説明

水耕栽培方法及び水耕栽培装置

【課題】植物を水耕栽培の環境に良好に適応させて育苗することが可能な水耕栽培方法、及びそれを行うための水耕栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明の水耕栽培方法は、透水性を有するとともに、無機質土26が収容された鉢14に、植物から採取された挿し木苗13を植え込み、この鉢14を上面が開放する容器12の内部に設置し、水又は培養液を貯留するタンクと容器12との間で、水又は培養液を、容器12の内部における水又は培養液の量が一定になるように循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を水耕栽培で良好に育苗させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌を使わない植物の栽培方法である水耕栽培は、野菜、果物、そして薬草の生産など、幅広い目的に利用されており、従来よりこれに関する多くの技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、土壌の代わりに、通気性、通水性に富んだ発泡煉石(ハイドロボールまたはハイドロコーンと称されている)と水とを容器に収容して水耕性の植物体を栽培する、水耕栽培(ハイドロカルチャー)と称される栽培態様に関する技術が記載されている。ハイドロボールは、粘土を約1200度で焼成して得た多孔質煉瓦状の粒体であり、適度の水分と空気を保持して植物体の根に好適な栽培環境を与えるとともにハイドロボール間の隙間の空気層が断熱層となって根を寒さから保護することで知られている。
【0004】
また、特許文献2には、土壌の代わりに水耕栽培用ゼリーを容器に入れて植物を入れて育成する水耕栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−140507号公報
【特許文献2】特開2004−305691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び2に記載の水耕栽培は、例えば、ヘデラ・ヘリックス等の室内観賞用の植物に適用することができるが、このような植物の苗は、通常土壌で育苗されたものが市販されている。
しかしながら、土壌で育苗させた植物の苗を水耕栽培に移行させると、根がその環境に適応できず、水耕栽培の環境に適応する新たな根が発根するまで、植物の生育が停滞したり、ひいては植物が枯死したりするおそれがある。
また、上記特許文献1又は2に記載されるように、容器内に水や培養液を貯留した状態で長期間植物を栽培すると、水が次第に腐敗したり水中の酸素が欠乏して良好な植物の生育の妨げとなるおそれもある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、植物を水耕栽培の環境に良好に適応させて育苗することが可能な水耕栽培方法、及びそれを行うための水耕栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、植物の水耕栽培方法であって、
透水性を有するとともに、無機質土が収容された鉢に、植物から採取された挿し木苗を植え込み、
上面が開放する容器の内部に、前記挿し木苗が植え込まれた鉢を設置し、
水又は培養液を貯留するタンクと前記容器との間で、前記水又は培養液を、前記容器内における前記水又は培養液の量が一定になるように循環させることを特徴とする。
【0009】
本発明の植物の水耕栽培方法によれば、タンクと容器との間で循環する水又は培養液は、容器内に設置された鉢内に浸入して挿し木苗に供給されるので、挿し木苗からは水耕栽培に適応した根が発根する。これにより、水耕栽培に適応した植物の苗を育苗することができる。
【0010】
また、水又は培養液はタンクと容器との間で循環させているので、容器内の鉢に植え込まれた挿し木苗に対し、上記特許文献1又は2のように容器内のみに貯留する量よりも多くの量の水又は培養液を供給することができ、水又は培養液の腐敗を低減できるとともに、循環により水又は培養液内に酸素を取り込むことができるので、苗を良好に育苗することができる。
【0011】
また、タンクと前記容器との間の水又は培養液を、容器内における水又は培養液の量が一定になるように循環させることにより、鉢内が過湿状態となるのを抑制し、植物の根腐れやかび発生の防止に寄与する。
【0012】
また、本発明において、前記挿し木苗として、蔓性植物から採取されたものを用いることとしてもよい。この構成にように、蔓性植物の挿し木苗についても、本発明の水耕栽培方法は適用することができる。
【0013】
また、本発明において、前記蔓性植物として、テイカズラ、ヘデラ・カナリエンシス、又はヘデラ・ヘリックスを用いることを特徴とする。この構成にように、テイカズラ、ヘデラ・カナリエンシス、又はヘデラ・ヘリックスの苗についても、本発明の水耕栽培方法は適用することができる。
【0014】
