極容量を有する負極、正極容量を有する正極、電解液、過充電リザーブ容量、過放電リザーブ容量を備えており、過充電リザーブ容量と過放電リザーブ容量は均衡されて、それにより改善されたサイクル寿命を提供する。
【0023】
負極は、AB型、ABの変化型、TiZrVNiCr型、TiZrVNiCrの変化型、AB型、ABの変化型、及びその他のABX型材料から成る群から選ばれた、一つ以上の電気化学的負極活物質を含んでいることが好ましい。
【0024】
正極は、複数の事前酸化活物質粒子を有する、焼結されていないニッケル電極であることが好ましい。事前酸化粒子は、水酸化ニッケルとオキシ水酸化ニッケルとを含むことが好ましい。事前酸化粒子は、水酸化コバルト及びオキシ水酸化コバルトを更に含むことがある。
【0025】
水素貯蔵電池は、正極限定型が好ましく、即ち負極活物質は正極活物質に比較して過剰な容量を持つ。過剰な負極容量は、二つの主な機能を有する:充電及び過充電に際して発生する高い圧力を防ぐための過充電リザーブ容量を提供すること;並びに、強制過放電に際して負極を酸化から保護するための過放電リザーブ容量を提供すること。負極容量対正極容量の比(又はn/p比)は、1.0より大きいことが好ましい。n/p比は、3.0より小さいことが好ましく、好ましくは2.0より小さく、より好ましくは1.8より小さく、1.5より小さいことがより好ましい。好ましいn/p比は、1.1から2.0である。電池容量とサイクル寿命性能とのバランスを保つことによって、好ましいn/p比の値が得られる。更に、負極容量対正極容量の相対比を固定することによって、低速即ち0.1Cより小さい充電速度における過充電の際に、負極での酸素/水素再結合は殆ど終局の圧力が上昇するこなく達成される。更に、正極で発生した水素ガスはそれを相殺する速度で負極によって吸収されるので、強制的な低速過放電の際には圧力の純増加が殆ど生じないであろうと期待される。
【0026】
電池を正極限定型にするだけでは、過充電リザーブ容量(過充電の際の過剰な負極容量)と過放電リザーブ容量(過放電の際の過剰な負極容量)の間の容量分布を十分に考慮に入れたことにはならない、ということが見出された。不適正なリザーブ容量の均衡は、サイクル寿命に不利な影響を及ぼすということも見出された。不適正なリザーブ容量均衡は、CoやCoOなどの酸化性添加物が正極に添加されて、導電性ネットワークを形成するときに発生し得る。不十分なリザーブ容量均衡は、3+を超える酸化状態のニッケルが不可逆的に生成され場合にも発生し得る。このような場合には、正及び負極間の充電の均衡は、負極の一回の充電を通して不利な方向に変化させられる。一回の充電は、負極過充電リザーブ容量即ち「OCR」の量を低下させる。OCRの低下は更に電池の水素を再結合する能力を低下させ、結果として電池の機能停止へと導く。過充電リザーブ容量と過放電リザーブ容量の間の容量を適正に均衡させることにより、改善されたサイクル寿命が得られる。
【0027】
正極は、導電性、腐食抵抗、活物質の利用率、サイクル寿命、などを改善するために、少なくとも一つの電気化学的に不活性な添加物を含有することが好ましい。最初の充電に際して、これらの電気化学的に不活性な添加物の一部は、水酸化ニッケルより先に酸化される。これら添加物の酸化は、電気化学的に可逆的ではないが、それに対応する一回の充電を負極活物質に与える。これらの添加物は、容量には追加されないが、負極内のOCRと過放電リザーブ容量(ODR)の分布を変化させることになる。しかし、電極形成後及び電池形成後においてさえも、添加物を酸化させることが実質的な利益をもたらすということが見出された。例えば、水酸化ニッケルは本質的に非導電性材料である。導電性を改善するために、Co、CoOなどのCo添加物が水酸化ニッケル粒子と混合される。最初の電池サイクルにおいて、添加物は溶解し、析出してニッケル活物質の周囲に導電性のCoOOHのネットワークを一体として形成し、それによって著しく導電性を向上させる。最初の電池サイクルに先立ってこれらの添加物を予め酸化させることは、この一体的生成を妨げることがあると信じられている。負極に負けた正極の充電の差し引き減少を克服し、導電性ネットワークを形成させる目的で、これを補うための「正極予備充電」を電池に追加することが出来る。最初のサイクルの間に生ずる過充電リザーブ容量の損失を減らすように、添加物の不可逆的酸化に伴う負極活物質の一回のみの充電を相殺することによって、最初のサイクルにおいて発生する過充電リザーブ容量の損失は著しく軽減される。利点は、400、500、600又はそれ以上に及ぶサイクル寿命の増加、並びに過剰負極容量の量的必要条件の低減であり、それによって利用できる電池容量を増加することにつながる。
【0028】
