説明

水質監視システムおよび水質監視方法

【課題】 簡易な保守作業で、且つ低減された保守頻度および費用で、水質監視システムを長期にわたって連続的に運転する。
【解決手段】 採水装置1で、監視対象となる水源から試料水を連続的に採取し、この採取した試料水中の濁質を前処理装置2で連続的に除去し、この前処理された試料水中の有害物質を水質計測器3で連続的に検出して、水質監視を行うとともに、運転制御装置4では、水質計測器3の定期的な校正の間、採水装置1の運転を停止するとともに、水質計測器3への試料水の通水を停止し、前処理装置2または水質計測器3を洗浄するように制御する。または、水質計測器3の微生物膜と溶存酸素電極とを備えたバイオセンサを、校正異常時に、試料水の流れる部分に水または空気を流して洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や上下水道などの水を対象として、水中の有害物質などの化学成分をモニタリングする水質監視システムおよび水質監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下排水の各処理プロセスの放流水や、河川水、湖沼水などの環境水の水質監視は、水道水源としての安全性や環境保全という観点から非常に重要である。現在、水質監視を自動で行う水質計測器が開発され、実際に適用され始めている。このような水質計測器としては、pH計、伝導度計、遊離塩素計、濁度計、着色度計、溶存酸素(DO)計、酸化還元電位(ORP)計、アンモニア計、硝酸イオン計、リン酸イオン計、全窒素/全リン(T−N/T−P)計、汚泥濃度(MLSS)計、UV式有機汚濁計、化学的酸素要求量(COD)計、生物学的酸素要求量(BOD)計、全有機炭素(TOC)計、揮発性有機化合物(VOC)計、(MLSS)計、バイオセンサなどが挙げられる。
【0003】
なお、本明細書において、「バイオセンサ」とは、試料水中の測定対象化学物質を認識する分子識別素子であって、酵素や抗体などの生体機能性材料や微生物、細胞など生体そのものを利用し、これらの生物材料を多孔性高分子膜に化学的に包括または共有結合させることにより固定化した膜と、電気化学的検出器などのトランスデューサとを組み合わせて生物材料の分子識別信号を電気信号に変換して、試料水中に含まれる種々の化学物質の測定を行うセンサを意味する。バイオセンサは、試料水を生物材料の固定化膜に接触させ、これによって生ずる生化学反応により生成または消費される物質の濃度変化を検出器で電流や電圧などの電気的な出力(以下、「センサ出力」という)の変化に変換して測定する。例えば、特許文献1には、水中の有害物質検出を目的としたバイオセンサ応用毒物モニタが記載されている。
【0004】
このような水質監視において、特に溶解性成分の計測を目的とした水質計測器を使用する場合、水質計測器の配管閉塞やポンプ等の送液装置故障防止のため、試料水中に含まれる砂や泥、塵などの濁質を取り除く前処理が必要である。従来、積層した砂、不織布、あるいはスクリーンで試料水をろ過し、濁質を取り除く、除濁装置が使用されてきたが、このような除濁装置では、10μm以下の濁質を除去しきれないという問題があった。
【0005】
そのため、常時試料水を通水し、連続監視を行う水質計測器においては、例えば、特許文献2に記載されているような、サブマイクロメーターオーダーの阻止粒径を持つろ過膜を用いた膜ろ過装置を使用する必要がある。しかしながら、上記膜ろ過装置は、雨天時や雪解け時の河川、湖沼水、あるいは下排水といった濁質の負荷が高い水を処理する場合、ろ過膜表面の目詰まりにより、ろ過性能が極めて悪くなり、処理水量が低下したり、処理水の水質が低下したりすることがある。よって、後段の水質計測器の測定値が変動したり、測定不能状態となったりするという問題がある。
【0006】
そこで、膜ろ過装置への濁質負荷を低減するため、サブミリメーターオーダーの粒径を持つ濁質を除去可能な、スクリーンや不織布を用いた除濁装置を膜ろ過装置の前段に併設することが望ましい。また、膜ろ過装置の自動保守運転方法として、エアあるいは水道水による逆流洗浄、膜表面のエアスクラビング、試料水にポンプやプロペラ等の機械的手段で上方ないし側方水流を付与し、そのせん断力による膜表面の洗浄、ろ過水槽の水道水洗浄等が検討されている(非特許文献1)。
【0007】
さらに、試料水中の濁質による配管閉塞・装置故障以外の測定妨害要因として、カルシウムイオン等の硬度成分の析出や大気中の雑菌繁殖による配管閉塞やセンサ素子表面汚染が挙げられる。この場合、濁質のようなろ過膜による除去は困難なため、特許文献3に記載されているような、装置内の薬液洗浄等の化学的除去法、あるいは、特許文献4や特許文献5に記載されているような、ワイパー、ジェット水流による汚染部位の洗浄等の物理的除去法が検討されている。
【特許文献1】特公平7-85072号公報
【特許文献2】特開2001-281240号公報
【特許文献3】特開2000-146893号公報
【特許文献4】特開平9-54076号公報
【特許文献5】特開平7-181130号公報
【非特許文献1】イヌイ・ティ(Inui T)、外3名,「硝化細菌バイオセンサを用いた有害物質監視の下水道システムへの適用(Application of toxicity monitor using nitrifying bacteria biosensor to sewerage systems)」,ウォータ・サイエンス・アンド・テクノロジ(Water science and technology),2002年,第45巻,第4/5号,p.271−278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような除濁機能を持つ前処理装置と水質計測器を用いて、濁質負荷の高い試料水の溶解性成分について安定した連続監視を継続するには、保守作業の簡易化、保守頻度の低減等が求められる。また、装置の導入にあたっては、保守費用の低減が求められる。しかしながら、保守頻度を低減するために、前処理装置を1か月以上連続運転すると、前処理装置では、例えば、ろ過膜表面への汚泥堆積量が多くなり、手作業による洗浄作業に多大な時間を要するという問題がある。また、例えば、ろ過膜内での雑菌繁殖による目詰まりのため、膜表面に堆積した汚泥を除去しただけではろ過膜を再使用できない場合があるという問題がある。そのため、保守頻度が高くなることにより、保守費用が増大し、装置導入が困難な状況となっていた。