本発明は、植物の水耕栽培装置であって、上面が開放する容器と、前記容器内に設置され、透水性を有するとともに、内部に無機質土が収容され、前記無機質土に挿し木苗が植え込まれた鉢と、水又は培養液を貯留するタンクと、前記水又は培養液を、前記タンクと前記容器との間で、前記容器内における前記水又は培養液の量が一定になるように循環させる循環手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記容器は、所定の高さに排水口を備え、前記循環手段は、前記水又は培養液を前記タンクから前記容器に供給する供給手段と、前記排水口と接続し、前記水又は培養液を前記容器から前記タンクに排水する排水手段とを備えることとしてもよい。この構成によれば、容器内の水又は培養液の量を一定に維持しながら、タンクと容器との間で水又は培養液を循環させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物を水耕栽培の環境に良好に適応させて育苗することが可能な水耕栽培方法、及びそれを行うための水耕栽培装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る水耕栽培装置10の構成図である。
【図2】容器12の断面図であり、同図(a)は長手方向の断面、同図(b)は短手方向の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明における好ましい一実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る水耕栽培装置10の構成図である。
図1に示すように、水耕栽培装置10は、上面が開放する容器12と、容器12の内部に設置された鉢14と、培養液を貯留する培養液タンク16と、培養液を培養液タンク16から容器12に供給する供給管18及び循環ポンプ20と、培養液を容器12から培養液タンク16に排水する排水管22とを備える。なお、鉢14には、挿し木苗13が植え込まれている。
【0020】
容器12は、例えば、略直方体形状を有し、その長手方向に複数の鉢14が設置できるような領域を有する底面を備える。この長手方向の端部の両側面には、容器12の内外を貫通する孔24が夫々形成されており、両孔24には夫々供給管18及び排水管22が接続されている。
【0021】
なお、これら孔24のうち排水管22が接続される方の孔24(以下、排水口24aという)は、容器12の底面から所定の高さの位置に形成されている。この所定の高さは、例えば、容器12の内部に設置された鉢14の高さの中央に位置するように設計されている。
【0022】
一方、供給管18が接続される方の孔24(以下、給水口24bという)は、いずれの位置に形成してもよい。なお、容器12側面に給水口24bを形成せず、供給管18の先端を容器12上部の開口に位置するように設け、供給管18から培養液が容器12の内部に注がれるようにしてもよい。
【0023】
培養液タンク16には、水に液体肥料を添加した培養液が貯留されている。液体肥料としては、例えば、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム等の成分が含まれているものを用いる。
【0024】
ポンプは、供給管18の流路に設置され、培養液タンク16に貯留される培養液を容器12へと移送する。
【0025】
供給管18には、培養液タンク16から容器12への培養液の供給する電磁弁や、電磁弁による培養液の流量や供給時間等を制御するコントローラーを適所に設けてもよい(図示しない)。
また、排水管22には、培養液中に混入した異物を除去するためのストレーナーを設けてもよい(図示しない)。
【0026】
図2は、容器12の断面を示し、同図(a)は長手方向の断面図、同図(b)は短手方向の断面図である。
【0027】
図2に示すように、挿し木苗13が植え込まれた鉢14が、容器12の底面に複数設置されている。
鉢14は、培養液が外部から鉢14の内部に浸入できるように、例えば、鉢14の素材自体が透水性を有するものを用いている。そのような鉢14としては、具体的に、例えば特殊加工を施した紙製のもの、圧縮成形されたビートモス等の透水性の素材からなるもの(例えば、サカタのタネ社製ジフィー(登録商標)ポット)等を用いることができる。
【0028】
また、鉢14の内部には、保水性及び排水性の良好な無機質土26を収容することが好ましく、例えば、ゼオライトと日向軽石を混合したものを用いている。なお、ゼオライトの代わりにバーミキュライト、パーライト又はイソライト等も用いてもよい。
【0029】
本実施形態の水耕栽培方法では、これらの構成を備える水耕栽培装置10を用い、先ず、無機質土26が収容された鉢14に、植物から採取された挿し木苗13を植え込む。ここで挿し木苗13としては、テイカズラ、ヘデラ・カナリエンシス、又はヘデラ・ヘリックス等の蔓性植物から採取したものを用いることができる。
【0030】