此処で図3で示すのは充電を均衡させていない水素貯蔵単電池(302〜308)と充電を均衡させたもの(320〜326)との間の、電池寿命の色々な段階における比較である。302〜308及び320〜326の各段階は、正極(p)、負極(n)及び各電極内の活物質による充電の量を示す。充電の量は、斜線影によって表わし、利用できる容量は、斜線影を付けない部分で表わしてある。図から、充電分布は、電池寿命の異なった段階において変化することが明白である。例えば、電池組立て直後においては、均衡させていない単電池302では、正極限定型で負極は荷電しているが、活物質による正極充電の絶対値はゼロで、一方均衡させた単電池318は負極予備充電及び正極予備充電の両者を有している。また均衡させた単電池は、正極及び負極活物質を比較すると差し引きで正充電を有している。組立てた単電池302、320は次いで形成処理を受ける。
【0029】
形成処理は、単電池を活性化するために用いられる。形成処理は、通常の電池用途に対して負極活物質及び正極を調製するような如何なる操作によっても実行出来る。形成処理は、熱的形成処理、電気的形成処理、または両方によって実行される。熱的形成処理は、単電池を加熱することによってその使用準備をする操作である。熱的形成処理は、AB2又はAB5型水素貯蔵材料で見られる元来存在する酸化物層など、負極活物質の酸化物層を除去することにより電池を活性化するように作用したり、正極中へCoなど或る種の添加物を溶解させる作用をしたりすることもある。熱的形成処理は、或る種の水素貯蔵合金の表面酸化物全体に亘って触媒作用のある領域を形成し、それが充電及び放電速度の能力を改善するように作用することもある。熱的形成処理は、約60℃で約五日間又はそれ未満、より好ましくは二日間又はそれ未満、単電池を加熱することにより達成される。温度と時間の条件は、勿論、使用される活物質並びに負極及び正極両者の添加物に依存して変化する。均衡させていない単電池304においては、熱的形成処理は、負及び正極間に均衡の取れない充電分布をもたらす。この不均衡な充電分布は、それに対応して過充電リザーブ容量の減少をもたらす。不均衡な充電分布の原因は、正極におけるCo含有添加物の不可逆的酸化;新たに形成された負極表面の酸化;酸化度の高いγ−相の正極活物質の生成;セパレータの酸化;などを含む。負に帯電された材料における増加分の全てではないがその多くは、無駄な材料310になる。過充電308の場合は、過充電リザーブ容量は減少し、負極は完全に充電される。更に充電することによって、負極は水素を放出し始め、電池内ガス圧力が上昇する。これと比較して、均衡させて生産された単電池322は、熱的形成処理後の負極充電と殆どに同じ正極充電を有している。均衡させることにより、形成処理の際及び/又は最初のサイクルに際して、負極材料の不可逆充電を相殺又は実質的に相殺するのに効果を表わす量の正極予備充電(322と324との差)を有する単電池を提供する。活性化された単電池324は、それ故、正極充電容量よりも利用可能充電容量が大きい状態に留まり、過充電リザーブ容量の減少が避けられる。使用中及び過充電の際には、均衡させた単電池326は、正極で発生した酸素が負極で水素と再結合し、ガス抜けに導くような過剰な電池圧力無しで水を生成するのに充分有効な量の過充電リザーブ容量330を持った状態に留まる。
【0030】
電池はまた電気的形成処理をすることが出来る。電気的形成処理は、単電池を何度も充電及び放電させて単電池を活性化又は完全に活性化させる操作である。合金によっては、電気的形成処理は、活性化に必要なサイクル数を低減するために、熱的形成処理と一緒に組合せて用いられることがある。例えば、熱的形成処理無しでは、ある電池は活性化するのに20以上のサイクルを必要とするが、熱的形成処理を伴う電池は、活性化に3以下のサイクルが必要であるということもある。示された306、324のように、電気的形成処理に際し、正極予備充電を有しない電池306は、上述したような負極材料の一回の不可逆的充電に起因する負極の利用可能容量の減少は、均衡させた単電池324の場合と比較して遥かに大きい。
【0031】
図で示したように、単電池組立後の充電分布及び電池内の理論的過剰負極容量は、次のように計算出来る。
【0032】
過剰負極容量=理論容量×負極活物質重量−理論容量×正極活物質重量
負極活物質 22g
負極エネルギー密度 315mAh/g
負極容量 6950mAh
正極活物質 19g
正極エネルギー密度 245mAh/g
正極容量 4655mAh
過剰負極容量(過充電及び過放電リザーブ容量の和) 2295mAh
正極活物質中に共析したCo2+(8%) 0.96g
ペースト中にCoOとして添加されたCo2+(6%) 0.90g
ペースト中に金属Coとして添加されたCo(5%) 0.95g
CoのCo3+への酸化により発生した予備充電の量 845mAh
CoのCo3+への酸化により発生した予備充電の量** 1296mAh
正極の非可逆的酸化により発生した全予備充電 2141mAh
最大過充電リザーブ容量 154mAh
2Co+4HO→2CoOOH+3H(気体)
** 2CoO+2HO→2CoOOH+H(気体)
上に示したように、過充電リザーブ容量は、従来の電池においては単電池容量の僅か3%以下である。酸化による低減により、過充電状況の際に過充電リザーブ容量が皆無となる。
【0033】
