説明

水素醗酵装置

【課題】 原料供給設備および攪拌設備を有する水素醗酵槽と、前記水素醗酵槽に連通するガス管と、前記水素醗酵槽の発生ガスを貯留するガス貯留槽を有する水素醗酵装置において、水素醗酵を行なう水素醗酵槽では、生成する水素ガスにより、水素醗酵槽内の水素分圧が上昇し、可逆反応(水素ガスの取り込み)が促進され、その結果、水素ガスの生成(水素醗酵)が抑制され、場合により水素醗酵反応が停止してしまう。これを解決すること。
【解決手段】 水素醗酵槽2の壁面に設けられた醗酵液排出管4と、この醗酵液排出管4に接続されたサイホン設備5とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素醗酵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、燃焼しても二酸化炭素を排出しないクリーンな燃料として注目されており、燃料電池などの次世代エネルギーとして需要が高まっている。今日、水素ガスは主に化石燃料からの改質により製造されており、地球温暖化の観点から、化石燃料に替わりクリーンで効率のよい水素製造技術の実用化が期待されている。このような中嫌気性微生物を用いて有機性物質を醗酵させて水素ガスを製造する、いわゆる水素醗酵法は、バイオマス、有機性廃水および廃棄物などに含有される糖質を原料に水素生成細菌により水素ガスを製造することが可能であることから、廃棄物のエネルギー化および再資源化として重要な技術である。また水素醗酵は、水素生成細菌により水素ガスと同時に有機酸を生成することから、水素醗酵後の排出液をメタン醗酵処理することでメタンを回収することができる。
【0003】
水素醗酵として、嫌気条件下で糖を分解して水素ガスを生産する反応は一般には次式(1)で表せる。
12+2HO → 2CHCOOH+2CO+4H ・・・(1)
炭水化物の基礎となる六炭糖(C12:以下、ヘキソースという。)1モルから、化学量論的に水素ガスは最大4モル得ることができる。そのためヘキソース1モル当たりに回収できる水素ガスのモル数を水素生成収率(非特許文献1参照)といい、水素ガス回収の評価に用いている。
【0004】
水素ガスの生成に関与する酵素は、ヒドロゲナーゼとニトロゲナーゼが知られており、嫌気性醗酵では主にヒドロゲナーゼを用いた水素生成が行われている(非特許文献2、非特許文献3参照)。ヒドロゲナーゼは水素ガスの放出または取り込みを触媒する酵素であり、(2)式に示す可逆反応により水素ガスの酸化やプロトンの還元を行う。水素醗酵経路におけるこのヒドロゲナーゼの酵素反応は可逆反応であるため、水素分圧が高くなると水素ガス生成が阻害されてしまい、さらに酸素に対しきわめて不安定であるため容易に失活してしまう。
【数1】

【0005】
水素生成細菌の代謝経路に関与する酵素の生成や活性は、環境条件(pH、揮発性脂肪酸濃度、水素分圧、水理学的滞留時間(以下、HRTという。)微量元素濃度など)の影響も大きく受けることが知られており、酢酸以外にギ酸、酪酸、乳酸、エタノールなどを生成する。さらに、水素生成細菌は生育に必要なエネルギーおよび還元力(電子)双方をすべて原料である有機物に依存しているため、基質を完全に水素ガスに変換できず、実際に得ることができる水素生成収率は4モルよりも低い。
【0006】
また、水素醗酵により生成した水素ガスを資化する微生物(水素資化性メタン生成細菌、硫酸還元細菌など)も存在すると、その分回収できる水素ガス量も減少してしまう。したがって、水素生成細菌を利用して水素ガスを連続して生成させるためには、水素生成細菌の優占化に適合した醗酵条件を維持し、原料から生成した水素ガスを効率的に回収できるシステムが必要となる。
【0007】
