説明

水酸化コバルト(II)のコバルト(III)オキシデヒドロキシドへの転化方法

【課題】特に合成ガスからC+炭化水素を接触的に製造する方法で、収率及び選択率の向上した触媒を得ること。
【解決手段】本発明は、特定の金属化合物の存在下で水酸化コバルト(II)と酸素との反応により、水酸化コバルト(II)をコバルト(III)オキシデヒドロキシド(CoOOH)に転化する方法に関し、更には、こうして製造したCoOOHを、触媒又は触媒前駆体、特に合成ガスの通常液体及び通常固体の炭化水素への転化用触媒又は触媒前駆体の製造に使用する方法、並びに任意に水素化処理後、このような転化法で得られた通常液体又は通常固体の炭化水素に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化コバルト(II)と酸素との反応により、水酸化コバルト(II)をコバルト(III)オキシデヒドロキシド(CoOOH)に転化する方法に関する。更に本発明は、こうして製造したコバルト(III)オキシデヒドロキシドを、触媒又は触媒前駆体、特に合成ガスの通常液体及び通常固体の炭化水素への転化用触媒又は触媒前駆体の製造に使用する方法、並びに任意に更に水素化処理した後、このような転化法で得られる通常液体又は通常固体の炭化水素に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ガス、即ち、一酸化炭素と水素との混合物から炭化水素を接触的に製造することは、当該技術分野で周知であり、普通、フィッシャー・トロプシュ合成と言われている。この方法に使用される触媒は、1種以上の金属を、1種以上の促進剤及び支持体又は担体材料と一緒に含有することが多い。この種の触媒は、1種以上の周知の方法、例えば沈殿、含浸、混練、溶融、押出及び噴霧乾燥の1種以上の方法で製造できる。通常、これらの方法の後、乾燥、焼成及び/又は活性化が行なわれる。
【0003】
このような触媒を用いて製造できる生成物は、非常に広範囲の分子量分布を有し、飽和及び不飽和のパラフィンの他、かなりの特定量のオレフィン及び酸素含有有機化合物を含有することが多く、また場合により芳香族化合物も生成する可能性もある。殆どのフィッシャー・トロプシュ反応では、長鎖の炭化水素が生成する。通常、特に比較的低温を使用した場合、得られる生成物は、小部分しか中間蒸留物を構成しない。これら中間蒸留物は、収率のみならず、流動点も不十分である。生成物又は生成物の一部の水素化処理(水素化、水素化異性化及び/又は水素化分解)により、常温流れ特性の改良された所望の中間蒸留物が大量に得られる。
【0004】
フィッシャー・トロプシュ合成法に好適に使用される触媒は、通常、元素の周期表第8、9又は10族の触媒活性金属を含有する。このような触媒用の触媒活性金属としては、特に鉄、ニッケル、コバルト及びルテニウムが周知である。EP−A−398420、EP−A−178008、EP−A−167215、EP−A−168894、EP−A−363537、EP−A−498976及びEP−A−71770を参照できる。最近の特許文献では、(極めて)重質のパラフィン性生成物を製造し、次いでこうして得られたフィッシャー・トロプシュ蝋を水素化分解して中間蒸留物(一般にナフサ、ケロシン及び/又はガス油)を製造するためのコバルト系フィッシャー・トロプシュ触媒が強調されている。
【特許文献1】EP−A−398420
【特許文献2】EP−A−178008
【特許文献3】EP−A−167215
【特許文献4】EP−A−168894
【特許文献5】EP−A−363537
【特許文献6】EP−A−498976
【特許文献7】EP−A−71770
【非特許文献1】Handbook of Chemistry and Physics,第77版,第8章,Electrochmical Series,8〜20,第1表
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一酸化炭素を有価の炭化水素、特に炭素原子数5以上の炭化水素(以下、“C+炭化水素”という)に転化する際、低価値の炭素含有副生物である二酸化炭素の生成を最小化する更に選択性の向上した触媒を発見することに絶えず関心が払われている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水酸化コバルト(II)は、特定の遷移金属の存在下でコバルト(III)オキシデヒドロキシド(CoOOH)に転化できることが、今回、意外にも見出された。このコバルト(III)オキシデヒドロキシドは、任意に未転化の水酸化コバルト(II)と組合わせて、及び任意に1種以上の促進剤の存在下で、C+選択性を向上した担持フィッシャー・トロプシュ触媒の製造に使用できる。
