説明

水酸化マグネシウム系難燃剤、及びそれを用いた樹脂組成物と電線・ケーブル

【課題】 耐炭酸ガス白化性、ブリードアウトが起こり難い水酸化マグネシウム系難燃剤と、これを用いた難燃性樹脂組成物や電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】 多価カルボン酸と高級アルコールとの部分エステル及び該エステルの金属塩もしくはアンモニウム塩、からなる群の少なくとも1員の表面処理剤で処理された水酸化マグネシウム系難燃剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の表面処理剤により表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤とそれを樹脂またはゴムに配合した樹脂組成物、及び電線・ケーブルに関する。詳しくは、多価カルボン酸と高級アルコールよりなるエステル、またはそのエステルの金属塩やアンモニウム塩で表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤と、それを樹脂またはゴムに配合した難燃性組成物や、この難燃性組成物で被覆した電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで合成樹脂やゴムの難燃化に対してハロゲン系の難燃剤やリン系の難燃剤が種々検討されてきた。しかし、ハロゲン系の難燃剤やリン系の難燃剤は作業性の問題やダイオキシンなどの環境問題がある。そこで作業性や環境問題のない水酸化マグネシウム等の金属水酸化物難燃剤が求められている。
【0003】
しかしながら水酸化マグネシウムは比較的多量に配合しなければ難燃性が得られず、しかもオレフィン系樹脂等やゴムとの相溶性が悪い。また樹脂中の水酸化マグネシウムが空気中の水及び炭酸ガスと反応して炭酸マグネシウムに変質し易いため、耐炭酸ガス白化性に問題がある。さらに難燃性組成物中での水酸化マグネシウムの分散性に問題があり、電線・ケーブルの被覆層として使用すると、電気特性の低下を招くという問題がある。
【0004】
エステル類により表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤について、以下の特許文献がある。
特許文献1,2は、樹脂成型物に耐熱老化性及び加工性を付与するために、天然産の水酸化マグネシウムを、ポリグリセリン分子の水酸基の少なくとも1個が脂肪酸でエステル化されているポリグリセリン誘導体、あるいは二塩基酸エリスリトール類エステルで表面処理することを記載している。
【0005】
特許文献3,4は、耐熱劣化性、耐水絶縁性および耐候性に優れた難燃性の被覆電線およびケーブルおよび合成樹脂成形品を得るため、特定の平均2次粒子径及びBET比表面積で、Fe化合物とMn化合物の合計含有量が金属換算で0.02重量%以下の水酸化マグネシウムを、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類や、リン酸エステル類で表面処理することを記載している。
【0006】
特許文献5,6は、樹脂配合時の機械特性及び成形性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤として、天然ブルーサイト鉱石由来の水酸化マグネシウムを脂肪酸エステルや脂肪酸高級アルコールエステルで表面処理することを記載している。
特許文献7は、被覆電線に用いる樹脂組成物について、機械特性や低温特性を改良するため、高級脂肪酸エステルで表面処理した水酸化マグネシウムが好ましい、旨を記載している。
特許文献8は、樹脂組成物の加工性、物性、外観等のために、脂肪酸エステルやアセト酢酸エステルで表面処理した天然産水酸化マグネシウムが有効である旨が記載されている。
特許文献9,10は、電線・ケーブル等の樹脂組成物やゴム組成物に関して、可撓性や耐候性、機械的特性、更に耐油性を改善するため、脂肪酸エステルで表面処理された天然の水酸化マグネシウムが有効である旨を記載している。
【0007】
特許文献11には、押出加工性や引張強度が優れた樹脂組成物を得るには、高級アルコールの脂肪酸エステルおよびその誘導体で表面処理された平均粒子径が5μm以下の天然ブルーサイト鉱石が良い旨が記載されている。
特許文献12には、加工が容易な難燃性樹脂組成物を得るには、脂肪酸エステルで表面処理した水酸化マグネシウムが良い旨が記載されている。
特許文献13には、優れた機械特性、耐水性、耐炭酸ガス白化性を有する難燃性組成物を得るには、グリセリン−ステアリン酸エステルやエステル化率が40〜90%である多価アルコールの高級脂肪酸エステルで表面処理した水酸化マグネシウムが有効である旨が記載されている。
【特許文献1】特開2000−239439号
【特許文献2】特開2000−239529号
【特許文献3】特開2001−210151号
【特許文献4】特開2001−312925号
【特許文献5】特開2002−173682号
【特許文献6】特開2003−3171号
【特許文献7】特開2003−183456号
【特許文献8】特開2003―246943号