図10は従来の水素醗酵装置の概略的な構成図である。図において、101は水素醗酵装置である。102は有機物を水素醗酵により分解して水素ガスを生成する水素醗酵槽である。103は有機物を水素醗酵槽102に投入する原料供給設備としての流入管であり、104は水素醗酵により生成した有機酸等を含む醗酵液を水素醗酵槽102から取り出す醗酵液排出管である。105は水素醗酵槽102内を攪拌し、水素醗酵槽102に投入された有機物と水素醗酵槽102内に存在する水素生成細菌とをまんべんなく混合する攪拌設備である。106は水素醗酵槽102内で生成されたガス(以下、バイオガスという。)を取り出すガス管であり、ガス貯留槽107に連通している。
醗酵液排出管104は、水素醗酵槽102の壁面であって、最高液位HHLの部位と最低液位LLの部位にそれぞれ連通した管の部分とこれらの管を合流した管の部分とを有し、合流した管の部分は水素醗酵槽102よりも低い位置に及んでいる。また、上記最低液位LLの部位に連通した管には排出弁108が設けられている。
【0008】
次に動作について説明する。
排出弁108は予め閉じてある。有機物が流入管103を経由して連続的又は間欠的に水素醗酵槽102に投入される。水素醗酵槽102に投入された有機物は、攪拌設備105の攪拌により水素醗酵槽102内に存在する水素生成細菌とまんべんなく混合されて、水素醗酵により分解して水素ガスが生成される。水素醗酵が進行すると、水素醗酵槽102の液相において水素濃度が上昇し、気相において水素分圧が上昇する。有機酸等を含んだ醗酵液は水素醗酵槽102内の最高液位HHLに達した以後は、醗酵液排出管104をオーバーフローして系外に取り出される。
【0009】
このような制御法は、流入管103からの原料投入量と、醗酵液排出管104からの醗酵液の排出量とを、オーバーフローによりバランスする制御方式であり、ここでは、オーバーフロー方式と称する。なお、かかる構成及び動作をする水素醗酵装置に類似するものとして、オーバーフロー方式の記載はないが、原料供給設備および攪拌設備を有する水素醗酵槽と、前記水素醗酵槽に連通するガス管を具備したものがある(例えば、特許文献1参照)。そのほか、従来行なわれている制御法として、水素醗酵槽102への原料投入や醗酵液の排出をポンプで行なうポンプ方式がある。
【0010】
【非特許文献1】鈴木智雄監修「微生物工学技術ハンドブック」320頁〜332頁(1990)
【非特許文献2】鈴木周一編「エネルギー資源と微生物」75頁〜118頁
【非特許文献3】片岡直明 他「微生物による水素生成システムに関する研究」38頁〜45頁、エバラ時報No.183(1999−4)
【特許文献1】特開2003−251312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の水素醗酵装置では、以上のように構成されているので、以下に述べる課題を有していた。
第1に、オーバーフロー方式では必然的にHRTが長くなり、水素生成収率の減少または水素ガス生成の停止という課題がある。
HRTが長いと水素生成細菌以外の微生物が生成した水素ガスを消費してしまうことから、原料である有機物からの水素ガス回収効率が低くなる。尤も、オーバーフロー方式の連続運転でも、流入管103からの原料投入量と、醗酵液排出管104からの醗酵液の排出量とを、例えば、排出弁108の開閉制御も加えて制御し、HRTを制御することは可能であるが、実際の運転時においては、理論通り100%の醗酵液が完璧に制御されることは考えられず、短絡流などにより、水素生成細菌に適したHRTを維持することは困難であった。
【0012】
第2に、連続運転の経過と共に、水素生成細菌以外の微生物が増殖して水素生成収率が減少してしまうという課題がある。
流入管からの原料連続投入、醗酵液排出管からの醗酵液の連続排出を行うと、菌体の増殖に伴い、菌体に対する有機物質(例えば、BOD・SS負荷)が低減してしまい、良好な水素生成収率を維持しにくい。
【0013】
オーバーフロー方式や、或いはポンプ方式で連続運転すると、有機物負荷が一定であれば、存在する有機物質量に応じて菌体量が増殖する。有機物負荷は一定であっても、菌体の増殖に伴って菌体量当たりの有機物量(有機物・SS負荷)は低減してしまう。そのため、菌体量が少ない時には有機物負荷が比較的高い時に出現する微生物群集を示し、菌体量の増加と共に有機物負荷が低い時に出現する微生物群集に変化してしまう。また、一般的に菌体を純粋培養する際、一定の有機物負荷条件で継体培養を繰り返すと、菌体の活性が低下してしまうため、培地の有機物負荷を変化させて培養を行なうことが多い。