【0007】
したがって、本発明は、コバルト化合物以外の触媒量の遷移金属化合物(但し、大部分の遷移金属は、2価及び3価の原子価を少なくとも有する)の存在下で水酸化コバルト(II)と酸素との反応により、水酸化コバルト(II)をコバルト(III)オキシデヒドロキシド(CoOOH)に転化する方法に関する。特にこの酸化法での遷移金属化合物の原子価は、2又は3、好ましくは2である。
【発明の効果】
【0008】
こうして製造したコバルト(III)オキシデヒドロキシドをフィッシャー・トロプシュ触媒の製造に使用すると、得られる触媒のC+選択性及び/又は活性は明らかに向上する。更に、安定性も向上した。こうして、中間蒸留物の2段階製造法(フィッシャー・トロプシュ合成後、水素化分解)において、良好な標準品質を有する有用な生成物を増大し、及び/又は生成物の常温流れ特性を向上できることが明らかとなった。更に、この方法は長期間行なうことができる。またC+選択性の向上により、低価値のC〜C生成物及び/又は二酸化炭素の量も少なくなる。
【0009】
本発明方法で使用される遷移金属は、周期表(新しい順番)の、ランタニド及びアクチニドを含む第3〜12族の金属である。一般に原子価が2及び3で、本発明に極めて好適な遷移金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Sm、Eu及びYbである。一般に原子価が2及び3で、本発明に極めて好適なその他の遷移金属は、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、Sm、Tm、Yb、W、Re、Os、Ir、Pt及びAuである。混合物も可能である。コバルトは含まれない。遷移金属としては、良好な結果が得られると共に、FT法において促進剤として極めて好適であることから、好ましくはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ルテニウム、レニウム又は白金、更に好ましくはマンガンがある。殆どの場合、遷移金属は、最終的にコバルト(III)オキシデヒドロキシドになることが観察される。特に遷移金属をFT反応の促進剤としても使用できる場合は、更に有利である。
【0010】
特にコバルトよりも貴金属性の低い遷移金属から誘導された遷移金属化合物が使用される。遷移金属化合物は、コバルトの標準還元電位E°(M3++e⇔M2+)よりも低い標準還元電位を有する遷移金属から誘導することが好ましい。(Handbook of Chemistry and Physics,第77版,第8章,Electrochmical Series,8〜20,第1表)。標準還元電位E°は、好ましくは+1.8未満である。
【0011】
本発明方法では遷移金属(又は遷移金属の混合物)は、得られる結果及び以下の量がフィッシャー・トロプシュ法にも最適であることから、通常1000:1〜1:1、好適には500:1〜2:1、好ましくは100:1〜3:1、更に好ましくは50:1〜5:1のCo/遷移金属のモル比(又は全モル比)で存在する。
【0012】
本発明方法は、250℃以下、特に200℃以下、好適には0〜130℃、好ましくは40〜120℃、更に好ましくは60〜110℃の温度で行なってよい。これより低温では反応が遅くなり、これより高温ではCoが生成する可能性がある。この方法は、好適には0.1〜50バール、好ましくは0.5〜5バールの圧力で行なわれる。この方法は、特に天然及び/又は人工の光、 特にUV光と組合わせて行なわれる。これは、日光及び/又は光化学反応に普通、使用される特殊ランプの存在下で行なえる。天然及び/又は人工の光を使用すると、反応速度が上がる。
【0013】
本発明方法の反応時間は、好適には0.1時間〜100日、好ましくは0.5時間〜30日、更に好ましくは2〜24時間である。
【0014】
異質体(heterogenite)に転化される水酸化コバルト(II)の量は、好適には0.1〜100重量%、更に好適には10〜99重量%、好ましくは50〜95重量%である。反応中、生成する可能性があるCoの量は、好ましくは50重量%未満、更に好ましくは10重量%未満、なお更に好ましくは1重量%未満である。Coは、異質体と水酸化コバルト(II)との反応により生成する可能性がある。Coは、特に高温で生成し、したがって、高温で還元すると、Coは減少する。
