説明

水蒸気透過膜、中空糸膜および加湿装置

【課題】 本発明により、高い水蒸気透過性と低い空気漏洩量を兼ね備えた水蒸気透過膜が提供される。
【解決手段】 本発明は、隣接する緻密層と支持層とを有し、該緻密層が、該層内に空隙長0.1μm以下の空隙を有し、該層の厚さが0.1μm以上2μm以下であり、該支持層が、緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(a)の空隙長が0.3μm以上であり、該境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以上4μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(b)の空隙長が0.5μm以上であり、該空隙(b)の空隙長が該空隙(a)の空隙長よりも長い水蒸気透過膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気透過膜、この水蒸気透過膜が中空状になった水蒸気透過性を有する中空糸膜およびこの中空糸膜を用いた加湿装置に関する。さらに詳しくは、燃料電池システムの加湿装置に好適に用いられる水蒸気透過膜、中空糸膜および加湿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水蒸気透過膜を用いて加湿、もしくは除湿を行う方法が注目されている。水蒸気透過膜を用いた加湿および除湿方式は、メンテナンスフリーであり、駆動に電源を必要としないなどの利点を有している。
【0003】
水蒸気透過膜が中空状になった中空糸膜は、燃料電池スタックの隔膜加湿などに用いられる。燃料電池の場合、車載用では4000NL/分程度の多量の空気流量に対しての加湿が必要である。そのため、加湿用中空糸膜には水蒸気透過性や中空糸膜強度が高いことが求められている。加湿用中空糸膜は、中空糸からの空気漏れを防ぐためのガスバリア性が必要であり、さらに、水蒸気透過性も有していなければならい。そのため、中空糸の膜を非常に微細な孔径の空隙をもつ多孔膜にし、加圧することによって所望の水蒸気透過量を得ている。また、空気流量は運転箇所や運転方法によって大きく異なる。例えば市街地を走行する場合は低流量で良いが、山道や急加速時には高流量が必要となる。
【0004】
空気は遮断するが水蒸気は選択的に透過する中空糸膜として、現在数種類のものが提案されている。
【0005】
加湿用中空糸膜として多種のポリマーを用いた膜が提案されている。一例として、ポリイミド樹脂を素材として用いた加湿用中空糸膜がある。この膜の特徴は、耐熱性、耐久性およびガスバリア性に優れていることである。一方で、水蒸気透過性が低いという欠点がある。
【0006】
また、フッ素系イオン交換膜を用いた加湿用中空糸膜は、ポリイミド樹脂を素材とした加湿用中空糸膜よりは水蒸気透過性、ガスバリア性は高い。一方で、加湿用中空糸膜として実際に使用する程の水蒸気透過性が備わっておらず、さらに耐熱性にも乏しい。中空糸膜自体も非常に高価なものとなってしまう。
【0007】
近年、ポリエーテルイミド樹脂を素材とした加湿用中空糸膜が提案されている。これは、フッ素系イオン交換膜と同等の水蒸気透過性を備え、さらに耐熱性も備えようというものである。
【0008】
いずれにせよ、現状の加湿用中空糸膜では、ガスバリア性を重視した結果、加湿用膜に必要とされる水蒸気透過性能は不十分である。
【0009】
膜素材としては、ポリフェニルスルホン樹脂および親水性ポリビニルピロリドンの水溶性有機溶媒溶液よりなる紡糸原液を用い、N−メチル−2−ピロリドン水溶液を芯液として乾湿式紡糸し、多孔質ポリフェニルスルホン樹脂中空糸膜を得る方法が提案されている(特許文献1)。しかし、ここで得られた中空糸膜は油水分離用限外ロ過膜等に好適に使用されると述べられており、水蒸気透過を目的とするものではない。
【0010】
また、ポリフェニルスルホン系の加湿用中空糸膜が提案されている(特許文献2)。しかし、この中空糸膜では十分な加湿性能が得られない。
【0011】
また、ポリスルホン系の加湿用中空糸膜として、膜内の空隙の大きさが均一ではなく、一方の膜面近傍と他方の膜面近傍とで空隙の大きさが異なる非対称構造の中空糸膜が提案されている(特許文献3)。しかし、非対称構造にするだけでは水蒸気透過性能が十分ではなく、良好な加湿性能が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−219043号公報
【特許文献2】特開2004−290751号公報
【特許文献3】特開2007−289944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い水蒸気透過性と低い空気漏洩量を兼ね備えた水蒸気透過膜および水蒸気透過膜が中空状になった中空糸膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の水蒸気透過膜は、隣接する緻密層と支持層とを有し、
該緻密層が、該層内に空隙長0.1μm以下の空隙を有し、該層の厚さが0.1μm以上2.0μm以下であり、
該支持層が、緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(a)の空隙長が0.3μm以上であり、該境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以上4μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(b)の空隙長が0.5μm以上であり、該空隙(b)の空隙長が該空隙(a)の空隙長よりも長い水蒸気透過膜である。
【0015】
また、本発明の中空糸膜は、本発明の水蒸気透過膜が中空状になったものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高い水蒸気透過性と低い空気漏洩量を兼ね備えた水蒸気透過膜が得られる。そして、本発明の水蒸気透過膜を用いれば、燃料電池システムの加湿装置に好適に用いられる中空糸膜および加湿装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】水蒸気透過膜の緻密層の測定方法を示す図である。