【0009】
また、バイオセンサでは、長期間連続運転している間に、固定化膜の表面上に析出物や生物性の汚れが付着する。これら析出物や生物性の汚れの付着量が増加すると、センサ出力が低下し、有害物質を検出するのに必要な検出感度が得られなくなり、有害物質を正確に検出することができなくなる。そのため、バイオセンサのセンサ出力の校正を行って、センサ出力が低下しても有害物質が正確に検出できるようにしている。また、センサ出力が一定の値よりも低下した場合は、固定化膜を交換する必要があり、試料水中に雑菌や析出物が多く含まれている場合はその頻度が多くなり、費用が増加するという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、簡易な保守作業で、且つ低減された保守頻度および費用で、水質監視システムを長期にわたって連続的に運転することができる水質監視システムおよび水質監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る水質監視システムは、監視対象となる水源から試料水を連続的に採取する採水装置と、この採水装置で採取した試料水中の濁質を連続的に除去する前処理装置と、この前処理装置で前処理された試料水中の有害物質を連続的に検出する水質計測器と、この水質計測器の定期的な校正の間、前記採水装置の運転を停止するとともに、前記水質計測器への試料水の通水を停止し、前記前処理装置または前記水質計測器を洗浄するように制御する運転制御装置とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
前記前処理装置としては、試料水中の汚濁を膜でろ過する膜分離手段と、この膜分離手段と前記水質計測器との間の試料水が流れる部分に水を流して洗浄を行う第1の洗浄手段とを備えたものが好ましい。この場合、前記運転制御装置は、前記水質計測器の定期的な校正の間、前記第1の洗浄手段を運転するように制御することが好ましい。
【0013】
前記水質計測器としては、バイオセンサと、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う第2の洗浄手段とを備えたものが好ましい。この場合、前記運転制御装置としては、前記バイオセンサの定期的な校正で異常と判断した場合に、第2の洗浄手段を運転するように制御することが好ましい。
【0014】
本発明は、別の態様として、水質監視方法であって、監視対象となる水源から採水装置にて試料水を連続的に採取し、この採取した試料水中の濁質を前処理装置で連続的に除去し、この前処理された試料水中の有害物質を水質計測器で連続的に検出する水質監視工程と、前記水質計測器の定期的な校正の間、前記採水装置の採水運転を停止し、前記水質計測器への試料水の通水を停止し、前記前処理装置または前記水質計測器を洗浄する校正工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
前記前処理装置は、試料水中の汚濁を膜でろ過する膜分離手段を備えるものが好ましく、前記校正工程は、前記膜分離手段と前記水質計測器との間の試料水が流れる部分に水を流して洗浄を行う第1の洗浄を行うことを含むことが好ましい。
【0016】
前記水質計測器は、バイオセンサを備えるものが好ましく、前記校正工程は、前記バイオセンサの校正において異常と判断した場合、前記バイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う第2の洗浄を行うことを含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る水質監視システムは、別の形態として、監視対象となる水源から試料水を連続的に採取する採水装置と、この採水装置で採取した試料水中の有害物質を連続的に検出するバイオセンサであって、微生物を固定した膜と溶存酸素を測定する溶存酸素電極とを備えたバイオセンサと、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う洗浄手段と、このバイオセンサを定期的に校正する際、センサ出力の低下により異常と判断した場合に、前記洗浄手段を運転するように制御する運転制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る水質監視方法は、別の形態として、監視対象となる水源から採水装置にて試料水を連続的に採取し、この採取した試料水中の有害物質を、微生物を固定した膜と溶存酸素を測定する溶存酸素電極とを備えたバイオセンサで連続的に検出する水質監視工程と、前記バイオセンサを定期的に校正する際、センサ出力の低下により異常と判断した場合に、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄する校正工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このように、水質監視システムを長期にわたって連続的に運転しても、水質計測器を定期的に校正する間、採水装置の運転を停止するとともに、前処理装置または水質計測器を洗浄することで、採水装置内の濁質の一部が重力により脱離し、濁質の蓄積を防止できるとともに、前処理装置内または水質計測器内での雑菌の繁殖を防止することができる。よって、下排水の各処理プロセスの水や河川水、湖沼水などの環境水の水質監視システムに要求される、保守作業の簡易化、保守頻度および費用の低減が可能であり、濁質負荷の高い試料水の場合においても、水質計測器への試料水の安定供給、および水質計測器の測定精度の維持が容易に可能となる。