上記の実例として、図3は単電池製造の色々な段階における、正極と負極を示し、それらの段階は、組立後、熱的形成処理後及び電気的形成処理後を含む。示されているように、負極は、組立後に厚い自然酸化物層を備えていることがある。熱的活性化は、Zr酸化物やTi酸化物など自然酸化物を減少させ、材料の水素吸収能力及び触媒活性度を向上させる。熱的活性化は、更に、微細多孔質で触媒作用のある酸化物表面も提供する。正極において、組立時に添加されたCoO及びCoはCo2+に酸化され溶液中に溶解する。電気的形成処理に際して、Co2+は正極材料の周囲に析出し、CoOOH被膜を生成して導電性を向上させる。電気的形成処理は、微細な割れ目と大きな表面積を与えることによって、高められた活性度を負極活物質に与える。
【0034】
本発明の好ましい実施形態に従って、負極と正極の間の充電は、事前酸化正極活物質を正極に添加することにより均衡させられる。事前酸化正極活物質は、電気化学的に活性な正極材料で、電池サイクルの前、好ましくは単電池を集積する前に酸化される。事前酸化正極活物質は、事前酸化水酸化ニッケルを含むことが好ましい。
【0035】
水酸化ニッケルと水酸化ニッケル材料という表現は、以下の開示を通じて用いられる場合には、NiM(OH)の式で一般的に示されるような、化学的に活性なニッケル水酸化物を定義するのに使われる、相互に交換可能な言葉であり、ここでMは零、一、二、三、四、五種類又はそれ以上の種類の変性剤である。変成剤は、化学的又は組成的変性剤である。変性剤は、含まれる場合は、サイクル寿命、充電効率、低温性能、高温性能、電力、利用率、などの活物質の諸性能特性を改善するのに十分な量が添加される。これらの変性剤は、全金属組成の20原子%も含まれることがある。供給される変性剤が20%を超える量になると、添加しない場合の望ましい水準よりも低い容量に下がる傾向がある。好ましい変性剤は、Al、Ba、Bi、Ca、Co、Cr、Cu、F、Fe、In、K、La、Li、Mg、Mn、Na、Ru、Sb、Sn、Sr、Ti、希土類元素、及びZnから成る群から選ばれた元素を含む。水酸化ニッケルという表現は、多層水酸化ニッケル材料、被覆水酸化ニッケル材料、埋め込まれた金属粒子を有する水酸化ニッケル材料、などの水酸化ニッケル複合材も含んでいる。同様に、オキシ水酸化ニッケルという言葉は、此処で用いられる場合には、等式NiM(OOH)の形で一般的に示されるような、如何なるニッケルオキシ水酸化物材料をも包含し、ここでMは零、一、二、三、四、五種類又はそれ以上の種類の変性剤である。
【0036】
本発明に従って予め酸化される水酸化ニッケル構成物の実施例は、開示内容を此処に引用して取り入れてある、米国特許番号第5,523,182、5,348,822、5,344,728、及び6,019,955号に記述されたものを包含している。本発明に適用できる水酸化ニッケル材料の実施例については、“Composite Positive Electrode Material and Method for Making Same”と題し、1998年8月17日に出願された、共通譲渡、同時係属出願の米国特許出願番号第09/135,460号、現在の米国特許番号第6,177,210号も参照のこと。其処に開示されているのは、電気化学的電池で使用するための複合正極材料である。複合材料は、少なくとも部分的に埋め込まれた導電性材料をその内部に有する水酸化ニッケル粒子を含む。埋め込まれた材料は、体積部内に埋め込まれた導電性金属であることが好ましい。好ましい正極活物質は、一つ以上の変成剤を含む殆ど球形で高密度の、事前酸化水酸化ニッケル粒子である。
【0037】
事前酸化正極活物質は、部分的に酸化されていることが好ましい。部分的に酸化された正極活物質は、反応性を改善し、より遅くて且つ制御出来る反応を行なわせ、熱発生を低減し、安全性を改善し、充電の均衡を最適化する。事前酸化正極活物質は、1%より多く酸化されることが好ましい。事前酸化活性正極材料は、80%以下酸化されているのが好ましく、3から70%酸化されているのがより好ましく、5から55%酸化されているのが更に好ましい。最も好ましい材料は、10から70%酸化されおり、20から60%酸化されているのがより好ましく、30から55%酸化されているのが更に好ましい。
【0038】
事前酸化正極活物質は、複数の部分的事前酸化水酸化ニッケル粒子であることが好ましい。粒子は、5から50μmの平均粒径を有することが好ましい。事前酸化粒子は、殆ど球形であることが好ましい。5から50μmの平均粒径を有し、殆ど球形な事前酸化粒子は、高いエネルギー密度と増強された過充電リザーブ容量の安定性とを有するような、ペースト正極を形成させる。部分的事前酸化粒子は、酸化された活物質と酸化されていない活物質の固溶体;酸化された材料と酸化されていない材料との層状物;酸化された活物質と酸化されていない活物質の不均質微結晶混合物;又は上記の二つ以上の組合せを含んでいる。此処に引用されているように、微結晶材料は50から150オングストロームの結晶粒径を有する。ここで図2aを参照すると、好ましい実施形態に従って部分的に酸化された粒子200が示されている。部分的に酸化された粒子は、酸化された204活物質と酸化されていない202活物質の殆ど均質な分散分布状態から成ることが好ましい。酸化された及び酸化されていない材料の分散物から成る事前酸化粒子は、長時間に亘って同一水準の充電を放出するのに適している。