【図2】水蒸気透過膜の緻密層からの境界線を示す図である。
【図3】水蒸気透過性能の測定方法を示す図である。
【図4】空気漏洩量の測定方法を示す図である。
【図5】中空糸の断面(拡大)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ 水蒸気透過膜 ]
本発明の水蒸気透過膜は、隣接する緻密層と支持層とを有し、該緻密層が、該層内に空隙長0.1μm以下の空隙を有し、該層の厚さが0.1μm以上2.0μm以下であり、該支持層が、緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(a)の空隙長が0.3μm以上であり、該境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以上4μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(b)の空隙長が0.5μm以上であり、該空隙(b)の空隙長が該空隙(a)の空隙長よりも長い水蒸気透過膜である。
【0019】
本発明の水蒸気透過膜は膜中に多数の空隙を持ち、膜の一方の表面から他方の表面へ向かうにつれて空隙の空隙長が徐々に長くなっている。もちろん部分的には、一方の表面に近い空隙の空隙長が他方の表面に近い空隙の空隙長よりも長い場所も存在するが、膜全体を通じて観察したときに、おおまかに一方の表面から他方の表面へ向かうにつれて空隙の空隙長が長くなっている。本発明の別の水蒸気透過膜の例を図5に示す。図5も本発明の水蒸気透過膜が中空状となった中空糸膜の膜部分の1000倍拡大写真である。内表面近傍170から外表面近傍180に向けて、空隙の空隙長が徐々に長くなっている。以後、このように空隙長が徐々に長くなっている形態を「非対称性」と称する。
【0020】
ここで、本発明のおける「空隙長」とは、切断面で観察される空隙の内径(空隙の重心を通る直径)のうちで、測定方向には関係なく最も長い内径のことである。この空隙長はポリマー骨格間の距離に相当する。空隙長は、水蒸気透過膜の膜面に垂直な面で切断した切断面(水蒸気透過用中空糸膜の場合は長手方向に垂直な面で切断した切断面)を電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察し、測定することができる。
【0021】
水蒸気透過膜の膜厚とは、水蒸気透過膜の一方の面から他方の面までの距離である。中空糸膜の膜厚とは、中空糸膜の内表面から外表面までの距離である。
【0022】
[ 緻密層 ]
本発明の水蒸気透過膜は、緻密層と支持層とを有している。
【0023】
本発明における緻密層とは、以下に定義される層のことであり、水蒸気透過性と空気遮断性とを調整していると考えられる。本発明の水蒸気透過膜は、前述の非対象性の形態を有するだけではなく、この緻密層も有することに特徴がある。
【0024】
図1を用いて緻密層の定義を説明する。水蒸気透過膜を膜面に垂直な面で切断し(中空糸膜の場合は長手方向に垂直な面で切断)、切断面を電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察する。断面内の空隙を観察し、2つの膜面のうちで、空隙長の短い空隙が多く存在する方の膜面10を選ぶ。この膜面10上の任意の点から膜面に垂直(厚み)方向に空隙を観察していき、膜面10から空隙長が0.1μmを越える空隙までの距離を測定する。空隙長が0.1μmを越える空隙自体の長さはこの距離には含めない。膜面10に平行に2μm間隔でさらに4箇所の点について同様に測定する。このようにして求めた5箇所の距離の平均値を算出する。膜面10からこの平均値の距離だけ離れた仮想的な面(以下、境界面15とする)を設け、膜面10とこの境界面15とで挟まれる部分を緻密層30とする。そして膜面10と境界面15との距離が緻密層の厚さである。
【0025】
つまり、緻密層とは、空隙長が0.1μmを超えるような空隙が存在する可能性が低い領域のことである。空隙長が0.1μmを超えるような空隙が存在しない領域は、製膜時にポリマーが相分離反応によって凝集している状態にある。
【0026】
緻密層の厚さは0.1μm以上2.0μm以下である。緻密層の厚さが薄ければ、水蒸気透過膜の水蒸気透過性は向上するものの、空気遮断性が低下する。逆に緻密層の厚さが厚ければ、水蒸気透過膜の空気遮断性は向上するものの、水蒸気透過性は低下する。水蒸気透過膜の水蒸気透過性と空気遮断性を適度に両立させるためには、緻密層の厚さは0.1μm以上2.0μm以下の必要がある。緻密層の厚さは好ましくは0.1μm以上1.5μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上1.2μm以下である。緻密層の厚さを0.1μm以上2μm以下にする方法については、後述の[原材料]部分にて説明する。
【0027】
[ 支持層 ]
本発明における支持層とは、前述の境界面を挟んで緻密層に隣接する部分である。支持層中の空隙は、境界面から離れるに従って空隙長が徐々に長くなっている。もちろん部分的には、境界面に近い空隙の空隙長が境界面より遠い空隙の空隙長よりも長い場所も存在するが、支持層全体を通じて観察したときに、おおまかに境界面から離れるにつれて空隙の空隙長が長くなっている。つまり、支持層は非対称性の形態を有している。具体的には、以下の(i)〜(iii)を満たす形態を有している。
(i)緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(以下、空隙(a)とする)の空隙長が0.3μm以上である。
(ii)緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以上4μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(以下、空隙(b)とする)の空隙長が0.5μm以上である。
(iii)空隙(b)の空隙長が空隙(a)の空隙長よりも長い。
【0028】
