説明

水質保全方法

【課題】高機能な水質保全方法の提供。
【解決手段】マット化した根系を有する水生植物とその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水質保全用緑化資材、及びそれを用いた水質保全方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット化した根を有する水生植物を用いた水質保全方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部において、景観や都市型生態系の創出やヒートアイランド現象の抑制を図るために親水空間が設けられ、その周囲に水生植物が植えられることが多くなっている。水生植物が富栄養化因子である窒素やリンを固定し、水質を浄化することも期待されている(非特許文献1)。例えば、栄養塩吸着材料を混ぜた土壌を敷いた水底に植え込まれた水生植物等に対し、土壌中に溶存酸素水を注入することによる方法や、陸生植物をその周囲土壌に共に植えることによる水質浄化方法なども知られている(特許文献1及び2)。
【0003】
しかし植栽に用いる土壌から環境負荷物質が水中に流出し、かえって水質が劣化してしまうこともある。そこで土壌を使用せずに水生植物を植生させて水質浄化を行う方法も開発されている(特許文献3及び4)。特許文献3の方法では植生マットを水底に固定し、そこに水生植物を繁茂させる。また特許文献4の方法では、ネットを水面の少し下に張り渡し、このネットに水生植物を固定して根が水中に垂れ下がるようにする。しかしこれらの方法では水生植物の固定が十分でなく、植物が流出する恐れがある。また水質浄化能についても改善の余地が大きいと考えられる。さらにこれらの水質浄化システムを商品として流通させるのは困難であり、汎用性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−15586号公報
【特許文献2】特開2000−246283号公報
【特許文献3】特開平9−327247号公報
【特許文献4】特開平10−263589号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】尾崎保夫、「有用植物を用いた生活排水の資源循環型浄化システムの開発」、農業及び園芸、(2001) 第76巻、pp.1107-1115
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高機能な水質保全方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、水生植物の根をマット化しそこに無機イオン吸脱着材を保持させることにより、水中の無機イオンを効率的に吸着できしかも吸着した無機イオンをその水生植物自身が利用できるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] マット化した根系を有する水生植物とその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水質保全用緑化資材。
[2] 水生植物が抽水植物又は湿生植物である、上記[1]の緑化資材。
[3] 前記植栽基盤材が無機イオン吸脱着材及び非土壌性植栽基材を含むか又は無機イオン吸脱着材からなる、上記[1]又は[2]の緑化資材。
[4] 非土壌性植栽基材の少なくとも1種が砂である、上記[3]の緑化資材。
[5] 植栽基盤材に含まれる非土壌性植栽基材と無機イオン吸脱着材の配合比率が体積比で0:100〜95:5である、上記[4]の緑化資材。
[6] 無機イオン吸脱着材が硝酸イオン吸脱着材及びリン酸イオン吸脱着材、又は硝酸イオン吸脱着材である、上記[1]〜[5]の緑化資材。
[7] 植栽基盤材がさらに繊維材料を含む、上記[1]〜[6]の緑化資材。
[8] 上記[1]〜[7]に記載の緑化資材と通水路とを備え、通水路に導入された水が、通水路内に固定された前記緑化資材におけるマット化した根系を通過するように構成されていることを特徴とする水質保全システム。