【0039】
事前酸化粒子は、1%以上酸化され且つ75%より少なく酸化されるることが好ましい。粒子は、3%から50%酸化されるのが更に好ましく、8%から35%酸化されるのが更に好ましく、8%から20%酸化されるのが更に好ましい。
【0040】
ここで図2bを参照すると、もう一つの好ましい実施形態に従って部分的に酸化された粒子210が示されている。粒子は、部分的又は完全に無酸化の表面214を有することが好ましい。表面214は、98%未満が酸化されるのが好ましく、50%未満酸化されるのが更に好ましく、25%以下が酸化されるのが更に好ましい。表面は、3%から98%酸化されていないのが好ましく、5%から75%酸化されていないのが更に好ましく、75%から95%酸化されていないのが最も好ましい。部分的に酸化されていない表面は、低い速度の電荷伝達を提供し、そのことは、急激な熱が事前酸化活物質を種々の電極添加物及び/又は結合剤と混合する時発生する電極形成時において特に好都合であるということが見出されている。表面が無酸化から部分酸化までにわたっていることによって、ペースト混合又は電極形成時の過大な熱発生を緩和することが出来る。非酸化表面は、最初の電池サイクルが始まるまで高度な充電を維持するのにも好都合である。粒子は、部分的に酸化された体積内部及び/又は中核部212を有することが好ましい。体積内部及び/又は中核部212は、1%から100%酸化されるのが更に好ましく、3%から35%酸化されるのが更に好ましく、5%から25%酸化されるのが更に好ましく、8%から20%酸化されるのが更に好ましい。中核部は、体積内部とは分けて考えられ、体積内部と異なった程度に酸化される。中核部は、それ故、完全に酸化されることもあるが、一方体積内部は99%未満が酸化されるか、又は上に挙げたような好ましい程度に酸化される。
【0041】
事前酸化粒子は、非焼結又はペースト電極に形成されるのが好ましい。ペースト電極は、事前酸化材料を種々の添加物及び/又は結合剤と混合して、そのペーストを導電性支持体に塗布することにより製造される。その他にも別の非酸化正極活物質を、混合物に調合することが出来る。好ましくは、一つ以上のコバルト添加物がペースト電極に添加される。コバルト添加物はCo及び/又はCoOを含み、導電性を向上し、利用率を改善し、且つ正極の電気抵抗を低減することが出来る。
【0042】
(試料)
二つのC型単電池が調製され、一つは従来の水酸化ニッケルを有し(比較試料)、一つは事前酸化水酸化ニッケルを有していた。
【0043】
比較用のC型単電池を、遷移金属基のラベス相AB水素貯蔵材料からなる乾式圧粉成型した負極、5%Coと6%CoO添加物を含みペースト塗布した(Ni,Co,Zn)(OH)正極、電解液として30%KOH、及びセパレータとしてPP/PEグラフト共重合不織布から製造した。正極は、未使用の(酸化されていない)(Ni,Co,Zn)(OH)球状粉、Co、CoO、及び結合剤材料のペースト混合物から直接調製した。この単電池の容量の公称値は、4.5Ahである。
【0044】
「事前酸化正極」を有するC型単電池を、正極活物質として使用した(Ni,Co,Zn)(OH)球状粉が予め酸化させる工程を通して形成されたこと以外は、比較用単電池と同じ構成要素から製造した。酸化条件は、室温で5.5重量%次亜塩素酸塩溶液に3時間浸漬であった。予備充電の量は、容量の可逆部分の50%である。電池構成の残りの部分は、比較用単電池と同じであった。
【0045】
サイクル寿命試験は、96チャンネルのMaccor Gen4電池試験装置を用いて行なった。試験装置は、充電及び放電の両方で0から+5ボルトまでと12.5ampの電流が可能な、96の独立に制御できるチャンネルから成っている。このMaccor電池試験装置は、単電池電圧をモニターし最大放電電圧値を決定する。試験装置が最大値から3mVの負の電圧変化を検出した時に、充電を停止する。単電池はそれぞれのチャンネルに接続されて、C/2充電を用いて−ΔV停止までサイクル試験された。単電池は次いでC/2速度で0.9ボルトでの停止まで放電された。単電池は、単電池が元の容量の70%未満に低下するまで、この方法を用いて連続的にサイクル試験(約5サイクル/日)された。
【0046】
サイクル寿命の結果は、図4に図示されている。サイクル対容量の図表示から分かるように、事前酸化水酸化ニッケル材料を有する電池は、著しく改善されたサイクル寿命を有している。
【0047】