【0020】
特に、前処理装置の洗浄として、前処理装置の膜分離手段と水質計測器との間の試料水が流れる部分に水を流して洗浄を行う第1の洗浄を行うことで、バイオセンサを汚染する雑菌の温床となっている部分を定期的に洗浄することができ、水質計測器の測定精度を、簡易な保守作業で、且つ少ない保守頻度および保守費用で、容易に維持することができる。
【0021】
さらに、前処理装置内で繁殖した雑菌がバイオセンサ内に流入して滞留し、測定精度が低下することがあるが、現行の水質計測器の自動洗浄機構はバイオセンサ周辺の配管の硬度成分付着防止を目的とした酸洗浄のみであり、バイオセンサ内のセンサ素子表面の薬液洗浄といった化学的自動洗浄は、バイオセンサで用いる微生物の脆弱性のため不可能であり、測定精度を復帰させることが困難である。そのため、雑菌繁殖場所となっている前処理装置の洗浄頻度を高くする必要があるが、その間は試料水を通水しないため、測定の連続性が失われたり、上記洗浄後に洗浄水がバイオセンサに通水されると、バイオセンサが有害物質流入時と同様の応答を示して誤警報を発したりするという問題がある。そこで、バイオセンサが校正で異常と判断された場合、バイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う第2の洗浄を行うことで、バイオセンサ内に滞留する雑菌の他、同様にセンサ出力を低下させる析出物や生物性の汚れを物理的に除去することができ、測定精度を維持することができる。
【0022】
また、微生物膜と溶存酸素電極とを備えたバイオセンサにおいて、長期間連続運転している間に、微生物膜の表面上に析出物や生物性の汚れが付着し、酸素の通過量が減少することから、溶存酸素電極で測定される酸素量が減少し、センサ出力が低下する。このセンサ出力の低下は、バイオセンサを定期的に校正する際に、その校正値から検知することができる。そして、センサ出力が異常であると判断した場合に、バイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流すことで、析出物や生物性の汚れが除去され、センサ出力を元の状態に戻すことができる。よって、微生物膜を交換すべき値までセンサ出力が低下するのを防ぐことができ、保守頻度を少なくし、費用を低減することができる。また、微生物膜に供給する酸素の量を維持できることから、微生物の寿命低下を防止し、この点からも費用を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る水質監視システムおよび水質監視方法の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る水質監視システムの一実施の形態の概略的な構成を示す模式図である。図2は、図1中に示すバイオセンサの内部構造を示す模式図である。図3は、図2中に示す微生物膜と溶存酸素電極の構成を示す模式図である。図4は、図1中に示すバイオセンサの周辺構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態の水質監視システムは、監視対象となる水源から試料水を採取する採水装置1と、試料水中から濁質を除去する前処理装置2と、試料水中の有害物質を検出する水質計測器3と、水質監視システムの運転を自動的に制御する運転制御装置4とから主に構成される。
【0025】
(1.採水装置)
採水装置1としては、水中ポンプが用いられる。採水装置1は連続的に水源から試料水を採取し、前処理装置2に通水する。なお、採水装置1は、常時運転を行うと、水中ポンプ内の流路に濁質が次第に蓄積することにより流路が閉塞し、採水停止となり、多大な労力を要する水中ポンプ内部の保守作業を行わなければならない場合がある。そこで、水質計測器3が定期的な校正を行っている間は試料水を水質計測器3に通水する必要がないことから、上記の校正中は採水装置1の運転を停止し、間欠運転とすることで、ポンプ内の濁質の一部を重力により脱離させることができ、保守頻度を低下させることができる。
【0026】
(2.前処理装置)
前処理装置2は、膜ろ過装置11と、その前段のスクリーン12とから主に構成される。このように2段の構成にすることで、膜ろ過装置11の濁質負荷を低減でき、保守頻度を低下することができる。なお、監視対象となる水源の濁質負荷が低い場合は、スクリーン12を設けずに、膜ろ過装置11単体の構成にしてもよい。
【0027】
スクリーン12には、防食性の高いステンレス等の材料が使用され、ろ過面には横方向のスリットが形成される。スクリーン12では、採水装置1からの試料水をスクリーン12の上部に導水し、スクリーンのろ過面上を自然落下させることにより、固液分離が行われる。ろ過面上に補足された濁質は、水流および重力によりスクリーン排水槽71に落下して排出される。一方、ろ過水は、スクリーン12内部のスクリーンろ過水槽72に貯水される。スクリーンろ過水槽72内のろ過水は、給水ポンプ58により、膜ろ過装置11に供給される。スクリーンろ過水槽72内の余剰ろ過水は、オーバーフロー配管(図示省略)を経由してスクリーン排水槽71に排出される。上記スリットは0.1〜1mm幅であることが好ましい。これにより、粒径0.1〜1mm以上の濁質をろ過して除去することができる。
【0028】