緻密層はポリマーが凝集して形成されているが、緻密層から厚さ2μm以内に空隙長0.3μm以上の空隙が存在することは、そのポリマーの凝集力が弱くなり、ポリマー間に空隙ができていることを示している。さらに、厚さ2μm以上4μm以内で空隙の空隙長が0.5μm以上に長くなることによって、ポリマーが凝集して存在していた緻密層に比べて水蒸気透過抵抗が小さくなる。つまり、緻密層からの厚さと空隙長を制御することによって、水蒸気透過膜に高い水蒸気透過性能を与えることができる。
【0029】
このように支持層が非対称性をもつことで、水蒸気透過膜中の空隙部分の透過(拡散)抵抗が小さくなり水蒸気透過性が高くなる。また、水蒸気透過膜の水蒸気透過性と空気遮断性を両立させている部分は緻密層と考えられるが、緻密層の厚さのみでは水蒸気透過膜としての強度をもたらすことは困難である。そこで、支持層が存在することで、水蒸気透過膜の強度が維持できる。上記(i)〜(iii)の形態を有する支持層を得る方法については、後述の[原材料]部分にて説明する。
【0030】
[ 中空糸膜 ]
本発明の中空糸膜は、本発明の水蒸気透過膜が中空状となったものである。本発明の水蒸気透過膜と同様に、水蒸気透過性と空気遮断性とを兼ね備えた中空糸膜である。緻密層は中空糸の内表面側または外表面側のどちら側に形成してもよく、中空糸膜の用途に応じて選べばよい。
【0031】
本発明の中空糸膜は、中空糸の中空部に線速1000cm/secの空気を流したときの水蒸気透過係数が0.4g/min/cm/MPa以上であることが好ましい。より好ましくは0.45g/min/cm/MPa以上である。水蒸気透過係数とは、水蒸気透過性能を表す指標である。水蒸気透過係数が0.4g/min/cm/MPa以上であると、燃料電池スタックに最適な加湿を行うことができ、安定して水と酸素を供給する事ができ、燃料電池スタックの電解質膜性能を十分に発揮することができる。
【0032】
本発明の中空糸膜は、50kPaの圧力の空気を中空糸膜中空部から外に向けてかけたときに、中空糸膜1本辺りの空気漏洩量が0.1L/min以下であることが好ましい。より好ましくは0.01L/min以下である。これは、中空糸膜の内側から外側、もしくは外側から内側に空気を流したときの空気漏洩量が0.1L/minを超える場合には、実質的に水蒸気透過性能が低下することになるからである。
【0033】
中空糸膜の糸径は、中空糸膜内径が300μm以上1500μm以下であることが好ましい。中空糸膜内径が300μm未満であると、高流量の空気を流したときに空気入りから出にかけての圧力が上昇し、中空糸膜が切れる場合がある。中空糸膜内径が1500μmを超えると、中空糸膜を組んでモジュールにしたとき、空気の流れが偏り、中空糸膜を有効に使用できない場合がある。
【0034】
中空糸膜の膜厚は50μm以上200μm以下であることが好ましい。膜厚が50μm未満であると、高空気流量を与えたときに中空糸膜が切れる場合がある。
【0035】
中空糸膜の耐つぶれ強度は0.02以上0.07以下であることが好ましい。より好ましくは0.03以上0.05以下である。ここで、耐つぶれ強度とは、次の式で算出される値のことである。
・耐つぶれ強度=(中空糸膜の膜厚(μm)/中空糸膜の内径(μm))
耐つぶれ強度が0.02未満であると、中空糸膜が基本的な使用圧力に耐えられない強度になる事が考えられる。耐つぶれ強度が0.07を越えると、膜厚が厚く、内径が小さいため水蒸気透過がスムーズに行われない場合がある。
【0036】
[ 原材料 ]
中空糸膜を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等が挙げられる。中でもポリスルホンが好ましい。これは、ポリスルホンが耐熱性に優れたポリマーであり、さらに、エンジニアリングプラスチックとして使用されるポリスルホンは比較的安価で購入することが可能な汎用性の高いポリマーだからである。
【0037】
中空糸膜には親水性高分子が含まれていることが好ましい。親水性高分子としては、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。この中でも、ガラス転移点が150℃よりも高い親水性高分子は耐熱性が優れているため、燃料電池システムの加湿装置用途として好適に用いられる。ポリビニルピロリドンはガラス転移点が180℃と高いため特に好ましい。
【0038】
親水性高分子物質として添加されるポリビニルピロリドンとしては、重量平均分子量が約6000(K−15相当)〜1200000(K−90相当)の物が存在する。ポリビニルピロリドンはポリスルホン樹脂100質量%当り20質量%以上100質量%以下の割合で用いられることが好ましい。より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。ポリスルホン樹脂に対して20質量%未満であると、親水性を付与することができず、水蒸気との親和性が低く加湿用途として向いていない膜になる場合がある。100質量%を超えると、中空糸膜強度が低くなり、製膜が難しくなる場合がある。
【0039】
緻密層の厚さを0.1μm以上2μm以下とする方法としては、製膜原液を凝集・凝固させる効果がある溶液を芯液として用いることや、製膜原液の基材ポリマー濃度を低くして粘性を下げることが重要である。凝集・凝固させる溶液とは製膜原液に対して貧溶媒として存在する溶液であり、製膜原液に対して不溶な溶液である。製膜時に、口金から製膜原液を吐出した直後に、製膜原液に貧溶媒を接触させる事によって緻密層を形成できる。しかし、貧溶媒のみではポリマーの凝集が速すぎるため、製膜が難しくなることが考えられるため、貧溶媒とポリマーを溶解する溶媒(良溶媒)とを混ぜた溶液を用いることが好ましい。
【0040】
製膜原液の基材ポリマー濃度としては、製膜原液全体に対して10質量%以上25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上20質量%以下である。基材ポリマー濃度が10質量%未満であると、緻密層が厚くなり、水蒸気透過性能が低くなりやすい。製膜原液粘度は5〜30Poiseであることが好ましく、より好ましくは8〜15Poiseである。製膜原液の粘度が30Poiseよりも高い場合は、緻密層が厚くなり、水蒸気透過性能が低くなりやすい。5Poiseよりも低い場合は緻密層が薄いため、中空糸膜の強度が低く弱い膜になりやすい。