【0014】
水素生成細菌は、特に高負荷条件に限って出現するわけではないが、運転負荷が低くなると他の微生物も出現しやすくなり、優占割合は低下してしまう。そのため、前記した従来法の連続運転では運転開始時には水素生成細菌の優占運転を維持できるが、運転経過と共に、菌体量が増殖し、水素生成細菌以外の微生物が増殖して水素生成収率が減少してしまう。
【0015】
第3に、水素ガスは爆発性のガスであり水素醗酵槽内の機器を防爆仕様にしなければならないという課題がある。
水素醗酵によりバイオマスや有機性廃棄物から直接回収される水素ガスは爆発性ガスであり、バイオガスや醗酵液に直接触れる機器は全て防爆仕様が必要である。防爆仕様の機器は通常の機器と比べて大掛かりで、価格も高価である。しかも防爆仕様にしたからといって100%安全とは限らない。
【0016】
第4に、水素醗酵槽の液量レベルの制御が難しいため、反応がうまくいかないという課題がある。
水素醗酵槽の液量レベルをポンプ方式で行なう場合、特に小さい装置ではポンプの制御が難しく、流入管からの原料投入量が多過ぎると水素醗酵槽から醗酵液があふれて、その結果、嫌気性が保持できず、現場が菌体による汚染を受けることがあった。逆に水素醗酵槽内の醗酵液の排出量が多過ぎると、水素醗酵の要ともいえるミクロフローラを必要以上に流出させてしまうこともあった。
【0017】
また、オーバーフロー方式による流入管からの原料連続投入、醗酵液排出管からの醗酵液の排出だと、ポンプ流量の制御の失敗による菌体の流出は起こらないが、投入時にオーバーフロー方式の配管が詰まりやすく、醗酵液が溢れたり、有機物負荷が低くなりミクロフローラの微生物群集が変わってしまい、反応がうまくいかなくなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を達成するため、請求項1記載の発明では、原料供給設備および攪拌設備を有する水素醗酵槽と、前記水素醗酵槽に連通するガス管と、前記水素醗酵槽の発生ガスを貯留するガス貯留槽を有する水素醗酵装置において、前記水素醗酵槽の壁面に設けられた1つまたは2つ以上の醗酵液排出管と、前記醗酵液排出管に接続されたサイホン設備とを備えることとした。
請求項2記載の発明では、前記醗酵液排出管に開閉弁を設けた。
請求項3記載の発明では、前記サイホン設備には、漏水防止弁を設けた。
請求項4記載の発明では、前記ガス貯留槽のガスを前記水素醗酵槽へ送る送気設備を設けた。
請求項5記載の発明では、前記水素醗酵槽内に伸縮性袋材が設けられ前記水素醗酵槽外に設けた給排気手段と接続した。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、水素醗酵槽をサイホン設備で連通した構成とし、槽内に原料を投入しつつ醗酵液を貯留し規定レベルで一気に排出したのち、再び貯留するという工程を繰り返すことができるので、従来技術のオーバーフロー方式では解決できなかったHRTのコントロールが可能となり、水素生成収率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
水素醗酵は、有機性廃水または廃棄物を原料に水素生成細菌により次世代型クリーンエネルギーとして注目されている水素ガスを効率よく回収できる水素製造技術である。ところが、水素醗酵槽では、水素ガスの生成により槽内の水素分圧が上昇し、その結果、水素ガスの生成(水素醗酵)が抑制され、場合により水素醗酵反応が停止してしまう。しかし、以下で述べるように、この発明では、サイホン設備によりHRTを短く維持することで、可逆反応を抑制でき水素醗酵反応を停止させることなく好条件で水素ガス生成を可能にする。
【0021】