【特許文献9】特開2004−189905号
【特許文献10】特開2004−262963号
【特許文献11】特開2004−359839号
【特許文献12】特開2005−29604号
【特許文献13】特開2005−54038号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、種々のエステル類で表面処理された水酸化マグネシウムを樹脂やゴムに配合することによって、加工性、機械特性、耐炭酸ガス白化性、等を改良することが検討されている。しかし全てにバランス良く対応できる水酸化マグネシウム系難燃剤は得られていない。また発明者らは、水酸化マグネシウムに多量の表面処理剤を添加すると、樹脂組成物の表面に処理剤が油状の物質として溶出し、表面の光沢を低下させることを見出した。以下この現象をブリードアウトと呼ぶ。
本発明は、耐炭酸ガス白化性に優れ、ブリードアウトが起こり難い水酸化マグネシウム系難燃剤と、これを用いた難燃性組成物や電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、多価カルボン酸と高級アルコールとの部分エステル及び該エステルの金属塩もしくはアンモニウム塩からなる群の少なくとも1員の表面処理剤で、表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤にある。
好ましくは、前記表面処理剤の含有量を0.5〜5.0質量%とする。なお表面処理剤中に、多価カルボン酸が100%高級アルコールでエステル化された100%エステルが含有されている場合、100%エステルは不純物と見なし、表面処理剤の含有量には含めない。
特に好ましくは、前記表面処理剤を、ステアリルシトレート及びステアリルシトレートの金属塩またはアンモニウム塩とする。
【0010】
またこの発明は、樹脂又はゴムに上記の水酸化マグネシウム系難燃剤を配合した難燃性の組成物にある。
好ましくは、樹脂又はゴム100質量部に対して、前記水酸化マグネシウム系難燃剤を50〜250質量部を配合する。
さらにこの発明は、上記の難燃性組成物で被覆された電線・ケーブルにある。
【0011】
多価カルボン酸としては、コハク酸(2価)、フマル酸(2価)、リンゴ酸(2価)、クエン酸(3価)、イソクエン酸(3価)などのクエン酸サイクルに含まれる酸、グルタル酸(2価)、グルタミン酸(2価)、酒石酸(3価)などの他の脂肪族多価カルボン酸、あるいは芳香族多価カルボン酸、例えばテレフタール酸などのフタール酸(2価)がある。この内、クエン酸サイクルに含まれる酸と3価の酸が好ましく、特にクエン酸やイソクエン酸、酒石酸が好ましく、最も好ましくはクエン酸とする。
高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等があり、ステアリルアルコールが好適に使用できる。
【0012】
多価カルボン酸の高級アルコールによるエステルは部分エステルであり、2価のカルボン酸の場合はモノエステルとし、3価のカルボン酸の場合はモノエステルまたはジエステルとする。またこの明細書で、エステル化率は平均のエステル化率で表し、例えばクエン酸の高級脂肪酸エステルの場合、全てがモノエステルで有ればエステル化率は33%、全てがジエステルで有ればエステル化率は67%となる。
【0013】
この発明で用いる表面処理剤は、多価カルボン酸を高級アルコールで部分的にエステル化したエステルである。仮にエステル化率を100%とすると、樹脂やゴムに添加した際に、耐炭酸ガス白化性やブリードアウト性や加工性が不十分となる。エステル化率が100%になるとエステル中にカルボキシル基がなくなり、水酸化マグネシウムを表面処理した時の親和性が低下する。
【0014】
この発明で用いる表面処理剤は、分子の骨格が長鎖の炭化水素からなり、その一端にカルボン酸のエステル基を介してカルボキシル基もくしはその金属塩やアンモニウム塩が存在し、カルボキシル基やその塩の部分で水酸化マグネシウムに強固に結合する。またエステル中のカルボニルの部分でも水酸化マグネシウムに弱く結合し、表面処理剤1分子当たりで水酸化マグネシウムと結合する面積が広い。水酸化マグネシウムとの結合が強いため、表面処理剤が水酸化マグネシウムから遊離することがなく、従ってブリードアウト現象が起こり難い。さらに水酸化マグネシウムの周囲を高級アルコールの炭化水素骨格で完全に被覆できるため、水酸化マグネシウムの分散性が向上し、樹脂やゴムとの相溶性が良く、加工時の混練トルクなどを低くでき、また引っ張り強度や破断までの伸び率などの機械特性も向上する。水酸化マグネシウム粒子の表面をカルボキシル基とエステル基で完全に被覆できるので、水や炭酸ガスとの反応を抑制して耐炭酸ガス白化性を改善できる。
【0015】
例えば特許文献13の表面処理剤は、極性のある部分はエステル以外にはアルコール性水酸基で、水酸化マグネシウムへの付着力は低い。これに対して本発明で用いる表面処理剤では、エステル以外の官能基がカルボキシル基またはその塩で、水酸化マグネシウムへの結合力が格段に高い。
【0016】