スクリーン12の保守法としては、スクリーン12のろ過面裏側に取り付けたブラシ(図示省略)をモーターで常時運転、あるいはタイマーを付与して間欠運転させ、付着した濁質を除去する方法(以下、「スクリーン裏面ブラシ洗浄」という)が用いられる。さらに、水道水配管63から定期的に試料水に替えて水道水を導水し、スクリーン12のろ過面表側を洗浄する方法(以下、「スクリーン表面水道水洗浄」という)が用いられる。スクリーン表面水道水洗浄の二次的効果として、導水した水道水が後段の膜ろ過装置11の原水槽52に通水されることから、膜ろ過装置11のろ過膜表面を水道水で洗浄することが可能となる。
【0029】
膜ろ過装置11としては、ろ過膜として中空糸膜を数百本程度束ねた膜モジュール51が用いられる。この膜モジュール51は、スクリーン12からの試料水が充填される原水槽52内に配置され、膜モジュール51の一端が原水槽52のフランジ(以下、水槽フランジ54という)に取り付けられ、ろ過用ポンプ59を用いて、配管内圧を上昇させることにより、膜モジュール51を通過したろ過水が水質計測器3側に送られるように構成されている。このように、内圧型の膜モジュール51をクロスフロー方式で使用することで、下水や排水のような濁質負荷の高い試料水を適切に前処理することができる。なお、内圧型に代えて外圧型を採用してもよい。
【0030】
なお、膜モジュール51は、上記の構成に限定されるものではなく、精密ろ過膜等をろ材として使用するものであれば、ろ過膜の材料および形状、ろ過方式等について各種採用できる。例えば、ろ過膜の材料は、セラミック等の無機系や、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロース等の有機系でも良く、また形状は、チューブ状、中空糸状、平膜状、スパイラル状のいずれでも良く、ろ過方式は、クロスフロー方式または全量ろ過方式でも良い。膜モジュール51としては、粒径0.2μm以上の濁質をろ過して除去することができるものが好ましい。
【0031】
膜モジュール51を通過したろ過水は、ろ過水配管55を介して、ろ過水槽56に貯留されるように構成されている。ろ過水配管55には、ろ過水配管55の圧力を測定する圧力計57と、ろ過水をろ過水槽56に送るろ過用ポンプ59が設けられている。また、ろ過水槽56には、ろ過水槽56内のろ過水を排出するためのオーバーフロー配管が設けられている。
【0032】
膜ろ過装置11の保守法としては、原水槽52内の膜モジュール51近傍に散気管53を設置し、エアポンプ61により膜表面を気泡で常時洗浄する方法(以下、「エアスクラビング」という)と、水槽フランジ54側からエアポンプ60を用いて膜内部に空気圧を付与し、膜表面に補足された濁質を逆流洗浄除去する方法(以下、「逆洗」という)とが用いられる。なお、逆洗は、空気圧に代えて水圧を用いてもよい。
【0033】
さらに、膜ろ過装置11内での雑菌繁殖を防止するため、水道水を用いて雑菌の繁殖場所となる部位を定期的に洗浄する方法(以下、「ろ過装置水道水洗浄」という)が用いられる。そのため、ろ過水配管55には、ろ過水配管55内に水導水を導入するための水道水配管62が設けられ、ろ過水配管55に適宜設けられた開閉バルブと、水槽フランジ54に設けられた排水配管と、ろ過水槽56のオーバーフロー配管とにより、水槽フランジ54、ろ過水配管55およびろ過水槽56をそれぞれ別々に水道水で洗浄できるように構成されている。水槽フランジ54の排水配管と、ろ過水槽56のオーバーフロー配管とから排出された洗浄排水は、スクリーン排水槽71へと排出される。なお、洗浄に用いる水道水を導入する水道水配管62、63に対し、給水圧が高過ぎる場合は、図示しない調圧弁とニードルバルブ等の流量調整弁を設けても良い。
【0034】
(3.水質計測器)
水質計測器3は、バイオセンサ13と、pH計14と、着色度計15とを組み合せることにより構成される。バイオセンサ13とpH計14を組み合せて連続監視を行うことにより、バイオセンサ13の異常警報出力時に異常原因が酸・アルカリ廃液によるものか、シアン等の有害物質によるものかを判別することができる。また、着色度計15を組み合せて連続監視を行うことにより、上記の両者では検出困難な染色剤や6価クロムといった着色成分の混入を検出することができる。なお、監視対象である水源により、水質計測器3をバイオセンサ13単体のみにしてもよい。
【0035】
pH計14および着色度計15をバイオセンサ13と組合せる場合、自動洗浄や自動校正機能を持ったオンライン型でも、ラボ用の簡易型でも良いが、安価にシステムを構築するには後者の方が好ましい。その場合、pH計14のガラス電極を膜ろ過装置11のろ過水槽56内に設置し、着色度計15にはろ過水槽56からチューブポンプを用いて試料水を通水するように構成する。この構成によれば、膜ろ過装置水道水洗浄時に、pH計14のガラス電極および着色度計15の測定セルを同時に水道水で洗浄することができる。また、バイオセンサ13も、ろ過水槽56からチューブポンプを用いて試料水を通水するように構成されている。
【0036】
バイオセンサ13は、図2に示すように、生体材料としては有害物質に極めて弱い微生物である硝化細菌を生きたまま固定化して高分子多孔膜で封じ込めた微生物膜21と、検出器として溶存酸素電極22とを組合せた呼吸活性検知型バイオセンサである。微生物膜21は、フローセル24内部の試料流路25を流れる試料水と接触するように構成されている。
【0037】
溶存酸素電極22は、図3に示すように、微生物膜21と平行に接して配置された酸素透過膜81と、酸素透過膜81に接して配置された錨形状のカソード電極82と、カソード電極82の軸部分の側方を囲む絶縁体84と、絶縁体84の外周部に配置されたアノード電極と、絶縁体84の外周部に充填された内部液85とから構成されたガルバニ電池である。