また、以下の実施の形態では、水素醗酵槽周辺では、水素ガスが可燃性ガスであることから災害防止、安全確保のため関連機器を防爆仕様としなければならず、コスト面や維持管理面で大きな負担となっているが、この発明では以下で述べるように、水素醗酵槽の液量レベルの制御に電気機器を用いずサイホン設備を用いるので爆発の危険は極端にない。
このように、以下で述べる実施の形態では、サイホン設備により、水素醗酵を行なう水素生成細菌を含む水素醗酵液を速やかに且つ確実に排出することができこれにより、水素醗酵槽内の水素生成細菌の菌体量を制御し、以って、水素分圧の上昇を防止(可逆反応の抑止)ができる。また、災害防止、安全確保のための防爆できるものとして水素醗酵槽の醗酵液排出にサイホン設備を用いている。
【0022】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による水素醗酵装置の概略的な構成図である。図において、1は水素醗酵装置、2は有機物を水素醗酵により分解して水素ガスを生成する水素醗酵槽であり、嫌気状態を保持するように製作され、水素生成収率が高くなるように温度、pH、有機物負荷、HRTなどが調整される。この槽内で水素ガス生成能をもつ微生物と投入された原料が攪拌され、水素ガスを含有するバイオガスと代謝産物に変換される。3は被処理対象である有機性廃液・廃棄物、食品残渣、有機性汚泥など有機物からなる原料を水素醗酵槽2に投入する原料供給設備としての供給管である。水素醗酵槽2に投入する有機物は固体状態のものでも、液体状態のものでもよい。4は水素醗酵により生成した有機酸等を含む醗酵液を水素醗酵槽2から取り出す醗酵液排出管であり、水素醗酵槽2の壁面に連通している。
【0023】
5は逆さU字の形に曲げられた形状部分を有する管からなるサイホン設備であって、一端側は醗酵液排出管4に接続され、他端側は醗酵液排出管4よりも下位、この例では水素醗酵槽2よりも下の位置にある。7は水素醗酵槽2内を攪拌し、水素醗酵槽2に投入された原料と水素醗酵槽2内に存在する水素生成細菌とをまんべんなく混合する攪拌設備である。槽内の原料及び水素生成細菌を十分に混合攪拌でき、嫌気性を保つことができれば、形式は問わない。8は水素醗酵槽2内でバイオを取り出すガス管であり、ガス貯留槽6に連通している。
【0024】
ガス貯留槽6は、醗酵によって生成されたバイオガスを貯留する槽である。水素醗酵槽2への原料投入と、サイホンが起きるときに、貯留しているガスの吸収・排出をすることで、水素醗酵槽2内の内圧を調整するクッションタンクとしての役割をもち、外内圧の調整により、サイホンをスムーズに起こす役割をもつ。
【0025】
醗酵液排出管4は水素醗酵槽2の壁面であって、定められた最低液位LLの部位に連通している。攪拌設備7は最低液位でも槽内を攪拌できるように、最低液位LLよりも下に配置されている。サイホン設備5の逆さU字形状をした管の内壁頂部(小曲率部)のレベルを水素醗酵槽2について定められた規定液位HLに合わせてある。よって、水素醗酵槽2の液位が上昇するに伴って、サイホン設備5内の液位も上昇し、規定液位HLよりも液位が上昇してサイホン設備5の逆さU字形状をした管の部位が満管になるとサイホンが起きる。
【0026】
水素醗酵槽2は反応時発泡により液位が上昇する場合もあるので、安全をみて規定液位HLよりも上部に余裕のある設定が望ましい。逆にいえば、規定液位HLは余裕をみて設定されているのがよい。なお、図示していないが、醗酵液排出管4には水素醗酵槽2と排出側とを区切る排出弁が設けられる。例えば、メンテナンス時に使用される。この排出弁はサイホンが起きるときには開けられる。サイホンが起きていないときには開閉は何れでもよい。
醗酵液排出管4は、水素醗酵槽102の壁面であって、規定液位HLの部位と最低液位LLの部位にそれぞれ連通した管の部分とこれらの管を合流した管の部分とを有し、合流した管の部分は水素醗酵槽102よりも低い位置に及んでいる。また、上記最低液位LLの部位に連通した管には排出弁108が設けられている。
【0027】
次に動作について説明する。
(基本工程1)