事前酸化正極活物質は、適切な如何なる方法で製造してもよい。事前酸化正極活物質は、相当量ではあるが完全ではない程度の酸化をさせるのに適した時間と温度で水酸化ニッケル材料を酸化剤に曝すことにより製造されるのが好ましい。従って、酸化条件は、好ましくは、単に空気や周囲条件に曝すことによってのみ与えられる以上の条件であって完全酸化には到らないものである。好ましくは、酸化処理は、一部から完全にまでにわたる程度の非酸化表面、及び部分的に酸化された体積内部及び/又は中核部を提供する。好ましくは、酸化処理は、粒子全体に亘って、酸化された活物質と酸化されていない活物質が殆ど均一な分散分布状態を実現する。
【0048】
部分的事前酸化正極活物質を製造する好ましい方法は、酸化剤の存在下で活物質を形成することを含む。部分的事前酸化正極活物質を製造するもう一つの方法は、酸化された活物質中核部又は内芯部を形成し、その内芯部を別の酸化程度を有する活物質で覆い包むことを含んでいる。この方法の一変形としては、まず核を形成し、その後にそれを粒子の内芯部にすることも出来る。内芯部は次いで部分的又は完全に酸化され、内芯部周囲の外核部は酸化されないか又は部分的にしか酸化されず、従って二段階以上の酸化程度を有する粒子を提供する。内芯及び外核部は、同じ化学組成を有することもあるし、異なった組成であっても良い。複数の活物質及び多様な酸化程度を有する粒子を提供することは、触媒活性度、活物質利用率、サイクル寿命などを別々に最適化するのに、粒子の表面及び体積内部の特性の両者を利用することを可能にする。
【0049】
ここで図1を参照すると、事前酸化水酸化ニッケル材料を製造する好ましい方法を示す工程図が、10で概略が図示されている。方法10は、酸化剤の存在下で水酸化ニッケル材料を形成する工程を含んでいる。工程条件は、粒子の体積内部に少なくとも部分的に酸化された活物質を取り込むのに適した時間と温度で、粒子を酸化するように設計されている。操作条件は、調節可能で、上述した好ましい事前酸化活物質を得られるよう、当業者によって適当に変更することが出来る。
【0050】
示されているように、水酸化ニッケル粒子は、連続又はイン・ライン工程で形成され酸化されるのが好ましい。連続工程は、ニッケルを含有する金属溶液12をアンモニウム・イオン14と化合させてアンモニウム金属錯体を形成する工程を含んでいる。水酸化物16がアンモニウム錯体に添加される。PHと温度が制御されて、水酸化ニッケルを徐々に析出させる。水酸化ニッケル粒子は、前期アミン錯体又は前期アミン反応装置を用いないで製造されるのが好ましい。少なくとも一つの酸化剤18が混合物に添加されて、徐々に成長しつつある水酸化ニッケルを酸化する。反応の所定の滞留時間に達した時、事前酸化水酸化ニッケル粒子は、上澄み液を流して濾過20される。全滞留時間は20時間未満であることが好ましい。
【0051】
ニッケルを含有する金属溶液は、金属硫酸塩溶液「MeSO」であることが好ましい。金属硫酸塩溶液は、ニッケル以外の一つ以上の変性剤又は金属を含むことがある。この溶液は水酸化ニッケル粒子が生成されながら、同時に部分的に酸化されるような速度で供給され、混合され、反応され、上澄み液が除かれる。酸化剤は、粒子が形成されるときに選択的に酸化するような濃度と割合で供給され、それにより中核部、体積内部及び表面を所定の程度に酸化させる。適切な酸化剤は、塩素酸塩、過塩素酸塩、次塩素酸塩、次亜塩素酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、硝酸塩、酸素含有化合物などを含む。酸化剤のリストは、上述のものに限定されると考えるべきではなく、eが移動するような如何なる脱水素反応をも含む。最も好ましい酸化剤は、次塩素酸ナトリウムである。
【0052】
好ましい工程条件は、MeSO、NHOH、NaOH及び酸化剤を単一の反応装置内で化合させること、反応装置を20〜100℃(より好ましくは40〜80℃で、最も好ましくは50〜70℃)の一定温度に維持すること、配合物を400〜1000rpm(より好ましくは500〜900rpmで、最も好ましくは700〜850rpm)の速度で撹拌すること、撹拌されている配合物のpH(11)を9〜13の間の値に(より好ましくは10〜12で、最も好ましくは10.5〜12.0)制御すること並びに液相及び気相両者におけるアンモニア濃度を制御することを含んでいる。
【0053】
MeSO溶液は、3〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%、最も好ましくは7〜12重量%のニッケルを硫酸ニッケルとして、望ましい変性剤(一つ又は複数)を含む別の硫酸塩溶液と混合することによって調合される。全体として、反応装置に加えられる金属硫酸塩溶液は0.05〜6Mである。反応装置に加えられるNHOH溶液は、1〜15M、より好ましくは5〜15Mで、最も好ましくは10〜15Mである。反応装置に加えられるNaOH溶液は、5〜50重量%、より好ましくは8〜40重量%、最も好ましくは15〜30重量%である。
【0054】