【0038】
また、バイオセンサ13は、図4に示すように、恒温槽26内に設置されているとともに、バイオセンサ13の前段に熱交換器27が設置されているので、バイオセンサ13での測定温度を一定に保たれている。また、バイオセンサ13に各種液体や気体を別々または混合して送るように開閉バルブを備えた送風送液機構29が設置されている。
【0039】
バイオセンサ13の試料流路25には、通常、膜ろ過装置11のろ過水槽56からの試料水と、基質および必須栄養素を含んだ緩衝溶液(以下、「フィード液」という)との混合液が酸素飽和状態で送風送液機構29によって供給される。バイオセンサでは、図5に示すように、試料流路25を流れる混合液中の基質88が、微生物膜21中の硝化細菌87により硝化され、このとき混合液中の酸素89が消費される。微生物膜21を通過した酸素89の量は、溶存酸素電極22で測定される(この時のセンサ出力を「測定値」という)。
【0040】
このとき、混合液中に有害物質が混入していなければ、混合液中の酸素は微生物膜21でほぼ全て消費されるので、図6に示すように、酸素消費率はほぼ100%となり、溶存酸素電極22のセンサ出力は非常に低い値となる。一方、混合液中に有害物質が混入していると、硝化細菌87の活性が阻害され、酸素呼吸量が減少することから、酸素消費率は低下し、溶存酸素電極22が酸素を検出してセンサ出力が増加する。これにより試料水中に有害物質が混入しているか否かを検知することができる。
【0041】
また、バイオセンサ13の試料流路25には、校正のために、1日1回程度などの定期的に、純水と、基質は含まずに必須栄養素を含んだ緩衝溶液(以下、「校正液」という)との混合液が酸素飽和状態で送風送液機構29によって供給される。バイオセンサでは、混合液中に基質が含まれないので、硝化細菌は酸素をほとんど消費せず、よって、図6に示すように、酸素消費率はほぼ0%となり、溶存酸素電極のセンサ出力が大きく増加する(この時の値を「スパン校正値」という)。ここで、酸素消費率は、以下の式1により求める。
酸素消費率(%)={1−(測定中の任意のセンサ出力)/(スパン校正値)}×100・・・式1
【0042】
呼吸阻害率は、以下の式2で求める。呼吸阻害率が所定の監視閾値(例えば10%)を超えた場合に、試料水中に有害物質が検知された旨の警報を出す。
呼吸阻害率(%)={1−(有害物質混入時の酸素消費率)/(有害物質混入直前の酸素消費率)}×100・・・式2
【0043】
さらに、送風送液機構29内の試料流路およびバイオセンサ13の試料流路25には、異常時に、水道水が給水圧によって供給され、これにより前記試料水路を水道水で洗浄すること(以下、「バイオセンサ水道水洗浄」という)ができるので、滞留する雑菌や、微生物膜21の表面に付着した析出物、生物性の汚れが物理的に除去され、これらに起因するセンサ出力の低下を防止することができる。
【0044】
なお、ろ過水槽56とバイオセンサ13との間の試料水配管を洗浄するために、定期的に、この試料水配管内には、酸洗浄水が送風送液機構29によって供給され、酸洗浄が行われる。これにより配管内に硬度成分が付着するのを防止することができる。なお、酸洗浄水がバイオセンサ13の試料流路25内に流れないように、酸洗浄水の供給時には、開閉バルブ(図示省略)を切替えて酸洗浄水をバイパス流路28へと流すようにする。これによりバイオセンサ13の微生物が酸洗浄水に接触するのを避けることができる。
【0045】
(4.運転制御装置)
運転制御装置4は、図7に示すように、バイオセンサのセンサ出力等の上記の各構成要素からの各種信号を読み込むアナログデジタル信号変換器46と、これらの信号に基づいて、予め設定された演算処理を行う中央演算処理装置47と、この処理結果に基づいて、上記の各構成要素に対して各種信号を発信するデジタルアナログ信号変換器48とから主に構成されている。運転制御装置4には、信号を発信する時間を設定するためのタイマー31〜42が設けられている。また、中央演算処理装置47は、受信した信号に基づいて各構成要素に命令の信号を発信するか否かの上限値または下限値AL1〜AL3を設定できるように構成されている。
【0046】
運転制御装置4のタイマー31には、スクリーン12におけるスクリーン裏面ブラシ洗浄の運転間隔時間T1が設定される。この時間T1を設定すれば、スクリーン裏面ブラシ洗浄は間欠運転となり、設定しなければ常時運転となる。
【0047】
運転制御装置4のタイマー32には、膜ろ過装置11の逆洗時間T2が、タイマー33には膜ろ過装置11の逆洗間隔時間T3が、タイマー34には膜ろ過装置水道水洗浄時間T4が、タイマー35には膜ろ過装置水道水洗浄間隔時間T5が設定される。なお、この定期的な膜ろ過装置水道水洗浄時には、ろ過水槽56からバイオセンサ13への試料水の供給を停止するように制御する。
【0048】
ろ過水配管55内の吸引圧を測定する圧力計57は、測定した吸引圧の値を運転制御装置4に発信するように構成されている。運転制御装置4には、保守閾値AL1が設定されており、受信した値がAL1以上となった場合、膜ろ過装置11に逆洗信号を発信する。逆洗信号を受信した膜ろ過装置11では逆洗が行われる。なお、逆洗信号が発信されると、逆洗間隔時間T3のタイマー33はリセットされる。
【0049】
運転制御装置4のタイマー36には、バイオセンサ13の校正時間T6が、タイマー37にはバイオセンサ13の校正間隔時間T7が、タイマー38にはバイオセンサ13の酸洗浄時間T8が、タイマー39にはバイオセンサ13の酸洗浄間隔時間T9が、タイマー40にはバイオセンサ水道水洗浄時間T10が、タイマー41にはバイオセンサ水道水洗浄間隔時間T11が、タイマー42には校正完了後のバイオセンサ13の測定待ち時間T12が設定される。
【0050】