図2において、水素醗酵槽2の液位が規定液位HLよりも下位にある状態のもとで、供給管3を経由して原料を水素発酵槽2に投入中であり、水素醗酵槽2内の液位も上昇中である。サイホン設備5内の液位も逆さU字形状をした管の部位よりも下のレベルにあるのでサイホンは起きていない。攪拌設備7は駆動中であり、反応が行なわれて水素醗酵槽2からガス管8を経てガス貯留槽6へバイオガスが送気されている。
【0028】
(基本工程2)
図3において、供給管3を経由して原料を水素発酵槽2に投入中であり、水素醗酵槽2の液位が規定液位HLを超えた状態でまもなくサイホンが起きるところである。攪拌設備7は駆動中であり、反応が行なわれて水素醗酵槽2からガス管8を経てガス貯留槽6へバイオガスが送気されている。
【0029】
(基本工程3)
図4において、サイホンが起きて醗酵液排出管4およびサイホン設備5を経て水素醗酵槽2の醗酵液の排出が開始されたところであり、液位が規定液位HLから低下中である。供給管3を経由しての原料の水素発酵槽2への供給は任意である。攪拌設備7の駆動は任意である。液位の低下に伴い水素醗酵槽2の内圧が低下し負圧になるため、ガス貯留槽6からガス管8を経てバイオガスが水素醗酵槽2に供給(還流)中である。これにより、サイホンが起きた状態が継続し、液位の低下も継続される。
【0030】
(基本工程4)
図5において、起きていたサイホンにより水素醗酵槽2内の醗酵液が最低液位LLまで排出を完了した状態である。供給管3を経由しての原料の水素発酵槽2への供給は任意である。醗酵液排出管4から立ち上がったサイホン設備5内に醗酵液は残っておらず全部排出されている。ガス貯留槽6からガス管8を経ての水素醗酵槽2へのバイオガスの供給を停止するどうかは任意である。なお、図示していないが、醗酵液排出管4に逆止弁を連結しておけば、水素醗酵槽2内の圧力の関係で醗酵液排出完了時において水素醗酵槽2内に向けて外気が流入してくる場合でも、これを防止することができる。
【0031】
以上の基本工程を繰り返すことにより、連続的に水素を生成することができる。この発明では、サイホン設備を設けた点に特徴があり、醗酵液をサイクリックに一気に排出するので、基本的にHRTの短縮を図ることができる。
A. 供給管3を介しての水素醗酵槽2への原料の投入量を制御することで確実に水素消費が起こらない最適なHRTの維持が可能となる。
回収できる水素ガスの生成収率の多寡は、原料組成、供試するミクロフローラ、制御pH、醗酵温度、有機物負荷などによっても影響を受ける。中でも、HRTを制御することで水素生成収率を高くできることがわかってきた。一般に水素生成細菌は他の微生物と比べて、増殖速度が速く、水素生成速度も速い。そこで、水素醗酵の運転において、原料である投入有機物の反応槽内に滞留する時間を制御し、HRTを短く維持することで、水素生成細菌を優占種として維持することが可能となる。
反対にHRTを長く運転してしまうと水素を利用する水素生成細菌以外の微生物が増殖し始め、水素生成収率が減少してしまう。また、増殖速度が速い水素生成細菌は、排出時に一部の菌体を醗酵槽内に保持しておけば、次工程で必要な水素生成細菌量は確保でき、従来法で必要であった菌体の返送や濃縮は不要である。
この発明のサイホン設備5によれば、増殖した菌体も投入有機物も同時に排出できるため、確実なHRT制御が可能となり、菌体量の一部も保持することが可能となる。
【0032】
B. 水素醗酵槽2内に菌体量を一定以上保持しない運転が可能となるので、水素生成細菌が優占するのに最適な有機物負荷を維持することができる。
この発明のサイホン設備5によれば、運転によって増殖した菌体も代謝産物も一定量以上は保持せず排出することが可能であるため、長期間の運転でも菌体の増殖に伴う有機物・SS負荷が減少することがない。また、サイホン設備5によって水素ガスを消費する微生物もHRTと有機物・SS負荷を制御することで、水素生成細菌以外の微生物が出現することが難しくなり、水素生成細菌の優占運転を維持しやすくなる。また、サイホン設備5の最低水位を調整することで、優占させたい水素生成細菌に最適な有機物負荷を常に維持することも可能である。