【0015】
本発明方法では、遷移金属化合物としてマンガン化合物又は鉄化合物、好ましくは水酸化マンガン(II)又は水酸化鉄(II)、更に好ましくは水酸化マンガン(II)を使用することが好ましい。特定の実施態様では、水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との混合物が使用され、特に水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との共沈殿物が使用される。
【0016】
本発明方法において、酸素の供給源としては空気が好適に使用されるが、酸素富化空気(例えば酸素を40〜50容量%含む)又は純酸素も使用できる。酸欠空気又は空気と不活性化合物、例えば窒素との混合物も使用できる。(富化)空気の相対湿度は、好適には10〜90%である。
【0017】
反応は、水又は水とアルコール、好適にはメタノール及び/又はエタノールとの混合物の存在下、好ましくは2〜10のpH、特に3〜9のpHで好適に行なわれる。有機酸、又は有機酸の水溶液も使用できる。無機塩、例えば酢酸アンモニウムが存在してもよいが、焼成中、除去されない塩は好ましくない。この実施態様では、水酸化コバルト、遷移金属及び溶剤からスラリーが形成され、また空気/酸素はスラリーを泡立てる。他の実施態様では、反応は固体状態、即ち、液体/溶剤の不存在下で行なわれる。この反応は、空気又は酸素を水酸化コバルトと遷移金属化合物との混合物からなる触媒床に流して行なえるか、或いは流動床中で行なえる。この実施態様では、固体混合物に有機酸、好ましくはクエン酸,蓚酸又はアスコルビン酸を添加することが好ましい。有機酸の量は、全組成物に対し5重量%以下、好ましくは0.1〜1重量%であってよい。両実施態様とも遷移金属化合物は、水酸化コバルト(II)中に均一に分布できるか、或いは水酸化コバルト(II)上に塗膜として存在できる。
【0018】
また本発明は、以上の方法で得られるコバルト(III)オキシデヒドロキシド、又はコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)との混合物、並びに以上の方法で得られたコバルト(III)オキシデヒドロキシド、又はコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)との混合物に関する。
【0019】
本発明方法で得られるコバルト(III)オキシデヒドロキシドは、比較的小さい結晶粒度を示す。粒子の殆どは、2〜15nmの粒度を有する。したがって、小結晶粒度により、比較的大きなコバルト表面積となり、触媒用途に有利である。更に特に本発明は、平均粒度が3〜10nm、好ましくは4〜8nmのコバルト(III)オキシデヒドロキシド、又は該平均粒度を有するコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)との混合物に関する。粒度の測定では、微細な平均粒度(即ち、粒子の粒度が1nm未満)の測定は除外される。好適な平均粒度の測定法は、SEM又はTEMである。
【0020】
本発明の他の一面は、
(a)触媒担体又は触媒担体前駆体、(2)液体、及び(3)コバルト(III)オキシデヒドロキシド又は任意にこれと水酸化コバルト(II)及び/又はCo(スピネル)との組合わせ、を混合して混合物を形成する工程、
(b)該混合物を任意に造形する工程、
(c)得られた混合物を乾燥する工程、及び
(d)こうして得られた組成物を任意に焼成する工程、
を含む担持コバルト系フィッシャー・トロプシュ触媒又は触媒前駆体の製造方法に関する。
【0021】
混合方法は、当該技術分野で周知のいかなる方法であってもよい。乾燥方法に応じて(例えばスラリーの噴霧乾燥に対し、組成物のようなペーストの乾燥)、異なる液体/固体比を使用してよい。液体は水が好ましいが、C〜Cのアルコール、特にメタノール又はエタノールも使用できる。またエーテル、例えばMTBE、及びケトン、例えばアセトン又はMEKも使用できる。混合物も可能である。この方法は、更に当該技術分野で周知の1種以上の方法、例えば混練、溶融、押出及び/又は噴霧乾燥を含んでよい。混合物の固体含有量は全組成物に対し、好適には2〜90重量%、好ましくは5〜80重量%である。噴霧乾燥法を用いた場合は、固体含有量は好ましくは5〜20重量%である。押出法を含む場合は、固体含有量は好ましくは50〜80重量%である。