運転制御装置4からは、定期的にバイオセンサ13の校正を行うために、校正間隔時間T7毎に、校正時間T6の間、採水装置1、前処理装置2、水質計測器3に定期校正信号が発信される。採水装置1は、この定期校正信号を受信している間、運転を停止する。前処理装置2は、定期校正信号を受信している間、スクリーン12において、スクリーン表面水道水洗浄を行うとともに、膜ろ過装置水道水洗浄時間T4のタイマー34はリセットされ、膜ろ過装置水道水洗浄を繰り返し行う。膜ろ過装置水道水洗浄は、水槽フランジ54、ろ過水配管55、ろ過水槽56の順に洗浄するが、この定期的なバイオセンサ13の校正時における膜ろ過装置水道水洗浄時間(校正時間T6)を、上記の定期的な膜ろ過装置水道水洗浄時における水道水洗浄時間T4の10倍以上に設定することが好ましい。
【0051】
水質計測器3は、定期校正信号を受信している間、校正が行われる。バイオセンサ13には、純水と校正液の混合液が供給され、図8のフローチャートに示すように、その測定値、すなわちスパン校正値が運転制御装置4に送信される。運転制御装置4には、スパン校正異常閾値AL2が設定されており、校正終了時点のスパン校正値がAL2未満の場合、運転制御装置4は、水質計測器3にバイオセンサ水道水洗浄を開始する信号を発信し、送風送液機構29内のチューブポンプを停止して、送風送液機構29およびバイオセンサ13の試料流路の洗浄を行うとともに、採水装置1および前処理装置2には、採水装置1の運転中止および膜ろ過装置水道水洗浄を維持するように信号を発信する。そして、バイオセンサ水道水洗浄時間T10経過後、水質計測器3にバイオセンサ水道水洗浄を終了する信号を発信した後、再び、採水装置1、前処理装置2、水質計測器3に定期校正信号を発信し、再度校正を行う。スパン校正値がAL2以上の場合、測定を開始し、水質監視に戻る。
【0052】
なお、運転制御装置4には、上記異常時のバイオセンサ水道水洗浄の繰り返し回数の上限値AL3が設定されている。スパン校正値がAL2未満であっても、上記洗浄の繰り返し回数がAL3に到達した場合は、測定を開始し、水質監視に戻る。
【0053】
また、スパン校正値がAL2以上で、測定を開始する際、運転制御装置4から水質計測器3に測定中断信号を発信するとともに、測定待ち時間T12のタイマー42が起動する。そして、T12の経過後に、運転制御装置4から水質計測器3に測定開始信号を発信する。校正中は膜ろ過装置水道水洗浄が行われ、ろ過水槽56内が水道水で満たされているので、これが試料水に置き換わるまでの間、すなわちT12の間、バイオセンサ13での測定を中断する。
【0054】
水質監視が行われている間、有害物質が試料水中に混入して、バイオセンサ13で硝化細菌の呼吸活性が監視閾値以下に低下した場合、バイオセンサ13から運転制御装置4へ警報信号を発信する。このようにして、水質監視システムの自動保守および自動洗浄を行いながら、水質監視システムの運転を行う。
【0055】
なお、上記の実施の形態では、バイオセンサ13に繁殖した雑菌を除去するために水道水を用いたが、バイオセンサ13の表面に水道水では除去が困難な析出物や生物性の汚れが付着した場合、水道水に代えて、圧縮空気や加圧水などを用いることができる。
【0056】
圧縮空気を用いる場合は、図9に示すように、送風送液機構29内の試料流路に空気を供給する配管に、切替バルブ93を設けて、通常運転時の系統と洗浄時の系統との2系統にし、洗浄時の系統に、空気タンク91とその出口にタンクバルブ94を配置する。このような構成によれば、通常運転時には、タンクバルブ94を閉じておき、洗浄時には、エアポンプにより空気タンク91の内圧を上昇させた後、タンクバルブ94を開くことで、圧縮空気をバイオセンサ13の試料流路25に流し、析出物や生物性の汚れ等の付着物を除去することができる。
【0057】
加圧水を用いる場合は、図10に示すように、上記の空気タンク91に代えて、水タンク92を設置する。水タンクには水道水が供給される。このような構成によれば、通常運転時には、タンクバルブ94を閉じておき、洗浄時には、エアポンプにより水タンク92の内圧を上昇させた後、タンクバルブ94を開くことで、加圧水をバイオセンサ13の試料流路25に流し、析出物や生物性の汚れ等の付着物を除去することができる。
【0058】
また、上記の実施の形態では、前処理装置を用いたが、水質監視対象の水が上水道などの前処理を必要としないものである場合は、前処理装置を設置しなくてもよい。このような構成の水質監視システムであっても、長期間連続運転している間に、バイオセンサの微生物膜の表面に付着した析出物や生物性の汚れを、スパン校正の際に、水道水、加圧水または圧縮空気で除去することができるので、センサ出力の低下を防止できるとともに、微生物の寿命低下を防止でき、よって、微生物膜の交換頻度を少なくし、費用を低減することができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
特に言及しない限り図1に示した構成と同様の水質監視システムを、下水処理場の沈砂池に設置して、以下の条件で自動保守および自動洗浄しながら連続運転して、水質監視試験を行った。
【0060】
採水装置1として水中ポンプを使用し、流量約50L/分に調整してスクリーン12に試料水を導水した。スクリーン12のろ過面スリット幅を0.5mm、スクリーン表面水道水洗浄時の流量を約20L/分とした。膜ろ過装置11では中空糸膜を数百本程度束ねた内圧型の膜モジュール51をクロスフロー方式で使用し、原水槽52内への通水流量を約5L/分とした。散気管53によるエアスクラビングは常時行った。逆洗時には空気圧を付与した。膜ろ過装置水道水洗浄時の流量を約4L/分とした。水質計測器3としてはバイオセンサ13のみを使用した。なお、バイオセンサ13の水道水洗浄時の流量は約3L/分とした。