[9] 上記[1]〜[7]に記載の緑化資材を水辺施工面に設置することを特徴とする、水質保全方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水に含まれる無機イオンを効率的に除去できる水質保全システムを簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、各種吸着材を用いた吸着試験の結果を示す図である。Aは硝酸イオン、Bはリン酸イオンの、吸着材単位重量(g)当たりの吸着量を示す。
【図2】図2は、各種配合比の吸着材で栽培したヨシの草丈の推移を示す図である。白ひし型は試験区1、黒四角は試験区2、白三角は試験区3、黒丸は試験区4を示す。
【図3】図3は、各種配合比の吸着材で栽培したヨシ根系のマット化度の推移を示す図である。白ひし型は試験区1、黒四角は試験区2、白三角は試験区3、黒丸は試験区4を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、根系を典型的には数センチ厚に平板状かつ高密度になるよう育成し、その根系に栄養塩(通常は無機イオン)を吸脱着する性質を備えた吸着材を保持するようにした水生植物体を用いた緑化資材、そのような緑化資材としての水生植物体を根系が通水可能な状態で通水路に固定した水質保全システム又は水質保全装置、及びその緑化資材を水辺に設置することによる水辺の水質保全方法等に関する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、マット化した根系を有する水生植物とその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水質保全用緑化資材を提供する。
【0013】
マット化した根を有する植物は、緑化資材として知られ、「マット植物」と呼ばれている。マット植物とは、根が互いに絡み合って根系(根域)がマット状(平板状)になった植物を意味する。本明細書において「根系(root system)」とは、植物の地下部(根や根茎)の総体を意味する。本明細書において「マット化(平板化)」とは、根系が高密度かつマット状(平板状)に育成されることを意味する。
【0014】
本発明に係る緑化資材を構成する水生植物は、1種又は2種以上の任意の水生植物であってよい。水生植物とは湖沼、溜池、河川などの淡水域、湿地及び湿原に生育する植物でる。水生植物として、沈水植物、浮遊植物、浮葉植物、抽水植物(挺水植物)、湿生植物等が挙げられる。本発明で用いる水生植物は、限定するものではないが、抽水植物又は湿生植物がより好ましい。抽水植物とは、水底に根を張り、茎の下部は水中にあるが茎か葉の少なくとも一部が水上に突き出ている植物をいう。湿生植物とは、水際、湿地及び湿原等の湿潤域に生育する植物をいう。本発明において使用され得る抽水植物又は湿生植物としては、例えば、オランダガラシ属、ハリナズナ属、アヤメ属、フサモ属、サヤヌカグサ属、スズメノヒエ属、ドジョウツナギ属、マコモ属、ヨシ属、オモダカ属、サジオモダカ属、マルバオモダカ属、ガマ属、ウキヤガラ属、ネビキグサ属、ハリイ属、ホタルイ属、ウキアゼナ属、シソクサ属、ショウブ属、コウホネ属、タデ属、イボクサ属、トクサ属、ハス属、ミクリ属、アメリカコナギ属、ミズアオイ属、ミズニラ属、ミズワラビ属、ミツガシワ属、キンポウゲ属、セリ属、チョウジタデ属、ヒシ属、コウホネ属、ヒヨドリバナ属、ミゾカクシ属、ミソハギ属、テンツキ属、ギシギシ属、クワガタソウ属、アカザ属、オカトラノオ属等の水生植物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明において使用され得る抽水植物又は湿生植物の例としては、例えば、リードキャナリーグラス(クサヨシ)、ヨシ、フトイ、エゾミソハギ、ノハナショウブ、サワギキョウ、マコモ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
マット化した根系を有する水生植物は、例えば、育苗トレー(好ましい例では25cm角のもの)に植栽基盤材を敷き詰め、そこに水生植物の苗を定植し一定期間栽培することによって作製することができる。栽培は、植栽基盤材が水に浸ったままにならないように供給水を常に排水する条件下で行ってもよいし、植栽基盤材が常に水に浸るように供給水を貯留する条件下で行ってもよい。温度等の他の栽培条件は、用いる水生植物に合わせて決定すればよい。
【0016】