【0041】
支持層を、前述の(i)〜(iii)を満たす形態にする方法としては、芯液として製膜原料に対する拡散性能の高い溶液を用いることが好ましい。芯液に拡散性能の低い溶液を用いると、空隙長の精密な制御が難しくなり、製膜ができなくなる。さらに、製膜原液の粘度、芯液の粘度、製膜原液と芯液の凝縮性などを制御する必要がある。
【0042】
一例を挙げると、製膜原液の粘度が高い状態であれば、芯液が製膜原液に対して拡散速度が遅くなり、水蒸気透過膜の空隙形成過程において、空隙の成長が遅くなり空隙長が短くなる。芯液に粘性が有る場合も同じような空隙の成長が考えられる。
さらには、芯液に水などの凝集性が高いものを用いると、芯液と接触した面のみが凝集してしまい、芯液と接触していない膜の面近傍に大きな空隙が形成される場合もある。
【0043】
つまり、支持層中の空隙の大きさを制御するためには、相分離速度を制御する製膜原液設計、芯液設計が必要となる。
【0044】
芯液の溶媒の比率に関しては、製膜原液のポリマーを溶解するような有機溶媒(良溶媒:ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒など)の比率を上げると、製膜時に凝集が起こらず製膜困難となる。また良溶媒の比率を下げると、ポリマーの凝集が速いため、糸切れにより製膜困難となる。そのため、芯液中の良溶媒の濃度としては20質量%以上80質量%以下が好ましい。
【0045】
また粘性の低い芯液としては、水、低粘性溶媒、もしくは水/低粘性溶媒の溶液、粘性の高い注入液としては、グリセリンやPVPなどのポリマーを溶解させた溶媒などを製膜原液と組み合わせることによっても空隙の大きさをコントロールできる。
【0046】
[ 中空糸膜の製造方法 ]
本発明の中空糸膜および中空糸膜ユニットは具体的には以下のように作製されるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明の中空糸膜は、オリフィス型二重円筒型口金から製膜原液と芯液を吐出させて中空糸状に製膜を行う工程、温水で洗浄する工程、洗浄後に巻き取る工程を有する水蒸気透過膜の製造方法で作製される。さらに巻き取る工程の後に、乾熱乾燥機を用いて40℃以上170℃以下で30分以上乾燥させる工程を有することが好ましい。
【0048】
本発明の中空糸膜はポリスルホン樹脂を用いて作製することができる。ここでは、ポリスルホン樹脂の中空糸膜を例として説明する。本発明で使用するポリスルホンは市販品をそのまま使用することができる。例えばソルベイ社製品UDEL P1700またはP3500等が挙げられる。
【0049】
ポリスルホン樹脂を製膜成分とする製膜原液は、ポリスルホン樹脂に親水性ポリビニルピロリドン、水溶性有機溶媒および水が添加されることで得られる。水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が用いられる。
【0050】
製膜原液中のポリスルホン樹脂の濃度は10質量%以上25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上20質量%以下である。ポリスルホン濃度が10質量%未満であると、中空糸膜の強度不足により製膜が難しくなる場合がある。ポリスルホン濃度が25質量%を越えると、ポリスルホン中のサイクリックダイマーにより製膜原液が白濁し、製膜中に圧力上昇が起こり、製膜が難しくなる場合がある。さらに、ポリスルホン濃度が10質量%未満または25質量%を越えると、所望の空隙長さの空隙を有する中空糸膜が得られない場合がある。
【0051】
次に、製膜原液をオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出する。この時、芯液としてポリスルホンに対しての良溶媒と貧溶媒の混合液、もしくはポリスルホンに対しての貧溶媒の単独液を内側の管より吐出することで、中空糸型に成型する。
【0052】
吐出された製膜原液を、温度30℃の雰囲気の乾式部350mmを通過させた後、凝固溶液中で凝固させる。凝固させた中空糸膜は40℃以上90℃以下の温水で洗浄され、巻き取られる。洗浄温度が40℃未満であると、有機溶媒等の洗浄が不十分になり、中空糸膜からの溶出物が使用時に影響を及ぼす場合がある。洗浄温度が90℃を越えると、親水性高分子が必要以上に洗浄されてしまうため、中空糸膜の親水性が低くなる場合がある。
【0053】
次いで、所望の空隙の大きさに熱セットするために乾燥処理を行うことで、本発明の中空糸膜が得られる。熱セットとは、湿潤状態の中空糸膜を乾燥させることにより、空隙の大きさを縮めるものである。この処理後、中空糸膜の保湿(グリセリン付与、もしくは水充填)は不必要になる。
【0054】
中空糸膜の熱セット方法として、中空糸膜を数百本から数千本に小分けし、40℃以上170℃以下の乾熱乾燥機で30分以上乾燥することが好ましい。より好ましくは50℃以上170℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上150以下である。
乾燥温度が40℃より低いと、乾燥時に時間がかかることと、外部雰囲気によっては温度制御が困難になり空隙の大きさを制御できない場合がある。乾燥温度が170℃より高いと、ポリスルホンを用いた場合に、そのガラス転移点に近づくため、中空糸膜に損傷を与えてしまう場合がある。乾燥時間は30分以上が好ましい。より好ましくは5時間以上である。乾燥時間の上限は特には設けないが作業効率を考慮すると72時間以内であることが好ましい。乾燥時間が30分より短いと、中空糸膜の水分を飛ばしきることができず、熱セットができていない箇所が存在することがある。この場合、中空糸膜中の空隙が縮っている箇所と縮まっていない箇所が両立してしまい、空気漏洩を防ぐことのできない中空糸膜となってしまう。
【実施例】
【0055】
(1)膜の断面観察