【0061】
運転制御装置4の各タイマーの設定値は、T1:3時間、T2:2分、T3:28分、T4:3分、T5:6時間、T6:45分、T7:1日、T8:15分、T9:1日、T10:1分、T11:7日、T12:10分とした。また、運転制御装置4の各制御値は、AL1:−50kPa、AL2:1.5mV、AL3:5回とした。
【0062】
中空糸膜の内部あるいは表面の目詰まりが進行すると、ろ過運転時の負圧が大きくなることから、ろ過運転時における圧力計57の測定値(以下、「吸引圧」という)を中空糸膜のろ過性能の指標とすることができる。逆洗を行っても吸引圧がAL1以上となった場合に、膜ろ過装置11は運転継続不能と判定することとした。
【0063】
また、バイオセンサ13内に雑菌や硬度成分が付着したりすると、微生物膜21への酸素拡散が阻害され、スパン校正値が小さくなることから、スパン校正値をバイオセンサ13内の汚れ度合の指標とすることができる。スパン校正値が異常値の場合のバイオセンサ水道水洗浄の繰り返し回数がAL3に到達した場合に、バイオセンサ13は運転継続不能と判定することとした。
【0064】
図11および図12に、実施例1の水質監視試験の結果を示す。図11は、膜ろ過装置11のろ過性能の指標である吸引圧の推移を示すグラフである。図12は、バイオセンサ13内の汚れ度合の指標であるスパン校正値の推移を示すグラフである。
【0065】
図11に示すように、吸引圧は、運転開始時の約4kPaから漸増したが、30日間経過後も−10kPa以下であり、ろ過性能として全く問題のないレベルを維持した。また、中空糸膜の外観を観察すると、中空糸膜表面の汚泥堆積量、水槽フランジ54内および中空糸膜の取付部端面の雑菌付着量ともに軽微であり、中空糸膜の再使用が可能であることが分かった。
【0066】
なお、中空糸膜表面の洗浄法である、エアスクラビング、逆洗、水道水洗浄について、上記の条件で洗浄効果の比較試験を行ったところ、最も効果が高いのは、水道水洗浄であることが分かった。このことから、逆洗間隔時間T3は上記設定値よりも長くすることができ、逆洗による中空糸膜内部への雑菌逆流リスクを軽減できる。すなわち、逆洗時には水槽フランジ54内に付着した雑菌を逆洗圧によって膜内に押し込むリスクがあるため、膜表面洗浄を目的とする逆洗の頻度は低下させ、原水槽52内への水道水導水によって膜表面洗浄を補完することが好ましい。
【0067】
図12に示すように、スパン校正値は常時2mV以上であり、バイオセンサ水道水洗浄を行うことなく、安定した測定を継続することができた。また、ろ過水配管55およびろ過水槽56の外観を観察すると、ともに雑菌付着は軽微であった。また、膜ろ過装置水道水洗浄の時にバイオセンサ13の測定を中断したことから、水道水と、試料水である下水との水質差に起因する誤警報を発することはなかった。
【0068】
このように、実施例1では、水質監視システムを、簡易な保守作業で、且つ少ない保守頻度および保守費用で、30日間以上、長期間安定して継続的に運転することができた。
【0069】
(実施例2)
実施例1の運転条件のうち、バイオセンサ校正時に膜ろ過装置水道水洗浄を行わないように設定を変更した点を除き、実施例1と同様の運転条件で水質監視試験を行った。その結果を図13および図14に示す。図13は、吸引圧の推移を示すグラフであり、図14は、スパン校正値の推移を示すグラフである。
【0070】
図13に示すように、吸引圧は、運転開始時の約5kPaから漸増し、30日間経過後に約−40kPaとまでなり、実施例1と比較して大幅に吸引圧が上昇した。膜ろ過装置11の保守を行わずに、そのまま運転を継続したところ、40日後には逆洗を行っても吸引圧は回復せず、運転継続不能となった。この時点で、中空糸膜の外観を観察すると、中空糸膜表面の汚泥堆積量は実施例1と同様に軽微であったが、水槽フランジ54内および中空糸膜取付部端面の雑菌付着量が顕著であり、雑菌による中空糸膜内部の目詰まりのため、簡便な保守のみでは再使用できないことが分かった。
【0071】
なお、この中空糸膜を再使用する場合、中空糸膜内部の薬液洗浄が必要と考えられるが、薬液洗浄後の膜内部の薬液除去が不十分な場合、再稼動後にバイオセンサ13内へ中空糸膜内部に残留した薬液が流入し、微生物膜21にダメージを与え、誤警報を発する恐れがある。そのため、中空糸膜再使用のための保守労力が飛躍的に増大するものと考えられる。
【0072】
図14に示すように、スパン校正値は、運転開始時の約3mVから漸減し、約2週間経過後から、バイオセンサ水道水洗浄が定期校正時に必ず1〜3回起動する状態となった。図15に、バイオセンサ水道水洗浄の起動時のバイオセンサ13の校正波形の一例を示す。バイオセンサ水道水洗浄を行うことにより、バイオセンサ13内に付着した雑菌や析出物が剥離・排出され、スパン校正値がAL2以上となったことから、40日後も測定を継続することができた。この結果から、スパン校正異常時にバイオセンサを洗浄する効果が高いことが分かった。
【0073】
また、この時点でのろ過水配管55およびろ過水槽56の外観を観察すると、ともに雑菌付着が顕著であった。このことから、実施例1では、膜ろ過装置水道水洗浄のろ過水配管55およびろ過水槽56の洗浄効果が特に高く、膜ろ過装置11からバイオセンサ23へ雑菌がほとんど流入しなかったことから、上記のような結果が得られたことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る水質監視システムの一実施の形態の概略的な構成を示す模式図である。
【図2】図1中に示すバイオセンサの内部構造を示す模式図である。
【図3】図2中に示す微生物膜と溶存酸素電極の構成を示す模式図である。
【図4】図1中に示すバイオセンサの周辺構成の一例を示す模式図である。