根系がマット化したかどうかは、定植した植物の地上部(茎葉)を引っ張ったときの引き抜き耐性に基づいて判断することができる。具体的には、植物の地上部(茎葉)を引っ張って、そのときの感触や根の張り具合を9段階(1:定植された苗の根針が不安定で容易に引き抜くことができる、3:ある程度強い力で引き抜くことができる、5:定植された苗の根張りが十分で引き抜くことができない、7:ある程度マット化されているがトレーから外すと多少崩れる、9:完全にマット化されており容易にトレーから外せる;2、4、6、8はこれらの各段階の中間のレベルを示す)で評点し、マット化度とすることができる。マット化度が5以上であれば、本発明の緑化資材に使用可能なレベルのマット化が認められるが、7以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る緑化資材を構成する水生植物のマット化した根系は、限定するものではないが、典型的には10cm以下、好ましくは2cm〜7cm、例えば3cm〜5cmの平均厚を有するマット状(平板状)である。
【0018】
上記のようにして作製される水生植物のマット化した根系は、栽培時に使用した植栽基盤材等をその根の間に保持することになる。そこで本発明においては、栽培時に、無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材を使用することにより、緑化資材に用いる水生植物のマット化した根系に、無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材を保持させることができる。本発明において「無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材」とは、典型的には、1種又は2種以上の無機イオン吸脱着材を植栽基材(好ましくは非土壌性植栽基材)と配合したか又はその配合物を含む植栽基盤材、又は無機イオン吸脱着材からなる植栽基盤材である。
【0019】
本発明において「無機イオン吸脱着材」とは、植物の生育に有用ないずれかの無機イオンを吸着することができ、かつ吸着した無機イオンを脱着(放出)することができる吸着材をいう。無機イオン吸脱着材は、例えば無機イオン交換体である。無機イオン吸脱着材は、無機イオン吸着物質を含む多孔質材料でありうる。本発明において「無機イオン吸脱着材」の好ましい例としては、硝酸イオン吸脱着材又はリン酸イオン吸脱着材が挙げられる。硝酸イオン吸脱着材は、例えば、カルシウム担持炭からなる吸着材、陰イオン交換樹脂等であってよい。リン酸イオン吸脱着材は、例えば、トバモライト(リン酸イオンの脱着性能に優れている)、鹿沼土、アロフェンとカオリン系粘土を含む焼成吸着材等であってよい。無機イオン吸脱着材は、粒状、粉末状、固形状、繊維状等の任意の形状であってよいが、好ましい1つの態様は粒状である。粒状の無機イオン吸脱着材を用いる場合、限定するものではないが、通常は最大平均粒経(直径)で10mm以下、好ましくは5mm以下とすればよい。本発明においては、無機イオン吸脱着材として、硝酸イオン吸脱着材とリン酸イオン吸脱着材を組み合わせて植栽基盤材に用いることは特に好ましい。植栽基盤における無機イオン吸脱着材の配合比は、限定するものではないが、もう一つの構成材料でありうる非土壌性植栽基材に対して、5:95〜100:0、好ましくは20:80〜60:40、より好ましくは30:70〜50:50の配合比率とすることができる。この配合比率は、計量カップを用いた計量によって決定できる、体積比である。
【0020】
本発明において「植栽基盤材」とは、植物を植え込む植栽基盤の構成材料となる植栽基材又はその混合物をいう。本発明で用いる植栽基盤材は、土壌を含んでもよいし非土壌性植栽基材を含んでもよい。しかし、土壌からの栄養分流出による環境負荷が懸念される場合等には、本発明で用いる植栽基盤材は、無機イオン吸脱着材と非土壌性植栽基材とを含み、土壌を含まないことが好ましい。本発明で用いる植栽基盤材は無機イオン吸脱着材からなるものであってもよい。本発明において「非土壌性植栽基材」とは、土壌以外の植栽基材を意味し、例えば、砂(川砂等)、砂利、人工植栽基材(例えばパーライトなど火山岩を加工した植栽基材、発泡スチロール廃材、建設廃材、下水汚泥などに由来する溶融スラグ)等が挙げられる。砂は、非土壌性植栽基材の好ましい例である。植栽基盤における砂の配合比は、限定するものではないが、無機イオン吸脱着材に対して、0:100〜95:5、好ましくは40:60〜80:20、より好ましくは50:50〜70:30の配合比率とすることができる。この配合比率は、計量カップを用いた計量によって決定できる、体積比である。