エステルの金属塩としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム、コバルト、スズ、チタン、亜鉛等の金属塩があり、カルボン酸が3価の場合はカルシウムなどの2価の金属塩も使用可能で、カルボン酸が1価の場合はアルカリ金属塩とする。
【0017】
水酸化マグネシウム系難燃剤での表面処理剤の含有量は0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましい。含有量が0.5質量%未満では水酸化マグネシウム表面の被覆が不完全で、処理量を5.0質量%超とするとコスト的に不利で、好ましくは含有量を2.0質量%以上5.0質量%以下とする。
【0018】
水酸化マグネシウムは、合成水酸化マグネシウムまたは天然産の水酸化マグネシウム(ブルーサイト鉱石)のどちらでも良く、その平均粒子径は5μm以下が好ましい。合成品の場合特に0.5〜2.0μmが好適で、天然産の場合特に2.5〜3.5μmが好適である。
【0019】
水酸化マグネシウムの表面処理には湿式法と乾式法があり、両方とも利用できる。湿式法の場合、例えば水酸化マグネシウムを含有する水溶液中に所要量の本発明のエステルをアルカリ(例えば水酸化カリウム)を用いてケン化したものを添加し、表面処理することによって本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤を製造することができる。
【0020】
乾式法の場合、例えば所定の平均粒子径に調整された水酸化マグネシウムに、所要量の本発明のエステルを加え、100〜120℃に加熱しながら混合撹拌することで製造できる。混合撹拌の装置としてはヘンシェルミキサー、ボールミル、スーパミキサーなどを使用できる。また、粗粉体に該表面処理剤を所定量投入し粉砕しながら表面処理をしても良い。
【0021】
樹脂又はゴムと水酸化マグネシウム系難燃剤との配合割合は、樹脂又はゴム100質量部に対して50〜250質量部である。50質量部より少ないと難燃性が低下するために好ましくない。また、250質量部より多くなると樹脂組成物の物性低下や生産性が低下するために好ましくない。
さらに、本発明の難燃性組成物は、電線・ケーブルの被覆材として特に好適に利用できる。
【0022】
本発明で使用できる樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。この中で、特にポリオレフィン系樹脂であるポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体の様なポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)、超高分子量ポリエチレンの様なポリエチレン系樹脂、およびポリブテン、ポリ4−メチルペンテン−1等のC2〜C6のオレフィン(α−エチレン)の重合体もしくは共重合体に好適である。
【0023】
本発明で使用できるゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−スチレンブロック共重合体等を例示できる。
なお、樹脂又はゴムは、1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、耐炭酸ガス白化性に優れ、ブリードアウトが起こり難く、しかも加工性や機械特性も良い水酸化マグネシウム系難燃剤や、樹脂組成物、電線・ケーブルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明を実施するための最適実施例を詳細に示す。
【実施例】
【0026】
実施例1
平均粒子径が3.0μmの天然水酸化マグネシウム(マグシーズ-W、神島化学製、商品名)1Kgと、ステアリルシトレート(リケマールEW-90、クエン酸のステアリルアルコールのエステルで、エステル化率70%、理研ビタミン製、商品名)30gを、内容積10リットルのジャケット加熱のヘンシェルミキサー中に入れ、約100℃まで加温し、30分間攪拌した。撹拌後に取り出したサンプルを表面処理品サンプルとした。リケマールEW-90は90mol%がジエステルで、10mol%がトリエステルであり、mass%単位ではジエステル87%、トリエステル13%となる。そこで表面処理品中のステアリルシトレートのジエステルの含有量は2.5mass%で、他に不純物としてステアリルシトレートのトリエステル0.4mass%を含有する。
【0027】
実施例2
平均粒子径が3.0μmの天然水酸化マグネシウム(マグシーズ-W、神島化学製)1Kgと、ステアリルシトレート(リケマールEW-90、理研ビタミン製)40gを、内容積10リットルのジャケット加熱のヘンシェルミキサー中に入れ、約100℃まで加温し、30分間攪拌した。撹拌後に取り出したサンプルを表面処理品サンプルとした。表面処理品中のステアリルシトレートのジエステルの含有量は3.3mass%で、トリエステル含有量は0.5mass%である。
【0028】
実施例3