【0022】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造方法では、コバルト化合物(コバルト(III)オキシデヒドロキシド、水酸化コバルト(II)及びCo)中のコバルト(III)オキシデヒドロキシドの量は、コバルト化合物の全重量に対し好適には5〜100重量%、好ましくは25〜100重量%、更に好ましくは50〜95重量%である。通常、コバルト化合物は、担体又は乾燥担体前駆体上の金属コバルトの重量を基準として、2〜60重量%、好ましくは10〜40重量%の量で存在する。
【0023】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造法に好適な担体又は触媒担体前駆体は、耐火性酸化物、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア又はそれらの混合物、或いはそれらの前駆体である。
【0024】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造法に好適な促進剤金属は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ルテニウム、レニウム及び白金から選択でき、各促進剤金属は、好ましくはコバルト:促進剤金属の原子比が1000:1〜3:1、好ましくは200:1〜4:1、更に好ましくは100:1〜6:1になるような量で使用される。好ましくは促進剤金属はマンガン、レニウム又は白金である。
【0025】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造法には、非常に好適には、コバルト(III)オキシデヒドロキシド、又はコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)と任意にCoとの混合物、好ましくは、前記いずれかの方法で製造した、コバルト(III)オキシデヒドロキシド又は混合物が使用される。
【0026】
本発明の他の一実施態様では、水酸化コバルト(II)のコバルト(III)オキシデヒドロキシドへの転化方法は、まず水酸化コバルト(II)と前記定義した遷移金属と触媒担体又は触媒担体前駆体との混合物を製造する工程、次いで水酸化コバルト(II)をコバルト(III)オキシデヒドロキシドに転化する工程を含む。この実施態様には、一般的方法について説明した好ましい実施態様も適用する。
【0027】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造法では、混合工程は、簡単な混合工程か、或いは混練又は摩砕工程である。他の一実施態様では造形工程は、ペレット化、押出、粒状化又は圧潰、好ましくは押出を含む。
【0028】
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造法では混合物の固体含有量は、全組成物に対し、好適には30〜90重量%、好ましくは50〜80重量%の範囲である。このような混合物は、特にペレット化、押出、粒状化又は圧潰工程に好適である。
【0029】
フィッシャー・トロプシュ触媒の他の製造法では、造形工程は噴霧乾燥工程である。この実施態様では、混合物の固体含有量は、全組成物に対し、1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。
フィッシャー・トロプシュ触媒の製造において、前述のように造形、乾燥した混合物は好ましくは300〜900℃、更に好ましくは450〜600℃の温度で焼成するのが好適である。
【0030】
この製造法で比較的大きな粒子が生成する場合は、通常、押出法を使用した場合と同様、得られた生成物は、平均粒度が5〜500μ、好ましくは10〜100μになるまで粉砕してよい。こうして、特にスラリー式フィッシャー・トロプシュ法に好適な触媒粒子が得られる。
また本発明は、以上のような方法で得られるフィッシャー・トロプシュ触媒又は触媒前駆体に関する。
【0031】
また本発明は、前述のようなフィッシャー・トロプシュ触媒又は前述のような方法で得られるフィッシャー・トロプシュ触媒前駆体を水素又は水素含有ガで還元して得られる、合成ガスからの炭化水素の製造に好適な活性化触媒に関する。更に本発明は、一酸化炭素と水素との混合物を前述のような触媒、特に引続き任意に水素化転化を行なった活性化触媒と接触させて、炭化水素を製造することを特徴とする炭化水素の製造方法に関する。
【0032】