上で述べたように、反応装置内の混合物のpHは制御されねばならない。pHの制御は、適切な如何なる方法によっても、好ましくはKOH又はNaOHなどの塩基を必要に応じて添加することにより、達成できる。反応装置内に導入された混合物の成分間の最適な接触を保証するために、連続的な混合又は撹拌を行うべきである。撹拌は、掻き混ぜ、揺動、渦流発生、超音波振動など、適切な如何なる方法で提供されてもよい。図においては、撹拌は連続的の掻き混ぜ22によって与えられている。
【0055】
変性された水酸化ニッケル材料の体積内部に非溶解性変性剤を効果的に取り込むためには、不溶性成分はニッケル・イオンを含有するMeSOの中に含めるのではなく、むしろ別の溶液中で調合され別のフィードストリームを用いて導入されることが好ましい。例えば、カルシウムのような変性剤は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、など別のフィードストリームを用いて調合すべきである。反応装置内に導入されるCa塩溶液は、0.005〜20重量%、より好ましくは0.005〜2.0重量%、最も好ましくは0.005〜1.0重量%であろう。第三(又は更に多くの)のフィードストリームを、正極の体積内部の活物質中に供給されることが望まれるその他の不溶性材料に対して用いることが出来る。
【0056】
本発明者等は、CSTR法が処理を非常に簡単化し、前期アミン錯体又は前期アミン反応装置を用いないで達成できることも見出した。本発明者等は、ニッケル・アンモニウム錯体の生成と分解が同時に進行しうるということ、並びに短寿命ニッケル・アンモニウム錯体は問題点であると他者が普通に考えているようなものではないことをはっきりと理解した。それ故、前に述べた反応物濃度並びに温度、混合、pH、及び成分濃度の反応装置条件のもとでは、ニッケル・アンモニア錯体の生成及びそれに続く水酸化ニッケルへの即座の析出は、同時に起こり得る。本発明者等は、更に、単一反応装置CSTR法は、以下のものを含む多くの利点を伴って利用することができるということを認識している:
・ 高濃度反応液の使用、それにより放出する流量を効果的に低減すること
・ 低いpHの使用、それにより機器の寿命及び工程管理の信頼性を拡大すること
・ 二つの反応装置を均衡させる必要性の消滅、それにより操作の容易性を向上すること
各成分の添加及び得られるスラリー(析出した事前酸化水酸化ニッケル材料を含有している)の取り出しは、スラリーが析出物の最大量と未反応成分の最小量とを含むように、相補的速度で注意深く制御されることが好ましい。スラリーは反応装置から取り出された後、濾過されて液体から析出物が分離される。液体は再利用され、析出物は処理されて、本発明の変性された事前酸化水酸化ニッケルを生成する。
【0057】
それ故、未熟性析出物や処理不良無しに、一、二、三、四、五種類又はそれ以上の種類の変性剤を有する事前酸化水酸化ニッケル材料を生産することができる。事前酸化水酸化ニッケル材料の形成に用いられる好ましい変性剤は、Coを含み、以下の式から選ばれたものによって特徴づけられるであろう:
・ (NiCo)(OH)
・ (NiCoZn)(OH)
・ (NiCoZnMgCa)(OH)
・ (NiCoZnMnMgCa)(OH)
・ (NiCoZnMgCaCuMn)(OH)
変性剤の総量は、ニッケル材料の全金属化合物の20%未満を占めることが好ましい。Coは全金属組成に対して、好ましくは3から9原子%、より好ましくは4から8原子%、最も好ましくは5から7原子%存在する。Zn、Mg及びCaはそれぞれ2原子%未満であることが好ましい。事前酸化粒子は、事前酸化Coを含むことが好ましく、一つ以上のその他の事前酸化変性剤を含むことも可能である。
【0058】
本発明の方法において、ある操作パラメータについては特別の注意を払わなければならない。例えば、反応装置内のアンモニアの液体飽和に対するその蒸気即ち上部空間飽和は、非常に重要である。本発明者等は、反応装置内のアンモニア濃度が、得られる粉体の結晶性及び充填密度に関しての最終特性に著しく影響することを見出した。水酸化アンモニウムは連続的に反応装置内に計り入れられるが、過剰に存在するので、アンモニアの一部は反応装置の上部空間を経由して除去しなければ成らない。本発明者等は、液体上部に「硬い殻」が形成するのを避けるように、即ち反応装置内の空気に曝されている液体表面を不注意で焦がしてしまうのを避けるように、注意を働かせなければ成らないことを見出した。本発明者等は、更に、流入及び流出する空気の流れを、空気流量及び湿度の点につき制御する。100kg/日の反応容器においては、約65%未満の相対湿度で、約50ft/分の空気供給量で十分であることを、発明者等は決定した。適正に管理されれば、適正な密度と結晶性を有する本発明の材料を高い信頼度で大量生産出来る。一方、もしもアンモニアの上部空間飽和又は濃度などの工程パラメーターが無視されれば、低品質水酸化ニッケル材料が生産される可能性が高い。
【0059】