【0021】
本発明で用いる植栽基盤材は、さらに繊維材料を含んでもよい。繊維材料は合成繊維でも天然繊維でもよく、線状(一次元)のものでも布状(二次元)あるいは三次元のネット状のものでも良い。繊維材料としては例えば、プラスチック繊維、ヤシ繊維、麻繊維、稲ワラ等、窒素、リン成分の溶出が無いか非常に低い材料が挙げられる。繊維材料を配合することにより、根と土壌をより一体化しやすくさせることができる。
【0022】
以上のようにして得られる、マット化した根系を有し、かつその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水生植物は、水質保全用緑化資材として使用することができる。本発明において「水質保全用緑化資材」とは、緑化(好ましくは水辺の緑化)に使用する際に水質保全機能を発揮させることを目的とした緑化資材である。
【0023】
本発明はまた、このような水質保全用緑化資材と通水路とを備え、通水路に導入された水が、通水路内に固定されたその緑化資材におけるマット化した根系を通過するように構成されていることを特徴とする水質保全システムも提供する。本発明において「通水路」とは、水質保全のために水処理すべき水を導入するための水路を意味する。この通水路は、水辺に設置されたものでもよいし、水辺から水を引水するように内陸に設置されたものでもよいし、可動式のものでもよい。この通水路(好ましくは通水路の内部、例えば通水路の底部)には、本発明に係る緑化資材が固定される。この通水路に導入された水が、通水路内の前記緑化資材を構成するマット化した根系を通過すると、水中の無機イオンが吸脱着材に吸着され、水から除去される。吸着された無機イオンは前記緑化資材を構成する水生植物によって吸収され、消費される。この結果、通水路に導入される水の水質を保全することができる。
【0024】
本発明はまた、本発明に係る緑化資材を水辺施工面に設置することを特徴とする、水質保全方法も提供する。本発明において「水辺」とは、水生植物(より好ましくは抽水植物又は湿生植物)の生育域、特に水際の湿潤域及び浅い水域(水深10〜100cm程度)を意味する。「水辺施工面に設置」とは、水辺の施工面に本発明に係る緑化資材を配置又は固定することを意味する。これにより、本発明に係る緑化資材のマット化した根系と接触した水又は水分中の無機イオンが、マット化した根系に保持された吸脱着材に吸着され除去される。吸着された無機イオンは前記緑化資材を構成する水生植物によって吸収され、消費される。この結果、水辺の水質を保全することができる。
【0025】
本発明に係る水質保全用緑化資材、水質保全システム及び水質保全方法を用いれば、効率良く簡便に水処理(水質浄化)することができ、例えば水路や人工池等の浅い水域の富栄養化を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]吸着材の選定
窒素又はリンの除去効率の高い吸着材の選定を行うため、数種類の吸着材を用いて富栄養化因子である硝酸イオン及びリン酸イオンの吸着試験を行った。
【0028】
供試吸着材としては、Caを担持する日本植生株式会社製機能炭「アニオクリン」、ケイ酸カルシウム系の鉱物であるトバモライト、土壌改良などに用いられる鹿沼土及び焼成珪藻土、河川の水質浄化などに適用されている木炭及び活性炭を用いた。機能炭は、植物性廃材にCa含有化合物を添加し、それを炭化することにより製造された、粒径(直径)1〜2 mm程度の黒色の粒状吸着材である。この機能炭は、高濃度の塩類で再生される通り、イオン交換により硝酸イオンを吸着する。
【0029】
吸着試験は、硝酸イオンについてはKNO3 1083 mg/L、リン酸イオンについてはK2HPO4 5.6 mg/Lを含む模擬供給水を用いて回分方式で行った。まず、模擬供給水500 mLに対して1〜10 gの吸着材をそれぞれ添加し、20℃でスターラーにより攪拌した。48時間後に硝酸イオン及びリン酸イオン濃度を測定し、それぞれの吸着材の単位重量当たりの吸着量を測定した。
【0030】