連続運転の経過と共に、水素生成細菌以外の微生物が増殖して水素生成収率が減少してしまうことを回避できる。
【0033】
C. サイホン設備5により水素醗酵槽2内の醗酵液の排出が行なわれるため、水素醗酵槽2内に電気的な機器を備え付ける必要がなくなる。サイホン設備5を用いた制御は、原料投入量と最高液位、最低液位によって行なうため、水素醗酵槽2内に電気を使用する機器を使用する必要がない。そのため、爆発性ガスである水素ガスが発生しても安全に運転を行なうことが可能である。なお、水素醗酵槽2内に配置された攪拌設備7は駆動源としてのモータを水素醗酵槽外に設ける構成であり、動力伝達手段を介して連結されているので、水素醗酵槽2内にて電気を使用する機器には当たらない。
【0034】
D. サイホン設備5により水素醗酵槽2の液量レベルの制御が簡単である。
水素醗酵槽2内の規定液位HLや最低液位LLは常に一定であり、水素醗酵槽2から溢れたり、馴養した菌体が全部排出されたりなどのアクシデントが回避される。サイホン設備5を用いるため、有機物負荷やHRT、醗酵液量の制御を投入原料の液量のみで行なうことができる。万が一、サイホン設備5の配管が詰まってもサイホン式では、毎回多量の醗酵液が一挙に排出されるため、詰まっている部分も押し出されて、いわゆるフラッシュ洗浄により洗い直しが可能である。
【0035】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2による水素醗酵装置11の概略的な構成図である。前記した実施の形態1では、水素醗酵槽2の壁面に1つの醗酵液排出管4しか設けてなかった。これに対して、この実施の形態2の水素醗酵装置11では、水素醗酵槽2の壁面にレベルを変えて2つの醗酵液排出管14、24を設けている。或いは、3以上設けることもできる。これらの醗酵液排出管14、24はサイホン設備15に接続され、途中にそれぞれ開閉弁14V、24Vが設けられている。
【0036】
醗酵液排出管14のレベルを最低液位LL1、醗酵液排出管14のレベルを最低液位LL1よりも低い最低液位LL2とすれば、開閉弁24Vを閉じて開閉弁14Vを開くことにより最低液位LL1を得、また、開閉弁14Vを閉じて開閉弁24Vを開くことにより最低液位LL2をそれぞれ得ることができる。なお、高い方の規定の液位HLは共通である。最低液位LL1、LL2の何れを選択するかは、菌体の種類や性状に応じて決定する。その他の構成要素は図1〜5で同一符合を付して示したものと同一あるいは同等である。
この実施の形態2の発明では、菌体の種類や性状、そのほかの運転の諸条件に応じて最低液位の変更が可能であり、運転条件の自由度が高まる分、より一層、適正なHRTの設定が可能となる。
【0037】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3による水素醗酵装置21の概略的な構成図である。この実施の形態3では、サイホン設備5の逆さU字形状をした管の部位よりも下流側に漏水防止弁50Vを設けている。その他の構成要素は図1〜5で同一符合を付して示したものと同一あるいは同等である。
図7において、水素醗酵装置21について、供給管3からの原料の供給量が少ない場合、水素醗酵槽2内の醗酵液の液位が図示されるように規定液位HLを越えてもサイホン設備5の逆さU字形状をした管の部位が満管とならずに空隙を残し、このためサイホンが起きず、醗酵液の増加量と排出量とが平衡状態のまま推移することがある。
このような場合に、予め漏水防止弁50Vを閉じておき、水素醗酵槽2内の醗酵液の液位が規定液位HLをある程度越えてから、漏水防止弁50Vを開くことで、そのときには既にサイホン設備5の逆さU字形状をした管の部位が満管となっているので、確実にサイホンを起こすことができる。漏水防止弁50Vは手動で操作してもよいが、液位を検知するセンサの情報を受けて自動的に開閉制御するようにすることもできる。
【0038】
実施の形態4.