合成ガスの製造用に好ましい炭化水素質原料は天然ガス又は随伴ガスである。これらの原料からは、通常、H/CO比が2に近い合成ガスが得られ、この種の触媒のユーザー比も2に近いので、コバルトは非常に良好なフィッシャー・トロプシュ触媒である。
【0033】
触媒活性金属は、先に詳細に説明したように、多孔質担体上に担持することが好ましい。一般に多孔質担体は、当該技術分野で公知の好適な耐火性金属酸化物又はシリケート或いはそれらの組合わせのいずれからも選択できる。特定の好ましい多孔質担体の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ガリア及びそれらの混合物、特にシリカ、アルミナ及びチタニア、特にTiOが挙げられる。
【0034】
所望ならば、触媒は、促進剤として1種以上の金属又は金属酸化物も含有してよい。好適な金属酸化物促進剤は、元素の周期表第IIA、IIIB、IVB、VB、VIB又はVIIB族、或いはアクチニド及びランタニドから選択できる。
【0035】
特に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、セリウム、トリウム、ウラン、バナジウム、クロム及びマンガン、の酸化物が、極めて好適な促進剤である。重質パラフィンの製造用触媒に使用される特に好ましい金属酸化物促進剤は、マンガン、バナジウム及びジルコニウムの酸化物である。
【0036】
好適な金属促進剤は、周期表第VIIB又はVIII族から選択してもよい。レニウム、銀及び第VIII族貴金属は、特に好適で、白金及びパラジウムが特に好ましい。
【0037】
長鎖n−パラフィンの製造能力の観点から、最も好ましい促進剤は、バナジウム、マンガン、レニウム、ジルコニウム及び白金から選択される。促進剤が存在する場合、促進剤は、含浸、混合/混練及び混合/押出のような、いかなる好適な処理によっても担体材料上に沈着させてよい。フィッシャー・トロプシュ反応用促進剤として使用する場合と同様、水酸化コバルト(II)のコバルト(III)オキシデヒドロキシドへの転化に使用される促進材料を選択することが好ましい。
【0038】
焼成後、得られた触媒は、通常、200〜350℃の温度で水素又は水素含有ガスと接触させて、活性化してもよい。
造形触媒粒子に好適な材料は、所望の形状が得られるような方法で処理する必要がある。
【0039】
処理法の一例は押出法であり、好ましくは、1種以上の触媒活性元素用の1種以上の供給源と、任意に1種以上の促進剤用の1種以上の供給源と、微粉砕耐火性酸化物又は耐火性酸化物前駆体とを含む造形可能なドウを、好適な溶剤と一緒に摩砕する。次いで、摩砕した混合物は、ダイプレートのオリフィスから押出す。得られた押出物は乾燥する。
【0040】
混合物に含まれる溶剤は、当該技術分野で公知のいかなる好適な溶剤でもよい。好適な溶剤の一例は、水;メタノール、エタノール及びプロパノールのようなアルコール;アセトンのようなケトン;プロパナールのようなアルデヒド;及びトルエンのような芳香族溶剤が挙げられる。最も便利で好ましい溶剤は,任意にメタノールと組合わせた芳香族溶剤である。
【0041】
特定のダイプレートを使用すると、所望形状の触媒粒子が形成できる。ダイプレートは当該技術分野で周知で、重合体材料、特に熱可塑性材料から作製できる。
【0042】
接触転化法は、当該技術分野で公知の従来の合成条件下で行なってよい。接触転化は、通常、150〜300℃、好ましくは180〜260℃の温度で行なってよい。接触転化方法の全圧は、通常、1〜200バール(絶対圧)、更に好ましくは10〜70バール(絶対圧)の範囲である。
【0043】
接触転化法では、C5+炭化水素が、特に75重量%より多く、好ましくは85重量%より多く形成される。触媒及び転化条件により、重質蝋(C20+)の量は、60重量%以下、時には70重量%以下、時には更に85重量%以下であってよい。
コバルト触媒は、低いH/CO比(特に1.7又は更にはそれ以下)及び低温(190〜230℃)で使用することが好ましい。
【0044】
コークスの生成を回避するには、H/CO比を少なくとも0.3で使用することが好ましい。得られる飽和線状C20炭化水素フラクション及び得られる飽和線状C40炭化水素フラクションを基準として、SF?α値が少なくとも0.925、好ましくは少なくとも0.935、更に好ましくは少なくとも0.945、なお更に好ましくは少なくとも0.955となるような条件下でフィッシャー・トロプシュ反応を行うのが特に好ましい。好ましくはフィッシャー・トロプシュ炭化水素流は、C30+を35重量%以上,好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含有する。