中空糸膜を長手方向に垂直な面で切断し(水蒸気透過膜の場合は膜面に垂直な面で切断し)、切断面を電子顕微鏡(日立社製S800走査電子顕微鏡)で装置本体の倍率を1000倍に拡大して観察する。膜内に空隙が存在するか、膜の一方の面から他方の面に向かうにつれて、空隙の空隙長が徐々に大きくなっているか、膜厚の30%以上の空隙長の空隙が存在するか、フィンガーボイド構造が存在するかなどをおおまかに確認する。
【0056】
(2)緻密層厚さ測定
図1を用いて緻密層の厚さの測定方法を説明する。(1)項で観察した空隙長の短い空隙が存在する側の面の部分を電子顕微鏡(日立社製S800走査電子顕微鏡)で装置本体の倍率を10000倍に拡大して観察する。膜面10上の任意の点から膜面に垂直(厚み)方向に空隙を観察していき、膜面10から空隙長が0.1μmを越える空隙までの距離を測定する。空隙長が0.1μmを越える空隙自体の長さはこの距離には含めない。膜面10に平行に2μm間隔でさらに4箇所の点について同様に測定する。このようにして求めた5箇所の距離の平均値を算出する。膜面10からこの平均値の距離だけ離れた仮想的な境界面15を設定する。膜面10と境界面15との距離を緻密層の厚さとする。
【0057】
(3)空隙(a)、空隙(b)の空隙長測定
図2を用いて空隙(a)、空隙(b)の空隙長の測定方法を説明する。
【0058】
(2)項で観察した部分を同様にして電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察する。境界面15から厚み方向で2μmのところに境界線40を設ける。境界面15から境界線40の範囲内にある目視で確認できる空隙を任意に5個選ぶ。この5個の空隙の中で、空隙長が最大の空隙を空隙(a)とする。次いで、境界面15から厚み方向で4μmのところに境界線50を設ける。境界線40から境界線50の範囲内にある目視で確認できる空隙を任意に5個選ぶ。この5個の空隙の中で、空隙長が最大の空隙を空隙(b)とする。
【0059】
(4)水蒸気透過係数の測定
図3を用いて水蒸気透過係数の測定方法を説明する。φ6mmのステンレス管に中空糸膜を3本通して両端を接着剤で固定した有効長0.1mのステンレス管モジュールを作製する(以下、ミニモジュール140)。85℃の条件下で、乾燥ガス(スイープガス)を、スイープガス入り60からスイープガス出90に向けて中空糸膜の内側を流す。スイープガス出90から出てきたガスを加湿装置110で加湿し、加湿された湿潤ガス(オフガス)を、オフガス入120からオフガス出130に向けて中空糸膜の外側を流す。このようにして、ガスを1パスのクロスフローで流す。中空糸膜内部の線速を空気流量計80で1000cm/secになるように設定する。この時のスイープガス入60とスイープガス出90でのガスの温度と湿度を、測定個所70と測定個所100とで測定した。この数値から水蒸気透過量(g)を求め、スイープガスを流した時間(分)、中空糸の有効面積(cm)、スイープガスの空気入り圧力(Mpa)で割った数値を水蒸気透過係数とする。
中空糸の有効面積とは、スイープガスを中空糸内側に流す場合、中空糸内径(cm)×円周率×中空糸長(cm)で求められる面積である。
【0060】
水蒸気透過係数が0.4g/min/cm/MPa以上であれば燃料電池システムの加湿装置用途として合格レベルであり、0.45g/min/cm/MPaであれば優れている。
【0061】
(5)空気漏洩量の測定
図4を用いて空気漏洩量の測定方法を説明する。(4)項で製作したミニモジュール140を用いる。ミニモジュール140を40℃の乾燥機で24時間乾燥し、モジュール内の水分を飛ばす。次いで、スイープガス出90とオフガス出130に栓160をする。スイープガス入60から中空糸内部に50kPaの圧力で空気を入れる。この時、中空糸外側に流出してくる空気漏洩量をオフガス入120に接続した流量計150で測定する。この流量から中空糸膜1本分の空気漏洩量を求める。
【0062】
空気漏洩量が0.1L/min以下であれば燃料電池システムの加湿装置用途として使用可能であり、0.01L/min以下であれば優れている。
【0063】
(6)中空糸膜の糸径測定
中空糸膜束から無作為に16本の中空糸膜を抜き取る。それぞれの中空糸膜の外形をレーザー変位計(KEYENCE社製、LS5040T)で測定し、平均値を中空糸膜外径とする。
マイクロウォッチャーの1000倍レンズ(KEYENCE社製、VH−Z100)で測定して中空糸膜厚を求める。
中空糸膜外径から中空糸膜厚の値の2倍を引いた値を中空糸膜内径とする。
【0064】
(7)中空糸膜緻密層の開孔面積平均径の測定
西華産業社製ナノパームポロメーターを用いて、中空糸膜のヘリウムガス透過性から緻密層開孔面積平均径を求める。
【0065】
(8)製膜原液粘度測定
製膜原液を直径30mm、高さ250mmのガラス管に入れ、口金から吐出した時の温度に保温する。この製膜原液の中にステンレス製の硬球(φ1mm)を落とし入れ、10mm落下する時の時間(秒)を測定する。
測定時間(秒)に、定数3.59を掛けた数値を製膜原液の粘度(Poise)とする。
【0066】
(実施例1)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)16部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)6部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K90)3部、ジメチルアセトアミド74部および水1部からなる製膜原液を90℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド40部と水60部からなる芯液を用意した。外径1.0mm/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は18Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は660μm、膜厚は95μmであり、耐つぶれ強度は0.023であった。
【0067】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も660μm、膜厚も95μmであった。