図8はこの発明の実施の形態4による水素醗酵装置31の概略的な構成図である。この実施の形態4では、ガス管8の途中にバイパス管80を設け、バイパス部の本管(ガス管8)には開閉弁8V、バイパス管80にはガス貯留槽6のバイオガスを水素醗酵槽2へ送る送気設備9を接続した。送気設備9としてはポンプ、圧縮機、送風機など適宜のものを用いる。その他の構成要素は図1〜5で同一符合を付して示したものと同一あるいは同等である。
水素醗酵槽31の内圧は、反応の状態や原料の供給量、醗酵液の排出量などの相関により変わり、負圧傾向になるとサイホンが起き難くなる。そのときに、開閉弁8Vを閉じ、送気設備9を駆動することで、水素醗酵槽31の内圧を上昇させれば、サイホンが起き易くなり、サイホン設備5を所期のとおりに機能させ、規定液位HLと最低液位LL間で液位を制御することが可能となる。送気設備9を駆動させないときには、開閉弁8Vは開いておく。
【0039】
実施の形態5.
図9はこの発明の実施の形態5による水素醗酵装置41の概略的な構成図である。この実施の形態5では、水素醗酵槽2の中に伸縮性袋材(風船)90を設けた。材質は原料である有機物に侵されないものを用いる。この伸縮性袋材90には、給排気管91を連通させてあり、水素醗酵槽2の外部に導かれた給排気管91には、給気設備92と、排気設備93がそれぞれ接続されている。給気設備92は伸縮性袋材90にガスを送り込む圧縮機、送風機等の機械、排気設備93は伸縮性袋材90からガスを抜く真空ポンプ等の機械が用いられる。給気設備92、排気設備93は給排気手段の一例である。その他の構成要素は図1〜5で同一符合を付して示したものと同一あるいは同等である。
【0040】
水素醗酵槽2の内圧は、反応の状態や原料の供給量、醗酵液の排出量などにより変わり、負圧傾向になるとサイホンが起き難くなる。水素醗酵槽2の内圧が低いときには、排気設備93は駆動せずに給気設備90を駆動して伸縮性袋材90にガスを送り込むことで内圧を上げサイホンを起こし、サイホン設備5を所期のとおりに機能させ、規定液位HLと最低液位LL間で液位を制御することが可能となる。内圧を高める必要のない状態になったら、給気設備92は駆動せず排気設備93を駆動して伸縮性袋材90からガスを抜いておく。
【0041】
伸縮性袋材90に入れるガスは伸縮性袋材90から漏れる可能性や危険性を考慮すると不活性ガスであることが望ましいが、特に種類は選ばない。また、この実施の形態5では、水素醗酵によるバイオガスの生成が止まったときに水素醗酵槽2内が負圧になってもサイホンを確実に起こし、醗酵液を排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施の形態1による水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による水素醗酵装置の運転状態を説明した概略的な構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による水素醗酵装置の運転状態を説明した概略的な構成図である。
【図4】この発明の実施の形態1による水素醗酵装置の運転状態を説明した概略的な構成図である。
【図5】この発明の実施の形態1による水素醗酵装置の運転状態を説明した概略的な構成図である。
【図6】この発明の実施の形態2による水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【図7】この発明の実施の形態3による水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4による水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【図9】この発明の実施の形態5による水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【図10】従来の水素醗酵装置の概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1、11、21、31、41 水素醗酵装置
2 水素醗酵槽
3 供給管
4 醗酵液排出管
5 サイホン設備
7 攪拌設備
8 ガス管
9 送気設備
14、24 醗酵液排出管
90 伸縮性袋材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料供給設備および攪拌設備を有する水素醗酵槽と、前記水素醗酵槽に連通するガス管と、前記水素醗酵槽の発生ガスを貯留するガス貯留槽を有する水素醗酵装置において、
前記水素醗酵槽の壁面に設けられた1つまたは2つ以上の醗酵液排出管と、
前記醗酵液排出管に接続されたサイホン設備とを備えたことを特徴とする水素醗酵装置。
【請求項2】
前記醗酵液排出管には開閉弁が設けられていることを特徴とする請求項1記載の水素醗酵装置。
【請求項3】
前記サイホン設備には、漏水防止弁が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の水素醗酵装置。
【請求項4】
前記ガス貯留槽のガスを前記水素醗酵槽へ送る送気設備が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水素醗酵装置。
【請求項5】
前記水素醗酵槽内に伸縮性袋材が設けられ前記水素醗酵槽外に設けた給排気手段と接続されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水素醗酵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−110495(P2006−110495A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301948(P2004−301948)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000147408)株式会社西原環境テクノロジー (44)
【Fターム(参考)】