発明は図面及びこれまでの説明で詳細に例示されているが、それは単なる例示であって制限的性質のものではないと考えられるべきであり、好ましい実施形態が示され十分説明されたものに過ぎず、発明の精神に包含される変更箇所及び修正部分はその全てが保護されることを要望するものであると解釈されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質及び負極容量を有する負極電気化学活物質を備える負極と、
前記負極と電気化学的に結合し、正極電気化学活物質、予備充電、及び正極容量を備える正極と
を含む水素貯蔵電池。
【請求項2】
前記正極の予備充電は、組立後の前記負極への自己充電を相殺するのに十分な量で供給される、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項3】
前記負極は予備充電を有し、
前記電池は正極容量の制限を受け、
前記正極の予備充電は前記負電極の予備充電以上である、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項4】
前記電池は、過充電リザーブ容量、過放電リザーブ容量、及び過剰負極容量を更に含み、
前記過剰負極容量は、前記過充電リザーブ容量と前記過放電リザーブ容量の間で均衡している、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項5】
前記正極は、伝導性を向上させる一つ以上の添加剤を更に含み、
前記一つ以上の添加剤の酸化が前記負極に一回の自己充電を与え、前記正極の前記予備充電は前記一回の自己充電と均衡するのに十分な量で供給される、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項6】
前記正極は焼結されておらず、前記正極電気化学活物質は複数の事前酸化粒子を含む、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項7】
前記正極は、電池組立直後に、複数の酸化されていない正極活物質粒子を更に含む、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項8】
各事前酸化粒子は、3%から75%が酸化されていない、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項9】
各事前酸化粒子は部分的に酸化されていない、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項10】
各事前酸化粒子は、酸化されている正極活物質と酸化されていない正極活物質とが各粒子全体に亘って分散している、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項11】
各事前酸化粒子は、オキシ水酸化ニッケル材料及び水酸化ニッケル材料を含む、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項12】
各事前酸化粒子は、酸化されていない領域が1%を超えている表面を有する、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項13】
各事前酸化粒子は、1%から50%が酸化された体積部を有する、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項14】
各事前酸化粒子は、3%から35%が酸化された体積部を有する、請求項6の水素貯蔵電池。
【請求項15】
前記負極は、AB2、変性されたAB2、TiZrVNiCr又は変性されたTiZrVNiCrから成る群から選ばれる電気化学的水素貯蔵合金を含む、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項16】
前記負極は、AB5、変性されたAB5、及びその他のABX材料から成る群から選ばれる電気化学的水素貯蔵合金を含む、請求項1の水素貯蔵電池。
【請求項17】
水素貯蔵電池の製造方法であって、
負極に負極活物質及び過充電リザーブ容量を与える工程と、
正極に正極活物質を与える工程と、
前記負極への自己充電を相殺するのに十分な量の予備充電を、通常の電池サイクルに先立って、前記正極に与える工程と、
前記負極を前記正極と電気化学的に結合して電気化学電池にする工程と
を含む方法。
【請求項18】
前記負極は前記正極の予備充電より小さい予備充電を有する、請求項17の方法。
【請求項19】
前記負極と前記正極との間の充電分布を実質的に均衡させるべく、前記電池に電気的形成処理を受けさせる工程を更に含む、請求項17の方法。
【請求項20】
前記負極と前記正極との間の充電分布を実質的に均衡させるべく、前記電池に熱的形成処理を受けさせる工程を更に含む、請求項17の方法。
【請求項21】
前記正極は焼結されておらず、前記正極活物質は、水酸化ニッケル材料及びオキシ水酸化ニッケル材料を有する複数の粒子を含む、請求項17の方法。
【請求項22】
部分的に酸化された複数の活性ニッケル粒子を酸化されていない複数の活性ニッケル粒子と組合せ、その混合物を焼結されていない電極に形成することを含む工程によって前記正極を形成する工程を更に含む、請求項17の方法。