【0068】
この中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量は0.0001L/min以下であり、水蒸気透過係数が0.43g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は0.9nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、内表面側に厚さ2μmの緻密層が存在した。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.4μmであり、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長が0.6μmであり、空隙(b)の空隙長が空隙(a)の空隙長よりも長い非対象構造であった。ポリスルホン濃度が16部のため、緻密層が薄く、支持層に関しても非対称性を有する膜であった。
【0069】
(実施例2)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)16部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)4部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K90)2部、ジメチルアセトアミド77部および水1部からなる製膜原液を90℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド40部と水60部からなる芯液を用意した。外径1.0mm/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は10Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は630μm、膜厚は100μmであり、耐つぶれ強度は0.04であった。
【0070】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も630μm、膜厚も100μmであった。
【0071】
この中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを作製した。空気漏洩量は0.0002L/minであり、水蒸気透過係数は0.52g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は1.4nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、内表面側に厚さ1.3μmの緻密層が存在した。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.4μmであり、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.65μmであり、空隙(b)の空隙長が空隙(a)の空隙長よりも長い非対象構造であった。
【0072】
実施例1よりもポリビニルピロリドンの量が少ないため、低粘度になり緻密層が薄く非対称性の大きい構造となった。
【0073】
(実施例3)
実施例2で溶解した製膜原液を50℃に保温した。ジメチルアセトアミド60部と水40部からなる芯液を用意した。外径1.0mm/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は18m/minとし、中空糸膜内径は660μm、膜厚は90μmであり、耐つぶれ強度は0.02であった。
【0074】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、170℃の乾熱乾燥機で5時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も660μm、膜厚も90μmであった。
【0075】
この中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを作製した。空気漏洩量は0.018L/minであり、水蒸気透過係数が0.66g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は1.8nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、内表面側に厚さ1.5μmの緻密層が存在した。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.5μmであり、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.7μmの空隙(b)が存在しであり、空隙(b)の空隙長が空隙(a)の空隙長よりも長い非対象構造であった。
【0076】
実施例2の原液条件で、芯液組成を変更することによって緻密層が厚くなったが、非対称が大きくなることで加湿性能が増加した。
【0077】
(比較例1)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)18部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)6部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K90)3部、ジメチルアセトアミド72部、水1部からなる製膜原液を90℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド40部、水60部からなる芯液を用意した。外径1.0/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は34Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は650μm、膜厚は95μmであり、耐つぶれ強度は0.025であった。
【0078】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も650μm、膜厚も95μmでああった。