特表平10−503458号公報の例1に基づいて、水酸化マグネシウムを調製した。即ち硝酸マグネシウムの水溶液に化学量論比の1.8倍のアンモニア水を加え、水酸化マグネシウムのスラリーを沈殿させた。沈殿をオートクレーブ中180℃で4時間処理し、水酸化マグネシウムとした。これにより平均粒子径が2.0μmの合成水酸化マグネシウムが得られ、その1Kgに水を加えて10リットルの水懸濁液にし、さらに30gのステアリルシトレート(リケマールEW-90、理研ビタミン製)を0.03NのKOH水溶液600ml中に溶解させたものを添加した。この水懸濁液を室温で1時間撹拌して表面処理した。次いで表面処理したスラリーを減圧濾過した後に、脱水ケーキを濾布に挟んで型枠に入れ、加圧圧搾して含水率を50%以下へ調整した。加圧圧搾して得たケーキを乾燥・粉砕して、表面処理品サンプルとした。表面処理品中のステアリルシトレートのジエステルの含有量は2.5mass%で、トリエステル含有量は0.4mass%である。KOHの添加量は0.018molで、ステアリルシトレートのジエステルの含有量は0.037molのため、ステアリルシトレートのジエステルの約50mol%がK塩として存在し、約50mol%が酸型で存在する。
【0029】
実施例4
特表平10−503458号公報の例1に基づいて、実施例3と同様に平均粒子径が2.0μmの合成水酸化マグネシウムを調製した。得られた合成水酸化マグネシウム1Kgに水を加えて10リットルの水懸濁液にし、さらに40gのステアリルシトレート(リケマールEW-90、理研ビタミン製)を0.04NのKOH水溶液600ml中に溶解させたものを添加した。この水懸濁液を室温で1時間撹拌して表面処理した。次いで表面処理したスラリーを減圧濾過した後に、脱水ケーキを濾布に挟んで型枠に入れ、加圧圧搾して含水率を50%以下へ調整した。加圧圧搾して得たケーキを乾燥・粉砕して、表面処理品サンプルとした。表面処理品中のステアリルシトレートのジエステルの含有量は3.3mass%で、トリエステル含有量は0.5mass%である。またステアリルシトレートのジエステルは、約50mol%がK塩で、残る約50mol%が酸型で存在する。
【0030】
比較例1
表面処理剤をソルビタンモノステアレートに代え、他は実施例1と同様にして表面処理サンプルを得た。
比較例2
表面処理剤をソルビタンモノステアレートに代え、他は実施例2と同様にして表面処理サンプルを得た。
比較例3
表面処理剤をグリセリンモノオレエートに代え、他は実施例1と同様にして表面処理サンプルを得た。
比較例4
表面処理剤を牛脂硬化油に代え、他は実施例2と同様にして表面処理サンプルを得た。
比較例5
表面処理剤をステアリン酸アマイドに代え、他は実施例2と同様にして表面処理サンプルを得た。
【0031】
樹脂組成物の評価
樹脂の一例としてエチレン・アクリル酸エチル共重合体(日本ポリオレフィン株式会社製、商品名:A-1150、MFR:0.8)を用い、試験体試料を調製して評価を行った。各試験体試料はエチレン・アクリル酸エチル共重合体100質量部に対して実施例1〜4および比較例1〜5で調製した水酸化マグネシウム表面処理サンプル100質量部、カーボンブラック1質量部、酸化防止剤(イルガノックス1010,イルガノックスはチバガイギー社の商品名)0.5質量部からなり、これらの混合物を東洋精機株式会社製のラボプラストミルにより回転数30rpmにて140℃で10分間混練して定常となる混練トルクを測定した。さらにこの混練物を140℃でプレス成形して引張試験用の試験体とした。
【0032】
引張強度及び伸びの測定は、JIS K7113に準じ、試験速度200mm/minで行った。
また耐炭酸ガス白化性の評価は、引張試験用と同様に調整した試験体を温度25℃、相対湿度95%の二酸化炭素雰囲気中に4日間放置した後、試験体を80℃で12時間真空乾燥し、放置前後の重量増加率を測定した。
ブリードアウトの評価は、引張試験用と同様に調整した試験体を25℃に保持された恒温室にて1週間放置後、表面を目視で観察しブリードアウト現象を評価した。ブリードアウト現象は、樹脂組成物に含まれている表面処理剤などが溶出し、樹脂成形品の外観である光沢性を低下させる現象である。
評価の基準は以下の通りである。
○:表面に平滑な光沢が見られて、油状物質がほとんど認められない。
△:表面に平滑な光沢が見られるが、局所的にうっすらと油状物質が見られる。
×:表面に光沢が見られなくなる。
××:表面に光沢が見られなくなり、容易に油状物質が確認できる。
以上の評価結果を表1に示す。
【0033】
表 1
試料 加工性 機械特性 耐炭酸ガス白化性 ブリードアウト現象
混練トルク 引っ張り強度 伸び(%) 重量増加率 目視評価
(N・m) (MPa) (wt%)
実施例1 35.8 11.1 1220 0.51 ○
実施例2 35.5 11.3 1250 0.56 ○
実施例3 32.5 12.8 1350 0.32 ○
実施例4 31.3 13.0 1380 0.31 ○

比較例1 34.8 10.8 1150 2.05 △
比較例2 34.5 10.6 1160 2.20 ×
比較例3 35.1 11.0 1130 1.75 ×
比較例4 35.5 9.61 1220 0.61 ××
比較例5 39.0 9.32 520 2.10 ××
* 実施例3,4は合成水酸化マグネシウム、他は天然水酸化マグネシウムを使用.