【図5】バイオセンサが有害物質を検出する機構を説明する模式図である。
【図6】バイオセンサにおける酸素消費率を示すグラフである。
【図7】図1中の運転制御装置の構成を示す模式図である。
【図8】バイオセンサの洗浄アルゴリズムを示すフロー図である。
【図9】図1中に示すバイオセンサの周辺構成の別の例を示す模式図である。
【図10】図1中に示すバイオセンサの周辺構成の別の例を示す模式図である。
【図11】実施例1における吸引圧の推移を示すグラフである。
【図12】実施例1におけるスパン校正値の推移を示すグラフである。
【図13】実施例2における吸引圧の推移を示すグラフである。
【図14】実施例2におけるスパン校正値の推移を示すグラフである。
【図15】バイオセンサを水道水で洗浄した際の校正波形を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
1 採水装置
2 前処理装置
3 水質計測器
4 運転制御装置
11 膜ろ過装置
12 スクリーン
13 バイオセンサ
14 pH計
15 着色度計
21 微生物膜
22 溶存酸素電極
24 フローセル
25 試料流路
26 恒温槽
27 熱交換器
28 バイパス流路
29 送風送液機構
31〜42 タイマー
46 アナログデジタル信号変換器
47 中央演算処理装置
48 デジタルアナログ信号変換器
51 膜モジュール
52 原水槽
53 散気管
54 水槽フランジ
55 ろ過水配管
56 ろ過水槽
57 圧力計
58 給水ポンプ
59 ろ過用ポンプ
60 逆洗用エアポンプ
61 エアスクラビング用エアポンプ
62、63 水道水配管
71 スクリーン排水槽
72 スクリーンろ過水槽
81 酸素透過膜
82 カソード電極
83 アノード電極
84 カソード絶縁体
85 内部液
87 硝化細菌
88 基質
89 酸素
91 空気タンク
92 水タンク
93 切替バルブ
94 タンクバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる水源から試料水を連続的に採取する採水装置と、この採水装置で採取した試料水中の濁質を連続的に除去する前処理装置と、この前処理装置で前処理された試料水中の有害物質を連続的に検出する水質計測器と、この水質計測器の定期的な校正の間、前記採水装置の運転を停止するとともに、前記水質計測器への試料水の通水を停止し、前記前処理装置または前記水質計測器を洗浄するように制御する運転制御装置とを備えた水質監視システム。
【請求項2】
前記前処理装置が、試料水中の汚濁を膜でろ過する膜分離手段と、この膜分離手段と前記水質計測器との間の試料水が流れる部分に水を流して洗浄を行う第1の洗浄手段とを備えたものであり、前記運転制御装置が、前記水質計測器の定期的な校正の間、前記第1の洗浄手段を運転するように制御する請求項1に記載の水質監視システム。
【請求項3】
前記水質計測器が、バイオセンサと、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う第2の洗浄手段とを備えたものであり、前記運転制御装置が、前記バイオセンサの定期的な校正で異常と判断した場合に、前記第2の洗浄手段を運転するように制御する請求項1または2に記載の水質監視システム。
【請求項4】
監視対象となる水源から試料水を連続的に採取する採水装置と、この採水装置で採取した試料水中の有害物質を連続的に検出するバイオセンサであって、微生物を固定した膜と溶存酸素を測定する溶存酸素電極とを備えたバイオセンサと、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う洗浄手段と、このバイオセンサを定期的に校正する際、センサ出力の低下により異常と判断した場合に、前記洗浄手段を運転するように制御する運転制御装置とを備えた水質監視システム。
【請求項5】
監視対象となる水源から採水装置にて試料水を連続的に採取し、この採取した試料水中の濁質を前処理装置で連続的に除去し、この前処理された試料水中の有害物質を水質計測器で連続的に検出する水質監視工程と、前記水質計測器の定期的な校正の間、前記採水装置の採水運転を停止し、前記水質計測器への試料水の通水を停止し、前記前処理装置を洗浄する校正工程とを含む水質監視方法。
【請求項6】
前記前処理装置が、試料水中の汚濁を膜でろ過する膜分離手段を備えたものであって、前記校正工程が、前記膜分離手段と前記水質計測器との間の試料水が流れる部分に水を流して洗浄を行う第1の洗浄を行うことを含む請求項5に記載の水質監視方法。
【請求項7】
前記水質計測器がバイオセンサを備えたものであって、前記校正工程が、前記バイオセンサの校正において異常と判断した場合、前記バイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄を行う第2の洗浄を行うことを含む請求項5または6に記載の水質監視方法。
【請求項8】
監視対象となる水源から採水装置にて試料水を連続的に採取し、この採取した試料水中の有害物質を、微生物を固定した膜と溶存酸素を測定する溶存酸素電極とを備えたバイオセンサで連続的に検出する水質監視工程と、前記バイオセンサを定期的に校正する際、センサ出力の低下により異常と判断した場合に、このバイオセンサ内の試料水が流れる部分に水または空気を流して洗浄する校正工程とを含む水質監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−32691(P2008−32691A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147231(P2007−147231)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】