【0079】
この水蒸気透過中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量は0.0001L/min以下であり、水蒸気透過係数が0.28g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は0.8nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、厚さ2.4μmの緻密層が存在した。緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.25μmであり、空隙長が0.3μm以上の空隙は存在しなかった。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.4μmであり、空隙長が0.5μm以上の空隙も存在しなかった。
【0080】
実施例1に比べると、ポリスルホン濃度が高くなり、製膜原液の粘性も高い条件であるため、緻密層厚みが厚くなった。
【0081】
(比較例2)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)18部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)9部、ジメチルアセトアミド72部および水1部からなる製膜原液を90℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド40部と水60部とからなる芯液を用意した。外径1.0mm/内径0.7mmの2重管口金の外側の開口から製膜原液を、中心の開口から芯液を同時に吐出させた。吐出した吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部とからなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は11Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は630μm、膜厚は100μmであり、耐つぶれ強度は0.032であった。
【0082】
該中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、厚さ2.4μmの緻密層が存在した。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.35μmであり、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.6μmであり、空隙(b)の空隙長が空隙(a)の空隙長よりも長い非対象構造であった。巻き取った中空糸膜は乾燥処理を行わなかった。
【0083】
この中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量を測定したところ、空気漏洩量は0.1L/min以上であった。製膜時に、熱セットの工程を行わなかったため、中空糸膜中の空隙が大きくなり、空気漏洩量が増加した。そのため、水蒸気透過性能は測定できなかった。
【0084】
(比較例3)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)24部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)6部、ジメチルアセトアミド69部、水1部からなる製膜原液を110℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド75部、水25部からなる芯液を用意した。外径1.0/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は41Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は640μm、膜厚は95μmであり、耐つぶれ強度は0.033であった。
【0085】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も640μm、膜厚も95μmであった。
【0086】
この水蒸気透過中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量は0.0001L/min以下であり、水蒸気透過係数が0.12g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は0.6nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、厚さ0.8μmの緻密層が存在した。緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.7μmであった。しかし、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.4μmであり、空隙長が0.5μm以上の空隙は存在しなかった。そのため、内表面から外表面にかけて空隙の空隙長が大きくなる非対称構造ではなかった。実施例1に比べると、ポリスルホン濃度が高くなり、製膜原液の粘性も高い条件ではあったが、注入液の溶媒比率が高いため、緻密層厚みが薄くなるが、支持層には非対称性は得られなかった。
【0087】
(比較例4)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P1700)32部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K30)8部、ポリビニルピロリドン(ISP社製K90)4部、ジメチルアセトアミド55部、水1部からなる製膜原液を110℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド63部、水37部からなる芯液を用意した。外径1.0/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部350mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は1200Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は15m/minとし、中空糸膜内径は600μm、膜厚は100μmであり、耐つぶれ強度は0.046であった。