次に容器12の内部に、挿し木苗13が植え込まれた鉢14を設置し、循環ポンプ20を作動させて培養液タンク16から供給管18を介して培養液を容器12に供給する。これにより容器12の内部には培養液が貯水されていく。
そして、容器12の内部に供給された培養液は、側壁に形成された排水口24aの位置まで貯水され、余分な培養液は排水管22から排水されて培養液タンク16に戻る。
このようにして、容器12の内部の培養液が培養液の量が一定になるように維持されるとともに、培養液が容器12と培養液タンク16との間で循環する。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の植物の水耕栽培方法は、透水性を有するとともに、無機質土26が収容された鉢14に、植物から採取された挿し木苗13を植え込み、この鉢14を上面が開放する容器12の内部に設置し、水又は培養液を貯留するタンクと容器12との間で、水又は培養液を、容器12の内部における水又は培養液の量が一定になるように循環させる。
【0032】
これにより、培養液タンク16と容器12との間で循環する水又は培養液は、容器12の内部に設置された鉢14の内部に浸入して挿し木苗13に供給されるので、挿し木苗13からは水耕栽培に適応した根が発根する。したがって、水耕栽培に適応した植物の苗を育苗することができる。
【0033】
また、培養液はタンクと容器12との間で循環させているので、容器12の内部の鉢14に植え込まれた挿し木苗13に対し、上記特許文献1,2のように容器12の内部のみに貯留する量よりも多くの量の培養液を供給することができ、培養液の腐敗を低減できるとともに、循環により培養液内に酸素を取り込むことができるので、苗を良好に育苗することができる。
【0034】
また、培養液タンク16と容器12との間の培養液を、容器12の内部における培養液の量が一定になるように循環させることにより、鉢14の内部が過湿状態となるのを抑制し、植物の根腐れやかび発生の防止に寄与する。
なお、本実施形態では、鉢14の素材自体が透水性を有するものを用いることとしたが、これに限らず、不透水性の素材からなる鉢14でも、内部に収容される無機質土26の粒径よりも小さい孔が複数形成されたものを用いてもよい。
また、本実施形態では、培養液タンク16の内部には水に液体肥料を添加した培養液を貯留することとしたが、これに限らず、液体肥料を添加していない水を貯留することとしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 水耕栽培装置
12 容器
13 挿し木苗
14 鉢
16 培養液タンク
18 供給管
20 循環ポンプ
22 排水管
24 孔
24a 排水口
24b 給水口
26 無機質土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の水耕栽培方法であって、
透水性を有するとともに、無機質土が収容された鉢に、挿し木苗を植え込み、
上面が開放する容器の内部に、前記挿し木苗が植え込まれた鉢を設置し、
水又は培養液を貯留するタンクと前記容器との間で、前記水又は培養液を、前記容器内における前記水又は培養液の量が一定になるように循環させることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項2】
前記挿し木苗として、蔓性植物から採取されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培方法。
【請求項3】
前記蔓性植物として、テイカズラ、ヘデラ・カナリエンシス、又はヘデラ・ヘリックスを用いることを特徴とする請求項2に記載の植物の水耕栽培方法。
【請求項4】
植物の水耕栽培装置であって、
上面が開放する容器と、
前記容器内に設置され、透水性を有するとともに、内部に無機質土が収容され、前記無機質土に挿し木苗が植え込まれた鉢と、
水又は培養液を貯留するタンクと、
前記水又は培養液を前記タンクと前記容器との間で、前記容器内における前記水又は培養液の量が一定になるように循環させる循環手段とを備えることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項5】
前記容器は、所定の高さに排水口を備え、
前記循環手段は、前記水又は培養液を前記タンクから前記容器に供給する供給手段と、前記排水口と接続し、前記水又は培養液を前記容器から前記タンクに排水する排水手段とを備えることを特徴とする請求項4に記載の水耕栽培を行うための植物の育苗装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−226963(P2010−226963A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74964(P2009−74964)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】