フィッシャー・トロプシュ法は、スラリーFT法又は固定床FT法、特に多管状固定床FT法であってよい。
【実施例】
【0045】
実施例
水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との共沈殿物(分子比=95:5、ピンク色)を日光の存在下、空気と20日間接触させた。(黒色)サンプルの分析結果から、水酸化コバルト(II)の80重量%がコバルト(III)オキシデヒドロキシドに転化したことが判った。水酸化コバルト(II)だけ(即ち、余分な遷移金属を含まず)を含む第二のサンプルは、何らの変化も示さなかった。
【0046】
2種の触媒を製造した。1つは、前述のような出発水酸化コバルト(II)/水酸化マンガン(II)をベースとし、1つは前述のように製造したコバルト(III)オキシデヒドロキシドを含有するサンプルである。このコバルト化合物、チタニア及び若干の水を混合した後、混合物を押出し、押出物を乾燥し、水素含有ガスで活性化して、触媒を製造した。これら2種の触媒を固定床フィッシャー・トロプシュ実験において同様な条件下でテストした。同一条件(GHSV 1200、200℃)下では、水酸化コバルト(II)ベース触媒は、空間時間収量149g/l/hであったのに対し、コバルト(III)オキシデヒドロキシド触媒の空間時間収量は、153g/l/hであった。第一触媒でのC5+選択率は93.3重量%、第二触媒でのC5+選択率は95.6重量%であった。したがって、コバルト(III)オキシデヒドロキシドベース触媒は、収率が2.6%、選択率が2.3%向上した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト化合物以外の触媒量の遷移金属化合物(但し、大部分の遷移金属は、2価及び3価の原子価を少なくとも有する)の存在下で水酸化コバルト(II)を酸素と反応させることを特徴とする水酸化コバルト(II)のコバルト(III)オキシデヒドロキシド(CoOOH)への転化方法。
【請求項2】
酸化工程での遷移金属化合物が、2価又は3価、好ましくは2価の原子価を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遷移金属が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ルテニウム、レニウム又は白金、好ましくはマンガンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コバルトの標準還元電位E°(M3++e⇔M2+)よりも低い標準還元電位を有する遷移金属、好ましくはバナジウム、クロム、マンガン又は鉄から誘導された遷移金属化合物が使用される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Co/遷移金属の原子比が、1000:1〜3:1、好ましくは200:1〜4:1、更に好ましくは100:1〜6:1であり、圧力が0.1〜50バールであり、好ましくは0.5〜5バールであり、温度が0〜120℃、好ましくは40〜100℃であり、好ましくは天然及び/又は人工の光、特にUV光と組合わされる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応時間が0.5時間〜30日、好ましくは2〜24時間である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
コバルト(III)オキシデヒドロキシドに転化される水酸化コバルト(II)の量が、出発水酸化コバルトに対し5〜100重量%、好ましくは50〜95重量%であり、かつ反応中に形成されるCoの量が好ましくは50重量%未満、更に好ましくは10重量%未満である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遷移金属化合物としてマンガン化合物又は鉄化合物が使用され、好ましくは水酸化マンガン(II)又は水酸化鉄(II)、更に好ましくは水酸化マンガン(II)が使用され、好ましくは水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との物理的混合物又は水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との共沈殿物、好ましくは水酸化コバルト(II)と水酸化マンガン(II)との共沈殿物が使用される請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