【0088】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も600μm、膜厚も100μmであった。
【0089】
この水蒸気透過中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量は0.0001L/min以下であり、水蒸気透過係数が0.05g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は0.3nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、厚さ2.0μmの緻密層が存在した。
【0090】

緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以内における空隙長の最も長い空隙(a)の空隙長は0.2μmであり、空隙長が0.3μm以上の空隙は存在しなかった。また、緻密層と支持層の境界から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は0.2μmであり、空隙長が0.5μm以上の空隙も存在しなかった。緻密層は存在するものの、内表面から外表面にかけての非対称性は持たず、対称構造であった。
【0091】
実施例1に比べると、ポリスルホン濃度が高くなり、製膜原液の粘性も高い条件であるが、注入液の溶媒比率が高いため、緻密層は確認できたが支持層には非対称性は得られず、支持層の中央部に空隙(c)をつくることもできなかった。
【0092】
(比較例5)
ポリスルホン樹脂(ソルベー社製P3500)18部、ジメチルアセトアミド81部、水1部からなる製膜原液を90℃で溶解後、50℃に保温した。ジメチルアセトアミド40部、水60部からなる芯液を用意した。外径1.0/内径0.7mmの2重管口金の外側の管から製膜原液を、内側の管から芯液を同時に吐出させた。吐出させた吐液を30℃の乾式部300mmを通し、水90部とジメチルアセトアミド10部からなる凝固浴40℃に浸漬させ、凝固させた。この時の製膜原液粘度は5.3Poiseであった。次いで凝固させた中空糸膜を80℃の水洗浴で洗浄後、中空糸膜が湿潤状態のままカセ枠に巻き取った。このときの製膜速度は25m/minとし、中空糸膜内径は586μm、膜厚は81μmであり、耐つぶれ強度は0.021であった。
【0093】
巻き取った中空糸膜を長さ0.3mの1000本単位に小分けし、50℃の乾熱乾燥機で24時間乾燥を行い、中空糸膜を得た。乾燥後の中空糸膜内径も586μm、膜厚も81μmであった。
【0094】
この水蒸気透過中空糸膜を3本取り出し、長さ0.1mのミニモジュールを製作した。空気漏洩量は0.002L/min以下であり、水蒸気透過係数が0.24g/min/cm/MPaであった。中空糸膜の緻密層開孔面積平均径は0.4nmであった。中空糸膜の長手方向断面を電子顕微鏡で観察すると、緻密層の厚さは0.1μmよりも薄く、緻密層は存在しなかった。
【0095】
そのため、緻密層と支持層の境界は無いものと考え、水蒸気透過膜の表面10から厚さ方向2μm以内における空隙長を測定した。最も長い空隙(a)の空隙長は1.5μmであり、空隙長が0.3μm以上の空隙の存在は認められた。また、水蒸気透過膜の表面10から厚さ方向2μm以上4μm以内における空隙長の最も長い空隙(b)の空隙長は2.0μmであり、空隙長が0.5μm以上の空隙も存在した。しかし、緻密層が存在しないため内表面から外表面にかけての非対称性は持たないボイド構造であった。
【0096】
実施例1に比べると、親水性高分子を製膜原液に含まず、粘性が低い条件である。その為、製膜時の相分離をコントロールできず、緻密層が存在しないボイド構造となった。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【符号の説明】
【0099】
10:水蒸気透過膜の表面
15:境界面
20:空隙部分
30:緻密層
40:緻密層から2μmの境界線
50:緻密層から4μmの境界線
60:スイープガス入り
70:温・湿度測定個所
80:空気流量計
90:スイープガス出
100:温・湿度測定個所
110:加湿装置
120:オフガス入り
130:オフガス出
140:ミニモジュール
150:空気流量計
160:栓
170:中空糸膜断面の外表面近傍
180:中空糸膜断面の内表面近傍

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する緻密層と支持層とを有し、
該緻密層が、該層内に空隙長0.1μm以下の空隙を有し、該層の厚さが0.1μm以上2μm以下であり、
該支持層が、緻密層と支持層との境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(a)の空隙長が0.3μm以上であり、該境界面から支持層側へ厚さ方向2μm以上4μm以内に存在する空隙のうち、空隙長が最も長い空隙(b)の空隙長が0.5μm以上であり、該空隙(b)の空隙長が該空隙(a)の空隙長よりも長い水蒸気透過膜。
【請求項2】
空気漏洩量が0.1L/min以下である請求項1記載の水蒸気透過膜。
【請求項3】
請求項1記載の水蒸気透過膜が中空状となった中空糸膜。
【請求項4】
請求項1〜3記載の中空糸膜を含む加湿装置。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−67812(P2011−67812A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182844(P2010−182844)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】