【0034】
定常時の混練トルクは樹脂混合物の流動性の指標で、混練トルクが高いと加工性が低い。実施例の表面処理剤と従来例の表面処理剤とで混練トルクに大差はなく、加工性は問題ないレベルである。
【0035】
機械特性である引張強度と伸びでは、実施例の天然水酸化マグネシウムは、従来例のソルビタンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、牛脂硬化油などのエステル類で表面処理した天然水酸化マグネシウムと同等もしくは改善された特性を示す。また、ステアリン酸アマイドで表面処理されたものに比べて、伸びはかなり改善している。これについては、本発明の水酸化マグネシウムは従来例の水酸化マグネシウムよりも樹脂との親和性が良好であるためと考えられる。合成水酸化マグネシウムと天然水酸化マグネシウムとでは、合成水酸化マグネシウムの方が混練トルクが低く、かつ引張強度と伸びが高い値を示している。これは、合成水酸化マグネシウムと天然水酸化マグネシウムの平均粒子径の相違によるものと考えられる。
【0036】
耐炭酸ガス白化性では、実施例の天然水酸化マグネシウムは、ソルビタンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、ステアリン酸アマイドなどの表面処理剤で処理した従来例の天然水酸化マグネシウムに対し、かなりの改善が見られる。また、比較例でも牛脂硬化油で表面処理したものは比較的良好な耐炭酸ガス白化性を示すが、これは牛脂硬化油の主成分であるステアリン酸トリグリセライドが関与したものと考えられる。
【0037】
ブリードアウト現象について、ステアリルシトレートを表面処理剤として使用した実施例では、いずれもブリードアウト現象自体が見られなかった。ソルビタンモノステアレートで表面処理されたものは比較例中では良好であったが、試験体の表面にうっすらと油状物質が見られた。グリセリンモノオレエート、牛脂硬化油、ステアリン酸アマイドなどのエステル類で表面処理されたものは、試験体の表面光沢がなくなるか、試験体の表面に油状物質が確認された。
【0038】
難燃性については、実施例及び各比較例において特に違いはなく、全て使用できるレベルであった。以上のように、実施例の樹脂組成物は、加工性、機械特性、耐炭酸ガス白化性、ブリードアウト性の全てが、バランス良く、優れた特性を示した。
【0039】
実施例では樹脂の代表例としてエチレン・アクリル酸エチル共重合体での評価結果を示したが、他の樹脂であるポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)でも同様の結果が得られた。エステルはクエン酸のステアリルアルコールの部分エステルとしたが、イソクエン酸や酒石酸のエステルでも同様の結果が得られ、またリンゴ酸やコハク酸のエステルなどとしても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸と高級アルコールとの部分エステル及び該エステルの金属塩もしくはアンモニウム塩、からなる群の少なくとも1員の表面処理剤で表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤。
【請求項2】
前記表面処理剤の含有量が0.5〜5.0質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム系難燃剤。
【請求項3】
前記表面処理剤が、ステアリルシトレート及びステアリルシトレートの金属塩またはアンモニウム塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水酸化マグネシウム系難燃剤。
【請求項4】
樹脂又はゴムに、請求項1〜3のいずれかに記載の水酸化マグネシウム系難燃剤を配合したことを特徴とする、難燃性組成物。
【請求項5】
樹脂又はゴム100質量部に対して、前記水酸化マグネシウム系難燃剤を50〜250質量部を配合したことを特徴とする、請求項4に記載の難燃性組成物。
【請求項6】
請求項4〜5のいずれかに記載の難燃性組成物で被覆された電線・ケーブル。

【公開番号】特開2007−70397(P2007−70397A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256220(P2005−256220)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】