酸素の供給源として空気、好ましくは相対湿度10〜90%の空気が使用される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
反応が水性スラリー中、好ましくは3〜9のpHで行なわれるか、或いは固体状態で行なわれ請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法で得られるコバルト(III)オキシデヒドロキシド、又はコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)との混合物、好ましくは平均粒度が3〜10nm、更に好ましくは4〜8nmのコバルト(III)オキシデヒドロキシド、又は該平均粒度を有するコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)との混合物。
【請求項12】
(a)触媒担体又は触媒担体前駆体、(2)液体、及び(3)コバルト(III)オキシデヒドロキシド又は任意にこれと水酸化コバルト(II)及び/又はCoとの組合わせ、を混合して混合物を形成する工程、
(b)こうして得られた混合物を造形し、乾燥する工程、及び
(c)こうして得られた組成物を任意に焼成する工程、
を含む担持コバルト系フィッシャー・トロプシュ触媒又は触媒前駆体の製造方法であって、好ましくはコバルト化合物(コバルト(III)オキシデヒドロキシド、水酸化コバルト(II)及びCo)中のコバルト(III)オキシデヒドロキシドの量は、コバルト化合物の全重量に対し5〜100重量%、好ましくは25〜100重量%、更に好ましくは50〜95重量%であり、好適にはコバルト化合物は、担体又は乾燥担体前駆体上の金属コバルトの重量を基準として、2〜60重量%、好ましくは10〜40重量%の量で存在すると共に、該担体又は触媒担体前駆体は耐火性酸化物、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア又はそれらの混合物、或いはそれらの前駆体である該製造方法に、コバルト(III)オキシデヒドロキシドを使用する方法。
【請求項13】
触媒前駆体が促進剤金属又は金属化合物を含み、該金属が好ましくはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ルテニウム、レニウム及び白金から選ばれ、各促進剤金属は、好ましくはコバルト:促進剤金属の原子比が1000:1〜3:1、好ましくは200:1〜4:1、更に好ましくは100:1〜6:1になるような量で使用され、特に促進剤金属はマンガン、レニウム又は白金である請求項12に記載の製造方法に、コバルト(III)オキシデヒドロキシドを使用する方法。
【請求項14】
コバルト(III)オキシデヒドロキシド、又はコバルト(III)オキシデヒドロキシドと水酸化コバルト(II)と任意にCoとの混合物、好ましくは請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法で製造した、コバルト(III)オキシデヒドロキシド又は混合物を用いる請求項12又は13に記載の製造方法に、コバルト(III)オキシデヒドロキシドを使用する方法。
【請求項15】
混合工程が簡単な混合工程か、或いは混練又は摩砕工程である請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法に、コバルト(III)オキシデヒドロキシドを使用する方法。
【請求項16】
一酸化炭素と水素との混合物を、請求項12〜15のいずれか1項に記載の製造方法で製造し、次いで任意に水素化転化を行なった触媒と接触させることを特徴とする炭化水素の製造方法。


【公表番号】特表2008−521742(P2008−521742A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541997(P2007−541997)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056263
【国際公開番号】WO2006/056610
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】