硝酸イオン濃度は、サンプルを0.2μmでろ過した後、ろ液を適宜希釈し、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略す)により測定した。HPLC分析は次のように行った。島津製作所製のイオンクロマトグラフ CTO-10Aを用い、カラムとしてはウォーターズ社製の IC-Pak Anion HC 4.6×150 mmを用いた。検出器は紫外・可視吸光光度検出器(UV-VIS Detector)、溶離液はKCl 20 mMを用い、流速を1.5 mL/minとした。
【0031】
リン酸イオン濃度の測定では、まずサンプルを0.2μmでろ過した後、適量のろ液をメスシリンダーにとり、水を25 mLの標線まで加えた。そこにモリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合液2mLを加えて振り混ぜた後、20〜40℃で約15分間放置した。溶液の一部を吸収セルに移し、波長880 nm付近の吸光度を測定した。別途、リン酸標準液を用いて検量線を作成し、サンプル中のリン酸イオン濃度を算出した。
【0032】
このようにして得られた吸着試験の結果を図1に示す。硝酸イオンに対しては機能炭が、リン酸イオンに対してはトバモライト及び鹿沼土が他の吸着材に比較して高い吸着能を示した(図1)。特に機能炭は、従来の高コストのイオン交換樹脂(吸着量は15mg-N/g程度)と比べても高い硝酸イオン吸着能を持つことが示された(図1)。またこれらの吸着材は標的の無機イオンが低濃度でも高い吸着能を発揮できた。
【0033】
なお、土壌等に吸着されたリン酸イオンは脱着されにくい場合があることが知られている。そこで、高いリン酸吸着能を示したトバモライト及び鹿沼土について、トルオーグ法を用いて吸着試験後の吸着材からのリン酸イオンの脱着量の測定を次のように行った。硫酸アンモニウム及び硫酸を用いてpH=3に調整した抽出液500 mLに吸着試験後の吸着材を添加し、20℃で30分間振とうした。その後、抽出液中のリン酸イオン濃度を測定し、リン酸イオンの脱着量を算出した。その結果、吸着試験で得られたリン酸イオンの吸着量に対してトバモライトでは約49%、鹿沼土では約9%のリン酸イオンの脱着が計測された。
【0034】
[実施例2]吸着材を担持させたマット化根系を有する水生植物の作製
本実施例では、実施例1にて選定された無機イオン吸脱着材をマット化した水生植物の根系に担持させることにより、マット水生植物を利用した水質保全用緑化資材を作製した。
【0035】
(1)植栽基盤の調整
水生植物の根系を平板化(マット化)し、そこに吸脱着材を担持させるのに適した植栽基盤の配合を検討するために、株式会社鹿沼興産から購入した砂と、硝酸イオン吸脱着材には機能炭「アニオクリン」、リン酸吸脱着材には「トバモライト(1〜5mm)」又は鹿沼土(1〜3mm)を用い、表1に示す4つのパターン(試験区1〜4)にしたがって各植栽基材を配合し、25cm角で2連の育苗トレーに厚み2cmで敷き均して試験用植栽基盤を作製した。各試験区とも4トレーずつ作製し、実験に用いた。
【0036】
【表1】

【0037】
(2)水生植物の定植及び育成
供試植物として湿生植物であるヨシ(Phragmites australis)を用い、市販されている径9cmのポット苗を購入し、2009年6月5日に、作製した25cm角トレーに5株の割合で定植した。定植後、ビニールシートを敷いた深さ4cmのトレーの上に各トレーを載せて植栽基盤が常に水に浸る状態にして、2ヶ月ほど温室内で養生したのち、以降は屋外に移して栽培した。
【0038】
(3)調査方法
各試験区におけるヨシの生育状況及び根系がマット化する状況を比較するために、ヨシの草丈、被度、根系のマット化度を2週間に1回の頻度で調査した。草丈は、各トレーの中央に定植された株の草丈をcm単位で実測した。被度については目視にて各トレーをヨシが被覆している割合を調査し、マット化度については定植された植物の地上部を引っ張ったときの感触に応じて1〜9の9段階で評点した。マット化度の評点基準は、「1:定植された苗の根張りが不安定で容易に引き抜くことができる〜3:ある程度の強い力で引き抜くことができる〜5:定植された苗の根張りが十分で引き抜くことが容易ではない〜:7:ある程度マット化されているがトレーから外すと多少崩れる〜9:完全にマット化されており容易にトレーから外せる」である。
【0039】
(4)調査結果−水生植物の根系のマット化に適した植生基盤の配合