【請求項23】
前記部分的に酸化された複数の活性ニッケル粒子は、3%から55%が酸化されている、請求項22の方法。
【請求項24】
前記部分的に酸化された複数の活性ニッケル粒子は、10%から70%が酸化されている、請求項22の方法。
【請求項25】
前記負極への一回の充電に寄与する電気化学的に不可逆な添加物を前記正極に与える工程と、
前記負極への前記一回の充電を相殺するのに十分な量の事前酸化正極活物質を添加する工程と
を更に含む、請求項22の方法。
【請求項26】
前記添加物はCoとCoOの一つ以上を含む、請求項25の方法。
【請求項27】
前記添加物は、ニッケル又はコバルト化合物以外の、3よりも大きな原子価を有する非可逆的酸化剤を含むことを特徴とする、請求項25の方法。
【請求項28】
部分的に酸化されていない事前酸化正極活物質を含む水素貯蔵電池用正極材料。
【請求項29】
前記事前酸化正極活物質は、部分的に酸化された複数の粒子である、請求項28の正極材料。
【請求項30】
前記複数の粒子は5から100ミクロンの平均粒径を有し、各粒子は1%から99%が酸化されている、請求項29の正極材料。
【請求項31】
請求項28の材料を含む、焼結されていない正極。
【請求項32】
前記複数の粒子は3%から70%が酸化されている、請求項29の正極材料。
【請求項33】
前記複数の粒子は10%から55%が酸化されている、請求項29の正極材料。
【請求項34】
各粒子は水酸化ニッケル材料及びオキシ水酸化ニッケル材料を含む、請求項29の正極材料。
【請求項35】
前記水酸化ニッケル材料及びオキシ水酸化ニッケル材料は、各粒子全体に亘って実質的に均一に分布される、請求項33の正極材料。
【請求項36】
各粒子は、70%以下が酸化された表面を有する、請求項28の正極材料。
【請求項37】
各粒子は、30%から97%が酸化されていない表面を有する、請求項28の正極材料。
【請求項38】
各粒子は、3%から75%が酸化されている体積部又は中央部を有する、請求項28の正極材料。
【請求項39】
水素貯蔵電池の正極用ニッケル活物質を製造する方法であって、
酸化剤の存在下において水酸化ニッケル粒子を形成する工程
を含む方法。
【請求項40】
前記水酸化ニッケル粒子は、酸化剤の存在下において、連続的に成長させられて各粒子が部分的に酸化される請求項39の方法。
【請求項41】
前記水酸化ニッケル粒子を形成する工程は、
活物質の核を第一の程度に酸化することと、
前記核の周囲に活物質を成長させることと
を更に含み、
前記核の周りの前記活物質は第二の程度に酸化している、請求項39の方法。
【請求項42】
前記第二の程度の酸化は、0%か又は約0%である、請求項41の方法。
【請求項43】
前記粒子は酸化性溶液中で成長し、各粒子全体に亘って酸化された活性物質と酸化されていない活性物質とを有する、請求項39の方法。
【請求項44】
前記粒子は、金属錯体の形成と分解により成長して析出物を形成する、請求項39の方法。
【請求項45】
前記水酸化ニッケル粒子を形成する工程は、反応装置中で金属イオン溶液、アンモニウム溶液、金属水酸化物及び酸化剤を組み合わせることを含む、請求項39の方法。
【請求項46】
前記金属イオン溶液は、金属硫酸塩溶液である、請求項45の方法。
【請求項47】
前記アンモニウム溶液は水酸化アンモニウムであり、前記金属水酸化物は水酸化ナトリウムである、請求項46の方法。
【請求項48】
前記金属イオン溶液は、NiCo、NiCoZn、NiCoZnMg、NiCoZnMgCa、及びNiCoZnMgCaCuから成る群から選ばれたベースメタル組成のニッケル活物質を生成するよう調製された一つ以上のフィードストリームを含む、請求項45の方法。
【請求項49】
前記反応装置は連続的に撹拌される、請求項45の方法。
【請求項50】
前記酸化剤は、塩素酸塩、次亜塩素酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、及び硝酸塩から成る群から選ばれる、請求項45の方法。
【請求項51】
前記酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムである、請求項50の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−169281(P2012−169281A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−90789(P2012−90789)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【分割の表示】特願2003−509566(P2003−509566)の分割
【原出願日】平成14年6月18日(2002.6.18)
【出願人】(599163621)オヴォニック バッテリー カンパニー インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】