各試験区におけるヨシの草丈については、定植してから1ヶ月半が経過した7月17日調査時以降、試験区1(砂のみ配合)における草丈が他に比べて低く推移し、4ヶ月が経過した10月2日調査時においては、試験区1に定植したヨシの草丈が他に比べて有意に低かった(図2)。他の3つの試験区間で草丈の推移や定植4ヶ月後の草丈に有意な差は認められなかった。
【0040】
被度についても、定植してから1ヶ月半が経過したころから試験区間で有意な差が見られるようになり、砂のみを配合した試験区1における被度が他に比べて低いまま推移した。3種類の材料で構成される無機イオン吸脱着材を配合した試験区のうち、吸脱着材を50%混合した試験区4における被度が、試験期間を通して、最も高かった。
【0041】
各試験区に定植したヨシの根系がマット化していく状況については、トレーに定植してから約3ヶ月が経過した8月28日調査時まで試験区間でマット化度に有意な差は見られなかった。9月以降、吸脱着材を配合した試験区2、3、4では根系のマット化が進み、4ヶ月が経過した10月2日調査時にマット化度が、緑化資材として使用可能な状態まで根系がマット化したと判定する基準となっている7点を超えた。砂のみを配合した試験区1におけるマット化度は5点を超えることなく推移した(図3)。
【0042】
以上のことから、砂のみの植栽基盤に比べて、無機イオン吸脱着材を配合した植栽基盤においてヨシが旺盛に生育し、根系のマット化が進んだことから、用いた無機イオン吸脱着材は水に含まれる植物の栄養塩を吸着し、脱着することが明らかとなった。また、砂に無機イオン吸脱着材を配合することによって、水生植物の根系をマット化することができ、本発明に資する水質浄化機能を備えた緑化資材を供与できることが明らかとなった。
【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、水路や人工池等の浅い水域の富栄養化の防止、及びそれらの水域の水質浄化のために用いることができる。本発明を用いれば、例えば、無機イオンに代表される栄養塩を低濃度レベルでも除去することができる。また本発明では、多くの種類の水生植物を利用することができるため、水質保全を要する水辺において外観的な変化をもたせることができ、生態系の維持にも有用である。また本発明に係る無機イオン吸脱着材を保持するマット化した根を有する水生植物を用いた水質保全システムは、システム全体として軽いため、人工地盤に適用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マット化した根系を有する水生植物とその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水質保全用緑化資材。
【請求項2】
請求項1に記載の緑化資材と通水路とを備え、通水路に導入された水が、通水路内に固定された前記緑化資材におけるマット化した根系を通過するように構成されていることを特徴とする水質保全システム。
【請求項3】
請求項1に記載の緑化資材を水辺施工面に設置することを特徴とする、水質保全方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−239694(P2011−239694A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112476(P2010−112476)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物 :大成建設技術センター報 2009年 第42号および付録CD−ROM 発行日 :2009年12月1日 発行所 :大成建設株式会社技術センター 該当頁 :73頁及びCD−ROMデータ 環境No.59 公開者 :瀧 寛則、屋祢下 亮、斎藤 祐二、内池 智広、渡邊 篤、西村 正和 タイトル :「街区における親水空間の水質保全技術の開発 その1 富栄養化因子の吸着材による除去性能評価」 該当頁 :74頁及びCD−ROMデータ 環境No.60 公開者 :屋祢下 亮、瀧 寛則、斎藤 祐二、内池 智広、渡邊 篤、西村 正和 タイトル :「街区における親水空間の水質保全技術の開発 その2 水生植物の水質保全機能の向上」
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】